第二十七話 強き者の宿命
攻めてきたストラスタ軍を迎撃する七竜将と第三遊撃隊。その戦いでラピュス達は七竜将の真の力と機械鎧の秘密を目にする。だが、その戦いでラピュスは七竜将の力に驚きと小さな恐怖を感じてしまう。そんなラピュスにヴリトラは強い力を得た者に与えられる苦難を話すのだった。
トコトムトの村に攻めてきたストラスタ軍を迎え撃った七竜将と第三遊撃隊は村に戻り、一時の休息を取る。既に真昼になり、崖の上で援護射撃をしていたリンドブルムとオロチも戻って来て戦いの結果を話し合う一同。石橋の前でストラスタ軍を一方的に押し戻した七竜将の戦いを見ていた騎士達は村で待機していた騎士達のその戦いの凄さを物語っている。しかし、その中でラピュス達姫騎士は他の騎士達が気付いていないものに気付いて難しそうな顔を見せている。
「それで、戦いは皆が勝ったって事なの?」
「ああ、俺達の完勝だ」
作戦拠点である廃墟の中では、村で待機していたファフニールが戦いを結果をジャバウォックから聞いている。ジャバウォックは戦いが自分の有利に進んだことを小さく笑いながら話す。
「あ~あ、結局の村に敵は来なかったし、私達は戦えなかったんだよねぇ~」
「あのなぁ、戦わなくて済むんならそれでいいだろう?自分から戦いを求めるなんてただの戦闘狂だぞ」
「ぶぅ~、分かってるよぉ。でも何の役目も無しに戦いが終っちゃったら納得できないもん」
「お前なぁ・・・」
自分の出番がなかった事に納得できないでいるファフニールをジト目で見下しながら話すニーズヘッグ。そんな二人の会話を聞いているリンドブルム達他の七竜将は苦笑いをして見ており、オロチは無表情で見ていた。
そんな中でラランとアリサは七竜将達を難しそうな顔のまま見ている。朝の戦いで見て七竜将の力に彼女達は小さな恐ろしさを感じていたのだ。それは七竜将の驚くべき力を自分達はどう受け止めたらよいのか、そしてその七竜将が自分達にその力を向けたらどうなるのかというものだった。
「・・・どうしたの?ララン」
「・・・!」
突然リンドブルムに声を掛けられて驚くラランはリンドブルムの方を向く。そこには不思議そうな顔で自分を見つめる一人の少年の顔があった。
「・・・何でもない、ちょっと考え事」
「何を考えてたの?」
「・・・・・・」
リンドブルムの質問に黙り込むララン。その隣でもアリサが目のやり場に困り、七竜将と目を合わせられずにオロオロしている。周りでは他の七竜将もそんな二人を黙って見ていた。そこへ壁にもたれているオロチが腕を組んで無表情のまま口を開く。
「お前達、ヴリトラ達の戦いを見て、私達七竜将が恐ろしくなったのか・・・?」
「「!」」
まるで自分達の心を読んでいたかのようにラランとアリサの真意を的中させたオロチ。二人はオロチの方を向いて目を見張って驚く。実際二人が戦いを見て恐ろしさを感じた場面を見ていなくても大体想像がつくのか、オロチは答えが分かっていたような様子だった。周りのリンドブルム達も二人の様子がおかしい理由を知って納得するような顔を見せている。
図星を突かれた二人は周りをチラチラと見ると、観念したのか静かに口を開く。
「・・・そう」
「私達、最初は皆さんの戦いを見て凄いとかカッコいいとか思ってたんですけど、次第にストラスタ軍を押していく圧倒的な強さに怖さを感じてしまったんです」
「ああぁ、そう言えばラピュスもそんな事言ってたわね・・・」
二人の話を聞いていたジルニトラが前線で自分とヴリトラに似た内容を話していたラピュスの事を思い出す。ラランとアリサ、そしてラピュスの様な姫騎士は他の騎士達と比べて勘が鋭く、彼等が別世界の住人である事を知っている。それは即ち、ファムステミリアとは違う世界の傭兵は自分達の想像を超える強さと武器を持っているという事を改めて知った事になる。彼女達には七竜将の世界の力の強大さを知らされ、その力と彼等の世界は自分達の世界よりも恐ろしい所ではないかとに恐怖を感じ始めていたという事だ。
「君達がそう思うのも仕方がないさ。僕達が君達の立場ならきっと同じ反応をしていたと思うよ?『自分達の世界とは違う世界から来た人間はあっという間に敵兵を皆殺しに出できる力を持っているのか?』ってね」
ラランとアリサの顔を見ていたリンドブルムは両手を腰に当てて小さく笑いだした。二人はリンドブルムが笑いながら話している姿に目を疑った。自分達を恐ろしく思っている女に対して笑いながら「自分も同じように思う」なんて普通は言えないからだ。周りのジャバウォック達も無表情ではあるがリンドブルムと同じ考えだと言うようにリンドブルムの話を黙って聞いていた。
「皆さんは傷つかないんですか?私達は皆さんの力を恐ろしく思ってるんですよ・・・?」
「フッ、そんな事でいちいち傷ついてちゃ、この世界じゃ生きていかないさ」
アリサの言葉を聞いたジャバウォックは鼻で笑った後に目を閉じながら椅子に座って答える。アリサが周りを見ると、他の七竜将も小さく笑って同じような反応をしている。そんな七竜将にアリサは更に自分の目を疑った。とても自分達の力を恐れている女と接するような態度ではない、まるで今まで何度も同じような体験をしてきて慣れてしまったような態度だ。
二人の姫騎士が七竜将を驚きながら見ていると、リンドブルムとニーズヘッグが石の椅子に腰を掛けながら二人を見て口を開き話しだす。
「折角だから、二人には話しておいた方がいいかもしれないよ?僕達七竜将の事、そして僕達が向こうの世界でどんな存在だったのかをさ?」
「そうだな。俺達の事を少しでも信用してもらう為には、俺達の正体を知っているお前達に全部話しておいた方がいい」
「それもそうね」
「うん、そうしよう」
リンドブルムとニーズヘッグの提案を聞いたジルニトラとファフニールも同意する。話の流れについて行けないラランとアリサは少し困ったような顔でお互いの顔を見合っている。そんな時、ジャバウォックがある事に気付いて周りを見回す。
「おい、そういえばヴリトラは何処だ?ラピュスの姿も見えないようだが・・・」
ジャバウォックの言うとおり、先程からヴリトラとラピュスの姿が見えない。実はヴリトラは前線から戻ると直ぐに村から出て行ったのだ。その為今、作戦拠点にはヴリトラ以外の七竜将の姿しかなく、ラピュスの姿も無かった。
「ヴリトラは村の近くの川に行ったぞ?何でも頭を洗ってきたいそうだ・・・」
ジャバウォックの質問にオロチが壁にもたれて静かに答える。オロチは前線に向かったヴリトラ達よりも早く村に戻っており、前線から戻って来たヴリトラとバッタリ会っていた。そしてその時に村の隣に流れている川へ頭を洗いに行くと言ったのだ。そしてラランもラピュスの居場所を知っているのか外を指差して答える。
「・・・隊長も川の方へ行った」
「二人とも川に?・・・偶然かな?」
「何を考えてるんだ?リブル」
二人が同時にほぼ同時に川へ行くなんて不自然と考えたリンドブルムを見てニーズヘッグはまたジト目を見せて尋ねる。大方、リンドブルムはヴリトラとラピュスは自分達に内緒で何か怪しい事をしている、と考えているのだろう。それに感づいたニーズヘッグは呆れる様な顔を見せていたのだ。
そこへジルニトラが地図の広げてあるテーブルに腰を下ろして周りのリンドブルム達を見回す。
「まぁ二人の事は後にして、とりあえずラランとアリサには話しておきましょう。あたし達七竜将が元いた世界で体験した事をね?」
笑いながら何処か真剣そうな口調で話しを始めるジルニトラ。彼女の言葉を聞いたラランとアリサの体に緊張は走り、真剣な眼差してジルニトラや他の七竜将を見て話を聞いた。
――――――
その頃、トコトムトの村の近くにある川ではオロチの言うとおりヴリトラが木製の小さなバケツに水を汲んでそれを頭にかけて頭を洗っている姿があった。愛刀の森羅を草地の上に置き、その隣で特殊スーツを上半身だけ脱ぎ、上半身裸の状態で座っている。ヴリトラの左腕は全て機械鎧で肩関節までが銀色の鉄の腕になっている。上半身でその左腕以外は生身のままで、今まで傭兵として生きてきたせいかそれなりに筋肉も付いていた。しかしその体の所々には小さな古傷が幾つもあり、多くの戦場で戦って来た事を物語っている。
水のかかった髪を両手で後ろにやり、水を取ってから森羅の上に置いてあるタオルで髪を拭く。ある程度髪を拭いたヴリトラはタオルを首にかけて立ち上がり村の方へ歩いて行く。
「ふぅ、スッキリしたぜ。何かさっきの戦いで髪が砂埃まみれになっちまったから気になってしょうがなかったんだよなぁ~。さて、そろそろ次の戦いの作戦会議が・・・ん?」
歩いていたヴリトラが川の方から何やら音が聞こえてきて振り返る。音の聞こえた方へ歩いて行き、茂みから顔を出すと、そこには鎧を脱ぎ、軽装状態のラピュスの姿があったのだ。しかもいつものポニーテールを解き、長い銀色の髪をなびかせていた。川の近くに座り、小さな布を水で濡らして髪を撫でる様に拭いている姿にヴリトラは驚き思わず見惚れてしまっていた。そのせいか足元にある小枝を踏みつけて音を立ててしまった。
「・・・っ!誰だ!?」
音に反応したラピュスは足元に置いてある騎士剣を手に取り振り返る。そして芝生の陰から自分を見つめているヴリトラに気付いた。ヴリトラの姿を見てラピュスは警戒を解いて騎士剣を握る手の力を抜いた。
「何だヴリトラか。そこで何をしているんだ?」
「い、いや・・・お前こそ何やってんだよ?」
「私は髪を洗っていただけだ」
「そ、そうか。俺もだ」
ラピュスに見惚れていたせいか動揺を隠せないでいるヴリトラ。そんなヴリトラを首を傾げながらジッと目を細くして見つめるラピュス。
「・・・とりあえず、何時までも芝生の裏にいないでこっちに来たらどうだ?」
「あ、ああ。そうだな・・・」
少し落ち着いたヴリトラはゆっくりと芝生の陰から出てラピュスの方へ歩いて行く。が、陰から出てきたヴリトラが上半身裸なのを見てラピュスは顔を赤くした。
「な、ななななっ!何だその格好は!?」
「え?・・・ああぁ、髪を洗う時にスーツが濡れるといけないから・・・」
「そうじゃない!・・・さっさと服を着ろ~~~っ!」
顔を赤くしながらラピュスは近くにある石を手に取りヴリトラに向かって投げつける。ラピュスの投げた石はヴリトラの顔面に命中してそのまま仰向けに倒れるのだった。
それからしばらくして落ち着きを取り戻した二人は川を見ながら並んで芝地に座る。ヴリトラは特殊スーツを着直し、ラピュスは髪をポニーテールに戻していた。ヴリトラの鼻はラピュスの投げた石が当たったせいで赤くなっており、その鼻を擦りながらヴリトラは苦い顔を見せている。
「いってぇなぁ、もぉ~」
「私のせいじゃないかならな?」
ヴリトラの方を見ずに目を閉じているラピュス。そんな彼女の頬は若干赤くなっており、少なからずやり過ぎたと思っているようだ。
「・・・それにしても、お前も女らしい一面があるんだな?」
「んん?・・・それは普段の私は女らしくないという事か?」
失礼な事を言うヴリトラをジロッと見ながら尋ねるラピュス。自分を睨むラピュスを見たヴリトラは笑いながらラピュスを指差す。
「だってさ、お前普段男みたいな口調じゃないか?お前が女らしい口調をするのって怒った時か取り乱した時だけだろう?」
「お前は、相変わらず失礼な事をペラペラと言う男だな。私は騎士としての嗜みでそういう話し方をしているんだ」
「それじゃあラランやクリスティアはどうなんだよ。あの二人は女口調で話してるぜ?」
「二人は二人だ。私は私の考え方があるのだ、それは各々の自由だろう」
「まぁ、確かにな」
ラピュスの言っている事も一理あると納得するヴリトラ。ラピュスは両方の手の平を芝地につけてもたれる様に空を見上げるヴリトラを見てどこか呆れる様な顔を見せて口を開いた。
「まったく、お前はもう少し相手の事を考えて発言しろ。そういう男は女に嫌われるぞ」
「努力してはいるんだけどね」
空を見上げながら力の無い声を出すヴリトラ。ラピュスはそんなヴリトラの態度を見て小さなため息をつき川を見つめる。しばらく時が流れて黙り込む二人。そこへラピュスが静かにヴリトラに話しかけてきた。
「なぁ、ヴリトラ」
「何?」
「お前はさっきの戦いで私に言ったな?『必要以上に力を手に入れたら、俺達みたいになってしまう』と?」
「ああ。言ったけど?」
「・・・それはつまり、強い力を手に入れると周りから冷たい目で見られるという意味なのか?」
ラピュスはヴリトラの方を見ながら何処か寂しそうな声で尋ねる。空を見上げたままのヴリトラはしばらく黙っていたが、直ぐにラピュスの方を向いて返事をした。
「それもある。強い力を手に入れた者は周りから慕われることもあるが、逆に恐れられて避けられる事だってある。だがそれ以上に恐ろしいのは、恐れられて命を狙われるという事だ」
「・・・命を狙われる!?」
「そう。・・・・・・お前には、話しておいた方がいいな。騎士としてこれからも国や町を守る存在であるお前には・・・」
突然真剣な表情を見せるヴリトラにラピュスは思わず緊張し、黙ってヴリトラの話しを聞く。
「・・・あれは今から一年前、正確には俺達の世界での一年前だ」
川の方を向いていきなり話しを始めるヴリトラ。ラピュスは話しを続けるヴリトラの横顔を黙って見つめながら話しを聞き続ける。
――――――
一年前。七竜将はある小さな国の要人からの依頼を受けて反政府組織が潜伏している小さな町に潜入、組織の拠点を見つけて殲滅しろと言う依頼を受けた。その依頼自体はそんなに難しいものではなく、七人で自衛隊二個中隊分の戦力を持つ彼等にとっては朝飯前だった。七竜将は反政府組織の拠点に潜入し、組織のリーダーをあっという間に捕縛した。
反政府組織の拠点を制圧し終えた七竜将は自分達を雇った要人関係者が迎えに来る合流地点に移動する。この時、七竜将は特殊スーツやコートに汚れが付いている程度で殆ど無傷だ。七竜将は町を出て道路の端にある細い道を歩いている。太陽に照らされ、周囲は砂と岩、無数の草木だけで他には建物なども無く、アメリカのテキサス州の大平原に似ていると言っていい。
「今回の依頼も意外と簡単だったね?」
「まぁ、所詮は爆弾テロや要人を誘拐して身代金を得ようとした貧弱なテロリストだったからな」
「それならどうして政府軍や警察の特殊部隊を使わなかったの?」
人気の無い道を歩きながらファフニールとジャバウォックが今回の依頼の事で話しをしている。ファフニールは今回の作戦で要人が自分達の所有する組織や警察を使わなかった事に疑問を抱いていると、ヴリトラがある気ながら後ろを向いて話しに加わってきた。
「テロリストと言ってもそれなりに武装をしていた連中だ。そんな連中に正面から、しかも本拠点にいる敵に挑もうとは政府のお偉いさんも思ってなかったんだろう?しかもこの国にはまだ機械鎧兵士が投入されていないからな」
「だから、依頼を受ければどこの国にでも行く俺達七竜将に依頼したって訳か・・・」
「ああ。しかも俺達は全員が機械鎧兵士だからな、今回の様な作戦にはピッタリだったんだろう?」
「成る程ね。軍隊は使おうって思わなかったのに、そういう事には頭を使うんだ」
政府が動かない理由を話すヴリトラを見て納得するニーズヘッグと政府の嫌味を笑いながら言うリンドブルム。そんな話をしている間に七竜将は町から離れた所にある小さな建物を見つけてそこに近づいて行く。そこは金網のフェンスで広い敷地を囲み、その中には沢山の壊れた車が重なる様に並べられている。どうやらここは廃車置き場のようだ。
七竜将は周囲に誰もいない事を確認してその廃車置き場に入っていく。実はその廃車置き場が政府が迎えに来る予定の合流地点なのだ。廃車置き場の真ん中に集まった七竜将は全員で周囲を確認し始める。
「・・・ここが政府の偉い人が言っていた合流地点なのよね?」
「ああ、最初の打ち合わせでそう聞いた・・・」
ジルニトラとオロチが話しながら周りを見ていると、廃車置き場に幾つかの気配がある事に七竜将全員が気付いた。それも二つや三つではない、自分達を取り囲むように十以上の気配がしていたのだ。七竜将が背を向け合って気配のする方を見ると、積み重なる廃車の奥から赤いベレー帽を被った迷彩服姿の男達が現す。そしてその手にはアサルトライフルの「H&K HK417」が握られている。更に同じ装備をした男達が廃車の上にも現れ、いつの間にか七竜将は全方位から囲まれた。
突然現れた迷彩服の男達を見て七竜将は驚きながらも自分達の武器を構えて自分達を囲み、銃を構えている男達に意識を向ける。
「な、何なのコイツ等は!?」
「・・・!コイツ等、この国の政府軍の連中だ!」
「えっ!?それって、僕達の雇い主の・・・?」
「ああ、どうやらそう見たんだ・・・」
ジルニトラ、ニーズヘッグ、リンドブルム、ジャバウォックが周囲を警戒しながら自分達を取り囲む男達が自分達の雇い主であるこの国の政府軍である事に気付く。なぜ自分達を雇った政府の軍隊が自分達を取り囲み、銃を向けているのか分からなかった。だがその中でヴリトラだけはその理由に薄々感づいていた。
七竜将が周囲の政府軍兵を睨みながら構えていると、廃車の隙間から他の兵士達とは雰囲気の違う兵士が姿を現した。青いベレー帽に手には拳銃が一丁握られているだけ、どうやら政府軍の指揮官のようだ。それに気づいた七竜将達がその兵士の方を一斉に見る。そしてヴリトラはその兵士の姿を見てヴリトラはハッとした。
「アイツは依頼を受ける時に政府のお偉いさんと一緒にいた軍人・・・」
「え?あの人が?」
ヴリトラの話しを聞いたリンドブルムは驚いて訊き返す。リンドブルムは依頼の打ち合わせの時にその場にいなかったのでその兵士の事を知らなかったのだ。ヴリトラとリンドブルムが話し終えた直後に指揮官の兵士が七竜将に持っている拳銃を向けながら低い声を出す。
「七竜将、お前達をこのまま帰す訳にはいかない!」
「・・・どういう事ですか?何で俺達を雇ったアンタ達が銃を向けるんです?報酬を支払うのが嫌になったんですか?」
「お前達は強すぎる。我々はお前達七竜将が何処にも属さないフリーの傭兵隊である事に危機感を感じていた。それはお前達が報酬次第で何処の組織の味方にも付き、嘗て仲間であった者達にも刃を向けると可能性があるからだ」
指揮官の話しを聞いているヴリトラを始め、リンドブルム達も指揮官を睨み付ける。自分達を雇って利用するだけしておいて最後は危険分子と判断して排除する、そんな裏切りを七竜将は強く嫌っていたのだ。
「だから目障りな反政府組織を片付けさせた後に俺達を始末しようって訳か・・・それで?その強いと認めている俺達を倒せると思っているのか?」
ヴリトラはさっきまでの敬語とは違い、怒りの籠った声で指揮官に尋ねる。すると指揮官は銃を向けたまま鼻で笑う。
「フッ!お前達こそ、この包囲された状態で我々から逃げられると思っているのか?」
「・・・・・・逃げようなんて思ってない」
「何?」
「・・・アンタ達を此処でぶっ倒し、アンタ達のご主人様にケジメをつけさせに行く!」
そう言って俯いていたヴリトラは顔を上げると指揮官を睨みつける。その表情に指揮官は一瞬驚くも直ぐに落ち着きを取り戻して周囲にいる部下の兵士達に指示を出そうとする。だがその瞬間に七竜将は地を蹴り、自分達を包囲している政府軍兵達に突っ込んでいった。驚く政府軍兵達は持っているHK417の引き金を引く。誰も居らず、町から離れた所にある廃車置き場からは銃声と政府軍兵達の叫び声が響いた。
――――――
自分達の経験した事を話しているヴリトラは目を閉じ、話しを聞いていたラピュスは黙って驚きの表情を見せた。依頼主から裏切られ、殺されそうになった経験をしたヴリトラ達にラピュスはどう声を掛ければよいのか困り果てていた。そこへヴリトラが空気を変える様に閉じていた口を開く。
「俺達は自分達を包囲した政府軍の連中を倒した後に依頼主の所へ行きケジメをつけさせたって訳だ」
「・・・それは、その依頼主を殺したという事か?」
恐る恐る尋ねるラピュス。だがヴリトラは首を横に振ってそれを否定した。
「いいや、殺しちゃいない。確かに殺そうっていう意見もあった。でも、裏切られたからって殺したら俺達も裏切った要人と同じだ。だからその要人を半殺しにして恐怖を与えるだけにした。もっとも俺達を襲ってきた政府軍の連中は殆ど殺したけどな」
「は、半殺し・・・殺すよりも難しく、酷いと思うぞ?」
「そうか?生きていればまだ希望はあると俺は思ってる。命を奪わなかっただけでも感謝されたいくらいさ・・・」
「た、確かにそうだが・・・」
ヴリトラの言っている事も一理ある渋々俯くラピュス。そんなラピュスを見るヴリトラは頭を掻きながら彼女の顔を見てこう言った。
「ラピュス、お前も覚えておけ。力を持ちすぎる奴は仲間からも切り捨てられて命を狙われる。そして仲間にするなら力を持ちすぎない奴を選ばない事だ。敵に回すと厄介だからな・・・」
ヴリトラの警告を聞いたラピュスは彼の顔を見てしばらく黙り込む。だが直ぐに微笑を浮かべて川の方を見る。
「お前の言いたい事は分かった。だけどな、私は例え相手がどれだけ大きな力を持とうと、その者達を裏切るつもりはないし、危険だとも思わない。共に戦場を歩み、共に戦った者達は私にとっては仲間だ。仲間を大切に思うのは当然だろう?」
「ラピュス・・・」
「それに、今の言葉は間接的に『俺達を信用するな』と言っているように思えた。あまり自分を嫌うな、少なくとも私はお前達七竜将を信じているし、仲間だと思っているからな?」
「・・・そうか、ありがとな?」
「フフフ」
お互いに笑いながら相手の顔を見つめ合うヴリトラとラピュス。この時、二人の間に小さな絆が生まれていた。そして、何処か温かそうな雰囲気にも見える。
「・・・オホン!」
「「・・・いいっ!?」」
突然聞こえた咳き込みに驚いたヴリトラとラピュスは慌てて後ろを振り向いた。そこにはリンドブルム達七竜将とラランとアリサの姫騎士が自分達を見つめている姿があった。リンドブルム、ララン、ニーズヘッグ、ジルニトラ、オロチはジト目で見ており、ジャバウォック、ファフニール、アリサは何処か悪戯っぽく笑ってみていた。
「何やってんの?二人とも」
「・・・内緒話?」
「あたし達が作戦拠点で昔体験した話をしている時にこんな所で何イチャついてるのよ?」
「イ、イチャついてなどいない!」
ジト目のまま二人を見つめるリンドブルムとラランの後ろでイチャついていると言うジルニトラを見て顔を赤くしながら立ち上がり否定するラピュス。どうやらリンドブルム達もヴリトラの話していた一年前の話を作戦拠点でラランとアリサにしていたようだ。
「ヴリトラァ~、お前もやるようになったなぁ?」
「いいムードって言うんだよね?」
(・・・まいったな。こりゃあ、しばらくチクチク言われるぞ)
ニヤつきながらからかうジャバウォックとテンションを上げているファフニールを見て心の中で疲れたように呟くヴリトラであった。
七竜将の昔話を聞いたラピュス達姫騎士は七竜将との強い力を得た者の宿命と彼等の過去を知る事が出来た。これを機にラピュス達は傭兵に対する見かたを少し改めたかもしれない。




