第二百七十四話 森の中での連続ハプニング!
エルフを探す為に森に入って行くヴリトラ達。しばらく歩いていると何やら気配を感じ、ヴリトラ達に緊張が走る。警戒しながら気配のする方へ進んでいくとそこには幼いダークエルフの少女の姿があったのだった。
木の陰に隠れて震えながらヴリトラ達を見上げるダークエルフの少女、何やらヴリトラ達を見て怯えているようだった。涙目で震えている少女をヴリトラとラピュスは不思議そうに見下ろす。
「ダークエルフ、しかも子供が・・・」
「どうしてこんなところに一人でいるんだ?」
ラピュスとヴリトラは幼い少女が一人で広い森の中にいる事を不思議に思いながら少女を見つめる。少女が縮こまってガタガタ震えているだけだった。
震える少女を見てヴリトラは姿勢を低くし少女と目線を合わせる。姿勢を低くしたヴリトラに少女はビクッと涙目で驚く。
「心配するな、何もしないよ」
「・・・・・・」
「君はこの森に住んでるダークエルフの子供だろ?」
「・・・・・・」
「実は俺達、この森に住んでるダークエルフ達に会いに来たんだ。集落の場所を知ってるなら、教えてくれないか?」
「・・・・・・」
ヴリトラが少女の事や集落の場所を尋ねるが少女は震えるだけで何も答えない。完全に怯えきっている少女にヴリトラは困り顔で自分の頭を掻く。
「まいったなぁ、完全に怯えきってるよ」
「いきなり現れて集落の場所を教えてくれと言われて教えるはずがないだろう?」
「じゃあどうするんだよ?」
「まずは私達が彼女達の敵ではないという事を分かってもらう必要がある。でもその前にこの子を落ち着かせる事が先だ」
ラピュスはアゾットを鞘に納めるとヴリトラの様に姿勢を低くして少女と目線を合わせて微笑みを浮かべる。
「大丈夫だ。私達は君に危害を加えない。信じてくれ」
「・・・・・・」
少女はラピュスの微笑みを見て少し落ち着いたのか体の震えが止まりヴリトラとラピュスの顔を交互に見る。そして二人が本当に自分に危害を加えないと悟ると服の袖で涙を拭う。
「落ち着いたか?それじゃあ改めて・・・」
ラピュスが少女に質問をしようとした時、ヴリトラとラピュスの後ろにある茂みがガサガサと動き出す。
「ん?」
「何だ?」
「・・・ッ!」
音を聞いて茂みの方を向くヴリトラとラピュス。すると少女は突然立ち上がり一目散に逃げだした。突然逃げ出す少女に二人はフッと彼女の方を向く。それの直後、茂みの中から一匹の狼が姿を現した。ヴリトラとラピュスは突然現れた狼を見て咄嗟に構える。狼は唸り声をあげながらヴリトラとラピュスを睨みつけた。
「コイツは確かバンディットウルフだったか?」
「ああ、集団で獲物に襲い掛かるズル賢い狼だ」
「となると、まだ他にもいるかもしれないって事か・・・」
以前見た事のある猛獣にヴリトラは森羅を構え、ラピュスも再びアゾットを抜き目の前のバンディットウルフを見つめながら周囲を警戒する。もし他にバンディットウルフがいた取り囲んで一斉に襲い掛かって来る可能性があるからだ。
ヴリトラとラピュスがバンディットウルフと向かい合っているとそこにリンドブルムが駆け寄って来た。
「二人とも、どうしたの?・・・うわぁっ!?コイツ、確か以前に・・・」
「そんな事より、リンドブルム、さっきの女の子を追ってくれ!」
「さっきの?・・・あの木の陰から飛び出した女の子?」
「そうだ!あの子はダークエルフの子供だ。あの子ならきっとダークエルフの集落の場所を知っている。急いであの子を・・・!」
「・・・分かった、行ってくる。気を付けてね」
リンドブルムは少女の逃げて行った方角へ走り出し少女の後を追う。彼がバンディットウルフを前に少女の後を追ったのはヴリトラとラピュスならバンディットウルフに苦戦する事は無いと確信していたからだ。仲間を信じているからこそ、リンドブルムは安心して少女の後を追う事ができた。
ヴリトラとラピュスはリンドブルムが少女の後を追ったのを確認するとバンディットウルフを睨み自分達の得物を構える。すると二人の周りの茂みが揺れ、茂みの中から数匹のバンディットウルフが姿を見せた。二人の予想通り、集団で行動していたようだ。
「おやおや、やっぱり仲間がいたか」
「どうする?ヴリトラ」
「どうするもこうするも、この程度の相手ならわざわざ作戦を立てるまでもない。自由に戦ってさっさと片づけるぞ?そんで、あの子の後を追うんだ!」
「・・・ああ、そうだな」
前にバンディットウルフと遭遇した時とは違い、二人か格段に強くなっている。しかもラピュスは普通の人間から機械鎧兵士となっているのだ。猛獣程度なら簡単に倒せるほどの力を彼女は手に入れた。今の二人にとってはバンディットウルフなど脅威とは言えない。
お互いに背を向けて仲間の背後を守る体勢に入ったヴリトラとラピュス。そんな二人を数匹のバンディットウルフは唸り声を上げながら取り囲んだ。
「さて、ズル賢い野良犬達のしつけを始めますか!」
「油断しているとボロが出るぞ?」
「忠告ありがとうっ!」
ラピュスの忠告を聞いたヴリトラは地を蹴りバンディットウルフに向かって跳ぶ。同時にラピュスも一番近くにいるバンディットウルフに急接近しアゾットで斬撃を放つ。二人の機械鎧兵士による狼退治が今始まった。
遠くで無数のバンディットウルフと戦っているヴリトラとラピュスを見てエリスは驚きの表情を浮かべている。その隣ではジルニトラが平然とした顔で二人の戦いを見守っており、ジーニアスもジルニトラとエリスの後ろで戦いを眺めていた。
「おおぉ~、二人とも凄いのだ」
「い、いや、そんな事よりも助けなくていいのか!?相手は猛獣のバンディットウルフなのだぞ?」
「・・・心配ないですよ。アイツ等ならあの程度の猛獣、目をつぶってても倒せます」
心配する様子を一切見せずにヴリトラとラピュスを見守っているジルニトラをエリスは意外そうな顔で見ている。するとジルニトラは後ろでヴリトラとラピュスを見ているジーニアスの前足を指で突いた。
「ん?」
「ジーニアス、悪いんだけどリンドブルムの後を追ってくれる?」
「お?リンドブルム殿の後を追うのだ?」
「あの子が追いかけた女の子はダークエルフだってヴリトラは言ってたわ。あの女の子はきっと集落の場所を知っているはず。彼女と話をして場所を教えてもらわないといけないわ」
「捕まえてこいという事なのだ?」
「別に捕まえる必要はないわ。ただ話が出来るように連れてきてほしいだけ。だけどこの森はあたし達にとって未知の場所、何か遭った場合、リンドブルム一人だけじゃ対処できないかもしれない。だからアンタも一緒にいてリンドブルムを手伝ってきてほしいって事よ」
「成る程、そういう事なら行ってくるのだ」
「あたしはエリス様と一緒にここにいるから、頼んだわよ?」
「任せるのだ!」
自信の満ちた声を出しながら翼を広げて飛び上がるジーニアスは木と木の間を抜けてリンドブルムの後を追い飛んでいく。大きな竜が木に当たる事なく飛んでいく姿を見てエリスは目を丸くしながらまばたきをした。
「な、なんと華麗な飛び方だ・・・」
「アイツは聖賢竜ですからね、普通のドラゴンとは知能がまるで違いますからこんな森の中でも綺麗に飛ぶ事ができるんでしょう」
「成る程・・・あのようなドラゴンを味方につけるとは流石七竜将と白竜遊撃隊と言うべきか・・・」
聖賢竜であるジーニアスを味方につけ思い通りに動かす事のできるヴリトラ達に感服するエリスとその隣で何処か誇らしい笑みを浮かべるジルニトラ。そんな二人の近くにある茂みが突然揺れ出し、茂みから一匹のバンディットウルフが姿を現した。どうやらヴリトラとラピュスが戦っている群れの一匹が二人を見つけて近づいてきたようだ。
バンディットウルフに気付いたジルニトラはエリスを自分の後ろの回しサクリファイスを構える。そして唸り声を上げているバンディットウルフを見ながら笑みを浮かべ、引き金に指を掛けた。
その頃、ダークエルフの少女を追って森の奥へ入って行ったリンドブルムは周囲を見回しながら少女を探している。あの後、全速力で追いかけたのだが、複雑な森の中を進んでいるうちに少女を見失ってしまったのだ。ライトソドムとダークゴモラをホルスターに納めたリンドブルムは倒れている木の上に立ち辺りを調べる。
「・・・どうしよう、完全に見失っちゃったよ・・・あれだけ小さい子だからまだそんなの遠くには行っていないと思うけど・・・」
少女が見つからず困り果てているリンドブルム。すると近くから石が転がる音が聞こえ、リンドブルムは音の聞こえた方へ移動する。数m進むと、大きな穴の近くに座り込むジッとしているさっきの少女を見つけた。
「あっ、いた!」
「!」
リンドルムの声を聞きフッと顔を上げる少女は自分を見ているリンドブルムの姿を見つけると驚いて立ち上がり走り出す。
「ちょっと待って!」
逃げ出す少女を追いかけようとリンドブルムも走り出す。二人が走っているのは大きな穴の近く。穴はとても深く、そこが真っ暗で見えないくらいの深さだった。リンドブルムは穴に落ちないよう警戒して進んでいるが、少女は必死にリンドブルムから逃げようとしているせいか足元に注意が行っていない。そしてその結果、最悪の事態が訪れた。
少女が穴の近くを入っていると足元が突然崩れ、少女はバランスを崩し穴の方に傾いた。
「・・・あっ」
自分が穴に落ちる事に気づいた少女は小さく声を漏らす。少女はゆっくりと穴の方へ倒れていき、その光景を目にしたリンドブルムは目を見張って驚く。
「マズイッ!」
咄嗟にリンドブルムは穴に落ちそうになる少女に飛び掛かり両手でしっかりと少女を掴んだ。だが二人はそのまま穴へと落ちていく。リンドブルムは冷静に右手を穴の近くに生えている木に向け、手首を外側に曲げた。するとリンドブルムの機械鎧の手首から何かが飛び出して木の枝に命中する。それは先に小さな鉄の金具の様な物を付けたワイヤーだった。
金具が枝にしっかりと刺さるとリンドブルムは右手でワイヤーを強く握る。リンドブルムと少女はそのワイヤーのおかげで穴に落ちる事なく左右に大きく揺れながらぶら下がった。揺れが収まると安心したのかリンドブルムは深く息を吐く。
「・・・フゥ~~、大丈夫?」
リンドブルムは自分が抱きかかえている少女に尋ねた。少女は穴を見下ろしながら、もう少しで自分がこの暗い穴の底に落ちていたという事を考えガタガタと涙目で震えている。
「今引き上げるからそのままジッとしててね?」
そう言ってリンドブルムが上を向くと手首から出ているワイヤーがゆっくりと戻り始め、リンドブルムと少女は上がっていく。少しずつ上昇をしていく中、リンドブルムは上を向いており、少女も上を見ながらしっかりとリンドブルムに掴まっている。少しずつ近づいてくる穴の出口に少女も安心したのか小さく息を吐いた。ところが、あと2mで穴の外に出られというところまで来たとき、ワイヤーの金具が刺さっていた枝が二人の重さに耐え切れず根元からバキッと折れてしまう。
「え?」
「!?」
折れた枝を見てリンドブルムと少女は目を丸くする。ワイヤーが引っ掛かっていた枝が折れれば二人がどうなるか、それは言うまでもなかった。
「うわぁ~~~!?」
「キャア~~~!!」
悲鳴を上げながら再び穴の底に向かって落下を始めるリンドブルムと少女。流石にリンドブルムも今回ばかりはどうする事も出来ないと感じたのか諦めに入ろうとしていた、その時、何者かが二人と共に穴に落ちていく枝を掴む。枝が掴まれた事でワイヤーで吊るされた二人も落ちる事なく宙にぶら下がった状態となり穴に落ちずに済んだ。
リンドブルムは誰かが枝を掴み自分達を助けた事に気付くとフッと真上を向く。そこには枝を大きな口で加えながら自分と少女を見下ろしているジーニアスの姿があった。
「ジーニアス!」
「らいじょうぶのら~?」
「うん、ありがとう!そのまま引っ張り上げてぇ!」
「わかっらのら~!」
言われた通りに吊るされている二人を引っ張り上げるジーニアス。ジーニアスが来てくれなかったら流石に危なかったと感じたリンドブルムはホッと安心する。一方少女は驚きの連続で目を丸くしたまま呆然としていた。
ジーニアスによって穴から救出されたリンドブルムと少女は穴の近くで座り込んだ。疲れ果てた表情のリンドブルムと少女をジーニアスか大きな顔を近づけて見つめる。
「大丈夫のだ?」
「うん、何とかね・・・」
「・・・一体どうしてあんな状態になったのだ?」
「う~ん・・・それは、ノーコメントで」
「ノー、コメ?」
聞き慣れない言葉に小首を傾げるジーニアス。ワイヤーが引っ掛かっていた枝が突然折れて穴に真っ逆さまになったなんて言えないリンドブルムは苦笑いをしながら目を逸らす。
リンドブルムとジーニアスの会話を少女は少し驚いた様な顔で見ていた。自分と殆ど歳の変わらない少年が大きな竜と普通に会話をしているなんど信じられない光景だったからだ。リンドブルムとジーニアスは自分達を黙って見ている少女に気付きチラッと少女の方を向いた。
「大丈夫?」
「う、うん・・・ありがと」
少女を見てリンドブルムとジーニアスが笑みを浮かべていると遠くからヴリトラの声が聞こえ、リンドブルムは立ち上がり周囲を見回す。自分が走って来た方角からヴリトラが手を振って歩いてくる姿を見つけ、それを見たリンドブルムも手を振り返す。ヴリトラの後ろにはラピュス達の姿もあった。
「お前等~!大丈夫かぁ~?」
「平気~!」
安否を確認するヴリトラに大丈夫である事を伝えるリンドブルム。ジーニアスも歩いてくるヴリトラ達の姿を見つめており、少女は近づいて来るヴリトラ達を少し警戒している様な顔をしていた。そんな少女に気付いたジーニアスが少女に顔を近づける。
「心配ないのだ。彼等は君に何もしないのだ」
ジーニアスの言葉に少女は警戒を解いてヴリトラ達を見つめる。
リンドブルム達の下にやって来たヴリトラ達は少女が無事なのを確認すると何か問題は無かったリンドブルムに尋ねる。リンドブルムは穴に落ちてジーニアスに助けられた事は正直に話したが、枝が折れてまた穴に落ちそうになった事は恥ずかしいと思ったのか黙っていた。事情を聞いて納得したヴリトラは再び少女に近寄り、彼女の前で膝をつき目線を少女と合わせる。
「どうだ?少しは落ち着いたかい?」
「う、うん・・・」
「さっきはビックリしたなぁ、いきなりバンディットウルフが飛び出して来たんだから」
「・・・お兄さん達は、人間?」
苦笑いをするヴリトラに少女は尋ねる。目の前にいるのは嘗て自分達を奴隷のように扱っていた人間である為か少女の表情にはまだ少しだけ恐ろしさが感じれた。ヴリトラは少女を見つめるとゆっくりと頷く。
「どうしてこの森に来たの・・・?」
「ああぁ、実は君達ダークエルフに――」
「動くなっ!」
「「「「「!?」」」」」
何処からか聞こえてくる男の声にヴリトラ達はハッとする。周囲を見回すが誰の姿も無く、ふと木の上を見ると太い枝の上に立ち、弓を構えながらこちらを睨んでいるダークエルフの男性が姿があった。しかもよく見るとそのダークエルフだけではなく、周りに生えている木の枝の上にダークエルフが大勢おり、彼等も弓を構えてヴリトラ達を狙っている。地上にも数人のダークエルフが剣を持ってヴリトラ達を取り囲んでいた。
「な、何だ何だ?」
「完全に囲まれている・・・」
「全く気配を感じなかったのに・・・」
自分達が気付かない間にダークエルフに取り囲まれている事に驚くヴリトラ、ラピュス、ジルニトラの三人。リンドブルムとエリスも周りを見回してダークエルフを警戒し、ジーニアスは長い首を動かしてダークエルフ達を見回している。
ダークエルフ達は人間であるヴリトラ達には普通に対応しているが、聖賢竜であるジーニアスの事は少し驚きながら見ていた。
「おい、あれって聖賢竜じゃないのか?」
「ああ、どうしてこの森に・・・と言うか、なんで人間と一緒にいるんだ?」
「俺が知るかよ」
「おい!少し静かにしろ!」
こそこそと話をしているダークエルフの男性二人に隊長らしき中年のダークエルフが注意する。そしてすぐにヴリトラ達の方を向き剣を向けた。
「なぜ人間のお前達がこの森にいる!先日も人間の騎士と思われる連中が来たが、その者達の仲間か!?」
「え~っと、まぁ・・・そんなところかなぁ~?」
ヴリトラが隊長の質問に小首を傾げながら答えるとダークエルフ達がざわつき出す。そして隊長と近くにいる数人のダークエルフが剣を構えてヴリトラ達を睨み付けた。
「この森は我々ダークエルフの物だ!人間どもの立ち入りは断じて許さん!今すぐ出て行け!さもないとこの場で斬り捨てる!」
明らかな敵意を向けるダークエルフ達にヴリトラ達も流石にヤバいと感じたのか自分達の武器を構えた。すると座り込んでいた少女がヴリトラ達の前に出るとダークエルフ達に向けて手を広げる。
「待って!この人達は私を助けてくれたの!」
「あ、貴方は・・・」
「『リーユ』お嬢様!」
「え?」
隊長と別のダークエルフとの男性が少女を見て驚く。ダークエルフ達の会話を聞いたヴリトラは不思議そうな顔で少女達を見つめる。勿論ラピュス達も同じ様にダークエルフ達を見ていた。
ダークエルフの少女を出会ってすぐに様々なハプニングに出くわすヴリトラ達。そしてその直後にヴリトラ達の前に現れた大勢のダークエルフ達。一体この後、どうなるのだろうか、そしてリーユと呼ばれる少女の正体とは?




