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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十六章~静かな森の妖精達~
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第二百七十三話  神聖なる森 最初のダークエルフとの出会い

 ダベルトの森のダークエルフ達に会いに行く為にエリスと町を出発したヴリトラ達。エリスと複雑な関係にありながら少しずつ分かり合っていく。だがこの時の彼等はブラッド・レクイエム社が同じようにエルフの力を求めて動いている事を知らなかった。

 休息を終えて再出発してから四時間、ヴリトラ達は順調の目的地の森へ向かっている。向かう途中にある村で何度も休息を取ったりなどして休みながら進んでいき、ようやく半分過ぎまで来たところだった。


「・・・もう長い事この自動車で移動しているが、いまはどの辺りなのだ?」

「ようやく半分ってところですね」


 エリスの質問に助手席で地図を見ているヴリトラが答える。その答えを聞いたエリスは驚きの顔を浮かべた。


「もう半分まで来たのか?馬ならまだ三分の一ほどだと言うのに・・・」

「まぁ、途中で休息も取りましたし、未知の都合っていうのありますけどね」

「道?」

「馬や人間なら複雑な道も進めますが、装甲車コイツは平らな道やちょっとした坂道しか進めません」

「この自動車も万能ではないと?」

「ええ、やっぱり歩く力が一番です」


 地図を閉じて外を眺めながら呟くヴリトラ。その表情は嬉しさと切なさが混ざった様な表情だった。どんなに技術が発展しても自動車で通れない所がある。人間の足の方が色んな所を歩いていけるという、技術が発展しても人間の方が自動車よりも優れているという事実にどこか悲しさを感じているのだろう。

 そんなヴリトラを見ていたニーズヘッグは前を向いて運転に集中する。道は少し凸凹しているが自動車が走れる分には何の問題もない。ニーズヘッグは黙って運転を続けた。


「・・・この分だと予定通り夜、もしくは夕方頃には森の到着するな」

「そうか・・・エリス様、予定通り今日は森の近くにテントを張ってそこで休むことになりますが?」

「ああ、それでいい。夜の森には夜行性の猛獣など色々いるからな。いくらお前達でも入るのは危険だ」

「ええ、正直に言うと俺達も夜の森に入るのは嫌だったんですよ」

「フッ、本当に正直な奴だな?」


 素直に自分の嫌いな事を喋るヴリトラにエリスは小さく笑う。いつの間にかエリスも七竜将との会話や接し方にも慣れ、ラピュスやラランと同じようになって来ている。それを見てラピュスはヴリトラ達の事を少しずつ分かってくれているという事に喜びを感じていた。

 数時間後、遂に目的のダベルトの森が見えた。予想通り辺りは真っ暗になり、もう遠くも見えない状況になっている。ヴリトラ達はダベルトの森から約700m離れた所にある広場で装甲車を停め、装甲車を降りたヴリトラとニーズヘッグは少し高めの丘を上がり、持っていた暗視機能付きの双眼鏡で遠くに見えるダベルトの森の状況を確認し、二人の後ろではエリスが同じように暗視双眼鏡で森を覗いていた。夜なのに昼間のように明るく見える暗視双眼鏡にエリスは目を丸くしながら驚く。


「・・・意外と大きな森だな」

「だけど、一年前に行ったノーティンク大森林と比べたら全然小さい」


 エリスが驚いている中、森の大きさに驚くニーズヘッグとブラッド・レクイエム社の補給基地があったノーティンク大森林と比べるヴリトラ。二人ともそれぞれの感想を口にしているが表情は一切変わらない。本当に驚いているのか大したことないと思っているのか、二人の表情を覗いているエリスには全く分からなかった。


「・・・エリス様、あの森を調査した騎士隊がダークエルフと遭遇したんですよね?」

「あ、ああ。森に入ってすぐ、入口近くで遭遇したらしい。調査隊が驚いて彼等を見ているといきなり足元に魔法の矢を放ち、森から立ち去るよう警告して消えたとか・・・」

「森に入ってすぐ・・・ソイツ等は森の入口の見張りか?」

「だとしたら面倒だな。いきなり攻撃を仕掛けて来たって事は、森に入った途端に攻撃して来て話をする前に門前払いされてしまうかもしれない」

「あり得ない事じゃねぇな・・・」


 調査隊が攻撃を受けた事を考えると自分達も森に入った瞬間に攻撃されるかもしれない。そうなると森に中にある彼等の集落へ行く前に追い返されてしまう。それでは同盟を結ぶ事は愚か話をする事も出来ない。そうなった場合はどうするべきか、ヴリトラ達は遠くに見える森を見つめながら考えた。

 三人が難しい顔をしながら森を見ているとラピュスとアリサが三人の下へやって来る。ヴリトラ達が森の様子を伺っている間、ラピュス達は夕食の準備をしていたのだ。


「夕食の用意ができました」

「おっ?もうできたのか?」

「ああ、オロチが簡単で腹の膨れる料理がいいと言っていたぞ」

「そうか、それで何なんだ?」

「お好み焼きらしい」

「メッチャ手間の掛かるもんじゃね!?」


 ラピュスの口から出た料理にヴリトラは思わずツッコミを入れる。ニーズヘッグは黙ってヴリトラとラピュスの会話を聞いており、アリサも苦笑いをしながら二人を見ていた。


「・・・何なのだ?そのオコノミヤキとは?」


 聞いた事の無い料理名にエリスは小首を傾げながら尋ねた。


「俺達の住んでいた所の料理ですよ。水に溶かした小麦粉を生地にして野菜や肉などを具とし、鉄板で焼く料理です」

「水で溶かした生地・・・食べられるのか?」

「ええ」


 ニーズヘッグの説明を聞き、いまいち不安そうな顔を見せるエリス。今まで聞いた事の無い料理法の料理を食べさせられるのだから無理もない。すると不安そうな顔のエリスを見てラピュスが近寄り声を掛ける。


「大丈夫ですよ、姫様。私も最初にその料理を見た時は驚きましたけど、味はとても美味しかったですから」

「お前は食べた事があるのか?」

「ええ、一年間彼等と共に行動している時に・・・」


 ラピュスはこの一年の間に地球でファムステミリアでは食べられない様な料理を沢山食べて来た。中には初めて見た時に驚き固まった物もあったが、実際食べてみると見た目とは裏腹に美味な物が多かった為、スッカリ地球の料理の虜になってしまったのだ。勿論ラランも似た様なものだった。お好み焼きもその一つでラピュスのお気に入りの料理の一つでもある。


「・・・お前がそこまで言うのなら、一応食してみるか」


 エリスはラピュスの顔を見てお好み焼きが美味しいという事、そして、ラピュスが嘘をついていない事を察する。やがて「そこまでいうなら」と言いたそうな顔で軽く頷くと、ラピュスは微笑みながらエリスを連れていく。ヴリトラ、ニーズヘッグ、アリサの三人も二人の後を追う様にリンドブルム達の元へ向かっていった。

 その後、全員が揃うとオロチが作ったお好み焼きを全員で食した。七竜将やラピュス、ラランは食べた事があるので普通に食べたが、初めて見るアリサ達は作り方から食べるところまで全部見ていた為、ドロドロだった物が丸い形の料理になった事に驚き、しばらくの間皿の上のお好み焼きを眺めていた。それからようやく口にし、口の中に広がる未知の触感と味に驚き声を上げる。アリサやエリス達は黙々とお好み焼きを食べていき、特にジーニアスは体が大きく、オロチはかなりの量のお好み焼きを作った。おかげで前日に買っておいた食料の半分近くが消えてしまい、ヴリトラ達はガクッと首を落としす。しかし作ったオロチ本人は美味しく食べてくれたアリサ達を見て嬉しかったのかヴリトラ達に気付かれないように小さく笑った。

 食事を終えるとヴリトラ達は就寝の為にテントをやり、各自自分達のテントに入り眠りについた。エリスのテントには彼女と警護の為のアリサが、七竜将が用意したテントには男女それぞれが分かれてテントに入り体を休める。そして白竜遊撃隊の隊員達もテントを張ってその中で休み、ジーニアスはその近くで眠りにつく。


「・・・さぁて、明日はどうするかなぁ」

「何がだ?」


 テントの中で寝袋に入りながら明日の事を考えるヴリトラとその隣で同じように寝袋に入りながら尋ねるニーズヘッグ。リンドブルムとジャバウォックは既に眠りにつき、リンドブルムは小さな寝息を、ジャバウォックをいびきをかきながら眠っていた。


「森に入った調査隊をいきなり攻撃してくる連中だ。それだけ人間を警戒してるって事なんだろう?」

「・・・かもしれないな」

「そんな連中に見つかったらまた攻撃されて追い返されるんじゃないか、と思ってな」

「う~む・・・」


 ダークエルフの人間に対する警戒心の事を考え、明日どう行動するのかを考えるニーズヘッグ。ヴリトラも難しい顔をしながら同じように考え込んだ。


「・・・とりあえず、明日になったら一度入口前でエルフがいないかを調べてみようぜ?それでもしエルフを見つけたら彼等に声をかけて話をするというところまで持って行こう。話ができなきゃ何の意味も無いしな」

「確かに話をする事が目的だからな。だけど、門前払いするような奴等が俺達の話を聞いてくれるかぁ?」

「分からん。とにかく、全ては明日森へ行ってから考えよう」

「・・・ハァ、それしかないか」


 これ以上考えてもいい答えは出ないと考えたのかヴリトラとニーズヘッグは考えるのをやめて眠りについた。この後、二人はジャバウォックのいびきでなかなか寝付けなかったが、何とか眠る事ができたらしい。

 翌朝、簡単に朝食を済ませたヴリトラ達は森へ向かって装甲車を走らせる。既に目的地のダベルトの森は目と鼻の先、ヴリトラ達は急いで森の入口へ向かった。

 森の入口前にやって来たヴリトラ達は装甲車とジーニアスの背中から降りて大きな森の入口を見上げる。緑の葉を持つ大きな木に囲まれた入口と周辺を見回すヴリトラ達はまず周囲にエルフ達の気配がいない調べ始めた。気配を探るのを得意とするオロチと以前森に棲んでいたジーニアスが入口の前に立ち、周囲の気配を探り出す。


「・・・どうだ?何か感じたか・・・?」


 オロチが目を閉じながら隣にいるジーニアスに尋ねるとジーニアスはオロチを見下ろしながら首を横に振る。


「いや、何も感じないのだ。エルフどころか小さな動物の気配すら感じられないのだ」

「私も似た様なものだ。という事は、入口の近くには誰もいない・・・?」

「そうみたいなのだ」


 調査隊が来たときは森に入った瞬間に攻撃をしてきたのに今回は誰も見張りがおらず、オロチはゆっくりと目を開きながら不思議に思う。そこへヴリトラ達は近づいてきてオロチに入口周辺の状況を尋ねる。


「どうだ、オロチ?」

「エルフの気配はない・・・」

「ない?見張りがいないって事か?」

「ああ、私もジーニアスも何も感じなかった・・・」

「どういう事だ?」


 森の入口に見張りのエルフがいないという事にヴリトラも変に思い難しい顔をする。ラピュス達も集まって難しい顔をするヴリトラを見て同じように考えだした。


「今回は見張りがいないって、どういう事?」

「オロチとジーニアスが探り出せないくらい周囲に溶け込んでるんじゃないの?」

「それはあり得ないわよ。アンタも知ってるでしょう?オロチの索敵能力が優れてるって事を?半径20m以内の生き物の位置なら簡単に探り出せるわ」

「あっ、そっか・・・」


 リンドブルムとジルニトラはオロチが敵を見つけ損ねたという事は無いと考えて更に難しい顔を見せる。ラピュス達やエリス、白竜遊撃隊もなぜ今回は入口前に敵がいないのかと頭を悩まし始めた。

 それぞれがエルフの姿が見えない事で頭を悩ませているとヴリトラは一歩前に出て周りにいるラピュス達を見回す。


「まぁ、とりあえず入ってみようぜ?いつまでも此処でジッとしていても意味は無い」

「・・・いきなりは入る気か?一度此処で待ってエルフが姿を見せるのを待った方がいいんじゃないか?」


 ラピュスが森に入るより入口で誰かが来るのを待っていた方がいいと提案する。ヴリトラはラピュスの方を向くと軽く首を横に振った。


「いや、それはやめた方がいい」

「なぜだ?」

「言っただろう?下手をすれば話をする前に門前払いされちまうか持って。だけど、先に森に入っていれば門前払いされる事は無い。少なくとも話ぐらいは聞いてくれるはずだ」

「そ、そんなものなのか・・・?」


 いまいち納得できないのか複雑な顔をするラピュス。だがヴリトラの言う通り此処でジッとしていても何も変わらないし、門前払いされる可能性もある。それなら森に入りエルフ達を見つけて話を聞いてもらった方がいい。

 ヴリトラの考えを聞いたエリスはしばらく黙りこんで考える。やがて答えが出たのかヴリトラと同じように周りにいる者達を見ながら自分の考えを話し始めた。


「ヴリトラの言っている事も一理ある。ここは一度森へ入りダークエルフ達を見つけて話をしてみよう。話ができなければ何も始まらないのだからな」

「ハ、ハイ・・・」


 エリスもヴリトラの考えに賛成し、ラピュスも複雑そうな顔のまま返事をする。アリサや白竜遊撃隊も同じような顔でエリスを見ており、七竜将は最初からヴリトラの考えに賛成していたのか黙ってヴリトラとエリスを見ていた。

 森に入る事が決まり、ヴリトラ達はチームを二つに分けて行動する事にした。一度に全員で入るとエルフ達が警戒する可能性がある。そこでまずは少人数で入り、エルフ達が話を聞いてくるという事が確認できたら全員を呼ぶという事が決まった。


「それじゃあ、チームの確認をするぞ?森に入るチームに俺とエリス様、ラピュスとリブル、ジルの五人、残りは全員此処で待機する。まず俺達は森に入りエルフ達を探す。そして彼等を見つけたら話を聞いてもらうよう説得する。もし話を聞いてくれる事になったら通信機で連絡を入れてお前達を呼ぶ。全員が集まり彼等の集落に着いたら改めて同盟の話をする・・・という事でいいですね?エリス様」

「ああ、それで構わない」

「なら、早速行きましょう」

「ちょっと待つのだ」


 ヴリトラ達が森に入ろうとするとジーニアスがヴリトラに近づいて大きな顔を彼に近づけた。


「どうした?ジーニアス」

「君達はこの森の事を何も知らないのだ。そんな状態で入ると迷いに行くようなものなのだ」

「う~ん、確かにな・・・」

「そこで僕もついていくのだ。僕は木の生え方や風の流れからその森がどんな風になっているのか分かるのだ。道案内するのだ」

「そう言えば、初めて会った時もお前はノーティンク大森林に棲んでたんだよな?」

「そうなのだ。それに僕は空を飛べるから空からどう進めがいいのかを調べる事も出来るのだ。しかも聖賢竜の僕がいれば彼等も迂闊には攻撃してこないはずなのだ」

「成る程、お前ほどエルフ探しにピッタリな奴はいないって事か・・・OK、一緒に来てくれ」

「ハイなのだ!」


 笑いながら頷くジーニアスの鼻をヴリトラは撫でる。この時のジーニアスはまるで母親に褒められて頭を撫でられる子供の様だった。いくら体が大きくてもジーニアスのまだ子竜、役に立てるという事が嬉しいのだろう。

 ジーニアスが同行する事が決まり、ヴリトラ達は改めて森へ入った。残ったジャバウォック達は森へ入って行くヴリトラ達の後ろ姿を見守る。


「大丈夫でしょうか、皆さん?」

「平気だろう?ジーニアスがいるんだし」

「でも、今回は今までの様な騎士や機械鎧兵士とは違います。魔法を使う事の出来るエルフですよ?もし戦う事になればいくらヴリトラさん達でも・・・」

「戦うというのは最悪の結果だ。俺達はエルフ達と戦いに来たんじゃねぇ。最悪の結果になる事はねぇさ」

「だといいんですけど・・・」


 ジャバウォックは心配ないと考えているがアリサは心配で仕方がなかった。魔法を忘れてしまったこの世界の人間達にとっては魔法を使うエルフはある意味で機械鎧兵士よりも厄介な存在だ。もしそんな彼等と戦うようなことになれば、ヴリトラ達でもただでは済まない。そんな事を考えながらアリサはヴリトラ達の無事を祈った。

 ジャバウォック達を分かれ、森に入ったヴリトラ達はとりあえず道に沿って慎重に歩いていく。ヴリトラを先頭にエリスを囲むようにラピュス、リンドブルム、ジルニトラが歩き、最後尾をジーニアスがズシンズシンと足音を立てて歩いている。既に入口が見えなくなっている所まで歩いて来たがエルフどころか動物とも遭遇していない。


「・・・結構進んだけど、エルフの姿は見えないね?」

「ずっと奥の方にいるんじゃないの?」

「ええぇ?それじゃあ、どうして調査隊が此処に来た時に入口前でエルフ達と遭遇したの?」

「多分偶然じゃないかしら?たまたま森の入口近くに来た時に調査隊の騎士達と出会って攻撃したんでしょう?」


 いまだにエルフと会わない事を不思議に思うリンドブルムにジルニトラは偶然の遭遇だと話しながら歩き続ける。リンドブルムはいまいち納得できない様な顔で腕を組みながら歩く。二人の話を聞いていたヴリトラ達も歩きながらエルフが姿を現さない事を考えていた。


「ヴリトラ、お前はどう思う?」

「エルフが姿を見せない理由か?」

「ああ」

「そうだなぁ・・・ダークエルフ達が俺達人間との接触を拒んで奥の方に身を隠しているのか、それとも臆病な性格なのか・・・」

「何であれ、我々にはエルフの情報が少なすぎる。エルフと共存していた時の資料などは全て読めなくなってしまっており、何も分からなかったしな・・・」


 ヴリトラとラピュスが話をしているとエリスが会話に加わって来る。数十年前のエルフに関する資料などは古すぎて読む事も調べる事も出来なかった。つまり、今のレヴァート王国にはエルフの知識がまるでない。その情報を手に入れる為にも今回の同盟を成功させる必要があったのだ。

 難しい顔をしながら歩いていると右側から木の枝が折れる様な音が聞こえ、ヴリトラ達はピタリと足を止めて音の聞こえた方を向く。それと同時に全員が自分達の武器を構えて強く警戒する。


「おい、今の音は・・・」

「誰かいるな・・・」

「エルフか?」

「分かんねぇ、もしくは森に棲んでいる動物達か・・・」


 ヴリトラとラピュスは森羅とアゾットを鞘から抜いて構える。音はヴリトラ達が通っていた道から数m離れた所に生えている大きな木の後ろから聞こえて来た。ヴリトラは森羅を両手でしっかりと握りながらリンドブルム達の方を見る。


「・・・リンドブルム、俺とティアマットが木の裏を見て来る。お前は援護してくれ」

「了解・・・」

「ジルニトラ、お前はエリス様を頼む」

「了解よ」


 戦闘が起きるかもしれないと悟ったヴリトラはラピュスを暗号名コードネームで呼び、リンドブルムとジルニトラも愛称ではなくちゃんとした暗号名で呼ぶ。それを聞いたリンドブルムとジルニトラも表情を鋭くして返事をした。

 ヴリトラ達の雰囲気が変わった事にエリスとジーニアスにも緊張が走る。ジルニトラはエリスの前に立ち彼女を守る体勢に入った。ヴリトラとラピュスはゆっくりと警戒しながら音が聞こえた気の方へ近づいていく。リンドブルムもライトソドムとダークゴモラを構えながら警戒した。

 二人が木に近づくとヴリトラは左に、ラピュスは右に移動して木の裏側を左右から挟む様に動く。裏側がもう少しで見える位置まで来るとヴリトラはラピュスの方を見る。それを見たラピュスも黙って頷く。そして二人は同時に木の裏側に飛び出した。すると、二人はふと意外そうな顔をした。木の裏には一人の女の子が震えて座り込んでいたのだ。金色の短髪に褐色の肌、尖った耳を持ち黒と紫の服を着た十歳ぐらいの少女だった。


「・・・子供?」

「おい、ヴリトラ、この子の耳・・・」

「ああ、俺も今気づいた・・・ダークエルフだ」


 涙目で震えながら自分達を見上げるダークエルフの少女を見つめるヴリトラとラピュス。少女はただそんな二人を見てガタガタと震えているだけだった。

 ようやく森に着き、エルフの捜索を始めるヴリトラ達はダークエルフの少女と出会う。震える少女を前にヴリトラ達はどうするつもりなのか。


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