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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十六章~静かな森の妖精達~
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第二百七十一話  魔法を忘れぬ存在 森の住民エルフ

 コラール帝国との戦いが始まって一週間、七竜将はレヴァート中を回り多くの戦いに貢献した。そんな中、ラピュスから新しい任務があるという知らせを受ける。この時の七竜将はその任務がある意味で非常に重要なものである事をまだ理解していない。

 ラピュスとラランがズィーベン・ドラゴンを訪ねてから数分後、パティーラムとガバディアが到着する。七竜将の正体を知っている二人は今ではスッカリ七竜将に依頼を出す存在となっていた。

 ヴリトラ達はパティーラムとガバディアを奥にある食堂の席へ案内し、お茶を出すとテーブルを挟んで二人と向かい合う。ヴリトラとラピュスが席に付き、残りは二人の後ろに立つ形でパティーラムとガバディアを見つめた。


「まずは南東部の調査任務、お疲れ様でした。任務から戻って来たばかりで申し訳ありませんが、七竜将の皆さんにはまたすぐに別の任務に就いていただきます」

「構いませんよ。それで今回はどんな仕事ですか?」


 ヴリトラが依頼の内容を尋ねるとパティーラムの隣に座っているガバディアが代わりに質問に答えた。


「実は昨日、此処から北西にある『ダベルトの森』を調査しに行った騎士隊がその森である種族と遭遇したのだ」

「種族?」


 ガバディアの曖昧な説明を聞いてヴリトラは聞き返す。ガバディアは頷き、自分の髭を触りながら小さく俯く。とても真剣な表情をしており、どう説明すればいいのか悩んでいるように見える。しばらく黙っていたガバディアはまずこれがどれだけ重要な事なのかを話す事から始める事にした。


「これはまだ王国でもごく一部の者しか知らない極秘情報でな。一般の者に話すのはお前達が最初なのだ。この一件が終わるまでは誰にも言わないでほしい」

「・・・分かりました。それでその種族というのは何なんです?」

「・・・・・・エルフだ」

「「「「「エルフ?」」」」」


 出てきた種族の名前を聞きオロチ、ララン以外の全員が声を揃える。ラピュスとラランも任務の内容を聞いていなかった為、ガバディアの口から出たエルフという言葉に目を見張って驚いている。

 ヴリトラ達が驚く姿を見てガバディアも少し驚いていたがすぐに真剣な表情に戻して彼等の顔を見る。そこへリンドブルムがヴリトラの隣にやって来てガバディアに声をかけた。


「エルフって、あのエルフですか?耳が尖ってて凄く寿命が長い妖精の?」

「ああ、そのエルフだ。お前達の世界にも存在しているのか?」

「い、いえ、僕達の世界では空想上の生き物ですがとても有名なんです」

「ほぉ?そうなのか・・・異世界だけあって随分と違うのだな・・・」

「・・・団長」


 興味のありそうな顔でリンドブルムの話を聞くガバディアにパティーラムが困った様な顔で声をかける。状況を思い出したガバディアはハッとしながらパティーラムの方を向き、席をしてごまかした。


「は、話が逸れたな・・・調査した騎士隊によると遭遇したのは褐色の肌に銀色の髪をしていたらしい」

「褐色の肌に銀髪・・・ダークエルフですか?」

「恐らくな。この世界にはライトエルフとダークエルフの二種のエルフが存在している。ライトエルフは純潔なエルフ達の事を示し、ダークエルフは長い年月の間に人間との血の混ざって生まれた存在の事だ。彼等の肌が褐色なのは人間達の血が混ざっているせいだと言われている。本当のところは分からんがな・・・」

「ライトエルフにダークエルフですか。その二つの種族はやっぱり・・・そのぉ・・・仲が悪いんですか?」

「ああ、ダークエルフは別にライトエルフを嫌悪している訳ではないのだが、ライトエルフ達がダークエルフ達を下等な人間の血が混ざったエルフの面汚しなどと言って手嫌いしている」

「ライトエルフは人間達を自分より力の劣る弱い生き物としか見ていないのだ・・・」


 ガバディアがライトエルフの人間に対する見方を話していると黙って話を聞いていたラピュスがライトエルフが人間をどう思っているのかを話す。それを聞いたヴリトラは複雑そうな顔を見せる。


「そっか・・・俺達の世界ではエルフは人間と友好的な種族とか手嫌いしているとか色々な設定があるが、この世界のエルフ達が人間を手嫌いしているのか・・・ちょっと面倒だな」

「ですが、ダークエルフは違います。彼等は人間の血が流れているという事で人間とは友好的な種族と言われています」

「そうですか・・・」

「でも、それは昔の話です。エルフは七十年も前から人間の前に姿を見せなくなったと言われていますので今でも人間の事を良く思っているのかは分かりません・・・」


 パティーラムがエルフと人間の歴史について話だし、それをヴリトラ達は黙って聞いている。するとヴリトラとラピュスの後ろで話を聞いていたニーズヘッグがある事に気付く。


「ちょっと待ってください。昔の話って事は昔は人間とエルフは交流があったんですよね?どうして今はエルフは人間の前から姿を消したのです?」

わたくしも詳しくは分かりません、七十年前にヴァルトレイズ大陸中の国々がエルフや彼等の持つ力を争いに利用したり、捕らえては奴隷市場に売るといった行為を行っていた為、人間の前から姿を消し、それ以来姿を見なくなったと言われています」

「奴隷市場とは穏やかではないですね・・・」

「ええ。調査隊が遭遇したエルフ達はその力を使って遭遇した調査隊を威嚇し、森の奥へと消えていったそうです」

「・・・因みにその力とは?」

「・・・魔法です」

「魔法?」


 ニーズヘッグの言葉で食堂内は一瞬にして静まり返り、七竜将は一斉に驚きパティーラムを見つめる。それもそのはずだ。このファムステミリアでは数十年前に魔法が消滅し、今では魔法を使える者など一人もいないと聞いている。唯一騎士達が魔法に似た気の力を使えるというだけで、この数十年の間に本当の魔法を見た者など誰もいなかった。

 魔法が存在しないはずの世界でエルフが魔法を使えると聞き、七竜将は目を丸くする。勿論ラピュスとラランも驚いていた。彼女達もエルフが存在しているとは知っていたが、まだこの世界に魔法が存在し、エルフがそれを使えるという事は知らなかったのだ。


「姫様、それは本当なのですか?魔法は数十年前に消滅し、今では使える者は誰もいないと・・・」

「確かに『人間』には魔法を使える者はいないでしょう」

「人間?・・・・・・ッ!人間は使えなくてもそれ以外の種族、エルフには使えると!?」

「恐らく、その通りでしょう」


 ラピュスの推理を聞いたパティーラムは彼女を見つめながら頷いた。ファムステミリアにエルフがまだ存在していたという事実だけでもヴリトラ達に大きな衝撃を与えたのに更にそのエルフ達が魔法を使えるという事が寄り衝撃を大きくする。


「でも、どうしてエルフはまだ魔法を使えるんですか?」

「人間は技術が発展していくうちにその技術から生まれた気の力に意識が行き、魔法の研究を怠るようになっていたのです。次第に人々の魔法に関する興味は薄れていき、やがて誰も魔法を研究しようとしなくなりました。その結果、魔法に関する書物や魔力などは人間達の手から消えていき、人々は魔法を使えなくなってしまったのです」

「それに引き換え、エルフ達は自然の中で生活をしており、魔法の知識を忘れる事は無かった。だからエルフ達は数十年経った今でも魔法を使えるのだ」


 パティーラムとガバディアが魔法と繋がり、エルフが魔法を使える理由を話すとヴリトラ達は真面目な顔で二人の話を聞く。魔法が存在するという事は地球から来た七竜将だけでなく、ファムステミリアに住むラピュスとラランにも興味があり、一同は二人の話を黙って聞き続けている。


「だが全てのエルフが魔法を使える訳でもない。魔法を使うのに必要なのは魔力だけではなく、自然との関わりも重要になって来るのだ。大地や森の声を聞き取り魔法を使う為に必要な事を教わり、そうすることでようやく魔法が使えるようになる」

「自然の声、ですか・・・」

「人間達は技術が発展したせいで自然との関わりを忘れてしまった。それも魔法が使えなくなった原因の一つという事か・・・」

「その通りだ。一度自然との関わりを忘れてしまった者は二度と自然の声を聞く事は出来ない。故に我々は二度と魔法を使えないのだ」


 オロチの話を聞いてガバディアは目を閉じながら低い声で言う。一度自然との絆を無くしてしまえば二度と絆は戻らない。ファムステミリアに住む人間達は皆、技術と引き換えに魔法から完全に見限られてしまったのだ。

 人間の愚かしさを明かす様な暗い話になってしまい、リンドブルムはその空気を少しでも和ませようと考え話を切り替えた。


「そ、それで、エルフと魔法の事に関しては分かりましたが、僕達は何をすればいいんですか?」

「・・・ああぁ、そうでしたね。その話をしなくては・・・」


 パティーラムも気持ちを切り替えて七竜将に依頼すべき事を話は始めた。


「皆さんには明日の朝、エリスお姉様と一緒にそのダベルトの森へ行って頂きたいのです。勿論ラピュスさんとラランさんにも」

「エリス・・・第二王女様でパティーラム様のお姉さんの?」

「ハイ。コラール帝国との戦いが激しくなってくる以上、こちらも彼等に対抗する為の力が必要なのです。その為にエルフと同盟を結び、共に戦ってもらいたいと陛下は仰っています。姉様はエルフ達と同盟を結ぶ為の話し合いに向かわれます。皆さんには姉様の護衛とエルフ達との話し合いに行って頂きたいのです」

「俺達が話し合いに?」

「コラール帝国に力を貸しているブラッド・レクイエムは皆さんと同じ世界の者達、彼等の事を一番よく知っている皆さんがご一緒に行って頂ければ話を聞いてくれると思います」

「エルフ達がブラッド・レクイエムの存在を全く知らない。このままではエルフ達も危険だあるという事を彼等に伝えてほしいのだ」


 エルフ達を説得してほしいと頼むパティーラムとガバディア。二人の真剣な顔を見てヴリトラ達は黙り込む。


「・・・それは厳しいかもしれねぇな」


 ラピュスの後ろで腕を組んでいたジャバウォックは突如口を開ける。ヴリトラ達は一斉にジャバウォックの方を向いた。


「どういう事だよ、ジャバウォック?」

「だってよ、さっきパティーラム様が言ってたじゃねぇか?エルフ達は人間達が自分達を利用したり奴隷の様に扱ってたから愛想を尽かして消えたんだって。今まで自分達を弄んできた人間達に素直に協力するとは思えねぇぞ?」

「確かにな・・・他人を傷つけた奴はすぐに忘れるだろうが、傷つけられた奴はその事を一生忘れないと言う。エルフ達が人間に対する憎しみを忘れたとは考え難い」


 ジャバウォックに続きニーズヘッグも同盟が上手く結ばれるかどうか不安そうな顔で考え込む。パティーラムやガバディアは自分達の先祖がエルフ達にどれだけ酷い事をしたのかを考え罪悪感を感じる。ラピュスとラランも暗い顔で俯いた。

 ラピュス達が不安そうな顔をしているとヴリトラは目を閉じて腕を組みながら椅子の背もたれに寄り掛かった。


「まぁ、とりあえず行ってみよう。話を聞いてくれるかくれないかは行ってみないと分からない」

「・・・確かにそうだな。話し合わない事には良い結果も悪い結果も起こらない訳だし」


 ヴリトラの考えに賛同するラピュス。周りのリンドブルム達も同じ考えなのか反対する事無く頷いた。そんなヴリトラ達を見てパティーラムとガバディアは小さく笑う。


「ありがとうございます。出発は明日の朝になります。あと、皆さんの他にも白竜遊撃ワイトドラン隊も同行しますのでよろしくお願いします」

「白竜遊撃隊?アリサ達もですか?」

「ハイ、本来なら黄金近衛ゴルペガード隊を同行させるべきなのですが、エルフ達は森の中に住んでいますので色んな場所での任務に慣れている遊撃隊の方が適任だと考えました」

「ああぁ、成る程・・・」


 確かに常に王城にいる近衛隊よりも遊撃隊の方が森でもし戦闘が起きた時にはすぐに対応できる。それに気づいたヴリトラは黄金近衛隊の騎士達が森の中でアタフタしている姿を想像し苦笑い浮かべた。

 それから詳しい任務の内容を話したパティーラムとガバディアはズィーベン・ドラゴンを後にし、明日の任務の準部を進める。調査任務から戻って来たばかりのヴリトラ、ジャバウォック、オロチ、ファフニールの四人は明日の任務に備えてそのまま体を休め、リンドブルム達だけで急ぎ食料の買い出しや武器のチェックをするのだった。


――――――


 翌朝、準備を終えた七竜将は装甲車に乗ってティムタームの正門前の広場にやって来た。まだ夜が明けて間もないせいか人は殆どおらず、広場の真ん中で装甲車がポツンと停車している。


「ふぁ~~、ちょっと早く来すぎたんじゃないの?」


 ファフニールが欠伸をしながら外を眺めてヴリトラ達に尋ねる。車内では運転席にニーズヘッグが座り、その隣の助手席にヴリトラ、ファフニールのいる後部座席には彼女以外にラピュスとララン、そして他の七竜将のメンバー全員が乗っていた。そして車内にいる者達でラピュス、ララン、ニーズヘッグ、オロチ以外の全員が眠たそうな顔をしている。

 現時刻は午前五時、まだ町は住民達は家の中におり、この時間に外に出ているのは市場に出ている店の準備をする者くらいだった。ヴリトラ達も久しぶりの早起きでまだ目が覚めていない様子だ。


「・・・この分ならもう少しゆっくり来てもよかったかもな」

「何を言っているんだ。王族と同行するのにその王族よりも遅く来るなど失礼だろう。王族よりも先に来ていつでも出発できるように準備をしておくのが当然なんだ」

「マジかよ?今までも王族と一緒に行く任務はあったけど今日みたいな時間に起きた事は無かったぞ?」


 早く起きるのが常識と口にするラピュスにヴリトラは後部座席の方を向きながら引く様な表情を見せる。周りにいるリンドブルムやジャバウォック、ファフニールも目を丸くしながら驚いていた。

 ラピュスはヴリトラ達の表情を見ると小さく息を吐いた。そして自分の後頭部を掻きながら複雑そうな顔で見せる。


「・・・実は今回同行されるエリス様は王女の中でもお転婆な性格と言われていてな。陛下の反対を押し切って姫騎士になられたと聞いている」

「王女様が姫騎士に?別に珍しい事じゃねぇんじゃねぇか?」

「そうだよ。パリーエ王女だって姫騎士をやってるよ?」


 ジャバウォックとリンドブルムがストラスタ公国の王女であるパリーエの事を思い出し、王女が姫騎士になる事は珍しくないと話す。先程から黙っていたニーズヘッグ達もラピュス達の会話が気になるのかチラッとラピュスの方を見ながら耳を傾けている。するとラピュスは困り顔でジャバウォックとリンドブルムの方を見た。


「確かにこのヴァルトレイズ大陸の各国の王族が騎士や姫騎士になる事は珍しくない。現にパリーエ姫や帝国の皇女だったグリセルダ、ブリュンヒルデも姫騎士だからな・・・ただ、エリス様の場合は幼い頃からに騎士に憧れておられ、そっちの方が強くて騎士になられたとパティーラム様が仰っていた・・・」

「それって、好奇心から騎士になったっていう意味?」


 黙って話を聞いていたジルニトラが問いかけるとラピュスは困り顔のまま頷く。


「強くて気高い騎士に憧れ、自分も騎士になり剣を振りたいという強い気持ちから姫騎士になられたらしい。勿論、それは幼い頃のお考えで成長された今は国の為に戦おうという意志をしっかりお持ちになっておられるみたいだ・・・」

「それならいいじゃない。なのに何か不安があるの?」

「成長されて騎士としての責任感は確かに強くなられた。だけどご自分の興味のある事に目がいかれると後先考えられずに行動される時があるとか・・・」

「そう言うところはまだまだ子供という事か・・・」

「・・・心配」


 成長していないところもあると聞かされたオロチは興味の無さそうな小さな声で呟く。ラランは無表情ではあるが少し心配そうな顔をしている。

 装甲車の中で会話をしていると装甲車が小さく揺れ、ヴリトラ達はふと窓から外を確認する。しかし窓からは何も見えず、気になったヴリトラは装甲車を降りた。すると装甲車の後ろに一匹のドラゴンが座っている姿があり、ヴリトラは目を丸くして驚く。


「うぉわぁ!?」

「どうしたの、ヴリトラ!?」


 ヴリトラの声を聞いたリンドブルムが上部のハッチを上げて周囲を見回した。そしてドラゴンを見てヴリトラと同じように驚く。他のメンバー達も装甲車から降りてドラゴンの姿を見る。ライトグリーンの皮膚を持ち、頭に三本の角、大きな竜翼りゅうよくに赤く丸い目をした可愛らしさのある少し大きめなドラゴンだった。


「な、何この大きなドラゴン?」

「いや、大きいと言うほどじゃねぇだろう?アフリカゾウと同じくらいだ・・・」

「そんな事はどうでもいいだろう!」


 突然のドラゴンの登場よりも大きさに驚くジャバウォックにツッコミを入れるニーズヘッグ。最初は驚いていたヴリトラ達であったがすぐに慣れてそのドラゴンを見上げてジーっと見つめる。そしてすぐにある事に気付く。自分達はこのドラゴンに見覚えがあると。


「このドラゴン、何処かで見た様な・・・」


 ヴリトラがドラゴンにゆっくりと近づくとドラゴンが長い首を動かして顔をヴリトラに近づける。ヴリトラは立ち止まり森羅に手を掛けた。


「・・・お久しぶりなのだ、ヴリトラ殿」

「おわっ!喋った!?」


 突然人間の言葉を話すドラゴンに驚くヴリトラ達。だが、ドラゴンが喋った瞬間、そのドラゴンの正体にヴリトラ達は気付いた。


「お前、ジーニアス!?」

「思い出してくれたのだ?」


 ドラゴンの事を思い出して驚くヴリトラ。ラピュス達も名前を聞いて驚いている。ドラゴンも自分の事を思い出してくれたヴリトラを見て嬉しそうな顔を見せた。このドラゴンは一年前にノーティンク大森林でヴリトラ達が出会ったファムステミリア一賢いドラゴンと言われている聖賢竜せいけんりゅうのジーニアスだったのだ。

 ジーニアスとの意外な再会に驚くヴリトラ達。するとジーニアスの後ろからラピュスか顔を出した。


「皆さん、おはようございます!」

「アリサ!これはどういう事だ?」


 顔を出したアリサを見て驚きの顔のまま尋ねるラピュス。アリサはジーニアスの背中から飛び降り、それに続くようにMP7を装備した四人の男性騎士が飛び降りる。アリサはヴリトラ達の下に駆け寄ると振り返りジーニアスを見上げる。


「実はあの一年前の事件の後、私はジーニアスを連れてティムタームに戻って来たんです。その時に姫様と団長が彼の存在はきっと国の為になるとお考えになられて彼を白竜遊撃隊の仲間として迎え入れて下さったんです」

「そうなのだ。ノーティンク大森林に住めなくなってしまい、住む場所を無くしてしまった僕に居場所を与えてくれたのだ。その恩を返す為にも僕はこの国で精一杯働く事にしたのだ」


 嬉しそうに話すジーニアスを見上げてアリサも微笑みながら彼の大きな足を撫でる。ヴリトラ達も一年ぶりに再会した聖賢竜を見て嬉しくなったのか自然と笑みを浮かべていた。するとジーニアスはヴリトラの方を見て今度は不満そうな顔を見せる。


「それよりもヴリトラ殿、どうして戻って来た時にすぐに僕に会いに来てくれなかったのだ?僕は早く君達に会いたくてワクワクしていたのに酷いのだ」

「あぁ~・・・悪かったな?戻って来たばかりで色々とやる事があったんだよ。それにお前がこの町にいるなんて知らなかったから・・・」

「アリサ殿から何も聞いていなかったのだ?」

「え?」


 ヴリトラ達はチラッとアリサの方を向く。注目を浴びたアリサは「あっ」という顔でヴリトラ達を見回す。どうやら知らせるのを忘れていたようだ。その事に気付いたヴリトラ達やジーニアスは呆れ顔でガクッとなる。アリサは苦笑いを浮かべながら「申し訳ない」と謝った。

 一同がそんな会話をしていると町の方から一匹の馬が走って来るのが見え、それに気づいたヴリトラ達は一斉の馬の方を向く。茶色の馬には銀色の短髪に鋭さのある目つきをし、赤い鎧に白いマント姿の姫騎士が乗っていた。それは王女ではなく姫騎士の姿をしたレヴァート王国第二王女のエリスだった。

 エリスの乗った馬はヴリトラ達の前で止まり、ラピュス達騎士は慌ててエリスの前に並ぶ。七竜将も少し遅れてラピュス達の後ろに並んだ。エリスは自分を見ながら姿勢を正す一同を黙って見ている。


「・・・お前達が七竜将と白竜遊撃隊だな?」

「ハイ」


 突然口を開き確認するエリスにラピュスが返事をする。エリスは馬から降りるとラピュスと斜め後ろになっているヴリトラの顔をジッと見つめた。


「お前がラピュス・フォーネ、その後ろにいるのが七竜将の隊長であるヴリトラか。パティから話は聞いている」

「ハイ、よろしくお願いします」

「ど、どうも」

「こうして直接話すのは初めてか・・・よろしく頼むぞ?」


 パティーラムとは違う雰囲気のエリスに少し緊張した様子のラピュスとヴリトラ。あまり失礼な態度を取るとマズいと感じているのかパティーラムと接する時の様な軽い態度は取らなかった。

 エリスは緊張した顔をするラピュスをしばらく見つめる。すると少しガッカリした様な顔で溜め息をついた。


「ハァ・・・そんな固くなるな。パティからはお前達はとても愉快な連中だと聞いている。もう少し私とも軽く接しろ、あまり固くなられるとこっちも気が重くなる」

「え?・・・ハ、ハイ・・・」

「だが、だからと言って軽くなりすぎるなよ?私はパティと違って甘くはないからな?」


 そう言ってエリスは自分が乗って来た馬を優しくなでる。そんなエリスの背中をヴリトラ達は目を丸くしながら見ていた。


(・・・何この人?メンドクセェ~~!)


 固いのは嫌いだが軽すぎるのも嫌い、いまいち分かり難い性格の王女にヴリトラは心の中で叫ぶ。ラピュスや他の者達も呆然とエリスを見つめていた。

 エルフと同盟を結ぶ為に第二王女のエリスと共にダベルトの森へ向かう事になったヴリトラ達。一年前に出会ったジーニアスとの再会、エリスとの出会い、色んな気持ちが入り交じりながらヴリトラ達はダベルトの森へ向けて出発するのだった。


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