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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十六章~静かな森の妖精達~
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第二百七十話  緊張状態の中の戦い


 静寂に包まれた夜。雲一つ無く、無数の星と満月が浮かび、月明りだけが広い大地を照らす。此処はレヴァート王国の南東部で村や町などは殆どない森や平原が広がるだけの場所だった。そんな人気の無い南東部にある森の中を進む十数人に人影がある。

 森を進む十数人の人影。その全員がスケールアーマーを身に纏い、頭にはサーブレアを被っている。そして彼等の手には槍とタワーシールドが握られ、タワーシールドには大きくコラール帝国の紋章が描かれてあった。そう、彼等はコラール帝国の兵士達。レヴァート王国への進軍の為に送り込まれた先遣隊、その中の偵察隊なのだ。

 コラール兵達は薄暗く静かな森を固まりながら静かに進んでいく。彼等の顔は鋭く、まるで敵の襲撃を警戒している様だった。


「・・・おい、本当にこの先で間違いないのか?」


 コラール兵の一人が隣を歩く別の兵士に尋ねると問いかけられた兵士は前を向きながら頷く。


「ああ、間違いねぇよ。情報ではこの森を抜けた先にレヴァート王国の部隊の駐留してるって話だ。しかもソイツ等は夕方頃にテントを張ったばかりでまだ周囲を殆ど調べてないらしい」

「つまり、俺達が近くにいる事も知らないって事かよ?」

「そういう事だ。奴等が俺達の事に気付く前に敵の戦力を調べて拠点に持ち替える。そしてもしも俺達だけで片付けられる戦力だったら・・・」

「・・・俺達が奴等を始末して手柄を立てる事ができる?」

「そう言う事だ。ヒヒヒヒッ!」


 兵士の一人が楽しそうに笑い、それを見た別の兵士も同じ様に楽しそうな笑みを浮かべる。勿論、周囲にいる大勢の兵士達も同じ反応を見せた。自分達の手柄の事しか頭にない小者の考え方と言える。

 気配を消しながら森の出口へ向かって進んでいく十数人の兵士達。しばらく進むと森の出口が見え、兵士達はより強く警戒して進んでいく。そんな中、先頭を歩く兵士の足元で何かが一瞬光る。だが兵士はその事に気付かずに出口へと向かっていった。兵士達が森を抜けると遠くに無数のテントが張られているのを見つける。レヴァート王国軍が駐留している拠点だった。それを見た兵士達は目を大きく見開く。


「お、おい、あれ・・・」

「ああぁ、間違いねぇ。この周辺を調査しに来たレヴァート王国の部隊だ」


 予想通りレヴァート王国軍の部隊が駐留していた事に兵士達は少し嬉しそうな声で話し合う。もしレヴァート王国の部隊が彼等だけで倒せるほどの戦力ならばすぐに夜襲を仕掛け壊滅させてしまえば自分達の手柄となる。その事を考えると自然と笑みを浮かべてしまった。


「それで、まずはどうするんだ?」

「とりあえず、もう少し調べようぜ。敵の戦力がこっちよりも上だったら返り討ちに遭うのが落ちだからな」

「確かにな。まず敵の戦力を調べてからどうするか決めよう」

「よし!もう少し近づくぞ」


 コラール兵達はもっと近くでレヴァートの部隊を調べる為に茂みに身を隠しながら匍匐前進を始める。槍やタワーシールドを持っているせいで動きづらいが見つからるよりはずっとマシだと考えたのかそのまま前進した。

 十数人のコラール兵がゆっくりと隠れながら近づいていく。彼等とレヴァート王国の拠点までの距離は約500m、拠点の周りにはいくつもの松明があり、その近くに数人のレヴァート兵の姿がある。それを茂みに隠れながら確認するコラール兵達は一旦匍匐前進をやめた。


「敵は此処から確認できるだけでも十人前後、装備は槍と腰の剣だけか・・・」

「まだ奥の方に敵がいると思うか?」

「ああ・・・此処はレヴァートの領内だが、この南東部には奴等も最近まで調べていなかったって話だ。ところが帝国おれたちと戦争する事が決まってからは少しでも使える領土を増やそうとしたのかこの辺りに調査隊を送るようになったらしい」

「それで奴等が此処に・・・」

「まだ奴等が手を出していない土地だ。何か遭った時の事を考えてかなりの人数を送ったに違いない。少なくともあの拠点には二十人近くの人数がいるはずだ」

「二十人!?俺達よりも多いじゃねぇか・・・」

「だな・・・こりゃあ俺達だけで全滅させるのは無理だな。一旦戻って本隊と合流した方がいいな」

「チッ、折角手柄を得るチャンスだったのによ・・・」


 コラール兵の一人が悔しそうな顔を見せる中、コラール軍の偵察隊は気付かれないように匍匐をしながら森へ戻ろうとする。すると、突然空が明るくなり、それに気づいたコラール兵達はフッと振り返り空を見上げた。空には何やらオレンジ色の光の玉が浮いており、周囲を明るくしている。


「な、何だよこの明るさ!?」

「あの光の玉がこんなに明るくしてるのか!?」


 光の玉を見上げながら騒ぎ出すコラール兵達は驚きのあまり立ち上がる。

 実は光の玉の正体は照明弾だったのだ。夜間などに発行する物体を空に向かって打ち上げ、周囲の視界を確保する為の道具。それはファムステミリアには存在しない物だった。

 コラール兵達が驚いていると、周囲の茂みが揺れだし、コラール兵達を囲むように茂みから剣を持った大勢のレヴァート兵達が現れた。


「な、何ぃ!?」

「ど、どうしてレヴァート兵が!?」


 突然の敵の出現にコラール兵達は驚き慌てて槍とタワーシールドを構える。コラール兵の数が十数人に対しレヴァート兵は二十人近くいる。コラール兵全員を取り囲めるほどの人数にコラール兵達は驚きのあまり固まってしまう。


「何で俺達が取り囲まれている!・・・と言うよりもどうして俺達が此処にいる事が分かったんだ!?」


 匍匐前進をしながら近づいた為、敵に見つかるはずのない自分達が見つかり、敵に囲まれている事が信じられないコラール兵は声を上げる。するとレヴァート軍の拠点の方から三人の人影が歩いてくるのが見え、コラール兵達はその人影の方を向く。それは七竜将のメンバーであるヴリトラ、ジャバウォック、ファフニールが自分達の武器を持って歩いてくる姿だった。

 ヴリトラ達がコラール兵を取り囲むレヴァート兵の近くまでやって来るとヴリトラは森羅を持つ右腕を軽く回しながら疲れた様な顔を見せる。


「やっぱり森の方から来てたか・・・」

「森に仕掛けておいたセンサーに反応があったからもしかしてと思ったが、本当に敵が来てたとは思わなかったぜ」

「でもよかったよね?念の為に森の入口近くセンサーを設置しておいて?」

「ああ、そうだな」


 笑顔のファフニールを見てジャバウォックは苦笑いを浮かべながら頷く。実はコラール兵達が森の出口へ向かう時に彼等の足元で光った物は七竜将が仕掛けておいたセンサーだったのだ。コラール兵達の赤外線をキャッチし拠点にいるヴリトラ達に知らせる様になっていた。

 センサーがコラール兵達をキャッチした瞬間、ヴリトラ達の所で警報が鳴り、それを聞いたヴリトラ達は急ぎ拠点内の兵士達に何者かが接近している事を知らせ、拠点の周りにある茂みに潜ませておいた。そして周辺を確認する為に照明弾を上げた直後、コラール兵達が茂みから姿を現し、レヴァート兵達は素早く彼等を取り囲んだという訳だ。

 レヴァート兵達に囲まれているコラール兵達を見たヴリトラは耳につけている小型通信機のスイッチを入れて誰かに連絡を入れ始める。しばらくすると誰かが応答しヴリトラはコラール兵達を警戒しながら口を動かした。


「こちらヴリトラ。オロチ、聞こえるか?」

「聞こえている・・・」

「やっぱり敵は森の方から来た。だけど数がたったの十数人しかいない。交戦国の領内に入るには数が少なすぎる」

「先遣隊か・・・?」

「それでももう少し人数がいてもおかしくない。しかも部隊の全員が普通の兵士だ。騎士なんかは一人もいない」

「恐らく、コイツ等は先遣隊の中の偵察部隊ってところだろうな」


 ヴリトラとオロチの通信を聞いていたジャバウォックが小型通信機を使い、会話に割り込み様な形で自分の考えを話す。それを聞いたヴリトラは隣に立っているジャバウォックの方を向き、オロチも小型通信機から聞こえてくるジャバウォックの声を聞いて考え込んだ。


「ヴリトラ、もしかするとこの近くにコイツ等の仲間、つまり敵の本隊がいるかもしれないぞ?」

「敵の本隊が?」

「ああ、多分コイツ等が出て来たあの森の向こう側、もしくは森の中だろうな」

「う~む・・・」


 ジャバウォックの考えを聞いたヴリトラは難しい顔をしながら動けなくなっているコラール軍の偵察隊を見つめる。

 コラール兵達は自分達はこれからどうなるのか不安そうな顔で周りのレヴァート兵達を見ており、そんなコラール兵達をレヴァート兵達は警戒し続けた。


「・・・オロチ、、ワリィけどちょっと森の反対側の様子を見てきてくれないか?」

「ん・・・?」


 コラール兵達を見てしばらく考え込んでヴリトラは小型通信機の向こう側にいるオロチに森の反対側を見てくるよう頼んだ。それを聞いたオロチは若干低い声を出して確認する様に声を出す。


「森の反対側にか・・・?」

「ああ、コイツ等が俺達の様子を確認した後に本隊と合流して夜襲を仕掛けてくるつもりだったのなら、夜明け前に本隊と合流してこっちに戻って来る必要がある。つまり敵の仲間は森の中、もしくは周辺に拠点を作って待機している可能性が高い。空を飛んで上から敵の位置を調べてくれ」

「成る程な。了解だ、行ってくる・・・」


 オロチはそう言って通信を切る。オロチが通信を切るとヴリトラとジャバウォックも小型通信機の電源を切った。その直後、レヴァート軍の拠点の方から機械鎧のジェットブースターを使って森の方へ飛んでいくオロチの姿がヴリトラ達の目に飛び込む。

 ヴリトラ達はオロチがコラール軍の拠点を探しに向かったのを確認すると取り囲まれて動けなくなっている偵察部隊をチラッと見てゆっくりと彼等に近づいていく。コラール兵達は近づいてくる七竜将のメンバーを見て怯えた様な様子で警戒する。


「な、何だテメェ等は!?」

「も、もしかしてコイツ等、七竜将なんじゃないのか・・・?」

「七竜将!?ブラッド・レクイエムと同じ鉄の体と未知の武器を持つって言われている傭兵達の?」


 コラール兵達は目の前に今コラール帝国で話題になっている七竜将がいる事に更なる驚きを感じ愕然とする。僅か七人でブラッド・レクイエム社の部隊を何度も倒してきた最強の傭兵部隊を前に彼等は完全に戦意を失ってしまう。

 そんな彼等にヴリトラが近づき、近くにいる一人のコラール兵に森羅の切っ先を向ける。向けられった切っ先を見てコラール兵はビクッと驚き固まってしまう。そんなコラール兵をヴリトラは目を細くしながら見ていた。


「お前等、コラール帝国の先遣隊なんだろう?」

「え、そ、それは・・・」

「正直に答えてくれ?俺達は情報を聞き出す為に敵兵や捕虜を痛い目に遭わせるって事はあまり好きじゃないんだ」

「へ・・・へえぇ!拷問をするのが嫌いってか?だったら俺達は何も喋らねぇぞ!情報を聞き出したかったら拷問するしかねぇよ!」


 切っ先を向けられているコラール兵とは別のコラール兵が挑発するような態度を取った。しかし額には汗が流れており、強がっているのがハッキリと分かる。

 そんなコラール兵を見たヴリトラは呆れるような顔で溜め息をつく。するとヴリトラはチラッとジャバウォックの方を見る。するとジャバウォックは小さく頷き、近くにある少し大きめな岩に向かって歩き出す。岩の前まで来ると右手に持っているデュランダルを地面に刺し、空いた右手で拳を作ると目の前の岩にパンチを打ち込む。するとパンチの命中した箇所から罅が生じ岩全体に広がっていく。そして次の瞬間、岩は大きな音を立てて粉々に砕け散った。


「「「「「!!」」」」」


 岩が粉々になった光景を見てコラール兵達は目を丸くして固まる。

 ジャバウォックはパンパンと手を払い手に付いている砂埃を払い落す。それを見たヴリトラはニッと笑いながらコラール兵の方を向いた。


「さて、どうする?投降するか?」

「・・・します」


 さっきまで強気な態度を取っていたコラール兵もジャバウォックのパワーを目にして逆らう気が失せたのか潔く投降する。勿論他のコラール兵達も同じだった。

 コラール兵達が武器を捨てて両膝を付き両手を後頭部につけて投降するとヴリトラ達の小型無線機からコール音が鳴り、ヴリトラ達は素早く応答した。


「こちらオロチ。聞こえるか・・・?」

「ああ、聞こえてるよ。たった今コラール軍の兵士達を投降させたところだ。そっちはどうだ?」

「お前の予想通りだ。確かに森から300mほど離れた所に無数のテントが見える。恐らくコラール軍の拠点だろう・・・」


 森の真上から空を飛んで飛んで来た方角と正反対の方を単眼鏡で確認するオロチ。彼女に見た先には確かにいくつものテントとそれを照らすように沢山の松明な立てられている。そしてテントの周辺には見張りのコラール兵が大勢おり周りを警戒していた。オロチはその様子を無表情で観察しながらヴリトラ達に伝える。


「数はざっと二十人と言ったところだ。中に騎士の姿も何人か見える・・・」

「やっぱりな。先遣隊と言っても普通の兵士だけで編成された部隊を敵地に送り込む事は無いだろうから騎士がいるとは思ってたよ・・・」

「どうする?朝になってから攻撃を仕掛けるか・・・?」

「いや、それだと偵察隊が戻らない事から俺達に気付かれたと考えて移動するかもしれない。そうなったら色々と面倒だ。夜明け前に一気に叩く!」

「という事は、このまま敵拠点に夜襲を仕掛けるのだな・・・?」

「ああ、今度はこっちが攻める番だ!」


 このままコラール軍を野放しにしておく訳にはいかないと考えたヴリトラはこのまま敵拠点への攻撃を提案する。それを隣で聞いていたジャバウォックはヴリトラの敵を警戒せずに奇襲を仕掛けるというハチャメチャな作戦に少し呆れた様な顔を見せる。だが、コラール軍が偵察隊が捕まったことに気付き、体勢を立て直す前に攻撃を仕掛けた方がいいという作戦には賛成しているのか反対すること無く黙っていた。ファフニールはどちらでも構わないのかヴリトラの方を見ながら彼とオロチの会話に聞いている。


「分かった。私は先に奇襲を仕掛けても構わないのか・・・?」

「いや、念の為に俺達がそっちに行くまで森の近くで待機しててくれ。すぐに行く」

「了解だ・・・」

(敵を警戒しているのかしていないのか、時々ヴリトラの考えている事が分からなくなる時があるぜ・・・)


 ジャバウォックは心の中でそう呟きながらヴリトラの見る。ヴリトラは通信を切ると投降したコラール兵達を取り囲んでいるレヴァート兵達の方を向いた。

 

「俺達は七竜将はこのまま森の向こう側にいる敵拠点の奇襲に向かう。アンタ達はコイツ等を連れて拠点で待機しててくれ」

「ああ、任せろ」

「くれぐれも逃がさないようにな?」

「分かってる。そんなヘマはしねぇ」

「それじゃあ、頼んだぜ?」


 ヴリトラはレヴァート兵にコラール兵と拠点の防衛を任せると走って森へ入っていく。ジャバウォックとファフニールもその後を追い、残されたレヴァート兵達は森へ入って行ったヴリトラ達を見つめている。


「大した連中だな、七竜将は」

「ああ、コラール帝国との戦争が始まってからは色んな所に派遣されて敵を倒したりしてるらしいぞ?」

「まさに、この国を守る神の使いだな・・・」

「神の使い?」

「陛下や元老院の方々が彼等をそんな風に言ってるんだよ」

「神の使い、ねぇ・・・」


 レヴァート兵達は人々の七竜将に対する評価を聞いては関心や驚きの表情を浮かべる。それから彼等はヴリトラの指示通り投降したコラール兵達を拠点へと連れていき、ヴリトラ達が戻るまでの間、拠点の防衛に就いたのだった。

 それからヴリトラ達は森を抜けて待機していたオロチと合流。四人だけで大勢のコラール兵がいる敵拠点に夜襲を仕掛け、僅か十五分で拠点を制圧したのだった。


――――――


 それから二日後、ヴリトラ達は調査隊と共に南東部からティムタームへ戻り、ガバディアに調査結果とコラール帝国の捕虜の事を伝える。あの後、ヴリトラ達は拠点にいた敵兵に投降するよう要求したが、敵はそれに応じす攻撃を仕掛けて来た。仕方なくヴリトラ達は攻撃して来た敵を返り討ちにし、敵拠点を制圧したのだ。結局捕虜になったのは自分達の拠点を偵察しに来た偵察隊に兵士のみだった。

 話を聞いたガバディアは調査結果の書かれた羊皮紙と捕虜を受け取り、仕事を終えたヴリトラ達はズィーベン・ドラゴンへと帰宅する。四人がズィーベン・ドラゴンへ戻ると中で武器のメンテナンスや依頼された仕事のチェックなどをしているリンドブルム、ジルニトラ、ニーズヘッグの姿があり、三人は帰って来た四人を見ると簡単な挨拶をした。


「おかえりなさい。どうだった?」

「ああ、無事に終わったよ」

「仕事中にトラブルとかは無かった?」

「大丈夫だ。ただ南東部を調査している時にコラール帝国の先遣隊と遭遇したよ」

「えっ、本当?・・・それで?」

「別に何もない。俺達の拠点を偵察に来た十数人の兵士を捕まえて、遠くにある敵拠点を制圧しただけだ」

「そう、それはご苦労だったね?」


 ヴリトラの話を聞いてリンドブルムは武器のメンテナンスをしながら苦笑いを浮かべた。周りにいるジルニトラやニーズヘッグも「ご苦労様」と言いたげな顔で疲れた顔のヴリトラを見ている。


「しっかし、最近はこんな仕事が多いよなぁ?」

「仕方ないでしょう?戦争が始まったばかりだし、少しでも使える領土を増やす為にもあたし達に未調査の領土の調査を頼んでくるのよ。あと敵に情報を持って帰らせない為にもレヴァート領内に侵入した敵は倒すか捕まえるかしないといけない、これも大切な仕事よ?」


 めんどくさそうな顔で背筋を伸ばすジャバウォックにジルニトラは持っている紙を目の前のテーブルに置きながら言う。それを聞いたヴリトラやリンドブルム、ファフニールもめんどくさそうな顔で溜め息をついた。

 ジークフリートが宣戦布告をしてから今日で一週間が経ち、レヴァート王国中では戦争に備えての準備などで大騒ぎになっていた。王国はティムターム以外の町や村に騎士団を送り込んで防衛させ、傭兵組合にも救援の要請をするなどしている。傭兵達は仕事が増え、金銭を得られる事から喜んで仕事を引き受けている。七竜将もレヴァート王国の為に進んで依頼を引き受けていた。

 七竜将に依頼される仕事はレヴァート王国国境を警備している防衛隊の救援、未調査の土地の調査、そして領内に侵入して来たコラール軍の排除といった仕事が多かった。ほぼ毎日王国からズィーベン・ドラゴンに依頼が来る為、七竜将は毎日大忙しだ。


「そうは言うけどよぉ?ここんとこ似たような仕事が多いぜ?今回の調査依頼、四日前には国境防衛隊の援護、レヴァート領内に侵入しようとして敵の排除、こんな仕事ばかりじゃ他の仕事が飛び込んできた時に感覚が鈍ってしっかり働けねぇよ」

「確かにそうだな・・・たまには別の仕事もしておかねぇと・・・」


 ジャバウォックの意見に同意したヴリトラは頭を掻きながら近くに椅子に座りながら言う。するとジルニトラは溜め息をつきながら呆れ顔でヴリトラとジャバウォックを見る。


「そんな事を言ってられる状況じゃないでしょう?戦争中なんだからもう少ししっかりしてよねぇ?」

「そうだぞ。それにアレクシアさん達が来るまでは俺達だけで何とかしようって言っただろう。それまでは文句を言わずにしっかりと働け!」

「「へぇ~い・・・」」


 ジルニトラに続いてニーズヘッグも二人を注意し、ヴリトラとジャバウォックは力の入っていない声で返事をする。そんな二人をリンドブルムは苦笑いを見つめていた。

 ヴリトラ達がそんな話をしていると誰かがズィーベン・ドラゴンの玄関をノックする音が聞こえ、ヴリトラ達は一斉に玄関を見る。そこには空いている玄関を軽くノックするラピュスの姿があり、その後ろのはラランの姿があった。


「ラピュス、ララン」

「やっと気づいたか?さっきからずっといたのに全く気付かなかったのか?」

「いやぁ~、ジルのお説教を聞いててな」

「お前とジャバウォックが同じ依頼ばかりだと文句を言ってたのがいけないのだろう?」

「あれ?もしかして最初から聞いてた?」

「ああ・・・」


 ラピュスは目を閉じて呆れるような態度を見せる。そんなラピュスを見てヴリトラとジャバウォックはごまかすような苦笑いをした。


「ハァ・・・そんなお前達にいい知らせだ」

「いい知らせ?」

「新しい任務が入った。それも調査や救援の様な今までとは違う依頼だ」

「どんな依頼なの?」

「それは姫様がお話しされるからその時に聞いてくれ。もうすぐ来られる」


 ラピュスはズィーベン・ドラゴンの外を見ながらもうすぐやって来るパティーラムを待つ。ヴリトラ達もパティーラムから下される新しい任務と聞き表情を鋭くする。ヴリトラの顔には先程までのめんどくさがっていた表情は残っていなかった。

 コラール帝国との戦争が始まり、両国の睨み合いが続く。そんな中で七竜将に新たな依頼が来る。その内容とは一体何なのか・・・。


本作から投稿再開します。これから一章が終わるとまたしばらく休止させていただくかもしれませんが、その時はよろしくお願いします。

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