第二百六十九話 開戦の序曲 侵入者を討て!
ブラッド・レクイエム社の空中部隊がティムタームに侵入するのと同時にジークフリートとブリュンヒルデが逃走。ヴリトラ達は二人の後を追うよりも町に侵入したブラッド・レクイエム社の排除を優先し、それぞれ行動を開始する。
バルコニーで作戦を立てた後、ヴリトラ達は三つに分かれた。ヴリトラ、ラピュス、ジルニトラは謁見の間に戻ってヴァルボルト達に状況を報告し、そのまま彼等の護衛に付く。リンドブルム、ララン、オロチはバルコニーに残り、空中部隊を位置を通信で報告、敵の動き次第で攻撃。そしてジャバウォック、ニーズヘッグ、ファフニールは城の中へ入り、敵が侵入すればそこへ向かい敵の対処をする。三つのチームがそれぞれの役目を果たす為に一斉に動いた。
「急ぐぞ、二人とも!」
「ま、待ってよヴリトラ!」
全速力で廊下を走るヴリトラとその後を追うラピュスとジルニトラ。ヴリトラは敵は真っ先にヴァルボルトを狙うに違いないと考え、急ぎ謁見の間に向かった。もしここで彼が殺されてしまったら戦争が始まる前にレヴァート王国はコラール帝国に敗北する事になり、更に王国中が大混乱となってしまう。それだけは何としても避けないといけない。三人は急ぎ謁見の間へ向かう。
バルコニーを出てからしばらくし、三人は謁見の間へ戻って来た。中に入るとガバディアや衛兵達が戸惑いを見せる貴族達を落ち着かせている姿があり、ヴァルボルトやパティーラム達もザクセン達、黄金近衛隊の騎士達に囲うように守られている。その中にはアリサの姿もあり、ヴリトラ達は急ぎヴァルボルト達の元へ向かう。
「アリサ!」
「あっ、隊長!」
「大丈夫か?何か異常は?」
「今のところは何ともありません」
「そうか・・・」
謁見の間ではまだ何も起きていないと知ったラピュスはホッと胸をなでおろす。だがまだ安心はできない。外にブラッド・レクイエム社の空中部隊を倒さない限りは本当の意味で安心はできない。ヴリトラは状況を知らせる為に近衛騎士達に囲まれているヴァルボルトの下へ向かった。
「陛下!」
「おおぁ、ヴリトラ」
「・・・すみません、ジークフリート達には逃げられました」
「・・・そうか。だが、この状況では仕方がない。あまり気にするな」
「ありがとうございます・・・」
「それより、状況はどうなっておる?」
「ハイ、城の外に数人の機械鎧兵士とアパッチの姿があります。恐らく、アパッチで城を攻撃しながら機械鎧兵士を城へ侵入させるつもりでしょう」
「ど、どうすればよい?儂等は奴等が使う兵器にはまるで無知だ。ヴリトラ、どうかどうすればよいか指示を出してくれ」
「分かりました。まずは・・・」
ヴリトラが最初に何をすれば良いのか説明しようとした時、外から再び爆発音が聞こえて来た。どうやらまたアパッチが城に攻撃を仕掛けた様だ。爆発音を聞いて王族や貴族達が一斉に驚く。衛兵達がなんとか貴族達を落ち着かせようする。すると、突然謁見の間の上部にある大きな窓が割れて何者かが謁見の間に侵入してきた。なんとそれはバルコニーで確認した上級BL兵だった。
突然に侵入者に謁見の間にいる者達は一斉に驚き、ガバディア達騎士は腰に納めてある騎士剣を抜く。衛兵達も一斉に槍を構えて上級BL兵達に槍先を向ける。人数は四人と騎士達と比べると明らかに数は少ないが、ヴリトラ達は衛兵達では勝ち目はないと直感していた。
「お前達、気を付けろ!?コイツ等は普通ではない。甘く見るんじゃないぞっ!」
機械鎧兵士が普通の人間ではな事を知っているガバディアは衛兵達に忠告をする。だがその直後、上級BL兵達は一斉に腰に納めてある超振動マチェットや持っている軽機関銃の「H&K MG4」を構える。そして次の瞬間、MG4を持っている上級BL兵は周りにいる衛兵に向かって乱射した。
謁見の間に銃声が響くのと同時に衛兵達の体が蜂の巣にされていく。その光景に貴族達は王族を残し、悲鳴を上げながら謁見の間から逃げ出そうとする。だが超振動マチェットを持った二人の上級BL兵が逃がすまいと素早く逃げる貴族達の前に回り込んで超振動マチェットを貴族達を斬り捨てていく。
逃げ道すらも塞がれた貴族達は更に大きな悲鳴を上げながら後ろへ逃げていき上級BL兵はそれを追う。その時、貴族達と上級BL兵の間にラピュスが入り上級BL兵の前に立ち塞がる。いきなり現れたラピュスに上級BL兵達は驚き超振動マチェットを構えた。
「・・・これ以上、この国で好き勝手はさせない!」
二人の上級BL兵を睨みながらラピュスはアゾットを両手で構える。上級BL兵達はラピュスの右腕を見て彼女も自分達と同じ機械鎧兵士だと知ると一方後ろに下がって超振動マチェットを構え直す。
双方は相手を睨みながら自分達の武器をしっかりと握って相手の出方を待つ。ラピュスの後ろで怯えている貴族達はただ黙って戦いを見ていた。しばらくすると、上級BL兵達が同時に床を蹴りラピュスに向かって跳ぶ。二人同時に超振動マチェットを振り下ろしてラピュスに攻撃をする。ラピュスは相手の振り下ろしをアゾットを横にして止め、刃が触れ合う箇所から火花と高い金属音が広がる。
「・・・やはり上級の機械鎧兵士二人の攻撃を同時に止めるのはキツイな・・・」
上級BL兵達には聞こえないくらい小さな声で呟くラピュス。そのままでは危ないのでラピュスは体制を直す為にアゾットで二つの超振動マチェットを払うと大きく右へ跳んだ。上級BL兵達も彼女の後を追うように跳んで追撃を仕掛ける。ラピュスは上級BL兵達の連続攻撃をアゾットで防ぐ。一見ラピュスが押されている様にも見えるが、ラピュスは余裕の表情を浮かべている。
やがて上級BL兵達の攻撃が一瞬止まるとラピュスはアゾットを横に振り反撃する。上級BL兵達は超振動マチェットでその横切りを防ぐと大きく後ろへ跳ぶ。するとラピュスはアゾットを左手に持ち替え、右手の掌からバーナーキャノンのノズルを出した。だがラピュスはノズルを上級BL兵達には向けず、ノズルから小さな炎を出しただけで攻撃しない。
ラピュスはアゾットを炎にゆっくりと近づける。すると炎はアゾットの刃に吸い寄せられるように動き、あっという間にアゾットの刀身を炎で包み込んだ。実はラピュスは今、騎士として本来持っていた気の力を使っているのだ。彼女はバーナーキャノンの炎を調整し、それを使っていつでも気の力をつけるようになっていた。アゾットが炎を纏うとラピュスはノズルをしまい再びアゾットを右手に持ち替える。そして両手でしっかりと握ると遠くにいる上級BL兵達を睨んだ。
「このバーナーキャノンのおかげで私は火が手元に無くても自由に気の力を使える。もう、お前達ブラッド・レクイエムには負けない!」
そう言い放つとラピュスは上級BL兵達に向かって勢いよく跳んでいく。そして身構える上級BL兵二人に向かって炎を纏ったアゾットで袈裟切りを放った。
「業火飛竜斬!」
ラピュスの強烈な斬撃が上級BL兵達に放たれた。上級BL兵の一人が超振動マチェットでその斬撃を止めようとするも、予想外の重さと炎の熱で上手く止める事ができず、力に負けてラピュスの斬撃を体に受ける。斬撃と炎の同時攻撃に上級BL兵は持っていた超振動マチェットを落とし、その場に仰向けに倒れた。
仲間がやられたのを見たもう一人の上級BL兵は一瞬驚くもすぐに構え直してラピュスに反撃の袈裟切りを放つ。だがラピュスはその斬撃をアゾットで簡単に止めると姿勢を低くして上級BL兵の胴体に横切りを放った。上級BL兵は予想外のラピュスの速さに反応すらできずに斬られる。上級BL兵はゆっくりと横に倒れて動かなくなり、それを確認したラピュスはアゾットを軽く振って刀身の炎を掻き消す。その光景を見ていた貴族達は驚きのあまり呆然とラピュスの姿を見つめていた。
ラピュスが一人で二人の上級BL兵を倒す姿を見た残る二人の上級BL兵達は焦り出したのか玉座で守られているヴァルボルトに向かってMG4の引き金を引く。上級BL兵の発砲を見たヴリトラは咄嗟にヴァルボルトの前に立ち森羅で全ての弾丸を弾き落とす。銃撃が止むとヴリトラは上級BL兵二人をきっと睨み付ける。
「・・・セコイ手を使うんじゃねぇ!」
そう言い放ったヴリトラは上級BL兵達に向かって走りだす。二人の上級BL兵はヴリトラに向かって同時にMG4を撃つ。ヴリトラは飛んで来る無数の弾丸を素早く森羅で弾いていく。自分の後ろにはヴァルボルト達がいる為、一発でも弾き損ねれば流れ弾がヴァルボルト達に当たってしまう為、全て防がなければならない。だがヴリトラはそんなプレシャーなどは一切感じている様子は無く、鋭い表情のまま弾丸を弾いていった。
上級BL兵達の目の前まで来たヴリトラは森羅で一人の上級BL兵に袈裟切りを放つ。だが上級BL兵は後ろに跳んでその斬撃を回避した。するとヴリトラは手首を軽く捻り、隣にいるもう一人の上級BL兵を左下から右上へ向かって振り上げて攻撃する。もう一人の上級BL兵は持っていたMG4で森羅を止めようとする。だが超振動刀である森羅の前では軽機関銃など木の棒に等しく、銃身から真っ二つに切れてしまう。
「!」
驚いた上級BL兵は使い物にならなくなったMG4を捨てると後ろに跳び距離を取る。そして腰に納めてある予備のベレッタ90を抜き、狙いをヴリトラにつけようとした。だが次の瞬間、上級BL兵の背後から冷たい視線を感じ取り上級BL兵は素早く振り返る。そこにはサクリファイスの銃口を自分の顔に突き付けているジルニトラの姿があった。
「・・・避けてみな!」
ジルニトラはそう言うと引き金を引き、上級BL兵の頭を撃ち抜く。敵を倒したのを確認するとジルニトラは素早く残りに上級BL兵の方を向いてサクリファイスを構えた。残りの上級BL兵は一人となった事で更に焦り出し、自分を見ているジルニトラに向かってMG4を乱射する。ジルニトラは走り出し銃撃を回避すると素早く走る方向を変えて上級BL兵に向かっていく。迫って来るジルニトラを見た上級BL兵は近づけさせまいとMG4を発砲、ジルニトラはジグザグに動いて銃撃を回避しながら距離を縮めていき、上級BL兵の目の前まで来ると胴体に向かってサクリファイスを撃つ。無数の弾丸は上級BL兵の体を蜂の巣にし、あっという間に残りの上級BL兵を倒してしまった。
全ての敵を三分程度で倒してしまったヴリトラ達にヴァルボルトや貴族達は目を丸くする。ブラッド・レクイエム社の兵士をこうも容易く倒したことが信じられないようだ。その中でアリサだけはヴリトラ達の強さに目を輝かせている。
静まり返った謁見の間の中心で森羅を鞘に納めるヴリトラはヴァルボルトの下に駆け寄った。
「陛下、怪我はありませんか?」
「・・・あ、ああぁ。大丈夫だ」
「そうですか」
ヴァルボルトに怪我が無いのを知ってホッとするヴリトラ。やがてさっきまで黙っていた貴族達が現状を理解し、ざわめき始める。侵入者を意図も簡単に倒した七竜将と姫騎士に対しての喜びの声が謁見の間に広がった。
とりあえず謁見の間から脅威が去ったのを確認したヴリトラ達も少しだけ安心する。だが、まだ完全に脅威が去った訳ではない。ヴリトラ達はすぐに気を引き締め直す。
「陛下、まだこの城の周辺、もしくは城の中に敵がいる可能性があります。安全が確認されるまで此処にいる貴族は誰一人謁見の間から出さないでください」
「し、城の中に敵が侵入したのか!?」
「ええ、ですから今、他の七竜将のメンバーが城の中を調べています」
「・・・またこの謁見の間に敵が来る可能性も・・・?」
「ゼロとは言えません。ですからそれまでは俺達が此処に残り皆さんを守ります」
ヴリトラ達が謁見の間に残ると聞いてヴァルボルトはホッとする。彼は心の中で不安になっていた。王族を守る精鋭騎士達、黄金近衛隊でも機械鎧兵士には勝てないのではないかと。勿論、黄金近衛隊を信じていない訳ではない。ただ、未知の力を持つ敵の前では彼等の力も無に等しいと感じているのだ。
目を閉じて疲れた様な顔をしているヴァルボルトを見たヴリトラは謁見の間を見渡し、ゆっくりと口を開いた。
「・・・この世界の人達にとって、機械鎧兵士は未知で脅威の敵と言えるでしょう。ですが、この世界にも機械鎧兵士を倒す力を持つ騎士もいるんです。彼等がいれば俺達がいなくなったとしても大丈夫でしょうね」
「・・・!」
ヴリトラの言葉を聞きヴァルボルトは目を開いて彼の背中を見た。まるで自分の考えを見透かした様な言葉に驚いたのだ。
確かにこのレヴァート王国にはブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士を倒した騎士がいる。ラピュスにララン、そして黄金近衛隊のレレット。この国には七竜将の様に機械鎧兵士からこの国を守う事の出来る戦力がある。それはヴリトラにとっては共にブラッド・レクイエム社と戦う仲間がいるという心の支えであり喜びでもあったのだ。
ヴリトラ達が謁見の間で上級BL兵達を倒した頃、城の二階の廊下で四人の上級BL兵が暴れていた。四人の内、一人は超振動マチェット、一人はMG4、そして二人は超振動の野太刀を持っていた。廊下をゆっくりと歩く四人の上級BL兵が通って来た道には大勢の衛兵の死体が転がっている。皆、上級BL兵に挑み戦死した者達だ。
上級BL兵達の歩く先には五人の衛兵が槍を持って構えている。だがその顔には恐怖が見られ、手や足も震えている。無理もない、さっきまで大勢の仲間いたのにその殆どが目の前で殺されてしまったのだから、恐怖しない方がおかしい。
「お、おい・・・何なんだ、あの連中は・・・?」
「ほ、本当に人間かよ・・・」
ゆっくりと近づいてくる上級BL兵達を見て震える声で話す衛兵達。するとMG4を持った上級BL兵が衛兵達に狙いを付けて引き金を引こうとする。それを見た衛兵達は恐怖で固まり動けなくなり逃げる事も出来なくなった。恐怖に震えている衛兵達を狙い、上級BL兵が引き金を引こうとした時、背後から声が聞こえて来た。
「こりゃまた酷い有様だな」
「皆、一方的にやられてやがる」
「酷すぎるよ!」
聞こえてくるジャバウォック、ニーズヘッグ、ファフニールの声に四人の上級BL兵達は振り返る。そこには横一列に並び、デュランダル、アスカロン、ギガントパレードを握るジャバウォック達の姿があった。
突如現れたジャバウォック達に上級BL兵達は自分達の武器を構える。追いつめられていた衛兵達もジャバウォック達の姿を見て驚いていた。
「お、おい、アイツ等・・・」
「ああ、陛下やザクセン近衛長が仰っていた七竜将とか言う傭兵達だ」
「俺達を助けに来てくれたのか?」
「でもよぉ、アイツ等もコイツ等と同じ鉄の体を持ってる連中だぞ?信用できるのかよ・・・」
ジャバウォック達を見ながら衛兵達は小声で話をしている。ブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士に仲間を殺され、そこへ同じ機械鎧兵士の七竜将が現れたのだ。疑うのは無理もない。衛兵達は不安そうな顔でジャバウォック達を見ていた。
視線を衛兵達から七竜将に変えた上級BL兵達はそれぞれ武器を構えて戦闘態勢に入る。ジャバウォック達も同じように自分の武器を構えていつでも戦えるようにした。
「さて、敵は四人だが・・・どうする?」
「衛兵の人達もいるし、彼等を守りながら戦うのはちょっとしんどいかなぁ・・・」
「なら、最初に取る行動は決まってるな」
ニーズヘッグはそう言ってアスカロンを構えると上級BL兵達に向かって走り出す。走って来るニーズヘッグを見てMG4を持っている上級BL兵が彼の発砲する。ニーズヘッグは飛んで来る弾丸を全てアスカロンで弾き、上級BL兵達の目の前まで来るとアスカロンを右から横に振って攻撃した。四人の上級BL兵はニーズヘッグの水平切りをジャンプでかわし彼の背後に回り込むように着地する。だがそれこそがニーズヘッグの狙いだったのだ。
上級BL兵がニーズヘッグの背後に回り込んだ瞬間、ニーズヘッグは固まっている衛兵達の元へ行き彼等に背を向ける。先程のニーズヘッグの攻撃が上級BL兵達を衛兵達から離して彼等の安全を確保する事だったのだ。
「おい、アンタ等、動けるか?」
「え?・・・あ、ああぁ」
衛兵達は自分達に背を向けて守ってくれているニーズヘッグを見ながら返事をする。ニーズヘッグはアスカロンを構え直し、上級BL兵達を睨みながら話を続けた。
「コイツ等は俺達が相手をする。アンタ達は下がってろ」
「え?」
「アンタ達じゃコイツ等には勝てない。アンタ達自身もそれはよく分かってるはずだ」
「うっ・・・」
ニーズヘッグの言っている事に何も言い返せない衛兵達。確かに自分達では彼等に勝つ事は愚か、傷をつける事も出来ない。仲間達が敵の手に掛かり命を落とす光景を見た時から既に分かっていた事だ。衛兵達はゆっくりと後ろへ下がりニーズヘッグ達から距離を取った。
衛兵達が離れたのを確認するとニーズヘッグは上級BL兵達を見てアスカロンを強く握る。今、上級BL兵達はニーズヘッグ達に挟まれている形にある為、体勢を立て直すのは無理な状態だった。だがそれで彼等は慌てる様子も見せず、武器を構えていつでも攻撃できる状態を保っている。
「囲まれても動揺せずか、流石は上級の機械鎧兵士と言うべきだな」
「感心してどうするの?」
デュランダルを構えながら上級BL兵達を見て感心するジャバウォックを見上げながら言うファフニール。二人がそんな会話をしていると野太刀を持った二人の上級BL兵がジャバウォックとファフニールにいきなり斬りかかって来た。突然の攻撃に一瞬驚きの表情を浮かべる二人だったが、素早くデュランダルとギガントパレードで上級BL兵の斬撃を止める。火花と高い金属音が廊下に広がり、双方の間からピリピリとした緊張感が伝わって来た。
「話している最中に攻撃してくるとは、卑怯な連中だぜ」
「それじゃあ、そんな卑怯な人達には、お仕置きをしないとねっ!」
二人は力の入った声でそう言うと止めている野太刀を押し返すとジャバウォックとファフニールは巨大な武器を持った状態で素早く上級BL兵の側面へ回り込んで左右から上級BL兵を挟んだ。
上級BL兵達は自分達を挟むジャバウォックとファフニールに反撃しようと野太刀を大きく振り上げる。だがそれよりも早くジャバウォックとファフニールはデュランダルとギガントパレードを振り下ろし、上級BL兵達に渾身の一撃を与えた。
二人の上級BL兵はデュランダルで真っ二つに、ギガントパレードで頭部を殴打され俯せに倒れて動かなくなる。その光景を見て驚き、隙を見せている残り二人の上級BL兵にニーズヘッグが攻撃を仕掛けた。咄嗟にニーズヘッグの不意打ちに気付いた上級BL兵達は咄嗟に後ろへ跳ぶ。だがニーズヘッグはアスカロンを大きく横に振るのと同時にアスカロンの刀身を鞭状にして後ろへ跳んだ上級BL兵達に攻撃する。鞭状に変わったアスカロンをかわす事が出来ない上級BL兵達は胴体を斬られ、そのまま床に叩き付けられるように仰向けになって動かなくなった。
「フゥ、終わったか」
全ての上級BL兵を倒したニーズヘッグ達は武器を下す。その光景を離れた所で見ていた衛兵達は目を丸くしながらニーズヘッグ達を見ていた。
「ス、スゲェ・・・」
「あれが、七竜将の力かよ・・・」
自分達がまるで敵わなかった相手を一瞬で倒してしまった七竜将に驚きを隠せない衛兵達。この時の彼等には先程までの疑う気持ちは無くなり、七竜将がいればもう大丈夫だという考えだけが残っていた。その後、ニーズヘッグ達は衛兵達と共に他に城へ侵入した者がいないかを調べる為に城の中を巡回するのだった。
そして、バルコニーに残ったリンドブル、ララン、オロチの三人は城の周りを飛び回っているアパッチと残り二人の上級BL兵達の相手をしていた。アパッチはリンドブルム達の存在に気付いており、彼等がいるバルコニーの周りを飛び回っている。そして隙があれば容赦なく機銃で攻撃を仕掛けて来た。二人の上級BL兵も空から手に持っているMG4でリンドブルム達を狙っている。
リンドブルム達は部屋の中に隠れており、アパッチや上級BL兵達に攻撃をするチャンスを伺っている。リンドブルムとラランは弾痕だらけのソファーの陰に隠れ、オロチは斬月を握りながらソファーから少し離れた所にあるボロボロの机の陰に隠れていた。先程まで此処で激しい戦闘が行われていた事を家具が物語っている。
「これはちょっと厄介かな」
「先にアパッチを落とさないと私達に勝機は無い・・・」
「・・・どうやって落とすの?」
ソファーの陰にもたれながらSR9を抱えるラランがオロチに尋ねる。オロチは机の陰から顔を出してバルコニーの近くを飛んでいるアパッチをジッと見つめながらどう攻めるか考えた。アパッチの周りには上級BL兵が足のジェットブースターで飛んでおり、迂闊に飛び出せばMG4を乱射される。そうならない為にはまず上級BL兵を倒す必要があった。
しばらく黙って作戦を考えるオロチ。やがて作戦を思いついたのかリンドブルムとラランの方を向き作戦を伝える。
「私が外に出て敵の注意を引く。お前達はその隙に機械鎧兵士達を撃て。その二人を倒した後にアパッチに集中攻撃を仕掛けて一気に終わらせるぞ・・・」
「単純な作戦だね?」
「単純だが一番手っ取り早く片を付ける事が出来る。あまり時間を掛けるとアイツ等が他を攻撃する可能性があるからな・・・」
「確かにそうだね。それならさっさと片づけて安全を確保しちゃおう」
「・・・分かった」
「私が出てから十秒後に出ろ。その後に機械鎧兵士達を狙い撃て・・・」
オロチの指示を聞き、リンドブルムとラランは頷く。そして数秒後、オロチは机の陰から飛び出してバルコニーに出るとジェットブースターを点火し空に飛びあがる。そしてわざと目立つように飛び回り、アパッチと上級BL兵達の注意を引く。
アポパッチはオロチを見つけると機銃を乱射しオロチを攻撃する。上級BL兵達もMG4でオロチを攻撃するがオロチは銃撃の全てをかわしたり斬月で弾き落としたりなどし全弾を防いだ。銃撃を防ぐとオロチは上昇してアパッチと上級BL兵から離れていく。それを見た上級BL兵達はオロチを追うように上昇した。アパッチは上昇せずにその場でホバリングを続け、オロチが降りてくるのを待つ。
上昇したオロチが今度は急降下してバルコニーの方へ飛んでいく。上級BL兵達もその後を追いながらMG4で攻撃する。オロチは真横を通過する弾丸を見ながらジェットブースターの出力を上げて加速した。
バルコニーの数m前まで来るとオロチは素早く急上昇する。オロチを見た上級BL兵も急上昇しようとした、その時、バルコニーからライトソドムとSR9で自分達を狙っているリンドブルムとラランを見つける。
「よし、これなら!」
「・・・絶対に当たる」
バルコニーに向かって飛んで来る上級BL兵達を見て絶対に当たると確信するリンドブルムとラランは引き金を引いた。二つの銃から吐き出された弾丸は真っ直ぐ上級BL兵に向かって飛んでいき、彼等のフルフェイスマスクを貫通し額を撃ち抜く。撃たれた上級BL兵はそのままバルコニーに突っ込み、置かれてある家具にぶつかった。
アパッチの操縦席では操縦士が簡単に倒されてしまった上級BL兵達を見て驚き固まっている。そこへ斬月を持ったオロチがアパッチの真正面に現れた。アパッチはオロチを迎撃しようとするが近すぎて狙いが定まらず攻撃が出来ない。そんな何も出来ないアパッチにオロチの攻撃が炸裂する。
「落ちろ・・・!」
オロチは斬月をアパッチに向かって投げつける。回転する斬月はアパッチのプロペラの根元を切り、プロペラは竹トンボの様に上昇し、アパッチ本体は真っ逆さまに落下する。
アパッチはそのまま城の中心にある中庭に落下し大爆発を起こす。幸い中庭には衛兵などはおらず怪我人は出なかった。
中庭に落ちて炎上するアパッチを見下ろしていたオロチは無表情で戻って来た斬月をキャッチする。そしてバルコニーから自分を見て手を振るリンドブルムとラランを確認し軽く手を振って挨拶を返した。
「さて、ヴリトラ達と合流するか・・・・」
オロチはバルコニーへ戻り、リンドブルム達と合流すると謁見の間へと向かった。その途中でジャバウォック達とも合流し、謁見の間へと戻る。それからもう一度城中を調べ回って他にも敵が侵入していないかを調べたが、敵の姿は見当たらず、安全は確保されたのだった。
ジークフリートが残したブラッド・レクイエム社の空中部隊は七竜将達のおかげで全滅した。ヴァルボルトや貴族達は七竜将に心から感謝をし、改めて恩賞を与える事を決める。だが、ブラッド・レクイエム社とコラール帝国の宣戦布告があった直後なので恩賞は当分先になるとの事だが、ヴリトラ達はあまり気にしていないようだった。だがそれ以前に、遂にコラール帝国との戦争の突入してしまい、国中が大騒ぎになる。いよいよ七竜将とブラッド・レクイエム社、レヴァート王国とコラール帝国の対決が始まるのだった。
今作で十五章は終了です。しばらく投稿は休止させていただきます。次の投稿をどうか気長にお待ちください。




