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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第三章~戦場に流れる鎮魂曲(レクイエム)~
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第二十六話  開戦!トコトムト防衛戦

 ストラスタ公国軍の接近に気付いた七竜将と第三遊撃隊は敵軍を迎え撃つために村を出て村へ近づいてくる敵軍の方へ向かう。一部の戦力を村の防衛に残し、残った戦力を全て前線へ向かわせるヴリトラ達。彼等は国の為に、仲間の為にトコトムトの村を全力で守る事を胸に誓うのだった。

 ニーズヘッグとファフニール、一部の騎士達を村の防衛に残したヴリトラ達は敵軍がトコトムトの村に向かう時に必ず通る石橋へと向かう。村の入口前にに待機していたジャバウォック達とも合流してヴリトラ達は石橋のある方へ走り出す。


「よし、もう一度作戦を確認するぞ?」


 走りながらヴリトラは自分の後ろを走るラピュス達の方を向いて作戦内容を確認する。この時、ヴリトラ、ジャバウォック、ジルニトラの七竜将の三人は足で走っており、ラピュス達第三遊撃達の騎士隊は全員馬に乗って前線へ向かっていた。馬に乗っている自分達とほぼ同じ速さで走っている七竜を見てラピュス達は改めて七竜将が普通の人間とは違うと理解する。

 そんな事を気にもしないヴリトラはラピュス達をそれぞれ指を指しながら話しを進めていく。


「俺達七竜将が敵に攻撃を仕掛けて隙を作る、そこへラピュス達が一気に攻撃を仕掛けてくれ。怪我をした奴は後方にながらせろ。ジルニトラ、負傷者の手当ては頼むぞ」

「分かってるわよ。伊達に七竜将の衛生兵はやってないわ」


 ジルニトラは自分の前を走るヴリトラを見てウインクをしながら右手の親指を立てる。ジルニトラはこれまで多くの戦場で仲間の七竜将の傷を治療してきた、そして彼女自身の戦闘能力も高い。戦いを得意とする衛生兵、ある意味で彼女の様な存在ほど心強い者はない。


「よし、次に・・・」

「おい、ヴリトラ」

「ん?何だラピュス?」


 ヴリトラが説明をしていると、馬に乗っているラピュスが声を掛けてきた。呼ばれてラピュスの方を向くヴリトラは走りながら返事をする。


「お前達が先頭になって攻撃を仕掛け、その後に私達が隙を突くと言ったが、お前達は大丈夫なのか?」

「大丈夫って?」


 意味の分からない質問にヴリトラはラピュスの顔を見て訊き返す。ジャバウォックとジルニトラも同じようにラピュスの方を向いて不思議そうな顔を見せる。


「お前達が強いのは知っている。だが今度の相手は騎士団の者達だ、クレイジーファングの様な盗賊とは違い連携も取れているし数も多い。お前達の力と武器を使っても三人だけで先陣を切るのは危険だ」

「心配ねぇよ。言っただろう?この戦いで俺達の本当の力を見せるってな?」

「その力を使えば大丈夫だ」

「以前言ったでしょう?あたし達は七人で二個中隊の戦力を持ってるって」


 ヴリトラに続いてジャバウォックとジルニトラもラピュスを安心させるように言う。それを聞いたラピュスはいまいち納得が出来ず、その両脇にいるラランとアリサも同じような顔だった。すると、ヴリトラが前を向いて突然低い声を出す。


「・・・ラピュス。これから起きる戦いをよく目に焼き付けておけ。そして考えろ・・・俺達七竜将を本当に信用できるのかという事をな」

「え?」


 いきなり真面目そうな声で意味深な事を言ってくるヴリトラにラピュスは思わず声を出す。ヴリトラの後ろを走っているジャバウォックとジルニトラもいつの間にか前を向いている。そしてその時、三人の表情は鋭い表情をしており、ラピュス達はその事に気付いていない。

 一方、パティートンの村から石橋へ続く道ではストラスタ公国軍の中隊がトコトムトの村に向かって進んでいる。先頭には馬に乗った隊長と思しき騎士がおり、その後ろには剣、槍、弓を持った軽装の兵士達が縦四列に並んで歩いていた。その中の数人が黄色と白の二色の旗を持っており、並んでいる兵士達の両脇には騎士達が列を乱さないように見張りながら馬に乗って歩いている。


「まもなくトコトムトの村へ到着します。この先の石橋を超えれば村は目の前です」

「よし、今日中に到着するぞ。気を抜くな」


 先頭の騎士が脇に控えている兵士から情報を聞き後ろにいる兵士達に伝え、兵士達も声尾を揃えて返事をした。

 控えていた兵士が馬の上の騎士を見上げて何やら笑いながら話しかける。


「しかし、レヴァート王国の連中を甘いですな?エリオミスの町に我が軍の主力の一部をぶつけ、そっちに集中しているところを我々が無人となったトコトムトの村から迂回して挟み撃ちにする。そしてそのままサリアスの村の補給基地を制圧するという事を気付かずにいるのですから」

「奴等も無人となった村など誰も見向きもしないと思いそのまま放置していたのだろう。その甘さのおかげで我々はこうして敵と遭遇する事も無く村に辿り着けるという訳なのだからな」


 兵士の話しを言いた騎士はレヴァート王国の者達を哀れむように笑いながら言った。彼等は宣戦布告をしたすぐ後に敵国であるレヴァート王国の村や町を細かく調べていた。その為トコトムトの村が誰も住んでいない無人の村だという事を知っていたのだ。そしてその村が敵の重要拠点の二つに繋がっている事にも気づいたのだ。


「村に到着次第、パティートンの村の後続部隊に伝達しろ。後続部隊と合流したら直ぐにエリオミスとサリアンを制圧に移るぞ?」

「はっ!」


 騎士の命を聞いた兵士が返事をし、そのまま村に向かって進んで行く。だが彼等は気付いていなかった、自分達の作戦を読んで待ち伏せしている者達がいる事を・・・。

 ストラスタ軍が石橋の見える所まで到着し、先頭の騎士が石橋の前に誰もいない事を確認すると後ろにいる兵士達の方を向いて真剣な顔を見せる。


「皆の者!もうすぐトコトムトの村だ、村に着き次第周囲を警戒しながら出撃の準備に取り掛かる。出撃まで各自装備の確認をしておけ!」

「「「「「はっ!」」」」」


 騎士の力の入った言葉を聞いた兵士達も返事をして士気を高める。だがその時、騎士の脇に控えていた兵士が突然声を上げて騎士を呼ぶ。


「た、隊長!あれを見てください!」

「どうした?」

「い、石橋の向こう側に我が軍とは違う別の部隊に姿があります!」

「何だと!?」


 兵士の言葉に耳を疑う騎士は兵士の言った石橋の先を見て今度は目を疑った。兵士の言うとおり、そこには石橋から数十m離れた所でヴリトラ達が陣取っている姿が目に映ったのだ。その事を聞いた他の騎士や兵士達も驚いてざわめき始める。自分達の作戦を読んだ者達がいた事で彼等はかなり動揺していた。

 だがそこへ隊長である騎士が振り返り、ざわめく兵士達に喝を入れた。


「騒ぐな!見たところ敵は十数名の分隊程度の人数しかいない。恐らくギリギリで我々の作戦に気付いて出せるだけの兵力を回したのだろう。我々は五十人を超える中隊規模の戦力なのだ、あの程度の敵など敵ではない!」


 騎士の言葉を聞いた兵士達はざわめくのを止める。それと同時に部隊の士気も戻り、ストラスタ軍は武器を手に取り戦闘態勢に入った。それを見た騎士も腰の騎士剣を抜いて兵士達を見下す。

 

「行くぞ!敵拠点を制圧する前の簡単な準備運動だ!一人残らず討ち取れぇ!」


 その言葉を合図にストラスタ軍は叫ぶように声を出して一斉に石橋に向かって走り出した。その光景は土砂崩れで流れる土砂が町に迫って来る様な勢いだった。

 橋から少し離れた所で待機しているヴリトラ達もストラスタ軍の姿を確認して戦闘態勢に入る。ラピュス達第三遊撃隊の騎士達に緊張が走る中、七竜将は余裕の表情を見せていた。


「おぉ~、来た来た」

「もの凄い勢いだな」

「どうする?石橋の仕掛けを使う?」


 ジルニトラが石橋の仕掛けを使うかヴリトラに尋ねるとヴリトラは敵軍の方を向いたまま首を横へ振った。どうやらまだ使い気はないようだ。


「あの仕掛けはまだ使わない。少なくともこの戦いじゃ使わないな」

「ええっ!?使わないんですか?」


 七竜将の後ろで待機していたアリサが意外そうな、そしてどこか残念そうな声を出して尋ねる。その声を聞いた七竜将は振り返りアリサの方を見る。ラピュスとラランもアリサの方を見ていた。


「・・・アリサ、どうかしたのか?」

「あ、いえ・・・ジャバウォックさんからあの石橋の仕掛けの事を聞いたんで、ちょっと気になって・・・」

「・・・私も気になる」

「ララン、お前もなのか?」


 アリサと一緒にジャバウォックから石橋の仕掛けの事を聞いていたラランもどうなるのか興味があったらしく、無表情のままアリサに同意する。ラピュスはアリサと同じ意見を持っているラランに反応して今度は彼女の方を向く。彼女達の後ろではララン達と一緒にジャバウォックから仕掛けの事を聞いていた騎士達もどこかそわそわするように態度を見せており、他の騎士達はそんな仲間達を見て首を傾げている。


「おいヴリトラ、あの石橋にどんな仕掛けをしたのだ?」


 一人だけ仕掛けの事を知らないラピュスは仕掛けの話しを聞いて自分も知りたくなったのか、ヴリトラの方を向いて仕掛けの事を尋ねる。姫騎士達の会話を見てヴリトラは小さく溜め息をつき、隣のジャバウォックを見上げた。


「ふぅ・・・ジャバウォック、教えたのか?」

「ワリィな?一緒に戦うと言っても、仕掛けの事を話しておいた方が今後の作戦で動きやすいだろう?」

「まぁ、それは確かにな・・・」


 ジャバウォックの言っている事も一理あると思いヴリトラは頷く。すると、前を見ていたジルニトラが真剣な表情を見せ、目だけで二人を見て声を掛ける。


「二人とも、お喋りはそこまでよ!もうすぐ敵が石橋を渡るわ!」

「・・・分かった!ラピュス、石橋の事はまた後だ!」

「あ、ああ!分かった・・・」


 もうすぐ敵軍と接触する。それを知ってラピュス達も武器を取って構える。ヴリトラ達七竜将も森羅、デュランダル、サクリファイスを構えて石橋の向こうから自分達に向かって来る敵軍を鋭い目で見つめてた。

 ストラスタ軍は石橋を渡り始め、少しずつヴリトラ達に近づいて行く。そして先頭を走っている騎士はヴリトラ達の姿が確認できる所まで来ると意外そうな顔を見せる。目の前の敵部隊は異様な姿をした三人の男女とその後ろに三人の姫騎士、そして数名の騎士だけの部隊であることを確認し、ガッカリするような声を出した。


「何だ?乗馬した数人の騎士だけか。それにあの先頭にいる三人組、見た事のない服装をしているな。大方異国の傭兵でも雇ったのだろう、たったあれだけの人数で我らを止めようとは、愚か者どもめ!」


 七竜将の事を知らないストラスタ軍の騎士はレヴァート軍を哀れむに見つめながら馬の速度を上げる。それに続くように兵士や他の騎士達も速度を上げた。ストラスタ軍を見てヴリトラはサクリファイスを構えているジルニトラの方をチラッと見る。


「ジルニトラ、頼む!」

「りょ~かい!」


 指示されてジルニトラは愛用の改良アサルトライフル、サクリファイスの銃身についているグレネードランチャーの引き金に指を掛ける。そして先頭を走る騎士が石橋を渡り切った瞬間に引き金を引いた。その瞬間にグレネードランチャーの大きな銃口から低い銃声と煙が上がりグレネード弾が発射され、グレネード弾は先頭の騎士が乗る馬の足元に命中して爆発を起こす。突然の爆発に驚いた馬は前足を上げて鳴き声を上げた。


「うぉああーーっ!?」


 突然馬が暴れ出し、驚いた騎士は馬上から放り出されて落下する。馬はそのまま何処かへ走り去って行き、後ろを走っていた兵士達も突然の爆発に驚いて足を止める。


「な、何だ?何が起きたのだ!?」


 落馬した騎士は体を起こして前を見る。爆発によって戸惑いを隠せないストラスタ軍の兵士達はただ前に立っているヴリトラ達を見つめていた。するとジルニトラが隙だらけのストラスタ兵達に向かってサクリファイスの引き金を引いた。銃口から吐き出される銃弾がストラスタ兵達を次々に蜂の巣にしていく。鎧を貫き、銃創だらけとなって倒れるストラスタ兵は全員が血まみれとなり動かなくなる。

 突然倒れていく味方の兵士達に後ろにいた別の兵士達は更に動揺を見せた。


「ど、どうしたんだ!?」

「し、死んでるぞ・・・」

「ア、アイツ等、何をしたんだ?魔法でも使ったのか?」

「魔法を使える奴がまだこの世にいたのかよ!?」


 見た事のない未知の武器を魔法と思い込むストラスタ兵達の姿を見てニッと笑っているジルニトラ。ヴリトラとジャバウォックは自分の愛剣を握りながら相手をただジッと見て構えている。七竜将の後ろではラピュス達が彼等の戦い方を見て改めて異世界の武器の強さに感心するのだった。


「す、凄い・・・これが銃の力なのか」

「私、クレイジーファングの時は見てませんでしから分からなかったんですけど、凄いですね・・・」

「・・・もうあんなに敵を倒しちゃった」


 姫騎士全員が未知の武器、銃の威力を見て驚きながら言う。その背後では七竜将の戦いを始めてみる騎士達がストラスタ軍と同じように驚きのあまり言葉を失っている。

 七竜将の道の武器に驚き、後退していくストラスタ軍。すると落馬して座り込んでいた騎士が立ち上がり剣を持ち直して後退するストラスタ兵達に喝を入れた。


「臆するな!敵が未知の力を使って来ようと、その力は無限ではない!必ず隙が出来る筈だ!」

「へぇ~、なかなか冷静だな?それに頭も回る」


 敵の隊長である騎士の冷静な判断を見て意外そうな顔を見せるヴリトラ。ストラスタ軍はそのまま石橋を渡りながら後退していき、ヴリトラ達のいる所とは正反対の所、つまり対岸まで下がって行った。

 石橋を挟み睨みある両部隊。ヴリトラ達は動かずに対岸にいるストラスタ軍を見つめている。一方でストラスタ軍は魔法と思い込んでいる七竜将の武器を見ながら様子を伺っていた。しばらくヴリトラ達を見ていると、隊長の騎士が弓を持つ兵士達を見て次の指示を出す。


「弓兵、弓で奴等を狙い撃て!奴等の力が魔法であろうとなかろうと、これだけ離れていれば届かない筈だ。弓でまずはあの三人の傭兵を倒せ!」


 騎士の指示を聞き、弓を持ってストラスタ兵達が数名前に出て弓を構える。狙いは勿論七竜将だ。

 対岸から弓を構えているストラスタ兵を確認したヴリトラが目を鋭くして後ろにいるラピュス達の方を向いて力の入った声で指示を出す。


「ラピュス、敵の弓兵だ!矢の雨が来るぞ!」

「何!?」


 敵が弓を構えている事に気付き指示を出してきたヴリトラにラピュスは一瞬驚く。ラピュスも対岸の方を見て敵が弓を構えているのを確認すると急いでララン達に指示を出した。


「弓兵だ!矢が来るぞ、木や岩の陰に隠れろ!」


 ラピュスの指示を聞いたララン達は急いで馬を動かしてストラスタ軍の矢の射程内から移動した。それぞれが馬から降りて木々や岩の陰に隠れ、馬達を遠くへ走らせた。ラピュスも皆が隠れたのを見て隠れようとする。ところが、自分が隠れようとしている時にヴリトラ達はその場から一歩も動かずに対岸をジッと見ているままだったのだ。


「おい!こっちは全員避難した。お前達も早く隠れろ!」

「そういう訳にはいかない。俺達が此処を動いたら奴等は一斉に向かって来るはずだ、そうなったら直ぐに迎撃態勢に入るのは難しくなる」

「俺達は此処でアイツ等が橋を渡れないように通せん坊しておくぜ」

「バ、バカな!いくらお前達でも向かって来る矢を止めるなんて無理だ!早く隠れろ!」


 ラピュスは敵を足止めする為に逃げずに留まると言うヴリトラとジャバウォックを見て更に驚いた。いくら七竜将が強くても盾などの防具も無しに向かって来る矢を止めたりかわすなんて事はよほど修行をしていないと出来ない事だ。傭兵である彼等が出来る事ではない。ラピュスはそう思っているのだ。すると、心配するラピュスを見てジルニトラがウインクをして笑いながら口を開く。


「心配ないわ。アンタも知ってるでしょう?あたし達が普通の傭兵じゃないってこと」

「だ、だが・・・」

「それに、あたし達の本当の力を見せるとも言ったしね?」


 また口にする本当の力と言う言葉。それを聞いたラピュスは口を止めてジルニトラを見つめる。そんな中、ヴリトラが前を見て二人に力の入った声を掛けてきた。


「二人とも、矢が来るぞ!」

「「!」」


 ヴリトラの言葉に二人がストラスタ軍の方を向く。その直後にストラスタ兵達は矢をヴリトラ達に向かって放った。向かって来る無数の矢を見て構える七竜将。だがラピュスは隠れるのに遅れて七竜将と同じように矢の射程に入ったままだった。


「チッ!間に合わないか!」


 逃げ遅れたラピュスを見て舌打ちをするヴリトラはラピュスの目の前に移動、彼女を庇う形に入った。突然目の前にやって来て自分を庇うヴリトラにラピュスは驚く。


「動くな!そこで伏せてろ!」

「え!?」

「急げ!」


 ヴリトラの言葉にラピュスは慌てて姿勢を低くする。その直後、ストラスタ兵の放った矢が七竜将に迫った。だが、次の瞬間にヴリトラ達は自分達の持っている武器で迫って来た矢を全て防いだのだ。地面には剣で切られたり銃で弾かれた矢が落ち、七竜将の三人は無傷で全ての矢を防ぎ切った。その光景を目の前で見ていたラピュスや隠れていたララン達、遠くから見ていたストラスタ軍は自分達の目を疑って固まる。


「二人とも、大丈夫か?」

「ああ、銃弾と比べたら簡単に落とせる」

「そもそも機械鎧兵士に普通の弓矢なんて通じるはずないでしょう?」


 安否を尋ねるヴリトラの方を向いて小さく笑いながら答えるジャバウォックとジルニトラ。そんな三人を見てラピュスはゆっくりと立ち上がる。


「・・・お前達、矢を全て落したのか?」

「ああ。俺達は機械鎧兵士は機械鎧を纏う時に生身の体が機械鎧の力と釣り合う様に体内にナノマシンを投与してるんだ」

「ナノ、マシン・・・?」

「人の目では見る事の出来ないくらい極めて小さな機械だよ。俺達の体の中にはそれが入ってるんだ、そしてそのナノマシンによって俺達は常人離れした身体能力と感覚を手に入れたんだ。だから向かって来る矢を簡単に落とせたって事さ」

「それじゃあ、今までに見た桁外れの力も・・・」

「そのナノマシンのおかげだ」


 自分達の体の中に流れているナノマシンの事を説明するヴリトラ。その話を聞いたラピュスは所々に理解できないところもあったが、その凄さは理解出来ていた。それと同時にラピュスは改めて彼等が普通の人間じゃない事を実感するのだった。

 対岸で矢を全て落した七竜将を見たストラスタ軍は未だに驚いていた。


「そ、そんなバカな・・・矢を人間が払い落としたと言うのか・・・?」

「や、奴等、本当に人間なのか?」

「アイツ等、腕に妙な形の鎧を着けてるけどよぉ、一体何者なんだ・・・」


 さっきのジルニトラの銃撃に続き、自分達の放った矢をも落した七竜将にストラスタ軍はまた動揺を見せ始める。そして先頭に立っていた騎士も流石に驚いたままでいた。そこへ一人の兵士が駆け寄り、騎士に声尾を掛ける。


「た、隊長。此処は一度パティートンに戻り体勢を立て直した方がよろしいかと・・・」


 兵士の事がを聞いた騎士はハッと我に返り、兵士の方を睨んで声を上げる。


「バ、バカ者!わけの分からない者達に我等ストラスタ軍が退いてどうするのだ!?・・・ええいっ、重歩兵隊、前へ!」


 騎士が後ろの兵達に指示を出すと、兵達の中から周りと雰囲気の違う数人の兵士が他の兵士達を割って姿を見える。その兵士達は自分の身長と同じくらいの大きさの盾を持っている全身甲冑の兵士だった。右手にはハンドアックス、左手に大盾を持ったその兵士達は横一列に並び隙間を作らないよう壁を作って大盾を構えるとその兵士達はゆっくりと前進し始める。その後に続くように騎士と残りのストラスタ兵達も前進した。

 対岸から変わった兵士達が横に並びながら自分達の方に向かって来るのにヴリトラ達も気付いた。前衛で大盾を構えながら歩いてくるストラスタ兵を見てラピュスは目を見張った。


「あれは、重歩兵か!?」

「重歩兵?」

「アイツ等は全身を甲冑で覆い、更に大きな盾で敵の攻撃から味方を守る事を役目としている兵士達だ」

「つまり仲間の防衛担当って事なの?」

「そうだ。・・・クッ、ストラスタ軍め!まさか重歩兵まで連れてきていたとは・・・!」


 防御に特化した重歩兵を連れてくる事は計算していなかったのか、ラピュスはストラスタ軍を見て悔しそうな顔を見せる。向かって来る重歩兵達を見てジルニトラはサクリファイスで重歩兵達を撃った。だが弾は重歩兵の持っている大盾に弾かれてしまいストラスタ兵は無傷のままだった。

 未知の攻撃を受けても自分達は無事だと知ったストラスタ軍の士気は高まり、兵士達はそのまま前進してきた。ジルニトラの攻撃が効かないのを見てラピュスも汗を垂らして焦りを見せる。七竜将の攻撃が効かない、それは彼女にとっては大きな衝撃だった。

 だが、ジルニトラは銃撃が聞かなかったにもかかわらず焦る様子も見せずにサクリファイスを見て残念そうな顔をした後にゆっくりとサクリファイスを降ろす。すると今度はジャバウォックが前に出て石橋の方へ歩いて行く。


「お、おい!ジャバウォック、何をする気だ!?」


 一人石橋の方へ歩いて行くジャバウォックを止めようと前に出るラピュスだが、ヴリトラがラピュスの肩を掴んで止めた。


「心配ない」

「何を言ってるんだ、一人で重歩兵に守られている敵軍に向かって行ってるのだぞ?」

「だから心配ないって。アイツは俺達七竜将の強襲兵だ、接近戦では誰にも負けねぇ」

「え?」


 ヴリトラの言葉にラピュスは理解出来ずに思わず声を漏らす。そんな中、ジャバウォックをく石橋の前に立ち、向かって来るストラスタ軍を見つめる。ジャバウォックは右手に持っていたデュランダルを左手に持ち替えて右腕の機械鎧を向かって来るストラスタ軍に向ける。すると、機械鎧の前腕部外側の装甲が動き、中から機械が飛び出した。そしてよく見るとその機械には小さな銃口の様な物が付いており、ジャバウォックはその銃口を向かって来るストラスタ軍に向ける。


「さて、今度は俺の番だ」


 その言葉を合図に機械鎧の銃口からもの凄い勢いで炎が吹き出された。そう、ジャバウォックの機械鎧から飛び出したのは火炎放射器だったのだ。炎はストラスタ軍を飲み込んでいき、瞬く間にストラスタ兵達を火だるまにしていく。

 突然の炎に叫び声を上げるストラスタ兵達。前衛に立っていた重歩兵達も炎は防ぐ事が出来ず、全身の炎を纏いながら倒れて転がり、後ろにいる味方の兵士を押し倒してその兵士達に炎を移してしまう。さっきまで士気を挙げてたストラスタ兵達は予想外の攻撃にただ驚いて後退するしかなかった。


「ど、どうなっている?・・・今度は炎を噴き出しただと・・・?奴等は、化け物か・・・」


 隊長である騎士は前の炎に包まれて倒れていく仲間を見て唖然としていた。騎士が目の前の光景に固まっていると、今度は騎士の近くに居た兵士達が次々に倒れていった。突然倒れた味方に騎士は倒れた兵士達の方を向く。


「な、何だ!今度は何なんだぁ!?」


 次々に起こる異変に騎士は遂に冷静さを失って取り乱し始める。それが原因なのか他の兵士や騎士達も取り乱しだした。

 騎士達が取り乱している時、見張り小屋のある崖の上からリンドブルムがM24で狙撃していた。どうやらさっきのストラスタ兵達はリンドブルムの狙撃で倒されたようだ。リンドブルムの隣では双眼鏡を覗きながらオロチが次の標的をリンドブルムに教えている。


「次はさっき倒した敵の隣にいる弓兵を狙え。ヴリトラ達に矢を放つ可能性がある・・・」

「OK、任しといて」


 指示を聞いたリンドブルムは俯せのままM24のボルトを引いて薬莢を排出し弾を装填する。そしてオロチの指示した弓兵の頭部を狙撃する。そしてまたボルトを引いて薬莢を外に出した。


「・・・・・・」

「あ、あれが・・・七竜将の本当の力・・・」


 石橋のまえでは木の陰から姿を見せたラランが黙ってリンドブルムとオロチのいる崖を見上げていた。その隣ではアリサが一方的にストラスタ軍を押している七竜将に驚きながら見惚れてい姿がある。周りの騎士達も七竜将の強さに驚いていた。

 石橋の上のストラスタ兵を次々と炎に包みながら前進していくジャバウォック。彼の周りでは既に炎に体を焼かれて動かなくなったストラスタ兵達の姿もある。それを遠くから見ていたラピュスは驚きと同時に小さな恐怖を感じていた。


「・・・・・・」

「・・・ラピュス」

「・・・っ!」


 突然声を掛けられてピクリと反応するラピュスは隣になっているヴリトラの方を見た。ヴリトラは前を向きながら真剣な顔を見せている。


「今の光景をお前はどう思う?」

「・・・え?」

「・・・怖くないか?」

「・・・・・・ああ、敵を一歩的に倒していくジャバウォックに一瞬恐怖を感じてしまった」

「そうか・・・それでいい」


 ヴリトラの口から出た言葉に前を向いていたラピュスは思わずヴリトラの方を向く。ヴリトラもラピュスの方を向いて静かに口を開いた。


「俺達七竜将はこの桁外れの強さを持って今日まで生きてきた。向こうの世界でも俺達の存在を恐れている者が少なくなかったのも事実だ」

「あたし達はそんな世界で生きて来て分かった事があったの。強い力を持つ者は周りから恐れられるってね・・・」


 ヴリトラに続いてジルニトラが少し寂しそうな声で話に参加する。ヴリトラからジルニトラに視線を移したラピュスは黙ってジルニトラの話しを聞き続ける。


「ラピュス、この光景をしっかりと覚えておきなさい。そして常に心に刻んでおくの、強い者は周りから慕われるのと同時に恐れられるって事をね?」

「俺達みたいに必要以上に力を手に入れるなよ?じゃないと、俺達みたいになっちまうからな・・・」


 ヴリトラとジルニトラは石橋を見ながらラピュスに言い聞かせる。ラピュスはそんな二人の顔を交互に見ながら目の前の戦闘を見つめていた。

 その後、ジャバウォックの攻撃によってストラスタ軍はほぼ壊滅状態となり、生き残った一部のストラスタ兵達はパティートンの村に退却していった。ラピュスは今回の戦いで七竜将に真の力と彼等が力と引き換えに失った大切な物を知るのだった。

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