第二百五十九話 母の下へ ラピュス再会の涙
ガバディアと再会したヴリトラ達は彼の計らいで町へ入る事ができた。久しく見る町には懐かしさが残っているが自分達の事を忘れた者も多く、寂しさも感じられる。そんな中でガバディアの口からブラッド・レクイエム社がレヴァート王国や同盟国に一切手を出していない事を聞かされるのだった。
町を走る事数分、装甲車とトラックは人気の少ない道を進んで行き、一軒の建物の前で停車した。ヴリトラ達は自動車を降りて目の前に立っている建物を見上げる。それは一年前まで自分達が拠点として使っていたズィーベン・ドラゴンだった。
「おおぉ~、まだ建ってたのか」
「俺達がいなくなってとっくに取り壊されたか誰かが買い取ったのかと思ったんだけどな」
ヴリトラとジャバウォックはズィーベン・ドラゴンが残っている事を意外に思いながらもファムステミリアの我が家を見て笑みを浮かべる。他の七竜将やガバディアも自然と微笑みを浮かべていた。しかし、その中にジルニトラ、そしてラピュス、ラランの姿は無い。ズィーベン・ドラゴンを眺めていたファフニールはふと自分達が通って来た道を振り返る。
「ラピュス達、今頃どうしてるかな?」
「そりゃあ、自分達の家族や仲間達のところに行ってるんじゃねぇのか?」
「この一年間、自分達は死んだ事になってたからね。とりあえず安心させてあげたいんでしょう?」
ラピュス達の事が気になるファフニールにヴリトラとジルニトラが振り返りながら言う。ファフニールは「確かにそうだね」と言う様な顔で道を見ながらコクコクと頷きながら納得する。
一年前、七竜将とラピュス、ラランはブラッド・レクイエム社の補給基地を破壊する為にノーティンク大森林へと向かった。だが、補給基地で起きた大爆発により、ヴリトラ達は行方不明とされ、結果レヴァート王国は彼等が戦死したティムタームを始め、王国中の町や村に号外を出したのだ。ヴリトラ達の存在を知っている者達はこの発表に大きな衝撃を受け、特にラピュスやラランを知っている者達には大きなショックを与える。当然ラピュスの家族や白竜遊撃隊の隊員達も例外ではない。長い時間を掛けて彼等はようやく立ち直る事ができた。
それから一年が経ち、今日ヴリトラ達はティムタームへ戻って来たのだ。だったらまずやる事は自分達が死んだと思いショックを受けていた者達の下へ行き、彼等は安心させてあげる事だと考え、ラピュスとラランはズィーベン・ドラゴンへ向かう途中で降り、それぞれ家族と仲間の下へ向かったのだ。ジルニトラも念の為と言い彼女達に同行した。
ズィーベン・ドラゴンの前にやって来たヴリトラ達は一年前と殆ど変わっていない自分達の拠点を見て改めて意外に感じている。なぜ一年間も持ち主がいなかった家がこうして残っているのか不思議で仕方がなかったのだ。
「でも、どうしてズィーベン・ドラゴンは壊される事無く無事だったんですか?」
ヴリトラはガバディアに訊ねるとガバディアは目を閉じ小さく笑った。
「・・・姫様のお計らいだ」
「パティーラム様の?」
「ああ、さっきも話したように姫様はお前達が死んだと聞かされた時はかなり動揺された。だけど、いつまでもクヨクヨしてはいられないと気持ちを切り替えようとされたのだが、やはりお前達の事が忘れられないのかこの建物だけは残しておきたいと仰られてな。姫様がこの土地を買い取られ、こうしてそのまま残されたのだ」
「そうだったんですか」
「しかし、その残った建物にこうしてお前達が戻ってくる事になるとは儂も思ってはいなかったぞ」
笑いながらヴリトラの肩にポンと手を置くガバディア。ヴリトラ達もそんなガバディアを見て嬉しそうな表情を浮かべていた。
ヴリトラ達が笑っていると黙っていたオロチがガバディアの隣までやって来てズィーベン・ドラゴンを見つめながらガバディアに問いかけて来た。
「だが此処はパティーラム様が買い取った土地だ。もう私達には此処に住む事はできないのではないか・・・?」
「いや、問題ないだろう。姫様にお前達が無事であったと事をお伝えすればきっとお前達に返されるはずだ」
「つまり、私達は再び此処に住んで良いと・・・?」
「そう言う事だな。まぁ、念の為に姫様のお許しを得てからになるから、それまでは待ってもらうぞ?」
「ええ、そんなの全然構いませんよ」
話を聞いていたヴリトラが笑いながら納得し、オロチも無表情ではあるが納得した様子を見せる。
ズィーベン・ドラゴンに住めるかどうかの話をしているとリンドブルムとニーズヘッグが窓から中を覗き込んだ。床や家具には大量の埃が溜まっており、長い間誰も中に入っていない事を現している。
「うわぁ~、すっごい埃だね・・・」
「まぁ、一年も誰も住んでいなかったんだから、無理もないけどな・・・・・・ん?」
ニーズヘッグがふと床を見ると床に溜まっている埃の上に靴型の様な跡が付いているのを見つけた。その後の上にも微量の埃が溜まっており、跡が付いてから二、三ヶ月は立っている様に見える。つまり、最近誰かがズィーベン・ドラゴンに出入りしていたという事を現していた。
「・・・ガバディア団長、ちょっといいか?」
靴跡をしばらく見つめていたニーズヘッグはヴリトラ達と話をしているガバディアに声を掛ける。ガバディアや彼と会話をしていたヴリトラとオロチ、そしてジャバウォック達も一斉にニーズヘッグとリンドブルムの方を向く。
「どうした?」
「ズィーベン・ドラゴンの中に何人かの足跡がある。誰かが中に入ったみたいなんだが・・・」
ニーズヘッグが窓ガラスをコンコンと指で叩きながら中の様子を説明する。ガバディアとヴリトラ達は窓に近づいて同じように中の様子を窺う。靴跡を見たガバディアは「あぁ~」と言う様な顔になりニーズヘッグの方を向き説明した。
「スマンスマン、説明していなかったな。実は此処は姫様と儂、そして白竜遊撃隊の隊員だけは出入りできる事になっておっておるんだ」
「白竜遊撃隊が?」
「ああ、彼等はお前達の正体を知り、お前達から銃を与えられた者達でな。今では白銀剣士隊をも超える我が国の精鋭部隊となっているのだ」
「へぇ~、白銀剣士隊を超える・・・アリサ達もデカくなったなぁ~」
「それで、彼等の使う銃の弾を補充する為に此処に保管してある弾を使わせてもらったんだ。この足跡は補給の為に隊員達がやって来た時に付いた物だろう」
「成る程、そういう事ですか」
説明を聞いたリンドブルムが中を覗きながら納得する。
「すまないな、勝手に入り、弾まで使ってしまって」
「・・・何言ってるんですか。此処はパティーラム様が買い取った土地でょう?つまり王国の物です。騎士団の人間が出入りするのは当然ですよ。それに銃を使うには弾薬が必要不可欠です。俺達がいないなら白竜遊撃隊が使うのが当然でしょう?」
謝るガバディアにヴリトラはニッと笑顔を向けて言う。他の七竜将のメンバーも同じ考えなのか誰も文句を言わずに黙ってガバディアを見ている。ガバディアは改めて七竜将の心の広さを実感し、彼等が無事に帰って来てくれた事を心から喜んだ。
一通りズィーベン・ドラゴンの事を聞いた七竜将は装甲車とトラックに積まれている荷物を確認し、改めて汚れきっているズィーベン・ドラゴンを見上げる。屋根には草が生え、あちこちが傷んでおり、いつ天井が抜けても不思議じゃなかった。そんな所に住む事はできないと考える七竜将はまず最初に何をするかを考える。
「まず最初にやる事はズィーベン・ドラゴンの改装だな。使うにしてもこんな状態じゃ何時崩れても不思議じゃねぇし」
「ああ、そうだな。だが、やるにしてもまずは姫様からの許可を得てからだ。改装はその後にしようぜ?」
「そうだね。それにラピュス達もまだ戻って来てないし、全員揃ってからにしよう」
ヴリトラの改装するという話に同意するジャバウォックとリンドブルム。だが、まずは今の持ち主であるパティーラムの許可を得るのが先だ。勝手に人の所有物に手を加えたりするのは流石にマズイと考えたヴリトラ達は改装するのはパティーラムから正式にズィーベン・ドラゴンを譲り受けてからにする事にした。
その後、ヴリトラ達と色々な話をしたガバディアはパティーラムに七竜将とラピュス、ラランの二人の姫騎士が生きていた事を知らせる為に王城へ向かう。パティーラムの許可を得るまでの間、ヴリトラ達はティムタームがこの一年の間にどう変わったのかを確認する為に街へ行ってみる事にしたのだった。
一方その頃、ヴリトラ達と別れたラピュスが一年ぶりに帰って来た自分の屋敷の門の前に立っていた。一年ぶりに訪れた我が家にどう入ったらいいのか分からないラピュスは入口前でずっと突っ立っている。その隣にはそんなアリサを困り顔で見ているジルニトラの姿があった。
「・・・ねぇ、いつまでそうしてるつもりなの?」
「う、うむ・・・」
「こっちに戻ったら真っ先にお母さんに会いに行くって言ってたじゃない。だったら早く会って安心させてあげたら?」
「だ、だが、一年間も行方不明になっていたのだぞ?突然現れて何と言えばいいか・・・」」
「自分の言いたい事を言えばいいじゃない」
「だけど・・・」
「がぁ~~~!もう、じれったいわねぇ!」
何時まで経っても屋敷に入ろうとしないラピュスにイライラするジルニトラ。そんなジルニトラを見てラピュスは複雑そうな顔を見せる。
二人が屋敷の前でブツブツ話をして言うと屋敷の門がゆっくりと開き一人の老人が顔を出した。
「何じゃ、さっきから騒がしいのぉ?」
「ん?・・・アンタは確か・・・」
見覚えのある老人にジルニトラはまばたきをする。ラピュスも自分の屋敷から出てきた老人の方をゆっくりと振り向いた。すると老人はラピュスの顔を見た途端に驚きの表情を浮かべる。
「あ、貴方は・・・!」
「・・・ッ!ロウ、お前、ロウなのか?」
老人の顔を見てラピュスも彼をロウと呼び驚く。なんと彼は以前ヴリトラ達がラピュスの屋敷を訪れた時に出会った庭師のロウなのだ。
一年ぶりに会う庭師にジルニトラも少し懐かしそうな顔でロウを見ている。ロウは目の前のラピュスに驚きの顔のままゆっくりと彼女の近づいて行く。
「お、お嬢様・・・本当にお嬢様なのですか?」
「あ、ああ。久しぶりだな・・・」
「お嬢様ぁ!生きていらっしゃったのですねぇ!」
死んだと思っていたラピュスが生きていた事にロウは驚きと感動で思わず涙目となりラピュスの左手を取る。ラピュスも目の前で涙を流すロウに苦笑いを浮かべた。
「おおおぉ!このロウ、お嬢様がお亡くなりになったと聞いた時はもう心が壊れそうな気持ちになりました!旦那様がお亡くなりになってからは奥様とお嬢様にお仕えする事が私の喜びでした。そのお嬢様がいなくなってからは私は・・・私はぁ・・・!」
「お、落ち着いて、ロウ。見てのとおり、私は生きている。だからもうそんな顔をするな」
「う、うう・・・す、すみません、つい取り乱してしまい・・・」
ロウは涙を拭いながら手を離し、改めたラピュスの顔をジックリと見る。しばらくラピュスの顔を眺めていると一歩後ろに下がり、静かに頭を下げた。
「改めて、お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま・・・ロウ、母様は?」
「ええ・・・奥様でしたらご自分のお部屋でお休みに・・・」
「お休み?」
ジルニトラはロウの言葉に引っかかり思わず訊き返す。ロウはジルニトラの方を向くとゆっくりと頷く。
「ハイ、一年間に奥様が亡くなられたと聞かされた時、奥様は倒れられてしまいまして・・・」
「まぁ、無理もないわね・・・」
「それから奥様は気弱になられ、更にショックのあまり体調も崩されてしまわれたのです。それっきり、寝たきりの生活に・・・」
「そんな・・・」
「無理もないわ。旦那さんが亡くなって女手一つで育ててきた娘が死んだって聞かされればそうなるわよ」
「ええ。ですが、お医者様のおかげで半年前に何とか元の状態に戻られたんです。しかし、心が戻ってもお体の方はまだ・・・」
自分の事の様に辛そうな顔で話すロウを見て俯くラピュスと真剣な顔でロウを見つめるジルニトラ。ラピュスは自分のせいで母親が傷ついた事に責任を感じているのかその顔をとても暗かった。
ジルニトラは暗い顔をしているラピュスを見ると彼女の背中をバンと強く叩く。背中を叩かれたラピュスは驚いて顔を上げ、ジルニトラの方をフッと向いた。
「な、何をするんだ、ジル!?」
「何暗い顔をしてるのよ?こんな所でそんな顔してる暇があったら早くお母さんの所へ行って自分が生きてるって事を教えてあげなさい!」
真剣な顔のジルニトラを見てラピュスはハッとしロウの方を向く。ロウもラピュスの顔を見て頷き、屋敷の門を開けた。門が開くとラピュスは屋敷に向かって走り出し、ジルニトラのロウもそれの続き走り出す。屋敷の前まで来るとラピュスは勢いよく扉を開けて中に入る。久しぶりに見る我が家を眺める事無く、ラピュスは母の部屋へ向かった。
ある一室では窓際にある大きなベッドの上で外を眺めている一人の女性と白い服を着た初老の男性、そして数人のメイドの姿があった。ベッドの上の女性はラピュスに似た顔をしており、穏やかな雰囲気をしている。彼女こそがラピュスの母のリターナだ。
男性はリターナの様子を窺いながら羊皮紙に書かれている文章を確認している。彼はリターナの診察をする医師で毎日彼女の様子を診に来ているのだ。メイド達はリターナの遠くか眺めており、その表情は何処か寂しそうに見えた。彼女達もリターナの受けた悲しみに心を痛めているのだ。
「大分良くなりましたね。この調子なら歩く練習に入っても大丈夫でしょう」
「・・・そうですか」
医師の話を聞き、外を眺めながら返事をするリターナ。ゆっくりと医師の方を向き、微笑みながら頭を下げた。
「今日まで本当にありがとうございました」
「いいえ、奥様こそ今日までお疲れ様でした。一年前とは見違えるようですよ」
「フフ、そうですね。あの時の私は本当に酷かったですから・・・」
「無理もありません。お嬢様を亡くされてショックを受けない母親はいませんよ」
「ええぇ、そうですね・・・」
リターナは小さく笑いながら自分の疲れきった様な両手を見つめる。一年前、ラピュスの死を聞かされた時に卒倒した後、目を覚ました自分の精神状態は酷く、毎日現実逃避ばかり。何時かはラピュスが帰って来ると思いながら過ごしていたが、半年経ってもラピュスは帰って来ず、ようやく現実を受け入れた。そして今、ラピュスの死を受け入れて精神状態が回復し、寝たきりで歩く事をできなくなってしまった自分の体を治す為に医師の指導を受けている。リターナは新しい人生を歩む為に必死に戦っているのだ。
医師は微かに悲しみが見えるリターナの顔を見て心を痛めた。自分には病や怪我は簡単に治せるが心の傷は簡単には治せない。人を助ける医師である自分の無力さを情けなく思っていた。
「・・・奥様、辛い事があればいつでも私に相談なさってください。出来る限りの事は致しますので」
「先生、ありがとうございます。でも、いつまでもクヨクヨしてはいられません。亡くなったラピュスの為にも私がしっかりしなくては・・・」
「しかし・・・」
医師がリターナの事を心配しながら彼女を見つめる。すると突然部屋の外から数人の女性の声が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっと待ってください。貴方は何なのですか!?」
「勝手に入られては困ります!」
「どいてくれ!母様にお会いしなくてはならないんだぁ!」
聞こえてくる女性の声に部屋にいたリターナ達はふと扉の方を向く。声は三つ聞こえ、その内の二つは屋敷で働くメイドの声である事は分かる。だがもう一つはメイドの声ではなく、リターナ達は不思議そうな顔を見せた。
「な、何です?廊下の方が騒がしいですが・・・」
「分かりません・・・ですが、あの声は何処かで・・・」
聞こえてくる声に驚く医師と聞き覚えのある声に考え込むリターナ。やがて声は徐々に大きくなり、部屋の扉が勢いよく開き、部屋に行きを乱すラピュスと彼女に驚く二人のメイドの姿が目に飛び込んで来た。
ラピュスは部屋に入ると周りを見回し、自分を見て驚くメイド達、目を丸くする医師の姿を見る。そして部屋の奥にあるベッドの上で座っているリターナの姿を見つけると目を見開きながら彼女の下へ歩いて行く。
「・・・母様」
「・・・・・・えっ?」
自分の事を母と呼ぶラピュスにリターナは一瞬戸惑いを見せる。だが、すぐに近寄って来るラピュスの姿を見て、それが死んだはずの娘だと理解した。リターナは目の前にいるラピュスの姿を見て目を見張って驚く。
やがてラピュスがベッドの前まで近づき、リターナをジッと見つめる。リターナもラピュスの姿を見て驚きの表情のまま彼女の顔を見た。
「母様・・・」
「・・・貴方・・・ラピュス?」
「ハイッ!」
自分の事が分かる母にラピュスは力強く返事をする。リターナの隣にいた医師も死んだはずのリターナの娘が目の前にいる事に驚きを隠せず目を丸くしている。部屋の隅に控えていたメイド達もラピュスの事を知っているのか彼女の姿を見ながら驚きのあまり固まっていた。
「・・・ラピュス、本当にラピュスなの?」
「ハイ、貴方の娘、ラピュス・フォーネです!」
「あ、ああ・・・」
娘が生きて自分の目の前にいる、その事実にリターナは涙を流しながら力の入らない両足を必死に動かしながらラピュスに近づこうとする。だが思う様に動けないリターナはバランスを崩しベッドから落ちてしまう。
落ちたリターナを見たラピュスは驚き、慌てて床に倒れるリターナを起こす。そして改めてリターナに自分の顔を近づけて見せた。
「母様、大丈夫ですか?」
「ラピュス・・・生きていたのね・・・」
「ハイ、ご心配をおかけしました」
「ああぁ・・・ラピュス!」
リターナは涙を流しながらラピュスを強く抱きしめ、ラピュスも一年ぶりに再会した母を抱き返す。ラピュスは機械鎧と化した右手でリターナの背中を優しく撫でる。
「もぉ!今まで何処にいたの?こんなに心配させてぇ!」
「・・・ごめんなさい。事情があって帰るどころか手紙を送る事も出来なかったの」
緊張が解けたのかラピュスは女口調になりリターナに事情を説明する。リターナはラピュスの顔を見ながらそっと彼女の頬を撫でた。
「貴方が死んだと聞かされてから私は生きる目的を失ってしまった。一度は自ら命を絶とうとしたくらい」
「母様・・・」
「でも、そんな事をしたら先に死んだ貴方のお父さんや貴方が悲しむと思い、悲しみを押し殺しながら今日まで生きていたわ。何時までも悲しんではいられない、現実を受けれないといけないと先生からも言われたの」
「・・・本当にごめんなさい。心配を掛けちゃって・・・」
「・・・もういいのよ」
リターナは謝罪するラピュスの頭を優しく撫でながらニッコリと笑った。その表情は先程までとは明らかに違う。本当に心の底から笑っている笑顔だった。
「貴方が生きていて、こうしてまた私のところに戻って来てくれただけで・・・私は、幸せよ・・・」
「・・・母様」
泣きながら微笑みを浮かべるリターナを見てラピュスも涙を流しながら小さく笑う。部屋の扉の前ではラピュスとリターナの感動の再会を見守るジルニトラとロウの姿があった。
ズィーベン・ドラゴンが無事である事を確認したヴリトラ達と母リターナと再会を果たしたラピュス。だが、まだ彼等はこの国が、いやこのヴァルトレイズ大陸がどんな状況なのかをまだ理解していない。一体、国中はどんな状態なのだろうか。




