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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第三章~戦場に流れる鎮魂曲(レクイエム)~
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第二十五話  戦前の戦士の心

 トコトムトの村に駐留してストラスタ公国軍を待ち伏せする七竜将と第三遊撃隊。だが、トコトムトの村に本当に敵が来るのかは定かではない。故に彼等は只トコトムトの村に駐留して敵を待つだけしか出来ないのだ。しかし七竜将はともかく、第三遊撃隊の騎士達は戦いが起きなければ自分達も命の危険を晒す事もない、そう考えている為敵が来ない事も心の何処かで祈っている者も少なくない。実際、七竜将も戦わなくて済むなら、その方がいいと思っていた。

 村に到着した日から一夜が明け、明るくなり始めている村では七竜将や遊撃隊の騎士隊はそれぞれの持ち場について村の周囲を警戒し、ラピュス達は敵が来た時の作戦を練っている。昨夜の夕食から今朝まで敵は奇襲をかける事も姿を見せる事もなかった為、ヴリトラ達はのんびりと朝を迎える事が出来た。


「・・・今のところ、敵影はなしか」


 廃墟と化した民家の屋根の上に乗り双眼鏡で周囲を見回しているヴリトラ。いつでも戦えるように七竜将全員は既に機械鎧を露出させている灰色の特殊スーツに着替えていた。彼が乗っている民家の下では騎士達が荷物や武器を運んで何時でも戦えるように準備をしており、その中にはファフニールとジルニトラの姿もあった。二人も騎士達と同じように荷物を運んでいた準備を進めている。


「ジル、この荷物は何処へ持って行けばいいの?」

「それは包帯とか薬が入ってるから武器とかが置いてある廃墟に持って行って。瓶とかが入ってるから割らないようにね?」

「は~い」


 ジルニトラに指示されたファフニールは返事をして医療品の入った箱を持って廃墟の方へ歩いて行く。ファフニールの後ろ姿を見ながらジルニトラも自分の持っている箱を見て歩き出す。その様子を屋根の上から見ていたヴリトラは小さく笑い、下では異常が起きていない事を確認する。

 村の中で一際大きい廃墟の中からはラピュスやニーズヘッグ、他に数人の声が聞こえてくる。彼等は一番大きなこの廃墟を作戦の会議場所として選び、そこで今後の行動などを話し合っているのだ。


「今のところ、ストラスタ公国軍がこの村に近づいてきている様子はないんだな?」

「ああ、例の見張り小屋にいるリブル達からの連絡では人影すら見えないようだ」


 ラピュスの質問に答えるニーズヘッグは目の前の木製の机の上に広がっている地図を指差してトコトムト村と昨日何かの仕掛けをした石橋の間の道をなぞる。石橋から村までは一本道、石橋を越せば遠くにある村を目視する事が出来る。そうなったら敵は全速力で村に向かう。その村と石橋の間の道で敵を食い止めるのが一番の方法、ラピュスとニーズヘッグはそう思っていた。


「敵を迎撃するにはこの道が一番戦いやすい所だ」

「ああ、だが問題は敵の戦力だ。敵が一度にどれだけの戦力で来るかでこちらの対処法や作戦も変わってくる。少なければいいが、多すぎた時の作戦も考えておかなくてはならない」

「安心しろ、その為に俺達がいるんだ。それに、昨日の内に色々と細工をしておいた」

「細工?」


 ニーズヘッグの言葉にラピュスと周りにいる騎士達が不思議そうな顔で彼の方を向いた。ニーズヘッグは自分を見るラピュス達をチラチラと見た後に小さく笑って地図を見てもう一度村の周囲を確認する。

 ラピュスとニーズヘッグが村で作戦を練っている時、石橋方向にある村の入口ではジャバウォックがラランとアリサ、数人の騎士達と一緒に警備をしていた。腕を組んで入口の前に堂々と立つジャバウォックの両隣に突撃槍を持つラランとアリサが同じように石橋のある方向を見て立っている。


「敵は、来るのでしょうか?」

「まだ分からないな。此処からじゃ人影すら見えない」


 前を向いたまま話しをしているアリサとジャバウォック。周りでは騎士達が周囲を警戒し、時々三人と同じ方向を見て敵が来ているのかを確認する。ラランがそんな騎士達を見て彼等がまだ不安がっている事に気付き隣のジャバウォックを見上げて声を掛けた。


「・・・皆、まだ不安みたい」

「だろうな。敵は中隊規模、少なくても五十人以上はいる。それに引き替え俺達は二十二人しかいない。だが、それを補うだけの戦力と作戦が俺達にはある」

「・・・口だけで言っても皆安心できないと思う。その目で見てみない事には」

「分かってるさ。だが俺達は約束したからな、必ず全員生きてティムタームに帰すって。今は口だけでしか言えないが、約束は守る」


 騎士達の不安を代弁するラランをチラッと見下しながら話すジャバウォック。彼の言うとおり今は口だけでしか彼等を安心させる事が出来ない、ラランとアリサは黙ってそんなジャバウォックの横顔を見つめる。しかしなぜか彼の言葉を聞いて二人は安心してしまうのだ。まるで、彼等がいれば絶対大丈夫であるという事を心の何処かで確信しているかのように。

 見つめられている事に気付いているのかいないのか、ジャバウォックは二人の方を向くことなく前を向いたまま石橋のある方向を指差す。それを見た二人は同時にジャバウォックが指差す方を向いた。


「それにあの石橋には仕掛けをしてある。それを使えば敵の戦力を削るのと同時にかく乱させる事ができる」


 ニーズヘッグと同じような事を口にするジャバウォック。七竜将のメンバーは全員がその仕掛けが何なのかを知っているが、第三遊撃隊の騎士達は誰もその仕掛けがどんな物なのかを知らない。


「村でもヴリトラさん達が話しているのを聞きましたけど、その仕掛けって何なんですか?教えてください」

「・・・リブル達に聞いても教えてくれない」


 気になるアリサとラランはジャバウォックに仕掛けの内容を尋ねる。ジャバウォックは二人の顔を交互に見ながら小さく笑って説明を始めた。


「あの石橋に仕掛けた細工はあの橋を使えなくするのと同時に敵の足を封じるものだ」

「橋を使えなくする?」

「・・・足を封じる?」

「ああ。・・・あの橋をぶっ壊すのさ」

「・・・え、ええぇ!?」


 アリサがジャバウォックのとんでもない発言に思わす声を上げる。ラランも黙ったまま驚き、アリサの声を聞いた周囲の騎士達も一斉に三人の方へ視線向けた。

 驚いたアリサは落ち着きを取り戻し、冷静にジャバウォックを見上げて再確認するように聞き返す。


「こ、壊すって、あの石橋をですか?」

「ああ、粉々にな」

「む、無理ですよ!あの石橋はとても頑丈に作られています。人力じゃ壊すのに丸一日掛かりますよ!?」

「・・・いくら機械鎧兵士でも、すぐには壊せない」


 アリサの考えに同意したラランがジャバウォックを見上げて話す。二人は七竜将が常人離れした力を持っている機械鎧兵士であることは知っているが、それを知っていても壊せないと断言した。それだけあの石橋が丈夫に出来ているといことだ。だが、ジャバウォックは表情を変える事無く顔の前に右手の人差し指を持ってきて「チッチッチ」という様に指を動かす。


「確かに機械鎧の出せる力でもすぐには壊せない。だけどな、ある物を使えばその頑丈な石橋をあっという間に壊す事が可能なんだよ」

「え?それって何なんですか?」

「フフフ、それはな・・・」


 ジャバウォックがラランとアリサに石橋に仕掛けてある物が何なのかを説明し始める。その話を聞いて興味を持ち始めた騎士達も三人の下に自然と集まって行った。

 同時刻、崖の上の見張り小屋の近くでは崖からM24を構えて俯せになっているリンドブルムと双眼鏡で周囲を見回すオロチの姿があった。二人の後ろでは三人の騎士達が周囲を警戒して誰もいないかを探っている。M24のスコープを覗き込むリンドブルムと双眼鏡を覗き込むオロチ。二人は周囲を警戒しながら崖からトコトムトの村と石橋を繋ぐ道、そして石橋の先にあるパティートンの村に続く道を見張っている。


「ふむ、敵影なし。村の近くに周囲を警戒している騎士達の姿があるよ」

「入口の前にもジャバウォック達が待機している。アイツがいれば敵が来ても直ぐに動く事が出来るだろう・・・」


 村の近くを見ながら話しをしているリンドブルムとオロチ。そんな二人の会話を黙って聞いている騎士達は理解出来ないような顔をしていた。なぜなら彼等は二人が持っている狙撃銃や双眼鏡がどんな物なのかを知らない。つまり、遠くを見る事が出来る道具だと知らないからなのだ。

 一通り周囲の警戒をしたリンドブルムとオロチはスコープと双眼鏡を覗くのを止めてお互いを見て現状を確認し合う。


「敵の姿が見えないならもうしばらく作戦を練ったりする時間はあるよね?」

「ああ。あと十分後にヴリトラ達に状況を確認するぞ・・・」

「それにしても、一時間ごとに状況を確認なんて、通信機のバッテリーが持たないよ」

「仕方がないだろ、コイツ以外の通信機は長距離で使える分バッテリーがメトリクスハートでも充電できないんだ。あまり使う事はできない・・・」


 耳についている小型通信機を指で突きながら話すオロチを見上げてリンドブルムは溜め息をつく。その後ろでは話の意味が分からない騎士達がますます理解できないような顔を見せていた。

 話を終えたリンドブルムがまたスコープを覗き込んでパティートンの村の方を覗くとリンドブルムは何かを見つけて表情を鋭くした。


「どうした?」


 すぐにリンドブルムの異変に気付いたオロチが同じように鋭い表情で尋ねる。リンドブルムはスコープを覗き込んだまま自分が見ている方を指差す。オロチも双眼鏡を覗いてリンドブルムの見ている方を見た。覗いた先には馬に乗った騎士を先頭に槍や弓を持った大勢の兵士が並んでパティートンの村の方から歩いてくる光景が飛び込んできたのだ。


「・・・来た!」

「ああ・・・」

「「「!」」」


 二人の言葉を聞いた騎士達はさっきまでとは違い真剣な表情で二人の方を見る。


「お、おい、来たって、ストラスタ公国の連中が来たのか・・・?」


 騎士の一人が思わず尋ねると、リンドブルムは騎士達の方を向いて頷く。それを見た三人の騎士達は驚き互いの顔を見る。動揺を見せている騎士達をオロチが鋭い表情のまま騎士達を見て力の入った声を出す。


「お前達、急いで村に戻って戦闘準備に掛かれ!私達はここでお前達の援護をする・・・」

「援護って、こんな遠くからどうするんだよ・・・?」

「そ、そうだ。アンタ達も一緒に来て戦ってくれよ・・・」


 リンドブルムとオロチが残り自分達だけが村に戻るよう言われてますます動揺を見せる騎士達。彼等の心には勝てるかどうか分からない不安と二人だけが安全な所に残るのではないかと言う不信感にあった。そんな騎士達を見てオロチは更に力の入った声を出した。


「しっかりしろ!お前達はそれでもレヴァート王国の騎士か?それに私達は約束した、必ずお前達全員を無事に町へ連れて帰ると・・・!」


 オロチの言葉を聞いた騎士達は冷静さを取り戻してオロチの方を向く。オロチが突然大声を出した事にリンドブルムも驚いて彼女を見上げていた。オロチは三人の騎士達を見つめながら空いている手の親指で村の方を指す。


「村にはヴリトラやラピュス達がいる。アイツ等はお前達の事を待っている。ヴリトラはともかく、自分達の隊長であるラピュスを助けに行かないつもりか・・・?」

「「「!」」」

「ここでの援護が粗方終わったらすぐにそっちへ行く。だから先に行け、私達を信じろ・・・」


 静かに、冷静に話すオロチを見て騎士達は互いの顔をもう一度見合う。そして彼等はオロチとリンドブルムの方を向いて頷くと、崖とは正反対の位置にある獣道を走って村へと向かって行く。

 騎士達が行ったのを確認したオロチは小屋の方へ行って壁に掛けてある斬月を手に取ってリンドブルムの隣まで行き、斬月を地面に降ろしてゆっくりと片膝をついた。


「・・・珍しいね?オロチがあんなに感情的になるなんて?」

「・・・取り乱せば他の騎士達の士気も下がる。そう思って言ったまでだ。それに私だって人間だ、感情的になる時だってある・・・」

「そうだね。ゴメンゴメン」


 スコープを覗きながら軽く謝るリンドブルム。隣で双眼鏡を覗き込んだオロチは片方の手で耳についている通信機のスイッチを入れる。


「こちらオロチ、パティータン方面からこちらに向かって来る敵部隊を確認。石橋から約300mの位置だ、数はやはり五十人以上だな・・・」


 オロチが小型通信機を使い自分とオロチ以外の七竜将に現状を伝える。距離と場所、人数を正確に話すオロチは双眼鏡を覗き込んだまま自分の両足の機械鎧をゆっくりと擦っている。まるで機械鎧に「もうすぐ戦いが始まるぞ」と言い聞かせるように・・・。

 同時刻、村にいるヴリトラ達も耳にはめている小型通信機に指を当ててオロチからの通信を受信している。七竜将は真剣な表情で小型通信機から聞こえるオロチの声を聞いていた。


「了解。お前はそのままリンドブルムと一緒にその崖から援護してくれ。狙撃が終ったらまた『アレ』を頼む」

「了解した・・・」


 全ての情報を聞いたヴリトラは小型通信機の操作して返答する。いつもの様にリンドブルムを愛称で呼ばないヴリトラ、戦いの最中は全員コードネームで呼ぶ合うのが七竜将の掟なのだ。

 小型通信機の向こうからオロチの返事が聞こえ、それを聞いたヴリトラは通信を終えて屋根から飛び降りる。それと同時に作戦拠点の方からラピュス達が走ってやって来た。


「ヴリトラ!敵が来たと言うのは本当か?」

「ああ、そうみたいだな。でも、どうしてラピュスがその事を知ってるんだ?」

「俺が教えたんだよ。通信機から聞こえたオロチの話をそのままラピュス達に伝えたんだ」


 ラピュスと一緒に作戦を練っていたニーズヘッグが自分の小型通信機を突きながら代わりに答える。それを聞いたヴリトラは納得して頷く。そこへ自分達の武器を持ったジルニトラもファフニールもやって来た。


「遂に来たのね?」

「やっぱり五十人以上はいたんだ」

「ああ。いよいよ戦いが始まる、皆、気を引き締めて行くぞ!」


 ヴリトラの言葉を聞いてラピュスやニーズヘッグ達は頷く。周りでは騎士達がいよいよ戦いが始めるとざわめきだす、それを聞いたラピュスは騎士達を見て大きな声を出した。


「皆!遂にストラスタ公国軍との戦う時が来た!知っての通り、彼等は中隊規模の戦力を持っている。それに引き替え、私達は僅か二十二人の小隊規模の戦力しかない。不安になるのも分かる」


 ラピュスは騎士達に現状をしっかりと説明し、自分達の立場を再確認させる。それを聞いた騎士達はますますざわめきだして騎士達の士気が下がっていった。それを見ている七竜将達、ファフニールはどこか慌てる様な表情を見せ、ジルニトラは「あちゃ~」という様に顔に手を当てて困り果てる。だが、ヴリトラとニーズヘッグはそんなラピュスをジッと見ていた。それはまるでラピュスの本心を知っているかのようにも見える。

 七竜将がそれぞれの思いでラピュスを見ていると、ラピュスは騎士達を見回して力の入った言葉を口にし続ける。


「だが私達には七竜将と言う強い味方がいる。彼等がいれば必ず生きてティムタームに帰れる!そしてもう一つ、何があっても絶対に諦めるな!諦めてしまえばその時点で全てが終わってしまう。だが諦めなければ必ず希望が生まれる、だから最後まで諦めるな!」


 ラピュスの言葉を聞いた騎士達はざわめくのを止めてラピュスの方を一斉に見つめる。彼等にとって今のラピュスは自分達に強い意志を与える聖者の様に見えたのだ。

 そこへヴリトラがラピュスの隣までやって来て彼女と同じように騎士達を見ながら力のある声を出した。


「俺からも皆に言っておきたい事がある。興味が無かったり、聞きたくなければ聞き流してくれていい」


 話しをしていたラピュスから突然話に参加して来たヴリトラの方へ視線を変える騎士達。傭兵と言えど、不思議な力と武器を持っている彼が何を言うのか少し気になるのだろう。ヴリトラの後ろではニーズヘッグ達は黙ってヴリトラの背中を見ている。


「・・・いいか皆?死ぬことを恐れろ!生き残りたいと言う意志を胸に刻んでおくんだ。家族の為、国の為、仲間の為にその命を懸けて戦う、決して悪い事じゃない。だが死ぬと分かって敵に突っ込んで行くのは勇気じゃない、ただの無謀だ!自分が死んで、残された者達がどんな思いをするのか、それを考えて自分の進む道を選択しろ。人間は死んでしまえばそれでお終いだ、死ぬ事を恐れてその恐怖を乗り越えて克服するんだ」


 ヴリトラの口から出た言葉にラピュスは目を丸くし、騎士達は意外そうな顔を見せる。傭兵は金の為ならなんでもし、雇い主に何かがあれた逃げだと言う印象が強かった。だが目の前にいる傭兵の青年は自分達の事を心配し、約束を守ると宣言した。騎士達にはヴリトラが自分達と同じような軍と言う組織の中で生きている者の様に見えたのだろう。

 話しを終えたヴリトラは真剣な表情からニヤリと笑った表情へと変わり騎士達を見回す。


「へっ、何しろ俺達は七竜将はそうやってこれまで多くの戦場を生き残って来たわけなんだからな」

「・・・でも、その中でお前は人一倍鉄砲玉だからな?」

「あたし達が待てって言っても話しを聞かなくてよく失敗してた事が何度かあったもんねぇ?」

「そうそう」


 ヴリトラの後ろで昔の話しやヴリトラの短所をさり気なく話すニーズヘッグ達。


「おまっ!?折角カッコよく決めてたのに、余計な事言うなよ!」

「あら?本当の事じゃない」


 振り返り、空気を読まずに自分の欠点を口にする三人を苦い表情で見つめるヴリトラと悪戯っぽく笑って言うジルニトラ。ニーズヘッグもヴリトラの反応を見た後に目を反らして小さく嘲笑し、ファフニールも口を押えて笑うのを堪えている。

 リーダーであるヴリトラを軽く扱うようなニーズヘッグ達を見てラピュスはまばたきをしながらボーっとしている。その一方で騎士達はヴリトラ達のやりとりを見て緊張が解けたのか小さく笑いだした。そんな騎士達に気付き、今度はヴリトラ達が意外そうな顔を見える。そして騎士達の不安が解けたと悟ったラピュスは騎士剣を抜いて空に掲げると、騎士達も同じように騎士剣を抜いて空に掲げた。


「皆!いよいよ私達の戦いが始まる。町で起きていた荒くれ者の相手や他の部隊の援護とは違う、私達自身の戦いだ!一瞬たりとも気を抜いてはいけない!・・・行くぞ!」

「「「「「おおーーーっ!!」」」」」


 ラピュスの号令で騎士達は大きな声を上げた。そこにはさっきまで大規模な敵と戦う事を恐れていた者達の面影はなかった。あるのは目の前の敵と戦う騎士としての真剣な表情だった。それを見たヴリトラ達も頷き、改めて意識を戦いへと入れ変える。


「一班は私と共に入口前にいる二班と合流して前線へ行き敵を迎え撃つ!三班は残って拠点を守れ!」


 ラピュスの指示を聞いて騎士達は敬礼し持ち場に着く。七竜将もそれぞれ自分達の役割を確認するように話をしている。


「俺とジャバウォック、ジルニトラの三人はラピュス達と一緒に前線へ行く。ニーズヘッグとファフニールは村で待機しろ。救援があったり村に近づいてくる敵を見かけたらその時はそっちを頼む」

「OK、任しといて!」

「こっちはなんとかする」


 指示を聞いて頷くジルニトラとニーズヘッグ。するとファフニールは考え込むような顔を見せてヴリトラを見上げる。


「でも、村に来る敵なんているのかなぁ?敵は石橋の方から来る敵だけなんでしょう?」

「いや、もしかするとその部隊の何人かが俺達の目を盗んで気付かれないように村に近づいてくる可能性だってある」

「別働隊って事?」

「ああ、と言っても感だけどな?」

「・・・分かった。村と残っている騎士の人達は私達が守るから」


 ヴリトラの説明を聞いて納得するファフニールは村に残る事を承諾する。話のまとまった七竜将を見てラピュスはヴリトラ達に近づく。


「こちらの準備は整った。そっちはどうだ?」

「こっちもOKだ。ニーズヘッグとファフニールは念のために村に残すことにした。だから前線に行くのは俺とジルニトラ、そしてジャバウォックの三人って事になるな」

「分かった。念のために拠点にも七竜将を残しておいが方がいいからな」

「ああ、それにまだリンドブルムとオロチもいる」

「あの二人は崖の上にいるんだぞ?あそこから前線までは走っても十分以上は掛かる。それだったら村に向かってもらった方が・・・」

「いんや、アイツ等ならすぐに前線に来れる」

「は?・・・どういう事だ?」


 いまいちヴリトラの言っている意味が分からないラピュスは小首を傾げながらヴリトラを見た。


「それはすぐに分かるよ。それに言っただろう?この戦いで俺達の本当の戦いを見せてやるって?」

「ああ・・・」

「その全てはこの機械鎧にある」


 ヴリトラは自分の左腕の機械鎧を見つめてゆっくりと口を開く。周りにいるニーズヘッグ達も同じように自分の体の一部と化している機械鎧を触る。その表情は何処か寂しさを感じられた。


「さぁ、行くぞ!」

「あ、ああ!」


 ヴリトラに言われてラピュス達は村の入口へと走って行き、敵の迎撃に向かった。

 遂に始まる七竜将と第三遊撃隊の戦い。彼等は五十人以上のストラスタ軍を相手にどう戦うのか。そしてヴリトラの言っていた七竜将の本当の戦い方が遂に明かされるのだった。


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