第二百五十六話 鷹を食らう竜達 賊を滅する強者の一撃!
ヴリトラ達が砦に到着するのと同時にジャルーヌ村を襲撃して来たホークレイド達。だがそんな彼等を村に残っていたリンドブルム達が迎え撃つ。見た事の無い姿と武器を持つリンドブルム達にホークレイド達は数で勝っている自分達が勝てると思い戦いを挑んだ。だが彼等は分かっていなかった。この戦いが負け戦になるという事を・・・。
空中から剣や槍を構えてリンドブルム達に突っ込むホークレイド達。リンドブルム達はホークレイド達の突撃を横に反れたりジャンプしたりなどして軽々と回避していく。しかもその表情にはまだまだ余裕がある様に見えた。
一方でホークレイド達は自分達の上空からの攻撃を簡単にかわすリンドブルム達に驚きと悔しさに表情を歪めていた。
「クソォ、何なんだあの連中?俺達の攻撃を簡単にかわしやがる!」
「俺達ホークレイドの攻撃をかわす事ができるなんて、アイツ等、本当に人間か!?」
空中からリンドブルム達を見下すホークレイド達は攻撃を意図も簡単にかわすリンドブルム達の回避力に動揺している。ホークレイドの空中での移動速度はヴァルトレイズ大陸に住む亜人種の中では最高の速さだ。つまり空中から地上の敵に攻撃する時の速さも亜人種の中では最高という事になる。その攻撃を軽々とかわしてしまうリンドブルム達を見て驚かない方がおかしい。ホークレイド達はリンドブルム達を見下して愕然とした。
ホークレイド達は攻撃をかわされると一旦上昇して高い位置からリンドブルム達を見下し動きを窺う。一方でリンドブルム達は約数mの高さまで上昇して自分達を見下ろしているホークレイド達をジーっと見上げている。
「相当驚いてるな、アイツ等?」
「そりゃそうでしょう。彼等にとって僕達は未知の敵なんだから、そんな敵と戦って仲間が一人やられ、しかも攻撃が一撃も当らないんだから」
「当然ね。あたし達は銃弾すらも簡単にかわしたり弾いたりできるんだから、あの程度の速さなら楽にかわせるわ」
ジャバウォックが驚くホークレイド達を見上げながら喋ると同じように見上げているリンドブルムとジルニトラが無表情で呟く。リンドブルム達にとってもホークレイドは戦った事の無い未知の敵だが、一年前までゴブリンやオークの様なモンスターと戦った経験のある彼等にとってはそれ程驚く事でもない。何よりブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士達と比べたら手強くもなかった。
三人がホークレイド達を見上げながら話していると黙っていたファウニールがギガントパレードの柄の部分を両手で握りながら三人の方を向いて口を動かした。
「ねぇ、何時まで攻撃を回避し続けるの?あまり戦いを長引かせない方がいいと思うよ?」
「・・・確かにそうだな。それじゃあ、そろそろ俺達も動くか」
ファフニールの話を聞き、ジャバウォックはデュランダルを構え直す。リンドブルムとジルニトラもそれぞれ愛銃を構えて上空のホークレイドを見上げた。ファフニールもギガントパレードをゆっくりと上げながら飛んでいる敵の方を見る。
武器を構えたリンドブルム達を見てホークレイド達も驚きながら武器を構えて警戒する。しかし、警戒しながらも彼等は心の中で「大丈夫だ」と考えていた。
「アイツ等、武器を構えやがった!」
「なぁに、心配ねぇよ。俺達は空を飛んでるんだ。大剣やデカいハンマーの攻撃は俺達には届かねぇ」
「それはそうだけよど、あのガキと女が持っている妙な武器は何なんだ?」
「知るか。そんな事よりもまずはあのデカいオヤジと小娘を始末するんだ。どんなに速く動けても四方から同時に攻撃すれば必ず隙ができる、そこを狙うんだ」
「そうだね、残ったボウヤと女はその後に始末すればいいさ」
「それならさ、あのボウヤは生かしておかない?あたし達の玩具にしちゃおうよ♪」
ホークレイド達は空中には剣などの武器の攻撃は届かいないと考えて余裕の態度で会話をしている。戦いにおいて空を飛んでる者こそが優位に立つ。だがそれでも油断していればとんでもない目に遭う事に彼等は気付いていない。そしてリンドブルム達は今の彼等にとって最悪の敵だった。
空中で余裕の態度を取りながらペラペラと話しているホークレイド達を見てリンドブルム達は呆れる様な顔をしている。ホークレイド達が自分達に攻撃が届かないと考えて油断している事を哀れんでいるようだ。
「アイツ等、俺達の攻撃が自分達に届かないと思って完全に油断してやがるな」
「バカよね?敵がどんな攻撃をして来るかも分からない状態で隙を作るなんて・・・」
「戦士としては失格だね」
油断しているホークレイド達を見てジャバウォック、ジルニトラ、ファフニールは呟く。その中でリンドブルムだけは何も言わずに呆れ顔のままホークレイド達を見上げ、両手に持っているライトソドムとダークゴモラを静かに上げてホークレイド達に狙いを付ける。
「戦場では僅かな油断が命取りになる・・・」
静かにそう呟いた直後、リンドブルムは二丁の引き金を引いた。二つの銃口から吐き出された弾丸は真っ直ぐ飛んで行き、一人のホークレイドの両翼を撃ち抜き風穴を開ける。
翼を撃ち抜かれた事でホークレイドは断末魔を上げながら落下していき地面に叩きつけられる。その光景を目にした他のホークレイド達の表情は急変し、さっきまでの余裕の表情は完全に消えていた。
「な、何だ!?」
「今、アイツ等何しやがった!?」
仲間が撃たれた事が理解出来ていないホークレイド達は動揺を見せる。その光景を見たリンドブルムは次のホークレイドに狙いをつけ、ジルニトラもサクリファイスで女ホークレイドを狙った。
「・・・避けてみな」
そう言ってジルニトラはサクリファイスの引き金を引く。無数の弾丸がホークレイドに向かって放たれ、翼も体もあっという間に蜂の巣にした。またホークレイドが一人やられ、他のホークレイド達も徐々に冷静さを失って行く。そこへジャバウォックとファフニールが追撃する。
高く飛び上がったジャバウォックは目の前にいる二人の男のホークレイドに向かってデュランダルを勢いよく横に振る。ホークレイド達は悲鳴を上げながら胴体から真っ二つにされて真っ逆さまに落下した。ファフニールも正面にいるホークレイドに向かってギガントパレードを振り下ろしホークレイドの脳天を殴打する。ホークレイドはもの凄い勢いで地面に叩きつけられて動かなくなり、あっという間に五人のホークレイドが倒れた。
「バ、バカな!」
「ば、化け物よコイツ等!」
遂に冷静さを完全に失ったホークレイド達は声を上げながら慌て始める。中には戦意を失い逃げ出そうとする者もいた。だが、その中でヨヨを襲っていたホークレイドの一人が仲間達の方を見ながら大きな声を出す。
「落ち着け!止まらずに動き回るんだ。飛び回って攻撃を避けながら反撃の隙を突いて攻めろ!」
(・・・ほぉ?仲間が取り乱している中で冷静さを保つとは、なかなかできるな)
仲間達を落ち着かせて何とか体勢を立て直そうとするホークレイドを見て意外に思ったジャバウォックは心の中で呟いた。他の三人も黙ったままそのホークレイドを見て他のホークレイド達の動きに注意する。
少しだけ冷静さを取り戻したホークレイド達は言われたとおり翼を広げてリンドブルム達の周囲を飛び回る。グルグルと四人の上空を飛び回るホークレイド達は武器を握りながらリンドブルム達を睨みつけており、リンドブルム達はそんな殺意を向けてくるホークレイド達を見上げながらジッとして警戒した。
しばらくすると空を飛んでいたホークレイドの一人が他のホークレイドを見て隙を見せているリンドブルムの左側面に向かって急降下し攻撃を仕掛けた。ホークレイドの持っている槍の先は銀色の光りリンドブルムの顔に迫る。
「まずはお前から死ね、ガキィ!」
リンドブルムをニヤリと笑いながら迫って来るホークレイド。だがリンドブルムはホークレイドの攻撃を読んでいたのかフッと襲ってくるホークレイドの方を向き、左手に持っているダークゴモラを上げてホークレイドの眉間に狙う。ホークレイドは自分の事に気付いていたリンドブルムを見て驚愕の表情を浮かべる。
「単純で読みやすい・・・」
低い声でそう呟いたリンドブルムはダークゴモラの引き金を引く。ホークレイドの眉間に銃創が生まれ、ホークレイドは地面に叩きつけられ、そのまま数回跳ねると俯せになり動かなくなる。また一人、ホークレイドを倒した事でリンドブルム達の顔には余裕が浮かび、ホークレイド達の顔に鋭さが増した。
「コ、コイツ等ぁ!」
新たに仲間を殺された事で一人のホークレイドが遂に怒りを爆発させたのかリンドブルム達を睨みつけながら持っている剣を振り上げて急降下する。
「待て!」
仲間が突っ込んで行くのを見て仲間に指示を出していたホークレイドが慌てて止めようとする。だが聞く耳を持たないホークレイドはそのまま四人に向かって行った。
リンドブルムは向かって来るホークレイドを見て「やれやれ」と言いたそうな顔で溜め息をつく。
「頭に血が上って突っ込んで来るなんて、猪みたい・・・・」
哀れむ様に呟くリンドブルム。ホークレイドにはその声は届いておらずそのまま剣を構えながら突っ込んだ。するとジャバウォックが素早くリンドブルムとホークレイドの間に入りデュランダルの持ち方を変える。そして突っ込んでくるホークレイドに意識を集中させながらデュランダルの柄を両手でしっかりと握った。
割り込んできたジャバウォックを見てホークレイドは先にジャバウォックから仕留めようと考えたのか剣を持ち変えて切っ先をジャバウォックに向ける。剣の切っ先がジャバウォックの2m前まで近づいて来た瞬間、ジャバウォックは目を鋭くしてホークレイドを睨んだ。
「・・・巨剣殴殺撃!」
技の名前らしき言葉を口にした瞬間、ジャバウォックをデュランダルの刃の平らな部分でホークレイドを横から殴打した。巨大な刃によって真横から殴られたホークレイドはそのまま十数m先まで飛ばされて地面に叩きつけられた。ホークレイドの腕や肩は殴られた事で骨が折れているのかありえない方向に曲がっており、死んではおらずピクピクと痙攣していた。
吹っ飛んだホークレイドを見てジャバウォックはデュランダルを軽く振って構え直す。その後ろでは同じように吹っ飛んだホークレイドを見ながらリンドブルムが口笛を吹いた。
「相変わらずの馬鹿力だね?」
「怪力と言ってもらおう」
「似たようなもんでしょう?」
「全然違う・・・そんな事よりも、さっさと残りを片づけちまおう」
軽口を叩き合いながら残りのホークレイド達を片づけようと空を見上げるリンドブルムとジャバウォック。ホークレイド達はあまりの力の違いにもう飛ぶ回ってかく乱する事も出来なくなっていた。リンドブルムとジャバウォックが一気に畳み掛ける為に攻撃を仕掛けようとする。するとそこへ二人の背後にいたジルニトラがホークレイド達と同じ高さまでジャンプした。サクリファイスはスリングで背負い、両手には何も持っていない状態だ。
いきなり跳ぶ上がって来たジルニトラとホークレイド達は意外そうな驚きながら彼女を見つめる。ジルニトラはホークレイド達に位置を確認すると両手の甲の装甲を動かし中からレーザーのリニアレンズを出した。そしてリニアレンズが赤く光り出すと飛び上がった状態のまま体を右へ回し出す。この時に両腕は真っ直ぐに伸ばしている。そして回るのと同時にリニアレンズから赤い光線が真っ直ぐに放たれ、ジルニトラは回転しながら周りにいるホークレイド達は全てレーザーで切った。
レーザーが消える頃には全てのホークレイド達は腹部や胸から横に真っ二つにされており、自分に身に何が起きたのか理解する間もなく地上に落下した。リンドブルム達の周りにはバラバラになったホークレイド達の死体が落ち、リンドブルムは自分の後ろに着地したジルニトラの方を向いて少し呆れる様な顔を浮かべる。
「・・・こんなにアッサリ全滅させられるんだったら初めからレーザー使ってよ?」
「まとめて倒せる位置に相手がいなかったから使えなかったのよ。警戒されない為にも一回で全滅させた方がいいでしょう?それにこれは一度使うと十五分使えなくなるんだから、隙を作る訳にもいかないの」
「ジルニトラが危ないって言える程大きな隙を作るとは思えないけどなぁ?」
「そんな事ないわ。あたしだって隙を作る時だってあるもの」
「自分で言いますか・・・」
両手の機械鎧の状態をチェックするジルニトラを見てリンドブルムはジト目で呟いた。
ジャバウォックは周囲を見回して他にホークレイドがいないかチェックをし、敵の姿が無い事を確認すると村中に聞こえるよう大きな声を出した。
「おーい!ホークレイド達は倒したぞぉ!」
安全を知らせる声を聞き、隠れていた村人達が玄関や窓の隙間から外の様子を窺う。その中でヨヨと村長は建物の中から出て来てリンドブルム達の下へやって来る。そして近くに転がっているホークレイド達の死体を見て驚くの顔を浮かべた。
「こ、これは・・・」
「ホークレイド達が全滅・・・」
「み、皆さんがやっつけたんですか?」
「まぁな」
驚きながら訊ねるヨヨにジャバウォックは無表情で頷く。他の村人達も安全だと分かると一斉に建物から外に出てリンドブルム達の下へ集まって来る。そして全滅しているホークレイド達を見て驚くのだった。
リンドブルム達は武器をしまい、近くに転がっているホークレイド達の死体の前まで来ると開いている瞳孔を閉じたり、彼等が使っていた武器を拾ったりなどをし始める。
「あ、あのぉ、何をされているのです?」
村長が不思議そうな顔で訊ねるとジャバウォックがホークレイドの死体を持ち上げながら村長の方を向いた。
「死体の片付けさ、いつまでも村の真ん中に置いておく訳にもいかないだろう?」
「は、はぁ?」
「それともアンタ達はホークレイド達への見せしめとして死体を飾っておくか?」
「い、いえ!そんな事は・・・」
「ならちゃっちゃと片づけて何処かに埋葬してやろう。アンタ達も手伝ってくれよ?」
「ハ、ハイ」
ジャバウォックに言われて村長や村人達はホークレイド達の死体の片づけに取り掛かる。村人の中にはホークレイド達の死体を恐れてなかなか触れようとしない者もいるが、我慢して死体を動かす者もいる。
死体を一ヵ所に集めてから埋葬の準備をする村人達。その光景は離れた所からリンドブルム達は見守っていた。
「とりあえず、これで村は大丈夫だろう」
「うん、また砦から別のホークレイド達が村に向かって来ない限りはね」
「ああ。だが、ホークレイド達も砦を空にするのは嫌だろうからあまりこっちに戦力は送らないはずだ」
「もうこれ以上は敵は来ない?」
「それは分からねぇ。だからヴリトラ達が戻るまで此処の守りは続ける。死体を埋葬したら念の為、村人達にはもう一度家の中に隠れてもらおう」
「その方がいいね」
リンドブルムとジャバウォックは村人達を見ながら埋葬後の事を話す。二人の後ろではジルニトラとファフニールが村の外を見ながらヴリトラ達の事を気にしていた。
「ヴリトラ達はどうしてるかな?」
「さぁ?もしかしたら、もう終わってこっちに向かってるんじゃない?」
「でも砦のある方からは銃声は聞こえなかったよ?」
「あたし達もさっきまでずっとホークレイド達と戦って騒いでたのよ?銃声を聞き逃しても不思議じゃないわ」
「あっ、そっか・・・」
「まぁ、アイツ等が本気を出せば銃器なんか使わなくても砦を制圧できるでしょうけどね」
ジルニトラは腕を組みながら砦のある方角を向いてニッと笑う。ヴリトラ達の実力なら盗賊の住む砦を制圧するなど簡単だと彼女は確信していた。
隣にいるファフニールもヴリトラ達の実力を十分理解している。故に不安そうな表情は一切見せていない。その後、二人はしばらく砦の方角を見つめた後に引き続き村の守りに入るのだった。
――――――
リンドブルム達がホークレイド達を倒した時から遡ること三十分、ヴリトラ達は茂みの陰から遠くにある砦を見て敵の様子を観察していた。十数人のホークレイドが村に向かって飛んで行った為、砦に残っているホークレイドも十五人ほどしか残っておらず、砦に攻め込むには絶好のチャンスと言える。
ヴリトラ達は双眼鏡や単眼鏡を使って砦の入口前や屋上に立って周囲を警戒しているホークレイド達の数を数えながら攻めるポイントを探していた。
「・・・さて、リンドブルム達にも知らせたし、俺達もそろそろ動くか」
「ああ、だが何処から攻めるんだ?」
「あまり時間を掛ける事はできない。正面の入口と屋上の両方から突入して一気に片を付ける。俺とラピュス、ニーズヘッグが正面から突っ込むからオロチは空を飛んで屋上へ向かってくれ」
「分かった」
「了解だ」
「了解・・・」
「ラランは此処からホークレイド達を狙撃してくれ。俺達が砦に辿り着いたらお前も砦に来い」
「・・・分かった」
ヴリトラはそれぞれに指示を出すと再び砦の方を向いて森羅を鞘から抜く。
「数は少ない今なら敵の前に出ても大丈夫だ。でもだからと言って油断はするな?それと、俺達の第一目的はヨヨの妹を救出する事だ。そして可能ならば神風盗賊団を壊滅させる事だ。まずはモモを確保する事を優先する。いいな?」
「分かってる」
アゾットを抜きながらラピュスはヴリトラの方を見て頷く。ニーズヘッグとオロチもアスカロンと斬月を手に取り、ラランはSR9を構えながらヴリトラを真面目な顔で見つめている。
全員の準備が整ったのを確認したヴリトラは砦の方を向いて静かに立ち上がり、ラピュス達もそれに続いて立ち上がる。
「・・・さて、それじゃあ、作戦開始だ!」
ヴリトラの合図でララン以外の全員が茂みから飛び出して砦に向かって走り出す。ラランは茂みから出ると片膝をついて姿勢を低くし、SR9を構えてスコープを覗き込み遠くにいるホークレイド達に狙いを付けた。
砦の正面入口前では槍を持った二人のホークレイドが周囲を見回しており、何も起こらずとても静かなせいか退屈そうな顔をしている。
「ふぁ~・・・退屈だなぁ・・・」
「仕方ねぇさ。此処は俺達の縄張りなんだ、近づくようなバカはいねぇよ」
「それでもここまで退屈だと腕が鈍っちまうよぉ・・・」
「確かにな、たまには俺等も仕事したいぜ」
「・・・そう言えば、さっき帰って来た奴等、獲物の娘を追ってたら変な格好をした連中に邪魔されたって言ってたな?」
「ああぁ、手首を握りつぶされそうになったって言ってた」
見張りのホークレイド二人はヴリトラ達と出会ったホークレイド三人の事を思い出すと周囲を見回すのをやめて話を始める。
「此処から2K離れた所にあるジャルーヌ村の近くにいた娘だからそこの村娘じゃないかって族長が言ってたな」
「だからさっき、その村を襲う為に十人近くの部隊がそこへ行ったんだよ。そろそろ村に着く頃じゃねぇの?」
「多分な・・・・・・ん?」
見張りの一人が遠くにある森の方を見ると森の方から砦に向かって走って来る三つの人影を見つける。
「どうした?」
「おい、あれ見ろよ」
もう一人の見張りが森の方を向いて近づいて来る人影をジッと見つめる。そして武器を構えて走って来るヴリトラ、ラピュス、ニーズヘッグの三人の姿を確認した。そして三人の真上にはジェットブースターを使って空を飛んでいるオロチの姿がある。
近づいて来る四人の姿に二人のホークレイドは槍を構えて目を鋭くしヴリトラ達を睨む。見た事の無い格好をしている四人にホークレイド達は警戒する。
「何だ、あの連中は?変な格好してやがるな・・・」
「この辺りじゃ見かけない顔だ・・・・・・あっ!もしかして、アイツ等が例の村娘の捕獲を邪魔したっていう連中じゃねぇか?」
「何?・・・だが、そうだとしても何で此処にいるんだよ?」
ヴリトラ達が砦に来た理由が分からずに難しい顔をする見張りの二人。そうしている間にもヴリトラ達は徐々に砦への距離を縮めていく。するとオロチは一気に上昇し、屋上に向かう為にジェットブースターの火力を上げる。
見張り台にいたホークレイドが近づいて来るオロチを見て咄嗟に弓を構えた。
「ま、待て!それ以上近づくと矢を撃つぞ!?」
警告するホークレイド、だがオロチは警告を聞かずに斬月を構えながら屋上へ向かって行く。警告を無視したオロチを撃ち落とそうとホークレイドはオロチに狙いを付けて矢を放とうとした。
その時、突然銃声が聞こえ、それと同時にホークレイドの額に銃創が生まれる。撃たれたホークレイドは矢を放つのと同時に仰向けに倒れて動かなくなり、放たれた矢はオロチの顔の真横を通過しただけでオロチは無傷のまま屋上へ到着した。ヴリトラ達が走って来た森の前ではSR9を構えるラランがおり、銃口からは煙が上がっている。先程の銃声はラランの援護狙撃だったのだ。
オロチが屋上に到着したのを見た入口前の見張り二人は驚きのあまり表情が固まる。だがすぐに走って来るヴリトラ達の方を見て槍を構え直した。
「お、お前等!どういうつもりかしらねぇが、俺達に喧嘩を売ったからには死んでも文句は言えねぇぞ!?」
「俺達に逆らった事を地獄で後悔させてやる。さぁ!誰から先に死に・・・」
ホークレイドの二人がヴリトラ達を威嚇していると再びラランの援護狙撃が放たれ、見張り二人の額を撃ち抜いた。見張りのホークレイド達は何が起きたのかを理解する事も出来ないまま絶命し、ヴリトラ達は何もせずに無事に正面入口前に到着する。
入口前に着くとヴリトラはすぐに周囲を警戒して他に敵がいないかを確認する。確認し終わるとすぐに小型通信機のスイッチを入れてオロチとラランに連絡を入れた。
「正面入口に無事に到着した。これから中へ突入する。オロチはそのまま屋上から中へ入ってモモを探してくれ。俺とラピュスもこれから中へ入る。ニーズヘッグはラランがこっちに来てから一緒に突入しろ」
「「「「了解!」」」」
ヴリトラは小型通信機を使って四人全員に指示を出し、四人も声を揃えて返事をする。通信を切るとオロチは斬月を構えて屋上の入口から砦の中へ突入し、ヴリトラとラピュスも正面入口から砦の中へ入って行く。残ったニーズヘッグは遠くにいるラランに向かって手を振り、ラランは周りを警戒しながら砦へと走り出した。
村のホークレイド達を全員倒したリンドブルム達。ヴリトラ達も砦へ突入しモモの救出作戦を開始する。いよいよ作戦も本格的になり、戦いはより激しさを増していくことになるのだった。




