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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十四章~竜達の帰還~
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第二百五十話  テロリスト壊滅! 終わる戦いと始まる物語


 一階を制圧し、次に二階の制圧を行うヴリトラ達。だが、一階の確保をする為に残ったヴリトラ、ラピュス、リンドブルムの前に突如四足歩行のロボットが現れる。そのロボットを操縦している者はテロリストのリーダーだった。襲い掛かるロボットを止める為に三人はロボットとの戦いを始める。

 広い一階の中心に立つロボットを三方向から囲むヴリトラ達。ロボットはリニアレンズを光らせて正面に立つヴリトラを見つめている。ヴリトラは森羅を構えながらロボットが動くのを待っていた。


(・・・さて、どう動くか。あのワールド・ディフェンス社が開発したロボットだ、それなりに高性能に違いない。恐らく武器もあの二門の重機関銃だけじゃないはず。まだ何処かに武器が・・・)


 心の中でロボットの武装を考えるヴリトラ。ロボットの右側に立つラピュスと左側に立つリンドブルムも自分達の武器を構えてロボットが動くのをジッと待っている。ロボットがどんな構造でどれ程の武装をしているのか分からない以上、迂闊に攻撃する事はできなかった。

 操縦席では何時まで経っても動かないヴリトラを見てリーダーが操縦かんを指で何度も叩きながらイライラしている姿がある。折角自分が動いて戦おうとしているのに動こうとしない姿にリーダーはプライドを傷つけられた様な気分だった。


「コイツ等ぁ・・・俺のアジトを滅茶苦茶にした挙句、俺を完全に舐めきってやがって!俺みてぇな奴は動く必要も無いってか?だったらたっぷりと後悔させてやるぜ!」


 一人で勝手な思い込みをするリーダーは操縦かんを強く握りロボットを動かし始めた。ロボットは四本の脚を動かして目の前に立つヴリトラに向かって歩き出す。

 近づいて来るロボットを見てヴリトラは意識をロボットに集中させ、相手がどんな攻撃を仕掛けて来てもすぐに対応できるようにした。するとロボットは歩きながら重機関銃を乱射しヴリトラを攻撃する。ヴリトラは真剣な表情で飛んで来る弾丸を森羅で落ち着いて弾き落としていく。そこへ近づいて来てロボットが銃撃をやめ、右前足を大きく上げてヴリトラを踏みつぶそうとする。ヴリトラはロボットの前足を見上げると素早く左へ移動し踏みつけを回避した。


「モーションがデカい、これなら簡単にかわせる!」


 ヴリトラはロボットの攻撃を簡単に回避できると知って小さな笑みを浮かべる。そして踏みつけをかわされてがら空きになったロボットの右前脚の関節部分を狙って森羅を振った。

 森羅の刃は関節の隙間から装甲の下にあるロボットの骨組みを切るが傷は浅く殆どダメージを与えられていない。手応えがないと感じたヴリトラは反撃を受ける前に大きく後ろへ跳んでラピュスの隣まで移動した。


「手応えはあったのか?」

「いや、ダメだった。脚を切るにはあの装甲を剥がすのが先だ。でないと骨組みを正確に狙えない」

「よし、それならまずはロボットの体勢を崩そう。そうすれば装甲を切る隙ができるはずだ」

「ああ!」


 脚を切る為には装甲を剥がし、それをする為にはまずロボットの体勢を崩す。作戦を決めたヴリトラとラピュスは二手に分かれて行動を開始する。

 ヴリトラは再びロボットの正面まで移動して注意を引き、その間にラピュスがロボットの右後脚へ向かって走り出す。ロボットがヴリトラの方を見ている隙に近づいたラピュスはアゾットで右後脚の膝裏を叩く様に切る。すると右後脚がガクッと曲がり体勢を崩したロボットは右斜め後ろへ傾いた。


「うおおおぉ!?」


 突如ロボットが揺れて操縦席のリーダーは驚き思わず声を上げる。素早くコンピューターを操作してモニターの画面を切り替え、曲がった右後脚とラピュスの姿を確認した。


「あの女、いつの間に!」


 ラピュスの姿を確認したリーダーはロボットの体勢を直そうと操縦かんを握りモニターの画面を元に戻した。するとモニターに右前脚の装甲を森羅でバラバラにしているヴリトラの姿が映る。

 既に右前脚の装甲は剥がされて骨組みが姿を現しており、その光景にリーダーは目を丸くして驚く。一方でヴリトラはバラバラになって地面に落ちている装甲を見て小さく笑った。

 

「へっ、意外と薄い装甲だな。これならそれ程苦戦はしないっ!」


 自分達が有利な戦況である事にヴリトラは笑いながらそう言って森羅を両手で握る。そして装甲が剥がれている右前足に向かって勢いよく森羅を振り下ろした。

 右前足は根元からバッサリと切られて大きな音を立てながら地面に転がる。そしてロボットも右前足を切り落とされた事で今度は右斜め前へ倒れて更に体勢を崩した。


「ぐおおおぉ!み、右脚が切り落とされただと!?」


 今度は脚を切り落とされた事で更にリーダーは驚き声を上げた。しかし脚を一本失ったぐらいで動けなくなるようなロボットではなかったのか残った三本の脚で体勢を直したロボットはヴリトラとラピュスの方を向いてリニアレンズを光らせる。

 まだ動けるロボットを見てヴリトラとラピュスは少し意外そうな顔をするが慌てる事なく構え直してロボットの出方を見る。するとロボットの両側面の装甲が開き、中からミサイルポットが飛び出し二人を狙う。


「二人まとめて吹き飛ばしてやる!」


 リーダーはヴリトラとラピュスに狙いを付けて操縦かんのスイッチを押す。それと同時に二つのミサイルポットから無数のミサイルが発射されて二人に襲い掛かる。


「ヤベッ!やっぱり武装は重機関銃だけじゃなかったか!」


 大量のミサイルを目にしヴリトラは驚き、ラピュスも目を見張って向かって来るミサイルを見つめていた。二人はロボットに背を向けると同時に走り出してミサイルから逃れようとする。だがミサイルは追尾型なのかしっかりと二人にくっついていた。

 走りながら振り返り、しつこくついて来るミサイルを見るヴリトラとラピュスの表情が歪む。いくら二人でも一度に大量のミサイルが飛んで来たら逃げるしかなかった。


「クソォ、しつこいミサイルだなぁ!」

「ヴリトラ、何とかしろぉ!」

「無理だ!オートマグじゃあんなに大量のミサイルを全部落すなんて事はできねぇよ!」


 走りながら大きな声を出すヴリトラとラピュス。そうしている間にもミサイルは徐々に二人に近づいて行き距離を縮めていく。近づいて来るミサイルを見て絶体絶命と感じる二人。だが次の瞬間、突然ミサイルと一つが爆発し、それの続くように次々とミサイルが爆散していく。


「何だ?」

「ミサイルが・・・」


 突如空中で爆発したミサイルに驚くヴリトラとラピュス。そんな中、広場内に銃声が響き、それと同時にまたミサイルが爆発する。

 銃声を聞いた二人が走りながら銃声の聞こえた方を向くと、そこにはリンドブルムがライトソドムとダークゴモラを構えている姿があった。先程の爆発がリンドブルムがミサイルを撃った事で起きたものだったのだ。

 二人がリンドブルムの姿を確認するとリンドブルムがヴリトラとラピュスの方を見てニッと笑う。


「僕の事を忘れてもらっちゃ困るな!」


 そう言ったリンドブルムは再びライトソドムとダークゴモラを撃ち、残りのミサイルを全て破壊した。

 ミサイルが撃ち落とされたのを見て目を疑うリーダー。するとロボットを動かして今度は遠くに立っているリンドブルムの方を向きモニターに映る彼の顔を睨む。


「今度はあのガキか。くうううぅ!どいつもこいつも俺の邪魔をしやがってぇ~!今度はお前をミサイルで吹き飛ばしてやる!」


 頭に血が上ったリーダーはヴリトラとラピュスからリンドブルムに狙いを変えて重機関銃を乱射し攻撃した。リンドブルムは素早く左へ走り銃撃をかわすとライトソドムで左側のミサイルポッドを狙って撃つ。弾丸はミサイルポットから頭を出しているミサイルに命中しそのミサイルはミサイルポットの内部で爆発、左側のミサイルポットは粉々に粉砕された。

 爆発で機体が大きく揺れ、操縦していたリーダーは衝撃で壁に頭をぶつける。


「うううう!こ、今度は何だ・・・・・・バ、バカな!ミサイルポットが吹っ飛んだだと!?」


 状況を確認する為にコンピューターを操作するリーダーはモニターに「左ミサイルポット破損」と表示されているのを見て声を上げた。いくら機械鎧兵士でもミサイルポットをこんな簡単に破壊するなど考えられないからだ。

 リーダーは改めて今自分が相手している傭兵達が只者でないことを理解する。いや、只者ではない事は最初から分かっていた。彼は七竜将が機械鎧兵士の中でもずば抜けた実力を持つ者だという事を知ったのだ。

 モニターを見て体を震わせるリーダー。すると今度は前の方から何かが壊れた様な音が聞こえ、慌ててモニターの画面を替える。そこには二門の重機関銃を切り落としてニッと笑っているヴリトラの顔が映っていた。


「やっほ~♪」

「!」


 ヴリトラの笑顔を見てリーダーはなぜか怒りではなく恐怖を感じ取り固まってしまう。目の前にいる大きな力を持つ傭兵達と最新型の戦闘ロボットに搭乗する自分との力の差、あまりにも強大な力を持つ存在にリーダーは絶望と無力感を感じていた。

 リーダーが力の違いの固まっていると画面に映るヴリトラは大きく後ろへ跳んでロボットから距離を取った。ヴリトラの行動を見て不思議に思うリーダー。すると突然操縦席内に警告のアラームが鳴り響き、リーダーは思わずビクッと反応する。原因を調べると後方に何かあると知り、後方の映像をモニターに映す。そこにはレールガンシステムを使いスパークを纏ったライトソドムでこちらを狙っているリンドブルムの姿があり、それを見たリーダーは更なる恐怖を感じ取った。


「チェックメイト」


 リンドブルムはそう口にした瞬間にライトソドムの引き金を引いた。ライトソドムの銃口から轟音と共に弾丸がもの凄い速さで吐き出され真っ直ぐロボットの背中に向かって飛んで行く。超高速の弾丸はロボットの胴体のど真ん中に命中しそのまま操縦席にいるリーダーもろとも貫通した。

 背後からの銃撃でロボットごと体を貫かれたリーダーは咳き込みながら吐血をしコンピューターの画面に寄り掛かるように倒れる。急所を貫通していたリーダーは動く事ができなかった。


「あぁ・・・何が・・・起きたんだ・・・よ・・・」


 現状が理解できないリーダーはただ弱々しい声で呟く。するとレールガンによって貫通した操縦席のあちこちでスパークが起こりコンピューターが小さな爆発を起こす。操縦席内のコンピューターが全て爆発すると操縦席は炎に包まれる。ロボットからは煙が上がり、やがてロボットは完全に機能を停止させる。そしてロボットは広場の真ん中で大爆発を起こした。

 爆発し広場のあちこちにロボットの残骸が飛び散り、足元に落ちた残骸を見たヴリトラは静かに森羅を鞘に納めた。合流したラピュスとリンドブルムもアゾットと愛銃を納めて炎を上げるロボットを見つめる。


「フゥ・・・何とか片付いたな」

「まさかあんな戦闘ロボットまで手に入れてたとはね」

「ああ、しかもそれを提供していたのがドイツでも有名なワールド・ディフェンス社だったんだ。こりゃあドイツ中が大騒ぎになるな」


 警察に協力している兵器会社がテロリストにまで武器を与えていた事に複雑な表情になるヴリトラとリンドブルム。その隣ではラピュスが不思議そうな顔で二人の話を聞いている。ラピュスはファムステミリアの人間である為、地球の大企業の事をまだ殆ど知らなかった。故にワールド・ディフェンス社がテロリストに手を貸す事の意味がよく分からなからないのだ。

 三人が燃え上がる炎を見ていると破壊された正面入口の扉から大勢の人間が入って来た。それに気づいた三人はフッと扉の方を向いて武器に手を掛ける。だが入って来たのはテロリストではなくGSG9の隊員達と地元の警官達だった。三十分は掛かると思っていた予想以上に早くやって来た彼等を見てヴリトラ達は意外そうな顔を見せる。

 先頭で銃を構えていたGSG9の隊長はヴリトラ達の姿を見つけると三人の下へ駆け寄って来た。


「アンタ達、七竜将のメンバーだな?」

「ええ、アンタがGSGの隊長さん?」

「そうだ。これは一体何があったんだ?」


 広場内を見回して隊長は驚きながら訊ねる。ボロボロになっている地面や壁、破壊されて煙を上げる車両、そして倒れている大勢のテロリスト達、それは広場での戦いが激しかったのを物語っていた。

 ヴリトラは足元に落ちているロボットの残骸を拾い上げ、それを見つめながら口を動かす。


「連絡が行ってるはずだぜ?一階の広場を制圧したから突入してくれって」

「ああ、それは偵察隊から聞いている。だがここまで派手になっているとは聞いていないぞ」

「そりゃあ、数十人のテロリストをいっぺんに相手にしたからな。一度の攻撃で大勢の敵を倒せるよう威力のデカい武器を使ったんだよ」

「そ、そうなのか・・・」


 サラッと言うヴリトラを見て隊長は呆然とする。突入して来たGSG9の隊員達や警官達は散開しまだ生き残っているテロリストがいないか調べたり、テロリスト達が使っていた武器のチェックを始めた。大勢の警官が広場に入って来た事で広場は一気に騒がしくなる。そんな中でヴリトラは隊長と会話を続けた。


「・・・あっ、それからまだ二階の方にテロリスト達が残っているから気を付けてくれ」

「何?まだテロリストが残っているのか?」

「ああ、俺達の仲間が今制圧に行って・・・」


 ヴリトラが隊長に二階の状況を説明しようとすると突然ヴリトラ達の小型通信機からコール音が鳴る。ヴリトラは口を止めて小型通信機のスイッチを入れて応答した。ラピュスとリンドブルムも同じように応答する。


「こちらジャバウォック。ヴリトラ、今大丈夫か?」

「ジャバウォックか、ああ問題ねぇよ。今警察が工場に着いたところだ」


 小型通信機から聞こえてきたジャバウォックの声を聞き、ヴリトラは一階の状況を伝えた。

 ラピュスとリンドブルムも小型通信機のスイッチを入れている為、二人にもジャバウォックの声が聞こえている。だが通信が聞こえない隊長には三人が誰と会話しているのか、どんな内容なのかも分かっていない。


「それで二階はどんな状態なんだ?」

「二階の制圧は終わったぜ。最初は抵抗して来たが半分近くのテロリストを倒したら、アイツ等手の平を返したように投降しやがった」

「それじゃあ、もう抵抗しようとするテロリストはいないんだな?」

「ああ、大丈夫だ。テロリスト共は今広い部屋に集まって大人しくしてるぜ?」


 二階で暴れていたテロリスト達が投降したと聞き、三人は顔を見合って微笑む。ヴリトラの話を聞いていた隊長は二階の戦いが終り、しかもテロリスト達を投降させたという事を察したのか更に驚いた顔でヴリトラ達を見つめていた。

 そんな隊長をチラッと見たヴリトラは小型通信機の向こう側にいるジャバウォックと話を続けた。


「分かった、そっちにGSGと警官を何人が送ってもらうから彼等が来たらお前達は下に来てくれ。色々と話したい事があるしな」

「了解だ」


 指示を出したヴリトラは通信を切り、ラピュスとリンドブルムも同じようにスイッチを切った。ヴリトラは自分達を見ている隊長の方を向くと彼の後ろで動いている隊員達を指差す。


「二階の制圧が完了したらしいから何人か二階に向かわせてくれないか?流石に六人で何十人ものテロリストを見張るのは大変だからな」

「わ、分かった・・・だが、たった六人で二階のテロリスト達を投降させたなんて・・・」

「信じられない?」

「当然だろう!?」

「・・・だけど、現実に制圧して仲間が連絡を送って来た」


 無表情で隊長を見つめながら喋るヴリトラ。そんな彼を見た隊長は驚きの顔のまま黙り込む。そして隊長は作業をしている警官達の下へ行き二階へ向かうよう指示を出す。警官達も二階も制圧されている事を知ってかなり驚いていたが、隊長に早く行くよう言われ驚きながら二階へ続く階段へ走り出した。

 警官達が二階へ向かったのを確認したヴリトラは持っている残骸を見つめ、指示を出している隊長の下へ向かう。そして隊長の肩を突きながら声を掛けた。


「隊長さん」

「んん?何だ?」

「ちょっと見てもらいたい物があるんだ」


 そう言ってヴリトラは持っていたロボットの残骸を隊長に見せた。残骸には大きくワールド・ディフェンス社のマークが付いており、それを見た隊長は目を見張って驚き残骸を手に取る。


「こ、これはワールド・ディフェンス社のマークじゃないか!どうしてこんな物が此処に!?」

「・・・テロリスト共に武器を提供していたのはワールド・ディフェンス社だったんだよ」

「な、何だって!?そんなバカな!」

「それが証拠さ。残念だけどな・・・・」


 真剣な顔をしたヴリトラは隊長にワールド・ディフェンス社とテロリスト達の関係を伝えた。ドイツでも最大手の企業がテロリストに加担している、その事実を知った隊長は固まってしまう。その近くで二人の話を聞いていた他の隊員や警官達も驚き、一斉にざわめき始める。

 それからしばらくして二階を制圧に向かっていたジャバウォック達が下りて来てヴリトラ達と合流しワールド・ディフェンス社の事を聞く。ジャバウォック達も最初は驚いていたが残骸のマークとテロリストが大量の武器を手にしているのを確認して納得する。それから七竜将は警察と協力し合い戦いの後始末をし町へ戻ったのだった。


――――――


 翌日、テロリストグループのドイツ救済同盟が七竜将によって壊滅した事がドイツ中に報道されて大きな衝撃を与える。更にドイツでも巨大な兵器会社であるワールド・ディフェンス社がドイツ救済同盟に武器を提供していたという事も明るみとなりマスコミは大混乱となった。

 警察はワールド・ディフェンス社にテロリストへの加担を追及するも会社側は真っ向からこれを否定。だがロボットの残骸とテロリスト達の使っていた武器や武器の輸送情報を突きつけると言い逃れできないと判断したのか会社側は素直に事実を認めた。ドイツ最大手の企業がテロリストに手を貸していた事が世間に知られたら大パニックになる可能性もありマスコミは今回のスキャンダルを報道するか悩んだ。だが連邦警察局と地元警察が何か起きた時は責任を取るという形で報道するよう訴えて来た為、マスコミは報道を決意した。当然ワールド・ディフェンス社は今回の一件で大失脚。社長を始めテロリストに加担した重役達は全員解雇処分を受け、ワールド・ディフェンス社は他社によって買収される。ドイツの全住民は今回の大スキャンダルに愕然としたのだった。

 清々しいベルリンの朝。町にある大きなホテルの一室にヴリトラ達の姿はあった。全員が一室に集まり、寝間着姿で朝食を取っている。そこには昨日テロリストのアジトで命を掛けて戦っていた戦士としての彼等の姿は無く、ごく普通に朝食を食べている九人の姿があった。


「・・・以上が昨日の夜に発表されたドイツ救済同盟の壊滅と彼等に武器を提供していたワールド・ディフェンス社に下された処分の詳しい内容になっております。テロリストと直接繋がりを持っていた重役は逮捕され、後日裁判の日取りを発表するとの事です。では続きまして・・・」


 画面の中のキャスターが次のニュースを話そうとした時、ヴリトラはテーブルの上のリモコンを押してテレビの電源を切る。そしてリモコンを元の場所へ置き、目の前のコーヒーを口にした。周りではラピュス達が静かに朝食を食べている姿がある。


「昨日の夜からずっとこのニュースばかりだな・・・」

「仕方ねぇよ。何しろドイツでも有名は兵器会社がテロリストに加担してたんだからな」


 ヴリトラの言葉にジャバウォックがトーストをかじりながら答え、その隣ではニーズヘッグがスープを飲んでいる。そしてテーブルの真ん中に置かれてある新聞を見た。そこにはワールド・ディフェンス社の事が一面に載っており、ニーズヘッグは持っているスプーンを置くと新聞を手に取って広げる。


「アイツ等に協力していたっている重役、テロリストに弱み握られてたんだってな?」

「ああ、大量の兵器を作る為に会社の金を横領し、その事がテロリストの一人に知られちまったらしい」

「だからテロリストの言いなりになっていたのか。情けない奴等だ・・・」


 ジャバウォックの向かいの席に座っているオロチが目玉焼きをナイフで切りながら低い声で言う。ドイツの大スキャンダルのせいで首都のベルリンは今も騒がしくなっておりヴリトラ達も落ち着いてベルリンを歩く事もできず不便な思いをしていた。そのせいで七竜将の中には不機嫌な状態の者もいる。

 すると暗くなっているヴリトラ達を少しでも明るくしようとリンドブルムとファフニールが笑いながら話題を変えて来た。


「そう言えば、今回の依頼の報酬は結構なものだったんでしょう?」

「いくらだったの?」

「ん?・・・今回は大規模なテロリストのアジトを制圧するって内容だったからな。しかも殆ど俺達だけで制圧した様なもんだったから報酬はかなりのものだったぜ。確か・・・全部で十万ユーロだったかな」

「十万?日本円で一千万円くらいあるじゃん!」

「凄いね!」


 予想以上の報酬額にリンドブルムとファフニールは思わず笑みを浮かべる。そんな二人を見てヴリトラ達も少しだけ気分が良くなったのか小さく笑った。

 ヴリトラ達が報酬の話をしていると突然誰かのスマートフォンから着信音が聞こえ、ヴリトラ達は一斉にスマートフォンの方を向く。


「誰のだ?」

「ああ、俺だ」


 ニーズヘッグが席を立ちスマートフォンを手に取って出た。


「もしもし・・・・・・ああぁ!おはようございます。ええぇ・・・ハイ・・・今はドイツですが・・・ええぇ・・・・・・えっ?本当ですか!?」


 突然ニーズヘッグが大声を出し、ヴリトラ達はフッとニーズヘッグの方を向いた。するとニーズヘッグは耳からスマートフォンを離しヴリトラ達の方を向く。


「皆!アレクシアさんからだ!例の装置が完成したらしいぞ!」

「「「「「「「「!!」」」」」」」」


 ヴリトラ達が一斉に目を見開いて驚きの反応を見せる。ヴリトラの師匠であるアレクシアからの連絡、そして例の装置の完成と共に驚く一同、一体何が完成したのか。


「・・・ユートピアゲートの装置が、完成した?」

「ああ!」


 驚きながら確認するヴリトラにニーズヘッグが笑って頷いた。するとラピュス達も笑みを浮かべて隣に座っている仲間達と顔を見合う。そう、実は今はあの時にアレクシア達から言われていたユートピアゲートの装置が完成すると言われていた一年後だったのだ。

 テロリストを壊滅させたヴリトラ達の下に届いた一本の電話。その相手はヴリトラの師匠であるアレクシア、そして彼女からユートピアゲートの装置が完成したという知らせを受けた七竜将。それはヴリトラ達はファムステミリアに戻れる時が来たという事を知らせるものだった。


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