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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十四章~竜達の帰還~
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第二百四十六話  ティアマットとテュポーン


 ドイツで起きた事件を解決する為に警察に雇われた七竜将はGSG9の許可を得てテロリストが隠れている廃工場がある森の中へ入って行く。情報の少ないテロリストに七竜将はどのような作戦を行うつもりなのか。

 ジャバウォック達が森の中へ入った頃、テロリストのアジトから右に400m離れた所にある崖の上からアジトを双眼鏡で覗き見ているGSG9の偵察隊の姿がある。六人の隊員はそれぞれ俯せになり双眼鏡やSG551に取り付けられているスコープを覗いて敵の様子を窺っていた。


「今のところは大きな動きは無いな」

「ああ、だけど隊長はどうするつもりなんだ?」

「言ってただろう?できるだけ情報を集めてから作戦を立てるって」

「だけどよぉ、俺達じゃ得られる情報には限界があるだろう。良い作戦を立てる程の情報なんて得られるかどうか分からないぞ」

「た、確かに・・・」


 多くの情報を得られない事に不安そうな表情を浮かべる隊員達。だが、だからと言って偵察をやめる訳にはいかない。自分達も優秀なGSG9の隊員だ、エリートとしてのプライドがある。そして何より、任務を途中で投げ出すなんて事は彼等にはできない。

 隊員達は双眼鏡を覗き込んで廃工場の渡り廊下や見張り台にいるテロリストの人数や武装、立ち位置を正確にチェックして少しずつ情報を集めて行く。


「あの廃工場はかなりの大きさで外で見るよりも中は広いって噂だぜ?」

「ああ、以前あの工場を使っていた連中の話ではあそこに大きな地下室もあるらしい」

「・・・そうなんだ」


 突如聞こえてきた少女の声にビクッと反応する隊員達はフッとSG551を握り声のした方を向いた。そこには十代前半位のおかっぱの少女が俯せになって単眼鏡で廃工場を覗いている姿があり、背中にスナイパーライフルの「H&KSR9」と中世の騎士が使う突撃槍が背負われていた。その少女はジャバウォック達と同じ灰色の特殊スーツを着ている。そう、彼女はあの幼い姫騎士、ラランだ。見た目は殆ど変っていないが戦士としての雰囲気は更に強くなっていた。

 いつの間に自分達の隣にいるラランを見て隊員達は素早く起き上がりSG551を構え銃口をラランに向ける。


「お、お前、一体何時からそこにいた!?」

「何者だ!テロリストの仲間か!?」

「・・・しいぃ。見つかる、姿勢を低くして」


 ラランは冷静に隊員達の方を向いて姿勢を低くするよう伝える。隊員達も敵意を向けていない目の前の少女に少し動揺するが、敵に見つかる危険性を考えて言われたとおりもう一度俯せになった。

 それからしばらく沈黙が続き、落ち着けない隊員達はチラチラと隣にいる仲間達の顔を確認し合う。やがて一人の隊員がラランの方を向いて小声で声を掛ける。


「おい、お前は一体何なんだ?どうして子供がこんな所に一人でいる?」

「・・・私、傭兵」

「よ、傭兵?お前が?」

「・・・・・・」


 隊員の方を向いてラランは黙って頷く。


「一体何処の傭兵なんだ?」

「・・・七竜将」

「何っ!?」


 隊員達は思いもしなかった傭兵隊の名前に目を見張って驚く。彼等も当然七竜将の事は知っている。故にその傭兵隊の一人が自分達の隣で自分達が観察しているテロリストのアジトである廃工場を同じように観察している事に驚いていたのだ。

 ラランは隊員達の驚きの顔をしばらく見つめているとまた廃工場の観察に戻る。隊員達はそんなラランの冷静さにポカーンとしていたが自分達の役目を思い出して廃工場に視線を向けた。


「・・・お前、本当に七竜将なのか?」

「・・・さっきからそう言ってる」


 しつこく確認してくる隊員にラランは相変わらずの無表情と小さな声で返事をする。そんなラランの態度にムッと気に入らなそうな反応をする隊員達。すると今度は別の隊員がラランの方を向いてこんな事を聞いてくる。


「もしかして、君がファフニールとか言う子か?」

「・・・違う、ファフニールは此処にはいない。私は『テュポーン』」


 ラランは廃工場を観察しながら自分の事をテュポーンと名乗る。このテュポーンと言う名前こそがラランの七竜将での暗号名コードネームなのだ。

 隊員達は聞いた事の無い暗号名に仲間の顔を見ながら不思議そうな反応を見せる。


「テュポーン?聞いた事の無い名前だな」

「・・・私はあまり大きな活躍はしていない」


 自分があまり戦場で活躍していない事を話すララン。その事は気にしていないのか表情を変える事無く観察を続けている。廃工場の渡り廊下や入口前、倉庫の近く、廃工場の周りにある岩場や今自分がいる崖の真下など細かく見回して敵の位置を正確に確認していくララン。その姿が嘗ての幼い姫騎士とは違い、どんな戦況でも冷静に対応できる歴戦の戦士の様だった。

 幼い少女が自分達の様に緊張した様子も見せずに敵の状況を確認する姿に再び驚きの顔を浮かべる隊員達。しばらくそんなラランの姿を見ているとラランは廃工場を観察するのをやめて耳にはめてある小型通信機のスイッチを入れ、誰に連絡を入れ始めた。

 小型通信機のスイッチを入れ耳の中に響く呼び出し音を聞いているララン。すると誰かが応答しラランは小型通信機に指を当てながら廃工場の方を向く。


「・・・こちらテュポーン、誰か聞こえる?」

「こちらジャバウォック、聞こえてるぜ」


 小型通信機から聞こえてくるジャバウォックの声を聞いたラランは廃工場を見ながら自分が得た情報を伝え始める。


「・・・今、廃工場を見渡せる崖の上にいる。あと、ドイツの特殊部隊の人にもあった」


 ラランはチラッと自分の隣で俯せ意になっているGSG9の隊員達を見ながら話す。実はラランが今いる崖に来たのは偶然ではなく、ジルニトラから連絡を受けて偵察隊と合流する為にやって来たのだ。そんな事も知らずに隊員達は通信をしているラランを黙って見ていた。

 隊員達の反応を確認したラランは再び廃工場に視線を戻して説明を続ける。


「・・・此処から確認できる数だけでも二十人前後はいる。皆突撃銃を持ってかなりの重武装。配置も廃工場の色んな所を見渡せる位置でちょっと面倒・・・」

「ああぁ、大体の人数はこっちでもGSG9の隊長さんから聞いた。だがそれはあくまで外で見張りをしている奴等だ。まだアジトの中には結構な数がいるらしい、最低でも五十人近くはいるって言ってたぜ」

「・・・五十人、警察側は?」

「そっちも五十人だ。だけどアジトの状況や武装が分からない以上は迂闊には踏み込めないから情報を集めてから夜襲を仕掛けると言っていた。だが、それでは明らかに手遅れだから俺達七竜将が先に敵陣へ攻め込んで戦力を削るって事になったんだよ」


 ジャバウォックが隊長と話し合って決めた作戦の内容をラランに伝え、それを聞いたラランは難しい顔を浮かべる。


「・・・それは聞いた。それでどうするの?」


 そう訊ねながらラランはゆっくりと後ろに振り向く。なんとそこには小型通信機に指を当てているジャバウォック、ニーズヘッグ、ジル二トラ、オロチの姿があった。ラランは通信をしている最中に既に後ろに来ていたジャバウォック達の存在に既に気付いており、驚く事なく振り向いたのだ。そのあたりは以前と違い戦士として大きく成長している。

 隊員達はいつの間に背後に立っていたジャバウォック達を見てまたしてもビクリと驚きの反応を見せており、そんな隊員達を見てジャバウォックは小さく笑いながら軽く手を上げて挨拶をする。だがすぐに表情を鋭くしてラランの隣までやって来てジャバウォックは姿勢を低くして廃工場を見下ろす。


「・・・確かに厄介な配置だな。何処から攻め込んでもすぐに対応できる位置にいやがる。テロリストとは言え奴等もそれなりに経験を積んでるって訳か・・・」

「どうするの、ジャバウォック?」


 ジルニトラがこの後どうするかを訊ねるとジャバウォックは真剣な顔で黙り込みどう動くか考え込む。そんな時、驚いていた隊員達の内の一人が静かに俯せから座り込んだ体勢になりジャバウォック達に声を掛ける。


「おい、勝手に話を進めているが、これは我々GSG9の仕事だ。横から手を出さないでもらいたい。そもそもどうしてお前達七竜将が此処にいるんだ?」

「俺達はアンタ達と同行している警察の署長さんから依頼を受けたんだよ。このあまりにも成功率の低い作戦に参加してアンタ達の手伝いをしてほしいってな」

「何?そんな事、我々は聞いていない」

「アンタ等の隊長さんも同じことを言っていた。だけど、アンタ等の上司が出したこの無謀な作戦を成功させるには俺達の力が必要だと感じたのか俺達の作戦参加を許可してくれた」

「隊長が?」

「ああ、それでまず俺達七竜将が敵のアジトへ攻撃して敵の戦力をある程度削いでからアンタ等に連絡、その後にアンタ達が一斉にアジトに突入し制圧するって作戦だ」

「そ、そんな事になってたのか・・・」

「とりあえず、アンタ等は此処に残ってもらうぞ?俺達が突入して粗方敵を片づけたら連絡を入れる。その後に外にいる仲間達に知らせてくれ」


 勝手に話を進めて作戦の内容と役割を話すジャバウォック。隊員達は勝手に話を進めるジャバウォックが少し気に入らないが隊長が決めた事なので従うしかない。隊員達は黙ってジャバウォックの話を聞いている。

 隊員達に作戦の事を伝えたジャバウォックは改めて廃工場を見ながら作戦をどうするか考え始めた。勿論七竜将の参謀であるニーズヘッグや他の二人もどうするか考えている。そんな中、オロチが周りを見てあることに気付きラランの方を向いた。


「おい、テュポーン。ヴリトラ達はどうした・・・?」

「・・・少し前まで一緒に廃工場の周りを調べてたけど、ジルニトラから連絡が入って此処に来る時に別れた。その後は知らない」

「そうか・・・一度連絡を入れておいた方がいいな・・・」


 オロチは小型通信機のスイッチを入れてその場にいない残りの七竜将のメンバー達に連絡を入れる。ジャバウォック達もラランの話を聞いてヴリトラ達の事が気になりオロチの方を向いて小型通信機に指を当てた。

 しばらく呼び出し音が鳴り応答を待っていると誰かが応答し呼び出し音が消える。


「こちらオロチ。ヴリトラ、聞こえるか・・・?」

「おう、聞こえてるよ」

「今何処にいる・・・?」

「テロリストのアジトのすぐ近くさ。ジープやトラックが停まってる倉庫の裏に隠れてる。ティアマットも一緒だ」

「倉庫・・・?」


 ヴリトラの居場所を聞いたオロチ達は廃工場の方を向きヴリトラが隠れている倉庫を探しだす。しばらく見回していると廃工場の左側にある大きな倉庫を見つける。


「・・・廃工場の左側にある大きな倉庫か・・・?」

「おう、多分そこだ」

「ちょっと顔を出して見ろ。私達は廃工場の右にある崖の上にいる・・・」


 オロチはその倉庫をジッと見ながら小型通信機でヴリトラに自分達の居場所を伝える。すると倉庫の裏から誰かが顔を出して手を振っている姿が見え、オロチ達は双眼鏡や単眼鏡を覗き込む。そしてニッと笑いながら手を振っている栗色の短髪に灰色の特殊スーツを着たヴリトラの姿を見つけた。

 笑いながら手を振っているヴリトラの姿を見てジャバウォック、ニーズヘッグ、ジルニトラの三人は呆れ顔を見せ、オロチとラランはジト目でヴリトラを見つめる。


「おい、遠足じゃねぇんだからそう言う緊張感の無さそうな顔をするな」


 ジャバウォックが遠くにいるヴリトラに小型通信機で注意をするとヴリトラのチャランポランな声が小型通信機から聞こえてくる。


「ええぇ~、少しぐらいいいじゃねぇか?いくら命を掛けている場所だからって緊張していると失敗する時もある。少しは力を抜いた方がいいぜ?」

「お前の場合は抜き過ぎなところがあるんだよ!」

「力を抜くなとは言わないけど、少しは限度を考えなさいよね!」


 ジャバウォックとジルニトラが力の入った声を出し、周りでそれを聞いていたニーズヘッグ達は黙って二人を見ている。勿論GSG9の隊員達も同じように二人を見ていた。

 テロリストのアジトを目の前にしてこんな会話ができる七竜将に隊員達は驚いている。普通は何時命を落としてもおかしくない状況でこんな風に仲間と話し合う事はできない。それを普通にやれるのは七竜将がそれだけ多くの戦場を行き来している経験の差を現していた。


「分かった分かったよ・・・それで、そっちの状況はどうなんだ?」


 これ以上二人の説教を聞くが嫌になのかヴリトラは話を戻してジャバウォック達の状況を訊ねる。ジャバウォック達も「上手く逃げたな」と感じながらヴリトラの位置と廃工場の状況を再確認した。


「敵は外にいるだけでも二十人前後、もっともこれは俺達が確認した人数だ。お前のいる位置から俺達が確認できない敵の姿は見えるか?」

「ちょっと待ってくれ・・・」


 ヴリトラは小型通信機に指を当てながら姿勢を低くして自分の周りを見回す。すると倉庫の正面から10m程離れた所に二人のテロリストが立っているのを見つける。テロリストの手にはAK101とRPGが握られており、その二人はジャバウォック達のいる場所からは廃工場の陰に隠れていて見えない所に立っていた。他にもジャバウォック達が見ている方角からは見えない位置にある廃工場の渡り廊下の上を歩いているテロリストの姿もあり、明らかに二十人以上の見張りがいる。

 敵の位置をチェックしたヴリトラは倉庫の陰に隠れて自分が見つけた敵の情報をジャバウォック達に伝える。


「いたぜ?お前達のいる所からは見えない位置に敵が何人も。此処から確認できる人数でも五、六人はいる」

「と言う事は、最低でも二十人から三十人はいるって事か・・・しかしいくらアジトだからと言っても人数が多すぎる気がするが・・・」

「・・・あくまでも俺の想像だが、奴等は何らかの方法で警察が動く事を知り、警察の突入に備えて守りを堅めたんじゃないか?」

「ありえない事じゃないな。だが、奴等はどうやって警察の動きを知ったんだ?」


 テロリスト達が何らかの方法で警察がアジトに突入するという情報を掴んだと考えて難しい顔を見せるジャバウォック達。その話を聞いていた隊員達は自分達の動きがテロリストにバレていたと知って動揺を見せる。


「まぁ、その事は後回しにして、今はこれからどうやって動くかを考えるのが先だな」


 小型通信機から聞こえてくるヴリトラの声を聞き、ジャバウォック達も気持ちを切り替えて廃工場を見下ろす。見張りが三十人近くいる事は分かったが武装や廃工場内にいる敵の人数は分からないままだ。だが七竜将にはそんな事は殆ど問題ではない。


「敵の戦力が分からない以上、ウダウダ考えても仕方ない。ここは正面から挨拶するのが一番手っ取り早いってもんだ」

「また正面からの攻撃か。好きだなそういうの?」

「別に好きっていう訳じゃねぇよ。大した事無い敵に細かい作戦を立てる必要は無いから正面から突っ込んでさっさと終わらせようと思ってるだけだ」

「・・・それ、機械鎧兵士だから言える言葉」


 呆れるニーズヘッグとラランの言葉にヴリトラは静かに笑う。どれだけの人数で重武装をしていようと相手はただの人間、機械鎧兵士であるヴリトラ達にとっては脅威ではない。だから正面から攻撃を仕掛けても問題ではなかった。

 ジャバウォック達もヴリトラの滅茶苦茶な作戦にはいつも呆れているがイザとなれば頼りになるヴリトラを彼等は心から信頼している。ヴリトラは右手の指を小型通信機に当てながら左手で腰の森羅を握り少しだけ刃を鞘から出す。姿を見せた刃がキラリと光りその鋭さを露わにする。


「それじゃあ、正面からの攻撃を仕掛けるって事で構わないか?」


 ヴリトラがこの後自分達が取る作戦行動をするとジャバウォック達は何も言わずに黙っている。それを聞いたヴリトラは森羅を鞘に戻して顔を上げた。


「よし、それじゃあ早速作戦開始だ。俺とティアマットがアジトの正面に出て敵の注意を引く。その間にお前達は崖を下りて来てくれ。その後は自由に攻撃してくれていい。テュポーン、お前はそこから狙撃で援護してくれ」

「「「「了解!」」」」

「・・・了解」


 ジャバウォック達はそれぞれの指示を聞いて返事をする。GSG9の隊員達は自分達の事を気にもせずに話を進める彼等にただ呆然としていた。


「リンドブルム、ファフニール!」


 ヴリトラがジャバウォック達に指示を出すと今度は別の場所にいるリンドブルムとファフニールに指示を出し始める。


「お前達は俺達が騒ぎを起こして少し経ってから工場の裏に回って工場の中に入ってくれ」

「了解!・・・でもどうやって突入すればいい?」

「好きにすればいいよ。窓から入るなり壁をぶち破るなり、そっちの方はお前達に任せる」

「OK!」

「分かった!」


 小型通信機からリンドブルムとファフニールの声が聞こえ、ヴリトラは心の中で「よしっ!」と感じる。

 それぞれの指示を終えたヴリトラは倉庫の陰から顔を出して敵の位置を確認しながら真剣な顔を見せる。そこにはさっきまでジャバウォックとジルニトラから説教されていた時の気楽そうか顔は無かった。


「最後に言っておくが、何かあったらすぐに連絡を入れろ?それと絶対に無茶はするなよ?」

「正面から攻撃を仕掛ける時点で十分無茶だと思うけどね?」


 笑いながら嫌味を言うリンドブルムにヴリトラ達は思わず笑みを浮かべる。彼等はそんな無茶な作戦を何年も行い生き延びてきた。彼等にとっては無茶というのは普通になっている。しかし彼等は無茶はするが決して命を粗末にはしていない。彼等にとって最も大切なのは生き残る事、それを忘れずにいつも戦場に足を踏み入れているのだ。


「よし・・・それじゃあ、作戦開始だ」


 そう言いヴリトラ達は一斉に小型通信機のスイッチを切った。崖の上にいるジャバウォック達も行動を開始し、何処かの物陰に隠れていた茶色いショートストレートの髪をした少年、リンドブルムと短いツインテールをした少女、ファフニールもそれぞれ自分達の武器を手に取り廃工場の裏側へ行動を開始する。二人ともこちらに戻って来た直後と比べると少しだけ身長が伸びたように見えた。二人は姿勢を低くしながらヴリトラの指示した場所へ向かう。

 通信が終り、ヴリトラは倉庫の壁にもたれながら敵の様子を窺う。するとヴリトラの背後に立つ一人の女性がヴリトラの肩を指で突いて来る。ヴリトラは振り返り女性の方を向いた。


「どうした?」

「あんな事言ったが、本当に私とお前だけで正面から突っ込む気か?」

「何だよ、怖気づいたのか?らしくねぇな、ティアマット」


 ヴリトラは目の前の女性をティアマットと呼びからかう様な笑みを浮かべる。その女性はヴリトラと同じ灰色の特殊スーツを着て腰に騎士が使う様な高貴な剣を納めていた。そして何より目立つのはその女性が銀色のポニーテールをしている事にある。そう、ヴリトラやジャバウォックが言っていたティアマットと言うのはファムステミリアの姫騎士、ラピュスの事でティアマットとは彼女の暗号名の事だったのだ。


「お前が何時も無茶な作戦を立てる事はもう慣れている。だが、流石に三十人近くの敵を私とお前だけで相手にするのは・・・」

「俺達は機械鎧兵士だぞ?いくら人数が多くても普通の人間には負けやしない。もっとも、機械鎧兵士だからって油断していると墓穴を掘るかもしれないがな」

「ハァ、お前のそういうところを見る度に私は毎回お前がしっかりしているのかいい加減なのか分からない時がある・・・」

「おいおい、そっちの方も慣れてくれよ?」


 呆れ顔のラピュスを見ながら苦笑いを浮かべるヴリトラ。しかし二人は話が終るとすぐに真面目な顔になり廃工場を覗き見る。


「さて、冗談はここまでにして、そろそろ行くぜ?」

「ああ」


 作戦を始める為に二人は倉庫の陰から飛び出し廃工場の正面へ向かって走り出す。夕日に照らされるヴリトラとラピュス、いよいよ七竜将とテロリスト達の激戦が幕を開けるのだった。

 テロリストの戦力を削ぐ為に先陣を切る事になった七竜将。そして彼等と共に戦場に立つラピュスとララン。彼女が達があの日からどれだけ強くなったのか、この作戦でそれが明かされる。


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