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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十四章~竜達の帰還~
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第二百四十五話  開幕! 新しき竜の物語


 太陽が沈みかけて空がオレンジ色に染まっている夕方。白い雲も黄色く見え、遠くに見える山も太陽の日の光で黒くなっているとても美しい光景だった。だが、そんな美しく平和な雰囲気を台無しにする事件が起ころうとしている。

 ドイツの首都ベルリンから十数K離れた所に大きな森。オレンジ色の空の下に広がるその森の中心にまるで外界との接触を拒むかの様な建造物があった。あちこちがボロボロになっている工場、嘗ては様々な機械の部品などを製作していたが今では誰も使っていない廃工場となっている。だが、そんな誰も使っていないはずの廃工場の周りに数人の男の姿があった。しかもその男達は全員が武装をしている。タクティカルベストを身に付け、その手には突撃銃アサルトライフルの「イジェマッシAK101」が握られていた。


「おい、しっかりと見張れよ?」

「ああ、分かってる。いつサツが来るか分からねぇからな」


 一人の男が近くにいる別の男に声を掛け、その男はAK101を構えながら廃工場の周囲を警戒する。二人以外の男達も自分の武器を構えて周囲を見回す。会話の内容から彼等は何処かの警備会社の人間とかではないようだ。明らかに犯罪者の雰囲気を出している。

 実は彼等は今ドイツを騒がせている反政府組織「ドイツ救済同盟」の人間なのだ。彼等は今のドイツの経済などの不安を持ち、ドイツを正しき方向へ導く為に立ち上がった正義の組織だと名乗っている。しかし、実際やっている事は政府の重要施設の爆破や政府関係者の誘拐や暗殺と言ったテロまがいな事ばかり。政府も長い間彼等の素性やアジトの場所を調べており、ようやく彼等のアジトの場所を突き止めた。そのアジトこそがこの廃工場なのだ。

 数時間前、警察にスパイとして潜り込んでいた組織の一員から警察がアジトの場所を突き止めて一気に制圧して来るという連絡が入り、彼等は完全武装をし臨戦態勢に入っていたのだ。廃工場は森に囲まれており何処から警察が来ても対応できるよう全てのテロリストが廃工場の警備に付いている。その数は外にいる者達だけでも五十人はいた。全員が殺気だって廃工場の周りを警戒している。


「クッソォ~!警察はどうやってこの場所を突き止めやがったんだ!?」

「分からねぇ。ただボスの話では一週間前に捕まった俺等の協力者がアジトの場所を吐いたのかもしれねぇって言ってたぜ?」

「あんだとぉ?・・・チイィ!だから根性のねぇ連中に俺等の事を話すのは反対だったんだ!」

「今更言ってもしょうがねぇだろう?とにかく今はサツの奴等がいつ来ても大丈夫なように備える事だ」


 苛立つ男を別の男が宥めて警戒を続ける。男達の後ろを数人のテロリストを乗せたジープが通過して廃工場の周りを巡回する姿があり、廃工場全体に緊迫した空気が広がっていた。

 テロリスト達のアジトから500m程離れた森の中では六つの人影があった。全員が黒い服装に防弾ベスト、黒いヘルメットをかぶりゴーグルを装着している。そして彼等全員は「シグSG551」を持っていた。彼等はドイツの連邦警察局に所属する対テロ特殊部隊「GSG9」の隊員なのだ。ドイツ救済同盟のアジトを突きとめて制圧に来ており、彼等は敵の様子を窺う為に送り込まれた偵察隊である。

 隊員の一人が双眼鏡を使い、森の外にある廃工場の様子を確認すると無線機のスイッチを入れて仲間に連絡を入れた。


「こちらアルファ4、敵の姿を確認。此処から確認できる人数は十六、七人程ですがまだ他にもいるのは間違いありません・・・」

「武装やアジトの状態はどんな物だ?」


 無線機から中年の男性の声が聞こえ、隊員は再び双眼鏡を覗きながら廃工場の状態を確認する。テロリスト達の近くにはジープの燃料が入っていると思われるドラム缶が幾つもあり、休憩の為のテントも張られてあった。更にアジトに来た敵と戦う時に身を隠す穴や土嚢、そして中型のトラックや機銃もありちょっとしたゲリラの基地の様だ。


「迎撃に使うと思われる機銃が幾つかあり、身を隠す場所も用意されています。ちょっとした前線基地ですね」

「そうか・・・敵の兵力や武装がどれ程のものか分からない以上、こちらも迂闊に仕掛けられないな・・・」

「どうしますか?」

「・・・もうしばらく様子を見よう。お前達は引き続き偵察を続けてくれ。ヤバい状況になったらすぐに戻って来いよ」

「了解」


 状況を伝えた隊員は無線機を切る。双眼鏡で状況をもう一度チェックをした後に隊員達はその場を移動し次の偵察場所へ移動をした。

 偵察隊がいた所から更に500m離れた所にある森の入口。入口前には大勢のGSG9の隊員が待機しており、他にも地元警察のパトカーや警官も大勢集まっていた。皆いつ始まるか分からない作戦を前に緊張している。その様子をGSG9の隊長と思われる中年男性が黙って見つめており、彼の顔にも僅かだが緊張が見られた。


「・・・やはり、皆かなり緊張しているな」

「無理もありません。これから自分達が相手にするのはこの国でも一二を争う程過激的なテロ組織です。しかもその規模も戦力も未知数、これでは緊張しない方が不思議ですよ」


 隊員達の様子を窺っている隊長の隣で一人の隊員が同じように仲間の様子を窺いながら隊長に話し掛けた。隊長は話し掛けてきた隊員の方をチラッと見た後にズボンのポケットから煙草を取り出して口に咥える。


「確かにそうだな。緊張するのは敵を恐れている証拠、それが人として当然の事だ。逆に緊張しなければそれは戦いはこんな空気を喜ぶただの変人だよ」


 ライターを取り煙草に火を付ける隊長。ゆっくりと煙草を吸って煙を吐き出したながら夕焼けを見上げるその顔には自分達は無事に帰れるのだろうかと言う不安の様な物が感じられた。


「それにしても、上も随分と無茶な任務を与えますよ」


 突然隊員が腹を立てる様な態度で喋り出し、隊長は煙草を加えて隊員の方を向く。


「落ち着け、今更そんな事を言っても仕方がないだろう」

「隊長は今回の作戦に納得できるんですか!?」

「・・・正直に言うと、できないな。奴等の正確な戦力が分からない状態でアジトを制圧しろなんて・・・」


 隊長は煙草を吸いながら俯いて低い声を出した。

 今回の作戦はドイツ救済同盟のアジトの場所を掴み、彼等は次のテロ活動を起こす前にアジトを叩くと言う任務だった。だが警察はテロリスト達がどれ程の規模なのかをまだ完全に理解していない。規模が分からなければこちらもどれ程の戦力を用意すればいいのかも分からず、作戦の立てようがない。だが上層部は敵に自分達がどれ程の情報を掴んでいるのかを知られる前に叩く為、情報が少ない状態で制圧任務を与えたのだ。敵の情報が少ない状態で任務を遂行しろと言うのはあまりにも無茶な為、隊員達の中には任務内容に納得いかない者もいる。しかし、上層部にとって隊員達の意志などは関係なかった。あくまでもテロリストを叩き、逮捕する事が彼等にとっては重要なのだ。


「偵察隊の報告では奴等の人数は未知数でアジトもちょっとしたゲリラ基地の様な物だったらしい。そこへ何の情報も無しに突っ込むなどライオンの群れに飛び込むシマウマみたいなもの、制圧するどころか逆に全滅させられちまう」

「ですからもう一度上層部に連絡して作戦の立て直しを・・・」

「無駄だ。上層部が俺達の様な現場で動く者達の話など聞くはずがない」

「では我々はこれからどうすれば・・・」

「現場で情報を手に入れるしかない。その為に偵察隊に基地の情報を掴んでもらい、こうして地元警察にも協力を要請したんだろう」


 隊長は自分達GSG9から離れた所で作戦の準備をしている地元警察の警官達を見つめる。彼等はGSG9の様な特殊任務の訓練を受けていない。今回の様な大規模な特殊作戦の経験が無い為、殆どの警官が不安になっている。中には今回の作戦で殉職するかもしれないと恐れている者も何人かおり、士気は低下していく一方だった。これでは上手く連携も取れず作戦成功率は低い。

 警官達の様子を見て他のGSG9の隊員達も少しずつ不安を表に出すようになった。それを見た隊長と隊員は面倒そうな顔を見せる。


「このままだと我が隊も士気が低下し警官達と同じようになってしまいます」

「・・・とにかく皆を落ち着かせろ。こちらまで士気が低下したら作戦自体が危うくなる。今は情報が入るのを待つしかない」

「了解」


 隊員達の士気を高める為に隊長と隊員が動こうとする。すると遠くから自動車のクラクションが鳴る音が聞こえ二人はクラクションの聞こえた方を向き、他の隊員や警官達も一斉に振り返る。町へ続く一本道の真ん中を通って遠くから一台の黒いバンが走って来るのが隊長達の目に映った。


「おい、何だあの車は?作戦区域から2K圏内は立ち入り禁止になっているはずだぞ?」

「分かりません。あんな車が来るなどと言う連絡は・・・」


 バンの正体が分からない隊長と隊員は早歩きでバンの方へ向かう。やがてバンはGSG9と警官達の真ん中で停車する。エンジンが切れ、運転席、助手席、後部座席のドアが同時に開き車内から四つの人影が降りて来た。

 四人の内、一人は身長2mでドレッドロックスの髪と口髭を生やした褐色の肌をした巨漢の男。二人目は腰には細剣が納めた逆立った髪をした男。三人目は頬にそばかすとオレンジ色の外ハネの髪を持つ女。そして四人目は紺色の長髪をし、妖艶なスタイルを持つ美女。その四人を見た隊員や警官達は目を丸くして驚いている。


「おい、何なんだお前達は?ここは今一般人は立ち入り禁止だぞ?」

「・・・俺達は一般人じゃねぇよ。依頼を受けて此処に来たんだ」

「依頼?」


 巨漢の男の言葉に隊員はジッと男を見つめる。するとそこへ一人の警官が走って来た男に挨拶をした。


「待っていたぞ、七竜将!」

「何?・・・七竜将?」


 警官の話を聞いた隊員は思わず聞き返した。そう、バンに乗っていたのは七竜将のジャバウォック、ニーズヘッグ、ジルニトラ、オロチの四人だったのだ。ファムステミリアから戻って来た時と比べると少しだけ雰囲気が変わっている。

 周りにいる者達は目の前にいるのが世界的に有名な傭兵部隊の七竜将だと知ってざわめき出す。


「皆、静かにしろ!」


 隊長が周りで騒いでいる隊員や警官達に一声かけると一同は一斉に静かになる。隊長はジャバウォックの前にやって来ると自分よりも長身の彼を見上げながら口を開く。


「なぜ七竜将が此処にいるんだ?我々はお前達に依頼をした覚えはないぞ?」

「アンタ達GSG9はしてないが、こっちの人達が依頼されたから来たんだ」


 ジャバウォックはそう言って隣に立っている警官を指差す。警官は何処か申し訳なさそうな顔をしており、そんな警官を隊長はジロッと見つめている。


「一体どういう事だ?」

「・・・実はうちの署長があまりにも無茶な作戦内容に不満を覚え、たまたま別の依頼でこの国にいた七竜将に今回の作戦の助力を要請したのです」

「何だと?そんな事は我々は聞いていないぞ!」

「す、すみません・・・」


 勝手に七竜将を作戦に加えた事が気に入らない隊長に謝る警官。そんな警官と隊長のやり取りを見ていたジャバウォックは腕を組みながら隊長を見下ろす。


「こんな情報も少なく状態で大規模なテロ組織のアジトを制圧しろなんて無茶な作戦なんだ。アンタ達に協力する警察側が不安になるのは当然だろう?それにアンタ達も本当はこの作戦が不服なはずだ」

「・・・・・・」


 ジャバウォックに図星を突かれて黙り込む隊長。確かに自分達も無茶な作戦に不満だったが、優秀な特殊作戦部隊が傭兵の力を借りるという事はプライドが許さないのだ。隊長はただ黙ってジャバウォック達を見つめている。

 隊長とジャバウォックの間に穏やかじゃない空気が流れているのを感じ取った警官は困り顔を見せ、二人の間に入る隊長の方を向く。


「彼等への報酬は我々が支払いますし、何か起きた時は責任は全て署長が取ると言っております。ですからどうか、彼等を作戦へ加えて頂けないでしょうか?」


 安全に今回の作戦を成功させるには七竜将に頼るしかない。そう考えた警察側は七竜将に助けを求め、警官も依頼した署長の覚悟を隊長に伝えた。周りにいる他の警官達も黙って隊長を見ており、目で「七竜将を加えてくれ」と隊長に伝える。

 警官達の視線を感じた隊長は周りを見回し、警官と自分の部下である隊員達を確認した。警官だけでなく、やはり隊員達も不安なのか七竜将の参加を望んでいる様に見える。隊長はしばらく周りの者達を黙って見つめ、やがて小さく溜め息を吐く。


「ハァ・・・分かった。ただし、こちらの命令には従ってもらうぞ?」

「それは状況次第だ」

「何?」

「とりあえずアンタ達の知っている情報を全て話してくれ。作戦をどうするかはそれからだ」

「・・・いいだろう」


 ジャバウォックが一方的に話を進める事が少し気に入らない様子の隊長だったが冷静に自分達の知る敵の情報を説明した。敵の人数、武装、そしてアジトの状況など今自分達が知っている事を全てジャバウォック達に伝える。

 全ての情報を聞いたジャバウォック達は周りにいるGSG9の隊員と警官の人数、そして彼等の武装をチェックする。ジャバウォックの後ろに立っているニーズヘッグとジルニトラが難しいを顔を見せた。


「ちょっと戦力の少ない気がするわね」

「ああ、ざっと見てこちらの人数は五十人前後。敵は偵察隊が確認した敵は十六、七人だがまだアジトの中に大勢いるだろうな」

「しかも相手はドイツでもかなり過激なテロ組織でしょう?今までにも多くのビルの爆破や要人暗殺なんかをしてきた訳だし、かなり大規模なはずよ。少なくとも五十人以上いて間違いないわね」

「いや、分からないぞ?もしかしたら百人はいるかもしれない」


 ニーズヘッグとジルニトラがテロリストの人数が何人なのかを話しているのを聞いてジャバウォックとオロチは二人の方を向き、隊長は周りにいる隊員と警察も驚きながら二人の方を見ていた。


「何処かの建物に立て籠もっているならまだしも、奴等がいるのは敵のアジトだ。つまり奴等にとって有利な地の利という事、そこへ敵の人数やアジトの事が分からない状態で突入するのは危険すぎる」

「ええ、このまま行ったら間違いなく全滅ね」


 今のままでは自分達に待っているのは最悪な結末だけ、それを口にする二人を見て警官達はますます不安になり再びざわめき始めた。七竜将が隊員や警官達を不安にさせるような事を言う事が気に入らない隊長はジッとニーズヘッグとジルニトラを睨めつけて二人に近づく。

 

「おい、あまり皆を不安にさせるような事を言わないでもらいたい!」

「・・・状況を分析して予想を口にしただけだ」

「それが迷惑だと言うのだ!」

「じゃあ、アンタには何かいい考えがあるの?」


 ジルニトラが目を細くして隊長に訊ねる。隊長は加えている煙草を捨てて足で踏み消すと背後にある森を親指で指す。


「だから今、偵察隊に情報を集めさせているのだ!敵の情報が集まり次第、作戦を立て直したアジトの制圧をする。作戦は視界が悪くなる夜に決行するつもりだ」

「夜襲か・・・オロチ、どう思う?」


 ジャバウォックがオロチの方を見て訊ねた。オロチは目を閉じて考え込み、やがてゆっくりと目を開ける。


「・・・無意味だな・・・」

「なぜそう思う?」

「確かに夜なら敵の視界にも入りづらく動きやすいはずだ。だが、それは敵も同じ事。それに夜を待っていた敵がより守りを堅くして攻め難くなる。最悪、夜になる前に逃げられるかもしれない・・・」

「つまり、攻めるなら今この時しかないって事なんだな?」


 オロチはジャバウォックの方を見ながら黙って頷く。ニーズヘッグとジルニトラもオロチの方を向いて納得した様な顔をしていた。だが隊長は納得していないのか鋭い顔をして四人を見ている。


「・・・という訳で、俺達は夜襲は反対だぜ、隊長さん」

「何がという訳でだ!指揮官は私だ、私の指示に従ってもらう!」

「それはいいが、そうなると間違いなく悪く結果になっちまうぜ。オロチはこう見えてとある忍者一族の末裔なんだ。夜襲とか隠密行動なんかの知識は俺達の中で一番なんだよ。そのオロチが夜襲は無意味だと言っている。だから俺達は夜襲は反対なんだ」

「私に従ってもらうと言ったはずだぞ?」

「俺達も状況次第だと言ったが?」


 お互いに相手を睨みつけるジャバウォックと隊長。作戦前に問題が起きそうな雰囲気に警官や隊員は戸惑いを見せている。だがニーズヘッグ達は冷静に二人を見守っていた。

 二人がにらみ合い、不穏な空気に包まれている中、突如ジャバウォック達の耳にはめてある小型通信機からコール音が鳴り出す。ジャバウォックはフッと反応し小型通信機のスイッチを入れる。ニーズヘッグ達も一斉にスイッチを入れて応答した。


「こちらヴリトラ、聞こえるか?」

「おっ、ヴリトラか。そっちはどうだ?」


 小型通信機から聞こえてきたのは別行動を取っているヴリトラの声だった。ジャバウォック達はヴリトラの声を聞きながら小型通信機に指を当てる。隊長達は四人を見て一瞬驚くも小型通信機を見て誰かと通信を取っている事に気付き黙り込む。隊長達が空気を読んで黙ってくれた事を確認したジャバウォック達は耳を傾けた。


「・・・で、そっちはどうなんだ?」

「ああ、今テロリストどものアジトを見てるけど、外にいる奴等だけでもかなりの数と重装備だ。RPGを持ってる奴もいるぜ」

「RPGまで、厄介だな・・・こっちは今GSG9の隊長さん達と合流したところだ」

「そうか。で、何だって?」

「夜を待って夜襲を仕掛けると言ってる」

「そりゃあマズイんじゃないか?夜まで待ってら奴等に逃げられちまうかもしれないぞ」

「ああぁ、オロチもそう言ってる。だから夜襲はやめてこのまま行こうって言ってるんだけど、もの凄く反対されてな」

「そりゃあ、いきなり突入しようなんて言えば反対もするさ。とりあえずは・・・」


 ジャバウォックは子他が通信機の向こう側から聞こえてくるヴリトラの話を頷きながら聞き、ニーズヘッグ達も黙って聞いている。

 七竜将が何の会話をしているのか分からずに鋭い目で彼等を見つめる隊長と警官達。やがて通信が終りジャバウォック達は小型通信機のスイッチを切り隊長達の方を向いた。


「話は済んだのか?」

「ああぁ。やっぱりこのまま夜を待っていると奴等を有利にしちまう。早いうちに突入した方がいいな」

「だから、情報が少ない状態で突入するのは危険だと言っているだろう!?」

「分かってる。だからまずは俺達七竜将が先に突入して敵の情報を調べるのと同時に少しでも敵を倒してくるんだよ」

「何?」


 意外な言葉に少し驚いた様な顔を見せる隊長。話を聞いていた他の隊員や警官達も同じ反応をしている。


「実は別行動を取っている仲間が奴等のアジトの近くにいてさっき連絡が入ったんだ。既に何時でも戦える態勢に入っている。まずは俺達が敵に攻撃を仕掛けて少しでも戦力を削ぐ。その後にアンタ達に連絡を入れて突入するタイミングを知らせる。アンタ達はその後にアジトへ向かえばいい。それならアンタ達に被害が出る確率は低くなるし、作戦も楽になる。そしてもし俺達に何かがあってもアンタ達が責任を問われる事も無い・・・どうだ?アンタ達には殆どリスクの無い条件だと思うが?」


 ジャバウォックから作戦の流れを聞かされて隊長は黙り込む。敵の情報が少ない状態で突入するのは危険だが、突入するのが傭兵隊なら自分達には被害は無い。そして彼等に何か良くない事が起きても関係の無い自分達が責任を取る心配もない。あくまで責任を取るのは七竜将と彼等を雇って警察署長である。

 しばらく考え込んだ隊長はジャバウォック達の方を向きゆっくりと口を開く。


「・・・いいだろう。だがもし奴等に逃げられたりこちらに都合の悪い事があればその時はお前達に責任を取ってもらうぞ?」

「勿論だ」


 話がまとまりジャバウォックは小さく笑う。ニーズヘッグ達も「よしっ」と言いたそう顔をしてバンから荷物を下ろし始める。降ろされた荷物は大きめの軍用バッグ、そしてデュランダル、サクリファイス、斬月などジャバウォック達の得物だった。四人は自分達の武器と荷物を取り森の入口を見上げる。大きな入口はまるで四人を威嚇する様に何か圧力の様な力を加えて来ていた。

 準備が整うとジャバウォックは隊長の方を向いて彼が持っている無線機を指差した。


「俺達は一度アンタんところの偵察隊と合流する。その時が来たらその偵察隊からアンタ達に連絡を入れてもらう様にするから奴等から連絡が入ったらアンタ達も好きに動いてくれていい」

「分かった・・・だが、もう一度言わせてもらうぞ?お前達に何か遭っても我々は一切責任を取らないからな」

「分かってるって」


 笑いながら軽く返事をするジャバウォック。一度三人の方を向いて頷くとニーズヘッグ達も頷き、四人は一斉に走って森へ入って行った。隊長達はたった四人でテロリストの下へ向かうジャバウォック達もただ黙って見つめている。その目には哀れむような目、心配するような目、そして僅かに期待しているような目など色々あった。

 森へ入ってから更に速く走り出す四人。岩や木の避けながら全速力でテロリストのアジトである廃工場へ向かう。


「さて、許可は出たけど、これからどうするの?」

「まずは例の偵察隊を見つけて作戦の事を伝える。ヴリトラ達にも連絡を入れておいてくれ!」

「りょ~かい!」


 ジルニトラは小型通信機のスイッチを入れてヴリトラ達に連絡を入れる。


「よし、急ぐぞ。テロリストどもが何かやらかす前に攻撃して混乱させるんだ!」

「そうだな・・・だが、またヴリトラが勝手に行動しなければいいんだが・・・」


 ニーズヘッグがヴリトラの事を心配しながら走っているとその後ろを走っているオロチが口を開いた。


「心配ないだろう。アイツには『ティアマット』が付いてるんだからな・・・」

「ああぁ、そうだったな。アイツがいる限りヴリトラは無茶や勝手な事はしないか」


 オロチの話を聞いて少しホッとした表情を浮かべるニーズヘッグ。ジャバウォックもそれを聞いて小さく笑いながら走り続けた。そんな軽い会話をしながら四人は森の中を進んで行く。

 ドイツで起きたテロリスト制圧作戦に参加した七竜将。ファムステミリアから戻って来てから今日まで地球で修業をしながら生活して来た彼等はどれ程力を蓄えたのか、そしてティアマットとは誰なのか?


本日から投稿を再開します!これからも本作をよろしくお願いします。

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