第二百四十四話 世界に留まる竜達 新たな決意と強さの為に!
ヴリトラ達は苦戦の末にケルピーと巨兵機械鎧を倒した。あとは生き残っているトライアングル・セキュリティの人間を投降させて装置を確保するだけとなり、ヴリトラ達は最後の仕上げに移ろうとする。
ケルピーを倒したヴリトラ達はケルピーの隠れていたトラックの前まで移動して奇襲を警戒する。四人はそれぞれ得物を構えながら一歩ずつ慎重にトラックの荷台へ近づいて行った。
「静かだな・・・」
「もしかして、もう死んじゃった?」
「いや、今までの戦いからしてブラッド・レクイエムの幹部が死ぬと必ず機械鎧の自爆装置が作動して爆発するはずだ。爆発が起きていないところからすると、アイツまだ生きているはずだ」
森羅を構えるヴリトラと共に近づくリンドブルムはライトソドムとダークゴモラを握って荷台をジッと見つめる。その後ろをジャバウォックとジルニトラが付いて行き、何が起きてもすぐに対応できる態勢をしていた。すると、四人の後方から足音が聞こえ、敵だと思った四人は素早く振り返る。だがそこにいたのは敵ではなく別行動を取っていたラランだった。
「ララン!」
無事に戻って来たラランを見て笑みを浮かべるリンドブルム。ラランは四人の下まで駆け寄り、ヴリトラ達の無事を確認する。
「・・・大丈夫?」
「ああ、俺達はな。そっちはどうなんだよ?ケルピーに狙撃されたんだろう?」
ヴリトラがラピュスの体を見て怪我をしていないか確認するとラランは無表情のまま首を横に振った。
「・・・大丈夫。弾が当たらなかった」
「当たらなかった?」
「・・・私の周りを風が囲んで弾が大きく横に反れた」
「風で?そんな事あり得るのか・・・」
ありえない現象に驚くヴリトラ。リンドブルムとジャバウォックも不思議そうな顔でラランを見ている。
「もしかして、気の力じゃないかしら?」
悩んでいる三人のジルニトラが思い当たる答えを口にし、四人はジルニトラの方に注目した。
「「「気の力?」」」
「ほら、ラランは風を操る事ができる姫騎士でしょう?だからケルピーと戦っている最中に無意識に気の力で風の壁を作ってケルピーの弾丸の軌道を変えたんじゃないかしら?」
「・・・そうなの?」
自覚の無いラランがまばたきをしながらジルニトラを見上げて訊き返す。そんなラランをジルニトラは苦笑いで見下した。
「まぁ、あたしの想像だけどね」
「でも、それが一番可能性がある答えじゃないかな?」
「・・・私の力」
自分の意思とは関係なく気の力が働き自分を守ったという事に驚くラランは自分の左手を見て呟く。ラランもラピュスもこの世界で気の力が使えるのか分からなかった為、今まで使わなかったが無意識にラランの力が発動した事でこの世界でも力が使える事が分かり少しだけ嬉しさの様な気持ちを感じてラランは小さく笑った。
ラランが笑っていると突然ジャバウォックがラランの脳天を拳で軽く叩いてきた。
「・・・ッ!?何?」
叩かれてラランは頭を擦りながらジャバウォックを見上げて彼をジッと見つめる。ジャバウォックは両手を腰に当てながらラランを見下ろして鋭い視線を彼女に向けた。
「『何?』じゃねぇだろう。まったく無茶しやがって!どうしてあの時すぐに移動しなかったんだ?もし気の力が発動しなかったらお前はケルピーに撃ち殺されてたかもしれないんだぞ」
ジャバウォックはラランが自分の警告を無視してそのまま留まって来た事に対して怒っていた。それを聞いたラランは表情を変えて申し訳なさそうな顔で小さく俯く。
「・・・ゴメン。でも、もしあそこで移動したらもう二度と同じ手が通用しないと思ったから・・・」
「だからって、あんな無茶な戦い方をするやつがあるか。後の戦いで不利になるかもしれないとしても、死んじまったら元も子もないだろう!」
「・・・・・・」
叱られて黙り込むララン。あのチャンスを逃せば自分達が勝てる確率が下がっていたかもしれない。だが確かに自分は無謀な行動を取った、そしてもしジャバウォックの言うとおり気の力が発動しなかった自分は死んでいただろう。ラランは俯いたまま何も言い返せなかった。
「まぁまぁ、それぐらいにしてやれよ?ジャバウォック」
「そうだよ、結果的にはケルピーを倒せたんだしさ?」
ラランをフォローしようとヴリトラとリンドブルムがジャバウォックを宥める。そんな二人の言葉にジャバウォックは黙ってラランを見つめた。リンドブルムの言うとおりラランのおかげで自分達が勝てたのも事実、ジャバウォックは頭を掻きながら小さく息を吐く。
「・・・まぁ、俺達が勝てたのはラランがいてくれたおかげだからな。今回はこれぐらいにしておくが・・・もう二度とあんな無茶な戦い方はするなよ?」
「・・・うん」
これ以上説教できる空気じゃないと感じたジャバウォックは腕を組みながらラランに声を掛け、それを聞いたラランは顔を上げて小さく笑いながら頷く。ヴリトラとリンドブルムもそんな二人を見てニッと笑っていた。
「皆、話はそれぐらいにして、早く仕事を終わらせましょう」
話が終るとジルニトラがサクリファイスを構え直して四人を見ながら言った。ヴリトラ達はトラックの方を見ると再び警戒心を強くしてトラックの荷台に近づいて行く。そしてトラックの荷台を覗き込むと、そこには仰向けのまま左胸から出血しているケルピーの姿があった。
「ハァ・・・ハァ・・・き、君達・・・」
「心臓を撃ち抜かれたのにまだ生きているとは、流石は機械鎧兵士だな」
「ハァ・・・君には・・・そんな事言われたく・・・ないね・・・」
ヴリトラの方を見てケルピーは笑いながら呟く。そんな彼女の姿を狙撃したラランは黙って見つめている。
「俺達はこのままこの施設を制圧する。そして何処かに隠してあるユートピアゲートの装置を頂くぜ?」
まだラピュス達が装置を見つけた事を知らないヴリトラ達はこの後に装置の探索をする事をケルピーに伝える。するとケルピーは仰向けのままベルトについている黒いスイッチを手に取りヴリトラ達に見せた。
「フフ・・・これが何か分かる・・・?」
「んん?」
「悪いけど・・・このまま全てを君達にあげる程・・・私達はお人好しじゃ・・・ないんだよ」
笑いながらそう言うケルピーは持っているスイッチを押した。すると遠くにある建物に二階が突如爆発し、爆音を聞いたヴリトラ達は爆発の起きた方向に振り返る。
「何っ!?」
「爆発!?」
「まさか、自爆スイッチ?」
「おいおい、また基地ごと全部消し飛ぶのかよぉ!」
驚くヴリトラ、リンドブルム、ジルニトラの三人とファムステミリアの補給基地で起きた爆発を思い出すジャバウォック。ラランも驚き、遠くで上がっている煙を見つめている。
スイッチを押した後、ケルピーはスイッチを捨てて空を見上げる。そして彼女の首の機械鎧が自爆装置の起動を知らせるアラームが鳴らし始めた。それを聞いたヴリトラ達は一斉に走り出してケルピーから離れる。首元から聞こえてくるアラームを聞きながらケルピーは微笑みを浮かべていた。
「アハハハ・・・カッコ悪い負け方しちゃった・・・女王、ジークフリートさん、あとは・・・お願いね・・・・・・」
ファムステミリアにいるジャンヌとジークフリートに語りかけるケルピー。次の瞬間、ケルピーの機械鎧は爆発し、トラックもろともケルピーの体は跡形も無く消し飛んだのだった。
最初の爆発からしばらく経ち、施設のあちこちで爆発が起きている。司令室があったビルやユニットハウス、そしてユートピアゲートの装置があった倉庫でも爆発が起きていた。
「な、何だこれは!?」
突然倉庫で起きた爆発にラピュス達は驚きながら倉庫内を見渡す。倉庫の壁や奥に積まれてあるドラム缶が爆発し、倉庫内をみるみる炎に包まれていった。
「倉庫が炎に包まれていく・・・」
「ど、どうしよう!?」
「急いで逃げるしかないだろう・・・」
「で、でもそれじゃあユートピアゲートの装置が!」
「この炎と爆発ではもう無理だ。早くしないと私達も爆発に巻き込まれる・・・」
「確かにそうだな。ラピュス、行くぞ!」
「あ、ああ・・・」
自分達の身が危ないと判断したオロチとニーズヘッグは倉庫を飛び出し、ファフニールもそれに続く。ラピュスは目の前にあるユートピアゲートの装置を見て悔しそうな表情を浮かべていた。目的の装置が目の前にあるのに諦めなくてはならいない現実、ラピュスは歯を噛みしめて倉庫から脱出する。その直後に倉庫の天井は崩れて装置は炎に包まれた。
倉庫を出てから全力で走るラピュス達は真っ直ぐ施設の出口へ向かう。その途中でケルピーを倒したヴリトラ達と合流する。
「お前等!」
「ヴリトラ、皆!」
ラピュス達の姿を見つけるヴリトラと同じようにヴリトラ達の見て声を上げるラピュス。両チームは相手と合流しお互いの安否を確認する。
「大丈夫だったか?」
「ああ、大した怪我は無い。巨兵機械鎧も倒した!」
「そうか」
「あと、ユートピアゲートの装置を見つけた・・・」
「何だと?やっぱり装置はあったのか?」
装置を見つけたと聞かされてヴリトラはラピュスを見つめながら訊き返す。ラピュスはヴリトラと目を合わせずに暗い顔で頷く。
「ああ、だがこの爆発で倉庫と一緒に・・・」
途中で口を止めるラピュスを見てヴリトラ達が何が遭ったのか察した。ケルピーの押したスイッチにより施設の自爆装置が起動してしまい、施設内の全てが破壊されている。つまり、施設にあった装置も破壊されてしまったという事だ。
最大の目的を果たす事ができずに悔しそうな顔を見せるラピュスを見つめるヴリトラ。すると遠くから更に大きな爆音が聞こえ、全員がフッと爆発の起きた方を向く。
「・・・今は脱出する事が先だ!全員、急いで装甲車まで走れ!」
「「「「「「了解!」」」」」」
ヴリトラの指示を聞いて七竜将のメンバー全員が声を揃えて返事をした。ラピュスとラランも無言でヴリトラを見つめており、一同は爆発が起きる施設の中を全力で駆け抜ける。ヴリトラ達が無事に脱出した時にはブラッド・レクイエム社の施設は面影が残らないくらい破壊されていたのだった。
――――――
翌日、あの後無事に森を出て品川区に戻って来たヴリトラ達はアレクシアに施設での出来事を詳しく説明し、ニーズヘッグがロック解除したユートピアゲートの装置の情報をDr.GGに渡した後、自分達のホテルに戻り体を休めた。ラピュスも既に退院している為、用意された自分の部屋で一夜を過ごす。そして夜が明けると昨日の事が無かったかのように平和に朝食を取っていたのだ。
ヴリトラの部屋では長ズボンと肌着姿のヴリトラが椅子に座りながらホテルモーニングのトーストをかじりテレビを見ている姿があった。テレビのニュース番組では既に昨晩のブラッド・レクイエム社の施設に事が報じられている。
「次のニュースです。昨晩、稲城市森で突如大規模な爆発が起きました。爆発が起きた場所にはフェンスで敷地を囲まれた大きな施設の様な物があり、敷地内には多くの死体が発見され、警察は事故と事件の両方で捜査を進めております。爆発の規模から警察は建物内で何らかの事故が起き、敷地内の建物全てが爆発したと警察は考えていましたが、死体の幾つかには銃で撃たれた後や刃物で切られた傷もあり、事件の可能性があると考えて捜査内容を変更すると警察関係者は発表しました。この施設のある森は一年前に突如行方を消した傭兵派遣会社ブラッド・レクイエム社が所有しており、ブラッド・レクイエム社の行方が分からなくなった後も何者かが出入りした痕跡が残っており、警察はその出入りしている者達の身元を調べ、犯人を見つける方針です。では次に・・・」
キャスターが施設の出来事を話し終えるとヴリトラはリモコンのスイッチを押してテレビの電源を切る。トーストを目の前のテーブルに置かれている皿の上に戻し、ホットコーヒーを一口飲んで外を眺めた。
「・・・爆発でユートピアゲートや巨兵機械鎧の事はマスコミや警察には知られなかったけど、トライアングル・セキュリティの連中の死体の傷なんかは流石に知られちまったか・・・まぁ、ブラッド・レクイエムが関係している以上、警察も詳しく調査しようとしないだろうな・・・」
ブラッド・レクイエム社は警察をも簡単に操る事ができる程危険な存在である為、警察関係者やマスコミはブラッド・レクイエム社にはよほどの事がない限り彼等には関わらないようにしている。その為、今回の一件もいくらブラッド・レクイエム社が行方をくらましても関われば何か自分達によくない事が起きるかもしれないと考え適当な理由をつけて片づけるとヴリトラは考えていた。地球から姿を消してもそれだけの脅威を持っている敵とヴリトラ達は戦っている。ヴリトラ自身もその事を自分に言い聞かせながらブラッド・レクイエム社の恐ろしさを頭に叩き込む。
ヴリトラがホットコーヒーを飲んでいると部屋のドアをノックする音が聞こえ、ヴリトラは入口の方を向く。
「ハイ」
「私だ」
「ラピュスか、入れよ」
ドアの向こうから聞こえてくるラピュスの声にヴリトラは部屋に入るよう伝える。ドアが開くと部屋に長袖にミニスカートを履いたラピュスが入って来た。
「おはよう。どうだった、ホテルのベットの寝心地は?」
「ああ、病院のベットよりもずっとフカフカだった」
「ハハハ、そっか」
ラピュスの返事を聞いたヴリトラは笑いながらホットコーヒーを飲み、ラピュスも微笑みながらヴリトラを見ている。するとラピュスは突然沈んだ表情を浮かべてヴリトラの向かいの椅子に腰かけた。
「・・・ユートピアゲートの装置を発見したのに確保する事ができなかったとは、これで当分ファムステミリアに戻る事ができなくなってしまった。アリサ達が心配だ・・・」
「・・・気持ちは分かるけど、あれは仕方が無かった事だ。何時までも気にしても仕方がねぇよ。今師匠達が装置の構造を調べてくれている。完成するまで俺達は俺達のやるべき事をやれしかない」
「やるべき事?」
「今回の作戦でケルピーや巨兵機械鎧と言った強敵と俺達は出会った。恐らくファムステミリアにはケルピー達以上に強い奴が山ほどいるはずだ。だが、今の俺達では奴等と戦ってもまた苦戦を強いられるのが目に見えている。だから、向こうに戻って奴等とまた戦う時が来た時に、余裕で奴等と戦えるだけの力をつけないといけない」
「それはつまり、修行をして強くなるって事か?」
「ああぁ。あまり時間は無いが何もせずに待ってるよりはずっといいだろう?」
「・・・・・・確かにそうだな」
装置が完成するまでの間に何をするべきかを話し合うヴリトラとラピュス。そんな中、ヴリトラのスマートフォンから着信音が鳴り、ヴリトラは持っているカップをテーブルに置いてスマートフォンを手に取る。画面にはニーズヘッグと出ており、それを見たヴリトラはスイッチを入れた。
「もしもし、ニーズヘッグか?」
「ヴリトラ、師匠から例の装置の事で話があるからタイカベル・リーベルトのビルへ来てくれと連絡が入った」
「Dr.GGから?」
「ああ、『凄く重要な話をするから急いで来い!』、だそうだ」
「・・・分かった。すぐに準備して出発しよう。リブル達にはもう伝えたのか?」
「いや、これからだ。こっちで連絡を入れておくからお前もさっさと準備しろよ?」
「了解」
返事をしてヴリトラは電話を切るとラピュスに内容を伝え、ラピュスは一度自室に戻り二人は準備に取り掛かった。それから準備を終えたヴリトラとラピュスは合流してホテルの入口へ向かう。その途中でリンドブルム達とも合流し、一同は真っ直ぐタイカベル・リーベルト社のビルへ向かった。
ビルに着くとヴリトラ達はアレクシアの待つ社長室へ向かい社長室へ入る。中では既にアレクシアとDr.GG、ジェニファーが来客用のソファーに座って待っており、ヴリトラ達は三人の下へ早足で向かった。
「遅くなりました」
「おせぇぞ、テメェ等ぁ!」
遅かったヴリトラ達に文句をつけるDr.GG。すると隣に座っていたアレクシアが彼を宥める。
「まぁまぁ、ヴリトラ達も来たのですし、話を始めましょう」
「・・・まぁ、そうだな。とりあえず座りな」
Dr.GGに言われてヴリトラ達はアレクシア達の正面にあるソファーに腰を下ろす。ヴリトラ達が座ったのを見たアレクシアは真面目な顔でヴリトラ達を見つめた話を始める。
「昨日、皆さんがブラッド・レクイエムの施設でロックを解除した情報を調べ、ユートピアゲートの装置を開発するのに必要な情報を全て手に入れる事ができました。これで構造が分かり、必要な部品などの全て用意する事ができます」
「本当ですか?」
「ええ。ただ、ちょっと問題があるの」
「問題?」
アレクシアの言葉にヴリトラは訊き返した。ラピュス達も黙ってアレクシアの方を見ており、やがてアレクシアは閉じていて口を再び動かし始める。
「その装置の構造がとても複雑になっていた分析を終えるのにかなり時間が掛かるみたいなの。他にも必要な部品を作りそれを組み立てる。更にファムステミリアにちゃんと通じるかどうかのテストと調整、それら全てを行うとしたらとても数日で完成する様なものではないのよ」
「数日では完成しないって・・・じゃあ一体どの位の時間が掛かるんですか?」
ヴリトラが完成までの時間を訊ねるとアレクシアは黙り込み目を閉じる。そしてゆっくりと目を開いてヴリトラ達を見つめた。
「・・・ハッキリ言います。装置の完成には最低でも一年は掛かります」
「いぃちねえぇんっ!!?」
予想以上の期間にヴリトラは思わず声を上げる。ラピュスとラランも目を見開きながら耳を疑い、リンドブルム達も無言で驚いていた。
「ユートピアゲートがブラッド・レクイエムが独自に開発した全く新しい装置です。その原理を分析し、設計図を作るだけでも二ヶ月近く掛かるのよ」
「そ、それでは、私達は一年経たなければファムステミリアに帰れないという事ですか?」
「ハイ、お気の毒ですけど・・・」
アレクシアの言葉にラピュスはショックを隠し切れずに頭を抱えだす。今こうして自分達がこっちの世界にいる間もブラッド・レクイエム社はファムステミリアを支配しようとしている。一刻も早く戻らなければならないのに一年経たなければファムステミリアには帰らないという辛い現実がラピュスの胸に突き刺さる。勿論ラランの顔の歪んでおり、そんな二人の姫騎士をリンドブルム達は黙って見ていた。
ラピュスとラランが落ち込んでいるとヴリトラはラピュスの方を見て彼女の肩にそっと手を置いた。
「ラピュス、気持ちは分かるが今は耐えるしかない」
「耐えるって、私達がこうしている間にもブラッド・レクイエムが王国や他の国を攻め込んでいるかもしれないのだぞ?そんな状況で・・・」
「だからって、此処で取り乱しても今の俺達には何もできない。違うか?」
「そ、それは・・・」
「できない事で悩むよりも、今自分達にできる事をやるのが今の俺達にとって一番重要な事だ」
「今の私達にできる事・・・」
「そうだ。ホテルで話しただろう?」
ヴリトラはホテルでの事をラピュスに話し、ラピュスもホテルでヴリトラが言った事を思い出して彼の顔を見る。
「・・・修行して力をつけるという、あれか?」
「そうだ・・・皆も聞いてくれ」
ソファーを立ち、ヴリトラは周りにいるリンドブルム達に自分の考えを伝え始めた。
「昨晩の戦いで俺達はケルピーと巨兵機械鎧の力の前に苦戦を強いられた。きっとファムステミリアにはケルピー以上の幹部が大勢いるはずだ。今の俺達じゃあ例えファムステミリアに戻れてもまた苦戦するのが関の山だ。そしていつかは俺達でも倒せない幹部と出くわして敗北する。そうなったらブラッド・レクイエムからファムステミリアを守る事もできない。そこで俺は考えたんだ。こっちにいる間に俺達は修行をして強くなる、そして向こうに戻った時にどんな敵と戦っても負けない戦士になろうと」
「どんな敵にも負けない戦士?」
リンドブルムが訊き返すとヴリトラはリンドブルムの方を向き頷く。
「俺達がこっちの世界でファムステミリアの為にできる事、それはあっちの世界の為に強くなる事、俺はそう考えた。皆はどう思ってる?」
ヴリトラが他のメンバーの意見を訊ねると他の七竜将のメンバーは小さく笑って口を開く。
「まぁ、確かにそうだよね・・・」
「今のまま帰ったって、俺等に待ってるのは惨めな姿だけだ」
「それはファムステミリアの補給基地の戦いで十分思い知らされたからな」
「だったら、あたし達のやるべき事はもう決まってるわ」
「時が来るまで自分を磨き、強くなる事・・・」
「強くなってファムステミリアに帰ろう。アリサさん達を守る為にも!」
七竜将全員の意見は一致し、ヴリトラをニッと笑う。そして最後にラピュスとラランの方を見た。
「お前達はどうだ?」
「・・・・・・確かに、お前の言うとおりだ。ブラッド・レクイエムの強さは右腕を失った時に十分理解した。なら、もう二度と同じ思いをしない為にも・・・私は強くなる!」
「・・・私も」
「決まりだな」
全員が強くなる為に修行をする事を決意し、ヴリトラはアレクシアとDr.GGの方を向いた。
「・・・という訳で師匠、俺達は強くなる為に修行を始めます。師匠にも色々と鍛えてもらいますんで、お願いします」
「・・・フフフフ、そういういきなりなところは昔と変わらないわね?いいわ、とことん鍛えてあげる。他の皆さんもね」
「なら、俺様も機械鎧の事なんかを色々テメェ等の頭に叩き込んでやるぜ?覚悟しろよ、俺様はスパルタだからなぁ~」
剣と機械の達人が目の前の九人を見つめ、ヴリトラ達もそんな二人を見て真剣な表情を浮かべた。
「さて、となると早速準備を始めるか。ラピュス、剣の修業をする為に道場に行くけど、お前も行くか?」
「ドウジョウ?どんな所なんだそこは?」
「おいおい、それなら俺も連れて行けよ、ヴリトラ?」
「あたしは清美師匠から色々な医学を学んでおかないといけないわねぇ」
「僕は射撃訓練場へ行ってウォーミングアップでもしてこようかな」
「・・・私も行っていい?」
「うん、いいよ」
これから始まる修行に備えてそれぞれ話し合いを始めるヴリトラ達。そんな彼等の姿をアレクシアは笑って見守っていた。
ユートピアゲートの装置を確保できなかったヴリトラ達は新しい装置の完成を待つ為に一年間地球で修業をする事を決意する。ブラッド・レクイエム社からファムステミリアを守る為、自分自身を心身ともに強くする為、ヴリトラ達の一年間の修業が今始まるのだった。
今回で十三章は終了です。次の章から新しい物語に入りますので、物語の方針を決める為にしばらく投稿を休止とさせて頂きます。準備が整い次第、投稿を再開しますので、しばらくの間、失礼いたします。




