第二百三十九話 突然の襲撃 黒き鋼の巨兵!
ケルピーとの戦いで予想以上に苦戦しているヴリトラ達は別行動を取っているニーズヘッグにケルピーの情報を調べるよう頼む。ニーズヘッグもブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士がいる事を不思議に思いながらも情報を調べるのだった。
リンドブルムから通信を受けたニーズヘッグは通信を終えた後、すぐに目の前のパソコンを使いケルピーの情報を調べ始めた。その後ろではオロチとファフニールが静かにニーズヘッグの作業を見守っている。
「・・・どう?分かった?」
「もう少し待て、流石に機械鎧兵士の情報が入っているだけあってセキュリティも厄介なんだ」
「あとどれ位かかる?」
ファフニールがどれくらいの時間が掛かるか訊ねる。だがニーズヘッグは返事をせずに黙ってキーボードを指で叩き続けた。
「ねぇ、ニーズヘッグ!」
「静かにしろ・・・」
返事の無いニーズヘッグに再び声を掛けるファフニールをオロチが止める。
「相当レベルの高いセキュリティだ、声を掛けられてミスをしたら情報が手に入らなくなるかもしれない。大人しく待っていろ・・・」
「・・・ハァ~イ」
静かに注意をするオロチを見ながらファフニールは返事をし、黙って作業が終わるのを待った。
それから数分後、作業を終えたニーズヘッグは指を動かすのをやめてパソコンの画面を見つめる。その様子を見ていたオロチとファフニールも後ろから同じ様に画面を覗き込んだ。
「見つけたのか・・・?」
「ああぁ、大したもんだぜ。ブラッド・レクイエムに所属している機械鎧兵士の殆どの情報が入っている・・・」
「どうしてこんな重要な情報をコンピューターに残しておいたんだろう?普通は敵に情報を渡さない為に消しておくものでしょう?」
「さぁな?ただ単に消すのを忘れたのか、この施設を利用する時に必要な情報だと思って残しておいたのか、いずれにせよ俺達には好都合だ。この中からそのケルピーって言う機械鎧兵士の情報を探そう」
ニーズヘッグは再びキーボードを指で叩き目的の情報を探し始める。ファイルを開いていくと多くの機械鎧兵士の情報が出て来てそれ見た三人は目を見張りながら驚いている。あまりにも大勢いる機械鎧兵士と幹部に驚きを隠せないでいたのだ。
マウスを使って画面を動かしていくと目的のケルピーの情報を見つけた。
「あったぞ、コイツだ!」
ケルピーの写真が貼られているプロフィールの様な情報を見たニーズヘッグは画面に顔を近づけてキーボードの十字キーを数回叩く。するとケルピーの詳しい情報が画面に映し出された。
「へぇ~、結構可愛い人だね?ツインテールだし、何だかアイドルって感じ」
「こんな時に何を言っているんだ・・・」
パソコンに映し出されているケルピーの写真を見て感想を口にするファフニールをオロチはチラッと見ながら呟く。するとニーズヘッグは画面から顔を離して画面を見ながら二人の会話に参加して来た。
「いや、ファフニールの言うとおりだぞ?」
「どういう事だ・・・?」
「このケルピーって女、ブラッド・レクイエムに入社する前はそこそこ人気のあったアイドルだったらしい」
「えっ、本当なの?」
ただ見た目で口にした感想が当たり意外な顔を見せるファフニール。オロチはいつも通りの無表情だった。そんな二人の顔を見る事無くニーズヘッグは画面に書かれている情報を読んで行く。
「ケルピーは三年前にコンサートの最中に事故に遭ったらしい。その時に喉に重傷を負い声帯が完全に機能を停止、声が出せなくなってしまい芸能界から姿を消した。と書いてあるな」
「大方、アイドルを辞める事になり失意にあったところをブラッド・レクイエムに拾われて機械鎧兵士になったのだろう・・・」
「間違いないだろうな」
ケルピーの過去を知り、なぜ彼女が機械鎧兵士になったのかを想像しながら話し合うニーズヘッグとオロチ。ファフニールはパソコンの画面に映し出されている情報をジッと眺めている。
「それでそのケルピーって人はそれからどうなったの?」
ファフニールはケルピーがブラッド・レクイエム社に入社した後の事が気になりニーズヘッグに訊ねるとニーズヘッグはキーボードを叩いて新しい情報を画面に出す。
「ケルピーは喉に機械鎧の手術を行い、人口声帯を取り付けて声を取り戻したらしい。噂では声が出なくなる前よりも良い声になったとか・・・」
「それじゃあ、この写真に写ってる首輪みたいな機械がこの人の機械鎧?」
「ああ、コイツは喉以外は全部が生身の状態で身体能力はナノマシンだけで強化したらしい。情報ではケルピーの実力は幹部の中ではかなり下だとか」
「そうなんだ・・・」
「それで、奴の機械鎧はどんな性能があるんだ・・・?」
オロチがケルピーの機械鎧の性能、内蔵兵器について訊ねるとニーズヘッグは再びキーボードを叩く。そして機械鎧の性能が書かれたあるページを見つけるとニーズヘッグはそれを目で追って行った。するとニーズヘッグの表情が若干鋭くなり、彼はゆっくりと画面から顔を離す。
「・・・・・・成る程、そういう事か」
「どういう事?」
「・・・これはある意味、かなり厄介な相手だぞ」
「だから、それってどういう――」
ファフニールがニーズヘッグに訊ねようとした時、突然三人の後ろにある一階に続く階段から轟音が聞こえ、それと同時に砂煙が上がる。
「「「!!」」」
突然の轟音に驚く三人は一斉に階段の方を向く。階段は崩れて使えなくなっており、ただ砂煙だけが上がっていた。
「な、何!?」
驚くファフニールが壁に立て掛けてあるギガントパレードを手に取り、オロチは斬月を構えて崩れた階段を見つめる。ニーズヘッグも席を立ちアスカロンを構えていた。
三人がしばらく砂煙を見つめていると、砂煙の中から赤い目が二つ光っているのが見えた。その目を見て更に警戒するニーズヘッグ達。すると砂煙の中から四つの鋭い爪を持った大きな黒い腕が飛び出し、その奥から全身が黒い大きな人型ロボットの上半身が姿を見せる。
「うわぁ!ロボット!?」
「何なんだ、コイツは・・・?」
ロボットの姿を見て驚くファフニールとオロチ。ロボットは三人を見ながら赤いツインアイを光らせ、爪の付いた大きな腕を振り上げた。
「ヤバい!外へ行けっ!」
ニーズヘッグはオロチとファフニールに素早く指示を出し、それを聞いた二人は急いで窓から外へ飛び出した。ニーズヘッグもファフニールの飛び降りた窓から外に飛び出し、その直後にニーズヘッグ達のいた二階の部屋から再び轟音が聞こえ、砂煙が吹き出た。さっきまで自分達がいた部屋を見て三人は驚きの表情を浮かべながら地面に着地した。普通の人間であれば怪我をするが機械鎧兵士である三人にはどうという事はない。
「大丈夫か!?」
「ああ、なんとかな・・・」
バラバラにあっていた三人は合流し、二階の部屋を見上げた。その時、割れた窓が破壊されて二階の部屋からさっきのロボットが顔を出してゆっくりと二階から降りて来る。ロボットはニーズヘッグ達の数m前で着地してニーズヘッグ達を見つめた。二本足で立つそのロボットは3、4mはある身長に全身を黒い装甲で覆っている。両腕には四本の鋭い爪、両肩にはバルカン砲が一丁ずつ付いていた。そして何より、そのロボットの胸部の装甲にはブラッド・レクイエム社のマークが描かれてある。ニーズヘッグ達の前に立っているロボットはブラッド・レクイエム社の物だったのだ。
「このロボット、ブラッド・レクイエムのロボットなのかな?」
「なぜこの施設にブラッド・レクイエムのロボットが・・・」
「まぁ、此処は元々ブラッド・レクイエムの所有している施設だし、幹部がいるんだからロボットぐらいあっても不思議じゃないだろうな」
ロボットが施設にいる理由を三人で考えていると、ロボットが赤い目を光らせた。
「お前達が別行動をしている七竜将の傭兵だな?」
「うわぁ!ロボットが喋った!」
ロボットから聞こえてくる男性の声にファフニールは驚く。ニーズヘッグとオロチは自分の得物を構えてロボットを睨む。
「何だお前は?ブラッド・レクイエムの新兵器か?」
「フフフ、違う。私はこの施設の管理を任されているトライアングル・セキュリティの坂口という者だ」
「何?トライアングル・セキュリティの・・・?」
聞こえてきた声の主はこの施設の司令官である坂口だった。ニーズヘッグ達が目の前に立っているロボットが施設の司令官だと知り驚くの表情を見せている。
「ロボットが司令官とは、トライアングル・セキュリティはそんなに人手不足なのか?」
「何か勘違いをしているようだな?私は普通の人間だ。これはブラッド・レクイエム社が開発した最新型の有人兵器、『巨兵機械鎧』だ!」
「ギガントマシンメイル?」
「普通の人間でも機械鎧兵士と同等の力を得る事ができる乗り込み式の機械鎧、その試作機だ」
「成る程、要するにパワードスーツってやつか」
目の前のロボットが最新型の機械鎧だと知り静かに呟くニーズヘッグ。今まで見た事の無い全く新しいタイプの機械鎧を前に三人の緊張が走る。
巨兵機械鎧の中では坂口が目の前のモニターに映るニーズヘッグ達を見て笑っていた。
「フフフ、これさえあれば我々の様な普通の人間でもお前達化け物と互角に戦えるというわけだ」
「化け物、ねぇ・・・確かに俺達機械鎧兵士は普通じゃない。だが、その機械鎧兵士の力を悪用するブラッド・レクイエムやその傘下に入っているアンタ達の方が化け物の様に異常だと思うがな?」
「だまれ、青二才が!そう言う事は私に勝ってから言うのだな!」
ニーズヘッグに言い返した坂口は巨兵機械鎧の右腕を大きく振り上げて勢いよくニーズヘッグ達の頭上から振り下ろした。三人はそれぞれ三方向に跳んで攻撃をかわし武器を構え直す。
回避した直後にニーズヘッグは右腕の機械鎧の内蔵機銃を使い反撃する。しかし弾丸は巨兵機械鎧の装甲に弾かれ全く効果がなかった。巨兵機械鎧はゆっくりと銃撃するニーズヘッグの方へ歩いて行き、鋭い爪の付いた腕で突き攻撃する。ニーズヘッグは後ろへ跳んでその突きをかわし、かわされた爪は地面に突き刺さって巨兵機械鎧に一瞬の隙を作る。それを見たニーズヘッグはチャンスと思い、着地すると左足の機械鎧の膝部分の装甲を開きマイクロ弾を撃つ。マイクロ弾は動けなくなっている巨兵機械鎧の右肩部分に命中し爆発した。
「やったか?」
マイクロ弾が命中を確認したニーズヘッグは左足を元に戻しながら巨兵機械鎧の方を見る。灰色の煙に包まれて姿は確認できず、ニーズヘッグや彼と正反対の位置で立っているオロチとファフニールは武器を構えながら煙をジッと見つめた。やがて煙が薄くなって煙の中の様子が見える様になってきた。だが次の瞬間、煙の中から巨兵機械鎧は姿を現した。しかもマイクロ弾が命中した右肩部分は少し凹んで焦げているだけで殆どダメージを受けていなかった。
「何っ!?効いてない?」
「ウソォ!だって、ニーズヘッグのマイクロ弾は戦車も壊すくらい強力なんでしょう?」
「どうやらアイツの装甲は普通の装甲ではないようだな・・・」
巨兵機械鎧を見て驚くニーズヘッグとファフニールに冷静に分析をするオロチ。巨兵機械鎧はマイクロ弾が命中した右肩を軽く動かして異常がない事を確認する。
「フハハハ、無駄だ。コイツの装甲は最新式の複合装甲なのだ、戦車の榴弾砲でも使わない限りこの装甲は破壊ができん!」
「チッ!厄介な物を作ってくれたぜ、ブラッドレクイエムの奴等!」
とんでもない兵器を作った事でニーズヘッグはブツブツ言いながらブラッド・レクイエム社を恨む。そんな彼に巨兵機械鎧は再び右腕を振り下ろして攻撃して来た。ニーズヘッグは先程と同じ攻撃を左へ跳んで軽くかわす。だが今度は振り下ろした右腕は爪が地面に刺さる事無くピタリと止まり、そのまま勢いよく横へ振って回避行動を取ったニーズヘッグの後を追う。
「クソッ!」
追いかけてきた大きな腕を見てニーズヘッグは自分と巨兵機械鎧の腕の間にアスカロンを平らにして挟む。そして巨兵機械鎧の腕はアスカロンごとニーズヘッグに命中した。
「ぐううぅ!」
体に伝わる痛みと衝撃に声を漏らすニーズヘッグ。勢いを止める事はできず、ニーズヘッグはそのまま殴り飛ばされ、積まれている木箱の中に突っ込んだ。
「ニーズヘッグ!」
攻撃を受けて飛ばされたニーズヘッグを見てファフニールは思わず叫ぶ。オロチも舌打ちをしながら斬月を構えて巨兵機械鎧を睨んでいる。
粉々になり砂埃を上げる木箱の山を見て巨兵機械鎧はゆっくりと体勢を直す。その光景を巨兵機械鎧の中から見ていた坂口は意外そうな顔をしている。
「ほぉ?攻撃を受ける瞬間に剣を間に挟んでダメージを抑えるとは、なかなかの判断力だ。流石は名高い七竜将と言うべきだな」
ニーズヘッグの行動を見て彼を褒める坂口。すると粉々になった木箱の中からニーズヘッグは姿を現しゆっくりと立ち上がる。顔や体に幾つかの傷を負っているニーズヘッグは無表情で攻撃を受けた箇所を軽く擦り、特殊スーツに付いている埃を掃うと落ちているアスカロンを拾った。
「・・・フム、アスカロンは壊れていないようだな」
「ダメージを抑えたとはいえ、あの攻撃を受けて立ち上がれるとは大したタフさだ」
「なぁに、そのオンボロの力が弱すぎるだけだ」
「フッ、強がりか?いくらナノマシンで身体能力を強化していても所詮は半分人間のサイボーグ、全てが機械鎧で出来ているこの巨兵機械鎧に勝てるはずがなかろう」
「確かに一人じゃキツイだろうな・・・だけどな、俺達七竜将は・・・」
ニーズヘッグが喋るながらゆっくりと目の前の巨兵機械鎧を見上げると、巨兵機械鎧の背後から斬月を握ったオロチが跳び上がって姿を見せ、足元ではギガントパレードを両手で握るファフニールの姿があった。
「・・・仲間と協力して戦ってるんだ」
「!」
背後からの気配に気づいた坂口が巨兵機械鎧を操作して振り返る。そしてジャンプしながら斬月を振り上げているオロチとギガントパレードの頭を光らせているファフニールを見つけた。
「ニーズヘッグだけに気を取られて私達を忘れるとは・・・」
呆れる様な顔で呟くオロチは巨兵機械鎧の頭部に向かて斬月を勢いよく振り下ろした。巨兵機械鎧は左腕でオロチの斬月を素早く防ぐ。斬月の刃が触れている箇所からは火花と金属が削れる音が広がり、オロチは自分の振り下ろしを止めた巨兵機械鎧を睨む。そこへ足元へ移動していたファフニールが巨兵機械鎧の右足に向かってギガントパレードを振る。
「メガトンアタ~ック!」
黄色く光るギガントパレードの頭で右足を殴るのと同時に凄まじい衝撃が巨兵機械鎧を襲い体勢を崩した。
「何だと!?」
衝撃と巨兵機械鎧が体勢を崩した事に驚く坂口。ギガントパレードで足を殴られて事により、下半身が左へずれてその拍子で上半身は右へずれるという形で倒れそうになる巨兵機械鎧だったが、素早く右手を地面に付けた倒れるのだけは防いだ。するとジャンプ攻撃をしていたオロチが両足のジェットブースターを起動させて空中で浮いた状態のまま斬月を構え直し、再び攻撃しようとする。
「隙だらけだ・・・」
ジェットブースターの出力を上げて巨兵機械鎧へ向かって飛んで行くオロチ。だがオロチが攻撃しようとした瞬間、巨兵機械鎧の両方に付いているバルカン砲がオロチに向かって火を吹いた。一瞬驚きの表情を浮かべたオロチだが、飛んで来る弾丸を冷静に斬月を使って弾いて行き、体勢を立て直す為に巨兵機械鎧から距離を取る。
オロチが離れると巨兵機械鎧はバルカン砲を撃つのをやめて態勢を立て直した。そこへ今度はファフニールが跳び上がり巨兵機械鎧の頭部に向かってギガントパレードを勢いよく振り下ろす。しかしファフニールのそんな重い一撃を巨兵機械鎧は右手で掴んで止める。
「あっ!」
「小娘が、引っ込んでいろ!」
そう言い放ち、巨兵機械鎧はファフニールをギガントパレードごとオロチに向かって投げつける。投げられたファフニールはそのまま飛んでいるオロチと激突し二人は地面に叩きつけられる様に落下し、斬月とギガントパレードも地面に落ちた。
「うう・・・」
「だ、大丈夫?」
「ああ、なんとかな・・・」
痛む体をゆっくりと起こすオロチとファフニール。そんな二人を遠くで見たニーズヘッグは表情を鋭くして巨兵機械鎧を見つめた。
「・・・ファフニールのハンマーを止めたのは正直驚いたぜ」
「言ったはずだぞ?サイボーグのお前達とこの巨兵機械鎧には勝てないとな」
(・・・こりゃあ、久しぶりに面倒な戦いになりそうだな・・・それに早いところケルピーの情報をヴリトラ達に伝えないと・・・)
心の中で現状の確認をしながらヴリトラ達の事を考えるニーズヘッグはアスカロンを構えながら巨兵機械鎧を睨む。遠くでも立ち上がったオロチとファフニールが得物を手に取りニーズヘッグの下へ走り出す。予想もしていなかった敵との戦いにニーズヘッグ達は苦戦を強いられるのだった。
ケルピーの情報を手に入れた直後、施設の司令官である坂口が新兵器の巨兵機械鎧を着てニーズヘッグ達を襲撃する。その巨体と力の前に三人は押されながらも戦う。果たしてニーズヘッグ達は勝てるのだろうか、そしてケルピーの機械鎧の秘密とは・・・。




