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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第三章~戦場に流れる鎮魂曲(レクイエム)~
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第二十三話  出陣! 七竜将と第三遊撃隊

 戦略会議で、トコトムトの村で進軍してくるストラスタ軍を迎撃する役目を与えられたヴリトラはその任務を承諾し、その任務にラピュス達第三遊撃隊を同行させてほしいと進言する。その事が認められてラピュス達第三遊撃達は七竜将と共に前線のトコトムトの村へ向かう事となった。


「まったく!何を考えてるんだ!?」

「そう怒るなよぉ・・・」


 怒りながら街道を歩くラピュス。その後ろをヴリトラは苦笑いをしながらついて行く。戦略会議が終ってからラピュスは勝手に自分達を同行させてほしいとガバディアに頼んだヴリトラに怒り続け、ずっとこんな調子がだった。

 それもその筈だ。ラピュス達王国遊撃隊は町の警護や町の近くや別の町で怒っている事件を解決したり、別の部隊の支援に向かうのが主な任務。戦争、しかも前線で戦う事なんて今まで一度も無く、戦場での対応の仕方が全く分かっていない。そんな状態でいきなり前線へ引っ張り出されたのだから感情的になるのも当然と言える。


「怒るに決まってるだろう!お前達七竜将が最前線へ行くのは勝手だ、でも何で私達までそれに同行しなくちゃいけないのだ。私達は戦争の様な大規模な戦いに参加した事は一度も無いのだぞ!?」

「・・・勝手に決めておいてこんな事言うのは難だけど、お前も騎士なんだからあまり感情的にならずに覚悟を決めろよ?」

「お、お前なぁ~っ!」


 文字通り勝手に決めておいて都合のいいことを言うヴリトラに立ち止まって振り返ったラピュスは額に血管を浮かべてますます表情を怖くする。だがヴリトラはそんなラピュスの表情を気にする事なく話しを続けた。


「それにだ、俺を戦略会議に参加させたのはお前だろう?だったらこうなる事も覚悟しておくべきだったんじゃないのか?」

「うっ!・・・き、詭弁だ!」


 言い返す事が出来ずにそっぽ向くラピュス。そんなラピュスを見てヴリトラも罪悪感を感じているのか、頭を掻きながらラピュスに近づき頭にポンと手を置いた。


「な、何だ!?」

「・・・勝手に決めた事は悪いと思ってる。でも、お前やララン達には見せておきたいんだ」

「見せておきたい?何をだ?」

「・・・俺達七竜将の戦い方、そして本当の力をだ」

「本当の力・・・?」


 ヴリトラの意味深な言葉を聞き、ラピュスは真剣な表情で聞き返した。ヴリトラはゆっくりと頷いてラピュスの頭から手を退けるとラピュスの隣を通って彼女に背を向ける。ヴリトラの後ろ姿を見ながらラピュスは黙って彼の背中を見ていた。


「安心しろ、敵軍の相手は俺達七竜将がする。お前達遊撃隊は俺達が倒し損ねたり、村を突破しようとした敵を倒してくれ」

「・・・人の部隊を勝手に前線へ引っ張っておいて随分と軽い扱いをするのだな?」

「お前達が言ったんだぜ?戦争には一度も参加した事がないって。だからまずは戦場の空気になれてもらう為に俺達を援護する形に入ってもらう訳だ」

「・・・はぁ。戦場の空気になれる、か」


 ラピュスは笑って受け入れられない内容に深く溜め息をつく。しばらくして顔を上げたラピュスはヴリトラを見て真剣な表情に戻した。


「いいだろう。私も姫騎士の端くれだ、覚悟を決める。だがこれだけは言わせてもらうぞ?」

「ん?」

「私は遊撃隊隊長として部下達を守る義務がある。もし部下の騎士達に危険が及んだら私は部下を優先して助けるからな?」

「ああ、それでいいよ」


 お互い真剣な表情で話し合うヴリトラとラピュス。七竜将は今までにも戦争の介入や軍の支援などの依頼を受けた事がある為、戦争というものには慣れている。だがラピュス達にとっては初の戦争への介入だ。戦場に入った瞬間に強いプレッシャーを感じるはずだ、だがそのプレッシャーに打ち勝たなくては命を落としていしまう。決してプレッシャーに押しつぶされてはいけない。

 ヴリトラとラピュス、傭兵隊と騎士隊の隊長、お互いに仲間を守る立場として二人も強いプレッシャーを感じているのだろう。しかし二人の表情にはその二つが現れていない。ヴリトラは戦場の空気に慣れてしまっているからだが、ラピュスはクレイジーファングとのとジークフリートとの戦い、この二つの戦いでなぜか自然と神経が強くなってしまっていたのだ。普通では考えられない事だが、実際彼女はそうなってしまっていた。


「・・・戦争に参加した事がないって言ってたわりには随分と余裕がありそうじゃないか?」

「そう見えるか?私自身があまり自覚が無いのだが・・・」

「へぇ~・・・」


 意外そうな顔を見せるヴリトラ。ラピュスは深呼吸をして自分の頬を両手で軽く叩いて気合を入れる様にヴリトラの方を向いた。


「さて、私はこれから隊の者達に今回の事を話してくる。きっと全員取り乱す筈だからな、宥める為に気合を入れなくては」

「ハハハ・・・悪いな・・・?」

「全くだ。今回の埋め合わせは必ずしてもらうからな?」

「ああ、もし全員が無事に帰って来れたら七竜将(俺達)が好きなだけ飯おごるよ?」

「フッ、それで皆が納得するかどうかは分からないが、伝えておこう」


 そうお互いに言い交したヴリトラとラピュスはズィーベン・ドラゴンと騎士団依頼所へと向かって行った。

 ヴリトラ達がトコトムトの村へ向かうのは明朝。突然戦場に行くと言われてリンドブルム達やララン達は驚き、戸惑いを見せるだろう。それをどう説得するのか、ヴリトラとラピュスの力が試される事となった。


――――――


 翌日、朝早くティムタームの入口である門の前にはラピュス達第三遊撃隊が馬に乗って待機している。人数は十五人でラピュス、ララン、アリサの三人はいつも通りの表情を見せている。最初に戦場へ向かうと聞かされた時はラランとラピュスも戸惑いを見せていたが、七竜将が同行すると聞かされつと途端に安心したかのように落ち着きを見せたのだ。それに引き替え、一般の騎士達の顔には決心した者達もいるが、まだ不安の表情が見せる者達もいた。馬に乗りながら俯いて黙り込んでいる。

 先頭で馬に乗りながら騎士達を見ているラピュス達姫騎士は困り顔をしている。昨日はなんとか説得したが、それでもこの状況だ。アリサは馬に乗りながらゆっくりとラピュスに近づいて行く。


「隊長、やっぱりまだ皆不安なんですよ」

「分かっている。だが、私達遊撃隊もいつかは戦場に駆り出される時が来る。その日の為にも戦争というものを経験しておかなくてはいけない」

「確かにそうですけど、今まで町の警護と大きな危険をない任務ばかりをやっていた人達にいきなり戦場に出てもらうっていうのは・・・」


 小声で話し合いをしているラピュスとアリサ。その二人の会話を見ているラランは騎士達を見た後に町の方を見る。


「・・・ん?」


 町の方を見ていたラランが何かに気付いて声を出す。その直後に町の方から低い音が聞こえてきた。ラピュス達はその音に気付いて一斉に町の方を向く。彼等は前に一度その音を聞いた事がある為、あまり驚かなかった。彼等の視線の先には二台のフルサイズバンが並んで来る光景が飛び込んできたの。

 バンが真横を通過した事に驚く馬達と乗っていた騎士達が思わす声を出す。二台のバンはラピュス達の横で停止し、バンのドアが開いて中からヴリトラ達、七竜将が降りてきた。バンを下りた七竜将は全員特殊スーツを身に纏いその上にコートを着ている。彼等はラピュス達の方へ歩いて行き、馬に乗っている三人を見上げる。


「おはよっ」

「やっと来たか。出発の時間ギリギリだぞ?」

「ワリィ、支度に手間取っちゃってな」


 手を顔の前まで持ってきて謝罪するヴリトラ。そして直ぐに不安の顔を見せている騎士達の方へ視線を向けた。ヴリトラの後ろではリンドブルム達もそんな騎士達を黙って見ている。


「皆、今回は俺の勝手な発案で面倒事に巻き込んですまなかったな。だがこの戦いはレヴァート王国の命運を分ける重要な戦いなんだ、力を貸してくれ」


 騎士達を見て頼むヴリトラを見てラピュス達姫騎士、リンドブルム達七竜将は真剣な顔でヴリトラを見た後に騎士達の方を向く。しかし未だに騎士達は不安そうな顔をしており、中には鬱陶しそうな顔をしている者もいた。


「力を貸してくれって、アイツ等を入れてたったの二十二人だろう?」

「ああ、それに比べて相手は五十人以上の中隊規模も部隊だろう?勝てる訳ねぇよ」

「勝手に話しを進めてといて都合が良いよな?」

「そうだよ。そんなに行きたいなら自分達だけで行けってんだよ」


 騎士達は小声で七竜将に対する不満や戦いの結果を口にしている。しかし、そんな騎士達の小声の会話を七竜将は全て聞いていた。ナノマシンを体内に投与した事で彼等は身体能力だけじゃなく、五感も鋭くなってたのだ。その為、騎士達の会話は全て筒抜けだった。

 七竜将は騎士達の会話を聞いて困り顔を見せるが、直ぐに元の表情に戻して騎士達を見て口を開く。


「不安なのは分かるわ。今回もうちの隊長のせいで迷惑をかけた事も仲間であるあたし達が詫びるわ」

「コイツはチャランポランでいい加減か性格だが、国や仲間を思う気持ちは本物だ」

「だから、皆さんを必ず無事にティムタームに帰してくれます。勿論僕達も!」


 ジルニトラに続いてニーズヘッグとリンドブルムがヴリトラをフォローするように、騎士達を安心させるように声を掛ける。一部、自分を小馬鹿にするような発言にヴリトラは反応して苦い表情を見せる。

 そこへラピュス達もリンドブルム達に続いて騎士達に語りかけてきた。


「お前達、思い出せ。七竜将は未知の武器と常人離れをした力を持っている、それはクレイジーファングの一件で理解したはずだ。彼等がいれば必ず私達は勝てる、私はそう思っている」

「・・・私もそう思う」

「ですから皆さん、七竜将の皆さんを信じましょう!」


 ラピュスの言葉につられる様にラランとアリサも七竜将をフォローし騎士達を勇気づけた。自分達の隊長であるラピュスやその両腕である二人の姫騎士の言葉を聞いた騎士達の表情が少しだけ和らいだ。姫騎士とは言え、彼女達は王国内でもそれなりの実力の持ち主、その彼女達の言葉なら騎士達も少しは安心するのだろう。

 表情に少しだけ余裕を見せた騎士達を見て七竜将も微笑んでいる。その中でヴリトラが騎士達を見て笑いながら言った。


「今回の任務が終ったら達成の祝いと皆を巻き込んだ詫びを兼ねて皆に飯おごるぜ!」

「・・・言っておくけど、あたし達はお金出さないからね?」

「おごるんならお前の持っている金でおごれよ?」

「なぬぅ!?」

「まっ、当然だな?」


 ヴリトラの後ろで腕を組みながらジト目で言うジルニトラとニーズヘッグ。二人の言葉を聞いたヴリトラは間抜けな声で振り返り、そんなヴリトラは面白そうに笑いながら見ているジャバウォック。三人の会話見てリンドブルムとファフニールは苦笑いをしており、オロチは黙ってジーッと見ていた。

 ラピュスはそんな七竜将のやりとりを呆れる様な顔でも見つめ、ラランは無表情で、アリサは苦笑いで見ている。そして騎士達も七竜将を見てまた少し表情が和らいだ。しばらくして話しを終わらせた七竜将はラピュス達を見つめて目で合図を送る。ラピュスもヴリトラを見て頷くと腰の騎士剣を抜いて騎士達を真剣な表情で見て大きな声を出す。


「これより、我々第三遊撃隊は七竜将と共にストラスタ公国との抗戦地域にあるトコトムト村へ向かう。我々の任務はそのトコトムト村で防衛線を張り、サリアンの森とエリオミスの町へ続く道へ進もうとする敵軍を止める事だ。敵軍がそのトコトムトの村へ侵攻してくる可能性は五分五分だ。だがもし敵がトコトムト村へ侵攻してしまえばサリアンの森にある補給基地は制圧され、エリオミスの町にいる友軍は挟み撃ちをつけて殲滅してしまう。そうなれば我が軍は一気に不利になってしまう、それだけは阻止しなくてはいけない。皆、敵軍と戦う覚悟だけはしておくんだ!・・・行くぞ!」


 ラピュスの号令に騎士達は返事をする。その返事にはまだ力が感じられないが、それでもさっきよりはましになっている。号令の直後に、第三遊撃隊は馬を歩かせてトコトムトの村へ向かって出陣した。七竜将もバンに乗り込んで第三遊撃隊の後をついて行く。規模は僅か二十二人の部隊に物資を運ぶ馬車。たったそれだけの部隊が中隊以上の敵軍の侵攻を防ぐ為に前線へ向かって行くのだった。

 ティムタームの町からトコトムトの村までは約15K。元の世界でなら自動車で行けば一時間ほどで到着するが、この世界では最も速いのが馬であるしかも複雑な道が多く、途中で休憩も入れながら向かっているので最低でも三時間は掛かる。その中でトコトムトの村に着いてからどうするかなどをヴリトラ達がラピュス達と相談していた為、結局ヴリトラ達がトコトムトの村に着いたのはティムタームを出てから四時間後、一時間もオーバーしてしまった。

 村に着いて辺りを見回すと、そこはボロボロの家や枯れてしまった木々、飢えて死んだ家畜の骨が転がっている砂とホコリだけの村。ガバディアの言っていた通りの無人の村だった。その村を目にした七竜将や遊撃隊の者達はその光景を目にして驚き只々誰もいない村を見回す。


「此処が、トコトムトの村か・・・?」

「ああ、三ヶ月前に盗賊の襲撃を受けて村人の殆どが殺されて無人の村となった場所だ。しかも殺された村人の怨念が漂うという嫌な噂まで流れてな、旅商人や騎士団なども寄りつかない」

「成る程ね、幽霊村って訳か・・・て言うか、ガバディア団長、そんな事一言も言ってなかったぞ?」


 気味の悪い噂が流されている事を知って小さく頷くヴリトラ。実はその噂が遊撃隊の騎士達を不安にさせている理由の一つでもあったのだ。只でさえ戦う可能性のある敵軍と自分達の戦力に大きな差があるのに、敵を待ち伏せする間にずっとその不気味な村にいなくてはいけないと言う事が彼等に精神を削っていく。村に来て直ぐに沈んでいる騎士達を見ながら七竜将と姫騎士達は苦い顔を見せる。


「只でさえ厳しい戦いになる可能性があると言うのに、この村の噂を事を知っている者達はますます士気を低下させてしまう。それが心配なのだ・・・」

「・・・でも、敵が来ずにエリオミスの駐留部隊が敵軍を追い返してサリアンの森の基地の戦力を増強すれば、直ぐに帰れるんでしょう?」


 ラピュスの隣で彼女を見上げながら尋ねるララン。ラランの質問を聞いたラピュスは苦い表情のままラランを見下して答える。


「確かにそうだが、それまでかなり時間が掛かる。団長の話によると、二つのエリオミスの町の部隊は現在、戦力の四割を失っている。敵軍を押し戻す為には一個中隊分の戦力を投入しなくてはならない。更にサリアンの森を防衛する為に必要な部隊を編成するのにも手間取ってと言う話だ。その二つの部隊を準備するだけでも、あと二日は掛かると言う話だ」

「二日も掛かるんですか?」


 予想以上に時間が掛かる事を聞かされたアリサは驚く。ラピュスはアリサの方を向いて頷いた後に休憩している兵士達に気を配りながら悟られない様に話しを続けた。


「ああ、青銅戦士隊や白銀剣士隊は殆どが最前線に出ているから強い戦力を送る事が難しくなっている。今王国に残っているのは私達の様な遊撃隊やギルド、そして傭兵達だけだ。彼等に依頼するだけでも時間が掛かる」

「傭兵達やギルドの人間はそれに見合った報酬を出さないと動かないから説得だけでも時間が掛かるって訳ですか?」

「その通りだ・・・」


 リンドブルムが時間が掛かる理由を察して尋ねると、ラピュスは小さく溜め息をついた後に頷く。ヴリトラ達は休憩を取りながら廃墟と化した民家に入り、役に立つ者がないかを探したり、駐留する為の準備をしている騎士達を見つめていた。


「二日以上もこんなお化けが出るかもしれない村にいなくちゃいけないんですから、皆さんが不安なのも納得できますね・・・」

「せめて敵が現れず、戦闘が起こらずにこのまま増援が来るまで駐留しているだけであるよう願うのがアイツ等にとって唯一士気を溜めてる理由という訳か・・・」


 ファフニールとオロチが騎士達を見ながら気の毒そうな顔で、無表情で見つめながら呟いている。その後ろでヴリトラは自分のせいで騎士達が不安がっている事を改めて実感して頭を掻いている。そんなヴリトラに気付いたジャバウォックは彼の肩をポンと叩きて笑いながら声を掛ける。


「お前までそんな困ったような顔をしてどうすんだ?今回の一件を申し訳ないと思ってんなら、何があってもアイツ等を守り抜け。それがお前に出来る事なんだからよ」

「そうだよ。そんな顔するなんてらしくないよ?いつもみたいにへらへらとした顔で頑張ればいいんだよ」

「・・・そうか?なら、いつも通りに行かせてもらうぜ」


 ヴリトラを励ますように声を掛けるジャバウォックとリンドブルム。ヴリトラは笑いながら二人を見て答える。実際ヴリトラが本当に困っていたのかは不明だが、これでヴリトラは更に騎士達を守る意志を強くし、リンドブルム達もヴリトラに力を貸す意思を固くした。


「だからと言って、あんまりはしゃぎすぎると後で痛い目に合うから、それだけは忘れないでよね?」

「そうだぞ。お前は時々後先考えずに行動する事があるからな、今回の様な事がまた起きたら俺達もカバーしきれないんだからな」

「肝に銘じておきます・・・」


 ジルニトラとニーズヘッグのダメ押しの様な忠告にヴリトラは目を閉じながら俯いて返事をする。フォローしていたリンドブルムとジャバウォックもそんな二人の言葉にただ苦笑いをするしかなかった。


「それでヴリトラ、これからどうするの?」

「何の考えも無しにただ村で敵が来るのを待つわけじゃないんだろう?」


 ファフニールとニーズヘッグがヴリトラに今度の作戦について尋ねると、ヴリトラは頷いて周りにいるラピュス達を見て自分の考えてある作戦を放し始める。


「まずはこの村の周囲を調べる必要があるな。ラピュス、この辺りがどうなってるか分かるか?」

「ああ、こっちに来てくれ。地図を見せる」


 ラピュスに案内されて廃墟の中へと入っていく七竜将。中では騎士達が馬車に積んでいた木製の机を置き、その上に地図を広げて集まっていた。ラピュスが入って来た事により、騎士達は作業を止めてラピュス達の方を向き軽く挨拶をする。ヴリトラ達は机を囲み地図を覗き込んで村の位置と周囲に何があるのかを確認しながら簡単な作戦会議を始めた。


「見てくれ、此処が今私達のいるトコトムトの村だ。そしてこの村から北西、南西の位置にあるのがエリオミスの町とサリアンの森だ。この二つの拠点に行くためにはこの村の近くにある細道を通らないといけない。道はこの一本しかないが最速の近道だ、通れば一時間程で二つの拠点を繋ぐ別れ道に辿り着く」


 地図を指差しながら村の位置とエリオミスの町、サリアンの森の位置を教えるラピュス。ヴリトラ達は自分達のいる拠点から敵が向かうと思われる二つの拠点の位置を確認しながら距離と地形を計算していく。ラピュスがレヴァート王国軍が駐留している拠点の位置を教えると、今度はストラスタ公国軍が制圧した拠点の位置を説明し始めた。

 

「次のここがこの村に最も近い敵拠点、『パティートン』と言う村だ。今此処には敵軍の二個中隊が駐留しているという情報がある。恐らくこの拠点の敵軍がこの村に向かって来る可能性が高い」

「そしてこの村を手に入れた後にパティートン村に残っている部隊に報告して増援を向かわせるのでしょう」

「でも、敵がこの村に気付かずにそのままエリオミスの町を占拠する為に戦力を町に集中する可能性もあるんですよね?」

「あり得ない事ではありません。ですが、敵も早く我が軍の補給基地を制圧したいはずです。ヴリトラさんの想像した作戦を取る可能性も十分あります」


 質問してきたファフニールに敵がヴリトラの考えた作戦で来る可能性も来ない可能性もあると話すアリサ。だがファフニールの言うとおり未だに敵がこの村に来ると確信できないのも事実。首都からの友軍がエリオミスとサリアンの森に到着するまでの二日間は自分達はこの村に留まり、二つの拠点に駐留している友軍の背後を守らないといけない。それがヴリトラ達の任務だ。

 地図をジッと見ながら村の周囲を調べるヴリトラとニーズヘッグ。すると二人はトコトムトの村の西側に描かれたある小さな小屋の様な絵を見つけてラピュスに尋ねた。


「おい、ラピュス。この小さな小屋みたいなのは何だ?」

「ん?・・・ああ、そこは見張り小屋だ。そこは我が軍が周囲の町や村を見回して異変を見つけると近くの町にいる騎士団に連絡して現場へ向かってもらうために作られたものだ」

「成る程・・・・・・この小屋からはこの村や敵のいるパティートンの村も見えるのか?」

「ああ。高い崖の上に建てられてるからな、エリオミスの町やサリアンの森の基地も見えるぞ?」

「そうか・・・」


 周囲の拠点が全て見える、それを聞いたニーズヘッグは腕を組んで目を閉じながら考え込む。ヴリトラ達七竜将が黙ってニーズヘッグを見ており、ラピュス達姫騎士や一般騎士達は不思議そうな顔でニーズヘッグを見つめている。しばらくすると、ニーズヘッグは目を開いてヴリトラ達を見て口を開く。


「よし!この見張り小屋に誰かを配置して見張らせる。そしてもし敵が来たらそこから攻撃を仕掛ける」

「・・・無理」


 ニーズヘッグの出した提案にラランは無表情のまま低い声で否定する。ラランの言葉にヴリトラ達は一斉にラランの方を向いた。


「・・・そこから村や町はよく見えるけど、知らせるまでに時間が掛かりすぎる。走っても小屋からこの村まで二十分は掛かる、敵を見つけて知らせに行った時にはもう敵は村に辿り着いてる。それに、攻撃も無理、小屋から村、敵の通る可能性のある道までの距離は500m、弓とかじゃまず届かない」


 ラランの説明を聞いてラピュスとアリサ、そして周りの一般騎士達も同感と言わんばかりに頷く。だが、ヴリトラ達はそんなラランの説明を聞いても驚く様子も見せずにいる。それどころか余裕の表情で笑ったのだ。

 ヴリトラ達の余裕の笑みを見てラピュス、ララン、アリサの三人は少し驚き、騎士達は小首を傾げる。それと同時に三人は七竜将が自分達とは違う未知の世界から来た傭兵であることを思い出したのだ。


「わざわざ知らせに行く必要はねぇよ。その小屋に残って仲間達に知らせる方法がある。そして遠くにいる敵を攻撃する手段もな」

「・・・お前達はそんな事も出来るのか?」

「言っただろう?お前達に俺達七竜将の本当の戦い方を見せておきたいってな?この戦いでちゃんと見せてやるよ。まぁ、それも敵がこの村に来たらの話しだけど・・・」


 驚くラピュスを見ながらヴリトラは自信の満ちた顔で説明した後に苦笑いに変わってラピュス達を見つめる。ヴリトラの後ろではニーズヘッグが他の七竜将にそれぞれ指示を出して行く。


「よし、まずはその見張り小屋へ行ってみるぞ!」

「OK、そっちはあたしとオロチが見てくるわ」

「ああ・・・」

「それじゃあ、残りはこの村とパティートンの村を繋ぐ道、そしてこの村の手前に罠を仕掛ける。準備するぞ!」


 ジルニトラとオロチが見張り台を見に行くと言って廃墟を後にすると、ニーズヘッグは残りの七竜将と一緒に罠を仕掛けに出て行った。話の糸が分からないまま行動に移る七竜将を見て目を丸くするラピュスとララン達。ヴリトラはそんなラピュス達を見てニッと笑う。


「それじゃあ、俺も仕事があるから行くな?」

「ちょ、ちょっと待て!ちゃんと私達にも説明してから行け!」

「悪いけど時間がないんだ。敵がいつこの村に来るか分からないからな。作業が全部終わったら改めて説明する。じゃあ後でな!」


 そう言い残してヴリトラも廃墟を出て行った。残されたラピュス達はただポカーンと出て行ったヴリトラ達を見ている事しか出来なかった。

 遂に前線へやって来た七竜将と第三遊撃隊。彼等はトコトムトの村で友軍の背後を突こうとする敵軍の迎え撃つ為に無人の村に留まる事となった。この後、彼等は戦場の空気を体感し、七竜将の真の力を目の当たりにする事となる。


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