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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十三章~姫騎士は異世界を歩む~
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第二百三十八話  漂う違和感 翻弄される竜達


 ケルピーとの戦闘が始まり、ヴリトラ達は二組に分かれてケルピーと戦う事になった。先手を打ちケルピーを見張り台から下ろす事に成功したヴリトラ達は一気に距離を詰めようとする。だがケルピーは更なる戦術を隠して持っている事に彼等は気付いていない。

 コンテナや木箱の陰に隠れながらジープの裏に隠れているケルピーに少しずつ近づいて行くリンドブルム達。ジープの陰から狙撃されないか警戒しながらゆっくりと距離を縮めて行く。


「もう少し近づけるな・・・」

「うん・・・」


 木箱の陰からジープを覗くジャバウォックとリンドブルムは小声で話す。ケルピーは見張り台から下りてから一度も攻撃して来ずとても静かな状態だった。しかしそれがリンドブルム達にとっては不気味で仕方がなかったのだ。


「・・・おかしくない?最初はいきなり狙撃してくるような性格の戦士が何で今は何もしてこずに隠れているの?」

「確かにな。普通は敵に近づかれる前に攻撃して相手の動きを封じ、その間に離れた狙撃地点を確保するもんだが、アイツが動いた様子がない」

「・・・もしかして、もうあそこには隠れてないんじゃ・・・」

「いや、それは考え難い。ジープの周りには隠れられるような場所はないから移動すれば必ず姿を見るはずだ」

「じゃあ、まだケルピーはあのジープの裏に?」

「いるはずだ」


 敵はまだジープの裏に隠れていると確信するジャバウォック。リンドブルムはジープを見つめながらライトソドムを構え、少し離れた位置にある小さなコンテナの陰ではジルニトラとラランがM24とスコーピオンを構えながら同じ様にジープを見ている姿がある。

 その場から動かずにジープの様子をしばらく窺っていると、ジルニトラが小型通信機のスイッチを入れる。するとリンドブルムとジャバウォックの小型通信機からコール音が鳴り、二人はスイッチを入れて応答した。


「リンドブルム、ジャバウォック」

「どうしたの?」

「アイツはあのジープから動く様子はないし、ここは一つ派手な武器であのジープごと敵をふっ飛ばしちゃうのはどう?」

「ジープごと?」

「ええ、ヴリトラとラピュスが回り込んでアイツを叩くって言ったけど、その前にあたし達で敵を倒す事ができるのならそれが一番でしょう?」

「まぁ、確かにな・・・」


 ジルニトラの言う事に一理あると考えたジャバウォックは考え込む。リンドブルムも「確かに」と言いたそうに数回頷く。

 数秒間、黙って考え込んでいたジャバウォックはジルニトラの方を向きながら小型通信機に指を当てて口を動かす。


「そうするか。俺達の役目は二人がアイツに近づける様に注意を引く事だ、できるだけ派手な攻撃をしてアイツの意識をこちらに向けた方がいい。だけど、奴も機械鎧兵士、簡単にやられてくれるとは思えない。派手な攻撃をしても油断するな?」

「分かってるわよ」

「それで、どうするの?」

「あたしのレーザーであのジープを真っ二つにするわ」


 ジルニトラはM24を地面に置く右手の甲の装甲を動かしてリニアレンズを出した。リニアレンズは赤く光り出してエネルギーを充電していき、やがてエネルギーが溜まるとジルニトラはジープを狙いレーザーを発射しようとする。だがその時、ジープの方からケルピーの大きな声が聞こえてきた。


「このジープごと私を倒そうと思ってたらやめた方がいいよぉ?」

「「「「!」」」」


 突然聞こえてきた声にリンドブルム達はピクリと反応し、ジルニトラもレーザーの発射を中止する。


「私の前のジープには大量のC4とガソリンが積んであるの。もし攻撃してC4に当たれば50m四方は跡形も無く吹っ飛ぶよぉ?」

「何っ!?C4だとぉ?」


 ケルピーの言葉にジャバウォックは驚く。確かにジープの後部座席には大量の木箱とポリタンクが積んである。今リンドブルム達はジープから25mほど離れた所にいる。もしケルピーの言うとおりC4が爆発すればリンドブルム達は間違いなく爆発に巻き込まれてしまう。攻撃できない状況にリンドブルム達の表情は歪んだ。

 

「ど、どうすんのよ?よりにもよってあのジープにC4が積まれてるなんて、しかもガソリンも一緒に・・・」

「これじゃあジープごとアイツを攻撃できねぇな・・・」

「やっぱり、少しずつ近づいて接近戦に持ち込むしか・・・」


 リンドブルム達が作戦変更して接近戦へ持ち込むか話をしていると、ジープの後ろからケルピーが飛び出して勢いよく走り出しリンドブルム達から離れていく。


「・・・ッ!逃げた!」


 ケルピーが逃げて行く姿を見たラランはハッとしてリンドブルム達に声を掛ける。リンドブルム達も話を止めてケルピーの方を一斉に向いた。


「しまった!こんな事で隙を作っちまうとは!」

「逃がさないわよ!」


 ジルニトラがサクリファイスを構えてケルピーに狙いを付けるとケルピーは左手にM700を持ったまま右手で腰のホルスターから自動拳銃の「グロック18」を抜いた。そして走りながらリンドブルム達に向けてグロック18を乱射する。機関拳銃マシンピストルであるグロック18の銃口からはサブマシンガンの様に無数の弾が吐き出され、その弾幕にリンドブルム達は素早くコンテナや木箱の陰に隠れた。


「ううぅ!」

「やっぱ相手に接近された時の事も考えて接近戦用の銃も所持してるか!」

「しかもグロック18なんて、かなり厄介よ!」


 物陰に隠れながらジャバウォックとジルニトラは会話をし、銃声が止むと警戒しながら顔を出してケルピーの様子を窺う。既にケルピーは姿を消しており、見失ってしまった事にジャバウォックとジルニトラは悔しそうな顔を見せて立ち上がる。


「クソォ!逃げられたか・・・」

「ヴリトラ達に連絡しないと!」


 ジルニトラは小型通信機のスイッチを入れてヴリトラに連絡を入れる。リンドブルムとジャバウォックは自分の得物を握りながら悔しがっていた。一方ラランはケルピーが隠れていたジープに近づき、積まれている木箱やポリタンクを見つめている。


「・・・・・・」


 黙って木箱を見つめるラランは持っているスコーピオンで木箱を突いた。すると木箱は軽く突いただけて簡単に動き、意外に思ったのかラランは目を見張る。そして木箱を開けて中を見ると驚きの表情を浮かべた。


「・・・リンドブルム、こっち来て」

「ん?」


 ラランに呼ばれ、悔しがっていたリンドブルムはラランの隣まで歩いて行く。


「どうしたの?」

「・・・これ」


 ラランが木箱の中を指差しリンドブルムは木箱の中を覗き込む。すると木箱の中を見たリンドブルムの顔は驚きの顔へと変わる。なんと木箱の中には何も入っていなかったんだ。C4は愚か、ゴミ一つ入っていない綺麗な木箱だった。


「な、何これぇ!?」

「「!」」


 大きな声を出すリンドブルムにジャバウォックとジルニトラも反応してリンドブルムとラランの下へ駆け寄る。そして木箱の中を見た二人もリンドブルムと同じように驚きの表情を浮かべた。


「カラッポだと・・・?」

「それじゃあ、あのケルピーの言ってたのは、ただのハッタリ?」

「みたいだよ。こっちのポリタンクの中もガソリンじゃない、ただの水だった」


 リンドブルムはポリタンクの一つの軽く叩きながら二人の中身の事を話す。それを聞いたジャバウォックとジルニトラは再び悔しそうな表情を浮かべる。


「くっそぉ~!こんな単純なウソに騙されるなんて、自分が恥ずかしいぜ!」

「むっがぁ~!あのふざけた態度をしたガキに騙されたと思うと余計に腹が立つわ!」

「見つけ出して俺のジェットナックルをぶちかましてやるっ!」


 ケルピーに騙された事にかなり腹を立てているジャバウォックとジルニトラ。二人を見てリンドブルムも頭を掻きながら悔しそうな顔をしている。そんな三人を見ているラランは無表情のままある事を考えていた。


(・・・何で三人は騙されたの?常に相手の動き何かを読んで行動しているのに)


 ラランは優秀な傭兵であるリンドブルム達が単純なウソに引っかかった事がなぜか不思議で仕方がなかったのだ。自分だってあの状況ならウソかもしれないと考えるのに三人はケルピーの言葉を聞いた途端に信じ込んでいた。なぜそうなったのか、ラランは心の中で呟きながら考えている。

 その頃、リンドブルム達と別れたヴリトラとラピュスは周囲を警戒しながら遠回りをしてケルピーの側面へ回り込もうと歩いていた。二人は遠くから聞こえる銃声を聞いてリンドブルム達がケルピーと交戦中だと急いでいたが、ジルニトラの通信でケルピーが移動した事を知ってからは回り込むのをやめてケルピーを探しながら進んでいる。


「気を付けろよ?いつどこから狙撃して来るか分からないから」

「ああ、分かっている」


 オートマグを両手で構えながら進むヴリトラとその後ろをアゾットを構えながらヴリトラの後をついて行くラピュスの姿があった。二人は前後左右を警戒しながら進んで行き、特に倉庫の屋根やコンテナの上、建物と屋上など見渡のいい所を強く警戒している。


「・・・あの女は何処にいるんだ?」

「分からない、ジルニトラからの連絡では少し前に見張り台から離れて姿を消したらしいからな。そんなに遠くには行っていないはずだ」

「なら、まだこの近くにいる可能性も?」

「ある、だからこそ警戒を強くしないといけない。隠れるところの無い場所なら尚更だ。狙撃手は周囲を見下ろせる場所から狙撃して来る事が多い。だから高い所をよく見ておくんだ」

「分かった」


 ヴリトラに言われて周囲を警戒しながら高い所にも注意を向けるラピュス。今二人がいるのは無数のコンテナが並んでられて隠れるところの多い場所、コンテナの陰に隠れながら進んでいけば高い所から狙撃されても身を隠す事ができる。ヴリトラとラピュスにとっては好都合だった。


「だが、あのケルピーとか言う女だけに注意しているのもどうかと思うぞ?まだこの施設には敵兵が大勢いるはずだ」

「勿論そっちの方も警戒してるさ。だが、敵兵の殆どは倒したし、奴等も俺達の強さを目の当たりにして士気が低下して・・・・・・ん?」


 喋っていたヴリトラが何かに気付き、突然足を止めて口を閉じた。ラピュスはそんなヴリトラに気付かずにそのまま口を動かし続ける。


「油断はしない方がいいぞ?さっきも見ただろう、敵がケルピーと合流した途端にいきなり士気を高めて私達に・・・ヴリトラ?」


 ラピュスが忠告しながら話しているとヴリトラの様子がおかしい事に気付く。ヴリトラはコンテナの陰から何かの様子を黙って探っている。


「・・・おい、ヴリトラ、聞いているのか?」

「シッ・・・!」

「?」


 口に人差し指を当てて静かにするように伝えるヴリトラ。ラピュスは不思議に思いながらヴリトラにゆっくりと近づいて行く。すると、ヴリトラの足元で赤い小さな点が動いているのを見つけ、ラピュスの表情が鋭くなる。


「ヴリトラ、まさか・・・」

「ああ、見つけたぜ・・・ついでに向こうもな」


 ヴリトラは真剣な顔でケルピーを見つけた事、そしてケルピーも自分を見つけた事を呟く。ラピュスはアゾットを握る手に力を入れて息を呑む。ヴリトラもオートマグを握りながら足元の赤い点、レーザーサイトの光を見つめながらケルピーの正確な位置を探り出した。


「・・・ヴリトラ、ケルピーは何処にいるんだ?」

「・・・レーザーサイトの位置から考えると、恐らく此処から見えるあの二階建てのビルの屋上か二階だろう」


 ヴリトラはラピュスの方を見ながらケルピーがいると思われるビルがある方向を親指で指した。そして彼の予想は的中している。

 二人が隠れているコンテナ置き場から200mほど離れた所に建っている二階建てのビルの屋上には片膝をついた状態でヴリトラとラピュスの隠れているコンテナをスコープで覗いているケルピーの姿があった。ツインテールを揺らしながら引き金に指を掛けながら笑っている。


「みぃ~つけた♪あの四人と戦っている時に姿が見えないと思っていたら別行動を取っていたのね。大方、私の注意を引いている内にあの二人を回り込ませて接近戦へ持ち込もうっていう根端だったんでしょう。残念だけど、私には君達の幼稚な作戦は通用しないよ」


 コンテナを覗きながらせせら笑うケルピーは右手をグリップから離して腰に付いているスピーカーのスイッチを入れる。そしてゆっくりと立ち上がってM700を下ろした。


「あ~あ~、そこに隠れている七竜将のお二人さん!」

「「!」」


 突如聞こえてきたケルピーの声にヴリトラとラピュスは驚きながら反応する。


「そんな所に隠れても無駄だよ?私は君達の考えが手に取るようにわかるんだから」


 ケルピーはヘッドセットのマイクを口に近づけて楽しそうな顔で笑う。どうやら腰に付いているスピーカーはケルピーの声を遠くにいる者に聞こえるようにする為の物だったようだ。


「既に私は君達の隠れているコンテナを見下ろせる位置にいるし、何処から姿を見せても急所を一発で撃ち抜く事ができるんだ。投降すれば命だけは助けてあげるよ?」


 ヴリトラとラピュスの隠れているコンテナを見つめながら話し続けるケルピー。ヴリトラとラピュスはコンテナの陰に隠れたまま声の聞こえる方角を睨んでいる。


「チッ!言いたい事言いがやって!」

「どうする?ヴリトラ」

「当然戦うさ。アイツ等が投降したからと言って命を助けるなんて考えられねぇからな」


 オートマグを左手で握り、腰に納めてある森羅を抜いて右手でしっかりと握るヴリトラ。姿勢を低くして見つからないように別のコンテナの陰へ移動する。ラピュスも同じように姿勢を低くして後をついて行く。


「しかし、どうやって攻撃するんだ?私達には遠くにいる敵を攻撃する武器は無いぞ?」

「ああ、俺のマイクロ弾は届くかもしれないが銃弾と違って撃った後にすぐに見つかって避けられる可能性が高い。お前のバーナーキャノンじゃあアイツには届かない。となるといやっぱり接近して戦うしかないだろうな」

「だが奴は一発で急所を撃ち抜く程の腕を持っているんだぞ?リンドブルム達がいない状態でどうやって近づくんだ?」

「・・・・・・」


 どのようにしてケルピーに近づく為の隙を作るか、それを考えるヴリトラは別のコンテナの陰まで移動すると難しい顔をして考え込んだ。


「・・・やっぱ、リンドブルム達に連絡を入れてもう一度同じ作戦で隙を作るしかないな・・・」

「無駄だよ?」

「「!」」


 頭上から聞こえてくる声にヴリトラとラピュスの顔に緊張が走る。二人がフッと上を向くとコンテナの上から二人を見下ろしながら手榴弾を握るケルピーの姿があった。


「い、いつの間に!?」

「言ったでしょう?私に君達の幼稚な作戦は効かないって?」


 そう言った直後にケルピーは手榴弾の安全ピンを抜いてヴリトラとラピュスの素性に落とし、施設内に爆音が響く渡る。

 見張り台の前ではリンドブルム達がその爆音を聞いてハッと音の聞こえた方を向く姿があった。


「今、向こうから爆音が!」

「もしかして、ヴリトラとラピュスがケルピーに!?」

「間違いないねぇ!さっきあの女の声が聞こえたのと同じ方角だ!」

「・・・急ぐ!」


 爆音を聞いたリンドブルム達は急いでヴリトラとラピュスの下へ向かう。四人は走りながらまた戦う事になるであろうケルピーの攻略方法を必死に考えていた。


「でもさぁ、ヴリトラ達と合流した後はどうするの?」

「決まってるだろう?もう一度同じ作戦で戦うんだよ!今度はアイツのウソに騙されないようにな!」

「だけどあの子にはあたし達の行動パターンを読み切ってるわよ。そんな敵とどうやって戦うのよ?」

「うぅ・・・」


 こちらの動きを読まれているという事がジャバウォック達にプレッシャーと不安を与える。敵は自分達の事を知っているのにこちらは何も知らない。それが今のケルピーとヴリトラ達の違いだった。


「・・・そうだ!ニーズヘッグ達はブラッド・レクイエム社のコンピューターを調べてるはずだよね?もしかしたら敵の機械鎧兵士の情報も分かるかも!」

「そうよ!ニーズヘッグに連絡してケルピーの情報を探してもらえばいいんじゃない!」

「連絡してみるね!」


 リンドブルムは小型通信機のスイッチを入れてニーズヘッグ達に連絡を入れる。しばらすると応答があり、リンドブルムは走りながら呼びかけた。


「こちらリンドブルム、ニーズヘッグ、聞こえる?」

「リンドブルムか、どうした?」


 小型通信機から聞こえてきたニーズヘッグの声を聞き、リンドブルム、ジャバウォック、ジルニトラはホッとしたのか小さな笑みを浮かべる。


「実は今、ブラッド・レクイエムの機械鎧兵士と交戦中なんだ!」

「何だと?どうしてこっちにブラッド・レクイエムの機械鎧兵士がいるんだ?

「そんなの知らないよぉ。とにかくソイツが凄く手強くて苦労してるんだ。そっちにあるブラッド・レクイエムのコンピューターを使って情報を見つけてくれないかな?」

「成る程、そういう事か・・・分かった、調べてみる。その機械鎧兵士の名前は?」


 情報検索の為にケルピーの事を訊ねるニーズヘッグ。リンドブルムは知る限りの事を小型通信機の向こう側にいるニーズヘッグに説明した。

 リンドブルム達の前から移動したケルピーは今度は別行動しているヴリトラとラピュスの前に現れて奇襲を仕掛ける。情報の少ない状態で戦っても不利だと考えるリンドブルムはニーズヘッグに連絡を入れた。果たしてケルピーの情報を得られるのか、そしてヴリトラとラピュスはどうなったのか。


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