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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十三章~姫騎士は異世界を歩む~
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第二百三十三話  装甲車での作戦会議


 ブラッド・レクイエム社の情報を得たヴリトラ達はブラッド・レクイエム社の施設へ向かう為にDr.GGとジェニファーに連れられて武器庫へ向かい任務の準備を進める。そこでラピュスは新しい騎士剣であるアゾットを手にし、新たな気持ちでヴリトラ達と共に準備を進め、足となる自動車が止めてある地下へ向かうのだった。

 準備を終えたヴリトラ達はエレベーターに乗って地下にある駐車場へ向かう。全員が自分の得物を持ち新しい特殊スーツを見に纏っている。ヴリトラ達の特殊スーツは全体が濃い灰色で腕と腹部にそれぞれ様々な色のラインが入っていた。ヴリトラは赤、ラピュスはピンク、リンドブルムは青、ジャバウォックは緑、ニーズヘッグは紫、ジルニトラは橙、ファフニールは黄、オロチには藍、ラランには水色のラインが入っている。そしてララン以外の者の特殊スーツは機械鎧部分が露出する様に作られていた。


「・・・動き難いな」

「すぐに慣れるさ」


 特殊スーツを摘まむラピュスにヴリトラは笑いながら言う。七竜将は特殊スーツを毎日着ている為、着心地が悪いというのは無く、寧ろ新しい特殊スーツに気分を良くしていた。


「・・・ねぇ」

「ん?」


 ヴリトラの後ろにいたラランが彼に呼び掛けてきた。ヴリトラがラランの方を向くとラランが特殊スーツの上から着ている黒いベストの様な服を指で摘まんでいる姿ある。


「・・・これ何?」

「そいつは防弾チョッキだ」

「ボウダンチョッキ?」

「銃弾から体を守ってくれる、言わば鎧の様な物だ」

「・・・こんな薄くて柔らかいのが銃の弾を止めるの?」

「ああ。その防弾チョッキはかなり性能がいいやつだ、7.62mmのライフル弾でも止められる。ただし、超振動剣の斬撃までは止められないから防弾チョッキを着てるからって安心するなよ?」

「・・・分かった。でも何で私だけ着てるの?他の皆は?」


 ラランは自分だけ防弾チョッキを着ている事が不思議で周りにいるラピュス達を見まわしながら訊ねた。


「そりゃあ、お前は機械鎧兵士じゃなくて普通の人間だからさ。俺達機械鎧兵士は五感が鋭くなっているから銃弾を簡単に避けたり武器で弾いたりできるし、傷を負っても治癒が速い。だけどお前は普通の人間だから撃たれれば死ぬかもしれないからな。しっかりと装備を整えないといけないんだよ」

「・・・何だか納得できない。弱く見られてるみたい」

「ララン、そういう事は言うな」


 ラランが低い声で呟くとラピュスがラランの方を向きながら注意して来た。


「ヴリトラ達はお前の事を心配してそれを用意してくれたんだ。それに此処にいる全員、お前の事を弱いなどと思っていない」

「・・・ハイ」


 ラピュスの話に納得したのかラランはラピュスの方を見ながら頷く。周りのヴリトラ達はそんな二人の会話を黙って見守っておいた。


「すまなかったな、ヴリトラ?」

「いや、気にしてねぇよ。周りにいる奴が皆機械鎧兵士なんだ、そんな風に思いたくなるのも無理ないさ」

「・・・私も機械鎧兵士になれたらいいのに」


 防弾チョッキを摘まみながらラランがそう呟くとリンドブルムがラランの隣までやって来て首を横に振る。


「やめた方がいいよ?機械鎧兵士になっても大していい事なんて無いから」

「・・・どうして?強くなれていいのに」

「確かに力は手に入るけど、体が機械化して周りの人間からはその姿と強さを恐れられて冷たい目で見られる事が多くなるもん。何より、その強さを求められて色々な国の人達が機械鎧兵士を道具として利用する。僕達は常に戦場に足を踏み入れて多くの命を奪う事になるんだ・・・いい事なんて無いよ」


 その幼さからとても大人びた事を言うリンドブルムを見てラランは驚き、ラピュスもリンドブルムを見ながら意外そうな顔でまばたきをしている。そしてヴリトラ達は真面目な顔でリンドブルムの話を聞いていた。


「常に戦いの世界にいなきゃいけない存在に自分からなろうなんて考えるもんじゃないよ」

「・・・・・・うん」


 リンドブルムの話を聞いてラランは頷く。ヴリトラ達も話が終り納得したラランは見て小さく笑う。しかし、ラピュスだけは納得の行かない様な顔でリンドブルムを見ていた。その表情からは「なら私はどうなるんだ?」と言いたそうに見える。

 そんな会話をしているとエレベーターのB1のランプが付き、地下へ到着した。扉が開くとヴリトラ達はエレベーターから降り得て周囲を見回す。広い地下駐車場には沢山の自動車が停めてあり、人気は無くとても静かだった。


「此処にアレクシアさんが用意した車があるのよね?」

「ああ、ジェニファーの奴はそう言ってたぜ?」


 ジルニトラが周囲を見回しながら確認をし、ジャバウォックがジェニファーの言った事を思い出す。だがそれらしい自動車は何処にも見当たらない。ヴリトラ達が大量に停まっている自動車の中から自分達の使う自動車を探していると遠くからライトをつけた一台の自動車がヴリトラ達の方に走って来るのが見え、ヴリトラ達は一斉にその自動車の方を見る。


「あっ、もしかしてあれじゃない?」

「みてぇだな」

「さて、師匠はどんな車を用意してくれたのかなぁ?」


 ジルニトラとジャバウォックが走って来る自動車を見ている隣でヴリトラがどんな自動車なのかを確認する。ライトの光でよく見えないが近づいて来て少しずつ車体が見えるようなって来た。


「・・・何だか随分大きな車だね?」

「ああ、それに車体もゴツイぞ」


 リンドブルムとニーズヘッグが自動車の影を見ながら話していると、その自動車がヴリトラ達の前で停車した。そしてその自動車を見た七竜将全員が驚きの表情を浮かべる。


「なあぁ!?」

「こ、これって・・・」

「装甲車じゃねぇかぁ!」


 なんとアレクシアが用意したという自動車は装甲車だったのだ。しかもそれは陸上自衛隊でも使われている「96式装輪装甲車」あった。モスグリーンの塗装にタイカベル。リーベルト社のマークが描かれた車体。それを見て七竜将が驚いている中でラピュスとラランは初めて見る形に自動車をジッと見つめている。


「・・・大きい」

「これも自動車なのか?」


 ラピュスが訊ねるとヴリトラは目を細くしながらラピュスの方を向いて口を動かす。その顔は呆れている様にも見える。


「・・・ああ、陸上自衛隊って言うこの国を守る組織が使っている戦闘用の車だ。多くの兵士を乗せる事ができ、銃撃を防ぐほどの装甲を持っている。一般の道路には滅多に走らない物なんだよ」

「おまけに12.7mmにM2まで装備されてるよ・・・」


 リンドブルムは車上に装備されているブローニングM2を見ながら呟き、他の七竜将も呆れ顔になっている。


「どうしてこんなゴツイ物を用意したんだ、アレクシアさんは?」

「これじゃあ目的地に行く前に警察とかに止められちゃうよ」


 ジャバウォックとファフニールが無事に目的地に着けるのか心配していると運転席のドアが開き車内からDr.GGが笑いながら出てきた。


「よぉ、待ってたぜぇ!」

「Dr.GG,こりゃどういう事だよ!?」


 呆れ顔のまま装甲車を指差して大きな声を出すジャバウォック。Dr.GGは不思議そうな顔で自分の乗って来た装甲車の見る。


「どういう事って、アレクシアの奴が用意しておいたモンを持って来たんだが?」

「もうちっと別の車があっただろう!」

「んな事言っても、俺様はただ用意されたのを持って来ただけだ。文句ならアレクシアに言いな」


 腕を組みながらジャバウォックに言うDr.GG。二人の会話を見ていたヴリトラは頭を掻きながらジャバウォックの肩に手を置いた。


「ジャバウォック、今更そんな事言っても仕方ねぇよ。この時間じゃ別の車も用意できないだろうし、これで行こう」」

「・・・ハァ、途中で警察に捕まっても俺は知らねぇからな?」


 溜め息をついて忠告をするジャバウォック。するとDr.GGは持っていた角形3号の茶封筒をヴリトラに差し出す。


「この中にアレクシアが調べたブラッド・レクイエムの施設やその周辺の土地の情報が入ってる。現場に向かっている時に車内でチェックしておけ」

「ありがと」


 ヴリトラは茶封筒を受け取り、周りにいるラピュス達の方を向いて鋭い表情を見せる。


「よし、それじゃあブラッド・レクイエムの施設に行って、ちゃっちゃと仕事を済ませてきちまおう。皆、乗れ!」

「「「「「「「おう!」」」」」」」


 ララン以外のメンバーは声を揃えて返事をし装甲車に乗り込んだ。ニーズヘッグは運転席、オロチは助手席、残りのメンバーは全員が後部座席へ乗り込む。装甲車の側面にオロチの斬月とファフニールのギガントパレード、真上にジャバウォックのデュランダルといった大きめの武器を固定する様に取り付け、必要な武器や弾薬の入ったバッグを後部座席に積み込む。全ての準備が整うとニーズヘッグはハンドルを握りアクセルを踏む。ヴリトラ達の乗せた装甲車は地下駐車場を出て夜の道路を走り、ブラッド・レクイエム社の施設がある稲城市へ向かって走り出す。ヴリトラ達が走り去った後、残ったDr.GGは両手を腰に当てながらニッと笑ってヴリトラ達を見送った。

 地下駐車場を出て夜の道路を走る装甲車。その後部座席ではヴリトラ達がDr.GGから受け取った茶封筒の中に入っている書類を見て情報をチェックしていた。


「奴等の施設は品川から20K以上行った所にある森の中だ。ブラッド・レクイエムが施設を立てて土地を買い占めてからは誰もその周囲には住まなくなったらしい」

「そりゃあ、ブラッド・レクイエムなんて危険な連中の土地で暮らしてたら何が起こるか分からないからね」

「確かにそうだな。けど、幸い今その土地にいるのはトライアングル・セキュリティの傭兵達だけだ。それ程危険はないと思うぜ」

「それじゃあ、今回の仕事は少しは楽かもしれないね」


 機械鎧兵士のいないトライアングル・セキュリティが相手なら楽に仕事を終わらせる事ができる、そう考えるリンドブルムは笑顔を浮かべた。


「油断するな?いくら機械鎧兵士がいないと言ってもトライアングル・セキュリティの兵士には軍隊上がりの連中が多いって噂だ。連係だったら俺達よりも上だろう」

「分かってるよ」


 忠告するジャバウォックの方を向いてリンドブルムは笑いながら返事をする。そんな顔を見てジャバウォックは「本当かよ?」と言いたそうな表情を見せた。


「それでヴリトラ、そのトライアングル・セキュリティと言う組織の兵はその施設にどれ程いるんだ?」

「ちょっと待ってくれ・・・」


 リンドブルムとジャバウォックがそんな話をしているとラピュスがヴリトラの詳しい情報を訊ねる。ヴリトラは何枚かある書類の中から一枚を取り出してその内容を確認した。


「これから向かう施設はかなり大規模な所らしい。衛星写真で確認したところ、大きな倉庫が幾つもあり、ヘリポートもある。俺達がこっちに来る前に潜入したブラッド・レクイエムの補給基地とほぼ同じ位だ」

「それじゃあ、戦力もあの基地と同じなのか?」

「いや、戦力はあの基地よりも遥かに少ないらしい。機械鎧兵士がいない上にヘリも戦車も配備されていないみたいだからな」

「そうか・・・」


 少しだけ安心したのかラピュスはホッとした表情を見せる。


「だけど、それでもジープや強力な火器ぐらいは所持しているはずだ。ジャバウォックの言うとおり油断はできないぜ?」

「ああ・・・」

「それで、施設に着いたらまずはどうするの?」


 ジルニトラは目的地に着いた後にどうするかを訊ねるとヴリトラは今見ている書類の下にある別の書類をラピュス達に見せる。


「これは施設周辺を衛星写真で写したものだ。敵の施設の周りは多くの木々に囲まれ、まるで人との接触を絶つかのように孤立して建てられている」

「何だかあの補給基地と状況が殆ど同じね?」

「ああ、ただあの基地と違って今度の施設は見張り台が少なく、施設への入口は一つだけって事だ」


 ヴリトラとジルニトラはファムステミリアにあったブラッド・レクイエム社の補給基地の事を思い出しながら話を進めて行き、ヴリトラは写真に写されている施設の入口を指差してラピュス達に見せる。


「入口がこの一つしかないという事は敵の警備はこの入口を中心に配置されている。つまり、正反対の方向から潜入すれば敵に見つかる可能性は低いって事だ」

「しかし、敵もそんな事は敵も理解しているはずだ。そう簡単にはいかないんじゃないのか?」


 ジャバウォックが敵の警備は自分達が思っている以上なのではないかと考えて不安そうな顔で言う。するとヴリトラはジャバウォックの方を向いて首を横に振った。


「いや、その施設を警備しているトライアングル・セキュリティの戦力は師匠の調べでは約百人ほど、施設の大きさから考えると百人では警備をするのにはギリギリの人数らしい」

「つまり、敵は人数には余裕がなく、警備が必要ない所には人員は回せれないって事か」

「そうだ。だからアイツ等は警備が必要だと思う箇所に多くの人員を配置しているはずだ。入口とは正反対、しかも周りを木々に囲まれている所に兵士を送るとは考え難い。いたとしても数える程度にしかいないはずだ」

「それなら確かに補給基地の時よりも潜入するのは簡単かもしれないな」


 装甲車を運転するニーズヘッグが前を見ながら会話に参加して来る。助手席ではオロチが地図を見ながらどの道を進むのか確認していた。


「だが、俺達の目的はユートピアゲートの装置の確保と例の情報のロック解除だ。装置を確保するには戦闘は避けられないぞ?」

「分かってる、忘れてねぇよ。戦闘は避けられないとして、自分達が有利に戦えるような戦況を作るさ」

「それと、できるだけ殺さないようにしろ?俺達は殺し屋じゃないんだから」


 ニーズヘッグがバックミラーを覗いて後部座席のヴリトラに注意し、ヴリトラもバックミラーを見て頷く。


「ニーズヘッグ、次の交差点を左だ・・・」

「あいよっ」


 オロチがニーズヘッグに道案内をし、ニーズヘッグは言われたとおりハンドルを切る。装甲車は夜の道路を低い音を立てながら走って行き、目的地のある稲城市へ向かって走って行く。その途中、人気のない所に装甲車を止めて仮眠を取ったり、食事を取ったりなど戦いの準備をしながら施設のある森へ向かうのだった。

 そしてタイカベル・リーベルト社のビルを出てから一時間後、ようやくヴリトラ達は稲城市へ着き、目的の施設がある森の近くまでやって来る。真っ暗な森の近くは照明灯が何本か立っているだけの田舎町の様な場所でヴリトラの言っていた通り全く人が住んでいる気配が無く、民家などがあっても空き家になっておりとても暗く不気味な雰囲気を漂わせていた。その風景を装甲車の窓から覗くヴリトラ達の表情に鋭さが増す。


「静かだな・・・」

「ああ、人が住んでいる様子が全くない」


 外の風景を見ながら低い声で話すヴリトラとラピュス。リンドブルム達も何時戦いが始まってもいいように自分達の装備をチェックし始める。


「・・・そろそろ森の入口だ。此処からは装甲車を下りて徒歩で行くぞ?こんな夜の森の中だとエンジン音が響いてすぐに敵に居場所がバレるからな」

「そうだな。皆、降りるぞ」


 ヴリトラはラピュス達に声を掛け、ニーズヘッグは装甲車を目立たない場所へ移動させ、ハンドルの近くのボタンを押して後部のハッチを開けた。ハッチが開くとラピュス達は一斉に装甲車から降り、ニーズヘッグとオロチも降車する。

 装甲車から降りると黒いシーツを装甲車に被せて目立たないようにする。隠し終るとヴリトラはラピュス達の方を見て今後の確認を始めた。


「よし、これから森に入ってブラッド・レクイエムの施設へ向かう。此処からなら歩いて二十分ぐらいで目的地に着くはずだ。でもその途中で警備しているトライアングル・セキュリティの兵士と出くわすかもしれない。施設に着くまでできるだけ戦闘は避けないと後々面倒だ。くれぐれも見つからないようにな?」

「分かった」

「OK」

「・・・うん」


 ヴリトラの話を聞いてラピュス、リンドブルム、ラランは返事をする。ジャバウォック達も真剣な顔で頷く。そして一同は自分の武器を手に取り森の入口を見つめる。


「よし、こっちの世界での久しぶりの仕事だ。気を引き締めていくぞ」

「「「「「「了解!」」」」」」

「私達は初めてなのだがな・・・」

「・・・うん」


 気合を入れる七竜将に比べ、ラピュスとラランは気乗りしない様な声で呟く。ヴリトラ達はブラッド・レクイエム社の施設を目指して暗い森の中へと入って行った。

 目的地の森についたヴリトラ達は装甲車を下りて森の中を進んで行く。ブラッド・レクイエム社の傘下組織が守る施設をヴリトラ達はどう攻略するのだろうか。


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