第二百三十二話 情報入手 施設の場所と傘下組織
それぞれ休息を過ごしていたヴリトラ達。休息を終えてホテルに戻ろうとした矢先、アレクシアからブラッド・レクイエム社の情報を得たのでタイカベル・リーベルト社のビルに来るように言われる。ヴリトラ達は急いでアレクシア達の下へ向かった。
タイカベル・リーベルト社のビルに戻って来たヴリトラ達は最上階の社長室へ向かう。社長室に入ると、アレクシアとDr.GG、ジェニファーがソファーに座っている姿があった。
「お待たせしました」
「待ってたわ。こっちへ」
ヴリトラ達が到着したのを見てアレクシアはヴリトラ達は自分の下へ招く。言われたとおりに社長室へ入りソファーを囲む様に立つヴリトラ達。全員が揃ったのを確認したアレクシアは早速話を始めた。
「到着して早々だけど、本題に入りわね?・・・あれから色々調べている内にある情報を見つけたの」
「それがブラッド・レクイエム社の情報ですか?」
「ええ、これを見て」
そう言ってアレクシアはテーブルの上に広げられている地図を見せる。そこは今ヴリトラ達がい東京の品川区とその周辺を写した地図だった。一同は地図に注目し、アレクシアは地図の一ヵ所を指差す。そこは品川区から数十K離れた所にある稲城市の森だった。
「稲城市にある森ですか?」
「ええ、最近この森の中を頻繁に出入りする車両が目撃されているという情報があったの。それを更に調べてみたらある民間警備会社の車両である事が分かったわ」
「民間警備会社?」
ヴリトラがアレクシアの方を向いて訊ねるとアレクシアは真剣な顔で口を開く。
「『トライアングル・セキュリティ』・・・」
アレクシアの口から出た言葉に七竜将全員の表情が鋭くなる。だがラピュスとラランはその意味が分からずに難しい顔をしていた。アレクシアは七竜将の反応を見るとそのまま話を続ける。
「ヴリトラ、貴方達なら知ってるわよね?トライアングル・セキュリティの事・・・」
「勿論・・・トライアングル・セキュリティ、八王子に本社を置き、日本だけで活動をしている小さな民間警備会社。そして、ブラッド・レクイエムの傘下企業でもある・・・」
「ブラッド・レクイエムの?」
ヴリトラの口から出た言葉にさっきまで黙っていたラピュスが反応して声を出した。ラランも声こそ出さなかったが驚きの顔を浮かべている。
「ああ。だが傘下と言っても奴等はブラッド・レクイエム社とはまるで違う。トライアングル・セキュリティは機械鎧兵士を配備しておらず、警備が主業務だ。奴等みたいな暗殺といった汚れ仕事は一切やらない」
「そんな組織がどうしてブラッド・レクイエムの下についているんだ?」
「さっきも言った通り、トライアングル・セキュリティはこの国を中心に活動している。タイカベル・リーベルトやブラッド・レクイエムの様に世界中に支部を置いている訳じゃない。つまり、受けられる依頼も限られており、活動資金にも限界があるって事だ。彼等は資金援助を受ける為にブラッド・レクイエム社の傘下に入っているんだ」
「資金を得る為とはいえ、なぜ奴等なんかに・・・」
「さぁな?好きで奴等の下についているのか、あるいは奴等に何か弱みでも握られているのか・・・」
「・・・もう一つ聞いてもいいか?」
「ん?」
また質問をしてきたラピュスにヴリトラは彼女の方を向く。
「ブラッド・レクイエムはかなり大きな組織のはずだ。どうして奴等はそのトライアングル・セキュリティを傘下に置いているんだ?」
「それは俺が説明する」
ラピュスがヴリトラに訊ねているとニーズヘッグがその質問に答える為に会話に加わって来た。ラピュスと周りにいるヴリトラ達は一斉にニーズヘッグの方を向く。
「奴等がトライアングル・セキュリティを傘下に入れているのは情報収集と隠れ蓑にする為さ」
「情報収集と隠れ蓑?」
「知っての通り、ブラッド・レクイエムは悪名高い傭兵派遣会社だ。当然他の会社も自分達を襲って来るんじゃないかと奴等を恐れ、自分達の会社の情報が奴等に知られないようにしている。そこでブラッド・レクイエムは傘下の会社を使って警戒されないように他社の情報を手に入れているんだ。トライアングル・セキュリティがブラッド・レクイエムの傘下だと知らない会社は取引とかをする時に自分達の情報を話し、それはブラッド・レクイエムに送られるって事だ」
「隠れ蓑というのは?」
「ブラッド・レクイエムの様な連中は世界中の警察、つまり騎士団のような組織からも目を付けられている。警察に警戒された時とかは傘下の会社の後ろに隠れてやり過ごすんだ」
「だから隠れ蓑という事か・・・」
ニーズヘッグの説明からブラッド・レクイエム社にとって傘下の会社がどんな存在なのかをラピュスは理解した。自分達の目的の為に他の会社を利用するブラッド・レクイエム社の卑劣なやり方が気に入らないラピュスは表情を鋭くする。
「だけど、ブラッド・レクイエムがファムステミリアに向かった時からトライアングル・セキュリティの経営は一気に悪くなった。資金援助してくれる者がいなくなってかなりギリギリの状態で活動してたらしい」
「それなのにどうして倒産せずにいられたの?」
リンドブルムがニーズヘッグにトライアングル・セキュリティが倒産していない訳を訊ねるとニーズヘッグの代わりにオロチがその質問に答えた。
「簡単な事だ。奴等はブラッド・レクイエムがファムステミリアに行ってからも援助を受け続けていたからだ・・・」
「援助を?」
「アイツ等はこっちの向こうを自由に行き来する事ができるんだぞ?こっちに来る際にトライアングル・セキュリティに経営の為の資金を渡していたんだろう・・・」
「・・・援助をしているのはファムステミリアで活動する為に必要な物資をトライアングル・セキュリティに調達させる為?」
「間違いない。今まで行方不明になっていたブラッド・レクイエムが物資を簡単に調達できるはずもないから。トライアングル・セキュリティに調達させてそれをファムステミリアに送っているのだろう・・・」
「確かに、傘下の会社が潰れちゃったら自分達も補給する方法を失っちゃう訳だしね。潰れない様子にする為に援助を続けるのは当然かぁ・・・」
ブラッド・レクイエム社が他社を使って自分達の存在を知られぬまま必要な物資を補給していたという巧妙な手口にヴリトラ達は驚く。こちらの世界でブラッド・レクイエム社が存在している事になれば騒ぎになり補給も難しくなる。そこまで考えてブラッド・レクイエム社は傘下の会社を使い遠回しに補給をしていたのだ。
「そのトライアングル・セキュリティが出入りしている森はブラッド・レクイエムが所有している土地にあるの」
アレクシアが話を戻してトライアングル・セキュリティが出入りしている森の事を話し始める。ヴリトラ達もアレクシアの方を向き、話の内容を切り替えた。
「その森を更に詳しく調べてみたら森の中に一つの施設がある事が分かったわ」
そう言ってアレクシアは地図の近くにある茶封筒を手に取り、中から一枚の写真を取り出して地図の上に置いた。
「これは衛星写真から森にある施設を写したものよ」
「・・・確かに何か大きな建物がありますね?」
「ブラッド・レクイエムの施設である可能性が高いわ・・・」
ヴリトラは写真に写っている森に囲まれた建物の写真を見つめ、アレクシアはそれをブラッド・レクイエム社の所有物と推理する。ラピュス達も同じように写真をジッと見つめていた。そこへDr.GGがソファーにもたれながら会話に参加して来る。
「その施設はブラッド・レクイエムが消息を絶った日から半年ぐらい経った頃から人が出入りするようになったらしい。そこに何があるかは分からねぇが、ブラッド・レクイエムが所有している施設である可能性は高い。調べてみる価値はあると思うぜ?」
「ええ、もしかしたら此処にファムステミリアに物資を届ける為に使われているユートピアゲートがあるかもしれない」
Dr.GGと共にこの施設が臭うと感じるアレクシア。ヴリトラ達はこっちの世界でようやく見つけたブラッド・レクイエム社の手掛かりに真剣な顔になる。
「どうするヴリトラ?調べてみる?」
ジルニトラがどうするかをヴリトラに訊ねると、ニッと笑いながらヴリトラは腕を組んだ。
「当然行くさ。こっちに来て初めて見つけたブラッド・レクイエムの手掛かりだからな。それに師匠の言うとおり、この施設にユートピアゲートの装置がある可能性も高い。調べてもしあるんなら早いうちにこの施設を確保しないといけない」
「それじゃあ・・・」
「ああ、急いで稲城市に向かうぞ!全員準備しろ!」
「「「「「「了解!」」」」」」
ヴリトラの指示に七竜将の六人が声を揃えて返事をする。ラピュスとラランもファムステミリアに帰れる可能性のある施設に向かうとなり表情を鋭くしていた。
施設へ向かう事を決めたヴリトラ達を見てアレクシアとDr.GGは席を立ちヴリトラ達の方を向いた。
「武器や仕えそうなもんは俺様が用意しておいた。まずはそこでチャッチャと装備を整えな」
「皆が準備を整えている間にこっちで更に詳しい情報を集めておくわ」
「お願いします」
手を貸してくれるアレクシアとDr.GGにヴリトラは真剣な顔のまま礼を言う。そんなヴリトラを見てDr.GGはニッと笑いながら社長室の出入口へ歩き出しジェニファーもその後に続く。
「よぉし!じゃあ早速装備品のある所に案内してやるぜぇ。ついてきなぁ!」
「どうぞこちらへ」
Dr.GGとジェニファーに案内されてヴリトラ達は装備品のある場所へ向かう。ヴリトラ達が社長室を後にするとアレクシアは自分の机に戻り、パソコンのキーを素早く叩きブラッド・レクイエム社の施設に関する情報を集め始める。いよいよヴリトラ達のファムステミリアに戻る為の重要な作戦が始まるのだった。
Dr.GGに案内されてタイカベル・リーベルト社の地下にやって来たヴリトラ達。地下には武器、弾薬庫などがあり、数え切れないくらいの銃器などが並べられていた。その中でヴリトラ達は使えそうな銃器や弾薬を一つずつチェックしている・
「へぇ~、流石はタイカベル・リーベルト社の武器庫だ。色んな種類の武器があるなぁ」
棚に立て掛けてあるアサルトライフルを手に取り、周囲にある他の武器を眺めながら感心するヴリトラ。その近くではリンドブルムがハンドガンとそれに使う弾薬の入った箱を手に取りながらチェックしている姿がある。
「でも、よく考えた僕達は自分達専用の武器ばかり使ってるから他の武器を選ぶ必要は無いんじゃないの?弾薬や爆弾の類だけを選べばさ?」
「何言ってやがるんだ。自分達の使い慣れてる武器だけじゃ限界があるだろう?持っていて損は無いんだから使えそうな物は持って行け」
リンドブルムから少し離れた所で両手にサブマシンガンを持っているジャバウォックが目を細くしながらリンドブルムを見て言った。その隣ではニーズヘッグが手榴弾やプラスチック爆弾の類をチェックしており、奥ではラピュス達が使えそうな武器がないかを探している姿がある。
「凄い武器の数だな・・・」
「これでもほんの一部よ、もっと強力で大きな武器が他の倉庫にあるの」
並べられている武器を見て驚くラピュスにジルニトラが棚に立て掛けてあるショットガンを手に取りながら言う。オロチも別の棚に並べられているサバイバルナイフやマチェットを見ており、ファフニールとラランは別の棚のハンドガンを見ている。
「これなんかどう?」
「・・・小さい銃」
「これはワルサーppkって言って小さくて隠し持つのに便利な拳銃なんだ」
「・・・大きい拳銃の方が強そう」
「確かにそうだけど、銃っていうのは大きさが全てじゃないんだよ。大きい銃は威力はあるけどその分、反動も大きいから扱い難いんだ。小さい銃は威力が小さいけど反動も小さいから連射や扱いやすくなってるの」
「・・・奥が深い」
改めて銃には色々な物がある事を知るラランは持っているワルサーppkを両手で構えながら呟く。すると出入口の扉が開いてDr.GGとジェニファーが大きなトランクを持って入って来た。
「よぉう、待たせたなぁ?持って来てやったぜぇ!」
「すまねぇな?Dr.GG」
「なぁに気にすんな。ただし金はオメェ等の口座からしっかりと頂いとくからな」
そう言いながらDr.GGは持っている大きなトランクを開けて中身をヴリトラ達に見せる。トランクの中には七竜将が使っていた灰色の特殊スーツに似た少し濃い灰色の特殊スーツが入っていた。
「持って来てやったぜ、オメェ等の新しい特殊スーツをな」
「七竜将の皆さんが今まで使っていた特殊スーツと比べて丈夫さが増しており、動きやすくドライ効果も優れています」
Dr.GGの後ろに控えていたジェニファーが新しい特殊スーツの説明をしながら自分の持っていた細長いトランクを床に置きゆっくりと開く。中からラピュスが使っていた騎士剣を取り出し今度はそれをヴリトラ達に見せる。
「そして、こちらがラピュスさんの使っていた騎士剣です」
「私の?」
ジェニファーの持っている騎士剣を見てラピュスは少し意外そうな顔を見せる。ジェニファーは騎士剣をラピュスに渡し、受け取ったラピュスは騎士剣を鞘から抜いて確かめる。刀身自体はあまり変わっていないようだが、柄の部分には何かをした様な痕跡があり、それを見つけてラピュスはジェニファーの方を向く。
「ここに何か傷の様な物がついているが・・・」
「実は・・・師匠がラピュスさんの剣を勝手に改造してしまったんです・・・」
「カイゾウ?」
「ハイ、師匠はその剣を超振動剣に作り変えちゃたんです」
「えっ?という事は、この剣はヴリトラ達の使っている剣と同じ物になったという事か?」
「ハイ・・・」
「ナハハハハ!ワリィな姉ちゃん、勝手に作り変えちまって?」
申し訳なさそうな顔をするジェニファーの隣にいるDr.GGは謝罪しているのに笑顔を見せており、とても反省している様には見えなかった。そんなDr.GGを見てヴリトラ達やジェニファーは呆れ果てている。だがラピュスは怒ろうともせず、笑顔でDr.GGの方を見ていた。
「いや、寧ろ感謝します。これで私の剣は切れ味が増して鉄も切れるようになったのでしょう?」
「あ、ハイ。ただ、メトリクスハートを仕込んで超振動させても切れ味はその剣次第です。つまり、剣の元々の切れ味によって限界が変わってくるって事です」
「そうか・・・」
自分の剣もヴリトラの森羅やオロチの斬月も様な優れた剣になった事が嬉しいのかラピュスは騎士剣を見つめながら微笑む。そんなラピュスを見てDr.GGとジェニファーも笑っている。
「ところで姉ちゃんよぉ、折角だからその新しくなった剣に名前を付けたらどうだ?」
「名前、ですか?」
「師匠、別に名前なんてどうでもいいじゃないですか」
「何言ってやがる!俺様が作り変えた最高の剣だぞ?名前ぐらい付けないでどうする?」
「勝手に改造しておいてそんな偉そうな事・・・」
ジェニファーはDr.GGを見つめながらまた呆れ顔になる。ラピュスは自分の生まれ変わった騎士剣を見て折角だから名前を付けようと思ったのかジッと騎士剣を見つめた。
「・・・ヴリトラ、何かいい名前は無いか?」
「何だ、やっぱり名前付けるのか?」
「ああ、折角だからな」
「う~ん、そうだなぁ・・・・・・『アゾット』って言うのはどうだ?」
「アゾット?」
「パラケルススって言う偉大な錬金術師が使っていた短剣から取ったんだ」
「どうしてその名前にしたの?」
リンドブルムが剣の名前をアゾットにした理由を訊ねるとヴリトラはラピュスの騎士剣を指差して言った。
「だって、アイツの剣はDr.GGの手で普通の騎士剣から超振動剣に変わっただろう?物質を全く別の物に変えちまう、まるで錬金術みたいじゃねぇか」
「だからアゾットにしたの?」
「ああ」
「・・・前から思ってたけど、ヴリトラってこういう何かに名前を付けるのって得意だよね?」
ヴリトラの発想力に少し感心したようにリンドブルムは言った。ラピュスは自分の騎士剣を見つめながら自然と微笑みを浮かべている。
「アゾットか、いい名前だな・・・」
「気に入ったの?」
「ああ」
「そ、そう、それはよかったわね」
アゾットという名前を気に入ったラピュスを見てジルニトラは少し意外そうな顔になった。
ラピュスの騎士剣の名前が決まり、ヴリトラ達はトランクの中から自分の名前の入った特殊スーツを取る。全員が特殊スーツを取るとジェニファーはトランクを閉じてヴリトラ達の方を見た。
「アレクシアさんから伝言があります。『例の施設に関する情報を手に入れました。此処の地下に車を用意しておきましたので、装備を整えて三十分後に地下に来るように』との事です」
「七竜将の武器も俺様がメンテナンスしておいた。この倉庫の隣の部屋に置いてあるから持って行けよ?」
「分かった」
伝言を伝え、Dr.GGとジェニファーは倉庫を後にした。残ったヴリトラ達は持って行く銃器や弾薬などをチャックする。その後に男女別々に部屋に分かれて特殊スーツに着替え、準備を終えたヴリトラ達は装備を整えて地下へ向かった。
休息の直後に飛び込んで来たブラッド・レクイエム社の情報。稲城市の方にあるブラッド・レクイエム社の施設にあると思われるユートピアゲートの装置とブラッド・レクイエム社のコンピューターを求めてヴリトラ達はブラッド・レクイエム社の施設へ向かう。




