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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十三章~姫騎士は異世界を歩む~
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第二百三十一話  戦士の休息 ラピュスとラランの未知の体験

 ファムステミリアに戻る為のユートピアゲートの装置を作ろうとするも重要な情報がロックされていて見る事ができなかった。ヴリトラ達はその情報を手に入れる為にブラッド・レクイエム社の施設を探してそこに潜入する事にする。その準備が整うまでの間、彼等は一時の休息を取る事にした。

 ヴリトラ達よりも先に街へ向かったラピュス達はタイカベル・リーベルトビルの近くにある大きなデパートの中にいた。デパートの中はクリスマスが近づいているせいかとても賑やかで冬物の服などが多く売られている。デパートの中を見たラピュスは驚きのあまり目を見張り言葉を失い、そんなラピュスを見たジルニトラ達は苦笑いを浮かべた。


「こ、これがデパートという物なのか・・・」

「ええ、まぁ・・・」

「まさに建物の中にある市場だな・・・」


 デパートに中を歩きながら辺りを見回すラピュス。その両隣をジルニトラ達が苦笑いを浮かべたまま歩いている。


「デパートの入ってからずっとその調子ね?ラランと同じだわ」

「うん、ラランも初めてデパートの来た時はこんな感じだったしね」

「だとすると、あれを見た時の反応も同じかもな・・・」

「「んん?」」


 オロチの言葉にジルニトラとファフニールは頭に?マークを浮かべる。そしてその意味をすぐに理解する事になった。

 しばらく歩いているとラピュス達は電化製品コーナーにやって来る。エアコンや冷蔵庫、掃除機やテレビなどが並んでおり、ずらりと並べられている電化製品にラピュスは驚く。その中でもラピュスは薄型テレビを前後左右から見て目を丸くしていた。


「な、何だこれは?こんな薄い物の中に人が入っているなんて・・・これはファムステミリアで見たパソコンと同じ物なのか?」

「い、いいえ。それはテレビよ・・・」

「テレビ?どうやってこんな小さな物の中に人が入ったんだ?」

(・・・本当にラランと同じ反応をした・・・)

(ラランの時も思ったが、まさかこんなアニメで見るよな反応をする者が本当にいたとはな・・・)

(ラピュスもラランも面白い♪)


 ラピュスを見ながらジルニトラとオロチは複雑そうな顔する。だがファフニールだけはラピュスの姿を見て楽しそうな表情を浮かべていた。それから四人はしばらく電化製品コーナーを見て回り、その間ラピュスは見た事の無い物を見る度にオーバーな反応を見せる。そしてそんな姿を見て周りの客は呆然としていた。

 電化製品コーナーを出た後、ラピュス達は洋服売り場へ向かった。ファムステミリアでは見られないデザインの服を見てさっきまで驚きの表情を浮かべたいラピュスは今度は目を輝かせて洋服を見ている。やはりラピュスも女性なので服には興味があるようだ。


「凄い・・・こっちの世界では皆こんな服を着ているのか?」

「皆って訳じゃないけど、女の子はこういう服を着たがる人が多いわよ」

「そ、そうなのか・・・ファムステミリアでは貴族でもこのような服は着ていない。こっちでは平民でも着る事ができるのか・・・」

「まぁ、貴族が着る着ないよりも先にこういうデザインの服はファムステミリアには無いからね・・・」


 驚くラピュスを見ながらジルニトラは呟く。オロチとファフニールもジルニトラの隣でそんなラピュスを見ていた。ラピュスは近くにあるマネキンの着ている服をジッと見つめている。だが、見ているだけで触ろうとはしなかった。そんなラピュスを見てジルニトラはラピュスの隣まで近づく。


「見てばかりいないで触ってみたら?」

「え?触ってもいいのか?」

「勿論」


 ジルニトラの顔を見た後にラピュスは少し緊張した様子でマネキンの着ている服に触れる。だが右手は機械鎧になっている為、触っても何も感じられなかった。その事にラピュスは僅かに表情を曇らせるも、すぐに気持ちを切り替えて左手で服を触る。するとやわらかい感触が指に伝わり、ラピュスは目を見張って驚く。


「な、何だこれは?とても滑らかな感触だぞ?」

「それは最近流行の服らしいわよ?しかもちょっとお高い」

「高い?いくらぐらいなんだ?」

「え~っと、値札を見ると・・・三万六千円だから、ファムステミリアの値段なら・・・200ティルってところね」

「に、200ティル!?そんなに高いのか?」

「ええ、でもこれでも安い方よ?ブランド物で高い奴なら軽く十万円、500ティル以上する物も沢山あるから・・・」

「ご、500ティル以上の服・・・?」


 たかが服にそこまでの値段が付くという事にラピュスは耳を疑う。その事で怖くなったのかラピュスは服を掴んでいる左手をそっと離す。そんなラピュスの後ろにオロチが近づき、ラピュスの耳元で呟いた。


「試着してみるか・・・?」

「えっ!?」

「この服と同じ物がまだ店にもあるはずだ。この世界では買う前に試着する事もできるんだ。お前も試着してみるか・・・?」

「いや、いい!結構だ!」


 ラピュスは声を上げてオロチの勧めを全力で断る。値段を聞いてもし汚したりなんかして弁償させられる事になるのが怖くなったのだろう。ジルニトラとファフニールはそんなラピュスを見てまた苦笑いを浮かべる。

 洋服屋を後にしたラピュス達は小腹が空き、食事を取る為にデパート内のフードコートに立ち寄った。色々な飲食店があり、ラピュスは見た事の無い料理を目にまばたきをしながら並んでいる飲食店を見ている。


「こっちの世界には色んな食べ物があるんだな・・・」

「さぁラピュス、どれが食べたい?」

「どれと言われても、私はこっちの世界の事はまるで無知だし・・・お前達に任せる」

「そう?それじゃあ・・・・・・あれでいいわね」


 そう言ってジルニトラは遠くにあるハンバーガーショップを指差す。ラピュスは店の上に書かれてある文字を見てどんな店が確かめようとするが、まだラピュスには日本の文字を全て理解していない為、何と書いてあるのか分からなかった。


「あれは何の店だ?」

「ハンバーガー屋さんだよ」

「ハンバーガー?」


 説明するファフニールの方を向いて思わず聞き返すラピュス。


「まぁ、行ってみれば分かる・・・」


 そう言ってオロチはハンバーガーショップの方へ歩き出し、ジル二トラとファフニールもその後に続く。ラピュスは複雑な顔をしながら三人の後をついて行きハンバーガーショップへ向かった。

 店内に入るとジルニトラは注文をし、店員が注文の品をトレーの上に乗せる。代金を支払ったジルニトラ達は近くの相手る席に座り、自分達の注文した物を目の前に並べる。ジルニトラの前にはチーズバーガーとコーラ、ファフニールにはハンバーガーとオレンジジュース、オロチは和風レタスバーガーとジンジャエール、そしてラピュスの前にはハンバーガーと烏龍茶が置かれた。


「これが、ハンバーガーという物か・・・」


 目の前に並ぶ未知の食べ物を目にして戸惑い表情を浮かべるラピュス。チラッと隣や前でハンバーガーを口にするジルニトラ達を見ながらラピュスも彼女達の真似をする。包み紙をめくり、ハンバーグを上下からパンで挟んだ物を見てまばたきをし、戸惑いながらハンバーガーにかぶり付く。

ハンバーガーを食したラピュスを見てジルニトラ達も口を止めラピュスを見つめる。目を閉じながらよく噛むラピュス、しばらくする目を見開いて驚きの顔を見せた。


「う、美味い!」

「・・・よかった」


 ハンバーガーを気に入ってくれたラピュスを見てファフニールは笑顔になる。ジルニトラも微笑んでラピュスを見ており、オロチも珍しく小さく笑っていた。それからラピュスはハンバーガーをじっくりと味わい、幸せそうな顔で食事を楽しんだ。

 一方、デパートから少し離れた所にあるゲームセンターではリンドブルムとラランがゲーム機の前に立っている姿がある。二人の前にクレーンゲームが置かれ、二人はガラス越しにクレーンゲームの中にある大量のぬいぐるみをジーっと見つめ、リンドブルムはゆっくりと操作ボタンを押す。


「むぅ~~~!」

「・・・・・・」


 低い声を出しながらクレーンを操るリンドブルムとその隣で黙ってゲーム機の中を覗くララン。クレーンは横に移動し、目的の位置に来ると今度は二つ目のボタンを押して縦に動かす。そして狙っているぬいぐるみの真上に来るとリンドブルムはボタンから手を離した。


「よしっ!ここだぁ!」

「・・・ッ!」


 声を上げるリンドブルムと表情を鋭くするララン。クレーンの爪が開きゆっくりと下りて行く。ぬいぐるみに触れると爪が閉じてぬいぐるみを挟み、ゆっくりと上がり出す。クレーンは白いオコジョの様な生き物のぬいぐるみを上手く掴み、そのまま取り出し口の穴の真上まで移動する。そして爪がゆっくりと開いてぬいぐるみを穴に落とした。


「やったぁー!」

「・・・うん!」


 ぬいぐるみをゲットして喜ぶリンドブルムと隣で興奮した様な顔で頷くララン。リンドブルムは取り出し口からぬいぐるみを取り出してそれをラランに渡す。ぬいぐるみを受け取ったラランはそれを両腕でしっかりと抱きしめる。


「・・・ありがとう」

「ううん。それぐらいで喜んでくれるなんて、僕も頑張って取った甲斐があったよ」


 頬を赤くしながら小さな声で礼を言うラランを見てリンドブルムはニッコリと笑う。するとリンドブルムはさり気なくラランに背を向けて自分の財布を取り出し中身を確認する。


(・・・あのぬいぐるみ一つ取るのに二千円も使っちゃったよぉ~!でもラランが欲しがってたし、僕がゲーセンに連れてきちゃったんだから文句は言えないよねぇ・・・)

「・・・リブル、どうしたの?」

「えっ!?う、ううん!何でもないよ?」


 声を掛けられ慌てて財布をしまいながら誤魔化すリンドブルム。そんなリンドブルムはラランは不思議そうな顔で見ながら小首を傾げる。


「それで、今度はどのゲームで遊ぶ?」

「・・・あれは何?」


 ラランが指差す先には四角い台に幾つもの穴が開いているゲーム台があり、穴の近くには玩具のハンマーが刺してあった。ゲーム台の周りには何人かの客が楽しそうに話している姿がある。


「ああぁ、あれはモグラ叩きゲームだね」

「・・・モグラ、タタキ?」

「うん。あの穴からモグラの形をした人形が出てきてそれをあのハンマーで叩いて遊ぶゲームなんだ。ストレスを発散するのにいいゲームだよ」

「・・・面白いの?」

「まぁ、人それぞれかな?・・・・・・やってみる?」

「・・・うん!」


 目の前のゲーム機全てに興味があるラランは再び興奮した様な顔になり頷く。二人は客と客の間を抜けてモグラ叩きゲームの方に歩いて行った。

 ゲーム台の前まで来るとラランはぬいぐるみを握ったままモグラ叩きゲームを間近で見た。その後ろではリンドブルムが見守っており、周りにはモグラ叩きゲームで出た得点を競い合う客達の姿があった。


「・・・リブル、これ、どうやってやるの?」

「これはまずお金を入れてからレベルを決めて、その後にこれでモグラを叩くんだ」


 リンドブルムは刺してあるハンマーを抜いてラランに手渡し、百円玉を入れる。すると音楽が流れてレベルを選択するよう音声が聞こえてきた。レベルにはそれぞれ「初心者」「普通」「難しい」「達人」と四つのレベルがあり、リンドブルムはモグラ叩き初体験のラランでもできるようにレベルと一番簡単に初心者に設定する。


「さぁ、準備できたよ。あとはモグラが出てきたハンマーで叩くだけ」

「・・・うん」


 少しドキドキするのかラランはハンマーを強く握りながらゲーム台を見つめる。周りの客達も幼い少女がモグラ叩きにチャレンジするという事に興味があるのか全員が注目していた。ラランは周りから見られているという緊張の中でよりハンマーを強く握る。そしてゲーム開始に音楽流れ、ゲームが始まる。

 音楽が始まるのと同時にモグラが飛び出し、それを見たラランはフッと反応して驚く。しばらく動かずにいたモグラも穴の中に引っ込み、また別の穴からモグラが飛び出した。ラランは驚きながらも持っていたハンマーでそのモグラを叩き、モグラが引っ込むとまた別の穴から飛び出したモグラをハンマーで叩く。初心者レベルの為、モグラが出て来る速度もゆっくりでいまいち盛り上がらず、周りの客達はつまらなそうな顔をしている。しばらくすると音楽が止まり、ゲームが終了する。ラランは緊張と初めてやるゲームに疲れたのか深く息を吐いた。


「お疲れ様、どうだった?」

「・・・結構熱くなる」

「アハハ、そうだよね。それで得点は・・・」


 リンドブルムがゲーム台の得点画面を見てみると大きく150と数字が出ていた。このゲームはモグラを一回叩くと10ポイントである為、ラランはモグラを十五回叩いた150ポイントという事になっている。


「150ポイントかぁ・・・初めてやったにしてはいい点数じゃない?」

「・・・そう?」

「うん!」


 笑顔で頷くリンドブルムを見てラランは少しだけ笑みを浮かべた。しかし、周りの客達は初心者レベルで150ポイントを出したラランを見て笑いながら小声で話している。まるで「初心者レベルならそれぐらいできて当然」「あんな点数ではしゃいでる」「子供でももう少しは点数取れよ」と小馬鹿にしている様だった。

 そんな周りの客達の視線に気付いたラランとリンドブルムはチラッと彼等の方を向く。リンドブルムはムッとした顔で客達を見ていると、ゲーム台の前へ行き百円玉を入れる。どうやら今度はリンドブルムがやるようだ。


「今度は僕がやってみるね」

「・・・うん」


 ラランはゆっくりと後ろに下がり、リンドブルムの背中を見つめる。周りの客達は「また子供か」と思っているのかつまらなそうな顔でリンドブルムを見ていた。だがリンドブルムはそんな事は気にせずにレベルを設定していく。リンドブルムはボタンをポンポンと押して行き、レベルを最大の達人レベルに設定した。それを見た客達は一斉に目を丸くする。なぜなら達人レベルは他の三つと比べてモグラの速さが異常なくらい速く、普通の人間では200ポイント取るのも難しいくらいだからだ。そんなレベルに僅か十二歳の子供が挑むのだから驚くの無理はなかった。しかし、彼等はリンドブルムは機械鎧兵士だという事を知らない。

 リンドブルムは一度深呼吸をしてリラックスすると目の前の無数の穴を見つめながらハンマーを握る。そしてゲーム開始の音楽が流れた。それと同時にもの凄い速さでモグラが飛び出し、そのモグラをリンドブルムは素早く叩く。すると得点画面の10が表示され、それを見た客達は表情を急変させる。そんな中でリンドブルムは表情を変えずにゲーム台を見つめており、また別の穴からモグラが飛び出すと素早くハンマーで叩く。そしてまた別の穴からモグラが飛び出した。


「!」


 飛び出したモグラを見て素早くハンマーでた立つリンドブルム。それからリンドブルムは次々に穴から出て来るモグラをもの凄い速さで叩いて行き、どんどん得点を挙げていく。ラランや周りの客達はリンドブルムの驚くべき反応速度にただ目を丸くして見ていたのだった。そして音楽が終りゲームが終了するとリンドブルムはハンマーを穴に差し込んでパンパンと手を払う。


「・・・終わった?」


 ラランがゆっくりとリンドブルムに近づいて訊ねるとリンドブルムはラランの方を向いてニッコリと笑いながら頷く。するとゲームの結果が出て二人が得点画面を見ると、画面には550ポイントと出ていた。その得点に周りにいた客達は声を出しながら驚いた。難易度の高い達人レベルで幼い子供が500ポイント以上を出すなどあり得ないからだ。そんな驚く客達を見てリンドブルムは小さく笑う。


「・・・子供の中には僕みたいな常識外れな存在もいるんです。子供だからってバカにするととんでもない目に遭いますよ?」


 まるでラランをバカにした客達に忠告する様に言い放ったリンドブルムはそのままラランを連れてゲームセンターを後にする。残された客達はただ去って行ったリンドブルムとラランの二人とゲーム台の得点画面を交互に見て唖然としていた。

 ゲームセンターを去った二人は人が大勢いる道を並んで歩いていた。時刻は午後五時半、空はオレンジ色に染まっており周りの人達はそれぞれの家に帰宅しようとしている。そんな中でリンドブルムとラランは空を眺めながら歩いていた。


「もうこんな時間かぁ・・・楽しい時は時間があっという間に過ぎるもんだね?」

「・・・うん」


 ぬいぐるみを抱きながらラランは頷き、リンドブルムも両手を後頭部に当てながら空を眺め続けている。二人ともまだ遊び足りないのかどこか名残惜しそうな顔をしていた。


「暗くなってきたし、そろそろホテルに戻ろうか?皆ももう戻ってるかもしれない」

「・・・分かった」

「お~い!」


 二人が話をしていると背後からヴリトラの声が聞こえ、二人はフッと振り返る。そこにはビニール袋を両手に持ったヴリトラ、ジャバウォック、ニーズヘッグの三人が二人に向かって歩いて来る姿があった。


「よぉ、何処行ってたんだ?」

「ずっとゲームセンターで遊んでた。ラランも結構楽しんでくれてたよ」

「そっか。なかなか楽しいデートだったん――」

「違うってば!」


 ニヤニヤと笑うながらからかうヴリトラにツッコミを入れるリンドブルム。ジャバウォックとニーズヘッグは笑いながら二人の会話を見ており、ラランは無表情のままぬいぐるみを抱いていた。


「そう言うヴリトラ達はどうして此処に?」

「俺達は買い物が終ってホテルに戻るところだよ。お前等もか?」

「まぁ、そんなところ」

「・・・うん」

「皆揃って何をやっているんだ?」


 ヴリトラ達が道の真ん中で立ち止まりながら話をしているとそこへデパートに行っていたラピュス達も現れた。彼女達の手には大量の紙袋が握られており、中には色々な物が入っている。


「おおぉ、ラピュス。お前達も帰るところか?」

「お前達も、という事はそっちも?」

「ああ、もう夕方だからホテルに戻って休もうかなってな」

「そうか、私達も買い物が終って帰ろうと思っていたんだ」

「久しぶりにこっちで買い物したから買い過ぎちゃった」


 ラピュスの隣にいるジルニトラが自分の持っている紙袋を見せて笑いながら言った。ヴリトラ達はジルニトラの買った量を見て金の心配をしながら目を細くしている。


「さぁ、買い物も済んだし一旦ホテルに戻って荷物を置いてきましょう?その後に何処かに美味しい物でも食べに行かない?」

「いいねぇ!行こう行こう!」


 ジルニトラの提案にリンドブルムが飛び跳ねながら賛成した。その時、何処からか携帯の着信音の様な音が聞こえ、ヴリトラは荷物を下ろしてポケットの中からスマートフォンを取り出す。こっちに世界に戻ってからヴリトラ達は携帯類が使える様になり再び携帯やスマートフォンを使う様になったのだ。

 ヴリトラはスマートフォンのスイッチを入れ、ラピュス達もヴリトラの方に注目する。


「もしもし?」

「ヴリトラ、私よ」

「師匠、何ですか?」


 電話の相手はアレクシアだった。ヴリトラは真面目な顔になりラピュス達も表情が少し鋭くなる。


「ブラッド・レクイエム社の情報が手に入ったわ。すぐにビルに来て」

「ブラッド・レクイエムの!?」


 ヴリトラの言葉にラピュス達は緊張を走らせる。こっちの世界で活動していたブラッド・レクイエム社の手掛かりをアレクシア達は掴みんでヴリトラ達に知らせて来た。それはヴリトラ達にとってはこちらの世界に来て最初の激戦の始まりを告げるものでもあったのだ。

 それぞれ静かに平和な時を過ごしていたヴリトラ達。だがその静かな時はすぐに消えてしまう。ヴリトラ達は近づいて来る戦いの時に備えて己の中の闘志を燃え上がらせる。


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