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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十三章~姫騎士は異世界を歩む~
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第二百三十話  ファムステミリア帰還計画会議


 機械鎧の腕を手に入れたヴリトラとラピュス。ラピュスは機械鎧兵士として生まれ変わり、新しい自分に驚きと喜びを感じていた。そこへヴリトラから再びタイカベル・リーベルト社へ向かうという知らせを聞き、一同は急ぎタイカベル・リーベルト社のビルへ向かう。

 病院を出てタイカベル・リーベルト社ビルの社長室へやって来たヴリトラ、ラピュス、ニーズヘッグ、ジルニトラ、ジェニファーの五人。既に社長室にはアレクシアとDr.GG、そして他の七竜将のメンバーが集まっており、ヴリトラ達が入室すると全員が彼等の方を向いた。


「悪い、遅くなった」

「大丈夫よ、まだ話も始まってないし」


 遅れた事を謝罪するヴリトラにアレクシアは微笑みながら言った。ヴリトラ達は社長室の中心にある来客用の席は歩いて行き、空いているソファーに静かに座る。ヴリトラとラピュスはソファーに座り、残ったニーズヘッグ、ジルニトラ、ジェニファーはソファーの後ろに立つ。

 ヴリトラとラピュスがソファーに座るとアレクシア達は機械鎧の右腕を付け、機械鎧兵士として生まれ変わったラピュスに視線を向けている。


「どうだ姉ちゃん、俺様の作った機械鎧の腕は?調子いいだろう?」


 Dr.GGが笑いながらラピュスに訊ねるとラピュスは小さく笑いながら頷く。


「ええ、本物の腕の様にいう事を聞いてくれます」

「そうだろうそうだろう。慣れれば生身の腕よりも思い通りに動いてくれるぜ」


 機械鎧を気に入ってくれたラピュスにDr.GGは嬉しそうな顔を見せる。すると今度はラピュスの後ろに立っていたニーズヘッグが腕を組みながら真剣な顔でラピュスに話し掛けてきた。


「だが、いう事を聞いて力の加減はお前自身がしっかりとコントロールしないといけないぞ?」

「力の加減?」


 ラピュスが振り返りニーズヘッグの方を向いて訊き返す。ニーズヘッグは表情を変えずに頷く。


「そうだ。今まで普通に右手で握っていた物も今の右手では少し力を入れて握っただけで簡単に潰れたり砕けちまう。だからこれからは力加減には最善の注意をしろ?下手すれば握手をした時に相手の手を握り潰す事になるかもしれないからな」

「そ、そうなのか?」

「ああ・・・」


 力の加減に気を付けろ、そんなニーズヘッグの忠告を聞いてラピュスは若干の不安を感じる。


「ニーズヘッグ、機械鎧の事は後にして本題に入るわよ?」

「ああぁ、すいません」


 二人の会話にアレクシアが入り、話を終わらせて本題であるユートピアゲートの装置の事についての話を始める。ヴリトラ達も真面目な顔でアレクシアの方を向いた。


「・・・今回皆を呼んだのは貴方達がブラッド・レクイエム社の補給基地から手に入れたユートピアゲートの設計図と情報について分かった事があってそれを伝える為よ」

「解析が終わったんですか?」

「いいえ、全ての解析が終わった訳ではないわ。重要な情報はロックされていて見る事ができなかったの」

「ロックされている?」

「どうやら専用の解除プログラムを使わないとロックが外れない仕組みになっているみたい。しかも無理にロックを解除しようとすると情報その物が消滅する自爆プログラム付きよ」

「厄介ですね・・・」

「ええ、本当に厄介。ニーズヘッグやDr.GGでもそのロックを解除できなかったくらいだもの・・・」


 アレクシアの言葉にヴリトラは意外そう顔を浮かべる。ニーズヘッグは七竜将の中でも頭の回転が速く、コンピューターのハッキングも得意だ。そして師匠であるDr.GGのハッキング技術はニーズヘッグよりも上、そんな二人でも解除できない強力なロックがある事にヴリトラ達は驚いていた。そんな中、ヴリトラ達はアレクシアの次の言葉に更に驚く事になる。


「そして、そのロックが解除できない情報こそがユートピアゲートの装置を作る為に絶対に必要な情報なのよ」

「ええぇ?それじゃあ・・・」

「そう、その情報を手に入れないとユートピアゲートの装置は作れない」

「なってこった・・・」


 ユートピアゲートの装置を作ってファムステミリアに戻ろうとするもそれができない。その事にヴリトラ達は頭を悩ませた。


「あの、他にその情報を手に入れる方法はないのですか?」


 ラピュスがアレクシアに他の方法がないのかを訊ねるとアレクシアはラピュスの方を向き目を閉じながら答えた。


「・・・そのロックはブラッド・レクイエムが開発した特殊なロックプログラムでブラッド・レクイエム社のコンピューターなら解除できるみたいなんです」

「ブラッド・レクイエムの・・・」

「ええ、ですが今ブラッド・レクイエムはファムステミリアにいます。重要な情報や機器は全て向こうの世界にあるはず、この世界にはロックを解除できるブラッド・レクイエム社のコンピューターはありません。あったとしても誰かに使われないように破壊されていると思います。」

「そ、そんな・・・それじゃあどうすれば・・・」


 ロックを解除できないという事はユートピアゲートの装置を作る事ができない。だけどロックを解除する方法もない。その現実にラピュスとラランは驚きの顔を浮かべてアレクシアを見つめてた。ヴリトラ達もそれを聞かされて一斉に暗くなる。だが、ニーズヘッグだけは違っていた。


「いや、まだコンピューターは残ってるかもしれないぞ?」

「え?」


 ニーズヘッグの言葉にラピュスはフッと後ろを向く。ヴリトラ達も一斉にニーズヘッグの方を向いた。


「ニーズヘッグ、どういう事だよ?」

「覚えてるか?ノーティンク大森林の補給基地にユートピアゲートの装置があったのを?」

「ああ・・・」

「あそこはブラッド・レクイエム社がこっちの世界からファムステミリアに様々な物資を送る為に作られた基地だ。きっとあの基地のユートピアゲートはこっちの世界の何処か、それもブラッド・レクイエムの施設と繋がってる可能性がある」

「本当か?」

「アイツ等だって弾薬や燃料の様なこっちの世界の物資が無くなれば必ず補給するはずだ。他にも必要な物があれば頻繁こっちに戻って調達しているに違いない」

「そう言えば、俺がジークフリートと初めて会った時もアイツはメトリクスハートの設計図を手に入れようとしてたんだったよな・・・」


 ヴリトラはファムステミリアに来る前、麻薬組織であるコロンビアの聖地のアジトがある港でジークフリートと出会った時の事を思い出す。


「それに俺の想像からしてユートピアゲートは別の世界に行く事はできても戻る事はできない、つまり元の世界に戻るにはファムステミリアでユートピアゲートを開かないとこっちには戻って来れないと俺は思ってる」

「一方通行と言うやつか・・・」


 説明を聞いていたオロチが小さな声で呟き、ヴリトラ達も真剣な顔でニーズヘッグの説明を聞いている。


「ああ、だから奴等はこっちの世界からファムステミリアに行く為のユートピアゲートの装置を何処に設置してある可能性が高いって事だ。つまり・・・」

「まだ生きているブラッド・レクイエム社のコンピューターがあるって事か!」

「アイツ等が使ってるユートピアゲートの装置も!」

「そうだ。それらのあるブラッド・レクイエムの施設を探してそこを制圧すればコンピューターと装置の両方が手に入る」


 ファムステミリアに行く為の手段がまだある事にヴリトラとリンドブルムは思わず声を出し、ラピュスとラランも安心の表情を浮かべる。


「それじゃあ、これから俺達がやるべき事は・・・」

「ブラッド・レクイエムの生きている施設を見つけてそこを調べ、ユートピアゲートの装置と俺達の持っている情報のロックを解除する為のコンピューターを確保する事だ」


 ヴリトラとジャバウォックがこれから自分達のやるべき事を口にし、リンドブルム達も二人を見て真剣な顔を見せる。これでファムステミリアに戻り、向こうの世界の住人達を助ける事ができるとラピュスとラランの表情に明るさが戻って来た。すると、ファフニールがフッとある事に気付いてヴリトラ達の方を見る。


「でも、ブラッド・レクイエムのユートピアゲートがあるならそれを確保して私達で使えばいいんじゃない?わざわざコンピューターを調べてロックを解除したくても・・・」

「確かにそうね・・・」

「いや、奴等の作った装置だ。敵に奪われた時の事を考えて何か仕掛けてある可能性もある。装置が使えなくなった時の事を考えて念の為にロックを解除する事も考えておいた方がいい」


 用心深いニーズヘッグは装置の確保だけでなく、ロックを解除する事をファフニールとジルニトラに話す。ヴリトラも「それはありえる」という様にニーズヘッグとジルニトラの方を向いて頷く。

 ヴリトラ達がこれから何をするのかを話し合っている姿を見たアレクシアも真面目な顔をしており、話が一区切りつくと手を叩いてヴリトラ達の注目を集めた。


「皆さんの話は分かりました。ですが、そのブラッド・レクイエムの施設の場所がまだ分かっていません。それに異世界に行く為の装置がある施設です。それなりに敵の守りも堅いと思われます。まずは情報を集める事から始めましょう」

「ハイ」


 アレクシアの方を向いてヴリトラは返事をし、ラピュス達もアレクシアの方をジッと見つめている。アレクシアは自分を見ているヴリトラ達を見回して話を続けた。


「ブラッド・レクイエムの施設を探し、情報を得た後に準備を整えて行動を開始してください。施設の場所や状況は私達が調べます。発見次第報告しますのでそれまで皆さんは体を休めておいてください」

「ああぁ、そうしとけ。オメェ等が向こうの世界で何をしてたのかも気になるしなぁ」


 Dr.GGが笑いながらヴリトラ達を見てファムステミリアの話を聞かせるように言い、それを聞いたヴリトラやリンドブルムは「やれやれ」と言いたそうに苦笑いを浮かべる。

 話が一通り終わるとヴリトラはラピュス達を見ながら立ち上がった。


「それじゃあ、情報収集は師匠達に任せて俺達は言われたとおり体を休めるとしようぜ?」

「休めるって・・・どうするの?」


 リンドブルムが小首を傾げながら訊ねるとヴリトラはニッと笑いながら右手の親指を立てる。


「自由行動さ。買い物するなり散歩するなりトレーニングするなり好きな事をするって事」

「うわぁ、出たわよ。ヴリトラのチャランポランな考え方・・・」

「て言うか、体を休めるのにトレーニングって変じゃないのか・・・」

「まっ、いつもの事だがな・・・」


 ヴリトラの態度が変わったのを見てジルニトラ、ニーズヘッグ、ジャバウォックが呆れ顔になる。リンドブルムとファフニールは自由行動が嬉しいのか笑っており、オロチは無表情のままヴリトラを見ている。ラピュスとラランは状況が把握できずにまばたきをしなはらポカーンとしていた。


「ラピュス、ララン、お前達も折角だから思いっきり羽を伸ばせよ」

「は、羽を伸ばせと言われても・・・」

「・・・よく分からない」

「それに、私はまだ入院中の身で・・・」

「あっ、それなら大丈夫。ラピュスは今日で退院よ?」


 ジルニトラがラピュスの方を向いて退院したという事をサラって言う。ラピュスは一瞬理解できずにしばらくしてジルニトラの方を向いて目を丸くした。


「た、退院?どういう事だ?」

「アンタは機械鎧兵士になって右腕も付いたし、体の中にはナノマシンが入ってるわ。ナノマシンが入った事でアンタの自然治癒力は常人以上になってるし、痛みもナノマシンで中和されるからもう退院して日常生活に戻っても大丈夫だって師匠が言ってたの。もう退院の手続きもしておいたって」


 ジルニトラの話を聞き、勝手に退院の手続きを進められてラピュスは唖然とする。ラランも驚いてはいるがラピュス程ではなく、半分呆れる様な顔をしていた。

 驚くラピュスの隣でヴリトラはラピュスの肩にポンと手を置きニッと笑う。


「と、いう事だ。お前も自由に外出できるようになった訳だし、遊びに行って来いよ?」

「あ、遊びにって・・・今はそんな事をしている状況ではないだろう?それに病院を出て私はどうすればいいのだ?」

「宿なら大丈夫だ。師匠が俺達の為にホテルを取ってくれてるからそこで寝泊まりすればいい」

「ホ、ホテルを?」


 驚きの連続にラピュスは目を丸くしながらアレクシアの方を向く。アレクシアは自分を見るラピュスに笑顔で頷いた。


「またすぐに大きな仕事が始まります。今の内に少しでもリフレッシュしておいてください」

「は、はぁ・・・」


 いまいち納得のできないラピュスは困り顔になる。そんなラピュスの下にファフニールが近寄り彼女に右腕を引っ張って立たせた。


「ラピュス、街に行こう?手術が終ったら美味しい物を食べに行こうって言ったじゃん」

「え、ええぇ?」

「そうね。ラランはラピュスより先に街を見てどんな場所なのか知ってるけど、アンタはまだ車の中からしか見てないからね。あたし達が案内してあげるわ」

「私も付き合おう・・・」

「けって~い!じゃあ早速行こう行こう♪」

「お、おい、ちょっと待ってくれ!」


 ラピュスに町を案内すると七竜将の女性陣が立ち上がる。ラピュスは半分強引に話を進めるファフニール達に戸惑いながら彼女達と一緒に社長室を出て行く。残されたヴリトラ達七竜将の男性陣とララン、そしてアレクシア達は社長室の出入口をジッと見ていた。


「あ~あ、行っちまったよ・・・俺達はどうする?」

「俺達も街へ行ってみようぜ?今日までこっちの状況確認やラピュスの事で忙しかったからな」

「ああ、俺達も街へ行って楽しんでこよう」


 ジャバウォックとニーズヘッグも街へ行くと言い出し、ヴリトラも「そうだな」と言う様に頷いた。


「・・・ラランはどうする?ラピュス達を追いかける?」

「・・・私、体を動かしたい」

「体?」

「・・・こっちに来て訓練とかしてないから」

「ああぁ、そう・・・」


 幼い少女が楽しい事をするよりも体を動かしたいという事にジト目になるリンドブルム。ラランの心は既に姫騎士に染まっているようだ。


「折角こっちに来たんだから、買い物とかゲーセンとか行って楽しんだらどう?」


 リンドブルムは折角地球に来たのだから騎士としてでなくラランを一人の少女として楽しませたいと考え、頭をポリポリと掻きながら他の場所へ行こうとラランを説得する。


「・・・ゲーセン?」

「ゲームセンターの事。この近くにもいい所があるから行ってみない?」

「・・・ゲーセン・・・楽しい所?」

「うん、少なくとも僕は楽しいと思いよ?」

「・・・・・・行ってみる」

「よし、決定!」


 行き先が決まり、リンドブルムはニッと笑って楽しそうな声を出した。ラランはゲームセンターの事が全く分からずに無表情のままリンドブルムを見つめている。


「行き先は決まったのか?」

「うん、僕とラランは近くのゲーセンとかを回って遊んで来る」

「そうかい。俺達はショッピングモールとかを見て来るぜ」


 ジャバウォックはリンドブルムとラランに行き先を伝え、ヴリトラとニーズヘッグを連れて社長室を出て行った。すると最後に部屋を出たヴリトラがドアの隙間から顔を出してリンドブルムを見ながらニヤリと笑う。


「それじゃあ、ゆっくりデートを楽しんできなよ?」


 ヴリトラは悪戯っぽくそう言って社長室のドアを閉める。残されたリンドブルムはピクッと反応して頬を赤くした。


「デ、デートじゃないよぉ!」


 怒ったリンドブルムはヴリトラ達を追いかける様に社長室から出て行き、ラランは意味が分からないのか無表情のまま小首を傾げ、ゆっくりと歩いてリンドブルムの後を追い社長室から出て行った。

 社長室に残ったアレクシア、Dr.GG、ジェニファーの三人はヴリトラ達が出て行った後にお互いの顔を見てこれからの事を話し合う。


「さて、ガキどもは遊びに行っちまったし、俺様達も仕事を始めるとしますかぁ」

「ええ。この半年間、彼等は異世界で苦労していたみたいですから、少しは笑わせてあげましょう」

「まぁ、それも悪くはねぇな・・・よし、ジェニー!ブラッド・レクイエムの所有する施設で最近動力とかが動いている場所を片っ端から調べるぞ!」

「ハ、ハイ!」


 気合の入ったDr.GGの言葉にジェニファーは姿勢を正して返事をした。アレクシアも立ち上がって社長室の窓から外の摩天楼を眺める。その表情はヴリトラ達が羽を伸ばす事を自分の事の様に感じている様な笑顔だった。

 ユートピアゲートの装置を作る為にブラッド・レクイエム社の施設に向かい情報やコンピュータプログラムを手に入れる事になったヴリトラ達。しかし、その前にしばしの休息を取る事になった彼等は街へ出かける。戦いの世界で生きて来た彼等にとって小さな安らぎの時だった。


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