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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十三章~姫騎士は異世界を歩む~
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第二百二十九話  誕生! 機械鎧兵士ラピュス

 アレクシアに会いジャンヌとの意外な関係を聞かされたヴリトラ達。そこへヴリトラとラピュスの機械鎧を提供する為にニーズヘッグの師匠であるDr.GGがやって来る。過激的な性格の老人を目にしてラピュスとラランは思わず引いてしまう。

 ヘリポートを後にしたヴリトラ達は社長室の二つ下の階にある研究室へ移動し、そこでDr.GGにヴリトラの機械鎧の状態のチェックとラピュスに新しい機械鎧を取り着ける為の調整をしてもらっていた。


「こりゃまた随分と派手にやられたなぁ?どんな奴にやられたんだ?」

「ブラッド・レクイエムのジークフリートだよ。あと、その機械鎧は奴にやられたんじゃなくて俺が自分で切って壊したんだ」

「何ぃ?俺様が手塩にかけて作った機械鎧をオメェが壊しただとぉ~?」


 研究室の丸椅子に座ってDr.GGは目の前で同じように丸椅子に座っているヴリトラの機械鎧の状態を見てジロッと彼の顔を見ながら言った。上半身裸のヴリトラはDr.GGと視線を合わせないように目を逸らしていた。Dr.GGは工具を使って壊れたヴリトラの機械鎧をヴリトラの体から取り外す。するとヴリトラは左肩の部分は壊れた腕が無くなり金属の凹みだけとなった。それはまるで組み立て式のフィギュアの取り付け部分の様だ。周りではそんな二人の様子を七竜将の男達が見守っている。


「仕方なかったんだよ。ラピュスが殺されそうになってて助けに行こうにも左腕が挟まって動けなかったんだよ。だからその為に森羅で腕を切っちまったんだ」

「成る程な、そういう事情じゃ仕方ねぇか・・・だが、そんな状態になっちまうほどオメェは追い込まれてたっていう事だろう?まだまだ修行が足りねぇって訳だ」

「ぐぅ・・・何も言い返せない・・・」


 事実を突きつけられて暗い顔を見せるヴリトラ。そんな彼の事を気にせずにDr.GGは作業を続ける。


「・・・まぁ、壊れたのは左腕部分だけだ。接続部分が無傷なら新しい左腕を取り付けるだけで済むな」

「だけど、予備スペアの左腕は向こうの世界に置いてきちまってな。代わりの物が無いんだよ」

「・・・そう言えば、オメェ等はファムステミリアとか言う異世界に行ってたらしいな?アレクシアから聞いたぜ?」


 Dr.GGがファムステミリアの事を話し出し、七竜将は一斉に真面目な顔になった。ヴリトラも顔を上げてDr.GGの方を見ながら静かに頷く。


「ああ、ブラッド・レクイエム社の造ったユートピアゲートって言う次元空間転移装置で連れて行かれちまったんだ」

「ほほぉ?・・・だがどうも信じられねぇなぁ、異世界に行くなんてアニメそのものじゃねぇか」

「本当さ。さっき会ったラピュスもそのファムステミリアの住人なんだ」

「ああぁ、あの右腕のねぇ姉ちゃんか。そう言えば、その近くにちっこい嬢ちゃんがいたが、あれは誰なんだ?」

「あの子はラランって言ってラピュスと同じファムステミリアの人間なんだ」


 ヴリトラとDr.GGの近くで二人の会話を聞いてたリンドブルムがラランの事を説明する。Dr.GGは「ほぉ~」という様にリンドブルムの方を向いて意外そうな顔をした。


「そう言えば、ラピュス達は何処行ったんだよ?」

「心配ねぇ、あの姉ちゃんはジェニーが見てる。あっちはオメェと違ってこれから機械鎧兵士になるんだ。機械鎧を取り付ける為に色々と確認をしないといけねぇんだよ。接続部分の機械を取り付ける為の手術もしないといけねぇからな、オメェ以上に時間が掛かる」

「そっか・・・」


 少し心配なのかヴリトラは研究室の天井を見上げながら小さく息を吐く。チェックを終えたDr.GGはそんなヴリトラの様子をしばらく見つめ、やがてニヤリと笑いヴリトラの耳元に顔を近づけて小声で話し掛ける。


「おい、あのラピュスって姉ちゃん、なかなかのべっぴんさんじゃねぇか?研究室に来るまでの間も色々と話をしててオメェと仲が良さそうに見えたぞ?」

「ん?そうか?」

「・・・もしかして、オメェのコレか?」


 そう言ってDr.GGは手の子指を立て笑いながら訊ねる。それを見たヴリトラは少し驚いた様な顔でフッと反応した。


「ち、違う違う!ラピュスは俺の戦友だ。決して男女の関係じゃ・・・」

「そうかぁ~?あの姉ちゃんと話している時のお前、ちぃ~と楽しそうな顔してたぜぇ?」

「違うっての!」

「ヴリトラ、そこまで否定するとラピュスに失礼だぞ?」

「うっ・・・だ、だけどアイツだって俺との関係を訊かれたら熱くなって否定するじゃねぇか」


 ニーズヘッグの言葉にヴリトラはチラッとニーズヘッグの方を向いて過去のラピュスの態度を口にする。それを聞いてリンドブルムは「確かにそうだ」と言いたそうに頷き、ジャバウォックは興味が無いのか腕を組んだまま黙ってヴリトラを見ていた。

 すると、研究室の隣の部屋へ続く扉が開き、ジェニファーとジルニトラ達七竜将の女達が入って来る。その後にラピュスとララン、そして清美が静かに入って来た。


「おう、ジェニー。そっちはどうだ?」

「あっ、ハイ。問題ありません。清美先生の治療で傷口も綺麗な状態ですし、接続部分を取り付けても大丈夫だと思います」

「そうかそうか」


 ラピュスの方も問題ないと聞きDr.GGはニッと笑う。ヴリトラ達もラピュスの方を見て安心した様子を見せる。

 丸椅子から立ったDr.GGはラピュスの方へ歩いて行き、ラピュスの頭から爪先までを見ると彼女の顔を見る。


「おめでとうよ、姉ちゃん。お前さんが機械鎧兵士になる事が決まった」

「あ、ありがとうございます」


 笑いながら自分を祝うDr.GGを見て戸惑う様な顔で礼を言うラピュス。その隣に立っているラランも目を細くして目の前の老人を見上げていた。


「さてと、姉ちゃん。機械鎧兵士になる事が決まったのはいいが、お前さんには訊きたい事がある」

「訊きたい事?」

「ああ、そうだ。これからお前さんが纏う機械鎧をどんな物にするかって事だ。お前さんはファムステミリアって世界では騎士をやってるそうじゃねぇか?という事は戦場で多くの敵と戦っていたって事になる。一体どんな機械鎧がいいんだ?」

「どんな機械鎧に・・・?」


 言っている事の意味が分からないラピュスは小首を傾げて訊き返した。


「機械鎧には幾つかのタイプがあるんだ。例えば俺の機械鎧はどんな戦場でも使い易いバランスタイプ、ジャバウォックのは攻撃力を重視したパワータイプ、オロチのは機動と後方支援向きのサポートタイプってな」、

「機械鎧を使う奴の戦闘スタイルによって使う機械鎧のタイプが決まって来る。まずはお前さんの戦い方を確認してそれからどんな内蔵兵器を機械鎧に仕込むかを決めるんだ」

「私の、戦闘スタイル・・・」


 ヴリトラとDr.GGの話を聞き、ラピュスはこれまでの自分の戦いを思い返す。戦場ではどんな戦い方をし、どんな立ち位置なのか、そしてどんな方法で戦うのかを確認した。そして思い出した事をDr.GGに伝える。


「・・・私は戦場では常に前線に立って戦っている。あと、状況に応じて仲間を援護したりなどもする」

「・・・隊長は剣の腕は凄く、気の力で炎を操って多くの敵に攻撃する事もできる」


 ラランがラピュスの戦闘スタイルについて話すとDr.GGは不思議そうな顔でラランを見た。


「気の力?何だそりゃあ?」

「ファムステミリアの騎士達は気の力という物を使って自然を操る力があるんだ。水、土、風なんかな。それで、ラピュスの操るのは火って訳だ」

「ほほぉ、流石は異世界と言うべきだな。俺様達の知らねぇ力がありやがる」


 ヴリトラの話を聞き少し異世界に興味が湧いたのはDr.GGは笑みを浮かべる。一通りの話を聞いたDr.GGはラピュスの機械鎧のタイプを考え、ラピュスの顔を見ながら彼女を指差す。


「決まったぜ!お前さんはヴリトラと同じバランスタイプの機械鎧にする。内蔵する兵器もお前さんが戦いやすい様な物を選んで仕込んでやるぜ」

「そ、そうですか・・・」


 苦笑いをしながら礼を言うラピュス。機械鎧をどんな物するのか決まるとDr.GGは清美の方を向いた。


「それじゃあ清美先生よ、早速だが機械鎧の接続部分を取り付ける為の手術の準備をしてくれ」

「それはいいけど、そっちは大丈夫なの?ヴリトラとラピュスの機械鎧を作るのにかなり時間が掛かるんじゃないの?」

「ハハハハ!心配ねぇよ。既にいくつか開発途中の機械鎧を持って来てあるんだ。その中から良さそうな物を選んでこの姉ちゃんとヴリトラの新しい機械鎧に作り変えてやるさ。二つができるまで三、四時間もありゃ十分だ」


 笑いながら余裕の態度を見せるDr.GGを見て清美も小さく笑う。七竜将はそんな二人の会話を見て頼もしく思っている。ラピュスとラランは清美は信用しているが、出会ったばかりのDr.GGには若干の不安を感じていた。


「分かったわ。ラピュスの状態も安定している事だし、手術は明日の正午に行いましょう。それまでにラピュスに右肩に付ける接続部分を完成させておいてね?」

「何だ、明日かよ?」

「アレクシアにこの事を伝えないといけないし、手術の流れについて他の医師達と見当する必要もあるのよ。そんなすぐにはできないわ」

「面倒だな、医者の手術って言うのか」


 Dr.GGは頭を掻きながらそう言い、清美は「何も分かってないわね」と言いたそうな顔でDr.GGを見ていた。

 明日、機械鎧兵士になる為の手術をするのだと考え、ラピュスの顔に少しだけ緊張が浮かんで来た。上手く行くのか不安な気持ちになり、左手を強く握りながら俯く。するとそんな彼女の左肩にヴリトラがポンと手を置く。


「そんなに緊張するなよ。今回は機械鎧の接続部分になる機械を取り付けるだけの手術だ。命に関わる様な大手術じゃない」

「ああ、それは分かっているのだが、なぜか緊張してしまうんだ・・・」


 ラピュスは左手をゆっくりと上げてジッと見つめた。左手を開くと手が若干震えているのが分かる。だが不思議な事にその震えは恐怖などではなかった。なぜ震えているのかラピュス自身にも分からずにただ緊張が体に走っている。

 ヴリトラはそんなラピュスの震える手をしばらく見つめ、やがてそっと自分の右手をラピュスの左手の上に乗せた。


「ヴリトラ?」

「それはきっと自分が機械鎧兵士になるって事に対してじゃないか?普通の人間でなくなる事への緊張と今まで以上に強くなる事への興奮、それが震えの原因だと思うぜ」

「緊張と興奮・・・」

「ああ、お前は機械鎧兵士になる事でこれまで以上に戦いの世界へ足を踏み入れ、より多くの危険と隣り合わせになる事になる。そんな世界で自分が生きていけるのかという緊張とその世界で使う強大な力が手に入るというのがその震えの原因だと思う」

 

 ラピュスの顔を見ながらヴリトラは自分の考えた震えの原因をラピュスに話した。ラピュス自身もそんなヴリトラの話を彼の顔を見ながら黙って聞いている。


「いいかラピュス。自身の力と戦場での興奮に呑まれるな。そうなれば自分自身を見失い、戦場を求める狂人となる。お前が自分自身であり続けたいのなら、姫騎士としての誇りを失いたくないのなら、常に自分の力の強さを理解し、自分が何の為に戦っているのかを忘れるな。じゃないとお前もブラッド・レクイエムの連中みたいになっちまう・・・」

「・・・ああ、肝に銘じておく」


 ヴリトラの忠告をラピュスは真剣な顔で聞いて頷く。ヴリトラもそんなラピュスの真剣な顔を見て同じように真面目な顔で頷いた。

 二人がそんな話をしているとリンドブルムがヴリトラのズボンを引っ張り、ヴリトラとラピュスがリンドブルムに気付いてフッと彼を見下ろすと、そこにはジト目で二人を見上げるリンドブルムの姿があった。


「二人が真剣な話をしてる間に皆行っちゃったよ?」

「「え?」」


 ヴリトラとラピュスが周りを見ると、研究室には自分達以外は誰もおらず、目を丸くする。リンドブルムは「やれやれ」と顔を振って呆れていた。それから三人は急いでジャバウォック達の後を追い、手術の詳しい段取りの話を聞く。そしてヴリトラとラピュスの機械鎧をどんな物にするかという話もしてヴリトラ達はタイカベル・・リーベルトのビルを後にした。


――――――


 翌日の正午、遂に手術の時が来た。手術着を着た清美とジルニトラにストレッチャーを押され、その上で横になっているラピュスが手術室へ向かって行く。その途中、廊下でヴリトラ達と会い手術前に簡単に挨拶をした。


「いよいよだな。ファイトだぞ!」

「頑張って!」

「ああ・・・」


 手術を行うラピュスにジャバウォックとリンドブルムが応援し、ラピュスも小さく笑いながら返事をする。そんな三人の会話を見て清美とジルニトラは笑っている。


「別に命に関わる大手術じゃないんだから、そんなに応援するような事じゃないわよ?」

「そうよ、機械鎧を付ける接続部分の機械を取り付けるだけなんだから」

「それでも一応手術をするんだから、応援しないと」

「まぁ、それは言えるけどね」


 リンドブルムの言葉にジルニトラは笑いながら納得し、そんな会話を横になりながら聞いたラピュスも少し安心したのか笑ったまま四人を見ている。そんな会話をヴリトラ達も小さく笑いながら見守っていた。

 一通り話が終ると、見守っていたヴリトラ達もストレッチャーに近づいてラピュスに声を掛けた。


「まぁ、気楽にいけよ?」

「終わるまでには腕の方は用意しておく」

「腕が戻って元気になったら美味しい物を食べに行こう!」

「あまり緊張するな・・・?」

「・・・隊長、頑張って」


 ヴリトラ、ニーズヘッグ、ファフニール、オロチ、ラランからそれぞれ声を掛けられ、ラピュスは五人の方を向き頷く。全員に挨拶すると清美とジルニトラはストレッチャーを押して手術室へ入って行った。扉が閉まると残ったヴリトラ達はお互いに向き合って真面目な顔になる。


「さて、ラピュスが手術している間に俺達もやるべき事をやっちまおう!俺とニーズヘッグはDr.GGの所へ行く。ジャバウォックとオロチは師匠の所へ行ってニーズヘッグが手に入れたユートピアゲートの情報を見せて装置の開発の話をしてきてくれ。リンドブルム、ファフニール、ラランは此処に残って手術が終わるのを待っててくれ。終わったら本条先生から詳しい話を聞いといてくれよ?」


 それぞれ指示を聞いてリンドブルム達は一斉に返事をし行動を開始した。ヴリトラ達が移動した後、リンドブルム、ファフニール、ラランの三人は手術室前の椅子に座って手術が終るのを待った。既に手術中と書かれた赤い照明は光っており、手術室では清美とジルニトラが手術を始めている。麻酔を掛けられて眠りについているラピュスを見て二人は真剣な顔でお互いの顔を見てから手術を開始した。

 それから三時間が経過して手術が終り、リンドブルム達も椅子から立った。そこへアレクシアの所へ行っていたジャバウォックとオロチも戻って来て手術室の前で立ち止まる。手術室の扉がゆっくりと開き、ストレッチャーを押しながらジルニトラと清美が出てきた。ストレッチャーの上では麻酔で眠っているラピュスの姿があり、彼女の右肩部分には機械鎧の腕を付ける為の接続部分が付いている。


「・・・隊長は?」


 ラランが清美の方を向いてラピュスの状態を訊ねると清美はマスクを外して微笑みながら頷く。


「大丈夫よ。手術は成功したわ」

「あと二、三時間経てば目を覚ますはずよ」

「・・・よかった」


 清美とジルニトラの話を聞き、ラランはホッとしたの小さく笑って息を吐く。周りにいるリンドブルム達も笑ってラランを見ていた。


「・・・あら?ヴリトラとニーズヘッグは?」

「アイツ等ならまだDr.GGの所にいると思うぜ?機械鎧の調整や簡単な確認をしてるはずだ」


 ジルニトラがヴリトラのニーズヘッグの姿が無い事に気付いてリンドブルム達に訊ねるとジャバウォックが腕を組んで質問に答えた。


「そう・・・それじゃあラピュスの機械鎧も完成してるの?」

「多分な、Dr.GGの事だから昨日俺達がタイカベル・リーベルトのビルから帰った後にすぐに製作に移ったはずだ」

「うん、多分ラピュスのやつも完成してると思うよ?」


 リンドブルムが後頭部に両手を当てながら答え、それを聞いたジルニトラも納得の表情を浮かべる。するとそこへ清美がジルニトラの肩に手を置いて声を掛けて来た。


「話はそれぐらいにしておきなさい?とりあえず病室へ運んで、それから色んな話をすればいいでしょう?」

「あっ、ハイ。すみません師匠」

「病室は同じ所よ。貴方達も気になるなら一緒に来てもいいわ」

「・・・私、行く」

「私も!」

「なら私達はヴリトラとニーズヘッグを迎えに行って来る・・・」


 ラランとファフニールが同行する事を進言し、清美とジルニトラはラピュスのストレッチャーを押しながら病室へ向かい二人もその後をついて行った。残ったオロチ達はDr.GGの所にいるヴリトラとニーズヘッグを迎えに行く為に移動する。

 三時間後、ジルニトラの言った通りラピュスは病室のベッドで目を覚ました。ゆっくりと目を開き、ラピュスは少しずつ回復していく視界の中で状況を確認する。


「此処は・・・私の部屋?」

「ラピュス」


 左から聞こえてくる声にラピュスはチラッと声の方を見て椅子に座って自分を見守っているジルニトラを確認する。


「ジル・・・手術は終わったのか?」

「ええ、大成功よ。あとは機械鎧を取り付けるだけ」

「そうか・・・」


 ラピュスはゆっくりと体を起こして自分の右腕を確認する。まだ腕は無いが右肩の部分に少し違和感の様なものがある。服の間から左手を入れて右肩の辺りをそっと当ててみると冷たく堅い感触があった。服の隙間から覗いて見てみると、そこには銀色の金属の接続部分が付いている。


「これが・・・」

「ええ、そこに機械鎧の腕を付けるのよ」


 微笑みながらジルニトラはラピュスに接続部分の役割を教える。すると、病室の扉が開きヴリトラとニーズヘッグ、ジェニファーが入って来た。


「よう、気が付いたが?」

「ヴリトラ・・・」

「ちょっと、ノックしなさいよ」

「ハハ、ゴメンゴメン」


 笑いながら謝るヴリトラは病室へ入って来る。よく見ると彼の体には機械鎧の左腕が付いていた。どうやら新しい機械鎧が完成し取り付けられたようだ。ヴリトラの新しい機械鎧は以前の機械鎧と若干見た目が違っているが普通の腕の形をしている。ヴリトラは新しい左腕の指や手首を動かしてそれをラピュスに見せた。


「それがお前の新しい機械鎧なのか?」

「ああ、作りは前のと同じだから感覚に変化も無いし調子いいよ」

「そ、そうなのか・・・」


 こんなにも早く義手ができてしまう地t球の技術力にラピュスは驚きの表情を浮かべる。するとヴリトラの後ろにいたジェニファーがベッドの方に歩いて行き、持っていたトランクを床に置く。そしてトランクを開けて中から何かを取り出すとそれをラピュスの前に出す。それはヴリトラの左腕と同じ金属製の義手だ。ただしヴリトラのとは違い左腕ではなく右腕だった。


「これがラピュスさんの機械鎧です」

「これが、私の・・・」

「ハイ、早速取り付けてみましょう」


 そう言ってジェニファーがベッドの右隣へ移動してラピュスに機械鎧を取り付けようとする。取り付け易くする為に入院着を脱がせようとボタンに手を掛けようとするジェニファー。するとピタリと手を止めてヴリトラとニーズヘッグの方をジッと見る。ジルニトラも同じ様に二人の方を向き鋭い視線を向けた。二人から見られて自分達の立場を理解したヴリトラとニーズヘッグは苦笑いを浮かべて静かに病室から出て行き、二人が出て行ったのを確認するとジェニファーは作業を再開する。

 服を脱ぎ、上半身下着姿となったラピュス。ジェニファーは機械鎧をラピュスの接続部分の凹みにはめ込み簡単なチェックをする。チェックが終るとジェニファーは両手を機械鎧からゆっくりと離してラピュスの方を見た。


「これでOKです。動かしてみてください」


 笑顔で動かす様に言うジェニファーを見てラピュスは言われたとおりにしてみる。すると金属の義手は自分の思った通りに動き出してラピュスは驚いた。指や関節は細かく動き、生身の時だった様に動いてくれる。


「す、凄い・・・本物の腕の様に動くぞ・・・」

「接続部分を取り付ける時にナノマシンも注入したからね。手術の痛みも引いてるし、ナノマシンのおかげでリハビリなんかも必要ないわ。もう普通に生活する事もできるはずよ」

「ナノマシン?私の中にもお前達の中に入っているのと同じ物が・・・?」

「ええ、入ってるわ。これでアンタは身体能力、治癒力、五感の全てが今までとは比べものにならないくらい強化された。これでアンタも機械鎧兵士よ」

「私も・・・機械鎧兵士・・・」


 ジルニトラの話を聞きながら入院着を着直すラピュス。右腕が戻ったのでもう一人で着替えができる様になっている。すると病室の扉がノックされて外からヴリトラの声が聞こえて来た。


「お~い、終わったかぁ?」

「ええ、機械鎧も付け終ったわよ」

「そうか、じゃあ早速で悪いけどすぐに服に着替えてくれ。またタイカベル・リーベルトのビルに行くから」

「え?また?」

「ああ、さっき師匠から電話が入ってな。例のユートピアゲートの装置の事で重要な情報が見つかったらしい。急いで来てくれとさ」


 ヴリトラの話を聞き、ラピュス達はフッと反応する。ブラッド・レクイエム社が開発した地球とファムステミリアを繋ぐ唯一の装置、ユートピアゲートの重要な情報。ファムステミリアに戻る手掛かりが見つかったのだとラピュスは急いで外出用の服に着替え直し、病室を飛び出したのだった。

 遂にヴリトラとラピュスの失われた腕が戻った。機械鎧兵士として新しい自分を手に入れたラピュスはこれから多くの戦いに身を投じる事になる。だがその前にラピュスにはファムステミリアに戻らなくてはならないという大きな問題に立ち向かわなくてはならなかった。


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