第二十二話 戦略会議
商業の国、ストラスタ公国がレヴァート王国に宣戦布告をした。緊張状態が続いた中で突然のストラスタ公国からの襲撃を受けてレヴァート王国に衝撃が走る。既に国境周辺近くの町を制圧したストラスタ公国の勢いは収まる事無く、次々と近くの町へ戦力を差し向けていく。
しかしレヴァート王国もそれを黙って見過ごす訳がない。首都ティムタームを始め、国中の傭兵団やギルドに依頼をしてストラスタ公国を迎え撃つのだった。その中には勿論七竜将も含まれており、彼等も王国騎士団と共に戦争に参加する事となった。
「突然どうしたんだよ、ラピュス」
「これから詰所で戦略会議は開かれるんだ。お前にも参加してもらうぞ」
ラピュスに連れられて町を歩くヴリトラ。二人は騎士団の詰所に向かっていた。
今から数分前、突然ラピュスがズィーベン・ドラゴンにやって来て、詰所に来いと言ってヴリトラ一人を連れていった。詳しい話を聞かされていないヴリトラは訳も分からずにラピュスに連れられて今に至るという訳だ。
後頭部を掻きながら困り顔でラピュスの後をついて行くヴリトラ。なぜ一端の傭兵である自分が騎士団の戦略会議に参加しなくてはならないのだろう、とヴリトラは思っていた。そんな事を考えている内に二人は詰所の入り口前に辿り着く。外見は依頼所と同じようにレンガ作りの壁に複数の窓が付いてるシンプルな作りだった。
「ここが詰所だ」
「ふ~ん。そう言えば、依頼所には何度か行った事はあるけど詰所に来るのは今日が初めてだな・・・」
「ここは騎士団の騎士が任務を確認したり、拘束した者達を尋問、一時的に監禁しておく所なのだ。普通の人間は滅多に来ない」
「成る程、警察署の様な所か・・・」
「ケイサツショ?そう言えば前にそんな事を言ってたな」
「まぁね。・・・それより、入らないのか?」
「ん?ああ、そうだな。行こう」
ヴリトラに言われて詰所に入るラピュスとそれに続くヴリトラ。入口のドアを開くと、中は依頼所の様に受付や机があるだけの部屋だったが、依頼所と比べると倍の広さはある。そして何よりも、受付の向こう側から数人の声が聞こえてくる。荒々しい男の声とそれを制止しようとする男の声。恐らく、暴れているならず者を騎士が押さえようとしているのだろう。
部屋に入ったヴリトラはラピュスの後をついて行きながらその声を聞いている。奥へと進んで行くと二人の目に大きな二枚扉が入り、その両脇に騎士が二人見張るように立っていた。二人の騎士は扉の前にやって来たラピュスを見て軽く挨拶をすると、一人の騎士がドアノブを掴みゆっくりとドアを開いた。
「どうぞ、皆さん集まっています」
「すまない」
ドアを開けた騎士に一言言って入室するラピュスとそれに続くヴリトラ。中に入ると、そこには大勢の人が長方形の大きなテーブルを囲むように座っていた。その殆どが騎士で老若男女色々な者がおり、その中には軽装で身だしなみの整っていないガラの悪い男やキリッとした姿の若い男、露出度の高い服を着た美女などの姿もいくつかあった。
その光景を見たヴリトラは少し驚いたのか、小さく頷きながら部屋を見つめている。隣に立っていたラピュスは部屋の奥へと歩いて行き、ヴリトラもそれに続く。部屋の奥には騎士団長のガバディアの姿もあり、ヴリトラとラピュスの姿を見つけると笑って手を上げ、無言のまま挨拶をする。それを見たヴリトラも笑って挨拶を返し、ラピュスも頭を軽く下げて挨拶をする。簡単な挨拶を済ませて二人は奥にある空いている席に向かって行く。
「随分遅いと思っていたら、彼を呼びに行ってましたのね?」
突然座っている一人の女騎士が後ろを通ったヴリトラとラピュスに声を掛ける。足を止めてその女騎士の方を向くと、そこには見覚えのある顔があった。
「ラピュスさん、貴方も一隊長ならしっかりと時間を守ってもらいたいものですわ」
「・・・クリスティア殿」
そう、そこに座っていたのは以前にヴリトラと決闘をして彼に敗北した第八遊撃隊の隊長を務める姫騎士、クリスティア・ママレートだったのだ。彼女も今回の戦略会議に出席しており、こうして席について会議が始まるのを待っていたのだ。
以前の事もあり、何やら機嫌の悪そうな声を出すクリスティア。ラピュスはそんなクリスティアはジッと見つめた。ヴリトラは頬を指で掻きながら若干気まずそうな顔を見せる。また前の様な事が起きるんじゃないかと思っていたのだろう。だが次の瞬間、クリスティアの口から意外な言葉が出た。
「・・・まぁ、貴方にも何かお考えがあるのでしょう。その事で文句をつける気はありませんわ」
「クリスティア殿・・・?」
クリスティアの言葉にラピュスは目を丸くして驚き、ヴリトラも意外そうな顔を見せた。以前のクリスティアだったら、「騎士としてみっともない」「傭兵と同行する騎士なんて見た事がない」などと言った言葉でラピュスを挑発するのだが、今回は挑発する事も無く自分から引き下がって行ったのだ。
「どういう風の吹き回しだ?お前が挑発することなく話しを終わらせるなんて」
「・・・悪いですか?」
「いいや、別に悪くないぜ?」
頬を少し赤くしてムッとヴリトラを見上げるクリスティアにヴリトラはニヤニヤしながら否定する。するとクリスティアは腕を組んて少し顎を引いて口を開く。
「わたくしはあの時の貴方との決闘で自分の無力さを自覚させられました。お父様のお力と自分の立場を使って只々平民の皆さんを見下していただけのじゃじゃ馬だという事を・・・。決闘での敗北と悔しさを胸に刻み、わたくしは騎士として一からやり直す事を決意したのです。誰もが認める騎士となり、そして・・・今度こそ貴方に勝つために!」
クリスティアの言葉を聞いてヴリトラと隣にいたラピュスは驚いた。自分の生き方を変えて一からやり直し、ヴリトラへのリベンジを誓うクリスティア。今の彼女には以前の人を見下すお嬢様としての姿は殆ど見られなかった。しかし、それでもまだ他人を挑発する癖は抜けていないようだ。
ヴリトラはそんなクリスティアを見てまたニヤニヤと笑いだす。そしてクリスティアの額に人差し指を当てて軽く押した。
「俺にリベンジする気か?いいぜ、その時が来たらまた相手してやるよ。それまでにもっともっと強くなっておきなよ?」
「うっ!い、言われるまでもありませんわ!」
額に手を当てて顔を赤くするクリスティア。そんなクリスティアを見てヴリトラは笑い続ける。周りの騎士達はとてもこれから戦略会議をする者達の態度とは思えないのか呆然としていた。その中でラピュスは呆れる様な顔をしており、ガバディアは笑って二人を見ている。
「二人とも、個人的な話はそれ位にして、席についてくれないか?そろそろ戦略会議を始めたいのだが」
「あっ!し、失礼しました・・・」
「すいません、ガバディア団長」
状況を思い出して慌てるクリスティアは苦笑いをして謝るヴリトラ。ラピュスはヴリトラの服を引っ張り顔を隠すように俯いて歩いて行く。
「おい、どうしたんだよ?ラピュス」
「・・・もう少しらしくしろ。これから重要な会議が始まるのに、そんなヘラヘラとした顔をするな。私まで恥ずかしいだろう」
「ハハハ、ワリィワリィ・・・」
周りに聞こえない様に小声で話すヴリトラとラピュス。二人は空いている席についてガバディアの方を向く。二人が席に着いたのを見てガバディアは全員揃った事を確認しゆっくりと立ち上がる。するとさっきまでの笑っていた顔とは違い真剣な顔で座っている全員を見た。
「これより、ストラスタ公国軍の対策及び戦況確認会議を始める。まず最初に現在の状況を簡単に説明する」
ガバディアは自分の後ろに掛けられている大きな地図を見て現状確認を始める。地図にはレヴァート王国とストラスタ公国の領土を中心に描かれた地図が掛けれており、その地図には細かい字と町の絵が描かれてあった。ヴリトラ達も一斉に地図の方を見てガバディアの話に耳を傾ける。
「敵は既に国境近くの町、ヌルべスを拠点として周囲にある町を次々に制圧していった。現在、制圧された町は四つ、ヌルべスと同じ国境近くの町が制圧されている。恐らく敵は奇襲を防ぐ為に自分達の領土を背にして制圧地区を広げているのだろう。実に用心深い奴等だ」
ガバディアの話しを聞いて騎士達はざわめき始める。相手は奇襲対策をしながら戦力を保ちつつ攻めている、そして更にストラスタ公国は少しでも自分達に不利な状況だと判断した場合は決して攻め込まず、増援が到着してから制圧を開始している。用心深い、だが逆に言うと彼等は勝てる勝負しかしない臆病者であった。
ざわめく騎士達を見るガバディアは騎士達の声が静かになると声に少し力を入れて話しを続ける。
「だが!奴等の行動は読みやすい。奴等は用心深い、こちらの戦力が分からない以上、むやみに攻めてくることはないだろう。その間にこちらも戦力を増強し、次に奴等が攻める町や砦を予測して兵を送るのだ」
「団長」
ガバディアが説明をしていると、座っていた一人の騎士が立ち上がる。その騎士は茜色の短髪に青銅色の鎧を纏い青いマントを羽織った二十代後半くらいの男だった。
「何だ?ザーバット」
「はい、現在我が隊が駐留している『エリオミス』の町なのですが、前回の防衛戦で隊の騎士八名が負傷、三名が死亡しました。物資の補給と増援の要請をさせていただきたいのです・・・」
「エリオミスか、あそこは補給基地がある『サリアンの森』の手前の町だったな。あそこが突破されると補給路を断たれてしまう・・・・・・分かった。直ぐに手配をしよう」
「ありがとうございます」
ザーバットと呼ばれた騎士は補給の許可を出されたことガバディアに礼を言い敬礼をする。そして自分の席に着き再びガバディアの方を向いた。
ガバディアのザーバットの話しを見ていたヴリトラは隣に座っているラピュスに小声で話しかける。
「ラピュス、あの騎士は?」
「あの方はキースリンク・ザーバット殿、青銅戦士隊の中隊長を務めていらっしゃる方だ。十字槍の名手で騎士団の武術大会で優勝した事もある実力者だ」
「青銅戦士隊って、お前のお父さんが務めていたっていう?」
「ああ」
ラピュスの話しを聞いて意外そうな顔を見せるヴリトラ。その後も他の騎士達が補給や増援を要請し、ギルドから戦略会議に参加した実力者達が報酬の確認などの話しを持ちかけてきた。
それからと言うもの、戦略会議は要請や報酬関係の事で話しがなかなか進まずに行き詰っていた。ガバディアは騎士達からの提案なども無く、黙り込む一同を見て困り果てている。そんな時、ラピュスから手元にある書類の内容を教えられているヴリトラを見てガバディアは何かを閃いた様な顔を見せる。そして再び騎士達からの提案を訊き始めた。
「では、あれから少し時間が経ったわけだが、今一度皆からの提案を聞きたい。改善する点や攻め方の意見がある者はどんな事でもいい、発言してくれ。・・・何か案はないか、ヴリトラ?」
「・・・・・・ほぇ?」
突然話を持ちかけられて間抜けな声を出すヴリトラ。隣のラピュスも意外そうな顔を見せており、周りの騎士達は驚く者、小声で何かを話す者など色々な者がいた。本来この戦略会議は騎士団の者か各ギルドの実力者ではなれば参加できないものだ。だがその中に騎士団でもギルドの者でもない青年が座っているのだ、よく思わない者がいても不思議じゃない。
その中でガバディアに指名されたヴリトラは周りをキョロキョロ見ている。自分を色々な視線で見てくる騎士達にヴリトラは少し引いていた。
「え?いや、案はないかと言われても・・・」
「君のそれなりに多くの戦場を見て来たのだろう?君の持つ知識や考えた作戦を是非聞かせてほしい」
期待するようにヴリトラの背中を押すガバディア。そんなガバディアに対し困り顔を見せるヴリトラ。そこへラピュスが肘でヴリトラを軽く突いて小さく声を掛ける。
「何を動揺している?いつもの勢いはどうした?」
「ラピュスまで何だよ、突然吹っかけられたらそりゃ動揺もするだろう?」
「いつものお前の様にハッキリと言えばいいんだ。早くしろ、皆待ってるのだぞ?」
「・・・ハァ、母親みたいな事言わないでくれよ」
小言の様に言ってくるラピュスにヴリトラはますます困り顔になって行く。そんな二人を見てガバディアは期待しているかのように二人を見つめ、離れた席ではクリスティアは小さく溜め息をついている。
ヴリトラとラピュスが話しを小声で話をしていると、突然二人の向かいの席に座っている一人の若い騎士が立ち上がる。白銀の鎧を纏い白いマントを羽織っており、髪は金髪で前が後ろに向かって曲がる様なクセ毛になっている眼鏡を掛けた二十代半ば程の男。騎士にしては体が細く、あまり前線にが出ない指揮官タイプだ。恐らく何処かの貴族だろう。
「お待ちください、団長!何故このような者の意見を聞かれるのですか?見たところギルドの人間ではなさそうですし・・・まさか傭兵ですか?」
「その通りだ、チャリバンス」
ガバディアからチャリバンスと呼ばれた騎士は耳を疑い驚いた。周りの者達も驚いてざわめきだす。チャリバンスは戦略会議に傭兵が参加している事に納得が行かず、少し声に力を入れてガバディアに問う。
「なっ!どうして傭兵がこの会議に参加しているのです!?この戦略会議は本来傭兵は参加できないものの筈です!」
「確かにな。だが彼はそれなりに実力を持っている、それにどうしても戦略会議に参加させてほしいという意見出す者もいたのでな」
説明しながらガバディアは座っているラピュスの方を見る。ラピュスの隣はヴリトラがチャリバンスを見てまたラピュスに騎士の事を尋ねた。
「ラピュス、アイツは誰?」
「彼はファルネスト・チャリバンス殿だ。ガバディア団長と同じ白銀剣士隊の小隊長を務めており、クリスティアと同じ名門貴族の出身だ。精鋭である白銀剣士隊の一員で剣の腕も一流だが、頭の硬いところがあってな」
「ああ、そりゃ見りゃ分かるよ・・・」
チャリバンスに聞こえない様に小声で話しをする二人。そんな二人に気付いていないのかチャリバンスは納得が出来ずにガバディアに抗議し続ける。
「それだけでは納得できません。そもそも私は傭兵を信用できないのです、金や報酬を出さなければ動かない様な下賤な奴等となぜ共に戦わないといけないのですか!」
「まったくその通りね」
チャリバンスの隣の席で一人の女騎士がめんどくさそうな声を出して同意する。チャリバンスと同じように白銀の鎧を着て白いマントを羽織っており、水色の長髪と小柄な体系だがリンドブルムやラランよりは高く、子供の様な高い声。そして前のテーブルの上には鼓笛隊が被る様な筒状の帽子が置かれてある。
「傭兵なんて所詮はお金次第でご主人様を選ぶ連中でしょう?いくら実力があるからっておいそれと信用なんて出来ませんよ」
「・・・ジージル、お前もか」
ジージルと呼ぶ女騎士を見てガバディアは呆れる様な、そして困る様な顔を見せる。
チャリバンスに続いて傭兵を小馬鹿にする女騎士をヴリトラはジーっとジト目て見つめる。そんなヴリトラを見てラピュスはチャリバンスの隣にいる女騎士の事を説明し始めた。
「彼女はティンクル・ジージル殿。チャリバンス殿と同じ白銀剣士隊の小隊長であるのと同時に王国鼓笛隊の指揮者を務めている姫騎士だ。弓の名手で100m先のいる敵をも一発で撃ち抜く程の腕と視力を持っている」
「へぇ~、アイツも姫騎士なんだ。にしても随分と小柄だな?リブルやラランと同じ位の歳じゃねぇの?」
「見た目は確かに子供だが、あれでも私と同じ二十歳なのだ」
「うっそぉ~~?」
小柄でありながら立派な成人である事と聞かされて小声で驚くヴリトラ。ラピュスもヴリトラの反応に苦笑いを見せる。
傭兵であるヴリトラの参加が気に入らないチャリバンスとジージルを見て、ガバディアは一度溜め息をつくとラピュスと話しをしているヴリトラをチラッと見た後にゆっくりと話しをし始める。
「・・・皆は一週間ほど前にファンダリームの廃鉱を隠れ家にしていたと言われた盗賊団、クレイジーファングが壊滅したと言う話は聞いているな?」
「は、はい。聞いています」
ガバディアの話しを聞いていたザーバッドは頷き、立っていたチャリバンスもガバディアの話しを聞き席に座る。ガバディアは真剣な顔周りを見ながら話しを続けた。
「彼等を壊滅させたのがそこにいるラピュス・フォーネ率いる第三遊撃隊と僅か七人の傭兵だった」
ラピュスの名を口にし、騎士達は一斉にラピュスの方を向く。突然周りの視線が自分に集中した事に気付いて驚くラピュスはチラチラと周りを見舞わす。ヴリトラはそんなラピュスの反応を見てニッと笑う。
「そして共に行動をした七人の傭兵の一人がそこに座っているヴリトラなのだ」
ラピュスに続いてヴリトラの名前を口にするガバディア。それを聞いた騎士達は一斉に驚いてラピュスとその隣に座っているヴリトラにも視線を向けた。
さっきまで笑っていたヴリトラはまた自分の視線を向けられたことに一瞬驚くが直ぐに苦笑いを見せて頭を掻く。この戦略会議に参加している者達の殆どがクレイジーファングの壊滅を聞かされた時に驚いた者達だった。王国の主力である青銅戦士隊や白銀剣士隊ではなく、町の自警や援護などで動く遊撃隊と傭兵隊が大規模な盗賊団を壊滅させたと町中に渡ったのだから、驚くのも当然だ。
「彼等は僅かな人数で推定五十人はいたクレイジーファングを壊滅させた、それ程の実力者なら参加する資格は十分あるだろう」
「し、しかし、だからと言って・・・」
まだ納得のできないチャリバンスは座ったままガバディアに意見しようとする。そこへガバディアがチャリバンスを見て鋭い視線を向けて言った。
「断言しよう、あの複雑な岩山でアジトの場所や人数を分からない状態では青銅戦士隊や白銀剣士隊が向かっても倒す事は出来なかっただろう。少人数で詳しい情報を持ち、騎士団一個中隊並みの戦力を持つ者達でないと無理だ」
主力騎士隊である青銅戦士隊や精鋭の白銀剣士隊でもクレイジーファングを討伐する事は出来なかった、その事がを聞いたチャリバンスや他の者達は驚き黙り込む。周りが急に静かになった事でヴリトラとラピュスは周りを見ながらボーっとしている。意見しようとしていたチャリバンスも黙り込むクトを閉じた。
周りが黙り込んでこれ以上意見を出す者はないないと悟ったガバディアは改めてヴリトラの方を向いて意見を訊いた。
「ヴリトラ、もう一度訊こう。君ならどんな風に戦略を立てるかね?」
自分を見て笑いながら尋ねてくるガバディアに最初は困り顔で頭を掻くヴリトラだったが、しばらくすると立ち上がり地図を見ながら考え始める。立ち上がるヴリトラはラピュスは座ったまま見上げて、周りの騎士達も黙ってヴリトラを見ている。
しばらくすると、地図を見ていたヴリトラは何かに気付いてハッとする。そして地図に近づいて行き一点を指で指した。
「ガバディア団長、此処は何ですか?このサリアンの森とエリオミスの町の真ん中辺りにある此処は・・・」
ヴリトラはザーバットとの話で出たサリアンの森とエリオミスの町から少し離れた所にある小さな町を指差した。その町はサリアンの森とエリオミスの町の三ヵ所を結ぶと丁度三角形になる位置にあった。
地図を見てガバディアは浴びに手をつける。描かれてある町を見てガバディアは数回頷いてヴリトラに説明した。
「そこは『トコトムト』と呼ばれていた小さな村だ」
「呼ばれていた?」
「その村は三ヶ月ほど前に盗賊団の襲撃を受けて村人全員が殺されてしまい今では無人の村となっているんだ」
「・・・襲ったのはクレイジーファングですか?」
「いや、別の盗賊団だ。まぁ、その盗賊団はトコトムトと襲った数日後に青銅戦士隊によって討伐されたがな」
「そうですか・・・」
「・・・それで、その村がどうかしたのか?」
いまいちヴリトラの考えが分からないガバディアは小首を傾げる。周りの者達も理解出来ずにただヴリトラをジッと見つめている。
ヴリトラは腕を組み、トコトムト村からサリアンの森とエリオミスの町のある方向とは逆方向を見る。そこから更に離れた所にはまた一つの町があった。ヴリトラは次にその町を指差してガバディアに尋ねる。
「団長、この町は今どうなってるんですか?」
「・・・その町は既にストラスタ軍によって制圧されている」
町が既に制圧されている事を聞かされたヴリトラはトコトムト村と制圧された町の見た後に自分の考えた案を口にした。
「これは俺の考えですが、この町を制圧した敵軍はこのトコトムト村に向かう可能性がありますね」
「何?誰も住んでおらん無人の村にか?なぜだ?」
「この村はサリアンの森とエリオミスの町の近くにあります。もし敵軍がこの村に来てから待機して戦力を補充したら次はどんな行動に出ると思いますか?」
「・・・・・・」
ヴリトラの出した問題を考え込むガバディア。しばらくするとヴリトラは真剣な顔で自分の答えを言った。
「戦力を二つに分けて二つの拠点を同時に襲撃する可能性があります」
「!」
ヴリトラの出した答えに反応し驚くガバディア。話しを聞いていた者達も驚いてヴリトラの方を見る。ヴリトラは驚く一同を気にする事無く話しを続けた。
「そしてエリオミスの町の戦力は現在迎え撃っている敵軍と挟み撃ちに合い逃げ場を無くす。サリアンの森も防衛線を突破されて壊走、一気に補給路と拠点の二つを失う事になります」
「た、確かにトコトムトとこの二つの拠点の間には周りを岩壁の挟まれた目立たない細道がある。そこを通れば気付かれる事無く近づく事が可能だ。君は知っていたのか?此処に細道があるという事を?」
「いいえ、もしかしたらと思って聞いてみただけです」
ヴリトラの言葉を聞いて一同が目を見張って驚く。地域の事も何も知らない傭兵が拠点と敵軍の位置だけでここまでこの事を計算して敵の行動パターンの一つを見つけたのだから。
「団長、この村に騎士団を配備した方がいいのではのではないでしょうか?」
「うむ。だがトコトムトはとても小さな村でな、敵軍を迎え撃つための戦力を待機させては遠くから敵に見つかって取り囲まれる可能性もある・・・」
「因みに敵軍の予想戦力は?」
「もし君の考え通りに敵が動くとすれば、まず偵察の為の先遣隊として五十から百といったところだろう」
「・・・意外と少ないですね」
その言葉にガバディアは意外そうな顔を見せ、ヴリトラの五十以上の敵が少ないと言う言葉に周りの者達は驚きや戦争をナメていると思って苛立ちを見せる者達もいた。だがラピュスはそんなヴリトラの言葉を頼もしく思って見ていた。
そんなラピュスに気付いたガバディアはヴリトラの正体と力を思い出して小さく笑って見せた。
「・・・そこまで言うなら、君達にやってもらおうか?」
ガバディアの言葉を聞いた騎士達は更なる衝撃を受けて驚いた。ガバディアの言葉は遠回しにヴリトラにこの先遣隊の迎撃を任せると言う意味だからだ。ガバディアの顔を見てヴリトラは頷く。
「任せてください・・・あっ、一つだけ頼みがあるんです」
「ん?何だね?」
頼み事をしてきたヴリトラに聞き返すガバディア。そしてヴリトラはラピュスの方を向いて彼女を指差した。
「ラピュス達第三遊撃隊を同行させてもらいたいんです」
「・・・・・はぁあ~~!?」
しばらくの沈黙の後にラピュスは立ち上がって声を上げる。周りの騎士達も突然声を上げたラピュスとヴリトラに言葉に連続で驚いた。
レヴァート王国とストラスタ公国の戦争が始まり、拠点防衛の為に最前線へ向かう事となった七竜将。そしてヴリトラはなぜかラピュス達第三遊撃隊を同行させてほしいと進言する。一体ヴリトラは何を考えているのか、その事にラピュスは頭を悩ませるのだった。




