表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十三章~姫騎士は異世界を歩む~
227/333

第二百二十六話  新たな決意とラピュスの試練

 ブラッド・レクイエム社の基地の爆発に巻き込まれて死んだかと思われていたヴリトラ達はなぜか元の世界に戻っていた。驚きながらも彼等はラピュスの傷を治療する為に近くの病院へ向かい、そこで嘗てヴリトラを助けた女医、清美と再会する。ヴリトラは彼女にラピュスの治療を任せ、清美はラピュスの緊急手術を始めた。

 ラピュスを清美に任せた後、ヴリトラ達は自分達の怪我の治療を終えて病院の食堂で一休みしていた。広い食堂の照明を一ヵ所だけ付けた状態でヴリトラ達は食堂の席に付きながら紙コップに入っているホッとコーヒーやホットココアを飲んでいる。時間はすでに午前三時を回ってした。


「・・・大丈夫かな、ラピュス?手術が始まってもう四時間になるよ?」


 紙コップの中に入っているホットココアを見つめながらリンドブルムが不安そうに呟く。ラランも心配なのかホットコーヒーの入った紙コップを両手で落ちながら黙り込んでいた。周りではヴリトラ達がコーヒーを飲みながら静かにしている姿がある。


「心配ねぇよ。先生はほぼ同じ状態だった俺を助けた事がある人だ。きっとラピュスも助かるさ」

「それに、ジルもついてるしね」


 ヴリトラの隣でホットココアを飲んで微笑むファフニール。ジャバウォック達も清美を信じているのか落ち着いた態度を見えていた。そんな皆の姿を見てリンドブルムも小さく笑いながら頷いた。

 

「・・・さて、これからどうするんだ?ヴリトラ」


 ジャバウォックが紙コップの中のホットコーヒーを飲む干してヴリトラに今後の事を訊ねるとヴリトラはコーヒーを見つめながら真剣な表情を見せる。


「・・・まずは状況を整理しよう。俺達はブラッド・レクイエムの基地で窮地に追い込まれていた。だけど、突然ユートピアゲートの装置が暴走して大爆発が起こり、気が付いたら俺達は元の世界の東京に来ていた。ここまではいいな?」

「うん。その爆発で装置が誤作動を起こしてユートピアゲートが開いて僕達はそれに飲み込まれてしまったってニーズヘッグが・・・」

「だがそれはさっきも言った通り俺の感だ、本当にそうなのかは分からない」


 トラックに乗っていた時にニーズヘッグが話した内容の思い出しながらヴリトラ達は少しずつ自分達の状況を理解していく。自分達がファムステミリアから地球に戻り、これから何をやるべきなのかを全員で考える。


「先生の話からファムステミリアとこっちの世界は同じ感覚で時間が流れているみたいだ。俺達がファムステミリアで生活していた期間は約半年、先生も俺達が半年近く行方不明になっていたって言ってたからな」

「と言う事は、私達がこうして話をしている間もアリサさん達はファムステミリアで同じように生きているって事?」

「そう言う事だ。俺達がこっちの一年過ごしている内に向こうは十年経っているって心配はなさそうだな・・・」


 苦笑いをしながらヴリトラは時間の経過に大差がない事に安心する。リンドブルム達も同じ様な顔をしている。なぜなら、彼等は再びファムステミリアに戻るつもりでいるからだ。


「ブラッド・レクイエムの連中は俺達があの爆発に巻き込まれて死んだと思っているに違いない。きっと奴等は今まで以上に大胆に活動するはずだ」

「ああ、もともと奴等が俺達をファムステミリアに連れて来たのは自分達にとって目障りな俺達を自分達にとって有利な場所ファムステミリアで始末する為だったんだ。俺達がいなくなった事で奴等から不安が取り除かれた、間違いなくアイツ等は自分達の目的を達成させる為に動くに違いない」

「ブラッド・レクイエムの目的、ファムステミリアに新たな秩序をもたらす事・・・」


 腕を組みながらオロチはブラッド・レクイエム社の目的を静かに口にする。未だにヴリトラ達はその意味が分かっていない。ブラッド・レクイエム社は何の為にファムステミリアへ行ったのか、彼等の口にする秩序とは何なのか、ヴリトラ達を多くの疑問が包み込む。

 そんな難しい話をしていると、食堂の扉が開いて一人の看護婦が入って来た。


「皆さん、こちらにいらっしゃいましたか。手術が終りました」

「「「「「「「!」」」」」」」


 ラピュスの手術が終わった事を聞かされてヴリトラ達は一斉に席を立ち、ラランもフッと顔を上げて看護婦の方を向く。


「ラピュスはどうなんです?」

「何とか一命は取り留めたようです。詳しい事は本条先生からお聞きください」


 ヴリトラ達はラピュスが助かった事を知り笑みを浮かべる。そして飲みかけの紙コップをそのままにして食堂を後にし、ラピュスの下へ急いだ。

 廊下を早足で歩き手術室へ向かっていると、廊下の奥から手術衣姿の清美とジルニトラの歩いて来る姿が見えた。ヴリトラ達は詳しい話を聞く為に二人の下へ急ぎ向かう。


「先生、ジル!」

「ラピュスはもう大丈夫よ」

「そうか・・・」

「・・・よかった」


 ジルニトラからラピュスはもう安心だと聞かされてホッとするヴリトラとララン。リンドブルム達もホッと一安心する。ヴリトラ達を見て清美とジルニトラも小さく笑っていたが、すぐに真面目な顔になってヴリトラ達の方を見た。


「・・・確かに『命』は大丈夫だけど、それ以外は大丈夫とは言えないわ」

「え?」

「どういう事?」


 ヴリトラとリンドブルムがジルニトラの方を向いて訊ねる。ジルニトラは何か言い辛そうな顔をしており、そんな彼女の顔を見たヴリトラ達は「手術で何か遭った」と直感した。すると、話し辛そうなジルニトラを見て清美が代わりにヴリトラ達に説明する。


「あのラピュスと言う子の右肩の傷はかなり酷かったわ。肩の関節が粉々になっていて周囲の神経もズタズタだったの。ヴリトラ、以前の貴方と同じように修復不可能なくらいにね・・・」

「俺と同じくらいって・・・まさか・・・」


 清美の話を聞いたヴリトラ、いや、ララン以外の人間全員はその意味を理解して顔に緊張を走らせる。そして清美はゆっくりと頷き重い口を開けた。


「・・・右腕を切断したわ」

「!!」

「そのままにしておくと命が危ないからね・・・」


 ヴリトラは清美の口から出た鋭い言葉に目を見張る。勿論ララン達も同じだった。清美とジルニトラは後ろを向いてストレッチャーの上で眠っているラピュスを見た。ポニーテールを解いた髪に左腕に刺された点滴。そして、肩の部分から無くなっている右腕。その痛々しい姿にヴリトラ達は表情を曇らせた。


「・・・そう言う理由なら仕方がないですね」

「・・・隊長」


 右腕を無くしたラピュスを見たラランはゆっくりと近づいて麻酔で意識を無くしているラピュスの横顔を見ながら涙を流す。そんなラランの肩にリンドブルムはそっと手を置く。清美はラピュスの隣まで来るとそっと彼女の額に手を付ける。

 

「命は助かってもかなり衰弱していたからしばらくはICUで完全看護が必要ね。意識もしばらくは戻らないと思うわ」

「そうですか・・・」

「それじゃあ、彼女をICUへ」

「ハイ」


 指示を受けた看護師達はストレッチャーを押してICUへ向かい、ラランは悲しそうな顔でラピュスを乗せたストレッチャーをジッと見つめる。そんなラランを見たリンドブルムは彼女の隣まで来ると微笑んでラランの方を見た。


「ララン、大丈夫。ラピュスはきっとすぐに目を覚ますさ」

「・・・本当?」

「うん」


 微笑んだまま頷くリンドブルムを見た後にラランは再び離れていくストレッチャーを見つめた。二人の後ろでもヴリトラ達も黙ってラピュスを見守っている。


「でも、自分の右腕が無くなったって知ったら・・・ラピュス、ショックを受けるでしょうね」

「そりゃそうだろう。姫騎士として片腕、しかも利き腕を無くしたんだ。ショックを受けるのは当然だ。しかも利き腕を無くした事で今後の生活も不便になっちまう」

「立ち直れるだろうか・・・」

「あの子なら大丈夫よ。きっと乗り越えられる」


 ジルニトラ、ジャバウォック、オロチがそれぞれラピュスが右腕を失ったショックに耐えられるのか心配し、ヴリトラも心の中で彼女が無事に立ち直ってくれる事を願っていた。

 七竜将がジッとラピュスを見ていると、さっきから黙っていた清美がヴリトラ達に話し掛けて見た。


「さて、あの子の事はこれで一安心だし・・・早速、話してもらうおかしら?」

「え?」

「この半年間、貴方達は何処で何をしていたのか、そして何で連絡を入れなかったのか」


 少し力の入った声でヴリトラを問い詰める清美。その迫力にヴリトラは思わず苦笑いをしながら一歩下がった。


「わ、分かりました。話しますから少し落ち着いてください」

「・・・一体何なの?あのラピュスやそこにいるラランって子は鎧やマントを身に付けてるし、おまけにその子の持っている槍、ファンタジーキャラのコスプレ?」

「・・・コスプレ?」


 ラランの持っている突撃槍を見ながらヴリトラに問いかける清美。ラランも清美の話を聞き、コスプレという意味が理解できずに小首を傾げる。ヴリトラは清美の質問に首を横へ振った。


「違います違います!あれは本物の鎧と槍です」

「本物?」

「ハイ・・・まず最初に言っておきますけど、ラピュスとそこにいるラランはこの世界の人間じゃありません」

「・・・・・は?」

「実は・・・」


 理解できない顔をする清美にヴリトラは自分達に今まで何処で何をしていたのか、何があったのかを場所を食堂に変えて詳しく清美に説明する。最初は話の内容が信じられなかった清美は疑わしい目で七竜将を見ていたが、ラランの姿とラピュスの傷を見て少しずつ信じる様になっていった。異世界ファムステミリア、姿を消したブラッド・レクイエム社、そしてユートピアゲート、驚きの内容に清美は次第に興味が湧いていき、ヴリトラにもっと詳しく話すよう言うようになっていく。

 それから三十分が経ち、食堂の席に腰を下ろしたヴリトラ達は自分達の知っている事を全て清美に話した。清美も全ての話を聞き終えて驚きと意外さを感じながらヴリトラ達の顔を見ている。


「異世界ファムステミリア・・・まるでファンタジーアニメみたいね」

「俺達も最初は信じられませんでしたがあそこまで見せられちゃ信じるしかありませんからね」

「・・・それでブラッド・レクイエム社は一年前にユートピアゲートという装置を使いそのファムステミリアへ移住したって事?」

「正確には一年と半年前ですが・・・そう言う事になります」

「ふむ・・・それで、ブラッド・レクイエム社は向こうの世界で何をするつもりなの?」

「それは俺達にも分かりません。ただ、ジークフリートは以前こう言っていました・・・『この世界に新たな秩序をもたらす』と・・・」

「ジークフリート、ブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士部隊の最高司令官だったわね」


 ジークフリートの事を聞かされた清美は知る限りの知識を使いブラッド・レクイエム社の事を考える。そんな彼女を見ていたヴリトラ達はなぜ医者の清美がブラッド・レクイエム社の事に詳しいのか不思議に思う。だが、今はそんな事はどうでもよかった。これから自分達が何をするのかを考えるのかが最優先である。


「・・・貴方達に何があったのかは大体理解したわ。それで、貴方達はこれからどうしたいの?」

「どうしたいとは?」

「目的だった元の世界、つまりこっちの世界に戻って来る事はできたわ。それからどうするの?以前の様にこっちの世界で傭兵としてまた生きて行くの?」


 清美は意味深な質問をヴリトラ達にした。そう、七竜将の目的は元の世界に戻る手掛かりを手に入れて戻る事。だが、その目的はユートピアゲートの誤作動で達せられた。つまり、七竜将がファムステミリアに戻る意味が無くなったという事だ。

 七竜将全員は静かになって考え込み、ラランは不安そうな顔でヴリトラ達を見つめていた。そしてヴリトラはフッと顔を上げて口を動かす。


「・・・いいえ、俺達はもう一度ファムステミリアに戻ろうと思っています」

「え?」

「!」


 ヴリトラの口から出た言葉に清美は意外そうな顔を浮かべ、ラランは笑みを浮かべている。他の七竜将のメンバーも同じ考えなのか何も言わずに清美の方を見ていた。

 ファムステミリアに来たばかりの時はブラッド・レクイエム社の存在を知らなかった為、元の世界に戻る術を見つけたらさっさと帰るつもりだった。しかし、ブラッド・レクイエム社の存在を知り、彼等がファムステミリアで好き勝手暴れていると分かれば話は別だった。何より、ブラッド・レクイエム社は七竜将を始末する為に彼等はファムステミリアへ送り込んだのだ。このまま引き下がる様なヴリトラ達ではない。


「アイツ等は俺達を殺す為にユートピアゲートを使って俺達をファムステミリアに連れ込みました。その落とし前はきっちつけてもらわないといけませんからね」

「それにこのままアイツ等を放っておいたら向こうの世界で何をするか分からない。野放しにしておくのは危険すぎる」

「あたし達も向こうの世界の人達には色々お世話になりました。ですからその人達をブラッド・レクイエムからまもる為にも戻るつもりです!」

「これ以上好き勝手させない為にも私達は何がなんでも戻る・・・」


 リンドブルム、ニーズヘッグ、ジルニトラ、オロチがそれぞれの思いを口にし、自分達の意志を清美に伝える。それを聞いた清美は「やっぱり」と言いたそうに目を閉じて微笑んだ。


「貴方達ならそう言うと思っていたわ・・・でも、どうやって向こうの世界へ戻るつもりなの?最初、貴方達はブラッド・レクイエム社の開発したユートピアゲートで向こうの世界へ連れて行かれたんでしょう?」

「それについては大丈夫だ」

 

 そう言ってニーズヘッグはバックパックに手を入れて一つのフラッシュメモリーを取り出してテーブルの上に置いた。


「フラッシュメモリー?」

「ああ、この中にはブラッド・レクイエムの基地で見つけたユートピアゲートを開く為の装置の設計図と情報が保存されている」

「あの時通信で話してたやつだね?」

「そうだ、これを分析すれば俺達もユートピアゲートを開く事ができる!」


 今度は自分達の手でファムステミリアへ行ける、その事をニーズヘッグから聞いたヴリトラとリンドブルムは「おお~!」という様な顔を浮かべた。だが、そこへある事に気付いたジャバウォックが会話に入って来る。


「設計図や情報があるのはいいわよ、資金や材料はどうするんだ?」

「・・・資金と材料?」


 ジャバウォックの方を向くヴリトラがまばたきをしながら訊き返す。リンドブルム達も一斉にジャバウォックの方を向いた。ジャバウォックはヴリトラの方を向いて頷く。


「そうだ。例え設計図が手に入ってもソイツを造る為に必要な資金や材料は無いぞ?あと装置を設置する為の場所もな」

「うっ、確かに・・・」

「まずはどれだけの資金が必要なのかを計算しないといけねぇ。詳しい事はそれからにしようぜ?ラピュスの事もあるしな・・・」

「・・・そう、だな。まずはラピュスが回復してからにしよう」


 ヴリトラはジャバウォックの言った事に納得しテーブルに頬杖をつきながら溜め息をつく。リンドブルム達もジャバウォックの言う事を正論と思い納得の顔を浮かべる。

 さっきまで熱くなっていたヴリトラ達がいきなり冷めた光景を見て清美は「やれやれ」という様に苦笑いを浮かべる。すると清美はゆっくりと立ち上がり手をパンパンと叩く。


「さぁ、色々あって疲れたでしょう?今日はもうこれでお終いにしましょう。近くのホテルに連絡を入れておいたから貴方達はそこで休みなさい」

「えっ?ホテル?・・・俺達は別にどこでもいいんですけど・・・この病院の部屋とか・・・」

「それじゃあ患者さんが来た時に邪魔になるでしょう?大した怪我でもないんだから、病室じゃなくてホテルに行きなさい」

「ハァ~イ」


 笑いながら清美にホテルへ行けと言われたヴリトラは苦笑いをしながら返事をし、七竜将とラランは清美が用意してくれたホテルへ向かう。その晩はラピュスの事を清美達に任せてヴリトラ達は病院の近くにあるホテルで体を休めたのだった。


――――――


「ん、んん・・・」


 病院の病室にあるベットの上でラピュスは目を覚ましゆっくりと目を開く。目の前には白い天井があり、右隣りには窓があって太陽の日が差し込んでおり、左腕には点滴の針が刺されてあった。


「こ、此処は・・・何処だ・・・?」

「ラピュス!」


 目を覚ましたラピュスの下にヴリトラが駆け寄りベッドの左隣からラピュスの顔を覗き込んだ。ラピュスもヴリトラに気付いてゆっくりとヴリトラの方を見る。


「大丈夫か?」

「ヴリトラ・・・」

「フゥ、安心したぜ?お前、二日間も眠り続けてたんだからな」

「二日?」

「ああ」

「皆は・・・?」

「大丈夫、皆無事だよ」

「そうか・・・」


 リンドブルム達が無事だと知りホッとするラピュスは再び天井を見つめる。ヴリトラはナースコールを押して看護婦を呼ぶ。しばらくして一人の看護婦がやって来てラピュスの状態を診た。


「気分はどうですか?」

「大丈夫です・・・」

「そうですか」


 大きな異常がない事に笑みを浮かべる看護婦。そんな中、病室に白衣を着た清美がやって来てラピュスのベッドの前に立ち、ラピュスと向かい合う形で立った。


「はじめまして。ラピュス・フォーネさん」

「貴方は?」

「私は本条清美、貴方の治療をした医者よ」

「医者・・・」

「本条先生は昔俺を助けてくれた恩人で日本でも有名な医者なんだ」


 ヴリトラが自分も助けられた事をベッドの隣に立ったままラピュスに伝え、ラピュスはヴリトラの話を聞いてあることに気付く。


「ニホン?・・・確か、お前の祖国の名前じゃ・・・・・・私達は今何処にいるんだ?」


 自分達の居場所を訊ねるとヴリトラは真面目な顔でラピュスを見つめた。


「・・・此処は俺達七竜将が元いた世界だ。此処は日本、俺の故郷だよ」

「故郷?・・・まさか、私達は七竜将おまえたちの世界に来ているのか?」

「ああ、どうやらあの爆発で俺達はこっちの世界に来ちまったみたいだ・・・」

「そ、そんなまさか・・・」


 現状に驚くラピュスは起き上がろうとし、それを見たヴリトラと看護婦はラピュスを左右から手を貸して起き上がらせた。ベッドの上で起き上がったラピュスを見た清美は真剣な顔で彼女を見つめて静かに息を吐く。


「・・・実はねラピュス。貴方にもう一つ大事な事を伝えないといけないの。貴方が目を覚ましたら真っ先に伝えようと思っていた事・・・」

「・・・?」

「貴方が此処に運ばれた時、貴方は右肩に重傷を負っていたわ。右肩を貫かれて肩の関節が砕け、神経もズタズタ・・・もう、治す事ができないくらい・・・」

「・・・え?」


 清美の言葉を聞いたラピュスは思わず訊き返す。彼女はまだ清美の言っている事が理解できなかった。


「そのままにしていた貴方の命が危ない状態だったの。だから、貴方の命を優先して手術を進めたわ」

「・・・・・・」

「いつかは言わなければいけない事だし、貴方も受け入れなければならない事・・・」


 ラピュスは清美の話を聞いている内に少しずつ気付き始めた。ジャンヌの攻撃で右肩を貫かれ、その傷が酷く、命を優先して進められた治療。ラピュスの頭の中に最も恐れている答えが浮かんだ。


「勇気を出して、自分の腕を見てみなさい」


 清美のその言葉を聞いたラピュスは自分の左腕を見た後、ゆっくりと右腕の方を見る。体を震わせながら予感が外れていてくれ、そう願いながら。ラピュスが視線を向けると、そこにあるはずの右腕は無く、入院着の袖だけがあった。


「・・・あ、ああぁ!」

「ラピュス!」


 自分の右腕が無くなっている、その現実を目にしたラピュスは予想通り驚いて取り乱し始めた。


「ああ、ああああああぁ!」

「ラピュス、落ち着け!」

「マズイ、押さえて!」


 ラピュスの精神状態が悪くなったのを見て清美はヴリトラと看護婦に抑えるよう指示を出し、二人はラピュスを押さえてベッドに寝かせる。それでもラピュスは体を左右に揺らして暴れていた。


「あああああぁ!」

「落ち着けラピュス!ラピュス!!」


 右腕だけでラピュスの体を押さえつけるヴリトラは大きな声でラピュスの名を叫んだ。やがてラピュスは落ち着いてきたのか暴れるのをやめて仰向けのまま大人しくなった。呼吸が乱れ、目元に涙を溜めながら天井を見つめるラピュス。すると疲れたのかラピュスは眠る様に意識を失う。

 大人しくなったラピュスを見てヴリトラと看護婦はゆっくりと手を離した。


「・・・やっぱり取り乱したわね」

「無理もありませんよ・・・」

「でも、受け入れなければならない事よ」

「ええ、分かっています。俺達で彼女を立ち直らせていくつもりです」

「お願いね?」

「ハイ・・・それに・・・いい方法もありますから・・・」


 ヴリトラは意識を失ったラピュスの頬を流れる涙を指で拭いながら呟く。ヴリトラは、いや、この場にいないリンドブルム達も全員がラピュスは必ず立ち直ると信じていたのだ。ヴリトラは無くなった左腕を無くした自分の左肩にそっと手を当ててラピュスを見つめていた。

 地球に戻って来たヴリトラ達は今後自分達が何をするのかを考える。そしてラピュスも自分の右腕が無くなったという現実を目の当たりにした。非情な現実を突きつけられて錯乱するラピュス、しかしこの時の彼女はまだ知らなかった。自分が新しい腕を手に入れる日が近づいている事を・・・。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ