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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十二章~戦慄の要塞補給基地~
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第二百二十三話  絶体絶命 失われた二つの腕

 それぞれ目の前の敵と激戦を繰り広げるヴリトラ達。しかし、ジークフリートとジャンヌの予想外の力に苦戦を強いられてしまい危険な状態となってしまう。そしてそれと最悪のシナリオへと進んでいた。

 目の前でバルムンクを握りながらヴリト達を見るジークフリート。ヴリトラ達は構えもせずにただ目の前に立っているだけの黒騎士を前になぜか全く動く事はできなかった。


「・・・構えてもいないのにまるで隙がない。これじゃあラピュスを助けに行く事もできない」


 ヴリトラは遠くでジャンヌと一人で戦っているラピュスを見て顔に若干の焦りが見え出して来た。自分達の様な機械鎧兵士でも勝てるかどうか分からない相手に生身の人間であるラピュスが一人で挑んでいるのだ、当然と言える。ジャバウォックとジルニトラも同じ気持ちでラピュスの方を見ている。

 そんな三人を見てジークフリートは鼻で笑いながらゆっくりとバルムンクを構える。


「仲間の事よりも自分達の心配をしたらどうだ?いくら七竜将と言えど、お前達三人だけでは私に勝てる可能性は極めて低いのだ。何時殺されても不思議ではないのだぞ?」

「・・・生憎、俺達は何時死んでもおかしくない状況に何度も出くわしている。今更同じ様な状況になっても動揺なんてしないし、自分達の命も惜しいとは思わない」

「フッ、そうか。なら、そんな状況も今回が最後の体験になるな」


 赤い目を光らせながらヴリトラを見て言い放つジークフリート。ヴリトラは森羅を構えてジークフリートをジッと見つめ二人はしばらくの間、睨み合っていた。そして数秒後、二人はほぼ同時に相手に向かって走り出し、目の前にいる敵に向かって自分達の得物を振る。二人の超振動剣の刃がぶつかり、火花が飛び散る中でヴリトラとジークフリートは両手に力を込めて押し合っていた。


「ぐううううぅ!」

「・・・フン」


 歯を食いしばり力を込めるヴリトラに対しジークフリートは声を出す事無く余裕の態度を見せている。しばらく刃を交えていた二人は一度刃を離して後ろに下がり態勢を直す。ヴリトラはすぐにジークフリートに近づいて森羅で連続切りを放つ。しかしジークフリートはヴリトラの連撃を全てバルムンクで防いでいる。自分の攻撃を簡単に防ぐジークフリートを見てヴリトラは悔しさのあまり更に強く歯を食いしばった。


「どうした?もっと私を手こずらせてみろ」

「こぉのぉ!」


 余裕の態度を見せるジークフリートを見てヴリトラは連続切りをやめて胴体に突きを放つ。しかしその突きもアッサリと払われてしまい逆にヴリトラに隙ができてしまった。そして今度はその隙を突いたジークフリートの連撃がヴリトラに炸裂する。バルムンクの連続切りを森羅で防ぐヴリトラだったが、その一撃一撃が重く、防ぐ度に衝撃が伝わって来る。ヴリトラは攻撃を防ぎながら後ろの下がり、反撃の隙を窺うが防御に精一杯で反撃する事は愚か、隙を見つける事も難しい状態だった。


「以前ティムタームで戦った時と比べて少しは強くなったと思っていたのだが、まったく変わっていないな。弱いままだ」

「うるせぇよ!」


 挑発を流しながら攻撃を防ぐヴリトラは一瞬の隙を突いて大きく後ろへ跳び距離を取る。そのままヴリトラは左腕をジークフリートに向けてマイクロ弾を発射した。二つのマイクロ弾は真っ直ぐジークフリートへ向かって飛んで行く。だがジークフリートは避けようともせずにバルムンクで迫って来たマイクロ弾を二つとも真っ二つにしてしまう。切られたマイクロ弾は空中で爆散し煙が消えるとそこには無傷のジークフリートが立っていた。


「フフフフフ」

「クッ、何て奴だ!剣でマイクロ弾を切り落とすなんて・・・」

「私のバルムンクをそこらのナマクラと一緒にしてもらっては困る。バルムンクは最新の複合金属でできているのだ。対戦車ミサイルを撃ち込んでも破壊する事はできないぞ?」

「また厄介なモンを・・・!」


 バルムンクが異常な硬度を持っている事を聞かされてヴリトラの表情が歪む。そんなヴリトラにジークフリートはゆっくりと近づいて行く。その時、ジークフリートの左側面にジルニトラが回り込み右手をジークフリートに向けて突き出す。右手の甲の装甲が動き、中からリニアレンズが姿を現した。


「マイクロ弾がダメなら、これはどう!?」


 ジルニトラはそう言ってリニアレンズから赤いレーザーを発射する。しかしジークフリートは慌てる様子も見せずに素早く右手に持っているバルムンクを左手に持ち変えると迫って来るレーザーをバルムンクの刀身で簡単に止めてしまった。


「ウソッ!?レーザーを止めた?」

「レーザーの類も止められるように刀身には特殊なコーティングが施してあるのだ」

「そんなのありぃ!?」


 自分の十八番おはこであるレーザーが通用しない事にジルニトラは驚きを隠せなかった。

 ジークフリートがレーザーを止めながらジルニトラの方を見ていると今度は右側面からジャバウォックが現れる。デュランダルを左手に持ち、右手で拳を作り機械鎧の肘からジェットブースターを出していた。


「今度はコイツだ!ジェットナックル!」


 ジェットブースターが点火し、その勢いでジャバウォックは強烈なパンチをジークフリートに撃ち込む。もの凄い勢いでジークフリートの頭部に迫る拳、しかしジークフリートはジルニトラの方を向いたまま右手でジャバウォックのパンチをアッサリと止めてしまった。


「何ぃ!?」

「無駄だ。お前達に私は倒せん」


 鋭い言葉を言い放つジークフリート。同時にジルニトラのレーザーも止まり、それを確認したバルムンクは素早く右手に持ち変え、ジャバウォックに向かって袈裟切りを放つ。更に左手でホルスターのコンテンダーを抜くとジルニトラに向かって引き金を引いた。

 ジャバウォックとジルニトラはジークフリートの反撃に反応して咄嗟に後ろへ跳んだり横へ移動したりして回避行動を取った。だが遅れてしまった為、バルムンクはジャバウォックの左肩から右胸までを切り裂き、コンテンダーの弾丸もジルニトラの左脇腹に命中してしまう。


「ぐああぁ!」

「ううぅっ!」


 痛みに思わず声を上げるジャバウォックとジルニトラ。だが幸いにもジャバウォックの切傷は浅く、ジルニトラも急所を外していた為、二人はまだ動く事ができた。しかしそれでも常人なら重傷とも言える怪我を負っている。

 二人は傷を押さえながらジークフリートを睨み、ヴリトラも森羅を構えながら驚いている。


「二人とも、大丈夫か!?」

「あ、ああ・・・何とかな・・・」

「運良く急所は外れたわ・・・」


 なんとが無事なのを確認してヴリトラは一先ず安心する。だが、まだジークフリートは目の前にいる為、一切気を許す事はできなかった。ヴリトラは自分の方を向きながらコンテンダーをホルスターにしまい、バルムンクをクルクルと回しているジークフリートを見て森羅を構え直す。


「二人の機械鎧最強の内蔵兵器が効かないなんて・・・お前、ただの機械鎧兵士じゃないな?」

「フッ・・・ただの機械鎧兵士ではないのはお前も同じだろう?」

「何?それはどう言う――」


 どう言う意味だ、そう訊ねようとした瞬間、ジークフリートはヴリトラの目の前まで移動しヴリトラを見下ろす。突如目の前に来たジークフリートにヴリトラは驚き固まってしまう。そんなヴリトラの胸倉を掴みジークフリートは勢いよくヴリトラを投げ飛ばした。


「うわあああぁ!?」


 突然投げ飛ばされたヴリトラは受け身の態勢を取る事ができず、飛ばされた先に積まれてあるコンテナに突っ込み背中から叩きつけられる。更にそこへジークフリートは右膝を軽く曲げて肘の部分の装甲を動かす。すると右大腿の中からミサイルが姿を現し、ヴリトラに向かって発射された。


「ミ、ミサイル!アイツ、ニーズヘッグみたいに右足にミサイルを仕込んでいたの!?」


 ジークフリートの内蔵兵器を見て驚くジルニトラ。撃たれたミサイルはそのままヴリトラの下へ飛んで行き、俯せに倒れていたヴリトラが顔を上げると自分に向かって飛んで来るミサイルが目に入った。


「ゲッ!マジかよ!?」


 ヴリトラは倒れたまま驚き、素早く横へ転がってその場から移動する。ミサイルはヴリトラが倒れていた場所に命中し爆発、周囲のコンテナやヴリトラを爆風で吹き飛ばした。


「ぐわああ!」


 爆風で飛ばされ地面に叩きつけられたヴリトラは再び俯せになって倒れる。するとコンテナの上に積まれていた別のコンテナが爆風でバランスを崩しヴリトラの上で揺れる。それに気付いたヴリトラが起き上がり避けようとするが間に合わず、コンテナはそのままヴリトラの上に落下した。


「「ヴリトラァ!」」


 コンテナの下敷きになったヴリトラを見て思わず名を叫ぶジャバウォックとジルニトラ。ジークフリートはコンテナとそれを包み込む様に上がる砂埃を見ながら赤い目を光らせて小さく笑うのだった。

 その頃リンドブルム達は基地の西側の広場で大勢のBL兵、上級BL兵達と交戦し続けていた。あれから多くのBL兵達を倒したがまるで勢いが収まる様子はなく、それどころか敵の数は増えて来ている。弾薬の数も減って来てリンドブルム達は少しずつ追い込まれていた。


「まだあんなにいるよ!」

「切りがないな・・・」


 基地の上空からジーニアスに乗って基地内の敵兵を見下ろすリンドブルムとオロチ。二人も空から地上で敵と戦っているニーズヘッグ達を援護しているのだが、それでも戦況は変わらない。更にブローニングM2による敵の対空攻撃をかわしながら戦っている為、空を飛んでいるジーニアスも肉体、精神的に限界が来ていた。


「フゥ・・・つ、疲れて来たのだ・・・」

「頑張ってください、ジーニアスさん!」


 MP7を撃ちながらアリサがジーニアスを励ます。ジーニアスも呼吸を乱しながらも何とか飛んでBL兵達の対空攻撃をかわす。幸いまだアパッチは動いていない為、それ程危険な状態ではなかった。

 上空からライトソドムとダークゴモラで対空攻撃をしてくるBL兵達を一人ずつ撃っていくリンドブルム。だがこの時、彼の頭の中にはヴリトラ達の事が浮かんでいた。


「・・・オロチ、おかしくない?もうそろそろヴリトラ達がユートピアゲートの装置を破壊してもおかしくないはずなのに、装置のある方からは一向に爆発が起きないし、通信も入らないよ?」

「ああ、私もその事をずっと考えていた・・・」

「・・・・・・もしかして、ヴリトラ達に何か遭ったんじゃないかな?通信機で呼び出しても応答がないし・・・」

「それは私も試した。だが通じなかった・・・恐らく電波妨害ジャミングが掛かっているのだろう・・・」


 ヴリトラ達の身に何か遭った、リンドブルムとオロチはそう考えていた。現実にヴリトラ達はジークフリートとジャンヌの襲撃を受けて危機的状況にあったがリンドブルム達はまだその事を知らない。嫌な予感がする中、リンドブルムは地上で戦っているニーズヘッグ達に向かって叫んだ。


「ニーズヘッグ!ヴリトラ達に何か遭ったのかもしれない!僕達はヴリトラ達の様子を見に行きたいんだけどー!?」


 リンドブルムの叫ぶ声を聞いたニーズヘッグは金属製の大きな箱の陰に隠れながら上空にいるジーニアスの背中に乗っているリンドブルム達を見上げた。彼の近くではファフニールとラランも同じように箱の陰に隠れてリンドブルム達を見上げている姿がある。


「その事なら俺もさっきから気になっていた!ヴリトラは抜けているところがあるが何かあれば必ず連絡を入れる、ましてやあっちにはジャバウォックもいるんだ。そのどちらからも連絡が、そして装置を破壊した時の爆発が無い。間違いなく向こうで予期せぬ事が起きたんだ!」

「今この基地にはジークフリートとジャンヌがいるんでしょう!もしかすると・・・」


 最も恐れていた事態になっているかもしれない、リンドブルムの言葉を聞いてそう考えたニーズヘッグはしばらく考え込んだ。そして答えが出たのかリンドブルム達を見上げながら口を動かし大声を出した。


「リンドブルム、お前達は敵の対空攻撃をかわしながら様子を見に行ってくれ!俺達は此処の敵を粗方片づけた後、隙を突いて追いかける!」

「分かった!でも大丈夫なの!?まだ結構な数がいるよ?」


 リンドブルムの言うとおり、ニーズヘッグ達の周りにはまだかなりの敵がいる。だがニーズヘッグは余裕の笑みを浮かべていた。


「心配ない!これぐらいなら何とかなる!・・・と言うか、こんな状況で俺達に敵を任せてヴリトラ達の様子を見に行っていいかと聞いたお前が心配しても説得力ないぜ?」

「ハハハ、確かにね・・・」


 ニーズヘッグの言葉に苦笑いを浮かべるリンドブルム。オロチは無表情のまま、アリサは少し心配そうな顔で地上のニーズヘッグ達を見ていた。

 話がまとまり、リンドブルムはジーニアスに指示を出し、ジーニアスは言われたとおりユートピアゲートのある方へ飛んで行く。


「気を付けてねぇ!」


 最後に大きな声でニーズヘッグ達にそう告げたリンドブルム。ジーニアスはヴリトラ達のいる方角へ飛んで行き、地上にいた数人のBL兵達はその後を追った。残ったニーズヘッグ達は箱の陰から敵の様子を窺い状況を再確認する。


「さて、俺達もさっさとコイツ等を倒して後を追うぞ?」

「それはいいけど、何か策はあるの?」

「・・・無かったら私達は終わり」

「心配ない。今いる敵は殆どが軽装備の連中だけだ。それにあれだけ銃を撃ちまくっていればそろそろ弾も尽きる。そこへ俺のマイクロ弾とファフニールの粒子弾を撃ち込んで一気に勝負を付ける!」

「力押し、て事だね・・・」


 ニーズヘッグの強引な作戦にファフニールは少し呆れた様な顔をし、ラランは相変わらずの無表情だった。そして三人はリンドブルム達の後を追う為に敵との戦いを再開する。

 ユートピアゲートの前ではコンテナの下敷きになったヴリトラを見てラピュスの顔が固まっていた。既に彼女は体中傷だらけて出血もかなり酷い状態にある。


「ヴ、ヴリトラが・・・」

「コンテナの下敷きになるなんて、気の毒な死に方だな」


 右手の超振動剣の刀身を撫でながら他人事の様に呟くジャンヌ。ラピュスはそんなジャンヌの言葉が耳に入っていないのかコンテナの方を見ながら固まっている。そんなラピュスを見てジャンヌは笑いながら超振動剣を構え直した。


「仲間が死んでショックを受けるのは勝手だが、自分の立場を忘れるなよ?」


 そう言ってジャンヌはラピュスに向かって走り出し超振動剣で斬りかかる。ラピュスはフッとジャンヌの接近に気付き咄嗟に騎士剣を構え直して超振動剣を止めた。斬撃を止めたラピュスは素早く後ろに下がって態勢を立て直し反撃する。しかしヴリトラがコンテナの下敷きになった事が頭から離れず彼女の騎士剣に迷いが見え始めた。それに気づいたジャンヌは超振動剣を騎士剣と交えながらラピュスを見て笑う。


「どうした?さっきよりも手応えが無いぞ?・・・ヴリトラの事が頭から離れないのか?」

「クッ、うるさい!」

「フッ、図星か・・・」


 心を見抜かれた事でラピュスの表情は歪み、騎士剣の柄を握る力も強くなる。ジャンヌは騎士剣を払い大きく後ろへ跳んでラピュスから距離を作りと超振動剣を下ろし左手を腰に当てながらラピュスの顔をジッと見た。


「・・・ヴリトラが下敷きになってからお前の太刀筋に迷いが出た。そして顔には悔しさと怒りの様な感情が浮かんでいる・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・お前、あのヴリトラを好いているのか?」

「なっ!?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべながら訊ねるジャンヌにラピュスは顔を赤くして驚く。


「バ、バカ言わないで!何であんな男の事を!」

「・・・口調が変わってるぞ?」

「う、うるさい!私はあんな男の子の事などなんとも・・・」

「そこまで言われると傷つくなぁ・・・」

「!」


 突然聞こえて来たヴリトラの声にラピュスはフッと驚き、ジャンヌも意外そうな顔を見せる。二人がコンテナの方を向くと砂埃の中から俯せのまま倒れているヴリトラの姿を見つける。そしてコンテナがヴリトラの左隣ギリギリの位置に落ちていた。どうやらギリギリで回避が間に合い下敷きにならなかったようだ。

 無事だったヴリトラの姿を見てラピュスは勿論、ジャバウォックとジルニトラも驚きの表情を浮かべている。


「ヴリトラ!無事だったのか!?」

「無事、と言えばウソになるな・・・」


 ジャバウォックに返事をし、ヴリトラは自分の左腕を見る。なんとヴリトラの機械鎧の左腕はコンテナの下敷きになって動かせなくなっていたのだ。ヴリトラは何とか起き上がろうとするが、左腕が挟まれて全く動けない。そんなヴリトラにジークフリートはゆっくりと違づいて行く。


「フッ、意外と悪運が強うようだな。しかしその状態では何もできまい?」

「・・・ッ!」


 倒れたまま近づいて来るジークフリートを睨みつけるヴリトラ。ジャバウォックとジルニトラもヴリトラを助ける為に駆け寄ろうとしたが、鞭状となったバルムンクの刃が二人の足元に大きな切傷を作り動きを封じる。ジークフリートはバルムンクを剣状に戻して切っ先を倒れているヴりオラに向けた。


「このままお前を切り刻むのは簡単だが、それでは面白くない。この状況を打破して私をもっと楽しませてみろ?」

「クゥ~ッ!この戦闘狂めぇ!」


 余裕で自分を見下ろすジークフリートを睨むヴリトラ。左腕は挟まれ、森羅は右手の近くに落ちている為、拾う事はできるがジークフリートは攻撃の届かない所にいるので森羅で攻撃する事はできない。ヴリトラはただ倒れたままジークフリートを睨む事しかできなかった。

 ヴリトラの無事を知り、さっきまで驚いていたラピュスは少しだけホッとしたのか笑みを浮かべた。


「ヴリトラ・・・無事だったのか・・・」

「フフ、やはりあの男の事が気になっていたのだな?」


 また笑いながら自分をからかうジャンヌにラピュスをピクリと反応する。ジャンヌもラピュスを見ながら超振動剣を構え直した。


「気になっている異性が無事だったのだ、女なら普通の反応。恥じる事はない」

「だから、私はアイツの事など――」


 否定しようとラピュスが振り向いた瞬間、いつの間にジャンヌはラピュスの目の前まで急接近していた。ラピュスの動きに気付けずに接近を許してしまい驚きの表情を浮かべる。その光景はまるでさっきのヴリトラとジークフリートの様だった。


「それはさっき聞いた。同じ挑発に二度も乗るとは・・・愚かだな?」


 そう低い声で言った瞬間、ジャンヌは右手の超振動剣で勢いよく突きを放ち、超振動剣の切っ先はラピュスの右肩を貫く。その光景を目にしてヴリトラ、ジャバウォック、ジルニトラの表情は固まり、ジークフリートは黙ってラピュスとジャンヌの方を見ている。


「・・・あああああああああぁっ!!」

「ラピュスーーッ!」


 右肩から伝わる激痛に声を上げるラピュスと彼女の名を叫ぶヴリトラ。ラピュスの叫び声は基地中に広がり、その表情が苦痛で歪んでいた。超振動剣はラピュスの肩を貫通しており、傷口からは大量に出血している。右手の騎士剣はラピュスの手から離れて高い音を立てながら地面に落ちた。ジャンヌはしばらくして勢いよく超振動剣をラピュスの右肩から引き抜き、ラピュスはその直後に両膝を地面に付いてその場に座り込み左手で右肩の傷を押さえながる俯く。そんなラピュスを見下ろしながらジャンヌは超振動剣に付いたラピュスの血を払い飛ばす。


「・・・フッ、もう少し楽しませてくれると期待していたのだが、所詮この世界の人間では私を楽しませる事は無理だったという事か・・・」

「クッ、クウウウウゥ!」


 ラピュスはゆっくりと顔を上げ、目の前でガッカリするジャンヌを睨みつける。激痛のあまり涙目になっているラピュスは歯を食いしなり痛みに耐えていた。落ちている騎士剣を拾って反撃しようするが右腕は全く動かない。ラピュスは痛みと同時に屈辱の悔しさを感じていた。

 二人のやり取りを見ていたジークフリートは視線を二人から倒れているヴリトラに変えるとバルムンクをゆっくりと上げながらヴリトラを見下ろす。


「どうやら女王はもうこの戦いに飽きてしまったようだ。もう戦いも長く続かない、さっさとあの娘を始末するだろう」

「クッ!」

「女王が戦いを終わられる以上、私も戦いを続ける訳にはいかない。残念だがこちらもさっさと終わらせてもらう」


 ジークフリートはバルムンクを振り上げ、ジャンヌもラピュスを見下ろしながら右手の超振動剣を振り上げている。それを見たヴリトラはラピュスが危ないと落ちている森羅を右手で拾い素早く左脇に森羅の刀身を通し、なんと自分の左腕を脇から切断したのだ。ヴリトラの行動にジークフリートやジャバウォック、ジルニトラも目を見張って驚く。


(コイツ、自ら機械鎧を捨てたのか!?)


 コンテナに挟まれている左腕が離れた事で動けるようになったヴリトラは立ち上がり、ジークフリートの脇を素早く通ってラピュスとジャンヌの下へ走る。


「ラピュスーーー!」


 森羅を右手に持ちながらラピュスの下へ走るヴリトラ。ラピュスは涙目のままヴリトラの方を向き、ジャンヌも少し驚いた顔で走って来るヴリトラを見ている。ヴリトラは足に力を入れてラピュスを斬ろうとするジャンヌに向かって跳び、ジャンヌに袈裟切りを放った。

 追い込まれていく中でヴリトラと機械鎧の左腕を失い、ラピュスも右肩を貫かれて右腕が動かなくなってしまう。片腕を失った二人と悪化していく戦況、ヴリトラ達はどうなってしまうのだろうか。


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