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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第三章~戦場に流れる鎮魂曲(レクイエム)~
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第二十一話  兆し

 ジークフリートがティムタームの町に現れた翌日、ズィーベン・ドラゴンの前に二人の騎士が立っている。中には七竜将とラピュス達第三遊撃達の姫騎士、そして騎士団長のガバディアの姿があった。先日の一件でジークフリートに二人の騎士を殺された事で騎士団と王城はお祭り騒ぎになってしまい、ジークフリートの事をよく知っている七竜将に詳しいを聞くためにガバディアはズィーベン・ドラゴンに来ていたのだ。

 依頼を受ける為のリビングのテーブルに付いているヴリトラとガバディア、それぞれの背後にはリンドブルム達とラピュス達が待機している。ヴリトラとガバディアは真剣な表情で黙り込んでいる。


「・・・ジークフリートか。昨日君から聞いた話によるとかなり危険な男らしいな?」

「はい。奴も危険ですが、奴が属している組織はある意味もっと危険です」

「ブラッド・レクイエムと言う傭兵派遣の組織だな?」

「ええ、奴はその会社の私兵機械鎧兵士隊の総司令官を務めていると言っていました」


 ヴリトラはガバディアにブラッドレクイエム社の事を話し、それを聞いているガバディアは両肘をつけて口の前で手を合わせている。

 昨日ジャバウォック達と合流した後にガバディアにも戦いの状況とブラッド・レクイエムの事を少しだけ話しておいたヴリトラ。当時は色々とやる事があったのでその時はそれだけで話しを済ませ、今日より詳しく話す手にガバディアを招いたのだ。


「・・・出来れば詳しく教えてくれないか、その組織の事を?」

「私達も詳しく知らない。私達にもついでに教えてくれないか?」


 ガバディアの後ろでラピュスも詳しく教えてほしいと頼んで来る。ヴリトラはラピュスの方を向いて黙って頷く。そこへリンドブルムとオロチがラピュス達に声を掛けた。


「最初からそのつもりだったよ」

「お前達は私達の正体を最初に知った存在だからな、知る権利がある・・・」

「感謝する・・・」

「感謝は不要さ。それじゃあ、まずはブラッド・レクイエムがどんな組織なのかを詳しく説明する」


 ヴリトラがガバディアや後ろで待機している姫騎士達を見た後に低い声を出して話しを始める。その後ろではニーズヘッグがノートパソコンを操作しており、操作を終えるとノートパソコンをテーブルに置いて画面をラピュス達に見せる。画面にはパソコン内の情報データベースファイルが開かれており、そこには英文で細かい文字とブラッド・レクイエム社のトレードマークである赤い女性の横顔が描かれてあった。

 見た事のないノートパソコンと美しい画面に目を丸くしているラピュス達であったが、直ぐに表情を戻してヴリトラ達の方を向き直した。


「ブラッド・レクイエム社、人身売買や暗殺、そしてテロリストの支援などを主な活動にしている悪評高い傭兵会社だ」

「テロ、リスト?」


 聞いた事のない言葉にガバディアが小首を傾げる。ガバディアのを顔見てヴリトラは静かに頷く。


「ええ、国に反乱を起こして改革を起こそうとする連中です。建物を破壊したり、国の要人を殺したりもしますね」

「そんな連中がお前達の世界にはいるのか?」

「ああ。俺達の世界の国々では今でも戦争や紛争が起こっている。この世界でもそう言った事は起きてるだろう?」

「あ、ああ・・・」


 ヴリトラの質問にラピュスは少し複雑そうな顔をして頷く。ガバディアは目を閉じて俯き、ラランとアリサも黙って目を閉じていた。

 話しをしているヴリトラの後ろの立っていたニーズヘッグがノートパソコンの操作して画面を動かし始める。画面が動いて開いているページが下に下に動いて行き、一つの画像が載っている画面が映し出された。その画像には両手両足を機械鎧化させ、タクティカルベストを纏い、金属のフルフェイスマスクで顔を隠している機械鎧兵士がアサルトライフルを構えて煙に包まれている何処かの国の町を歩いている姿が写っていた。そしてその機械鎧兵士のタクティカルベストには小さくブラッド・レクイエム社のマークがマーキングされていた。


「因みにコイツがブラッド・レクイエムの一般兵だ。コイツ一人で兵士十人分の戦力になるな」

「一人で、十人分ですか。じゃあ、もしその一般兵が十人いれば・・・」

「そう、百人分の戦力になる」

「じゅ、十倍の戦力・・・!」

「・・・信じられない」


 ニーズヘッグの話しを聞いて驚くアリサと表情を変えずに呟くララン。口では信じられないと言ったラランであったが、同じ機械鎧兵士である七竜将や戦ったジークフリートの力を見れば嫌でも信じたくなってしまう。ラランは目立たない程の微量の汗を垂らしていた。


「俺達もブラッド・レクイエムの機械鎧兵士とは何度か戦った事はある。だがその全てがこの一般兵だった、幹部クラスとは一度も戦った事がない」

「それでも、彼等の戦力はそこら辺の組織とは比べものにならないよ」

「ええ、何しろ奴等はあたし達の世界で機械鎧兵士を最も多く扱っている組織だからね」


 画面に映るBL兵の指で軽く叩きながら自分達の戦闘経験を話すジャバウォックとそれに続くようにその強さとブラッド・レクイエムの戦力を話すリンドブルムとジルニトラ。三人の話しを聞いてラピュス達は真剣な表情のままブラッド・レクイエムの戦力の高さを痛感する。

 そこへ更に壁にもたれて話しを聞いていたオロチが腕を組んだままジッとラピュス達の方を向いて口を開いた。


「しかも奴等の依頼人クライアントは各国の要人も含まれており、奴等がその気になれば国を影から動かすことも可能だ・・・」

「そ、そんなに凄い力も持ってるんですか?そのブラッド・レクイエムという組織は・・・」

「ああ、だがそれも今では昔の話だ・・・」

「え?」


 オロチの口から聞かされたブラッド・レクイエムの更なる恐ろしさに驚いていたアリサだが、オロチの最後の言葉に思わず声を漏らす。周りではラピュス達も不思議そうな顔をオロチを見ている。


「奴等は一年前に突然姿を消した。社長、つまりブラッド・レクイエムのボスと全ての機械鎧兵士、資金に素材などもまとめてな・・・」

「それで世界は少しずつブラッド・レクイエムの恐ろしさから解放されていったんですけど・・・」


 オロチに隣でファフニールが話しながら不安そうに俯く。オロチとラフニールが話しを終えるとヴリトラは目を閉じて二人の代わりに話しを進めた。


「その消えた筈のブラッド・レクイエムの機械鎧兵士の一人が昨日俺達の前に現れた、つまり消えた奴等は何らかの方法でこのファムステミリアにやって来て何処に潜伏していたって事だ」

「・・・成る程。じゃが奴等は一体どうやってこの世界に来たのだ?」

「それは俺達にも分かりません。寧ろ教えてほしいくらいです」


 ガバディアの質問にヴリトラは「さぁ?」とポーズを取りながら首を横に振る。だが直ぐに真剣な表情に戻して前にいるラピュス達を見て低い声を出した。


「そして、俺達がこの世界に来たのも奴等が関係している筈です」

「どうしてそう思うのかね?」

「実はこの世界に来る前に、俺はジークフリートに会っているんです。そして奴はその時にこう言ったんです。『お前達七竜将とはまた会う事になるだろう。そう、此処とは違う世界でな』と、そして昨日俺達はジークフリートと再会した。この時点で奴は俺達がこれから元の世界とは違う世界に行くという事を最初から知っていたという事になります。そして、奴等はこの世界と元の世界を行き来する手段を持っている、という事も」

「成る程、奴等は二つの世界を自由に聞きする術を持っていたのか・・・」


 ヴリトラの説明を聞いてガバディアは納得し腕を組んだ。ガバディアが納得していると、ヴリトラの後ろにいたジャバウォックも何かに気付いて腕を組んだ。

 

「そう考えれば、奴等が一年間の間にこっちの世界で誰にも存在を知られずに生き続ける事も可能か。食料や弾薬が尽きれば戻って補充すればいいんだからな」

「いや、そうとも限らないぞ?食料や弾薬には困らなくても全機械鎧兵士や重要人物を人目につかないようにする為には身を隠す場所が必要だ。それも軍の駐留基地の様は大きな施設が・・・」


 ジャバウォックの隣でニーズヘッグがブラッド・レクイエム社が身を隠す場所が無い事を指摘する。ファムステミリアと元の世界の時間差がどれ程の物かは不明だが、身を隠す場所が無ければ、一年もの長い時間に必ず見つかる。にもかかわらずブラッド・レクイエム社は今までこの世界の人間達に存在を気付かれる事なく潜伏していた。その点がどうしても納得できずにいる。


「・・・これは俺の想像だが、この世界でブラッド・レクイエムに手を貸している連中がいるかもしれないな。それも大きな力を持つ存在が」

「何?」

「それ本当なの?」


 ファムステミリアの住人がブラッド・レクイエム社に手を貸している、ニーズヘッグの言葉にジャバウォックとジルニトラは反応して訊き返す。ヴリトラ達も一斉にニーズヘッグの方を向いた。


「あくまでも俺の想像だ。だが、ブラッド・レクイエムが機械鎧兵士や技術を提供する事を条件に相手と取り引きしたと考えれば十分あり得るだろう。未知の世界から来て見た事のない兵器や技術を持っている連中だ。食い付く奴はいくらでもいる」

「確かに、この世界では存在しない強大な戦力を手にすればその時点で手を貸した奴等は周りとは比べものにならない力を得られる訳だからな・・・」


 ラピュスは顎に指を付けて考えながらニーズヘッグの想像もあり得ると納得する。ヴリトラ達も同じだった、この世界の人間がブラッド・レクイエム社の力欲しさに隠れ家を提供するのと引き換えに彼等と契約を交わす事も十分考えられるからだ。

 一通り話しが進むと、ガバディアはヴリトラ達を見て自分が導き出した答えを口にする。


「話をまとめると、何処かの国がブラッド・レクイエムを支援している可能性もあるという事だな?しかもかなり大規模な組織なのだ、もし君達の想像通りだとしたらその国の権力者が絡んでいると考えてまず間違いないだろう」

「はい。でもそれはさっきニーズヘッグが言った通り想像です。まだそうだと決まった訳ではありません」

「でも今のところではそれが最も考えられる可能性よね?」


 リンドブルムとジルニトラがガバディアに話すとガバディアは頷きゆっくりと立ち上がった。ヴリトラも立ち上がったガバディアを見て続く様に立ち上がる。


「とりあえず今は情報が少ない。奴等もまたこの町に侵入してくる可能性がある、警戒を厳重にしよう」

「俺達も出来る限り協力します。奴等は俺達の世界から来たんですから、奴等を止める義務があります」

「ああ、その時はよろしく頼むぞ?」

「はい」


 話を終えるとガバディアはズィーベン・ドラゴンを後にした。ラピュス達もそれに続いて出て行った。帰って行くラピュス達をズィーベン・ドラゴンの入口で見送るヴリトラ達はラピュス達の背中を見ながら真剣な顔を続けている。


「・・・まさかこっちの世界にブラッド・レクイエムがいたとはな」

「うん、驚いたよ・・・」


 突然現れてブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士であるジークフリートの事を思い出して話すヴリトラとリンドブルム。一度戦いその強さを実感したのだから驚くもかなりの物だ。他の七竜将達もジークフリートと戦ってはいないが一般兵と戦った経験があるのでブラッド・レクイエム社の力はよく知っている。

 

「でもアイツ等、どうやって元の世界からファムステミリアに来たのかしら?」

「さぁな、それはガバディア団長にも話したようにさっぱり分からん」

「分からんって、アンタは七竜将の参謀的存在でしょう?何か思いつかないの?」

「無茶苦茶言うな?」


 未だにブラッド・レクイエム社がどうやってファムステミリアに来たのかが気になっているジルニトラ。そんな彼女にニーズヘッグは空を見上げながら言った。話しをしている二人を見てオロチとジャバウォックが仲間達を見ながら口を開く。


「とにかく、ブラッド・レクイエムの連中がこっちの世界にいると分かった以上、私達も色々と注意しないといけないな・・・」

「ああ、奴等がまた何時ティムタームに侵入して俺達を探し、襲って来るか分からないからな」

「でもでも、そのジークフリートって人、どうやって町に入ったんだろう?町の入口の門には見張りの兵士さんがいるんでしょう?」


 今後この事について話しをしているオロチとジャバウォックを見上げてファフニールがどうやってジークフリートが侵入して来たのかを考える。そこ話しを聞いたヴリトラ達も一斉にファフニールの方を向いて考え込む。

 ティムタームの町を囲む防壁はレンガで出来ており、ヴリトラ達の世界の武器や兵器を使えば穴を開ける事は簡単にできる。だがその防壁は分厚くとても高い。厚さは10m近くあり、高さはビルの約五階分の高さになっている。その為、身体能力を強化され、パワーやジャンプ力の高まった機械鎧兵士でも穴を開けたり跳び越える事は不可能だ。にもかかわらずジークフリートは兵士に気付かれる事無く町に侵入した。それが七竜将を悩ませていたのだ。


「いくら機械鎧兵士でもあの分厚い防壁に穴を開けるのは簡単じゃない。そうだろう?」

「ああ。あの分厚い防壁だ、ドリルか高性能のHEATヒート弾を撃ち込まないと穴は開かない」

「そしてオロチの様に両足を機械鎧に変えた機械鎧兵士でも三階建てのビルと同じ高さぐらいまで跳び上がるのが限界だ。五階建てほどの高さのある防壁を超えるのも無理」


 ヴリトラの話しを聞いていたニーズヘッグとジャバウォックが穴を開けるのも跳び越えるのも不可能と断言し、七竜将は再び考え込む。だが結局どうやってジークフリートが侵入したのかは誰にも分からなかった。

 しばらく考えていると、ジルニトラが手を叩いてヴリトラ達の注目を集める。ジルニトラは自分の方を向いてヴリトラ達を真面目な表情で見る。


「皆、分からない事をいつまでも考えても仕方ないわ。今はこれから何をするのか、そしてブラッド・レクイエムの情報を集める事だ大切よ。そうでしょう?」

「・・・まぁ、それもそうだな。ここは頭を切り替えてこれからの事を考えよう」

「そうだね。町で情報を集めたり、依頼を受けて他の町や国の事を依頼人から聞くっていう手もあるしね」

「それじゃあ、早速お仕事を始めよ~!」


 気持ちを切り替えて仕事の事を考えるヴリトラとリンドブルム。ファフニールも仕事を始めようとジャンプをしながらはしゃぎだす。だが、そこへオロチが腕を組み、目を閉じながらゆっくりと口を開けた。


「張り切るのはいいが、肝心の仕事がまだ一件も来てないぞ・・・?」

「「「・・・え?」」」


 オロチの言葉にヴリトラ、リンドブルム、ファフニールは声を揃えてオロチの方を向いた。その後にニーズヘッグ達の方を向くと三人も腕を組んで頷いた。


「オロチの言うとおり、まだうちは一件の依頼も受けてないし、頼まれてもいない」

「まだこのズィーベン・ドラゴンを開いてビラを配り始めてから数日しか経ってないのよ?そんな簡単にお客さんなんて来やしないわよ」

「おまけにこの町にはまだ沢山の傭兵団が存在するんだ。今まで信頼できる傭兵団を使ってきた客が俺達の方に乗り換える事も考えづらいしな?」


 三人の口から出た厳しい言葉と現実にヴリトラ達はカクッと首を落として落ち込む。そんなヴリトラ達を見てニーズヘッグ達はまた困り顔で首を横へ振った。彼等のおめでたさに呆れてしまっているようだ。

 ジャバウォック達は落ち込んでいるヴリトラ達に背を向けてズィーベン・ドラゴンの中へと入っていく。その中でジャバウォックが立ち止り、落ち込んでいるヴリトラ達をジト目で見てこう言った。


「落ち込んでる暇があるなら、またビラを配りに行くか、中でファムステミリアの事を勉強する事だな?俺達だってまだこの世界の文字が全て読める訳じゃないんだからよ」

「「「・・・はい」」」


 ジャバウォックの言葉を聞いて落ち込んでいたヴリトラ、リンドブルム、ファフニールの三人は顔を上げてトボトボとズィーベン・ドラゴンの中へと入っていく。それから彼等はファムステミリアの世界の事や文字を勉強したり、ヴァルトレイズ大陸の国々の事などを調べ始めるのだった。


――――――


 ガバディアがズィーベン・ドラゴンを尋ねてから二日が経った日。相変わらず七竜将の下へは一件も依頼は来ず、この二日、七竜将は只々退屈な日々を過ごしていた。ニーズヘッグやオロチの様な冷静な性格の二人はあまり気にする事無く、武器や機械鎧の整備をしている。ジャバウォック、ジルニトラの二人は食料などの必要な物資を確認し、足りなくなった補充の為に買い物に行く事などしている。そしてヴリトラ、リンドブルム、ファフニールは文字や国の事をたまに勉強するが、直ぐに飽きて元の世界から持って来たトランプやチェスなどで遊ぶを繰り返していた。


「あ~あ、何時になっても依頼こねぇなぁ?」

「うん。トランプとか、もう飽きちゃった・・・」

「つまんな~い!」


 食堂でトランプをしながら愚痴を言うヴリトラ達。するとそこへジルニトラとジャバウォックが顔を出して食堂を覗き込む。


「アンタ達ねぇ、愚痴ってる暇があるなら外に出てトレーニングか宣伝でもしてきなさいよ!」

「ああ、そうやって遊んでばかりいると体が鈍っちまうぞ?」


 注意する二人の方を見て嫌そうな顔を見せるヴリトラ達。そこへ突然入口の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。


「ヴリトラ!いるかぁ!?」

「ん?・・・あれはラピュスの声か?」


 聞こえてきたラピュスの声に反応して振り返るヴリトラはトランプをテーブルに置いて立ち上がり、リビングの方へ歩いて行く。ドアを開けると、そこには息を切らして両手を膝につけているラピュスの姿があった。


「ラピュス、どうしたんだよ、そんなに息を切らして。しかも凄い汗だぞ?」

「はぁはぁ、そんな事はどうでもいい。それより大変だ!」

「何が大変なんだよ?生理でもきた?」

「冗談言ってる場合か!レヴァート国境近くの『ヌルべス』の町が昨夜に襲撃を受けたと伝達が来たんだ!」

「何?町が襲撃?」


 ラピュスの口から出た町が襲撃されたという言葉にヴリトラは反応し、奥で聞いていたリンドブルム達も顔を出した。息が整ったのか、落ち着いたラピュスは深呼吸をしてヴリトラ達の顔を見る。


「伝達をよこした兵によると、町は面影も残らない程無残な状態だったようだ。家は破壊され、その町にいた住民や我が国の騎士達も皆倒されたらしい」

「皆殺しって事?」

「ああ・・・」


 リンドブルムの質問ラピュスは低い声で頷く。町を襲撃して更に皆殺し、誰の仕業かは知らないが普通は考えられない事だった。


「・・・ラピュス、さっきレヴァート国境の近くって言ったよな?」

「ああ」

「そうか・・・・・・お前は、いや、王国は既に犯人の目星を付けてるんだろう?」


 ヴリトラの言葉にラピュスは少し驚いた。ヴリトラは王国が既に犯人が誰なのかに気付いていると知っていたからだ。ラピュスは隠す必要はないと判断したのか、ゆっくりと頷いて説明を始める。


「・・・襲撃を受けたヌルべスの町はレヴァート王国と商業の国である『ストラスタ』を分ける国境の近くのあった町だ」

「やっぱりな。バロンさんから聞いたよ、レヴァート王国の近くには同盟を結んでいる『セメリト王国』とそのストラスタ公国って言う国があるってな」

「セメリト王国は同盟を結んでいるか町を襲撃する事はない、となると残るはストラスタ公国だけが残る。つまり・・・」


 ヴリトラの後を引き継ぐように説明するニーズヘッグ。途中で言葉を止めると、ラピュスはニーズヘッグの方を向いて頷く。


「そうだ。町を襲撃したのはストラスタ公国だ。ボロボロになった町でストラスタ公国の旗が落ちていた事も確認された」

「やっぱりそうか・・・」

「我が国とストラスタ公国は半年前から緊張状態になっていたのだ。いつ戦争が起きても分からない位にな。そしてそんな最中、昨日の夜にレヴァート王国の町が襲撃された・・・」

「宣戦布告か?」


 ヴリトラが真剣な顔で尋ねるとラピュスも真剣な顔を見せる。


「恐らく、このままそうなる可能性は高い。今はストラスタ公国の動きを見張り、もし昨夜の件で使者が送られてくるような事があれば、その時に話しを聞いて話し合いに持って行くとの事だ」

「それは有り得ないと思うぞ?いきなり町を襲撃するような連中だ、今更使者を送って話し合いをするとは思えない・・・」


 オロチがストラスタ公国の行動を分析し、相手が次にどんな行動を取るか、そして使者を送ってくる可能性が低いという事を進言する。ヴリトラ達はオロチの方を向いて真面目な顔を見せる。


「確かにそれも考えられる。このまま何もせずに次の町を襲う可能性だってあり得る」

「そうだよ、念のために襲撃された町の近くの別の町の警備を強化した方がいいよ!」

「勿論だ。今朝早くに青銅戦士隊の三個中隊が近辺の町に向かった。今はそれで様子を見ている」


 ジャバウォックとリンドブルムが近辺の町の警備を強化する事を話し、それを聞いたラピュス二人を見て頷き、既に行動を取っている事を説明した。

 国の状況を説明したラピュスはヴリトラ達の方を向いて、一度七竜将全員の顔を見た後にもう一度ヴリトラの顔を見た。


「・・・実は私がここに来た理由はもう一つあるんだ。ヴリトラ、いや、七竜将、もしストラスタ公国との戦争が始まった時には私達に力を貸してくれないか?」

「何だって?」


 意外な言葉にヴリトラは思わず訊き返した。周りのリンドブルム達も驚いてラピュスの方を向いている。ラピュスは自分の騎士剣を強く握り少し声を低くして話しを続けた。


「ストラスタ公国はレヴァート王国と違い商業の国と言われている。食料などで困る事は無く、王国軍の兵力も傭兵団の数も我が国より多い。下手に戦いが長引けば私達は負ける可能性が高い。傭兵団や各ギルドにも依頼はしているがそれでもまだ戦力には差がある。だが、お前達が力を貸してくれれが、我が国の勝機は一気に高まる。頼む、力を貸してくれ!」


 頭を下げて頼み込むラピュス。そんなラピュスを見て七竜将は不思議そうな顔を見せる。そしてジルニトラはラピュスに尋ねた。


「ねぇ、レヴァート王国はセメリト王国と同盟を結んでるんでしょう?その国に支援を要請したらどうなのよ?」

「セメリト王国とレヴァート王国は商業と国の出入り、情報提供を理由に同盟を結んでいるだけだ、戦争が起きても支援をするなどと言う事はしない。それが同盟の条件の一つだったのだ」

「な、何ちゅう同盟だ。それは同盟と言えるのか?」

「契約上の内容だ、同盟を結んだからと言って戦争を手助けしなくちゃいけないと言う理由はないだろうさ?」


 同盟なのかを疑うヴリトラと条件上仕方がないと話すニーズヘッグ。同盟国の助力が宛てにならない以上、自分達でなんとかするしかない。だがそれだと自分達が勝つ可能性は低い、だからラピュスは七竜将に協力を依頼しに来たのだ。

 ラピュスの話しを聞いた七竜将は互いの顔を見てどうするか考え始める。


「私達は騎士として、この国に住む人々を守る義務がある。その為なら騎士としての誇りを捨てて助けを求める。頼む、力を貸してくれ、七竜将!」


 もう一度頭を下げて頼み込むラピュス。黙り込んで彼女を見つめる七竜将。するとそこへヴリトラは腕を組みラピュスを見ながら口を開く。


「分かった」

「「「「「「!」」」」」」


 力を貸すことに同意するヴリトラに七竜将は意外そうな顔をする。ラピュスは顔を上げてヴリトラをジッと見つめた。


「その代り条件がある」

「何だ?」

「例え何が起きても俺達七竜将を絶対に裏切らない事。そして俺達とお前達との間で隠し事は一切なしだ。それと、俺達はお前とガバディア団長からしか指示を受けない。指示はお前達が出す事、この三点を守ってくれるなら協力する。いいよな?皆」


 ヴリトラが後ろにいるリンドブルム達の方を向くと、少し考え込む表情を見せていたが、直ぐに頷いてヴリトラの方を向いた。


「いいよ。僕はヴリトラについて行くから」

「まぁ、俺達は傭兵だからな。戦場に出る事は不思議じゃない」

「それにこの国の人達にはこの数日間で色々世話になったからな」

「そうそう、そのお礼もしないといけないしね?」

「勿論、ラピュスさん達やバロンさん達の為にも戦いますよ!」

「恩を仇では返さない、それが七竜将の掟だ・・・」


 それぞれ各々の思いを口にするリンドブルム達。それを聞いたヴリトラは頷き、ラピュスの方を向いてニッと笑う。


「と、言う事だ。俺達七竜将、全力でお前達に力を貸すぜ?」

「・・・ありがとう!」


 笑うヴリトラを見てラピュスも笑って返した。この日から七竜将はレヴァート王国の契約を結び、必要な時には力を貸すことを約束した。

 その日から二日後、ヴリトラ達の予想通り、ストラスタ王国軍が国境周辺の町を襲撃。そしてその時に生き残った町の権力者を使って首都ティムタームに親書を送った。その内容は勿論、宣戦布告だった。


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