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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十二章~戦慄の要塞補給基地~
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第二百十五話  森林を守護する者 聖賢竜登場!


 ノーティンク大森林にある基地を偵察する為に森林へと入って行くヴリトラ達。樵達が使う地下通路の入口があると思われる洞穴の前にやって来たが、そこで森林に棲みつく謎の生物と思われる生き物と出くわしてしまう。

 洞穴の奥で赤い大きな目を光らせる生物に警戒心を強くするヴリトラ達。しかし生物はヴリトラ達を見つめたまま洞穴から出てこようとはしなかった。


「コイツが、森を荒らす者達を襲う生物・・・」

「一体どんな奴なのかしら?」


 アリサとジルニトラが洞穴の奥で自分達を見つめる生物を見て武器を構える。その生物は奥の暗い所にいる為姿は確認できない。つまり、どんな種族なのか分からないのだ。


「どんな奴であれ、言える事が一つある・・・コイツは俺達と戦う気満々だって事だ」


 ヴリトラは生物の殺気を感じ取り、右手を森羅の柄に賭けて鞘から抜こうとする。だが次の瞬間、洞穴の奥からその生物がもの凄い勢いで飛び出し、ヴリトラ達に向かって突っ込んで来た。ヴリトラ達は突然の生物の動きに驚くが素早く横へ跳んで生物を避けた。生物はヴリトラ達の真横を通過したすぐ後に勢いよく跳び上がり、木と木の間を抜けて空へと消えた。


「あ、危ねぇ~・・・皆、大丈夫か?」

「あ、ああ、平気だ・・・」


 ヴリトラが皆の安否を確認し、ラピュスも無事を知らせる。周りにいるリンドブルム達にも怪我は無いようでヴリトラは一安心し、生物が跳び上がって抜けた木と木の隙間を見上げた。


「しかし、いきなり突っ込んでいて跳び上がるとはな・・・」

「しかも、影からしてかなりの大きさだったぞ」

「うん、前に見たグリードベアの倍以上はあったね」

「見た目の割に素早いみたいだな」


 上を見上げながら生物の敏捷さに驚くヴリトラ、ニーズヘッグ、リンドブルム、ラピュスの四人。

 生物が姿を消した後、ファフニールはギガントパレードを構えながら周囲を見回して生物の気配を探った。オロチも斬月を肩に担いで視線だけを動かして生物を探している。


「・・・あの大きな生き物、何処に行ったんだろう?逃げちゃったのかな?」

「いや、それは考え難い。奴の目は明らかに獲物を狙う獣の目をしていた。一度攻撃をかわされたくらいで逃げる様な奴じゃないはずだ・・・」

「それじゃあ・・・」

「奴は何処かで私達を見張っている・・・」


 まだ近くにいる、オロチのその言葉を聞いたファフニールはギガントパレードを強く握りながら集中力を高めて気配を探る。ヴリトラ達も武器を構えて生物を探し始めた。ヴリトラは森羅を抜いて両手持ちをし、リンドブルムもライトソドムとダークゴモラを抜いていつでも撃てるように構えている。


「・・・今のところ気配は無いね」

「ああ、だけど油断するな?何処から攻めて来るか分からないぞ?」

「分かってる・・・それにしても、いきなりジャンプして木と木の間を抜けるなんて、凄い脚力だよね?」

「いや、俺が思うにアイツは空を飛べるんだろう」

「空を飛べる?どうして分かるの?」

「もしアイツがジャンプ力が高いだけならいつかは空から落ちて来て何処かに着地する。その時に着地時の大きな音が響くはずだ。だけど、今のところそんな大きな音はしない。つまりアイツは今も空の上にいるって事になる」

「もの凄く遠くに跳んで音が聞こえ無い様な遠くに着地したって事は?」

「確かに曲線状に跳べばそれもあり得るけど、アイツは真上に真っ直ぐ跳び上がったんだ。そうなるといずれはそのまま真下に落下する。でも、アイツは何時まで経っても落ちて来ない・・・つまり」

「アイツは空を飛んでいる、て事かぁ・・・」


 ヴリトラの説明を聞き、生物が空を飛ぶ生き物だと知って納得の顔を見せるリンドブルム。ラピュス達もそれを聞いて周囲だけでなく真上にも警戒した。

 それからしばらくヴリトラ達は互いに背を向けて円を作り、何処から攻撃をされてもすぐに対処できる態勢に入り生物の気配を探った。すると、アスカロンを構えて警戒しているニーズヘッグが前方から何かが近づいて来る事に気付いて目を鋭くする。


「来たぞ!こっちからだ!」

「何っ!?」


 ヴリトラ達は一斉にニーズヘッグの見ている方向と同じ方向を向く。すると、遠くから草木の間をヴリトラ達に向かってもの凄い勢いで飛んで来る大きな影が見えた。その影は低空飛行状態で飛んで来ており、赤い二つの目を光らせながら向かって来る。


「低空飛行してる。ヴリトラの言うとおりだったね」

「今はそんな事はどうでもいいだろう!気を付けろ、突っ込んで来るぞ!」


 感心するリンドブルムを注意するジャバウォック。もの凄い速さで距離を縮めて行く生物。リンドブルムとジルニトラはライトソドムとサクリファイスを生物に向けて引き金を引こうとする。だが予想以上にその生物の飛行速度が速く、あっという間にヴリトラ達に数m前まで近づいた。


「は、速い!」

「迎撃できない!」


 銃による迎撃が間に合わないと感じたリンドブルムとジルニトラは声を上げ、ヴリトラ達は再び生物の突進を横に跳んで回避した。ヴリトラ達の間を通過した生物はそのまましばらく真っ直ぐ飛んでいき、やがてゆっくりとUターンして来て近くにある大きな岩の上に下りてヴリトラ達を見下ろす。ヴリトラ達も赤い目を光らす生物を見て構え直した。


「とんでもねぇ速さだぜ」

「これが森の荒らす者を裁く生物の力なのか・・・」

「・・・本当に何なの?」


 驚くジャバウォックとラピュス、そして生物の正体が気になるララン。生物は日の光が届かない暗い所にいる為、未だにその正体が分からなかった。すると生物の赤い大きな目が細くなり、ジッとヴリトラ達を睨みつける。


「ほほぅ、今のをかわすとはなかなかやるのだ」


 突然聞こえて来た低い男の声、ヴリトラ達はフッと反応して周囲を見回した。


「な、何だ?今の声?」

「何処かでおっさんが俺達の戦いを覗き見てるんじゃねぇのか?」


 ヴリトラとジャバウォックは驚きながら周囲を見回して声の主を探す。そんな二人をジルニトラは呆れ顔で見ていた。


「おっさんってどこのおっさんよ?どう考えてもあの生き物が出してると考えるのが普通でしょう?」

「ええぇ!?マジかよ?」


 ジルニトラの方を見て驚きの顔を浮かべるヴリトラはフッと岩の上から自分達を見ている生物の方に視線を向ける。ラピュス達も一斉に生物の方を見ており、生物は全員が自分の方を見ていると確認し赤い目を光らせた。


「その通りなのだ。この声の主は僕なのだ」

「ぼ、僕?おっさんの声で僕?」

「驚くところはそこじゃないだろう?俺にはこの生物が人間の言葉を喋る事の方が驚きだ」


 声と似合わない言葉づかいをする事に驚くヴリトラと生物が人間の言葉を喋る事に驚くニーズヘッグ。周りにいるラピュス達もニーズヘッグと同感なのか「確かに」と言いたそうに頷く。そんなヴリトラ達のやり取りを気にする事無く生物は話を続けた。


「敵を前に話をしているとは随分余裕なのだ」

「別に余裕って訳じゃねぇよ・・・それより、この森林に棲みついて森林を荒らす奴等を襲っているのはお前なのか?」

「襲うとは人聞きが悪いのだ。僕はちゃんと忠告をしてその忠告を無視した者だけを攻撃しているのだ・・・もしやその事が気に入らなくて僕を消しに来たのだ?」

「別にそんなんじゃない。俺達は別の用事でこの森林に来たんだ」

「フム・・・それでは今度は僕が質問させてもらうのだ。お前達は森林の奥に棲みついている者達の仲間なのだ?」

「棲みついている者?・・・ブラッド・レクイエムの連中か?」


 ヴリトラが訊ねると生物は顔の部分を縦に数回動かした。


「成る程、奴等はブラッド・レクイエムというのだ・・・奴等は突然この森林にやって来たのだ。出て行くよう忠告をした突然見た事の無い武器を使って攻撃して来たのだ。危うく殺されるところだったのだ」

「奴等と戦ったのか?」

「うむ、僕の本能が『逃げろ』と警告して来たのだ。今では住処のある森林の中心には近寄れず、こんな森林の隅で生きる事になってしまったのだ・・・」

「そっか、お前も被害者なんだな・・・」


 生物を見上げながら同情するヴリトラ。周りにいるラピュス達も気の毒そうな顔をしていた。

 ヴリトラ達が黙り込むと生物は再び目を光らせてヴリトラ達を見つめる。


「さて、お喋りはもう終わりにして、戦いの続きをするのだ!」

「ちょ、待て待て待て!俺達はお前達と戦う気は無い!」

「例え君達に戦意が無いとしても、奴等と同じ武器を持つ者達をこのまま見逃す訳にはいかないのだ」

「まいったなぁ・・・と言うかお前、ブラッド・レクイエムの使ってる武器が恐ろしくて逃げたって言っただろう?同じ様な武器とを使う俺達が恐ろしくないのか?」

「いくら同じ武器を使っても、武器の数も使う者の人数も奴等より少ない君達なら恐れる事はないのだ。それに、君達の動きはさっきしっかりと見極めさせてもらったのだ」

「さっきの攻撃はそう言う事だったのか。と言うか、数か少ないから勝てると思われるなんて、俺達も軽く見られたもんだ・・・」


 岩の上の生物を見上げながらヴリトラは森羅を構え直し、他の七竜将のメンバーも一斉に武器を構える。ラピュス達は今戦っている場合なのかを考えながら複雑そうな顔で騎士剣と突撃槍を構えようとしていた。するとラピュスが生物の顔をチラッと見た瞬間に何かに気付き目を見張って驚く。


「・・・ッ!ちょっと待ってくれ!」

「ん?どうした、ラピュス?」


 突然止めるラピュスの方を向いて訊ねるヴリトラ。他の七竜将もラピュスの方を向いて不思議そうな顔を見せた。ラピュスは構えていた騎士剣をゆっくりと下ろして生物の方に近づいて行く。そして岩に乗っている生物を見つめながら口を動かした。


「お前はもしかして・・・『聖賢竜せいけんりゅう』ではないか?」


 ラピュスが聖賢竜と言う事名を口にすると、生物は突然目を見張った。すると木と木の間から光が差し込み生物を照らし、生物の姿はハッキリと見えて来た。体長は350cmほどで全身がライトグリーンの皮膚で覆われており、頭には三本に小さな角。赤い大きな丸い目を持ち、口元からは牙が少しはみ出ている。短く少し太めの四本足に尻尾。そして背中には竜翼りゅうよくが付いていた。そう、生物の正体はドラゴンだったのだ。しかも普通のドラゴンとは違い、どこか可愛らしさのある見た目をしていた。

 自分の正体に気付いたラピュスを見て聖賢竜は丸く大きな目でラピュスを見つめる。


「おおぉ!君は僕の正体を知っているのだ?」

「ええぇ!?声が変わった?」


 聖賢竜の声を聞いてリンドブルムは驚いて声を上げる。勿論、周りにいるヴリトラ達も驚いていた。なぜなら聖賢竜の声がさっきまでの低い男の声から高い男の子の声へ変わったからだ。最初の声が四十代後半ぐらいの声なら、今の声は十台前半ぐらいと言える。

 突然声を変えた聖賢竜にヴリトラはまばたきをしながらラピュスの隣までやって来る。


「ど、どうなってるんだ?さっきと全然声が違うじゃねぇか」

「恐らく、わざと声を低くしていたのだろう」

「わざと?」


 ラピュスの言っている事が分からずにヴリトラは訊き返した。すると聖賢竜が目を閉じて話に参加して来る。


「その姫騎士の言う通りなのだ。森林に入って来る者達に圧力を掛ける為に低い声を出して語りかけていたのだ。こんな高い声では誰も驚かないと思っていたのだ」

「あぁ~、確かにそんな子供みたいな声じゃあ迫力は無いよなぁ・・・」


 聖賢竜の話を聞きヴリトラは苦笑いを見せて自分の方を指で掻いた。そこへ今度はリンドブルムがヴリトラの近くまで歩いて来て聖賢竜を見上げる。


「それにしても、モンスターなのに人間の言葉がペラペラだね?」

「それはそうですよ。何しろ聖賢竜ですから」


 リンドブルムが意外に思っているとアリサが聖賢竜を見つめながら小さく微笑んで言った。


「聖賢竜はヴァルトレイズ大陸に生息するドラゴンの中で人間の言葉を理解する最も賢いと言われているんです。そしてその中でも特に知性の高い聖賢竜は言葉を理解するだけでなく、人間の言葉を学習して喋る事ができるとか・・・」

「人間の言葉を喋るドラゴン、それがコイツって訳か・・・」

「ハイ、モンスターの中では人間と友好的な数少ない存在なんです。何しろ昔は人間と共に生活してたくらいですから」

「へぇ~」


 話を聞いたヴリトラは意外そうな顔で聖賢竜を見つめる。


「でも、数十年前から聖賢竜は数が減って行き、今では数えるくらいしか存在していないとか・・・」

「そうなのだ。僕達は寿命が他のドラゴンよりも短い故にすぐに命を落としてしまうのだ。しかもドラゴンの中でも知性がある分、戦いが苦手で他のドラゴン達の恰好の獲物になってしまうのだ」

「戦いが苦手って、さっきは思いっきり俺達を攻撃して来たじゃねぇか」


 ジャバウォックが先程の戦いを思い出して聖賢竜に言うと聖賢竜はジャバウォックの方を向いた。


「あれは君達が人間だからなのだ。人間相手なら自分の身を守る程度の力だけでも何とかなるのだ。でも、他のドラゴンや凶暴なモンスターが相手ではそうもいかないのだ」

「だから、この森林で隠れ様に暮らしていたって訳か」

「そして、自分が静かに暮らすこの森林を荒らす者達を襲って追い出していたと・・・」

「その通りなのだ」


 ジャバウォックとオロチの言っている事を認めて目を閉じながら頷く聖賢竜。聖賢竜の様なドラゴン達も生きて行くの必死なのだとヴリトラ達は感じ、黙って聖賢竜を見つめている。

 そんな話をしていると、聖賢竜はゆっくりと目を開いてヴリトラ達をジッと見つめながら前足の位置を少しだけずらした。


「・・・さぁ、もうお喋りは終わりにするのだ。戦いを続けるのだ!」

「ま、待って!私達は貴方と戦う気は無いの、この森林にある基地を調べてそれを破壊しに来ただけなの!」

「さっきも言ったのだ。奴等と同じ武器を持つ君達をこのまま逃がす訳にはいかないのだ。放っておけば、いつかはこの森林の大きな災いをもたらす存在になりかねないのだ」


 アリサの説得も聞かずに聖賢竜を戦闘態勢に入る。そんな状況に七竜将は頭を悩ませた。


「ハァ・・・俺達よりもブラッド・レクイエムの方が明らかに危険なはずなのに、どうして奴等じゃなくて俺達に敵意を向けるのかなぁ・・・」

「それはやっぱりあれじゃない?人数や武器が僕達よりも多く危険だから手が出せずに人数の少ない僕達を狙ってるんだよ」

「あとは、ブラッド・レクイエムに襲われた時の腹いせに俺達を倒そうとしているのか・・・」


 溜め息をつくヴリトラとリンドブルムとニーズヘッグは小声で話し掛ける。ヴリトラは敵意を向けている聖賢竜を「やれやれ」と言いたそうな顔で見ていた。


「どうするの、ヴリトラ?このままじゃ何時まで経ってもブラッド・レクイエムの基地に辿り着けないよ?」

「もうこの際だ、コイツを倒して先へ進むか?」

「いや、それはマズイ。アリサも言ってただろう?聖賢竜は数の少ないモンスター、言わば絶滅種なんだ。そんなモンスターを傷つけて何か遭ったら後から面倒だ」

「じゃあどうするんだよ?」


 ヴリトラは聖賢竜を見つめながらどう対処するか考え始める。そうしている間に聖賢竜は岩から飛び降りてヴリトラ達は鋭くなった目で見つめて歩み寄って行く。ラピュス達は武器を構えて戦闘態勢に入るが聖賢竜の存在価値を考えると抵抗できない。ラピュス達は表情を歪ませながら構え続けた。


(どうする?傷つけるのがマズイ生き物を大人しくさせてこの場を治める方法は・・・・・・あっ!)


 頭の中で方法を考えていたヴリトラは何かを閃いたのかフッと顔を上げた。そしてゆっくりと聖賢竜の方へ歩き出す。


「ヴリトラ?」

「何をする気なの?」


 突如聖賢竜の方へ歩き出すヴリトラに驚くラピュスとリンドブルム。他の者達も驚いてヴリトラを見ており、ヴリトラは歩きながらラピュス達の方を向いてニッと笑う。それは「心配するな」と伝えている様に見えた。

 聖賢竜は静かに近づいて来るヴリトラを見て足を止めてヴリトラを見つめながら警戒している。


「どういうつもりなのだ?敵を前に正面から歩いて来るとは・・・しかも一人で来るなんて、君一人で僕と戦うつもりなのだ?」


 ヴリトラを見つめながら聖賢竜は尋ねるがヴリトラは返事をしない。そのまま近づいて行き、ヴリトラは聖賢竜に攻撃をするかと思われた。だが、ヴリトラは聖賢竜の真横を通過しそのまま聖賢竜が乗っていた大きな岩の前までやって来る。


「んん?何のつもりなのだ?」


 自分を無視して岩の前で立ち止まるヴリトラを見て聖賢竜は不思議に思う。勿論ラピュス達もヴリトラが何をするのか分からずにいる。するとヴリトラは森羅は鞘に納め、右腕を前に出して左腕を引き、右足を前に出す。それは格闘技の構えだった。構えたヴリトラはゆっくりと深呼吸をし目を閉じて意識を集中させる。周りが黙り込み、森林に風が吹いて草が揺れ、ラピュス達はただジッとヴリトラの背中を見ていた。だが次の瞬間、ヴリトラは目を見開いて目の前の岩を見つめる。


「鉄拳、鬼殺し!」


 ヴリトラは勢いよく左手で正拳突きを放ち目の前の岩を殴る。するとヴリトラが殴った箇所から岩全体に罅が入り、岩は大きな音を立てて崩れた。その光景を目にした聖賢竜やラピュス、ララン、アリサは驚いて目を丸くする。


「あ、あの岩をパンチ一つで・・・」

「ヴ、ヴリトラさんのパンチってあんなに凄かったんですか?」

「ハハハ、そりゃあ機械鎧で殴ってるからな」


 ラピュスとアリサがヴリトラのパンチ力に驚いているとジャバウォックは腕を組みながら笑ってヴリトラを見ながら二人の説明し始めた。


「俺達機械鎧兵士はナノマシンで身体能力は強化されているが、所詮は生身だ。機械鎧でパンチやキックを放てば威力は生身とは比べもののならない」

「じゃあヴリトラが今まで右手でパンチを放ったのは・・・」

「人間相手に機械鎧である左手で鬼殺しを撃ち込めば、確実に死んじまうからな。手加減してたんだろう」


 今までヴリトラが右手だけでパンチを撃っていた理由を知って姫騎士三人は意外そうな顔でヴリトラの方を見る。リンドブルム達は長い付き合いである為、その理由を知っていたせいか全く驚いていない。

 岩を破壊したヴリトラは振り返って聖賢竜の方を向く。そこには驚きの光景を目にして固まっている聖賢竜の姿があった。


「さて、準備運動も済んだし・・・・・・続きをやるか?」

「・・・・・・」


 聖賢竜はニッと笑うヴリトラを見て震えている。どうやらヴリトラの強さを理解して自分では勝てないと感じたようだ。聖賢竜は後ろに一歩下がりその場に伏せてヴリトラを見つめた。


「こ、降参するのだ。貴方は僕よりも強いのだ・・・」

「何だよ、さっきまでの勢いをどうしたんだ?遠慮はいいから全力で来いよ」

「いやいや、僕のドラゴンの本能が貴方と戦ってはいけないと訴えて来ているのだ。だから、負けを認めるのだ。これ以上は攻撃しないのだ」

「・・・フゥ、やっぱり獣を大人しくさせるには力の差を見せつけるのが一番か」


 降参した聖賢竜を見てヴリトラは両手を腰に当てる。ヴリトラは傷つけてはいけない聖賢竜を大人しくさせる為に聖賢竜の本能を利用する事を考えた。自分よりも力の強い相手に逆らうのはマズイと言う事を聖賢竜に分からせる為に自分より大きな岩を破壊したのだ。

 聖賢竜が大人しくなるとラピュス達も武器を収めて聖賢竜の周りに集まり聖賢竜を見回す。


「改めて近くで見ると、意外と大きいいな?」

「うん、それによく見ると可愛いね」


 大きさに驚くニーズヘッグと愛嬌のある顔に見惚れるファフニール。他の者達もそれぞれ聖賢竜を見回しては驚いたりなどしていた。


「あぁ~~オホン!」


 ラピュス達が聖賢竜を見ているとヴリトラは大きな声で咳き込み一同の注目を集めた。そしてヴリトラは真面目な顔で聖賢竜を見つめる。


「・・・さてと、お前には色々訊きたい事があるんだ。特に、ブラッド・レクイエムの事についてな・・・」


 真面目な顔でブラッド・レクイエム社の事を聖賢竜に訊ねようとするヴリトラを見てラピュス達も自分達の目的を思い出して真面目な顔になる。聖賢竜は伏せた状態のまま不思議そうにヴリトラの顔を見てた。

 森林に棲みついている生物の正体が聖賢竜だと知り、これを大人しくさせたヴリトラ達。彼等は聖賢竜からブラッド・レクイエム社の情報を得る為に話を聞く事にする。一体、森林にある基地はどんな物なのか、そして聖賢竜は何を知っているのか・・・。


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