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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十二章~戦慄の要塞補給基地~
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第二百十二話  新たな救援任務 姫騎士達の覚悟と進む道

 突如ズィーベン・ドラゴンに訪ねて来たパティーラム。また何か仕事の依頼かと考えながらヴリトラ達はパティーラムを出迎える。この時の七竜将やラピュス達はまだこれから起こる大事件の事など全く想像していなかった。

 来客用のフロアでヴリトラ達はパティーラムと護衛のガバディアとレレットを迎える。三人を来客用のテーブルに招き、ジルニトラは三人の紅茶を出した。三人は寒かったのか出された紅茶を飲んで落ち着いた表情を見せる。


「・・・フゥ、ありがとうございます」

「いいえ」


 紅茶を出してもらいジルニトラに礼を言うパティーラム。ジルニトラもそんなパティーラムに笑顔を返した。ヴリトラは三人と向かい合う形で席に付き、三人の方をジッと見つめている。


「それでパティーラム様、今日はどんな御用で?」

「・・・ハイ、実は昨日セメリト王国から手紙が届いたのです。そこには救援を求める内容が書かれており、そのお仕事を皆さんにお願いしたくてやってまいりました」

「救援?・・・もしかして、またブラッド・レクイエムに騎士達をさらわれてその救援を?」

「いいえ、今回は騎士の方々はさらわれてはいません。ただ、ブラッド・レクイエムが関係しているのは間違いないようです・・・」

「アイツ等、また何か仕出かしやがったのか・・・」


 次から次へと問題を起こすブラッド・レクイエム社にヴリトラの後ろでジャバウォックが呆れ顔で言う。周りにいるリンドブルム達も似たような顔をしていた。


「・・・今回はセメリト王国では手に負えない内容なので、こちらだけで何とかしてほしいとの事です」

「つまり、今回の依頼ではセメリト王国は一切手を貸す事ができないと?」

「ええ・・・」

「どういう事なんですか?そっちから依頼しておいて手を貸せないって?」


 納得のできないジルニトラは紅茶を運んだお盆を持ったまま少々不機嫌そうな声を出す。


「落ち着け、ジル。姫様に言っても仕方がないだろう・・・」

「そりゃあそうだけど・・・」


 宥めるオロチの言葉を聞きジルニトラは不服そうな顔で黙る。それを見たヴリトラはパティーラムに目で「すみません」と伝えて話を戻した。


「それで依頼の内容は何なんです?」

「三日前にセメリト王国の南部にある『ノーティンク大森林』の中に奇妙な建物があると大森林でお仕事をされていたきこりの方から報告を受けたらしいのです」

「ノーティンク大森林・・・」


 ヴリトラの後ろに立っているラピュスが森林の名前を呟き、それを聞いたヴリトラはラピュスの方を向いた。


「知ってるのか?」

「ああ、セメリト王国の中でも最も大きな森林だ。あまりのも広く、一度は迷ってしまうと二度と出て来れないと言われており『幽閉の森林』とも呼ばれている」

「二度と外には出れない迷いの森林か・・・それで、その森林の中にその奇妙な建物があるんですか?」


 ラピュスから森林の話を聞いたヴリトラは確認する様にパティーラムの方を向いた訊ねた。


「ハイ、その建物は森林の中央にあり、見つけた樵の方の話では気味が悪く近くで見る事はできなったと聞いたと手紙に書かれてありました。ただ見た事の無い作りだったと・・・」

「その報告を受けたセメリト王国は騎士団の一個小隊を偵察に向かわせたらいいのだが・・・その偵察隊は一日経っても戻ってこなかったそうだ・・・」


 ガバディアの口からセメリト王国の騎士隊が戻って来なかったと聞かされたヴリトラ達の表情が鋭くなる。この時点でヴリトラ達はその騎士隊が襲われたと確信していたのだ。


「・・・その見た事の無い作りをした建物がブラッド・レクイエムの物なのかは現物を見てみないと分かりません。だけど、奴等が関わっている可能性は高いでしょうね」

「ですから、皆さんに依頼をしに伺ったのです。依頼の内容はノーティンク大森林へ向かいその奇妙な建物の調査、そしてそれがブラッド・レクイエム、もしくはセメリト王国に危害をもたらす存在の物であれば破壊、もしくは制圧する事です・・・引き受けて頂けますか?」


 パティーラムが難しい顔をしているヴリトラに訊ねるとヴリトラはパティーラムの方を向いて頷いた。


「分かりました。ただし、セメリト王国が手を貸してくれないとなるとその分報酬は高くさせて頂きます・・・」

「ええ、もし七竜将が引き受けた場合は報酬額は皆さんの望まれる額をお支払いすると手紙に書かれてありました」

「フッ、既に俺達が引き受ける事まで計算してたって訳ですか・・・」


 セメリト王国の計算にヴリトラは小さく笑って立ち上がる。周りのリンドブルム達も断る気は無いのか黙ってパティーラムの方を見ていた。


「それじゃあ準備なんかもありますので、明日の朝にセメリト王国へ向かいますが、それでもいいですか?」

「ハイ、お願いします」

「ええ・・・ラピュス、お前達も来るんだろう?」


 チラッとラピュスの方を向いてヴリトラが訊ねるとラピュスは真面目な顔で頷く。


「当然だ。私達はどんな時でもお前達と共に戦う、そう言ったはずだ」

「ハハ、そうだったな」


 ラピュスの反応にヴリトラはニッと笑う。だがすぐに真面目な顔を見せて話を続ける。


「ただし、今回は俺達七竜将以外にはお前を含めて、そうだな・・・三人、合計十人だけで行く」

「なぜだ?その建物がブラッド・レクイエムの物なら破壊するのだろう?それなら白竜遊撃隊を全員連れて行った方がいいだろう?」

「いいや、逆だ。少人数の方が動きやすい。もし、その建物がブラッド・レクイエムの物ならきっと戦力も相当な物だろう。それに奴等の物となるとどんな仕掛けや罠があるか分からない。そんなところに大人数で近づいたらすぐに見つかって動けなくなる。それなら少人数の方が見つかり難く動きやすい」

「・・・確かに一理あるな」


 ヴリトラの説明を聞いていたガバディアが腕を組んで納得する。隣にいるパティーラムやレレットもヴリトラの頭の回転に驚いて彼をジッと見つめていた。


「・・・分かった、私を入れてあと二人だな。なら残りは・・・」

「・・・私が行く」


 ラピュスの後ろに控えていたラランが一歩前に出て名乗り出た。その場にいた一同は一斉にラランの方を見る。


「本気か?」

「・・・うん」

「ララン、今回はやめておいた方がいいんじゃねぇのか?今度は今までの様に少人数の敵と戦うだけじゃねぇ、敵の拠点に向かう訳だから周りは敵だらけなんだぞ?」

「ああ、それに今回は敵の拠点に潜入する訳だから。下手をすれば敵に囲まれてお終いだ」

「・・・それで?」


 説得するジャバウォックとニーズヘッグにラランは無表情のまま訊き返した。


「お前はまだ若い、死ぬにはまだ早すぎる。今回は残った方がいい」

「・・・リブルは?」

「コイツは既に戦士として多くの修羅場を生きて来たんだ。それに何度も敵の拠点に潜入したりして慣れているからな」

「・・・私も姫騎士、戦士として生きて来た、死ぬ覚悟はできてる」

「そう言う事を言ってるんじゃない。お前はまだ・・・」


 ニーズヘッグがラランを止めようと説得を続ける。するとリンドブルムがニーズヘッグのズボンを引っ張って彼を呼んだ。


「・・・ニーズヘッグ、行かせてあげれば?」

「リブル、何を言うんだ」

「言ったでしょう?ラランも姫騎士として生きて来たんだって?それに、彼女はもう一般の機械鎧兵士となら互角に戦えるようになってるんだし、連れて行ってあげようよ」

「あのなぁ、敵の基地に向かうんだぞ?敵兵と互角に戦えるようになっても囲まれたら意味ないだろう?」

「・・・僕が常にラランと行動を一緒にするよ。彼女は僕が守る、だから連れて行ってあげてよ」


 リンドブルムのラランを連れて行こうという提案にニーズヘッグやジャバウォックは納得の行かない顔で彼を見下ろす。ジルニトラも困り顔でリンドブルムとラランを見ており、ゆっくりと視線をヴリトラに向けた。


「ヴリトラ、どうする?」

「・・・・・・いいんじゃないか?リブルが守るって言ってるんだし」

「ええぇ?」

「ヴリトラ、お前まで何を言い出すんだ?」


 驚くの表情を浮かべるジルニトラとジャバウォック。するとヴリトラは笑いながらリンドブルムを見つながら言った。


「ラランだってこれまで多くの機械鎧兵士と戦って経験を積んで来たんだ。少なくとも足手まといにはならないさ」

「しかし、今回はなぁ・・・」


 いまいち納得のできないジャバウォックは腕を組んでラランを見る。ラランはただ無表情のままジャバウォック達を見上げていた。


「それに、彼女も姫騎士、戦場で命を落とす覚悟はできているって本人が言ってるんだ。生半可な気持ちの女の子はそんな事は言わないさ」

「うん、僕もそう思う」


 ヴリトラとリンドブルムがラランの覚悟を感じてジャバウォックを説得する。ジャバウォックとしては嘗て娘を失った過去もあり、ラランと自分の娘達を重ねて見ているのだろう。それが原因でラランを今回の依頼に同行させる事に抵抗を感じていたのだ。

 ジャバウォックが難しい顔で考えているとリンドブルムが再びジャバウォックのズボンを引っ張った。


「お願い、ジャバウォック。ラランは僕が命をかけて守るから」

「・・・・・・仕方ねぇな。分かったよ」

「本当?」

「ああ、これ以上はラランの姫騎士としての誇りと覚悟を汚す事になりそうだからな」

「よかったね?ララン」

「・・・うん」


 笑顔でラランに方を見るリンドブルムにラランは無表情のまま頷く。


(・・・戦場に行ける事をよかったって笑いながら言う事かしら?)


 リンドブルムの笑顔を見ながらジルニトラは苦笑いしながら心の中で呟く。ラピュスやパティーラム達も微妙な顔でリンドブルムとラランを見つめていた。


「さて、これで二人決まったけど、残りの一人はどうする?」

「残りは・・・」

「私が行きます!」


 突如玄関から聞こえて来た大声に一同は反応し一斉に振り向いた。そこには普段の騎士の鎧ではなく、長袖にロングスカートを履いた私服姿のアリサが息を切らせて立っている姿があった。

 玄関の前に立ち自分達を見ているアリサに少し驚きながらヴリトラ達は目を丸くする。


「ア、アリサ、どうして此処にいるんだ?確か休暇のはずじゃ・・・」

「姫様達の馬車がズィーベン・ドラゴンに向かっているのを見て、また何か事件が起きたのだと思い走って来たんです。ハァハァ・・・」

「そ、そうなのか・・・」


 息を切らせながら少し興奮した様子にアリサに驚きながらラピュスは苦笑いを見せる。するとレレットがアリサを呆れ顔で見つめながら口を動かす。


「アリサ・レミンス、姫様の前よ?冷静になりなさい」

「え?・・・あっ!し、失礼しました!」


 状況を思い出したアリサは慌ててパティーラムの方を向き頭を下げて謝る。レレットとガバディアは「やれやれ」と言い倒すに呆れ果てていた。


「ま、まぁまぁ、とりあえずアリサさんもこちらへ・・・」

「ハ、ハイ!」


 苦笑いをしながらアリサを呼ぶパティーラム。アリサもかしこまりながらヴリトラ達の下へ移動した。


「・・・それで、どうして自分が行くなんて言い出したんだ?」


 ラピュスが隣までやって来たアリサの方を向いて志願した理由を訊ねた。


「そ、それは勿論、私も白竜遊撃隊の一員ですし、ヴリトラさん達と長い間戦場を共にしていましたから、私が一番適任だと思ったんです」

「だが、今回の任務は今までとは比べものにならない位危険なものなんだ。下手をすれば命を落とす可能性だってある。それでもついて来る気なのか?」

「勿論です!」

「お前にはご両親がいるだろう」

「それなら、隊長だってお母さんがいるじゃないですか」

「母は私に騎士として自分の信じる道を進めと言ってくれた。あの人は私が何時戦場で命を落としてもおかしくないと覚悟されている」

「私の両親だって同じです。ですから、私も私の信じる道を進んで行きます。私の信じる道、それは隊長やラランと共に戦い、この国の為に尽くす事なんです。私は、何処までも隊長達と一緒です!」

「アリサ・・・」


 自分とラランと共に戦う事か自分の進む道、それを聞いたラピュスは少し驚いた様な目でアリサを見つめて名前を呟く。周りのヴリトラ達もそんなアリサの気持ちを知って少し驚いている。


「例え隊長はついて来るなと言っても、私は勝手について行きますからね?」

「・・・・・・ハァ、これ以上は何を言っても無駄と言う事か」

「え?それじゃあ・・・」

「ああ、一緒に行こう」

「・・・ハイッ!」


 七竜将に同行する三人目の人材が決まり、ラピュスはヴリトラの方を向く。それを見たヴリトラは頷き、パティーラムの方を向いた。


「決まったようですね?」

「ええ、早速明日の朝にセメリト王国に向かいます」

「分かりました。皆さんはセメリト王国の領内に入りましたらノーティンク大森林の近くにある『マグン』と言う町へ向かってください。そこに建物の調査をするカイネリア・アリーヤス殿の騎士隊が駐留していると手紙に書かれてありました。まずはその方からお話を聞いてください」

「カイネリア・・・ああぁ、彼女か」

「確か前のセメリト王国の救援の時に会った姫騎士だったよね?」


 前の救援依頼の時に出会ったカイネリアの事を思い出すヴリトラとリンドブルム。ラピュスや周りにいるララン達も思い出して「あぁ~」という顔になった。


「親書の内容ではマグンの町で情報をお話した後は全て皆さんにお任せすると書かれたありました」

「それはつまり、森林の中に入ったら後か俺達の自由にやってくれて構わなうと言う事なんですね?」

「逆に、森林の中で何が起きてもセメリト王国は力を貸す事はできないと言う事になるな・・・」


 森林に入れば全てはヴリトラ達の力だけで何とかしなくてはならない。それを確認する様にヴリトラとラピュスは呟く、リンドブルム達も真面目な顔になった。ヴリトラはゆっくりと立ち上がり、周りにいるリンドブルム達に指示を出す。


「よし、早速準備に入るぞ。今回は流石に何が起きるか分からないからジープとバンを二台とも使う。残りの燃料と弾薬、食料のチェックをしてくれ!あと全ての武器のメンテナンスもな!」

「「「「「「了解!」」」」」」

「ラピュス、お前達も明日の準備をしておけ。それから、この事は他の白竜遊撃隊の隊員達には知らせるなよ?」

「ああ、分かった」

「・・・うん」

「ハ、ハイ!」


 ヴリトラの指示を聞いてそれぞれ動き出すリンドブルム達と話を聞いて真剣な顔で頷くラピュス達。彼等の行動を見てパティーラムも真面目な顔で彼等を見つめている。


(・・・ヴリトラさん、ラピュスさん、皆さん、どうか無事に帰って来てください)


 心の中でヴリトラ達が無事に帰って来る事を願うパティーラム。その両脇ではガバディアとレレットも真剣な表情でヴリトラ達を見つめている。二人も心の中ではヴリトラ達が無事に帰って来る事を願っているのだろう。

 パティーラムから依頼された新たな仕事。セメリト王国の大森林の中に建っていると言われている謎の建物、それにブラッド・レクイエム社が関わっていると確信する七竜将、果たしてその建物は何なのか、そしてどんな戦いが彼等を待ち受けているのだろうか。


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