第二百十話 終わりを迎える同盟会談
ブラッド・レクイエム社との戦いが終り、ワズロの町は静かになった。だがその戦いで出た犠牲者は多く、悲しむ者も少なくない。ヴァルボルトとローシャルの両王はこれ以上ブラッド・レクイエム社によって罪の無い者達が犠牲にならないようにする為にも、お互いに助け合う為に正式に同盟を結ぶ事を決意するのだった。
戦いが終って瓦礫や遺体などの片づけを行う町の住民達。騎士達もその作業を手伝い、一通りの終わった時には既に夕方になっていた。ヴリトラ達も作業を手伝っていたが、それも終わり、レヴァート王国とストラスタ公国の同盟や今後の事についての話し合いをする為に虹色亭に戻って会談を再開する。会談室ではレヴァート王国側とストラスタ公国側が向かい合って円卓に座り、話し合いをしている姿があった。
「以上の内容で同盟を結ぶ事になりますが、よろしいでしょうか?」
「構いません。寧ろ我々にとってはありがたい内容です」
ヴァルボルトが羊皮紙に書かれてある内容を確認し、それを聞いたローシャルは頷いた。周りではヴリトラ達やパリーエ達が静かに会談を見守っている姿がある。
同盟の内容は「ブラッド・レクイエム社が関係している事件や戦いがどちらかの国で起き、助力を求めて来た場合は力を貸す」「ブラッド・レクイエム社の情報が手に入った場合はすぐに同盟国に知らせる」「ブラッド・レクイエム社と互角に戦う為に両国の技術や知識を提供し、今後両国の人間が相手国を行き来するのに複雑な審査などを無くす」というものだった。まだいくつか細かいものがあるがブラッド・レクイエム社との戦いにおいて重要なのはこの三つと言える。
「この同盟を機に先の戦争で作られた上下関係などは無くし、また一からやり直して行きましょう」
「申し訳ない、殆どがこちらに都合のいい内容で同盟を結ぶ形になってしまい・・・」
申し訳なさそうな顔のローシャルを見てヴァルボルトは笑いながら首を横に振り「気にしないでほしい」と伝える。ローシャルはそんなヴァルボルトの慈悲深さに笑みを浮かべて頭を下げた。隣に座っているパリーエもローシャルと同じように頭を下げ、ヴァルボルトやパティーラムも小さく微笑む。
ヴァルボルトとローシャルの話し合いをヴリトラ達は部屋の隅に立って見守っていた。今回は七竜将全員が会談に参加しており、離れた位置ではザクセンとビビット、黄金近衛隊も控えている。そしてストラスタ公国側ではポーリー達白薔薇戦士隊の姫騎士が控えていた。
「これでブラッド・レクイエムと戦う為の心強い仲間ができたな」
「ああ、前の戦争での事も全て水に流されたし、また一から友好関係を築く事ができる」
ヴリトラとラピュスは小声で両国の今後の関係について話をする。リンドブルム達も二人と同じ事を考えていたのか小さく笑ってヴァルボルトとローシャルの会話を見守っていた。
「・・・ところでヴァルボルト王、一つ頼みがあるのですが・・・」
「ん?何ですかな?」
ローシャルが頼みがあると言い出しヴァルボルトは尋ねる。ヴリトラ達もそれを聞いて一斉にローシャルの方を向く。ローシャルは一度静かに深呼吸をし、真剣な顔でヴァルボルトの顔を見る。
「我々は今日より共にブラッド・レクイエムと言う強大な組織と戦う同胞という事になりました。ですが、我々には彼等に対抗する為に技術も知識もありません」
「ええ、分かっております」
「そこで、今後ブラッド・レクイエムが襲撃して来ても戦えるように今回の戦いで倒したブラッド・レクイエムの兵士達の持っていた武器や装備品などを我々に分けて頂きたいのです」
「あの銃と呼ばれる武器などの事ですか?」
「その通りです」
ブラッド・レクイエム社と戦う為に銃器を分けてほしい、その申し出を聞いたヴァルボルトは難しい顔を見せ、ヴリトラ達も真剣な顔でローシャルを見つめている。確かにいくら技術と知識を提供したとしても銃器などを使うブラッド・レクイエム社に勝つのは難しい。そうなると、彼等より優れた武器や同等の力を持つ武器を手に入れるしかない。そう考えたローシャルは銃器などを分けてほしいと申し出て来たという訳だ。
同盟を組んだ以上は技術や知識だけではなく、武器なども分け合う必要がある。ヴァルボルトは難しい顔で考えた後にチラッと後ろに控えているヴリトラの方を向く。それに気づいたヴリトラはヴァルボルトの方をしばらく見つめており、やがて黙って頷いた。それを見たヴァルボルトも頷き、再びローシャル達の方を向く。
「分かりました。今回の戦いで倒したブラッド・レクイエム社の兵士達が持っていた武器はそちらにお渡ししましょう」
「おおぉ!ありがとうございます!」
強力な武器が手に入る事になりローシャルやパリーエ達に顔に笑みが浮かぶ。
ローシャル達が喜ぶ姿をヴリトラは黙って見つめており、そんな彼の腕をラピュスが指で突く。
「ヴリトラ、よかったのか?ストラスタ公国の人達に銃器を渡してしまって?」
「仕方ないだろう?同盟を組んだ以上は武器なども分けるしかないし、彼等はブラッド・レクイエムから宣戦布告を受けちまった。つまり、これからはブラッド・レクイエムから容赦の無い攻撃を受けるって事になる。それなら奴等に対抗できる力がストラスタにも必要だ」
「しかし、銃器などを手にすれば何かと問題に巻き込まれる可能性があるからあまり多くの人に持たせてはいけないとお前が・・・」
「既にブラッド・レクイエムに目を付けられたんだ。これ以上の問題はないだろう?」
「た、確かに・・・」
ヴリトラの言葉に納得するラピュスは複雑そうな顔を見せる。すると今度はリンドブルムがヴリトラを見上げながら会話に参加して来た。
「でもさぁ、武器を渡すのはいいけど、その後はどうするの?使い方が分からなかったら宝の持ち腐れだよ?」
「確かにそうだな。そっちの方はどうするんだ?」
リンドブルムの言葉にジャバウォックも同意してヴリトラに訊ねる。するとヴリトラはジャバウォックの方を向いてローシャル達を右手の親指で指す。
「そりゃあ教えるしかないだろう」
「教える?」
「ああ、この会談が終ってから俺達が帰るまでの間にみっちりと使い方を叩き込むしかない」
「おいおい、そんな短時間で使い方をマスターできると思ってるのか?」
あまりにもヴリトラの無茶な考えにジャバウォックは呆れ顔で訊き返す。
「他に方法があるのか?」
「俺達の中で誰かをストラスタ公国に残して使い方を教えるっていうのはどうだ?」
「いや、それはやめておいた方がいい」
ジャバウォックが提案するとニーズヘッグが会話に参加して来てヴリトラ達は一斉にニーズヘッグの方を向く。
「どうしてだよ?」
「ブラッド・レクイエムにとって最も目障りな存在は俺達が拠点を置くレヴァート王国だ。もし俺達の分かれてしまったら奴等はその隙を突いてレヴァート王国に襲撃して来るかもしれない。何より、戦力が分断すると俺達も危ない」
「そんなのアイツ等に気付かれない様にやればいいじゃない?」
ジルニトラも会話に参加してブラッド・レクイエム社に気付かれない様に戦力を分ければいいと言う。どうやらジルニトラもジャバウォックの意見に賛成の様だ。すると今度はオロチが腕を組みながら口を動かした。
「奴等の情報網は優れている。何らかの方法で色々な国の情報を掴んでいるはずだ。私達の動きも奴等にバレる可能性は十分ある・・・」
「い、言われてみれば・・・」
オロチの説明に納得したジルニトラはジト目でオロチの方を見る。二人の近くにいるファフニール、ララン、アリサも難しい顔で話を聞いていた。ヴリトラ達が小声で話しながらどうやってストラスタ公国に銃器の使い方を教えるのか悩んでいるとヴァルボルト達は会談を更に進めていく。
「・・・それから、もう一つお話ししておきたい事があります」
「何ですか?」
真剣な顔で次の話へ移るヴァルボルトにローシャルは不思議そうな顔を見せる。
「実は数週間前に我が国の領内でデガルベル鉱石が発見されたんです」
「な、何と!あのデガルベル鉱石が!?」
以前ヴリトラ達が見つけた悪魔の鉱石と言われているデガルベル鉱石の事を聞かされてローシャルは思わず席を立つ。パリーエやポーリー達も驚き表情を固めた。ヴリトラ達はデガルベル鉱石の事を話したヴァルボルトを意外そうな顔で見つめている。
「あの五十年前に各国が軍事利用していたというデガルベル鉱石がレヴァート王国に?」
「ハイ、鉱石の存在が明るみに出ると大陸中で大騒ぎになると思い隠していたのです」
「驚きましたな・・・」
落ち着いたのかローシャルはゆっくりと椅子に座り深呼吸をする。パリーエ達も落ち着きはしたが小声で何かを話している。ローシャル達を見てヴァルボルトは再び静かに口を動かした。
「これから我々はブラッド・レクイエムと戦うのと同時に彼等と契約を結んでいる神聖コラール帝国をも敵に回す事になるでしょう。彼等はこのヴァルトレイズ大陸で最大の国家です。そうなってしまっては我々はたちまち不利になる。そうならない様にする為にもデガルベル鉱石を何かの保険としてお持ちになった方がよろしいと思いましてな」
「それで、デガルベル鉱石を我々に・・・?」
「ええ、現在我が国では30kgのデガルベル鉱石を三箇所に分けて保管してあります。その内の10kgをそちらにお渡ししようかと・・・」
「そうですか、分かりました」
「ただ、この鉱石の存在は明るみに出ない様にお願いします」
「勿論、その事は承知しております」
デガルベル鉱石がどれ程の価値があり、どれ程危険な鉱石なのかをヴァルボルトとローシャルは十分理解している。故に明るみに出ると大騒ぎになる事も分かっている為、両国の間の密約と言う形になったのだ。ヴリトラ達もこの状況ならデガルベル鉱石の存在をストラスタ公国に伝え、渡しておくのが得策だと考えて納得の態度を見せている。
デガルベル鉱石の話も終わり、次の課題に移ろうとした時、突然会談室の扉が開き、一同は一斉に扉の方を向く。そこにはボロボロの姿の青銅戦士隊の男性騎士の姿があった。その後ろには突然やって来た男性騎士を止めようとしたのか外で待機していた近衛騎士が二人がある。
「へ、陛下!ヴァルボルト陛下ぁ!」
「お前は我が国の・・・一体どうしたのだ?それにその怪我はどうした?」
ザクセンが男性騎士の姿を見て驚きながら訊ねる。男性騎士の姿を見た時点で、ザクセンは勿論、会談室にいるヴリトラ達も全員が何か遭ったのだと確信する。男性騎士は息を乱しながら膝まづき、顔を上げてヴァルボルトの方を向いた。
「ほ、報告します!デガルベル鉱石の保管場所であるギルギム砦がブラッド・レクイエムの襲撃を受けました!」
「何だと!?」
デガルベル鉱石を保管場所がブラッド・レクイエムに襲撃されたと聞かされヴァルボルトは驚きながら立ち上がり、ヴリトラ達も驚愕の表情を浮かべる。
「保管場所の一つが襲撃された!?本当なのか?」
「ハ、ハイ!昨晩、突然ブラッド・レクイエムと思われる集団から攻撃を受けて砦の守備隊は壊滅し、保管してあったデガルベル鉱石が奪われました!」
「バカな!ギルギム砦の守備隊は白銀剣士隊の二個中隊と青銅戦士隊の三個小隊で編成されていたはずだ。それが壊滅だと・・・?」
ギルギム砦に投入されていた守備隊が壊滅した事が信じられないザクセンは思わず大きな声を出す。これにはヴァルボルトやパティーラム、ビビットも驚きのあまり言葉を失い男性騎士を見つめている。
男性騎士の報告を聞いてヴリトラ達も驚いており、その中でヴリトラは男性騎士から詳しい事を聞く為にゆっくりと近づいて姿勢を低くする。
「・・・その格好からして、アンタはその守備隊の生き残りなんだろう?何が遭ったのかもっと詳しく教えてくれ」
「ハ、ハイ・・・昨晩、突然奴等は大きな鉄の馬車や鉄の鳥を使って陸と空の両方から奇襲を仕掛けてきました。必死に抵抗しましたが奴等の力の前に我々は手も足も出ず、砦に侵入して来た敵兵も強く精鋭の白銀剣士隊をも一方的にやれて行き、そのまま・・・」
男性騎士の説明を聞いたヴリトラ達は鉄の馬車がM1戦車、鉄の鳥がヴェノムだと気付き表情を鋭くする。いくらレヴァート王国の精鋭騎士隊である白銀剣士隊でもBL兵達に勝てるはずがないと考えヴリトラは悔しそうな顔をする。だが、ヴリトラ達はそれ以前に驚いている事があった。それは・・・。
「奴等、どうやってデガルベル鉱石の情報を知ったんだ?」
「いくらブラッド・レクイエムの情報網が優れているとしても、存在を隠していたデガルベル鉱石の存在を奴等が得られるはずがないからな・・・」
ヴリトラとニーズヘッグはブラッド・レクイエム社からどのようにしてデガルベル鉱石の情報を得たのかその理由が分からずにいた。デガルベル鉱石の存在を知っているのはレヴァート王国の中では七竜将を除いて極僅か、外部の人間は知るなどあり得ない事だ。増してやレヴァート王国にいないブラッド・レクイエム社が知る事などあり得なかった。
「・・・誰かがブラッド・レクイエムに情報を流したって事になるな」
「スパイか・・・?」
「その可能性はある。もしくは情報屋か何かが奴等に情報を売っているのか・・・」
レヴァート王国内にブラッド・レイクエム社の協力者がいる、そう考えるヴリトラとオロチ。周りのラピュス達もレヴァート王国内に敵が紛れ込んでいるという話を聞いて緊張を走らせる。
突然の襲撃報告を受けて動揺していたヴァルボルトであったが、すぐに冷静さを取り戻して男性騎士の方を見る。
「・・・それで、他の二ヵ所はどうなのだ?」
「ハッ、首都と騎士の町ゲルジェムが襲撃を受けず、デガルベル鉱石も無事です。砦が襲撃を受けた直後にガバディア団長が二ヵ所の警備を強化しましたので、敵も手を引いたのだと思われます」
「そうか・・・」
残り二つのデガルベル鉱石が無事だと聞いたヴァルボルトは安心し、パティーラム達も緊張が解けてホッとした。ヴリトラ達は真剣な表情を見せながら何かを考えている。
「・・・ローシャル王、申し訳ないが、先程のデガルベル鉱石をお渡しすると言う話、無かった事にさせて頂けませんか?」
「え?」
「ブラッド・レクイエムはデガルベル鉱石を手に入れる為に我が国の砦を襲撃し、鉱石を奪って行きました。もし貴方がたにデガルベル鉱石をお渡しすれば貴方がたも彼等に狙われる事になってしまいます。それなら我々が今まで通り保管しておいが方たよろしいかと・・・」
デガルベル鉱石の保管場所が襲撃された事にヴァルボルトはデガルベル鉱石をストラスタ公国に渡すのは危険だと判断した。ブラッド・レクイエム社は鉱石を手に入れる為にM1戦車やヴェノムまで動かしたのだ。デガルベル鉱石をストラスタ公国に預ければ彼等も同じように襲撃を受けてしまう。そうなるくらいなら今まで通りに自分達が保管して敵を警戒した方がいいと考えたのだ。しかし、ローシャル王はゆっくりと首を横に振る。
「ヴァルボルト王、お心遣いは感謝します。ですが、我々も既にブラッド・レクイエムを敵に回した存在、今更デガルベル鉱石を持っていようといまいと変わりますまい」
「ですが・・・」
「それに、まだ二つ残っているのでしたら一つずつ守りの堅い首都に保管しておけば敵も簡単に手が出せなくなります。それにそちらで二つを保管しておくよりはこちらで一つを保管し、敵にデガルベル鉱石の保管場所を悟られないようにした方がよろしいと思います」
どんな状況になってもブラッド・レクイエム社から狙われるのならデガルベル鉱石を預かってレヴァート王国の負担を少しでも減らいた方がいい。ローシャルの考えを聞いたヴァルボルトはしばらく考え込み、やがてゆっくりと口を動かす。
「・・・分かりました。では変わらずデガルベル鉱石はストラスタ公国にお渡しすると言う事で」
「ええ、よろしくお願いします」
話し合いが終り、二人の王は握手を交わし同盟会談は終わった。その後、ヴァルボルトは報告に来た男性騎士を休ませ、急ぎティムタームに戻る準備に入る。ストラスタ公国もブラッド・レクイエム社への対策を立てる為にパリーエ達に指示を出し首都へ戻る準備を進めた。
会談が終り、静かになった虹色亭の一室にパティーラムの姿があった。彼女は椅子に腰かけ、その周りには七竜将の懲罰遊撃隊の姫騎士三人が立ってパティーラムを見つめている。
「・・・大変な事になりましたね」
「ハイ、まさかデガルベル鉱石が奪われてしまうとは・・・」
ヴリトラとパティーラムはブラッド・レクイエム社に奪われたデガルベル鉱石の事について話し出す。実はヴリトラ達が部屋に集まったのはブラッド・レクイエム社がデガルベル鉱石を奪った事について話をする為だったのだ。
「一体、彼等はなぜデガルベル鉱石を奪ったのでしょうか・・・」
「俺達にも分かりません。ですが、デガルベル鉱石は五十年前まで各国が戦争の道具として使っていたという事をガバディア団長から聞いています。もしかしたら、奴等もデガルベル鉱石を戦いに利用する為に・・・」
「でも、ブラッド・レクイエムが奪ったデガルベル鉱石はたったの10kgなんでしょう?それだけじゃ戦いに使うのは難しいんじゃないの?」
ファフニールがパティーラムと話をしているヴリトラに話し掛け、それを聞いたヴリトラはファフニールの方を向いて真面目な顔で頷いた。
「確かにたった10kgじゃあ、敵の基地を吹き飛ばすの無理だ。だけど、鉱石の成分なんかを分析してデガルベル鉱石に似た破壊兵器を作ったり、何かの動力源にする事ぐらいはできるかもしれないな」
「成る程、敵を倒す為だけでなく、自分達の活動に役立てようとしているかもしれないという訳か・・・」
「ブラッド・レクイエムの技術なら簡単かもね」
デガルベル鉱石を別の使い方で利用するのではないかと言うヴリトラの想像を聞いたオロチとファフニールは一理あると考える。パティーラムやラピュス達姫騎士もその考えを聞いて「ほうほう」と言いたそうに軽く数回頷く。
「だけど、動力源に使うならメトリクスハートを使えばいいんじゃない?わざわざデガルベル鉱石を動力に使う必要なんてないんじゃ・・・」
「ああ、確かにメトリクスハートがあればある程度の物は動かせる。だけど、もしデガルベル鉱石がメトリクスハート以上のエネルギーを作り出す事ができ様な物だったら、利用しない事はないだろう。いずれにせよ、アイツ等がデガルベル鉱石を何か悪用しようとしているのは確かだ」
「悪用って、どんな事?」
「そんなの知らねぇよ」
肩をすくめ、困り顔をするヴリトラと腕を組みながら考え込むリンドブルム。ラピュス達もブラッド・レクイエム社がなぜデガルベル鉱石を盗み出したのかその理由を考える。しかし、いくら考えても全く分からない。ヴリトラ達にとってデガルベル鉱石は未知の鉱石、戦争以外の利用法などまったく見当がつかなかった。
「あの、ヴリトラさん達の世界には鉱石を使った便利な道具とかないんですか?」
アリサが七竜将の世界の事を訊ね、ヴリトラ達は一斉にアリサの方を向く。
「俺達の世界にか?」
「ハイ。もしかするとブラッド・レクイエムはそのデガルベル鉱石を使って何かの道具を作ろうとしているんじゃ・・・」
「兵器じゃなくて道具をか?・・・考え難いなぁ、大体俺達の世界にも鉱石を使った道具なんて・・・・・・ん?」
ヴリトラが何かに気付きふと部屋の入口の方を向く。他の七竜将も一斉に部屋の入口の方を見た。
「ヴリトラ?」
「シッ・・・」
声を掛けて来たラピュスにヴリトラは静かにするよう伝える。ヴリトラは森羅の鞘を握り、目でオロチに合図を送る。オロチは頷いて壁に立て掛けてある斬月を手に取り、静かに素早く入口の前まで移動。そしてゆっくりとドアノブを回し勢いよく引いた。
「う、う、うわああぁ!?」
扉が開くのと同時にレレットが声を上げて入口前でうつぶせに倒れる。突然現れたレレットにヴリトラ達は目を丸くして驚いた。
「レ、レレット?」
「レレット殿、どうして此処に?」
ヴリトラとラピュスがなぜ此処にいるのかをレレットに訊ねる。レレットはゆっくりと起き上がりながら右手で頬を擦った。
[イタタタタ、いきなりドアを開けないでよ!」
「いや、そんな事よりもどうしてドアの前にいたんですか?」
「えっ?い、いや・・・そのぉ・・・」
レレットはヴリトラの質問に答えずに動揺した態度を見せる。明らかに怪しかった。そんなレレットをオロチは目を細くして見つめている。
「・・・私達の会話を聞いていたのだな・・・?」
「えっ・・・な、何の事よ?意味が分からないわ」
「・・・聞いたんだな・・・?」
「うう・・・」
オロチが低い声を出しながら睨みつけるとレレットはまるで母親に叱られた娘の様に怯え、すぐに全てを白状した。レレットは偶然廊下を歩いていた時にパティーラムとヴリトラ達の会話が聞こえて盗み聞きをしていたのだ。
レレットを部屋の真ん中へ連れて来て何処から話しを聞いていたのかを訊ねるヴリトラ達。話によるとブラッド・レクイエム社がデガルベル鉱石を何に使うのかと言うあたりから聞いていたらしい。つまりほぼ最初から聞いていたのだ。
「まったく、盗み聞きとは感心しませんね?」
「うう・・・アンタみたいな子供に言われるともの凄く嫌な気分・・・」
腕を組みながら注意するリンドブルムにレレットは気まずそうな顔を見せる。
「リブル、それぐらいにしてやれ・・・それで、レレット、俺達の話を聞いていたって事は、アリサが言っていた俺達の世界ってところも聞いていたんだよな?」
「・・・ええ、聞いたわ」
レレットの答えを聞いてヴリトラは「あちゃ~」と言いたそうに顔に手を当てた。ラピュス達も困り顔をしている。
「・・・ねぇ、さっきの話ってどういう意味なの?アンタ達の世界って何?」
「・・・・・・ハァ、こうなると仕方がないな」
「ヴリトラ、まさか話すつもりか?」
ニーズヘッグがヴリトラの言おうとしている事に気付き訊ねる。ラピュス達も一斉にヴリトラの方を向いた。ヴリトラはニーズヘッグを見てゆっくりと頷く。
「仕方ねぇだろう?ここまで来ちまった以上は彼女にも本当の事を話す義務があるしな。それにレレットは姉さんはブラッド・レクイエムに殺されたんだ、真実を知る権利がある」
「まぁ、確かにそうだが・・・」
「・・・ねぇ、さっきから何の話をしているの?」
ヴリトラとニーズヘッグの会話の意味が分からずに問いかけるレレット。ヴリトラはレレットを真剣な顔で見つめながら顔をレレットに近づけた。
「・・・レレット、これから話す事は誰にも喋るなよ?この事を知っているのはお前を除いてラピュス達第三遊撃隊とパティーラム様、そしてガバディア団長だけだ」
「え、ええ・・・」
鋭い視線を向けるヴリトラにレレットは息を呑みながら頷く。それからヴリトラは七竜将がファムステミリアとは違う別世界から来た事、そしてブラッド・レクイエム社も同じ世界から来た事など全てを話した。
十数分後、全てを話し終えたヴリトラは小さく息を吐いて口を閉じる。レレットは信じられないのか目を丸くして周りに入り七竜将を見回した。
「・・・アンタ達が別の世界から来た傭兵?」
「ああ、俺達は何らかの方法でブラッド・レクイエムにこのファムステミリアに連れて来られたんだ」
「それで俺達は奴等の目的を知り、奴等を止める為、そして元の世界に帰る為に奴等を追っているんだ」
ヴリトラの説明を継ぐかのようにニーズヘッグが続きを話した。
「信じられないわ・・・別の世界から来たなんて・・・」
「ですが、全て事実です」
レレットの前に座っているパティーラムが小さな声で言った。レレットはパティーラムの方を向き驚きの顔のまま瞬きをする。
「姫様、姫様はこの者達の言っている事を信じておられるのですか?」
「ハイ、彼等はウソをついてはいません。七竜将の皆さんの常人離れした力、見た事の無い武器、そして私達の知らない知識、多くの物を彼等は持っています。それが彼等が別の世界から来た証拠だと私は考えています」
「い、言われてみれば確かに、私達の理解できない事をコイツ等は・・・」
パティーラムの話を聞いたレレットは一理あると考える。パティーラムはゆっくりと席を立ちレレットの前にやって来るとそっと彼女と手を握った。
「あ、あの、姫様・・・?」
「レレットさん、貴方はお姉様をブラッド・レクイエムの方々に殺されました・・・家族を失う悲しみを貴方は知っているはずです。これ以上、貴方と同じ苦しみを受ける人々を出さない為にも、彼等に協力して頂けませんか?」
「え、ええ~っと・・・」
「お願いします」
真剣な顔でレレットに頼むパティーラム。そんなパティーラムの顔を見てレレットは顔を少し赤くする。一国の王女が近衛騎士である自分に真剣に頼み事をしているのだから照れるてしまっているのだ。しばらくパティーラムの顔を見つめたレレットはゆっくりと頷く。
「・・・姫様の頼みとあらば、近衛騎士である私に断る理由などありません。姫様の為に、そして王国の為に七竜将に協力いたしましょう」
「ありがとう」
笑顔で礼を言うパティーラムにレレットは更に照れくさそうな顔を見せる。そんなレレットを見てヴリトラは「やれやれ」と言いたそうに後頭部を掻いた。
「ハァ、俺達の為じゃないのかよ・・・」
「当たり前でしょう?私はレヴァート王国の近衛騎士なんだからね。アンタ達に協力するのはついでよ」
「ひどっ!」
急に態度を変えてジト目でヴリトラを見つめるレレットにヴリトラは思わず声を出した。ラピュスやリンドブルム達も苦笑いをしてヴリトラとレレットの会話を見ている。
「・・・でも、アンタ達のおかげで姉さんを取り戻す事ができたんだし、その借りを返す為にもできるだけ力になってあげるわ・・・」
レレットは目を閉じて小さな子で協力する事をヴリトラに伝え、それを聞いたヴリトラは意外そうな顔でレレットを見る。そんなレレットの態度にリンドブルムは隣にいるジルニトラに小声で話し掛けた。
「ねぇ、あれって何?」
「さぁ?騎士としてのプライドがあるから素直に慣れないだけなんじゃないの?」
二人はレレットが何を考えているのか彼女に聞こえない様に小さな声で話しながらレレットを見ていた。それからレレットはヴリトラ達からブラッド・レクイエム社の事を更に詳しく聞き、今後の事について話し合った。そして翌日、ヴリトラ達はヴァルボルト達と共にティムタームへ戻って行く。この時、パリーエと数人の白薔薇戦士隊の姫騎士達が七竜将から銃器の使い方を数日間みっちりと教えて貰う為にレヴァート王国へ同行し、ティムタームへ向かうのだった。
ワズロの町での同盟会談は終わった。しかし、デガルベル鉱石の一つがブラッド・レクイエム社に奪われてしまう。しかし、レレットと言う新たな協力者を得てヴリトラ達は更に活動しやすくなったのだった。
第十一章を終了します。




