第二十話 再会 黒き騎士
王国騎士団長であるガバディア・ロンバルトと対面した七竜将。自分達が別の世界から来た事を話し、最初は監視をつけられる筈であったが、リンドブルムとラランが助けた少女、ターニャはガバディアの孫であり、ターニャから自分が助けられたことを聞かされたガバディアは孫を助けたリンドブルムの仲間である七竜将達を信じる事にしたガバディアは監視をつけずに七竜将は信じる事にした。これにより、七竜将はラピュスとラランだけでなく、騎士団長であるガバディアと言う心強い人物と仲間になる事が出来たのだ。
「また一人、この世界での味方を見つける事ができた」
「これでお前達もより情報を集めやすくなったという事だな?」
「ああ、そういう事だ」
賑やかな街道を横に並んで歩いているヴリトラとララン。ガバディアとの面会を終えた後、七竜将達は再び自由行動になった。各自、ティムタームの町の気になる所を見に行ったり、ズィーベン・ドラゴンに戻って休むなり、自分達のやりたい事をしに行った。ヴリトラはラピュスに案内されて町にある傭兵の集まりそうな所やギルドなどを見て回っていた。
「この世界にもギルドってもんがあるんだな?」
「ああ。ギルドは自分達の都合や好みで仕事を選ぶ傭兵とは違い、王国に公認された組織だ。騎士団が任務を成功しやすくする為に各ギルドに依頼してギルドのメンバーを派遣してもらうんだ。勿論、依頼を受けたギルドには報酬が支払われる」
「俺達傭兵と違って仕事は選べないって事か」
「拒否権はある、だがギルドの場合は組織の資金を王国から援助されているからよほどの都合ではない限り断れない。当然王国も依頼する内容によってギルドを選んでいるからな、各ギルドが達成しやすい内容を選んでいるんだ」
ラピュスがギルドの事を細かくヴリトラに説明し、ヴリトラもそれを真面目に聞いている。普段難しい事にはヤル気を見せないヴリトラだが、ギルドはこれからの自分達に傭兵活動に関わりがあると感じて真剣になっているのだ。
歩きながら街道を歩いている二人は出店の並んでいる広い道に出ると近くにあるベンチに腰かけて少し休憩を取った。周りでは子供が走り回り、町の住民達が楽しそうに話をしている。
「随分と賑やかだな?」
「ああ、此処はいつも昼過ぎになると出店が出て賑やかになる。昔と全然変わっていない」
ラピュスは住民達や出店を見てどこか懐かしそうな表情をしている。隣でそんな顔を見せているラピュスを見てヴリトラはまばたきをした。そしておもむろにこんなことを尋ねる。
「そう言えば、お前って今は姫騎士になって貴族の爵位を手に入れたけど、姫騎士になる前は平民の出の騎士だったって?」
「ん?・・・ああ」
「貴族になる前はこの辺りに住んでたのか?」
「なぜそんな事を聞くんだ?」
突然質問をしてきたヴリトラの考えが分からずに訊き返すラピュス。ヴリトラはそんなラピュスの顔を見た後に空を見上げて言った。
「いやぁ?ただ俺達は自分達の事をお前に話したけど、お前の事は何も知らないからさ、少しぐらい知ってきたくて。それにお前の顔を見て、何だか懐かしそうだったから」
「・・・成る程、そういう事か」
「何だと思ったわけ?愛の告白かと思った?」
「ば、馬鹿言うな!」
ニヤリと笑いながらからかうヴリトラを見て頬を赤く染めて怒るラピュス。ヴリトラはラピュスの反応を見て思わず笑った。
ラピュスは落ち着くために一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。そしてゆっくりと口を開き、話しをし始めた。
「・・・お前の想像通り、私は以前はこの近くに住んでいた。今は爵位を手に入れて貴族が住む一等地に屋敷を貰い、そこで母と数人のメイドと共に暮らしている」
「お父さんは?」
「・・・死んだ、私が子供の頃に流行の病でな。父は優秀な騎士で騎士団の青銅戦士隊に所属していたのだ」
「ブロンゼム隊?」
「王国の主力騎士隊だ。父はその騎士隊の一中隊長を任されていた、ガバディア団長からも期待をされていたらしい。私もそんな父に憧れて騎士として訓練学校に通っていた」
「そして、遂に念願の騎士になったって訳か」
話しを聞いていたヴリトラの言葉にラピュスは頷く。だが、ラピュスの顔にはどこか寂しさが見える。
「皮肉だろう?父に憧れて騎士になったのに、その父に姫騎士となった自分を見せる事ができなかったのだから・・・」
震える声で話すラピュス。次第に悲しみがこみ上げて来たのか体は少し震えている。そんなラピュスを見ていたヴリトラは何処か切なそうな顔をしている。ラピュスの事はアリサから聞かされたニーズヘッグとファフニールが知っているだけで、ヴリトラ自身は彼女の事をなにも知らなかったのだ。
ヴリトラはそっとラピュスの肩に手を置いて静かに口を開く。
「悪い事聞いちまったな、ゴメン」
「・・・・・・」
「・・・俺にはお前の気持ちが少し分かる気がする。俺も家族がいないから」
「・・・え?」
ヴリトラにも家族がいない、それを聞いたラピュスは声を漏らしてヴリトラの方を向く。ヴリトラの事も騎士の中ではアリサがニーズヘッグとファフニールから聞かされただけで、ラピュス自身も知らない。ヴリトラとラピュスはお互いに相手の事を仲間から聞かされていなかったのだ。それもニーズヘッグ達が相手の事を思ってあえて自分の口では言わなかったのだろう。
「俺も子供の時に両親を失っちまった・・・」
「お前のご両親も病で亡くなったのか?」
「いや、殺されたんだ」
「え!?」
「俺がまだ十二の時に突然家に押しかけて来たイカレ野郎共が両親を惨殺し、俺もその時に左腕をズタズタにされちまったんだ・・・」
「じゃあ、その左腕の機械鎧もその時に・・・?」
「ああ・・・」
ヴリトラは着ているコートの上から自分の左腕の機械鎧にそっと手を置く。ラピュスは自分とは違い、家族を、父と母を同時に、しかも他人の手によって失ったヴリトラを見て言葉を失う。自分よりも辛い思いをしてきたヴリトラにかける言葉が見つからなかったのだ。
ラピュスが言葉に困っていると、ヴリトラは小さく笑ってラピュスを見た。
「まっ、その事件のおかげで今の俺がここにこうしているんだ。俺が機械鎧兵士としていられるのもあの事件があったから、そう考えればちったぁ気が楽になる。過去の事で落ち込んでても仕方がない。前向きに考える事も大切だ」
「前向きに?」
「そう。『あの事件が無かったら、自分もこんな辛い思いをしなくて済んだのに』って考える人もいる筈だ。だけど、過去をいつまでも引きずってたら、いずれ生きていく術を失う。過去を受け入れ、振り返らずに前を向いて進む事も大切だって俺は師匠から教わったよ」
いつも間の抜けたヴリトラの口から出た現実を受け入れるという言葉がラピュスの心に染み渡る。辛い過去を持ちながらもそれを乗り越え、受け入れる強い心を持つヴリトラがラピュスにとって一瞬大きく見えた。
この瞬間、ラピュスのヴリトラに対する見方が少しだけ変わった。ラピュスはヴリトラを見て悲しそうな表情から小さく微笑む表情へと変わった。
「・・・私は少しヴリトラを誤解していたようだ」
「ん?」
「お前はいい加減で、ふざけた性格で、乙女の唇を奪ってもなにも感じない奴だと思っていたが・・・」
「うぅ・・・まだ気にしてたのか・・・」
「当然だ」
ファーストキスを奪った事をまだ根に持っているラピュスを見て汗を垂らすヴリトラ。ラピュスはそんなヴリトラをジロッと見て一瞬低い声を出した。だが直ぐに元の声に戻して話しを続ける。
「そんなお前も過去を受け入れて前を向いて進もうとする強い心を持った男だと分かった。もう少しお前の見方を変える事にするよ」
「う~ん・・・よ、よく分かんないけど、ありがとう・・・」
今く理解出来ていないのか、困り顔を見せながらもとりあえず礼を言うヴリトラ。ラピュスも小さく笑い、珍しく女らしい表情を見せる。
「あれぇ?二人とも、こんな所で何やってるの?」
何処からかヴリトラとラピュスに呼びかける子供の声。二人が声の聞こえた方を向くと、そこにはリンドブルムとラランが並んで立っている姿があった。
「リブル、ララン。どうしたんだよこんな所で?」
「それはこっちの台詞だよ。二人こそ何やってるの?」
「俺達はギルドに行く途中でちょっと休憩をしてたんだ」
「そう。僕は町を散歩して、その途中にラランと会って一緒に町を見回ってたんだ。ね?」
「・・・うん」
「成る程な。それじゃあ、折角だから一緒にギルドを見に・・・」
見に行かないか、そう言おうとヴリトラが話していると、突然何処からか大きな爆発音が聞こえてきた。爆発に反応した四人が辺りを見回すと、遠くから黒い煙が上がっているのが見えた。それを見て、座っていたヴリトラとラピュスは立ち上がり、リンドブルムとラランも黒煙の方を向いた。
「な、何だあの爆発は?」
「分からない、だがあっちは町の中心だ。そんな所だ爆発が起きるなんて考えられない!」
「つまり、誰かが何かを爆発させたって事?」
「・・・考えられる。でもあんな大きな爆発は普通は起きない」
爆発の大きさと起きた場所を計算して何が起きたのかを考える四人。だが今はそんな事を考えている時ではない、周りを城壁で囲まれたティムタームの町の中心で普通では考えられない爆発が起きた。誰かが意図的に起こした爆発と考えられた。
ヴリトラは考えるのを止めて三人を見て真剣な表情を見せる。三人も自分達を見るヴリトラを見て真剣な顔をする。
「とにかく、爆発が起きた所に行くぞ!あんなに大きな爆発だ、きっとジャバウォック達や騎士団の気が付いてあそこに向かうはずだ。先に行って調べるぞ?」
「OK!最初からそのつもりだよ」
「ああ、あの爆発だ、誰かが怪我をしているかもしれないからな」
「・・・行こう!」
四人の考えは一緒だった。四人は走り出し、爆発の起きた所へ全力疾走する。
爆発が起きた場所へ着くと、そこは酷い状況だった。広い街道の真ん中で馬車が炎上し、その馬車を引いていたと思われる馬が倒れている。その近くでは二人の騎士が俯せに倒れ、離れた所では二人の男が仰向けに倒れていた。その仰向けの二人の男を見てリンドブルムは目を見張って驚く。なぜなら、その二人の男はついさっき自分とラランが倒したコルボロの翼の二人組だったのだから。
「あっ!あの二人、僕とラランが倒した傭兵だよ!」
「何だって?それじゃあ、倒れている騎士達は・・・」
「・・・多分あの二人を詰所に連行していた騎士」
「行こう、早く診療所へ連れて行くんだ!」
倒れている四人の安否を気に掛けるラピュスに三人は頷き、燃えている馬車の方へと走る。ラピュスとラランは倒れている騎士達をに駆け寄り状態を診る。だが、騎士を見たラピュスは目を鋭くし、直ぐに目を閉じた。
「ラピュス、そっちはどうだ?」
「・・・ダメだ。もう息がない」
「・・・そうか」
「そっちはどうなんだ?」
ラピュスはコルボロの翼の二人組の安否をヴリトラとリンドブルムの方を向いて尋ねた。倒れている二人を診て、しばらくするとヴリトラは苦い表情を見せる。リンドブルムも同じような顔をしていた。
「・・・ダメだ、こっちも――」
「死んでいる」
「「!」」
何処からか聞こえてくる声。ヴリトラとリンドブルムはその声に反応して顔を上げて立ち上がり、周りを見回して声の主を探す。すると、燃え上がる馬車の陰から一つの人影が姿を見せた。その姿は黒光りの全身甲冑に前に向かって伸びる牛の角の様な飾りを二本付けたフルフェイスアーメット。腰には騎士剣が納められており、身長は2mはある巨体だった。
その騎士を見て表情を鋭くするヴリトラとリンドブルム。その中でヴリトラは鋭う表情に警戒心を宿らせている。なぜならその騎士をヴリトラは知っているからだ。
「お前は・・・!」
「また会えたな?ヴリトラ」
「ジークフリート!」
そう、ヴリトラの前になっている黒い騎士は元の世界でコロンビアの港でヴリトラが出会ったブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士、ジークフリートだったのだ。
ヴリトラの隣で名前を聞いていたリンドブルムは驚きヴリトラを見上げ、離れていたラピュスとラランも二人の下へ駆け寄り、合流する。
「ヴリトラ、ジークフリートって、あの?」
「ああ、コロンビアの聖地のアジトがあった港で出くわしたブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士だ・・・」
「コイツが・・・」
目の前の騎士の姿をした機械鎧兵士を見てリンドブルムに緊張が走る。一方、ジークフリートの事をなにも知らないラピュスとラランは状況が理解できずに戸惑いの表情を見せている。
「ヴリトラ、この騎士は・・・」
「コイツはジークフリートって言って、俺達と同じ世界から来た男だ」
「何!お前達と同じ世界から?」
「ああ、それも悪名高い傭兵派遣の組織、ブラッド・レクイエムの機械鎧兵士だ」
ヴリトラからジークフリートの事を聞いたラピュスとラランは驚きながらもジークフリートに警戒心を向ける。
会話を聞いていたジークフリートはヴリトラ以外の三人の見て軽く頭を下げて挨拶をした。
「ヴリトラ以外の奴等にも一応挨拶をしておこう。私は傭兵派遣会社ブラッド・レクイエム、機械鎧兵士部隊総司令官ジークフリート。以後お見知りおきを・・・」
「・・・その総司令官がなぜ我が国の騎士を襲ったのだ?」
「フフフ、この町に見に来た時にそこに倒れているゴミどもがおかしな服を着た子供にやられたと騎士達に話しているのを聞いてな。話を聞こうと馬車を止めたのだが、少々派手にやり過ぎてしまった」
何処か楽しそうに話をしているジークフリートをヴリトラ達はジッと睨んでいる。馬車が炎上して騎士達が全員死んでいる、どう見ても普通に攻撃はしていない。明らかに確実に殺す為に攻撃したとしか言えない。
「お前には色々訊きたい事があるけど、まずは武器を捨ててもらおうか?」
「それで私が素直に捨てると思うか?」
腕を組み、ヴリトラを挑発する様に尋ねるジークフリート。ヴリトラはそんな挑発に表情を変える事無くジッとジークフリートを睨んでいる。すると静かに、ゆっくりと口を開いた。
「・・・いや、思ってない」
と言った瞬間、ヴリトラは地を蹴りジークフリートに向かって跳んだ。そして跳びながら森羅を抜き、ジークフリートが間合いに入ると勢いよく森羅で横切りを放った。だが、ジークフリートも腰の騎士剣を抜き、騎士剣を逆さまに持って森羅の刃を止める。森羅と騎士剣の刃が触れ合い、触れた部分から金属を削る様な高い音が聞こて火花が飛び散る。
「なかなかいい攻撃だ。だが読みやすい」
ジークフリートは森羅を払い、騎士剣を上げて目の前にいるヴリトラ目掛けて騎士剣を振り下ろした。ヴリトラは咄嗟に後ろに跳んでその振り下ろしを回避する。距離を作ると再びジークフリートに向かって行き、今度は連続で左右から斜め切りを放つ。ジークフリートは右手に持っている騎士剣でヴリトラの連続切りを全て防ぐ。しかもこの時ヴリトラは森羅を両手で握っている、つまりジークフリートは両手で振られているヴリトラの斬撃を全て片手だけで止めていたのだ。
二人の戦いを見ていたラピュスとラランはヴリトラの攻撃を全て余裕で防いでいるジークフリートに驚きを隠せずにいた。そんな中、連撃のほんの一瞬の隙を突いたジークフリートはヴリトラに強烈な蹴りを打ち込む。
「ぐわぁっ!」
蹴りをまともに受けたヴリトラは大きく後ろに飛ばされて地面に叩きつけられる。飛ばされたヴリトラを見て彼に視線を向けるラピュスとラランは更に驚いた。今まで自分達の想像を超える強さを見せたヴリトラが押されている姿を見ているのだから当然だった。
倒れているヴリトラを見ているジークフリート。そんな時、突然何処からか銃声が聞こえ、ジークフリートの頭部の右側面に一発の弾丸が飛んで行く。だがジークフリートは前を向いたまま首を動かさずに、騎士剣を軽く動かして弾丸を弾いた。弾丸を弾いた後にようやく顔を動かして弾丸が飛んできた方向を向くジークフリート。視線の先には少し離れた位置からライトソドムとダークゴモラを握って自分を狙っているリンドブルムの姿があった。
「ほぉ?そんな小さな体で大型拳銃を片手で一丁ずつ撃つとは、流石七竜将の一人だ」
リンドブルンはジークフリートの褒め言葉に表情を変える事無く連続でライトソドムとダークゴモラの引き金を引く。交互に弾丸を吐き出す二丁の拳銃、二つの銃口から放たれた弾丸は真っ直ぐジークフリートに向かって飛んで行く。だがジークフリートは持っている騎士剣でその全ての弾丸を弾き、リンドブルムの銃撃を防ぎ切った。
銃撃を全て防いだ瞬間に、ジークフリートは剣を勢いよく横に振った。その直後に突然ジークフリートの刀身が伸び、離れた所にいるリンドブルムに迫った。
「!」
いきなり刀身が伸びた事に一瞬驚くリンドブルムだったが、咄嗟にジャンプして真横から迫って来て斬撃を回避する。ジャンプしている最中にリンドブルムは真下を通過した騎士剣をジッと見る。騎士剣の刀身がバラバラになり、その中に鋼の太い糸が仕込まれていたのだ。ジークフリートの騎士剣はニーズヘッグのアスカロンと同じ蛇腹剣だった。
リンドブルムが着地した瞬間にジークフリートの騎士剣は元に戻った。二丁の愛銃を構えながらジークフリートをジッと見つめるリンドブルム。
「貴方の剣、ニーズヘッグのと同じ蛇腹剣だったんですね?」
「・・・紹介しよう、超振動蛇腹剣『バルムンク』。私の愛剣だ」
リンドブルムに自分の騎士剣の事を説明していると、左から体勢を立て直したヴリトラがジャンプをしながら向かって来る。森羅を両手で持ち、上段構えのままジークフリートの顔の高さまで跳ぶと柄を握る両手に力を込めた。
「皆藤流剣術参式、鬼門崩し!」
新たな皆藤流剣術の技の名を叫ぶヴリトラ。ヴリトラはジャンプしたまま体重を前に掛け、まるで前に回転するように森羅を振り下ろした。これにより、森羅にはヴリトラの力、回転の遠心力が加わって普通の振り下ろしの数倍の力を出す事が出来るのだ。
ところが、ジークフリートはそんなヴリトラの技をバルムンクを横にして簡単に止めてしまった。しかもバルムンクを持っているのは右手だけだった。
「なっ!?」
「それなりの重い斬撃だな?だが、私には通用しない」
ぶつかり合う森羅とバルムンクは火花をちらつかせている中、ヴリトラは歯を食いしばっているが、ジークフリートは声すら上げていない。そして空中で回避できないヴリトラに空いている左手でパンチを撃ち込んだ。だがヴリトラも負けずと左腕でジークフリートのパンチを止める。しかし空中では力を入れられずに防ぎきれずそのまま殴り飛ばされてしまう。殴り飛ばされながらも空中で態勢を直したヴリトラは地面に落ちる直前に両足を地面に付けてなんとか倒れずに済んだ。
ヴリトラが殴り飛ばされていると、ラピュスとラランが騎士剣と突撃槍を構えてジークフリートに向かって走って行く。
「ハァーーーッ!」
ラピュスが叫びながら騎士剣を力強く振り攻撃する。ラランも突撃槍を両手で握り勢いよく突いた。ジークフリートはそんな二人の攻撃を意図も簡単に止めてしまった。ラピュスの斬撃をバルムンクで、ラランの突きを左手でアッサリ止めるその光景はまるで大人対子供だった。
ヴリトラはジークフリートに向かって行く二人を見て驚きながら叫んだ。
「よせ!お前達の敵う相手じゃない!」
「クゥ!・・・分かっている。だが、いくら敵わない相手だからと言って黙って見過ごす訳にはいかないんだ!」
「・・・私達は、この町を守る騎士だから!」
機械鎧兵士に普通の人間が敵うはずがない。それを知っていながらもジークフリートに向かって行くラピュスとラランを見てヴリトラとリンドブルムは驚いた。彼女達の町と住民を守りたいと言う意志が二人を動かしていたのだ。
そんな二人の勇気にジークフリートは意外そうな声を出して二人の姫騎士を見下ろしている。
「敵わないと分かっていて立ち向かうか。愚かだかその勇気は大したものだ。しかし、それも時と場合によるぞ?」
そう言ってジークフリートはラピュスの騎士剣とラランの突撃槍を払うと二人を回転蹴りで同時に蹴り飛ばした。
「「うわぁーーーっ!」」
強烈な蹴りを受けて飛ばされる二人を後ろにいたヴリトラが支えるように受け止めた。そこへ離れていたリンドブルムも合流して四人はジークフリートをジッと見る。ジークフリートは自分を見るヴリトラ達は見た後にバルムンクを鞘に納めて小さく拍手をする。
「なかなか楽しませてくれる。流石七竜将と姫騎士だ」
「お褒めにいただき恐縮・・・」
ジークフリートを見ながらニッと笑って答えるヴリトラ。ラピュスとラランは姿勢を直してジークフリートを見て武器を構える。リンドブルムもライトソドムとダークゴモラを構えたままだった。そんな中でヴリトラは森羅を降ろしてジークフリートを見つめながら口を開いた。
「ジークフリート、お前はなぜこの国に、いや、なぜこの世界にいるんだ?」
「おや、さっきまで戦っていた者がいきなり質問か?一方的な男だな」
「いきなり町で馬車を襲う男に言われたくもないけどな?」
「フッ、確かに。いいだろう、突然馬車を襲ってしまった詫びだ、答えてやろう。ただし、答えるのはこの世界にいる理由ではない、私達の目的だ」
「目的?」
「そう。私達ブラッド・レクイエムはこの世界の秩序を書き換える。強き者が生きる秩序にな」
理解出来ないジークフリートの言葉にヴリトラ達は少し汗を掻いていた。ジークフリートの言葉になぜか威圧感を感じてしまっているからだ。
そんな時、遠くから大勢の声が近づいてくるのが聞こえてきた。それに気づいたヴリトラ達とジークフリートは声の聞こえる方を向く。
「・・・どうやら時間のようだ。今回、お前達がこの世界にいるという事を知れただけでもこの町で暴れたかいがあったというものだ。悪いが私はこれで失礼する」
そうヴリトラ達に伝えると、ジークフリートは高くジャンプして民家の上に跳び上がった。
「っ!待て!」
「ヴリトラ、そしてその仲間達よ。近いうちにまた私達は会う事となるだろう。その時には私達が、そしてお前達七竜将がこの世界に来た原因を教えてやる。それまで、死ぬなよ?」
そう言い残してヴリトラはまた高くジャンプしてその場から立ち去った。ヴリトラ達は追いかけようとしたが、今の状態では例え追いつけたとしても勝ち目はないと思ったのか、追跡せずにその場に残った。
それから少ししてジャバウォック達と騎士団がヴリトラ達と合流し何が起きたのかを聞いた。突然現れたブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士ジークフリート。彼との出会いがヴリトラ達七竜将、そしてラピュス達に数々の困難を与える事をこの時はまだ誰も知らなかったのだった・・・。
今回で第二章が終わります。次回の第三章をお待ちください。




