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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十一章~新たな同志を求めて~
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第二百七話  囚われのビビット 解放への決意


 ヴリトラとリンドブルムがM1戦車を破壊するまでの間に黒騎兵の相手をする事になったラピュス達。しかし、黒騎兵の顔を隠している兜が砕け、その下から死んだはずのビビットの顔が現れ、ラピュス達、特にレレットは驚きのあまり表情を固めてしまうのだった。

 右手に超振動騎士剣を持ち、黒騎兵の甲冑を身に纏うビビット。肌は青白く目に光は無くまるで死体の様だった。ビビットの姿を見てラピュス、ララン、レレットは自分達の目を疑う。彼女達はビビットがジークフリートに殺される光景をその目で見ていたのだから無理もない。


「ど、どういう事なんだ?・・・どうしてビビット殿が・・・?」

「・・・生きていた?」

「いや、それはありえない。武術大会の時に彼女は額を撃ち抜かれていたんだ、あれで生きているはずが・・・」


 普通の人間ではあり得ない事にラピュスとラランは若干震えた声を出す。パリーエとヴィクティはなぜラピュス達がそこまで驚いているのか理由が分からずに彼女達を見ていた。


「ラピュス殿、一体どうしたのだ?あの者は・・・」

「・・・彼女はレレット殿の双子の姉、ビビット殿です」

「何!?レレット殿の姉君がどうして敵側に?」

「分かりません。ただ、彼女は数ヶ月前に死んだんです。にもかかわらず、彼女はああやって立っています。ありえない事ですが・・・」

「そ、そんなバカな・・・」


 目の前にいる黒騎兵が死んだはずのレレットの姉だとラピュスから聞かされて驚きを隠せないパリーエ。ヴィクティも彼女の後ろで目を見張りながらビビットを見つめている。

 ラピュス達が驚いている中、レレットは死んだはずん姉が生きていた事、そして敵側の騎兵として自分達の前に立っている事に驚愕していた。


「・・・ね、姉さん?・・・姉さんなの?」

「・・・・・・」


 驚きながらビビットに声を掛けるレレット。だがビビットは返事をせず、それどころか表情に変化すら見られなかった。まるでレレットの言葉が聞こえていないかの様だ。


「姉さん、どうしたの?私よ、レレットよ?」

「・・・・・・」


 必死でビビットに語りかけるレレット。ビビットはゆっくりとレレットの方を向き、光の無い目で彼女を見つめる。自分の方を向いたビビットを見てレレットは自分の事を理解したのだと感じて笑みを浮かべた。


「姉さん!」


 ビビットを見つけてゆっくりと近づこうとするレレット。するとビビットは左腕を上げてレレットの方へ向けた。すると左腕の後前腕部分の装甲が動き、鎧の下から小型のミサイルが姿を見せる。黒騎兵達は鎧を着ているように見えるが両腕両脚部分は機械鎧になっている。その為、鎧の装甲を動かして内蔵兵器を使う事も可能なのだ。


「・・・ッ!危ない!」


 ビビットがミサイルでレレットを狙っているのを見たラピュスはレレットに飛びついて彼女を押し倒す。次の瞬間、ビビットの左腕から小型ミサイルが発射されてレレットが立っていた所を通過、後ろにある噴水に命中し爆発した。


「な、何だ!?」

「ふ、噴水が・・・!」


 突然噴水が爆発した事に驚くパリーエとヴィクティ。ラランも爆発に驚いて少し体勢を崩していたが、すぐに立て直してラピュス達の方を向く。ラピュスはレレットを庇い、彼女を押し倒す態勢で横になっており、歯を食いしばってビビットを睨み、レレットは何が起きたのか理解できずに呆然として仰向けになっていた。


「クッ!なんて事を・・・!」

「・・・姉さん、どうして?」

「レレット殿、しっかりしてください!」


 ラピュスは倒れているレレットを起こして声を掛ける。そこへ超振動騎士剣を握ったビビットが二人の前に素早く移動してラピュスとレレットを見下す。いつの間にか目の前まで近づいていたビビットに驚くラピュスは騎士剣を構え直そうとするが、その前にビビットが超振動騎士剣を振り下ろして攻撃して来た。防げないと悟るラピュスはビビットを睨んで固まる。するとラピュス達とビビットの間にラランが割り込み、ビビットの振り下ろしを突撃槍で止めた。


「ララン!」

「・・・隊長、早く!」


 重いビビットの攻撃を何とか防ぐララン。ラピュスは騎士剣を持ったままレレットを立たせて急ぎその場から離れる。二人が離れたのを確認したラランは後ろに跳んでビビットから距離を取り突撃槍を構え直す。ビビットも超振動騎士剣を両手で握り、ラランを見つめながら中段構えに入った。

 ラランとビビットから距離を取ったラピュスはレレットを噴水の前に座らせて休ませる。レレットは姉に攻撃をされた事が信じられず未だに呆然としていた。


「レレット殿・・・」


 ラピュスはレレットを見つめながら呟いた。そこへパリーエとヴィクティもやって来る。


「大丈夫か!?」

「ハイ、問題ありません」

「そうか・・・レレット殿は・・・」


 パリーエは固まっているレレットを見つめ、気の毒そうな顔を見せる。だがすぐに真面目な表情に戻りラピュスの方を向いた。


「・・・一体どうなっているのだ?なぜレレット殿の姉君であるビビット殿がわらわ達に攻撃を?」

「分かりません・・・」


 攻撃してくる理由が分からずにラピュスは困り顔で首を横に振る。理由を考えていると、ラピュスはヴリトラから借りた小型通信機の事を思い出した。


「そうだ!これを使ってヴリトラ達に知らせれば・・・」


 ラピュスはヴリトラに教えて貰った通り、耳にはめてある小型通信機を操作する。すると小型通信機から呼び出し音が鳴り出し、ラピュスは誰かが応答するのを待つ。すると小型通信機からリンドブルムの声が聞こえてきた。


「こちらリンドブルム」

「リンドブルムか?私だ!」

「・・・えっ、ラピュス?・・・あ、そっか、ヴリトラの小型通信機はラピュスが持ってたんだっけ・・・」


 ヴリトラが小型通信機をラピュスに貸した事を思い出し、リンドブルムの納得の声を出す。


「リンドブルム、聞こえているのか?」

「えっ?・・・ああぁ、ゴメン。それで、どうしたの?」

「それがこっちでとんでもない事が・・・」

「とんでもない事?」

「私達が戦っている黒騎兵なんだが、その正体がビビット殿だったんだ!」

「・・・・・・は?」


 ラピュスの言葉の意味が分からずにリンドブルムは間抜けそうな顔を出した。


「ちょっと待って?ビビットって、あの人だよね?レレットさんのお姉さんで、ジークフリートに遺体を奪われたっていう・・・」

「そうだ!そのビビット殿だ!」

「・・・確か彼女は死んだはずでしょう?」

「そんな事は分かってる!その死んだはずのビビット殿が目の前にいるんだ!」


 声に力を入れて怒鳴る様に答えるラピュス。突然大声を出すラピュスにパリーエとヴィクティは驚く。すると小型通信機の向こう側でヴリトラの小さな声が聞こえて、しばらくすると今度はヴリトラの声が小型通信機から聞こえてきた。


「ラピュス、聞こえるか?」

「ヴリトラか?」

「ああ、どういう事なのか詳しく説明してくれ」

「それが・・・」


 ラピュスは小型通信機に指を当てながらラランとビビットの戦いを見ながら説明した。まるで人形の様に無表情で超振動騎士剣を振り回すビビットの連撃をラランは突撃槍で必死に防いでいる。重い攻撃を連続で防ぎ続けているせいかラランの表情には疲労が見えていた。


「死んだはずのビビットが黒騎兵となってお前達の前に現れた、か・・・他に何かないか?」

「他にと言われても・・・あとは肌が青白く、目に光が無いくらいだ」

「肌が青白い?」

「多分、ビビットは生き返ってはいないでしょうね」


 ヴリトラとラピュスが話をしていると小型通信機からジルニトラの声が聞こえて来た。


「ジルニトラか・・・」

「話は聞かせてもらったわ・・・多分ビビットは生き返った訳じゃない。何らかの方法でブラッド・レクイエムの連中に遺体を操られているのよ」

「遺体を操る!?そんな事が可能なのか?」


 信じられない言葉にラピュスは驚きながら声を上げる。近くでその言葉を聞いたパリーエとヴィクティも耳を疑い驚きの顔を浮かべた。


「あたしの予想よ・・・でも、一つだけハッキリしている事があるわ。目の前にいるビビットは生きていない、そして彼女はアンタ達を殺す事に何の躊躇も抱いていないって事よ」

「どうすればいいんだ?」

「・・・倒すしかないわ」

「倒すって、ビビット殿を斬るって事か?」

「そうよ」

「そ、そんな事できるはずが・・・」


 死んでいる者の体、しかも自分の仲間であるビビットを斬らなくてはならない。ラピュスは表情が曇り、放心状態だったレレットもそれを聞いてフッと顔を上げラピュスの方を向いた。


「仲間であるビビット殿を斬るなんて・・・」

「そんな事を言ってる場合じゃないでしょう!彼女を倒さないとアンタ達が殺されるのよ?それにさっきも言ったように彼女はアンタ達を殺す事を躊躇しないわ。説得しても無駄よ!」

「だが・・・!」


 やはり仲間の体を斬る事はできない。ラピュスは曇った表情のままラランと戦っているビビットを見つめる。すると今度はヴリトラの声が小型通信機から聞こえてきた。


「ラピュス、お前がビビットを斬りたくないっていう気持ちは分かる。だけどな、このままだとお前達が殺されちまう」

「ヴリトラ、しかし・・・」

「それに、このまま放っておいたらビビットが永久にブラッド・レクイエムの玩具として利用される事になるんだぞ?彼女がそれを望んでいると思うか?」

「!」

「それだけじゃない。レレットだって自分の姉がブラッド・レクイエムに利用されてレヴァートや多くの国に災いをもたらす存在になる姿を見なくちゃいけなくなる」


 低い声でラピュスを説得するヴリトラ。それを聞いたラピュスも頭の中で自分達が何をするべきなのかを考えた。パリーエ達もそんなラピュスをジッと見つめている。


「・・・分かった。奴等に利用され続けると言うのなら、いっそ私達の手で・・・」

「そうだな、きっと彼女もそれを望んでいる」

「ああ・・・」

「お前達に嫌な役目を押し付ける様だけど、彼女を救えるのはお前達だけだ。頼んだぞ?」

「分かった」


 ビビットと戦う事を決意したラピュスは騎士剣を強く握りゆっくりと立ち上がる。


「いいか、ラピュス。例え死んでしまった体でも体が動いている以上は普通の人間と同じだろう。致命傷程の傷を負わせれば動きを止める事ができるはずだ」

「分かった、やってみる」

「頼んだぞ!」


 ヴリトラは最後にラピュスにアドバイスをして小型通信機のスイッチを切り、ラピュスもスイッチを切って騎士剣を両手でしっかりと握る。通信を終えたラピュスを見てパリーエ達もゆっくりと立ち上がった。


「お、おい、どうしたのだ?」

「・・・ビビット殿を倒します」

「た、倒す?」

「何ですって?」


 言葉を聞いたレレットは目を見張りながらフッとラピュスの方を向いた。


「アンタまさか、姉さんを斬るつもりなの!?」

「・・・レレット殿、このまま放っておいたらビビット殿は多くの人々を傷つけてしまいます。そうなる前に止めないといけません」

「だから斬るって言うの!?あそこにいるのは姉さんよ?姉さんを斬るなんて私は許さない!」


 もの凄い剣幕で怒鳴るレレット。自分の姉を斬ると言うのだから怒るのは当然と言える。そんなレレットにラピュスは冷静に対応した。


「ビビット殿は体をブラッド・レクイエムに作り変えられて今や彼等の操り人形と化しています。自分の体をブラッド・レクイエムの野望の為に使われ、多くの人を傷つける事を彼女は望んでいると思いますか?」

「うっ・・・!」


 ラピュスの言葉にレレットは言葉を詰まらせた。


「死してなおも利用されるくらいなら、いっそ私達の手で彼女を解放してあげましょう」


 レレットは俯いて黙り込む。目の前にいる姉は確かに動いている、しかしそれは生きている訳ではない。ブラッド・レクイエム社の操られているからだ。敵を倒す為の操り人形となっているビビットを解放するには彼女を倒すしかない。だが、それが分かっていてもレレットは目の前で動いているビビットと戦う決意ができないでいた。


「・・・うわああぁ!」


 聞こえてきたラランの叫びにラピュス達はフッとラランの方を向いた。ラランは仰向けに倒れ、そんな彼女にビビットが一歩一歩近づいて行く。


「ララン!」


 ラピュスはラランを助ける為に彼女の下へ走り出す。残ったパリーエとヴィクティは走って行くラピュスの背中を見つめていた。レレットは未だに俯いたまま黙り込んでいる。


「・・・レレット殿、そなたが姉君と戦いたくないのであればそれでもいい。わらわ達が姉君を止めるまでだからな。だが、彼女もきっとそなたに救われる事を願っているだろう。戦いの道具として利用されるくらいなら、実の妹によって解放される事を・・・」


 そうレレットに伝えたパリーエは騎士剣を握ってラピュス達の下へ走る。ヴィクティもそれに続いて走り出す。残ったレレットは噴水の前で俯きながら考え続けた。ブラッド・レクイエム社に殺された姉がブラッド・レクイエム社の道具として利用される、死んだビビットにとっては地獄とも言えるだろう。そんな姉を解放できるのは自分達だけ、レレットはそれを考えながらラピュスとパリーエの言葉を思い出す。


「姉さん・・・・・・ッ!」


 顔を上げたレレットは何かを決意した様な目をしていた。そして落ちている自分の騎士剣を拾い上げる。

 ラピュス達はビビットを取り囲んで攻撃する隙を窺っていた。ラピュスはラランの前に立ち、彼女を庇う形で騎士剣を構えている。パリーエはビビットの左側面に立ち、ヴィクティはビビットの右斜め後ろの立っていた。二人も自分の騎士剣を構えて攻撃するチャンスを待っている。


「ララン、大丈夫か?」

「・・・大丈夫」

「よし、ここからは私達が戦う。お前は少し休んでいろ」

「・・・私は平気。それよりも、どうするの?」

「ビビット殿はブラッド・レクイエムによって戦いの兵器と化してしまっている。ビビット殿を止めるには彼女を斬るしかない」

「・・・味方を斬るの?」

「彼女はこのままだと永遠にブラッド・レクイエムの機械鎧兵士として利用されてしまう。そうなるくらいなら、私達が彼女を斬って止める。そして、味方を斬ったという罪を背負いながら生き、ブラッド・レクイエムと戦うんだ。それが私達にできるせめてもの償いだ」

「・・・・・・なら、私も戦う」

「ララン・・・」

「・・・私も戦って、一緒に罪を背負う」

「・・・すまない」

「アンタ達がそれを言うのは少し変じゃない?」

「「!」」


 突然聞こえて来た声にラピュスとラランはピクッと反応する。二人が声のした方を見ると、そこには騎士剣を握って自分達の隣に立つレレットの姿があった。


「このまま奴等に利用されるぐらいなら私の手で姉さんを解放してあげた方が姉さんも救われる、アンタの言う通りだわ」

「レレット殿・・・」

「でもね、罪を背負うのは私一人だけ。関係の無い人間に斬られるよりは妹である私に斬られたほうが姉さんも浮かばれるでしょう」

「・・・お姉さんを斬って一人で全て背負いこむつもり?」


 ラランの静かな言葉にレレットはビビットを見つめたままでいる。そんなレレットを見たラピュスとラランはビビットを見つめながら口を動かした。


「レレット殿、貴方一人で全てを背負いこむ必要はありません」

「・・・一緒に戦う私達も同じ。一緒に仲間を斬ったという罪を背負う」

「・・・・・・勝手にしなさい」


 表情を変える事無くジッとラピュスとラランを見た後にビビットを見つめるレレット。口ではそう言ってはいるが心の中では二人に感謝をしていた。

 黒騎兵と化したビビットを解放する為に姉と戦う事を決意したレレット。そしてラピュス達もレレット共にビビットを救うべく騎士剣を取る。果たして彼女達はビビットに勝つ事ができるのだろうか?


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