第二百六話 姫騎士達の戦い 黒騎兵驚愕の素顔
M1戦車と黒騎兵の襲撃を受けて一旦後退するヴリトラ達。互いに言葉をぶつけ合っている時にヴリトラの言葉を聞き、小さな希望を掴んだ。そしてM1戦車を破壊する為に護衛の黒騎兵の相手をラピュス達が務めると口にするのだった。
ワズロの町の北側の街道。その真ん中を轟音を立てながら進んで行くM1戦車。それを街道の隅に積まれてある木箱の陰から覗き見ているヴリトラとリンドブルム。二人は気配を消してM1戦車の状態と周囲に黒騎兵がいない事を確認する。
「・・・よし、黒騎兵の姿は無いな」
「うん・・・・・・ところで、本当に良かったの?」
「ラピュス達の事か?・・・仕方がないだろう?あそこまで言われちゃあ・・・」
「いくら姫騎士と言っても、たった五人で黒騎兵を相手にするのは無謀だよ」
「彼女達にも信念と誇りがある。騎士として自分達の国を守る為に戦う事を決意したんだ。俺達にそれを否定したり止める資格はないよ」
「むぅ~~」
どこか納得の行かない顔を見せるリンドブルム。ヴリトラは真面目な顔でM1戦車を見ながらラピュス達の事を考えていた。
今から数分前、ヴリトラはラピュス達の話を聞いて難しい顔をして考え込んでいた。ラピュス達だけで黒騎兵の相手をし、その間にヴリトラとリンドブルムがM1戦車を破壊すると言う作戦。ヴリトラはラピュス達の頼みを腕を組みながら考え込む。
「・・・・・・」
「ヴリトラ、あの戦車を破壊するには他に方法が無いんだろう?その為にも護衛の黒騎兵を戦車から引き離して足止めをする必要がある。私達に戦車の相手は無理だが、同じように剣で戦う者が相手なら何とかなる」
考え込むヴリトラを説得するラピュス。その隣ではララン達がジッとヴリトラを見つめている姿があった。
「待って!あの黒騎兵やヴリトラ達でも苦戦した相手なんでしょう?いくら姫騎士と言っても普通の人間がアイツと戦うなんて危険だよ!」
あまりにも危険な作戦にリンドブルムはラピュス達を止める。確かにヴリトラ達でも苦戦した幹部クラスの実力を持つ黒騎兵に姫騎士五人だけで戦いを挑むのは危険だった。
やめるよう説得するリンドブルムにラランがゆっくりと近づいて彼を見つめ、静かに口を動かす。
「・・・大丈夫、私達を信じて」
「信じてって言われても・・・」
「・・・誰かがやらないとあの戦車は倒せない。それなら私達がやるしかない」
無表情でリンドブルムに話すララン。リンドブルムは困り顔でラランの顔を見つめていた。すると考え込んでいたヴリトラはゆっくりと腕組みをやめてラピュス達を見て口を動かした。
「・・・分かった。お前達に任せる」
「ヴリトラ!?」
ヴリトラの出した答えにリンドブルムは驚きながらヴリトラの方を向く。
「本気なの?」
「ああ、ラランの言うとおり、誰かがあの黒騎兵を足止めしないとM1戦車は破壊できないからな」
「それなら、僕と君のどちらか一人が黒騎兵の相手を・・・」
「いくら機械鎧兵士である俺達でも一人で爆発反応装甲を付けたM1戦車の相手をするのは無謀だ。俺とお前の二人で挑んでようやく倒せる状態なんだよ」
「なら、ジャバウォック達に連絡を入れて救援を・・・」
「ダメだ、今からじゃ間に合わない。それに向こうだって黒騎兵の相手をしないといけないんだ、戦力を削ったらアイツ等が危険だ」
「うう~・・・」
他に方法が無い事にリンドブルムは表情を曇らせる。するとヴリトラはリンドブルムの頭をポンポンと軽く叩き小さく笑った。
「リンドブルム、ラピュス達に任せようせ?彼女達だって優秀な騎士から選ばれた姫騎士なんだ。それにラピュスは一度幹部クラスを倒した事もある。今回は黒騎兵との戦いは二回目なんだ、始めた戦った時と違って戦い方を知っているんだ」
「でも・・・」
「俺はラピュス達を信じるぜ?必ず勝つってな」
「・・・・・・」
笑いながらリンドブルムを説得するヴリトラ。リンドブルムはしばらく俯いて考え込み、しばらくするとゆっくりと顔を上げてラピュス達の方を向く。
「・・・分かった」
「・・・リンドブルム?」
「皆に任せるよ」
「・・・ありがとう」
リンドブルムを見つめてラランは微笑みながら礼を言う。ラピュスも笑顔を見せてヴリトラの方を向き、そんな彼女にヴリトラは笑って頷く。
「でも、これだけは約束して、絶対に無茶はしないって?」
「・・・うん」
真剣な顔で忠告をするリンドブルムを見てラランは頷く。そんな二人の様子を見ていたヴリトラはニッと意味ありげな笑みを浮かべていた。その事に気付いてラランはヴリトラの方を向き彼の顔をジッと見つめる。
「・・・何?」
「いや、何かお前達、前と比べて親しくなったなぁ、と思っただけだ」
「・・・?」
「そ、そんな事無いよぉ・・・」
リンドブルムは少し慌てた様子で首を横へ振る。ラランはヴリトラの言葉の意味が理解できずに小首を傾げた。
「ちょっと、そんな事よりも、この後はどうするのよ?」
話が脱線し、レレットがジト目でヴリトラを見ながら話を戻す。ヴリトラはレレットの方を向いて軽く咳き込んだ。
「オホン!・・・M1戦車は俺達がいるこの狭い脇道には入ってこれないだろう。きっと広い街道を通って町の奥へ進むつもりだ。だが黒騎兵は俺達の様に細い道をも通る事ができる。きっと俺達の後を追ってこの近くに来ているはずだ。まずは目立った動きをして黒騎兵を誘い出す。その隙に俺とリンドブルムはM1戦車のところへ向かい攻撃をする」
「成る程、つまりわらわ達が先に動いてあの黒い騎兵に見つかり、注意を引けばよいのだな?」
「ええ、そう言う事になります」
「分かった、わらわはそれで構わない。お前達はどうだ?」
パリーエがラピュス達に訊ねるとラピュス達は「異議なし」と言う様に頷いた。話がまとまり、ヴリトラ達は行動を開始する為に動こうとする。するとヴリトラは自分の耳にはめてある小型通信機を取り、ラピュスに手渡した。
「ラピュス、コイツを持ってろ」
「これはお前達が使っている遠くに者と会話ができる機械か?」
「ああ、念の為にお前が付けておけ。何かあったら連絡を入れるんだぞ?」
「だ、だがどうやって・・・」
「今から使い方を教えるよ。いいか、まずは・・・」
ヴリトラは自分の小型通信機をラピュスの耳にはめて細かく使い方を教えた。その後、ヴリトラとリンドブルムはラピュス達と別れて街道に向かい、M1戦車を見つけたのだ。
ラピュス達との会話を思い出したヴリトラはリンドブルムと共にゆっくりと街道を進んでいるM1戦車の後をついて行き攻撃する隙を窺う。
「ラピュス達、大丈夫かな?」
「心配ないさ、俺の小型通信機を渡しておいたんだ、何かあればすぐに連絡が来る」
「そうだね・・・ところでジャバウォック達に連絡は入れたの?」
「ああ、ラピュスに渡す前に黒騎兵達が向かっているってな。連絡を入れた時はまだ奴等と遭遇はしていないみたいだった」
「でも、そろそろ戦いが始まる頃だろうね」
「そうだな・・・それじゃあ、俺達もそろそろ始めるか!」
そう言ってヴリトラは森羅とオートマグを抜き、リンドブルムもライトソドムとダークゴモラを抜いた。そして二人はM1戦車の背中を狙って引き金を引いた。銃声と共に弾丸が爆発反応装甲に命中し爆発した。M1戦車は停車し、砲塔を回転させてヴリトラとリンドブルムに砲口を向ける。
「よし、行くぞ!」
「うん!」
砲口が自分達の方を向いた瞬間、ヴリトラとリンドブルムはそれぞれ左右に走り出す。二人とM1戦車との戦いが今始まった。
その頃、ラピュス達はヴリトラ達のいる街道から南東に100m離れた所にある広場の噴水前でラピュス達はヴリトラ達のいる街道にある方角を見つめていた。
「・・・銃声が聞こえる」
「ヴリトラ達が攻撃を始めたんだ」
「・・・ねぇ、改めて訊くけどあの二人、大丈夫なの?」
街道の方を眺めているラランとラピュスにレレットが声を掛ける。二人はゆっくりと振り返りレレットの方を向いた。
「ええ、大丈夫です。彼等の実力は私達とは比べものにならない位ですから・・・」
「・・・私達全員で戦ってもあの二人には勝てない」
「うう・・・納得できないわね」
ラピュスとラランからヴリトラとリンドブルムの実力を聞かされてレレットはジト目で信じられない様な顔を見せる。いくら未知の武器を持ち、常人離れした体力を持っているとはいえ、傭兵が優秀な姫騎士よりも勝ってると言うのだから無理もない。
三人がヴリトラとリンドブルムんことについて話をしていると、パリーエがラピュスに声を掛けて来た。
「ラピュス殿、訊きたい事があるのだが・・・」
「何でしょう?」
「・・・ヴリトラ殿やリンドブルム殿、あの者達は何者なのだ?」
「・・・このヴァルトレイズ大陸とは全く違う大陸から海を越えてやって来た傭兵達です。ブラッド・レクイエムを倒す為に・・・」
ラピュスは七竜将が別の世界から来たという事を隠す為に七竜将が考えたウソの情報をパリーエに伝える。それを聞いたパリーエは真面目な顔でラピュスを見つめた。
「本当か?どうもわらわはそう思えない・・・」
「えっ?そ、それはどういう事でしょう・・・」
説明を聞いたパリーエは七竜将の正体を怪しむ。いくら別の大陸から来たとは言え、銃器、そして戦車の様な物を作る技術がこの世界にあるとは考えられないのだ。何より、別の大陸があるという話も聞いた事が無い為、信じられないでいた。
「七竜将と言い、ブラッド・レクイエムといい、彼等は何処であれ程の力を得たのだ?」
「で、ですから彼等は・・・」
ラピュスはパリーエから目を逸らしながら何とか言い訳を考えた。すると、何処からか銃声が聞こえてラピュスとパリーエの足元に弾痕が生まれる。
「「!」」
突然の銃撃に驚いたラピュスとパリーエは銃声のした方を見る。そして民家の屋根の上から自分達をM4で狙っている黒騎兵の姿を見つけた。
「来たか・・・」
「いよいよ始まるのだな・・・」
ラピュスとパリーエは自分の騎士剣を鞘から抜いて黒騎兵を見つめる。ララン達も自分達の武器を構えて黒騎兵を睨んだ。
「・・・パリーエ王女、あの者達は全身に甲冑を纏って動きづらそうに見えますが、実際はもの凄い速さで移動します。そして使っているあの銃器も私達の身に付けている鎧を簡単に貫いてしまいますので気を付けてください」
「承知した」
「それから、もし危険だと判断したら、迷わずに下がってください。その後は私とラランで・・・」
「フッ、わらわを甘く見るなよ?かつてはレヴァート王国の軍隊を退けた白薔薇戦士隊の隊長だぞ?」
「し、しかし、もしパリーエ王女に何か遭ったら・・・」
「わらわもこの国や民を守る為に騎士になったのだ。敵と戦い、命を落とす覚悟ぐらいはできている・・・それよりも来るぞ?」
パリーエが前を向きながら言い、それを聞いたラピュスはフッと黒騎兵の方を向いた。黒騎兵は民家の屋根から飛び下りて広場に着地する。右手には超振動騎士剣、左手にはM4が握られており、黒騎兵は再びM4をラピュス達に向けた。
「・・・ッ!マズイ!」
銃口を向けて来た黒騎兵を見てラピュス達は素早く左右へ移動する。その瞬間に黒騎兵は引き金を引き、銃口から無数の弾丸は吐き出された。銃撃を見て驚きの表情を浮かべるパリーエ達。だがラピュスとラランは驚く事無く黒騎兵の左側へ回り込み、ハイパワーとベレッタ90を撃ち反撃する。しかし黒騎兵は素早くラピュスとラランの方を向いて超振動騎士剣で彼女達の銃撃を全て防いでしまう。
「クッ!やっぱりこんな単純な攻撃は効かないか!」
「・・・どうするの?」
「まずはアイツの持っている銃を何とかしないと近づく事もできない。あの銃を何とかして奴の手から奪うんだ!」
まずはM4を使えなくしてその後接近戦に入ろうと考えるラピュスはハイパワーで黒騎兵のM4を狙い撃つ。だが黒騎兵は素早く横へ移動してラピュスの銃撃をかわしM4を撃ち返した。ラピュスとラランは素早く移動してギリギリで銃撃を回避する。
黒騎兵がラピュスとラランのどちらを狙おうかチラチラと二人を見ていると黒騎兵の背後に騎士剣を握ったレレットが姿を見せた。
「背中がガラ空きよ!」
「!」
背後からのレレットの攻撃に黒騎兵は素早く振り返る。そこへレレットが騎士剣を振り下ろして黒騎兵の左腕を攻撃した。騎士剣を受けた衝撃で黒騎兵は左手に持つM4を落し、そこへレレットの次の攻撃が放たれた。
「まだまだよ!」
レレットは騎士剣を右から勢いよく横に振って黒騎兵を攻撃する。黒騎兵は素早く超振動騎士剣でレレットの斬撃を止めた。二つの刃が触れ合う箇所からは火花と金属が削れる音が響き、周囲にいるラピュス達は緊迫した空気をその身で感じる。
「やるわね、私は両手で剣を振ってるのにそれを片手で止めるなんて・・・これが機械鎧兵士とか言う者の力なの・・・?」
両腕の力で騎士剣を振っているレレットの攻撃を片手で握った超振動騎士剣で止める黒騎兵にレレットは意外そうな顔を見せる。黒騎兵はレレットの騎士剣を払い、素早くレレットに袈裟切りを放った。だがレレットは冷静に攻撃を見極めて袈裟切りをかわし、再び騎士剣で攻撃する。黒騎兵は後ろに軽く跳んでレレットの攻撃をかわすが、僅かに切っ先が兜を掠める。
距離を取った両者は互いに相手を見つめて騎士剣を構えており、その光景を見ていたラピュスとラランは驚いていた。
「凄い、初めて戦う相手なのに互角に戦っている・・・」
「・・・これが近衛騎士の実力」
自分達と違い王族の警護を任されている黄金近衛隊の姫騎士であるレレットの実力を目にしてラピュスとラランは自分達との力の差を知る。
レレットが黒騎兵を睨み合っていると黒騎兵の左右にパリーエとヴィクティが素早く回り込み、騎士剣を握り黒騎兵に向かって走り出した。
「レヴァート王国の騎士だけに任せる訳にはいかない!」
「私達ストラスタ公国も共に戦う!」
騎士剣を強く握り、パリーエは黒騎兵の右側から、ヴィクティは左側から同時に斬りかかる。黒騎兵はパリーエの攻撃を超振動騎士剣で、ヴィクティの攻撃を左腕で防ぎ、視線だけを動かして二人を確認した。
「私達の同時攻撃を簡単に防ぐとは・・・それなら!」
パリーエとヴィクティは騎士剣を素早く引くと正面に回り込んでパリーエは黒騎兵の頭部に、ヴィクティは腰部分に向かって騎士剣を横に振り攻撃する。黒騎兵は後ろへ跳んで二人の同時斬撃を軽々とかわす。黒騎兵が足を地面に付けた直後、ラランが気の力で風を纏わせた突撃槍で黒騎兵の頭部に突きを放った。
「・・・烈風天馬槍!」
風を纏った突撃槍で強烈な突きを放つララン。槍先が黒騎兵の兜に当たる直前に黒騎兵は顔を横へ反らして直撃を免れた。突撃槍に纏われた風の風圧で黒騎兵は数m先へ吹き飛ばされるが何とか体勢を立て直し地面に足を付ける。その様子を見ながらラランは突撃槍を構え、ラピュス達も彼女の下へ集まった。
「・・・ギリギリでかわされた」
「あの距離で風を纏った槍をかわすとは・・・やはり今までの機械鎧兵士とは違うみたいだな」
ラランの隣で騎士剣を構えるラピュスは遠くにいる黒騎兵をジッと見つめており、パリーエ達も騎士剣を構えながら黒騎兵を睨んでいた。すると、ラランの風の力をギリギリの距離で受けたせいか黒騎兵の兜に罅が入り、徐々に広がって行く。そして兜が完全に砕けて黒騎兵の足元に落ち、兜の下の素顔が出てきた。
「「「「「!!」」」」」
黒騎兵の素顔を見たラピュス達は目を見張って驚いた。なぜなら兜の下から出てきたのはレレットと顔も髪型も全て瓜二つの女性だったからだ。だが、その目には光は無く、肌も青白くまるで死体の様な肌をしていた。
「あ、あれは・・・まさか・・・」
ラピュスは驚きのあまり声を震わせている。ラランも言葉は口にしてはいないが驚きの顔をしていた。そして二人は素顔を見た瞬間、目の前にいる黒騎兵の正体に気付く。
「・・・ビビット・・・姉さん・・・?」
黒騎兵の素顔を見たレレットは思わず声を口に出す。そう、目の前に立つ黒騎兵の正体はジークフリートに殺されたはずのレレットの双子の姉、ビビットだったのだ。ビビットは光の無い目で口を小さく開けたままラピュス達をジッと見つめている。
M1戦車を破壊する為に二組に分かれたヴリトラ達。ラピュス達は黒騎兵を足止めする為に七竜将抜きで黒騎兵に戦いを挑む。しかし彼女達は自分達が戦っている黒騎兵がビビットである事を知り固まるのだった。




