第二百四話 新たな黒い脅威
ワズロの町を奇襲して来たブラッド・レクイエム社の部隊を迎撃する為に町の北側にある正門へ向かったヴリトラ達は大勢のBL兵達と戦闘を開始する。三つに分かれた七竜将と懲罰遊撃隊は町と町の住民達を守る為にそれぞれ武器を手に取るのだった。
ヴリトラとラピュスから少し離れた所ではリンドブルムとラランが他のBL兵達の相手をしていた。リンドブルムは二丁の愛銃を握り物陰に隠れながらBL兵三人と銃撃戦を繰り広げており、ラランは超振動マチェットを持つBL兵二人と戦っていた。
「・・・これで、よしっと!」
正門前の広場から西に少し行った所にある街道ではリンドブルムが大量に積まれている木箱と樽の陰に隠れながらライトソドムの弾倉を新しい物と交換していた。彼が隠れている木箱に数発の弾丸が当たり木片が飛び散り、リンドブルムが木箱の陰から顔を出すと遠くから三人のBL兵達がMP7を撃っており、少しずつリンドブルムの隠れている木箱に近づいて来ている。
「まったく、下手な人達なんだから・・・ん?」
リンドブルムがBL兵達の方を覗くのをやめて前を見ると、目の前にある坂道の隅に大量の樽を積んだ荷車が止めてあった。樽はロープで固定されており、荷車から落ちないようになっている。
「・・・・・・ニヒ」
何かを思いついたのかリンドブルムは荷車を見てニヤリと笑う。
BL兵達がMP7を撃ちながらリンドブルムの隠れている木箱の前までやって来る。BL兵の一人はMP7を構えながら木箱の裏側を覗き込む。だがそこにリンドブルムの姿は無かった。
「おい、いないぞ?」
「何処に行きやがった、あのガキ・・・」
いなくなったリンドブルムを探して周囲を見回すBL兵達。しかし、民家の間の脇道、屋根の上、民家の中、何処を探してもリンドブルムの姿は無かった。
「僕は此処ですよぉ~」
「「「!」」」
何処からか聞こえて来たリンドブルムの声。BL兵達は一斉に声のした方を向く。すると坂道に止めてあった荷車の陰からリンドブルムが笑って姿を見せた。BL兵達はリンドブルムを撃とうとMP7を上げる。だが次の瞬間、リンドブルムはライトソドムで樽を固定してあるロープを撃ち切った。大量の樽は荷車から転がり落ちて坂道を転がりながらBL兵達の方へ向かって行く。それを見たBL兵達は驚き咄嗟に回避行動に移る。横に移動したりジャンプをしなりなどして樽をかわすBL兵達。そこへリンドブルムはライトソドムとダークゴモラで攻撃した。BL兵達は回避行動中であったため、リンドブルムの銃撃を避けられずにまともに受けてしまう。BL兵達を倒したリンドブルムはホッとしながら周囲を見回す。
「・・・もう他には敵はいないよね・・・?」
まだ他に敵がいないか周囲を気にしながら呟くリンドブルム。しばらく警戒してはいたが気配は感じられない。
「どうやらこの辺りにはいないみたいだね・・・あっ!ララン!」
ラランが一人で戦っている事を思い出したリンドブルムは急いで彼女の救援に向かう為に坂道は下り広場の方へ戻って行く。
その頃ラランは広場の隅で二人のBL兵を相手に突撃槍で応戦していた。機械鎧兵士二人を相手に彼女は必死に攻防を繰り返していたが、まだBL兵達は無傷のままラランの前に立ている。
「・・・ハァハァハァ」
突撃槍の槍先をBL兵達に向けながら呼吸を乱すララン。既に大量の汗を掻き疲労が見ている。
「・・・やっぱり、強い」
ラランは突撃槍を構え直し、再びBL兵達に攻撃を仕掛けた。目の前にいるBL兵に向かって突撃槍で突きを放ち攻撃するがBL兵はその突きを軽くかわしてラランの右側面へ回り込み、そのままラランに超振動マチェットで反撃する。だがラランは反撃される前に突撃槍を横へ振って側面へ回り込んだBL兵を突撃槍で殴打しようとした。BL兵はそれに気づき攻撃を中止し超振動マチェットでラランと突撃層を止める。突撃槍を止めた事で超振動マチェットの刃から火花と金属崖すれる音が鳴り響く。BL兵は突撃槍を払って大きく後ろに跳び距離を取る。ラランも離れたBL兵を睨んで突撃槍を構え直した。しかし、そんな彼女の背後からもう一人のBL兵が超振動マチェットを持ち襲い掛かってくる。
「!」
背後にいるBL兵に気付いたラランは素早く横へ跳んでBL兵から離れる。そして隠し持っていたベレッタ90を取り、BL兵に向けて引き金を引いた。銃口から吐き出された弾丸は真っ直ぐBL兵に向かって行くが、全ての弾丸は超振動マチェットによって弾き落されてしまう。銃撃が効かないのを目にしてラランは小さく舌打ちをした。
「・・・全然銃が効かない」
やはりヴリトラ達と同じ世界から来た彼等に銃器は通用しないと考えたラランはベレッタ90をしまい、再び突撃槍を構える。両手でしっかりと突撃槍の柄を握り、ラランは目を閉じた。するとラランの周りにだけ風が吹き、徐々に勢いを強くしていく。気の力で勢いの強くなった風はラランと突撃槍に槍先を包み込む様に纏われ、風を纏った槍先となった。
「・・・今度はこれで行く!」
気の力を使って力が増したラランは突撃槍を構えてBL兵達に突っ込んで行く。BL兵達は異世界の騎士が使う力に一瞬驚きの態度を見せるもすぐに超振動マチェットを構え直してラランを迎え撃つ。ラランは突撃槍を勢いよく突いて攻撃をするがBL兵達はそれぞれ左右へ跳んでその突きをかわしてしまった。しかし、ラランは驚く事無く両手にグッと力を入れる。すると槍先に纏われていた風が突然周囲に広がって突風を起こす。その突風により回避行動を取ったBL兵達は宙を舞い、勢いよく地面に叩きつけられる。
「・・・フゥ」
BL兵二人を吹き飛ばした事で少し安心したのかラランは突撃槍を下ろしてホッとする。だがその時、BL兵達はゆっくりと起き上がりベレッタ90を抜いてラランを狙う。
「・・・ッ!」
銃口を向けられている事に気付いたラランは驚きの表情を浮かべ、咄嗟に回避行動に移ろうとしたが、それと同時にBL兵達は引き金を引いたベレッタ90を発砲する。弾丸はラランの頬や腕を掠めて小さな傷を作り、ラランは突撃槍を構えてBL兵の方を向いた。しかし、BL兵達は既に態勢を立て直しており、超振動マチェットを右手に持ち、左手でベレッタ90を握りラランを狙っている。
ラランは絶体絶命の状態に冷汗を掻き歯を食いしばる。そしてBL兵が引き金を引こうとした、その時、引き金を引く前に何処からか銃声が聞こえ、BL兵達の持っているベレッタ90を弾き飛ばした。
「「!?」」
突然銃が弾かれた事に驚くBL兵達。ラランも驚きの顔でその光景を見ていた。三人が銃声のした方を見ると、遠くからライトソドムとダークゴモラを構えているリンドブルムの姿を見つける。
「ララン!大丈夫?」
「・・・リンドブルム」
助けに来てくれたリンドブルムに思わず名を呟くララン。そしてすぐに戦闘態勢に戻り、目の前で隙を見せているBL兵達に攻撃を仕掛ける。BL兵達はラランの攻撃に反応が遅れてしまし、BL兵の一人がラランの突撃槍で体を貫かれた。仲間がやられ、BL兵はラランに攻撃しようと超振動マチェットを振り上げる。だがそこへリンドブルムが銃撃し、もう一人のBL兵を倒した。
BL兵二人を倒し、リンドブルムはラランの下へ走り合流する。
「ララン、大丈夫?」
「・・・平気、少し掠っただけ」
そう言ってラランは無表情の頬の傷から垂れている血を左手で拭う。リンドブルムもラランの様子から大怪我はしていないと安心する。するとそこへヴリトラとラピュス、そして懲罰遊撃隊の騎士達もやって来て二人と合流した。
「二人とも、大丈夫だったか?」
「うん、こっちは平気。ヴリトラ達は?」
「俺達も大丈夫だ」
「途中で新たに四人の敵と遭遇したが、すぐに片づけた」
「そう。とにかく無事でよかったよ」
リンドブルムはヴリトラ達が無事なのを確認して笑みを浮かべる。ラランも無表情ではあるが安心したのか小さく溜め息をつく。
ヴリトラ達が互いの無事を確認し合っていると、小型無線機からコール音が鳴り、ヴリトラとリンドブルムはスイッチを入れて応答する。
「こちらジャバウォック。皆、聞こえるか?」
小型通信機から聞こえて来たジャバウォックに声にヴリトラとリンドブルムはピクリと反応した。
「ジャバウォックか、どうした?」
「ヴリトラか、そっちの現状は?」
「粗方敵を片づけたところだ。全員無事だよ」
「そうか。こっちも敵を片づけて今休んでいるところだ」
町の西側にある街道でデュランダルを担いだジャバウォックが小型通信機から自分達の状況を説明する。彼の周りではファフニールとアリサが他に敵が隠れていないかギガントパレードと騎士剣を構えながら周囲を見回しており、騎士達もMP7やバレッタ90を構えて周囲を警戒している。そして彼等の近くではBL兵達の遺体が転がっていた。
「負傷者は出ていない。今のところはな」
「そうか。でも油断するなよ?まだ何処かに敵がいる可能性は十分あるんだからな」
「ああ、分かってる・・・ところで少し気になる事があるんだが・・・」
「ん?」
ジャバウォックの気になる事、それを聞いたヴリトラは不思議そうな顔を見せ、リンドブルムも同じ様な顔になった。通信の内容が聞こえないラピュス達はまばたきをしながら二人の様子を窺っている。
「奴等は北側の正門を爆破し、穴を開けて町に侵入した。にもかかわらず奴等の装備には門を爆破できる程の対物火器が見当たらない」
「C4みたいな爆薬系を使ったんじゃないのか?」
「いや、俺の経験からあんなデカい門はプラスチック爆弾なんかじゃ爆破できない。やるとしたらかなりの量が必要になる」
「じゃあ、ロケットランチャーとかは?」
「使ったんだったら、奴等が持ち歩いているはずだ。だけど、奴等は持っていなかった」
「確かに俺達が戦った一般兵達は誰もそんな物は持ってなかったなぁ・・・」
ヴリトラは自分達が戦ったBL兵達の装備を思い出して誰もロケットランチャーの類を持っていなかった事を思い出す。
「俺達の方にもそんな奴はいなかった」
小型通信機から聞こえて来たニーズヘッグの声にヴリトラは難しい顔を浮かべる。ニーズヘッグ、ジルニトラ、オロチ達のチームも遭遇した大勢のBL兵達を倒し、町の東側にある広場の前で休んでいた。
「そうか・・・・・・なぁ、ニーズヘッグ、あの大きさの正門に穴を開けられる火器は他にどんな物がある?」
「C4やロケットランチャーの類ではないとすれば・・・機械鎧の内蔵兵器ぐらいしかないだろうな」
「だけど、奴等の機械鎧の内蔵兵器じゃ門にあれだけのデカい穴は開けられないだろう」
「・・・・・・」
ブラッド・レクイエム社が正門に穴を開けた方法が分からずニーズヘッグは頭を悩ます。周りにいるジルニトラも難しい顔を見せており、オロチは二人を見ながら斬月を担いでいた。
「・・・まぁ、悩んでいてもしかたがねぇよ。まずは町にいる敵を倒して安全を確保する事にしよう」
「そうだな」
「ああ、侵入方法は後回しだ」
ジャバウォックの言葉にヴリトラとニーズヘッグは今自分達がやるべき事を思い出して話を終わらせる。
「とりあえず、まだ敵がいる可能性はある。各自十分気を付けてくれ?」
「「「「「了解」」」」」
リンドブルム以外の七竜将が返事をし、ヴリトラは小型通信機のスイッチを切る。その直後、ヴリトラ達の背後から馬の走る音が聞こえ、ヴリトラ達は振り返る。そしてパリーエ達白薔薇戦士隊とレレット達黄金近衛隊が馬に乗って向かって来る光景が目に映った。
「パリーエ王女達だ」
「それにレレット殿もいるな」
パリーエ達の登場にリンドブルムとラピュスは彼女達を見ながら呟く。パリーエ達は馬を止めてヴリトラ達の前までやって来ると周囲を見回す。倒れている住民や白薔薇戦士隊の騎士達の遺体を見て彼女達は驚きの表情を浮かべる。
「これ程の犠牲者が・・・」
「何と言う事だ・・・」
パリーエと同行していたヴィクティは仲間と民を死なせてしまった事に罪悪感を感じ表情を曇らせる。そんなパリーエ達を見てヴリトラはパリーエの前に来た。
「仕方がないですよ。俺達が来た時には既に町に侵入されていましたし、どんなに急いでも間に合わなかったんです」
「ヴリトラ殿・・・」
「それに、後悔したって元には戻りません。後悔するよりも同じ悲劇を生み出さないようにする為にどうするかを考える方が大切だと思いますよ?」
励ましながら今後どうするかを話すヴリトラの顔を見てパリーエは曇った表情のまま頷く。ヴィクティ達も同じ様な表情でヴリトラ達の方を見ている。
パリーエ達の隣ではレレット達が倒れているBL兵の遺体を見て驚きの顔を見えていた。見た事の無い装備に武器を持つ敵兵、レレット達は驚きと同時に妙な興味を抱いて遺体を見下している。
「・・・これがブラッド・レクイエムの兵士なの?」
「ええ、奴等も俺達の様に体の一部を鉄に変えて戦闘能力を高めています」
「鉄の義肢を使う兵士、彼等の力は精鋭の白銀剣士隊の騎士、十数人分に値します」
「た、たった一人でぇ!?」
リンドブルムの説明を聞いたレレットは一般兵であるBL兵の実力が十数人分だと知り耳を疑う。だが、彼等と同じ機械鎧兵士である七竜将の言葉なら信じるしかない。
「ところで・・・もう敵の姿は無いようだけど、貴方達が全員倒したの?」
「ええ、少なくともこの広場にいる敵は・・・」
「今、町の西側と東側に他の七竜将の隊員達が向かって他の敵を倒しに向かっています」
「そう・・・それなら、私達もそっちに何人が送った方がよさそうですね。パリーエ王女?」
「うむ、そうだな。わらわの隊からも何人かを向かわせよう。彼等も少しは楽になるだろう」
ラピュスの話を聞いてレレットとパリーエは自分の隊の騎士達をそれぞれ西側と東側へ送り、ジャバウォック達の救援に向かった。彼等に救援など必要ないが、折角に彼女達の好意である為、ヴリトラ達は何も言わずに黙っている。
騎士達を送り、広場にはヴリトラ達以外にパリーエとヴィクティに四人の白薔薇戦士隊の姫騎士、そしてレレットと近衛騎士が三人残った。ヴリトラは改めて周囲を見回して他に敵がいないかを確認する。
「もしかしたら他にも敵がいるかもしれないな・・・もう少しこの辺りを調べてみるか・・・」
「うん。でも、町の方にもまだ敵がいるかもしれないし、何人かを此処に残して残りで町の方を見に行くっていのはどう?」
「確かに町の方に敵がまだ残っている可能性はあるか・・・よし、そうしよう」
リンドブルムの提案を聞いてヴリトラは広場を確保する班と街へ行く班を分けようとラピュス達に話をする。すると正門の方を見ていたラランの表情がふと変わった。
「どうしたの?」
「・・・あれ」
リンドブルムがラランの様子に気付いて訊ねるとラランは正門を指差した。大きな穴の開いている正門の向こう側から何やら大きな影が近づいて来る。
「ヴリトラ、あれ・・・」
「ん?」
正門の方を見ながらリンドブルムはヴリトラを呼ぶ。ヴリトラとラピュス達も一斉に正門の方を向いた。影は徐々に大きくなり、ヴリトラ達に近づいて来る。そしてその影は正門の穴を潜って町の中へ侵入する。
「なっ!?」
「あ、あれって・・・」
町に侵入して来た物を見たヴリトラとリンドブルムが驚愕の表情を浮かべる。その侵入して来た物は砲塔と履帯を持った鋼鉄の車だった。
「な、何だあれは・・・?」
「・・・大きい車」
ラピュス達も見た事の無い物に目を見張って驚いていたが、ヴリトラとリンドブルムの驚きはそれ以上だった。
「マ、マジかよ・・・『M1戦車』じゃねぇか!」
「・・・しかも全体に爆発反応装甲が付いてるよ!」
M1戦車と叫ぶヴリトラと驚きのあまり表情を固めるリンドブルム。そう、ヴリトラ達の前に現れたのはアメリカ軍の主力戦車である「M1エイブラムス」だったのだ。だが装甲は黒く、赤いブラッド・レクイエム社のマークがペイントされている。つまり、ブラッド・レクイエム社の戦車と言う事だ。
ヴリトラとリンドブルムがM1戦車に驚いていると、その影から五つの人影が姿を見せる。全身を黒い全身甲冑で包んだ騎兵達。そう、幻影黒騎士団の黒騎兵だった。その手にはM4と超振動騎士剣が握られており、五人の黒騎兵はM1戦車の前に立ち周囲を見回す。
「今度は幻影黒騎士団!?」
「クソォ、厄介なモンがまとまって出てきやがった!」
町に侵入したM1戦車と五人の黒騎兵、強敵達の登場に流石のヴリトラとリンドブルムも焦りを見せる。ラピュスとラランはヴリトラとリンドブルムの態度を見てとても危険な状態だと察し、M1戦車を見つめながら冷汗を流した。
BL兵達を倒し、パリーエ達とも合流したヴリトラ達。だが休む間もなく敵の第二陣が町に侵入する。しかもそれはM1戦車と以前ヴリトラ達を苦しめた幻影黒騎士団の黒騎兵達だった。ヴリトラ達はこの二つの脅威にどうやって立ち向かうのだろうか・・・。




