第二百二話 ジャンヌとの接触 宣戦布告と惨劇の爆炎
レヴァート王国とストラスタ公国の同盟会談が始まった。しかし、会談が始まった直後にブラッド・レクイエム社の社長であるジャンヌが現れる。会場に走る緊張の中、ジャンヌは不敵な笑みを浮かべてヴリトラ達を見回すのだった。
突然現れたジャンヌに驚くラピュス達と警戒心を最大にする七竜将。両国の王は自分達が戦う相手となるブラッド・レクイエム社の支配者が幼い少女の姿をしている事が意外だったのか驚きの顔を浮かべている。
「まさか両国の同盟会談中に挨拶できるとは都合がよかったわ」
「クッ!」
笑みを浮かべるジャンヌを睨みながらヴリトラは構える。ジルニトラとオロチもそれぞれ構えてジャンヌを見つめた。
「ほお?貴方達が七竜将ね?噂はジークフリートから聞いてるわ」
「俺達もアンタの事は色々調べさせてもらったぜ、ジャンヌ。それとも、こう呼んだ方がいいか?・・・アンジェラ・アンメーデン」
「フッ、私の本当の名前を知っているとは、流石は七竜将と言ってくわ」
自分の本名を口にしたヴリトラを見て表情を崩さないジャンヌ。それだけ彼女は余裕なのだとヴリトラ達はすぐに理解した。
「それで?一体どうやって此処に来たんだ?正面入口にはジャバウォック達がいたはずだが・・・」
「ああ、確かに正面には大勢の警備がいたかな。裏口からこっそり入らせてもらったよ。もっとも、途中で出会った屋敷の人間は全員消したけどな」
「チッ!何て女だ・・・」
恐ろしい事を平気で口にするジャンヌにヴリトラは舌打ちをする。すると、さっきまで驚いていたヴァルボルトが静かに口を動かした。
「お主がブラッド・レクイエムの長なのだな?」
「ええ、初めまして。ヴァルボルト陛下」
「それで、一体何用で来られたのだ?」
「おっと、そうでした。スッカリ忘れるところだったわ」
自分が訪れた理由を思い出してポンと手を叩くジャンヌ。ヴリトラはそんなジャンヌを鋭い目で見つめながら警戒し続けている。構えも取らずにただ立っているだけのジャンヌにヴリトラはなぜか手が出せなかった。
(この女、明らかに今まで戦ってきた機械鎧兵士とは違う。一体何者なんだ・・・?)
心の中でジャンヌの正体を考えるヴリトラ。するとジャンヌはヴァルボルトやローシャル。そしてヴリトラ達を見て自分が此処にやって来た理由を話し始めた。
「本日ただいまより、私達ブラッド・レクイエム社はレヴァート王国とストラスタ公国に対し宣戦布告をします」
「宣戦布告?」
「ええ、既に我々はこの大陸最大の国家である神聖コラール帝国と契約を結び、その戦力と拡大しつつあります。貴方がた以外にもレヴァートの同盟国であるセメリト王国にも宣戦布告をしていますから我々は三つの国を敵に回した事になりますね」
自分達の立場と宣戦布告している国の名前を口にするジャンヌ。自分達の情報を簡単に相手に話すジャンヌの考えをヴリトラ達は理解ができずに耳を疑う。
「現在この大陸で私達と接触していないのはオラクル共和国のみ、その国を私達と貴方がたのどちらかが味方に付ける事で状況は変わってくるでしょうね」
「・・・何でそんな事を俺達に話すんだ?」
ヴリトラはジャンヌの考えが理解できずに思わず訊ねた。するとジャンヌはヴリトラを指差しながら小さく笑う。
「これくらいの事を話しておかないと貴方達は私達に勝てないからよ」
「何だと?」
「私達ブラッド・レクイエムはコラール帝国と手を結び、領土、人材、資金、情報などを大量に手に入れた。しかも、私達の手には銃器などの武器や兵器が無尽蔵にある。戦力だけでも私達の方が貴方達より遥かに勝っている。だから、何時か行われるであろう戦いの為に貴方達にほんの少しだけ私達の現状を教えるというハンデを与えようと思った。それだけの事よ」
「俺達も随分小さく見られたもんだな」
「例え、あっちで名の通った傭兵隊であったとしても、私達にとってはちっぽけな戦力でしかない。貴方達は私達にとっては何の脅威でもないのよ」
七竜将をちっぽけな戦力と口にするジャンヌにヴリトラは歯を食いしばり苛立ちを見せる。ジルニトラとオロチも鋭い視線をジャンヌに向けており、周りにいるラピュス達はヴリトラとジャンヌの話を聞きながらブラッド・レクイエム社がどれ程の存在なのかを想像しながら驚いていた。
自分を睨むヴリトラを見ながらジャンヌは肩をすくめながら両国の王族の方を向く。
「まっ、今回は宣戦布告だけですから、そんなに構えなくて結構ですよ」
「本当にそれだけなのだろうな?」
信用できないのかローシャルはジャンヌを見ながら訊ねる。ジャンヌはローシャルの方を向いて頷いた。
「ええ。私はこれ以上何もする気はありません」
「信用できんな。お前達は宣戦布告する前に我が国の騎士達をさらい、あんな姿に作り変えたではないか!」
ローシャルの隣に立っているパリーエがジャンヌを睨みながら黒騎兵に改造された騎士達の事を話す。ポーリー達も自分達の同志を改造された事に怒りを感じており、ジャンヌを睨みつけていた。
「・・・ああぁ、幻影黒騎士団の事ですね?確かに彼等の事に付いては悪い事をしたと思っています」
「宣戦布告をしに来た者の言葉とも思えないな」
「確かにそうですね、フフフ」
そう言ってジャンヌはパリーエを見ながら微笑む。この表情を見た時に周りにいる一同は思った。この女は自分達をバカにしており、今の状況を楽しんでいると。
周りから睨まれているにもかかわらず、ジャンヌは余裕の表情を崩さずに左手に付けられている腕時計を見た。
「・・・フム、そろそろ時間ね」
「何?それはどういう――」
ヴリトラが訪ねようとした時、突如、屋敷の外から爆発音が聞こえて来た。
「「「「「!?」」」」」
外から聞こえてくる爆発音にヴリトラ達は一斉に外の方を見る。その中でジャンヌはゆっくりと振り返って楽しそうな顔を見せた。
「グッドタイミングね?」
「・・・ジャンヌ!まさかお前!」
「ちょっとしたサプライズプレゼントよ。遠慮無く受け取って」
「何がサプライズプレゼントだ!」
ヴリトラ達がジャンヌを睨みつけていると、部屋の入口の扉が開き、ジャバウォックとアリサが飛び込んで来た。
「ヴリトラ、大変だ!町の方で突然爆発が起きやがった!」
「チィ!やっぱりそうか!」
ジャバウォックの言葉に舌打ちをするヴリトラは再びジャンヌの方を向く。
「何が宣戦布告をするだけだ!思いっきり攻撃して来てるじゃねぇか!」
「フフフ、敵のウソに簡単に引っかかる方が悪いのよ?これからは戦う相手を簡単に信用しない事ね」
「こ、このぉ~!」
「それじゃあ、私はこれで失礼するわ。チャオ♪」
ジャンヌはヴリトラ達に簡単な挨拶をすると部屋の窓ガラスを割って外に飛び出した。
「待てぇ!」
ヴリトラはジャンヌの後を追って割られた窓へ駆け寄るが既にジャンヌの姿は無かった。会場の部屋は一階にあった為、窓から飛び出した瞬間に走って逃げて行ったのだろう。
「クソォ!」
ジャンヌを逃がした事を悔しがるヴリトラ。そこへラピュスと駆け寄って来る。
「ヴリトラ、奴は?」
「・・・逃げられた。思ってたよりも素早い女だ」
「そうか。しかし、とんでもない女だったな・・・」
ヴリトラとラピュスは悔しそうな顔で強く手を握る。するとそこへジルニトラがやって来た真剣な顔で二人に声を掛けた。
「二人とも!あの女の事は後よ!まずは町を何とかしないと!」
「そうだったな。ジャバウォック、状況を教えてくれ!」
現状を思い出したヴリトラは知らせに来たジャバウォックに譲許の説明を求める。ラピュス達も全員ジャバウォックとアリサの方を向いていた。
「俺達が屋敷の入口前を警備していたら突然町の北側から大きな爆発音が聞こえて来たんだ。そしたら遠くから黒い煙が上がったんだよ」
「今、白薔薇戦士隊の方々が様子を窺いに向かってます」
「わらわの隊がか!?」
爆発の原因を調べ向かったのが白薔薇騎士隊と聞いて少し驚いた様子を見せるパリーエ。ジャバウォックとアリサはパリーエの方を向いて頷いた。ローシャルはパリーエの率いる優秀な騎士隊が対処に向かった事で少し安心したのかホッとしている。だが、ヴリトラ達は嫌な予感がするのか緊迫した表情を浮かべていた。
「・・・あの爆発がブラッド・レクイエムの仕業なのは間違いない。なら、奴等はあれだけの大爆発を起こせるだけの兵器を持ち込んでいるって事だ。もしくは幹部クラスの機械鎧兵士がいるのかも・・・」
「だとしたら、白薔薇戦士隊では勝ち目が無いかもしれないぞ」
「ああ。俺達もすぐに向かおう!」
現場に向かうと言うヴリトラにラピュスは頷き、ジルニトラ、オロチもヴリトラを見つめて頷いた。
「陛下、俺達はこれから爆発現場へ向かいます。あの爆発は間違いなくブラッド・レクイエムが引き起こした物、陛下達は安全な所へ避難してください」
「分かった。頼んだぞ?」
「ハイ」
ヴァルボルトに現場へ向かう事を伝えたヴリトラは部屋を出て行こうとうする。するとパティーラムが出て行こうとするヴリトラを呼び止めた。
「ヴリトラさん」
「ハイ?」
「・・・お気を付けて」
「・・・ありがとうございます」
パティーラムに笑いながらそう言ったヴリトラは部屋を出て行き、ジャバウォック達もその後に続く。ラピュスはパティーラムの方を見て彼女のヴリトラへの接し方に違和感の様なものを感じていた。
(何だ?今、姫様がヴリトラに話し掛けた時に何か変な感じが・・・)
「隊長、私達も行きましょう!」
「え?・・・あ、ああ!」
心の中で考えていたラピュスにアリサが話し掛け、ラピュスも急ぎヴリトラ達の後を追う。ヴリトラ達が部屋を出ていくと、ヴァルボルトはローシャルに安全な所へ避難する事を話し始める。そんな中、パリーエがローシャルに声を掛けて来た。
「父上、私も行ってきます」
「パリーエ?」
「わらわは白薔薇戦士隊の隊長、現場へ向かい、部下達を指揮しなければなりません」
「・・・・・・分かった。気を付けろ?」
「ハイ!」
パリーエは敬礼をしてポーリー達に指示を出す。本当は娘であるパリーエを危険な所へは行かせたくないローシャルだが、彼女も危険である事を覚悟して騎士になった。故にそっと見守ってやることに決めたのだ。
「わらわとヴィクティは現場へ向かう。ポーリー、お前は此処に残り父上の警護をしろ」
「ハ、ハイ!」
「よし、行くぞ!」
「ハッ!」
パリーエはヴィクティと二人の姫騎士を連れて走り出し部屋を出て行く。その光景を見ていたレレットはジッと部屋の入口の方を見て何かを考えている。そしてゆっくりとザクセンの方を向いた。
「・・・隊長、私も行ってきます」
「何?」
「私も黄金近衛隊の仲間と共に現場へ向かいます」
「お前は陛下を守る近衛騎士じゃろう?此処に残って陛下をお守りしろ。外の方は七竜将とパリーエ王女達にお任せすればいい」
「私も確かめたいのです。七竜将の力を。これから先、私達は彼等を信じていいのか、それだけの実力を持っているのか・・・」
レレットはやはりまだ七竜将の事を信用していないらしく、その目でヴリトラ達の存在がどんなものなのかを確かめたいと口にする。それを聞いたザクセンやヴァルボルト達はレレットを見つめている。
「・・・分かった、行って来い」
「隊長・・・」
「儂等はこれから先、何度も七竜将と共に戦う時が来るだろう。その為に彼等の力と人間性をしっかりと理解しておく必要がある。それにお前がまだ七竜将の事を信用できないと言うのであれば、七竜将がどんな存在なのかを知る為に一度彼等の戦いをその目で見ておくのもよい」
「・・・ありがとうございます」
「・・・陛下、勝手な判断をして申し訳ありませんが、レレットを行かせてやっては頂けませんか?」
ザクセンが隣にいるヴァルボルトにレレットを行かせてもいいか尋ねると、ヴァルボルトは目を閉じて笑いながら頷き、「構わない」とザクセンに伝える。それを見たザクセンも小さく笑い、レレットの方を向いた。
「陛下と姫様は儂がお守りする。お前は行って来い」
「ハイ!」
レレットはザクセン達に敬礼をし、走って部屋を後にする。それからヴァルボルト達はローシャル達と共に屋敷の地下へ移動して安全を確保し、騒動が収まるのを待つのだった。
その頃、ヴリトラ達はジープに乗って爆発が起きた場所へ向かって街道を走っていた。ジープには七竜将以外にラピュスとアリサも乗っており、かなり窮屈な状態だった。
「ヴ、ヴリトラ、私とアリサは馬に乗って行った方がよかったんじゃないのか?」
「今は緊急事態だ。一刻も早く爆発の起きた所へ向かわなきゃいけないんだから、速いジープに乗った方がいい」
「だ、だけど、これはちょっと窮屈よね?」
「贅沢言わない!」
あまりの窮屈さに苦笑いを浮かべるジルニトラに運転席のヴリトラは呆れ顔で言った。
「それよりも皆さん、武器を持っていませんけど大丈夫なんですか?」
アリサは会談に参加したヴリトラ、ラピュス、ジルニトラ、オロチの四人が丸腰なのに気付いて尋ねる。アリサとジャバウォックは外の警護をする為に自分達の武器を持ってはいるが、四人は武器を一つも持っていない状態だった。
「心配するな。さっき屋敷を出る時に待機しているリンドブルム達に連絡を入れておいた。現場に着く時か着く前には合流できるだろう」
装備の方は心配ない事を知ってホッとするラピュスとアリサ。ジープのスピードを上げて急ぎ現場へ向かった。
ジープから10mほど離れた位置では馬に乗ったパリーエ達が必死の後を追っていた。
「何て速さだ!あんな速い馬車は見た事がないぞ!?」
「七竜将は一体何者なのでしょう?」
「分からん。だが、今は町を守ろうと言うあの者達を信じるしかあるまい」
パリーエとヴィクティが馬に乗りながら会話をし、馬を走らせる速度を上げた。するとヴリトラ達が向かっている先で再び爆発が起き、そこから黒煙が上がる。
「ヴリトラ、あれ!」
「チッ!急ぐぞ!」
そう言ってヴリトラはシープのアクセルを踏んで更に速度を上げて現場へ急いだ。パリーエ達白薔薇戦士隊もその後を追って現場へ向かう。
会談中に突然姿を現したジャンヌ。そして彼女がレヴァート王国とストラスタ公国に宣戦布告をした直後、町の北側で爆発が起きる。ヴリトラ達は急ぎ現場へ向かうが、既に北側はブラッド・レクイエム社の手により恐ろしい状態になっていた事を彼等はまだ知らない・・・。




