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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十一章~新たな同志を求めて~
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第百九十九話  信用を得る手合せ ヴリトラVSパリーエ


 ストラスタ公国の王女パリーエからレヴァート王国が何かを企んでいるのではないかと言われたヴリトラとラピュス。パリーエはヴリトラと手合せをし、もし勝ったら真実を話すよう要求して来る。同盟会談を前に起きた問題にヴリトラ達はどう対処するのか。

 エントランスの中央で得物を握り向かい合うヴリトラとパリーエ。部屋の隅では二人をラピュス達が見守っていた。


「まったく、ガバディア団長に問題を起こさないようにって言われたのに・・・」

「・・・いきなり問題が起きた」


 リンドブルムはヴリトラを見ながら呆れ顔で呟き、ラランもヴリトラを見て「しょうがない人」と言いたげに口を動かす。


「ヴリトラは私達が何も企んでいない事を証明する為に手合せを受けたんだ。それに、私がアイツの立場だったらきっと同じように手合せを受けていた」

「でも、もしこれで王女様に怪我をさせたりなんかしたらそれこそ同盟が無かった事になっちゃうよ?」

「パリーエ王女が自ら手合せを申し出てこられたんだ。彼女も自分に何か遭っても私達に責任を追及しないと仰られたからな」

「それならいいけど・・・」


 ラピュスの話を聞いて少しだけ安心したリンドブルムは両手を腰に当てながらヴリトラの方を向く。すると、ラピュス達の後ろにあるドアが開いて荷物を部屋に置きに行っていたジャバウォック達がエントランスに戻って来た。


「待たせたな?この後はどうする・・・ん?何だ?」


 ジャバウォックがエントランスの状況を見て足を止める。彼の後ろからはニーズヘッグ達も姿を見せてエントランスを見て驚きの表情を浮かべた。


「な、何だこれは?」

「一体どうなってるのよ?・・・て言うか、あの姫騎士は誰?」

「もしかして、ストラスタ公国の騎士さんじゃないの?」


 ニーズヘッグの隣にいるジルニトラとファフニールがヴリトラと向かい合っているパリーエを見つめる。ラピュス達も戻って来たジャバウォック達に気付いて振り返った。


「皆!」

「リンドブルム、これはどういう状況なんだ?」

「説明しろ・・・」


 ジャバウォックとオロチが状況の説明を求めるとリンドブルムはめんどくさそうな顔で頭を掻きながら説明を始めた。アリサや懲罰遊撃隊の騎士達にもラピュスが説明をする。

 ヴリトラと向かい合っているパリーエはエントランスにやって来たジャバウォック達の姿を見て少し驚きの表情を浮かべていた。


「・・・あの者達もお前の仲間なのか?」

「ええ」

「子供だけでなく女の傭兵もいるとはな・・・」

「別に不思議じゃないでしょう?貴方の騎士隊だって姫騎士だけで構成されているじゃないですか?」

「・・・フッ、そうだったな」


 男性と女性で構成されている傭兵隊よりも女性だけで構成されている自分の白薔薇戦士隊の方が珍しい、その事にパリーエは微笑しながら納得する。


「さて、そろそろ始めませんか?」

「そうだな」


 手合せを始める為に改めて構え直すヴリトラとパリーエ。構え終えてからしばらく睨み合う二人、その様子をラピュス達は黙って見つめている。そして、遂に始まった。


「ハアァ!」


 最初に動いたのはパリーエだった。ヴリトラに向かって走り出し、正面から騎士剣で袈裟切りを放つ。ヴリトラはその攻撃を後ろに跳んで軽々とかわす。するとパリーエは続けてヴリトラの胴体に向かって突きを放った。後ろに跳んでいる者にとってこの状態での突きは非常に回避が難しい。だが、ヴリトラは別だった。ヴリトラは跳んだ状態で森羅を使い騎士剣の刃の軌道を僅かに反らす。その状態で体を少し動かし突きをギリギリで回避する。


「何?」


 ヴリトラの回避行動を見て驚くパリーエ。両足が床に付いたヴリトラは素早く態勢を立て直してパリーエを見つめる。


「あの状態で私の突きをかわすとは、なかなかの反射神経だな?」

「それほどでも・・・て言うか、貴方の今の攻撃、当たれば間違いなく重傷でしたよ?もしかして俺を殺す気で攻撃してません?」

「いかなる相手にも全力で戦う、それがわらわの騎士道だ。それに最強の傭兵隊であればあの程度の攻撃もかわせると思っていたからな」

「怖い人・・・」


 目を細くしながらそう呟くヴリトラは森羅を構え直してパリーエを見る。パリーエも騎士剣を構え直して再びヴリトラに向かって走り出した。


「ハアーーッ!」


 パリーエは再びヴリトラに正面から袈裟切りを放ち攻撃する。ヴリトラは今度は回避するのではなく森羅で斬撃を止めた。二つの刃が交わり火花と金属が削れる様な音がエントランスに響く。


「ッ!?何だこれは?どうして刃から火花が・・・」

「これはそういう武器なんですよ」


 ヴリトラはパリーエの騎士剣を止めながら余裕の表情で説明する。森羅で騎士剣を押し戻し、パリーエが態勢を崩したところへ森羅を振り下ろし攻撃する。パリーエは咄嗟に騎士剣を横にして真上からの振り下ろしを防ぐ。しかし彼女の想像以上の重さがかかり、パリーエは表情を歪めながら体勢を崩し、片膝を床に付ける。


「な、何だこの力は!?」


 あまりの斬撃の重さに腕を震わせるパリーエ。そこへヴリトラはがら空きになっているパリーエの胴体に蹴りを撃ち込む。


「うわああぁ!」


 突然の蹴りに対処できなかったパリーエは大きく後ろに飛ばされて仰向けに倒れる。


「「姫様!」」


 パリーエが蹴り飛ばされた事にポーリーとヴィクティは思わず声を上げる。パリーエもゆっくりと起き上がって森羅を構えているヴリトラを見て驚いていた。


(な、何だ今の蹴りは?鎧の上から蹴られたのに凄い衝撃だった・・・)


 ヴリトラの蹴りの威力に驚きパリーエは鎧の蹴られた部分を擦る。それを見ていたヴリトラは森羅を右手に持ってゆっくりと下ろした。


「どうします?まだ続けますか?」

「・・・当たり前だ。蹴りを入れたくらいでもう勝った気でいるのか?」

「いや、勝った気でいるつもりは・・・」

「だったら続けるぞ?わらわの戦意はまだ消えてはいない」


 立ち上がり騎士剣を構え直すパリーエを見てヴリトラはパリーエに気付かれない様に静かに溜め息をつく。


(このまま戦いを続けてもパリーエ王女は諦めないだろな。だったら、別の方法で戦意を失わせるのが一番手っ取り早く、安全に終わらせる事ができる)


 心の中で作戦を変える事にしたヴリトラは森羅を下ろしたまま左手を腰に当ててパリーエを見つめた。パリーエは構え直さないヴリトラを見て「何をやっているんだ」と言いたげな顔をする。


「何をしている?構えもしないで、わらわなど構えなくても余裕で勝てると言いたいのか?ナメられたものだ」


 不愉快になったのかパリーエは声を少し低くしてヴリトラを睨む。そして騎士剣を横にしてヴリトラに向かって走り出そうとした時、ヴリトラは腰に当ててある左手を素早く動かしてホルスターに納めてあるオートマグを抜き発砲する。弾丸はパリーエの騎士剣の命中し、その衝撃で騎士剣はパリーエの手から離れて床に落ちた。


「「「!?」」」


 突然手から離れた騎士剣に驚くを隠せない白薔薇戦士隊の騎士達。何が起きたのか分からずにただ床に落ちている騎士剣を見つめていた。


「な、何だ今のは・・・?」

「と、突然剣が弾き飛んだ・・・」


 ヴィクティとポーリーは目を丸くしながら騎士剣を見ており、パリーエも目を見張って自分の手を見つめている。


(何だ?今両手に大きな衝撃が走ったぞ?アイツが何かをしたのか?しかし、アイツはわらわから離れた所にいるんだ。離れた敵に攻撃するなど・・・・・・んん?)


 ゆっくりとヴリトラの方を向くパリーエはヴリトラの左手に握られているオートマグに目が止まった。


「な、何だそれは?」

「これですか?銃と呼ばれる武器ですよ。遠くにいる敵に攻撃できる物です」

「遠くにいる敵に!?何も見えなかったぞ?」

「それだけ速く攻撃できる物なんですよ。貴方がたにとっては未知の武器と言えます」

「・・・そう言えば、先の戦争でブルトリックが未知の武器を持つ優れた傭兵を雇ったと話していた様な・・・」


 前の戦争でブラッド・レクイエム社と独断で契約を結び、機械鎧兵士達を手に入れたブルトリックの事を話すパリーエ。それを聞いたヴリトラやラピュス達の表情が変わる。


「その傭兵達こそが今回の同盟に大きく関わっているんですよ」

「何?どういう事だ?」

「・・・それは明日の会談でお話しします」


 ヴリトラは目を閉じながらゆっくりとオートマグを下ろす。パリーエはヴリトラの持っている銃と先の戦争でブルトリックが雇った傭兵が関係している事に興味が湧いたのかジッとヴリトラを見つめている。


「・・・ところで、まだ続けますか?」

「え?」

「いや、手合せですよ」

「あ、ああ・・・そうだな・・・」


 自分達の状況を思い出してパリーエは考え出す。ヴリトラの予想外の力とさっき自分の騎士剣を弾いた銃と呼ばれる未知の武器、この二つの大きな力に流石のパリーエも勝ち目があるとは考えられなかった。パリーエはゆっくりと深呼吸をしてヴリトラの方を見る。


「・・・やめておこう。そんな物を見せられたら戦う気力も失せてしまった」

「と言う事は・・・」

「・・・わらわの負けだ」


 負けを認めたパリーエは落ちている騎士剣を拾い自分の鞘に納める。ポーリーとヴィクティもパリーエの下に駆け寄って心配そうな顔を見せた。

 二人を安心させたパリーエはヴリトラの方を向き真面目な顔を向ける。


「お前達が危険な存在ではないと言う事は信じよう。そしてレヴァート王国が好からぬ事を企んでいる訳ではないという事も今は信じる。しかし、明日の会談の内容によっては今の言葉を取り消し、またお前達を疑う事になるかもしれん」

「まぁ、全ては明日、ですね」


 とりあえず自分達への疑惑が解けた事に安心するヴリトラ達。しかし、明日の会談次第でまた疑惑も元に戻ってしまうかもしれない。信じてもらえたのか、もらえていないのか複雑な状態だった。


「とりあえず、今日はお前達の真意を確かめる為に訪ねただけだから、これで失礼する。お前の言うとおり、全ては明日の会談でハッキリするだろう」

「ええ、そうですね」

「では、これで・・・」


 簡単に話を終えてパリーエ達は静かに屋敷から出て行く。残ったヴリトラ達はパリーエ達が出て行った後もしばらく玄関を見つめていた。


「ああ言ってたけど、大丈夫なのかな?」

「信じて貰えたのか複雑な態度だったね」


 パリーエの態度を見て心配そうな顔を見せるリンドブルムとファフニール。他の七竜将や騎士達も同じ様な顔を見せていた。


「・・・でも何で真実を知る為に手合せをしたの?」


 ラランは抑々なぜパリーエはヴリトラに手合せを申し出たのかその理由がいまいち理解できなかった。レヴァート王国が何を考えているのか知りたければ話し合えがいいはずなのに、なぜ剣を交えたのか分からないでいるのだ。


「パリーエ王女はヴリトラ達が脅威になるのか、その強さを確かめる為に手合せを申し出たんだろう」


 ラピュスは腕を組みながらパリーエが手合せを申し出た理由を考えて口にする。


「・・・強さを知る為だけに?」

「あくまで私の想像だ。あるいは、剣を交えないと分からない事があると考えてあのような事をしたのか・・・」

「・・・分からない事?何それ?」

「さあな・・・これも私の想像だ、もしかしたら全く違うのかもしれない」


 あくまでも想像にすぎない答えにラピュスはハッキリと答えられずに首を横に振る。ラランは無表情のままラピュスを見上げ、黙ってまばたきをした。


「まっ、何であれ俺達が危険な存在ではない事は信じてくれた訳だし、今はそれでよしとしようぜ」

「確かにそうだな」


 ヴリトラはパリーエが自分達への警戒を解いてくれた事だけで満足し、ラピュスもそれに納得して頷いた。


「でも、明日の会談次第でまた僕達の事を疑うようになるかもしれないって言ってたよ?」

「・・・完全に信じてはくれていない」

「ああ、でもそれは仕方のない事だ」


 警戒が完全に解かれていない事にいまいち納得できないリンドブルムとララン。ヴリトラも以前敵対していた為それは仕方がないと考え苦笑いをしながら二人に言う。


「さて、なんやかんやあったけど、とりあえず終わったな」


 パリーエとの件も片付き、ヴリトラは振り返ってエントランスに集まっている仲間達を見回した。荷物を置いて来た七竜将と懲罰遊撃隊は全員が集まり、ヴリトラとラピュスの方を見ている。得に騎士達はストラスタ公国の王女と手合せをした光景を見て少し驚いた様子を見せていた。


「皆、ストラスタ公国の王女様が自ら俺達の、いやレヴァート王国の真意を確かめる為に尋ねて来た。彼女は前の戦争の事もあって、俺達の事を警戒している。さっきはああ言ってたけど、まだ完全に俺達の事を信じていないだろう。明日の会談次第で俺達とストラスタ公国との関係が決まる。ストラスタ公国の人達と問題を起こすような事だけはしないでくれ」


 ヴリトラの話を聞いてラピュス達は真剣な顔をして頷く。ブラッド・レクイエム社に対抗する為にはどうしてもストラスタ公国の助力を得ないといけない。その為にも必ず明日の同盟会談を成功させるなければならなかった。エントランスにいる騎士達に緊張が走る。


「それじゃあ、明日の会談までの流れなんだが、できるだけ外には出ないようにしてくれ」

「もし、どうしても外出しなければいけない時は数人で一緒に行動する様にしろ。それから・・・」


 リンドブルム達に明日までの行動について説明を始めるヴリトラとラピュス。全員は黙って二人の話を聞きワズロの町での行動について考えるのだった。その後、懲罰遊撃隊の殆どは屋敷に残って体を休め、七竜将は二人一組になって町へ出掛けたりしたのだった。

 その日の夜、ワズロの町にある大きな屋敷の一室でパリーエは一人の男性と話をしていた。王族が着る様な高貴な服を着て、サークレットを付けた中年の男性。五十代前半ほどで茶色の短髪にチョビ髭を生やしている。彼こそパリーエの父であるストラスタ公国の王である「ローシャル・ストラスタ」であった。


「それは本当なのか?」


 ローシャルは目の前に立つパリーエを見て訊ねる。パリーエは真剣な顔で頷いた。


「ハイ、見た事の無い武器を使い、戦い方からかなりの強者かと・・・」

「フム、レヴァート王から聞いていたが、どうやら最強の傭兵達と言うのは本当の様だな・・・」

「ええ、ただ、その者達が身に付けている義手が送り返されてきた我が国の騎士達の遺体の手足と非常によく似ているのです。あの遺体がレヴァート王国の手によって変えられたのかもしれません」


 パリーエは黒騎兵化して戻って来た騎士達の事を思い出し、それがレヴァート王国の仕業だと考える。


「まだそう断定するのは早い。彼等がやったという証拠が無かろう?」

「しかし・・・」

「それに今回の同盟のきっかけとなるブラッド・レクイエムという組織の事も気になる。全ては明日の会談でハッキリさせる」

「ハイ・・・それで父上、明日の会談の事でわらわから一つ提案が・・・」

「ん?」

「念には念を入れておいたほうがよろしいかと・・・」


 パリーエはそう言ってローシャルに小声で何かを伝える。ローシャルは数回小さく頷きながらパリーエの話を聞くのだった。

 ヴリトラはパリーエとの手合せに勝利し、ほんの僅かだけ彼女に信じてもらえる事ができた。しかし、パリーエは心の中でまだヴリトラ達を警戒している。そんな複雑な状態が続いたまま同盟会談は上手くいくのだろうか、レヴァートとストラスタの両国に不安を見せるのだった。


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