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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十一章~新たな同志を求めて~
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第百九十六話  ストラスタ入国 縮まっていく心の距離


 ストラスタ公国国境に向かう途中の休息で黄金近衛隊の姫騎士、レレットと再会するヴリトラ達。それぞれ王国や仲間、敵に対する考えを口にして相手の意思を確認し合う。複雑な関係のままだが、ヴリトラ達は少しだけレレットの人柄を理解して再びワズロへ向かうのだった。

 あの後、また何度か休息を取りながら少しずつ国境は近づいて行くヴリトラ達。彼等がレヴァート王国とストラスタ公国の国境に着いた頃には既に日が傾き、空はオレンジ色になっていた。国境にはレヴァート王国とストラスタ公国を分ける大きな河があり、その河を渡る為の大きな石橋が架けられている。近衛騎士は国境を警備しているレヴァート兵に話をしており、離れた所でヴリトラ達はそれを眺めていた。


「結構時間が掛かるんだなぁ」

「今回は陛下と姫様が行かれるから色々とやるべき事があるんだ」


 ヴリトラとラピュスは橋の近くに建っている小屋の前で兵士と話をしているザクセンを見ながら会話をする。国境に着いてから既に三十分近くが経っており、他の七竜将は退屈そうに待っていた。


「そう言えば、前にセメリト王国に行った時も同じ様な大きな橋を渡って国境を越えたな・・・この大陸にある国境っていうのは全部河になって国と分けているのか?」

「まさか。レヴァート王国がたまたま河に囲まれているだけで他の国は地面の上から国境を分けてある。因みにコラール帝国と隣国のオラクル共和国は国境に『デビトンの壁』と言う巨大な城壁が築かれていてそれが二つの国を分けているんだ」

「つまり、レヴァート王国にとってはこの河が国境を分け、他国の侵入を防ぐ為の壁みたいな物なんだな」

「ああ、前の戦争ではストラスタ公国が宣戦布告をした直後にこの橋を占拠されて国境を超える為に入口を与えてしまったって訳だ」

「また同じ様な事が起こらないようにする為に警備は以前以上に固くなり、手続きも厳しくなったって事か・・・」


 ヴリトラは納得したのは腕を組みながら橋の方を向いて呟く。すると、兵士と話をしていたザクセンが周りの近衛騎士達に何かを伝えて馬車に戻る姿が見えた。ザクセンが馬車に乗り込むと馬車はゆっくりと橋の方へ進んで行き、近衛騎士達の乗る馬もそれに続く。どうやら手続きは終わったようだ。


「やっと終わったか」

「私達も行こう」


 前が動いたをの見てヴリトラはジープに乗り込む、ラピュスも自分の馬の下へ戻って行く。七竜将と懲罰遊撃隊も自動車と馬をゆっくりと動かして王族と黄金近衛隊の後をついて行く。夕日が照らす橋をヴリトラ達はゆっくりと進んで行き、五分ほどで対岸に辿り着いた。対岸に着くと別の小屋が建っており、その中からストラスタ公国の紋章の入った鎧を身に付けたストラスタ兵が四人、槍を持って出てきた。兵士達が馬車と黄金近衛隊を止める、一人の兵士が近衛騎士に近づいて来る。


「此処からは先はストラスタ公国の領域である。通行証と国境を越える為に必要な書類を見せて頂こう」

「我々レヴァート王国が国境を越えて貴公等の国へ入る場合は通行証だけでよいはずだが?」

「騎士団や傭兵の様は戦闘を行う者達の場合は別だ。我等はレヴァート王国に敗北し、そちらが出された条件は全て飲んだ。しかし、我が国を守る為に商人や旅人の様な非戦闘員以外の者は国境を超える為の重要書類を我々に見せるという条件をそちらの王も了承されたはずだが?」


 戦争が終わり、降参したとう形でも敗北した国が勝利した国の出した条件を飲むのは当然の事。だが、それでもストラスタ公国にも自分達の身を守る為の条件を出す権限くらいはある。よって今までとは違いレヴァート王国の住民がストラスタ公国へ行く際には通行証だけで国境を越えられるようになったが、戦士の様な戦闘を行う者だけは今まで通り通行証と国境を越える為に必要な書類を見せる事になっているのだ。

 近衛騎士もその条件を聞かされて口を閉じ馬に乗ったまま兵士を見下している。すると馬車からヴァルボルトがザクセンを連れて馬車から降り、兵士の方へ近づいて行く。兵士達はレヴァート王国の王が目の前にいる事に驚き、一斉に姿勢を正す。


「我々はストラスタ公国と同盟を結ぶ為にやって来たのだ。ストラスタ王も同盟の為に国を訪れる者達は通行証だけを見せれば通してもよいと送られてきた親書にも書かれてあったのだが・・・」


 ヴァルボルトはそう言って懐から親書を取り出して兵士に渡す。封筒にはストラスタ公国の蝋印が付けられており、それを受け取った兵士は目を見張って顔を上げ、ヴァルボルトの顔を見た。


「し、しばらくお待ちください!」


 兵士は慌てて小屋の方へ走って行き、親書の内容の確認に向かう。他の兵士達も走って小屋へ戻って行き、驚きの顔で何かを話している。その様子は小屋の窓から見え、その様子を見てヴリトラ達はどこか楽しそうな顔をしていた。


「お~お~、焦ってる焦ってる」

「よくいるんだよねぇ?大切な話を忘れてあんな風に慌てる人って」


 ジープに乗ったままヴリトラとリンドブルムは小屋の中の兵士達を見て話す。

 しばらくすると兵士達は走ってヴァルボルトの前にやって来て横一列に並び真っ直ぐに立つ。


「大変失礼いたしました!我が国と同盟を結ぶ為にわざわざお越しになられたレヴァート王を足止めするとは!」

「いや、よい。誰にだって失敗はある。それにそなたらも国を守る為に尽くしていたのだ。これからも祖国の為に尽くしてほしい」


 優しく笑いながら言うヴァルボルトに兵士達は感動し敬礼をする。その後兵士達は道を開けてヴァルボルト達は自分達の国へ迎え入れた。一同はそのまま道沿いに進んで行き、湖の前までやって来た。何本かの木が生えており、休めそうな所が幾つかある。


「陛下、湖があります。今日は此処で休まれた方がいいかと」

「そうだな。既に辺りも暗くなって来ておる。このまま進むのは危険だ」

「では、皆に準備をさせましょう」


 湖の近くで今日は休む事にしたヴァルボルトとザクセンは馬車を止めた。ザクセンは馬車から降り、黄金近衛隊や後をついて来ているヴリトラ達に休む事を知らせる。それを聞いたヴリトラ達は自分達も休む為の準備に取り掛かった。

 焚き火や松明で辺りを照らしながら近衛騎士達はヴァルボルトとパティーラムが寝泊まりするテントを張り、その後に自分達が休むテントを張るなどの作業に掛かる。ヴリトラ達も自分達が持って来た道具の中からテントを張ったり食事の準備などを始めた。


「よし、これでテントの方はバッチリだな」

「次は食事の準備ね」


 ヴリトラとジルニトラは自分達が休むテントを張り終えて周りを見回す。ラピュス達やジャバウォック達もテントを張り終えており、テントを張る作業をしていない騎士達は馬を休ませたりなどしている。


「こっちは終わった。次はどうする?」


 テントを張り終えたラピュスがラランと一緒にヴリトラとジルニトラの下へやって来て次にやる事を訊ねて来た。ヴリトラは停めてあるバンの方を見て荷物を下ろしているオロチとファフニールを見る。


「テントも張り終わったなら、次は当然夕飯の支度だ」

「夕食か・・・どんな料理にする?」

「う~ん、それがまだ決まってないんだよなぁ~」


 どんな料理を作るか決めていないヴリトラは頭を悩ませ、それを見たジルニトラも同じように夕食の献立を考える。するとそこへパティーラムが静かに歩いてやって来た。


「こんばんは、皆さん」

「姫様」

「どうしたんですか?」

「ハイ、皆さんはご夕食はどうなさるのかと思いまして」

「実は、その夕飯をどんな料理にするか悩んでたんですよ」


 ヴリトラが苦笑いをしながら説明するとパティーラムはクスクスと笑う。


「では、ご一緒に夕食をどうですか?」

「え?いいんですか?」

「ハイ、護衛をしてもらってるのですから、せめてお食事ぐらいは」

「い、いえ!私どもが王族の方々とご一緒に食事など・・・」


 突然の申し出に動揺するラピュス。そんなラピュスの隣ではラランが目を見張って驚いており、周りで作業をしている騎士達もパティーラムの方を向いている。そんな中、ヴリトラは笑いながらラピュスの肩に手を置いた。


「いいじゃねぇか、パティーラム様が誘ってくれてるんだ。断るなんて勿体ないぞ?」

「も、勿体ないって・・・」

「俺達は既にパティーラム様とこうやって普通に会話ができる関係なんだ。今更食事に誘われたくらいで動揺するなよ」


 笑いながらラピュスを説得するヴリトラ。ジルニトラも笑ってラピュスを見ており、他の七竜将もパティーラムの存在に気付いて集まって来ていた。


「なになに?どうしたの、ヴリトラ」


 ファフニールが何があったのか気になり少しはしゃぐ様にヴリトラに訊ねる。


「パティーラム様が俺達も一緒に夕飯をどうかって誘いに来てくれたんだよ」

「ええぇ!本当に?行こう行こう!」


 王族と共に食事をできるという事にファフニールは喜び飛び跳ねた。周りのジャバウォック達もファフニールを見て「やれやれ」と言いたそうに苦笑いをした。


「俺達は行くつもりだけど、お前達はどうする?」


 改めてヴリトラはラピュスに訊ねるとラピュスは難しい顔をして考え込み、答えが出たのかパティーラムの方を見る。


「姫様や陛下がよろしければ、喜んでご一緒させて頂きます」

「そうですか。よかったです」


 ラピュス達も行くことが決まり笑顔を見せるパティーラム。そんな顔を見てラピュスも自然と笑みを浮かべる。


「では、急いで夕食の準備をさせましょう」

「あっ、俺達も手伝います。どうせ暇ですから」

「いえ、皆さんはゆっくり待っていてください」

「いや、近衛騎士達だけじゃ全員分を作るのに時間が掛かっちゃいますから俺達も手伝いますよ」

「僕も手伝います!」


 そう言ってヴリトラは遠くで料理をしている近衛騎士達の方へ走って行き、リンドブルムとジルニトラもそれに続いた。ファフニールもついて行こうとしたが、何かを思い出してバンの方へ戻って行く。残ったラピュス達は走って行くヴリトラ達を見つめていた。


「変わった方々ですね」

「それがアイツなんです。あまり深く考えずに見守ってやってください」


 意外そうな顔でヴリトラ達を見ているパティーラムにジャバウォックは笑ってヴリトラ達を見ながら言った。パティーラムも新しく理解したヴリトラ達の人柄に小さく微笑んでいた。

 それからヴリトラ達は近衛騎士達の手伝いをし夕食の準備を進めていく。最初は突然手伝うと言い出したヴリトラ達を不審な目で見ていた近衛騎士達だったがヴリトラ達の行いを見て本当にただ手伝おうとしているだけと知り、少しずつ気を許して行った。そして夕食が完成すると全員で夕食を取った。ヴァルボルトとパティーラムは自分達のテントの中で食事を取り、ザクセン達黄金近衛隊は外で周囲を警戒しながら食事を取っている。その中には七竜将と懲罰遊撃隊の姿もあった。


「・・・んん、なかなかいけるな」


 ヴリトラは椅子代わりの丸太に座って自分の皿の中のスープを口にしながら感想を述べる。周りでもラピュス達が同じようにスープを口にしており、彼等と向かい合う形でザクセン達も座り食事を取っていた。


「うむ、これは少し変わった味がするな・・・このスープを作ったのは誰なのだ?」

「ああ、それはオロチですよ」


 スープを口にしながらザクセンの質問にヴリトラが答える。ザクセンや近衛騎士達は意外そうな顔でヴリトラの方を向く。


「オロチ?」

「そこの無愛想な顔した美人ですよ」

「無愛想で悪かったな・・・?」


 ヴリトラの冗談を軽く流しながらスープを飲むオロチ。そんな二人の会話を他の七竜将は小さく笑って見ている。


「オロチさんって料理が上手なんですね」

「・・・うん、美味しい」

「・・・私の作る料理など平凡な物だ・・・」


 料理の出来を褒めるアリサとラランの方をチラッと見た後に静かに答えるオロチ。相変わらず静かで感情を出さないオロチをアリサは苦笑いで、ラランは無表情で見ている。すると、オロチの隣でスープを飲んでいるファフニールが何かを取り出して皆の前に出す。それは銀色のアルミ袋で英文字の書かれたラベルが貼ってある物だった。

 

「スープだけじゃ足りないからこれも食べようよ」

「ん?何だよそれ?」


 ファフニールが出した大量のアルミ袋を見てヴリトラは尋ねた。


「保存食の高カロリークッキーとドライフルーツ」

「何だよ、バンから持って来たのか?」

「うん!」

「本当は非常食として皆に配るつもりだったんだけどなぁ」

「いいじゃん?どうせこのスープだけじゃ皆お腹一杯にならないんだし。それにお腹が減ってたらイザって時に動けなくなるよ?だから今食べておこうよ?」

「う~ん・・・それもそうだな」


 確かにスープだけでは足りないのは確かだ。ヴリトラは悩んだ末に今食べる事に決めた。


「いいのか、ヴリトラ?」

「ああ、保存食はまた沢山あるから大丈夫だろう。それにファフニールの言うとおり、腹が減ってたら何もできないからな」


 確認するジャバウォックの方を向いてヴリトラは頷き、それを見たジャバウォックも「仕方ねぇな」と言いたそうに小さく笑う。


「それじゃあ、皆に配ってくれ」

「ハ~イ♪」


 ファフニールはアルミ袋を持って黄金近衛隊に一つずつアルミ袋を渡して行く。いきなり渡されたアルミ袋に近衛騎士達は理解できずに目を丸くしている。近衛騎士達全員に配り終えると今度はヴリトラ達に渡して行き、全員に行き渡るとファフニールは自分の場所へ戻った。


「ヴリトラよ、これは一体何なのだ?」


 ザクセンがアルミ袋を手にしながら訊ねるとヴリトラはアルミ袋の封を切り、中に入っている高カロリークッキーを取り出す。


「俺達の住んでいた所の保存食ですよ。栄養価が高くて非常食としても使ってます」

「ほぉ?これが保存食か・・・」

「見た事の無い物だけど、本当に食べられるの?」


 ザクセンに続いてレレットが袋の中からドライフルーツを取り出してジロジロと見ながら訊ねる。


「大丈夫ですよ。騙されたと思って食べてみてください」

「・・・いまいち信用できないわね」


 リンドブルムの言葉に目を細くしながら呟くレレットはドライフルーツの一つを口に入れる。しばらく噛んでいると、口の中に甘味が広がっていく。


「あら?甘いわね。これって何なの?」

「ドライフルーツと言って果物を乾燥させたものですよ」

「え?これって果物なの?」


 驚くレレットを見て他の近衛騎士達も封を切り、中のドライフルーツを口にする。すると本当に果物の味がして近衛騎士達はざわつき出す。他にもザクセンや他の近衛騎士達が高カロリークッキーを口にしてじっくりと味わっている。


「・・・これはクッキーなのか?随分とねっとりしているのう?」

「高カロリークッキーは味よりも保存性と栄養を考えて作られてますからね。不味くはないですけど美味くもないと思います・・・」


 同じように高カロリークッキーを口にしながら苦笑いを見せるヴリトラ。だがザクセン達は高カロリークッキーをパクパクと口に入れていく。


「いや、今まで口にした事の無い味や食感をしていて実に興味深い。それにこの味、儂は決して嫌いではないぞ?」


 ヴリトラを見ながら笑顔を見せるザクセン。周りの近衛騎士達も初めて食べる保存食を次々に口へ入れていく。その光景を見てヴリトラは意外に思ったのかまばたきをしながら彼等の姿を見ている。


「・・・いやぁ、まさか保存食でこんだけ喜んでくれるとは思わなかったなぁ」

「俺達にとっては普通の事なんだけどな?」


 ヴリトラとニーズヘッグはそんな話をしながら自分達の保存食を食べ始める。ラピュス達も封を切って中の保存食を取り出して口に入れていき、ゆっくりと味わった。するとファフニールが高カロリークッキーとドライフルーツのアルミ袋を持って立ち上がり何処かへ歩いて行く。


「ん?ファフニール、何処へ行くんだ?」

「王様とパティーラム様にも届けて来る」


 そう言ってファフニールはヴァルボルトとパティーラムのいるテントの方へと歩いて行き、ヴリトラ達はそんなファフニールの姿を微笑みながら見守るのだった。その後、食事を終えた一同は明日の予定を簡単に確認した後に就寝に入る。七竜将、懲罰遊撃隊、黄金近衛隊はそれぞれ交代で周囲を見張りながら休んだ。幸い、モンスターや夜盗などは現れる事なく一夜を過ごす事ができた。

 橋を渡り、遂にストラスタ公国領へ入ったヴリトラ達。少しずつ距離を縮めていくヴリトラ達と黄金近衛隊。彼等は少しずつ互いの事を理解し合い、会談の行われるワズロへ向かうのだった。


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