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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十一章~新たな同志を求めて~
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第百九十二話  黒騎兵に残された情報 ブラッド・レクイエムの計画

 大勢の人で賑わうティムタームの町。季節は夏から秋となり、風にも冷たさが出てきた。町の住民達も長袖の服を着たりなどして冷たい風から体を守る格好になっており、中には既に厚着をしている者の姿もある。

 そんな冷たい風が吹く町の酒場、マリアーナのカウンター席でラピュスとラランが食事を取っている姿があった。今は正午で酒場は昼食を取る為に来た住民や傭兵、王国の兵士達で一杯になっており大忙しの状態になっている。そんな大勢の客の中でマリとキャサリンが料理を運んでいる姿があった。


「おまたせしました」

「おう。ありがとよ、嬢ちゃん」

「えへへ」


 マリが料理を客席の運び、そんな彼女に客の傭兵の男が礼を言う。マリは笑いながらその場を後にして次の料理を取りに向かった。そんなマリの姿をラピュスとラランは静かに見守っている。


「あの歳で店の手伝いとは感心だな」

「・・・うん」


 ラピュスはスプーンを握りながらマリを見て微笑み、ラランもパンを食べながら無表情で頷く。そこへキャサリンが新しい料理の乗った皿を持って二人の下へやって来た。


「お待たせしました」

「ああ、ありがとう。今日も忙しそうだな?」

「ええ。でも、毎日こんな調子ですからもう慣れましたけど」

「フフ、そうか・・・」


 苦笑いを見せるキャサリンを見ながらラピュスも小さく笑って目の前のスープを飲む。


「ところで、フォーネ殿の方は最近どうなのですか?」

「ん?どうと言うと?」

「元老院の一件で処分を受けて色々苦労されているとレミンス殿から伺ったので、今はどうなのかと思いまして」

「・・・まったく、お喋りな奴だなアリサは・・・」


 若干不快な気分になったのかキャサリンから目を逸らしてブツブツ言うラピュス。そんな彼女を見てキャサリンは悪い事を聞いたのかと思ったのか申し訳なさそうな顔を見せた。


「す、すみません、つい立ち入った事を・・・」

「いや、別に触れてほしくない事ではない。気にするな・・・」

「・・・うん」


 苦笑いをしながらキャサリンを見るラピュスの隣でラランも無表情のまま頷く。


「・・・懲罰隊になってから私達第三遊撃隊は七竜将と行動する事が多くなった。私達としてはアイツ等と行動を共にできる為都合がいいのだが、やはり給料などが今までよりも少なくなっているせいで他の騎士達の生活が若干苦しくなっている。だから今は懲罰期間を少しでも縮める為に七竜将と共に傭兵組合で依頼を受けているんだ」

「そうだったのですか・・・」

「・・・あと少しで懲罰期間も終わる」


 ラランはパンを頬張りながら現状をキャサリンに伝えた。

 あの太陽戦士団の依頼を手伝った日から二週間が経っており、今日までラピュス達は七竜将と共に多くの傭兵組合に依頼された仕事をこなして行った。その功績であと一ヶ月の懲罰期間も半分の二週間となっている。


「成る程、あと二週間ですか・・・」


 二人から話を聞いたキャサリンはお盆を持ちながら頷く。


「つまり、あと二週間で皆さんは元の遊撃隊としての任務に戻る事ができるって事ですね?」

「ああ、二週間程度なら普通に生活しても大丈夫だろうが、それでも早く皆を元の生活に戻してやりたくてな。今日もこの後に七竜将と依頼に付いて話し合いに行くつもりだ」

「そうですか。頑張ってくださいね?」

「ありがとう」


 キャサリンを見てラピュスは微笑んで礼を言う。すると奥の厨房からバロンが顔を出してキャサリンに声を掛けた。


「おぉい!キャサリン、何をサボっておるんだ?マリが一生懸命頑張っとるのに母親のお前がサボってどうする?」

「すみません、お義父さん。今行きます」


 バロンはキャサリンの言葉を聞いて顔を引っ込める。それを見たラピュスは苦笑いをしながら厨房の方を見ていた。


「すまないな?忙しい時なのに・・・」

「いえ、話しこんだ私がいけないんです。では、私は仕事に戻ります」

「ああ、バロン殿とマリちゃんにもよろしく伝えてくれ」

「ハイ」


 笑顔で返事をするキャサリンは厨房の方へ戻って行く。残ったラピュスとラランは食事を続ける。すると酒場のウエスタン扉が開いてアリサが酒場に入って来る。アリサはラピュスとラランの姿を見つける真っ直ぐ二人の下へ歩いて行った。二人もアリサの姿に気付いて食事の手を止めて彼女の方を向く。


「隊長、ララン、探しましたよ」

「どうしたんだ、アリサ?」

「団長が隊長を探していましたよ」

「団長が?」


 ガバディアが自分を探している事を聞いて不思議そうに訊き返すラピュス。


「ハイ、何だが重要な話があるからすぐに連れて来てほしいと言われたので・・・」

「重要な話・・・」


 ラピュスは持っているスプーンを置き、難しい顔をして考え込む。そんなラピュスをラランとアリサは黙って見つめている。するとラピュスはゆっくりと席を立ちアリサの方を向いた。


「分かった。団長は何処にいるんだ?」

「今は詰所の方に・・・」

「よし、すぐ行く」


 ラピュスは料理の代金をテーブルの上に置いて酒場を出て行く。アリサもそれに続き、ラランは残ったパンを口に押し込み、代金を置いて立て掛けてある自分の突撃槍を取り、ラピュスとアリサの後を追って酒場を後にする。

 その頃、ズィーベン・ドラゴンでは私服姿の七竜将が整備室に集まってテーブルに置かれてあるノートパソコンを見つめていた。ニーズヘッグがノートパソコンのキーを叩いて操作し、その後ろでヴリトラ達が画面を覗き込んでいる。


「ニーズヘッグ、一体どうしたんだよ?突然全員を呼び出した」


 ニーズヘッグの後ろでヴリトラが自分達を集めた理由を訊ねる。ニーズヘッグはノートパソコンを操作しながら口を動かした。


「お前達に見せたい物があってな」

「見せたい物?」

「お前達が遭遇したあの幻影黒騎士団ファントムブラックナイツとか言う機械鎧兵士の装備していた兜に小型カメラが取り付けられていたんだ」

「小型カメラ?」

「恐らく黒騎兵どもがどんな風に戦ったのかそれを記録しておく為の物だろう」


 ヴリトラ達はニーズヘッグの話を聞き意外そうな顔で隣にいる仲間の顔を見つめ合う。


「最近は傭兵組合の依頼を片づける事で忙しくてなかなかカメラの映像を分析する事ができなかったんだ。それが昨日ようやく終わったんだよ」

「それで、ニーズヘッグはその映像を見てみたの?」


 リンドブルムが映像を見たのか尋ねるとニーズヘッグは作業をしながら首を横に振る。


「いや、まだ一度も見ていない。折角だから全員が集まった時に見てみようと思ってな」

「成る程ねぇ・・・」


 リンドブルムはノートパソコンを覗きながら納得する。


「ところで、大丈夫なの?ニーズヘッグ」

「何がだ?」


 今度はジルニトラが何だか不安そうな顔でノートパソコンを覗きながらニーズヘッグに声に話し掛けてきた。ニーズヘッグは視線だけを動かしてジルニトラの方を見る。


「小型カメラの映像はブラッド・レクイエムの連中にとっては重要な物でしょう?開いてもしコンピューターウイルスとかが侵入したらマズイんじゃない?」

「それなら大丈夫だ。分析している時にウイルスとかがないか細かく調べたが、それらしい物は見つからなかった」

「そう、それなら大丈夫ね・・・」


 コンピューターウイルスの様なサイバー攻撃の心配はない事を知ってジルニトラはホッとした。


「ジルは心配性だな?ニーズヘッグに任せておけば問題ねぇよ」

「そうだよ。何しろニーズヘッグは七竜将の中で一番頭が良くてコンピューターに強いんだもん」


 ジャバウォックとファフニールが心配するジルニトラを見て笑いながら言った。そんな二人の方を向いてジルニトラは両手を腰に当てる。


「用心するに越した事はないでしょう?アイツ等はあたし達の事をマークしてるんだし、何か罠を仕掛けてるかもしれないじゃない」

「確かにジルの言うとおりだ。いくらニーズヘッグが優れがハッキング技術を持っているとはいえ油断はできない・・・」


 オロチもジルニトラに同感なのか真面目な顔でジャバウォックとファフニールに言った。四人がそんな話をしているとヴリトラは四人の方を向いて手を叩く。


「ハイハイ、そこまでだ。そろそろ映像が再生されるみたいだぞ」


 ヴリトラの言葉にジャバウォック達は会話をやめてノートパソコンに注目する。しばらくするとニーズヘッグはキーを叩くのをやめ、ズボンのポケットから小さな黒いチップの様な物を取り出した。


「何それ?」

「小型カメラに入っていたメモリーチップだ。映像の設定は済んだし、後はこのチップを差し込めば映像が見られる」


 ファフニールに説明したニーズヘッグはノートパソコンの端にある差込口にメモリーチップを差し込み、再びキーを叩く。そして映像を再生する準備が整いヴリトラの方を向いた。


「よし。ヴリトラ、何時でも見られるぞ」

「んじゃ、早速再生してみてくれ」

「了解」


 ヴリトラの指示を聞き、ニーズヘッグはキーを叩き、メモリーチップの中身の映像を再生した。

 ノートパソコンの画面に映し出された映像、それは何処かの貴族の書斎の様な部屋だった。部屋の隅には沢山の本棚が置かれており、壁には肖像画が飾ってある。すると、映像が突如小さく揺れ始めた。


「おい、何か画面が揺れてるぞ?」

「カメラは黒騎兵の視線に合わせてセットされてるんだ。黒騎兵が見ている方角にカメラも揺れるんだよ」

「ああぁ、成る程ね」


 ニーズヘッグの説明を聞いてヴリトラは納得する。しばらくすると映像が右へ動き、幻影黒騎士団の黒騎兵が二人横に並んでいるのが映った。


「あっ!黒い騎兵が映ったよ?」

「これがヴリトラ達の戦った幻影黒騎士団なの?」


 リンドブルムとファフニールが画面に映る黒騎兵の姿に声を出す。そんな二人の頭にジャバウォックが大きな手を乗せて落ち着かせる。


「静かにしろ、まだ映像は終わってないんだぞ?」


 ジャバウォックに注意されてリンドブルムとファフニールは黙り込む。二人が静かになりヴリトラ達が再び画面を見ると再び映像が動く。黒騎兵が視線を戻したようだ。部屋の奥には仕事の様の大きな机が置かれ、その手前には来客用のテーブルとそれを挟む様に長椅子が置かれてあった。その長椅子の片方に座っていたのは見覚えのある長身の騎兵、ジークフリートだった。そしてもう片方の長椅子には貴族らしき中年の男が座ってジークフリートと向かい合っている。


「ジークフリート?」

「何でアイツが?それにあの貴族みたいおじさんは・・・」

「静かに」


 思わず声を出すヴリトラとリンドブルムにジルニトラが注意する。

 三人がそんな話をしていると映像の中のジークフリートと貴族の会話が聞こえて来た。


「約束の素体はどうした?まだこちらには届いていないようだが?」

「ハ、ハイ。実はまだ人数が揃っていないのです。優れた騎士を集めているのですが、それでもなかなか・・・」


 貴族は少し焦った様な表情でジークフリートに何かの説明をしている。素体だの優れた騎士だの、明らかに世間話の様な明るい内容ではない。


「我々は最も領土の広いこの国なら多くの優れた騎士を見つける事ができると考えてこの国に拠点を置いたのだ。そしてお前達にも我々の存在を話した」

「それは承知しております。ですが、私の力でもできる範囲は限られています。皇帝陛下もこれ以上精鋭部隊から騎士を出すと我が国の戦力にも関わると仰りますので・・・」

「我等に情報、土地、人材を提供する事を条件にお前達を標的ターゲットのリストから外しているのだ。決められた期間に決められた素体を出せないと言うのなら、我々との契約は白紙に戻させてもらう」

「えっ!?お、お待ちください。精鋭部隊から出す事はできませんが、我が国の主力の騎士団から優れた騎士を選抜した揃えております。もう少しお時間を・・・」

「残りの騎士は並みの実力しかなかろう?そんな奴等を出されても優秀な兵士は作れん」


 ジークフリートは長椅子から立ち上がり黒騎兵達の方を向く。


「ストラスタ公国の三流騎士を使って作り出したコイツ等もまだ調整中だが、実力はたかが知れている。より強力な兵士を作るには最高の騎士を素体にしなければならないのだ。その素体を出せないのなら、契約はなかった事にする。つまり、お前達も我等の標的となるのだ」

「そ、そんな・・・」


 貴族は長椅子に座ったままジークフリートを見上げて更に焦った表情を浮かべる。


「まぁ、待って」


 何処からか聞こえてくる少女の声。ジークフリートと貴族が声のした方を向く。そこには部屋の隅で本棚を見上げている一人の少女の姿があった。外見は銀髪の長髪に頭に黒い髪飾りを付けた十代前半くらいの少女だった。身長はファフニールと同じくらいで露出度の高い服を着ており、その少女の両前腕部から指先まで、両足も機械鎧となっている。

 少女はゆっくりと二人の方を向きその幼い顔を見せる。だが、その少女の右目には鉄製の眼帯が付けられていた。


「・・・お話は分かりました。優秀な騎士をこれ以上出せないと仰るのでしたら仕方がありません。別の素体を提供して頂きます」

「ハ、ハイ。ですからただいま準備を・・・」

「人数は今までの三倍です」

「さ、三倍!?お待ちください!これから毎回三倍近くの騎士を出せと仰るのですか?そんな事をしたら我が国の戦力が・・・」


 慌てた様子で少女に意見する貴族。そんな貴族を見て少女はクスクスと笑う。


「フフフ、別にその全てを騎士にしろとは言ってません。半分以上はこの国の傭兵にしてくださっても結構です」

「よ、傭兵・・・?」

女王クイーン、いいのか?」

「ええ、大丈夫よ」


 ジークフリートに女王と呼ばれる少女は彼の方を向いて頷く。


「確かに優秀な素体なら優れた兵士が作れる。でも、今はそれができない状況。だったら力が弱い分、数で補えばいいだけよ。それに傭兵でもそれなりの実力を持っているはず、彼等を使えばそこら辺の敵には負けない位の駒になるわ」

「・・・まぁ、お前がそれでいいのなら私は構わない」

「ありがと♪」


 ジークフリートに礼を言って少女は貴族の方を向く。


「と言う訳で、今後はどんな素体でも結構ですが、今までの三倍の人数を用意してください」

「・・・分かりました。皇帝陛下にもお話ししてみます。ですが、結論が出るまでしばらく時間が掛かりますので、それまではもうしばらくお時間を・・・」

「ええ、それについては構いません」

「それと、騎士達はともかく、優れた傭兵どもを集めるにも時間と金が掛かります。そちらの方が話し合いよりもお時間を頂く形になるかと・・・」

「ご心配なく、まとめて出してもらおうとは思っていません。少しずつで結構です。資金の方もこちらが負担しましょう」

「ありがとうございます。提供できる素体が集まり次第、速やかにお引渡ししますので」

「どうも」


 話が済み、少女はジークフリートに近づいて行くと並んでいる黒騎兵達を見つめる。


「彼等はどうするの?」

「奴等のいる国でテストをする。ついでに例の機械鎧を纏ったモンスターも使い両方の実戦データを取ろうと思っている」

「なら、すぐに向かって。幻影黒騎士団を調整にはデータが不可欠、強い敵と戦わせれば再調整する箇所が見つけやすくなるもの」

「了解だ。ガルーダに向かわせる」

「それじゃあ、戻りましょう」


 少女とジークフリートは貴族の部屋を出て行き、黒騎兵達もその後に続く。彼等には見られていないが、貴族はジークフリート達に向かって深々と頭を下げていた。

 その映像をヴリトラ達が静かに見ていると、突然映像が消えて画面が黒くなる。


「ん?どうしたんだ?」

「分からない」


 画面が消えた理由を訊ねるヴリトラとキーを叩いて原因を調べるニーズヘッグ。しかし、原因が分からず、メモリーチップを取り出して調べてみるとチップの隅が小さく欠けているのを見つけた。


「これが原因だな。多分ヴリトラ達との戦闘でチップが欠けてあの映像の先が消えちまったんだろう・・・」

「そうかぁ・・・」


 自分達との戦闘で映像が見れなくなった事に悔しさを感じるヴリトラ。リンドブルム達も残念そうな顔をしている。


「他のカメラの映像は?」

「ダメだった。奴等の機械鎧を調べる時に一応全部のカメラを調べたんだけど、他の二つのカメラは完全にイカれてた。チップもな」

「でも、さっきの映像で色々と分かった事があるわね?」

「ああ、これはブラッド・レクイエムの事が幾つか分かるかもしれないな」


 ヴリトラは真面目な顔でそう言い、リンドブルム達も同じ様な顔を見せている。ノートパソコンの画面にはただ見れなくなった小型カメラの黒い映像だけが映されていた。

 黒騎兵が身に付けていた小型カメラから手掛かりを得た七竜将。ジークフリートと貴族が話していた騎士と傭兵の事とは何を現しているのか、そして女王と呼ばれていた少女は正体は?


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