第百九十一話 大きくなる闇の勢力 ヴリトラ達の新たな決意
幻影黒騎士団の黒騎兵を全員倒す事ができたヴリトラ達。しかし、黒騎兵の正体がストラスタ公国の騎士であった事で更に謎が増えてしまう。ヴリトラ達はその謎が理解できないまま一旦ヨムリ村に戻って行った。
村に戻り、広場で村長やアリサ達に事情を説明したヴリトラ達。太陽戦士団が全滅したという事を聞かされたアリサ達は気の毒そうな顔を見せて今後の事に付いて話し合う。
「・・・太陽戦士団が皆死んでしまったが、俺達の仕事は終わっていない。予定通り明日の昼まで村に残って様子を見よう」
「分かった」
ヴリトラから今後の事を聞いてラピュスは頷く。二人の顔や腕には黒騎兵との戦いで負った傷を手当てした後が跡があり、ヴリトラの特殊スーツも酷く汚れている。ラピュスも黒騎兵の攻撃で鎧が使い物にならなくなり、今は鎧を脱ぎ服とマントだけの状態になっていた。ジルニトラとジャバウォックもあちこちに傷を負っているがヴリトラとラピュスに比べたら軽傷と言えるものばかりだ。四人の姿を見てアリサや懲罰遊撃隊の騎士達は激しい戦いが起きたのだと悟り、ジッと四人を見つている。するとアリサがヴリトラとラピュスの下へ近づいて行き、ラピュスに声を掛けてきた。
「・・・あの、隊長」
「何だ?」
「・・・遺体の方はどうしましょう?」
そう言ってアリサはゆっくりと広場の隅を見る。視線の先には大きな布で覆われている太陽戦士団の遺体があり、その隣では黒騎兵の遺体が同じ様に布で覆われて横になっていた。
遺体を見たラピュスは暗い表情を見せ、静かに目を閉じる。
「・・・太陽戦士団の遺体はティムタームに持ち帰る。黒い騎兵の遺体もストラスタ公国とブラッド・レクイエムとの繋がりを調べる為に必要だ。どちらの遺体も丁重に扱え」
「ハイ・・・」
ラピュスの暗い声を聞いたアリサは気の毒そうにラピュスを見つめながら返事をし静かに離れる。騎士達は戦いを終えたヴリトラ達に代わって村の周囲を見張り、暁の双爪が盗んだ村の貴重品を持ち主に返していった。
「・・・今回は流石に危なかったな」
「本当、もし一度に二人以上を相手にしてたらあたし達、負けてたかもしれないしね・・・」
「ああ、バラバラになるっていうヴリトラの判断は正しかった」
ジャバウォックとジルニトラは働くアリサや騎士達の姿を見ながら黒騎兵との戦いを振り返る。幹部とほぼ同じ実力を持っていた黒騎兵に今回勝つ事ができたのは運が良かったと二人は考えていた。実際、一対一でギリギリだったのだからそう考えるのは当然だろう。
「でも、ガルーダはあれでまだ試作体って言ってたわよ?もし完成したらどれだけの強くなるのかしら?」
「さあな、いずれにせよ、ブラッド・レクイエムの連中が力をつけている事は確かだ。戻ったらニーズヘッグやガバディア団長と話し合った方がいいだろう」
敵が少しずつ強くなる事に危機感を感じ、一度真剣にレヴァート王国の実力者達と話をする必要があると考えたジャバウォックを見てジル二トラは難しい顔を見せ、ヴリトラとラピュスも二人の会話を聞き真剣な表情を見せている。するとヴリトラ達の下へ女性騎士が駆け寄って来た。
「隊長、隊長に言われて村の外にあるグリードベアの死体を確認してきましたが、死体が何処にも見当たりません」
「何だと?しっかり探したのか?」
「ハイ、村の東側を隈なく探しましたが何処にも・・・ただ、グリードベアの物と思われる血は残っていましたが・・・」
「血だけが残って、死体が消えた・・・?」
自分達が村を離れて林で黒騎兵達と戦っている間に機械鎧怪物と化したグリードベアの遺体が消えてしまった事を不思議に思うラピュス。ヴリトラ達も難しい顔をして理由を考えている。
「・・・俺達が暁の双爪を追った後はアリサ達が村の警備に付いていたんだったよな?」
「ああ、だが村人の身を安全を最優先にした為、村の外までは調べなかったとアリサが言っていた」
「多分、その間に何者かがグリードベアの死体を回収したんだろう・・・」
「誰か?」
「・・・そんなの奴等しかいないだろう?」
ヴリトラの言葉を聞いてラピュスはすぐにブラッド・レクイエム社の仕業だと言う事に気付く。ジャバウォックとジルニトラもヴリトラの方を向く表情が若干鋭くなった。なぜブラッド・レクイエム社はグリードベアの死体を回収したのか、また新しい謎が増えてヴリトラ達の頭を悩ます。七竜将はブラッド・レクイエム社の事には詳しいのだが、このファムステミリアに来てからブラッド・レクイエム社が少しずつ変わって行き、今ではヴリトラ達でも理解できない闇の組織と化していしまっているのだった。
――――――
その頃、ヨムリ村から20K離れた位置の上空ではブラッド・レクイエム社のヴェノムが飛んでいる。機内では数人のBL兵がMP7を持って椅子に座っており、その真ん中ではガルーダが腕を組みながら座っていた。ガルーダは上部に取り付けられているモニターを見ており、そのモニターにはジークフリートの姿が映されている。
「つまり、グリードベアも幻影黒騎士団の試作体も全滅したという事なんだな?」
「ええ、我々がグリードベアの回収に向かった時には既にやられており、目標になっていた村も殆ど無傷の状態でした。そして七竜将の相手をさせた騎兵達のサインも先程・・・」
モニターのジークフリートにガルーダは無表情で報告をする。画面の向こう側にいるジークフリートも腕を組んで小さく俯く。
「成る程・・・まさか七竜将と対峙するとは思わなかった。試作体を失ったのは惜しいがそれに似合う実戦データが取れたのだからよしとしよう」
「ハッ・・・」
「ところで、例の傭兵兄妹の始末は?」
「済んでおります。奴等からレヴァート王国の情報を聞き出し、その見返りとして機械鎧を纏ったグリードベアを貸し与えると言う条件でしたが、自分達が利用されている事も知らずにはしゃいでいました。愚かの者達です・・・」
ガルーダの手の中にはリモコンの様な物が握られている。それは暁の双爪の妹、シシルがグリードベアを操る時に使っていた物と同じ物だった。
「奴等のおかげでグリードベアの様な猛獣もこのリモコンで十分制御できる事も分かりましたし、実戦データも取れ、死体も回収しました・・・」
「うむ、データの事を考えれば今回の損害も些細なものと言う事だな・・・」
やはりグリードベアの死体を回収したのはブラッド・レクイエム社だったようだ。三人の黒騎兵やグリードベアを失っても全く痛手になっていない様子を見せるジークフリートを見てガルーダは黙って頷く。
「お前はそのまま帰還しろ。実戦データを解析し、幻影黒騎士団の調整を終えたら次の行動に移る」
「ハッ・・・ところで司令、例の砦の方はどうされますか・・・?」
ガルーダの口にした「例の砦」という言葉にジークフリートは漆黒のアーメットの下から赤い目を光らせる。
「・・・近いうちに襲撃する。折角だ、襲撃の際は調整の済んだ幻影黒騎士団を使う事にしよう」
また何かを企んでいるジークフリート。ガルーダはそんなジークフリートの会話を黙って聞き、彼の乗るヴェノムは静かな夜の空にプロペラ音を響かせながら飛んで行くのだった。
――――――
ヨムリ村では騎士や数人の村人達が村の見張り台や入口前に立ち村の周辺を見張っている。他の村人達も自分達の家に戻って眠りについていた。
村の広場の中心には焚き火があり周囲を照らしている。そしてその周りにも鍬やホークを持った数人の村人が立っており、村への侵入者がいないか警戒している姿があった。その様子をヴリトラは民家の壁にもたれながら眺めている。
「・・・・・・」
しばらく壁にもたれていたヴリトラはゆっくりと何処かへ歩いて行く。すると、騎士達に指示を出す為に外に出ていたラピュスが偶然ヴリトラを見掛けて後追う。
ヴリトラは村の西側に柵の前までやって来て空を見上げている。その目は何処か寂しさの様なものが感じられた。その様子を見ていたラピュスはゆっくりとヴリトラに近づいて行く。
「・・・休まなくていいのか?」
「・・・ああ、もう大丈夫だ」
ラピュスの存在に気付いていたのか、ヴリトラはラピュスに声を掛けられても全く驚かずに返事をする。ラピュスはヴリトラの隣まで来ると同じように空を見上げる。
「そう言うお前こそ、休まなくていいのかよ?」
「・・・何だか村が心配で落ち着かなくてな。なかなか休めないんだ」
「何だよ、アリサ達じゃ不安か?」
「そういう訳ではない。ただ、いつまたあの様な強敵が現れるかと思うと心配でな・・・」
「そうか。その気持ち、分かるぜ」
そんな簡単か会話をしていると二人は黙り込んでまた空を見上げる。しばらくそんな状態が続いていると、沈黙を破る様にラピュスは小さな声を出す。
「奴等、どんどん力を強くしていくな・・・」
「ああ、このままだと奴等は傭兵組織を通り越して一つの国家になっちまうかもしれない」
「傭兵団が国家に・・・?」
「ああ、可能性はある。それだけの力がブラッド・レクイエムにはあるんだ」
ブラッド・レクイエム社の組織力にラピュスは全身に緊張を走らせてヴリトラを見つめる。
「もし、奴等がそこまで巨大な組織になってしまったら・・・とんでもない事になるぞ」
「ああ、奴等は見境無しに暴れ回り、多くの村や町を襲う。そして、ソルトさん達の様な犠牲者がまた増えちまう・・・」
ヨムリ村や太陽戦士団の様な目に遭う者達が大勢増えてしまう。それを想像したラピュスは冷や汗を掻き表情を鋭くする。その隣でヴリトラは右手に力を込めて握り拳を作った。
「そうさせない為にも、一刻も早く敵の情報を得て対抗策を練らないといけない」
「でも、どうすれば・・・」
「その為にはもっと奴等の情報が必要だ。そして協力し合える仲間も・・・」
ヴリトラはブラッド・レクイエム社との戦いが本格的になろうとしていると考えて表情を鋭くする。それを見てラピュスも真剣な顔でヴリトラの話を聞いていた。
「・・・ジャバウォックの言ってたとおり、一度パティーラム様達にもしっかり話をした方がいいな。今後のレヴァート・・・いや、この大陸の為にも・・・」
「・・・ああ。そうだな」
空を見上げ、ヴリトラとラピュスは何時か始まるであろうブラッド・レクイエム社との戦いに対して更に固い意志を持つ。それは同時に二人のブラッド・レクイエム社に立ち向かう意思と彼等に対する怒りをより強くしたのだった。
翌日、朝になり引き続き村の警備に付くヴリトラ達。昨夜からグリードベアは一匹も姿を見せず、何事も起こらずに時間は過ぎていった。そして約束の昼になり村の安全が確認されるとヴリトラ達は村を出て行く為の準備に入る。ヴリトラ達が村の広場に集まり荷物のチェックをしていると村長が革製の袋を持って近づいて来る。
「ヴリトラ殿、これを・・・」
「ん?これは?」
「お約束の報酬です」
「・・・俺達は報酬入らないと・・・」
「ですが、太陽戦士団の方々が亡くなってしまった以上、貴方がたにお渡ししなくては・・・」
村長は報酬を渡す太陽戦士団が皆死んでしまった為、彼等と同行していたヴリトラ達に渡すのが筋だと考えて報酬を持って来たのだ。ヴリトラも受け取る者がいなくなった以上、自分達が受け取るべきだと考えたのだ、最初に報酬入らないと言ってしまった分、受け取るのに抵抗を感じる。
「でも、依頼を受けたのはソルトさん達ですから、ついて行っただけの俺達が受け取るのは・・・」
「私どもも一度組合に依頼をした以上、報酬を払わないといけません。どうかお受け取りください」
「う~ん・・・・・・では、こういうのはいかがでしょう?」
「はぁ?」
悩んだ末にヴリトラはある答えを出した。
話が終るとヴリトラ達はヨムリ村を出発し、村長達は村を去るヴリトラ達に礼を言いながら彼等を見送った。七竜将を先頭にラピュスとアリサ、四人の騎士が続き、どの後ろに荷車を引く馬と荷車に乗る騎士が続く。だが、最初に来た時と違い荷車の後ろにもう一台別の荷車を引く馬がおり、その荷車に別の騎士が乗っていた。歩きながら後ろを向きその光景を見たラピュスは意外そうな顔を見せている。
「それにしても驚いたな。まさか受け取った報酬で馬と荷車を買いたいと言い出すとは・・・」
「どうしてお金を受け取らなかったんですか?」
ラピュスの隣を歩くアリサがヴリトラに訊ねるとヴリトラは歩きながらラピュスとアリサの方を向いて答える。
「最初に言った通り、俺達は報酬は受け取れない。でも、ソルトさん達がいない以上、俺達が受け取らないといけないからな。だからその金で太陽戦士団の遺体を運ぶ為に荷車を買う事にしたんだよ。ソルトさん達の為に使ったんだから、ある意味で俺達は報酬を受け取った事になはらない」
「う~ん、微妙な感じもしますけど・・・」
「細かい事は気にするな。要は俺達が特になるような事にならなければいいんだよ」
「・・・そんな性格だな?」
「そうか?」
呟くラピュスの方を向いてヴリトラは小さく笑いながら訊ねる。ラピュスはそんなヴリトラを苦笑いで見ながら首を横に振った。そんな雰囲気の中、道沿いに歩いているとヴリトラの隣を歩くジャバウォックとジルニトラがソルト達の遺体を乗せた荷車をジッと見つめる。
「・・・まさか同業者が貰うはずの報酬でその同業者の遺体を運ぶ事になるとはね・・・」
「偶然出会っただけの同業者とは言え、一緒に仕事をした奴が死ぬのを気持ちのいいものじゃねぇな・・・」
「それに、ジャバウォックの言うとおり、もしかしたら仲間になるかもしれなかった人達だったのに・・・残念ね・・・」
ジャバウォックとジルニトラはそう話しながら荷車に乗っているソルト達の遺体を見ている。ラピュスとアリサも気の毒そうな顔で遺体を見ていた。そんな中でヴリトラは前を向きながら真剣な表情で口を動かす。
「・・・俺達の様に大きな力を持つ者をあんな風に思ってくれる人は多くない。ソルトさん達の様な心の広い人はあんな事で死ぬ様な存在じゃなかったんだ」
「ヴリトラ・・・」
前を向きながら喋るヴリトラの背中を見てラピュスは悲しげな表情で呟く。ラピュス達に見つめられながらヴリトラは左手で森羅を強く握った。
「ソルトさん達の様な犠牲者をこれ以上出さない為にも、俺達はブラッド・レクイエムの連中に負けるわけにはいかないんだ!」
「ああ、分かってるぜ」
「アイツ等を止めるのは同じ世界から来たあたし達の宿命でもある訳だしね」
ヴリトラに続いて力の入った声を出すジャバウォックとジルニトラ。ラピュス達はそんな彼等の姿を静かに見守っている。だがそれと同時に七竜将の力に大きな期待を抱くのだった。
「・・・ところで、あの黒い騎兵達の遺体はどうするんだ?」
ジャバウォックがソルト達の遺体と一緒に運んでいる黒騎兵の遺体についてヴリトラに訊ねるとヴリトラはジャバウォックの方を向く。
「とりあえず、ガバディア団長に預けてストラスタ公国がブラッド・レクイエムと何らかの繋がりがあるって事を話そう。その後の事は陛下やパティーラム様に任せるしかない」
「確かに、こっちの世界の政治とは俺達にはチンプンカンプンだからな」
「何より、あたし達にこの世界の政治に首を突っ込む資格もないしね」
ストラスタ公国とは一度戦争をしている中である為、情報を得るにも政治的な事が大きく関わる。一傭兵である七竜将には政治を動かすだけの力もない。それ故にヴァルボルト達王族や元老院に任せるしか方法はなかったのだ。
七竜将が難しい顔で話をしているとラピュスが三人の会話に参加して来た。
「陛下も姫様もお前達の事を強く信頼している。お前達の意見なら必ず聞いて下さるはずだ・・・陛下にお話ししてみたらどうだ?」
「・・・そうだな。だけど、俺達はこの世界の人間じゃない。下手にこの世界の形を変える様な行動や発言は控えるつもりだよ」
「そうか・・・」
「ありがとな、ラピュス」
「いや・・・」
礼を言うヴリトラを見てラピュスは小さく微笑む。ヴリトラ達はそんな話をしながら道を進んで行き、ティムタームへ戻って行ったのだった。
それからヴリトラ達は無事にティムタームに戻り、その足で騎士団の詰所へ向かいガバディアの自分達が体験した事を全て話して太陽戦士団と黒騎兵達の遺体を預けた。その後で傭兵組合に依頼を終えた事と太陽戦士団が全滅した事を知らせる。話を聞いた受付嬢は驚きながらも依頼完遂を聞き、ヴリトラ達はそのまま施設を後にした。ズィーベン・ドラゴンに戻ると別行動を取っていたリンドブルム達は既に帰っており、ヴリトラ達はリンドブルム達にも全てを説明する。
「・・・そんな事が遭ったんだ」
ヴリトラ達から話を聞いたリンドブルムは来客フロアの椅子に座りながら驚く。彼の後ろではニーズヘッグ達も驚きの顔で話を聞いていた。
「機械鎧怪物に幻影黒騎士団、ブラッド・レクイエムも厄介な物ばかりを作るな」
「このままじゃ、私達でも勝てないくらい強くなっちゃうよ?」
「そうなると、私達だけでは手に負えないな・・・」
「・・・危険」
ニーズヘッグ、ファフニール、オロチ、ラランの四人もブラッド・レクイエムの戦力の増強に危機感と恐ろしさを感じながら言う。ヴリトラ達も椅子に座りながら腕を組んで考え込んでおり、周りではラピュス、ジャバウォック、ジルニトラ、アリサが立って話を聞いており、来客フロアに重い空気が広がる。
「・・・奴等は猛獣やモンスターに機械鎧を纏わせる、更にこの世界の騎士達も機械鎧兵士に改造して自分達の戦力にしちまう。つまり、この世界の生き物全てがブラッド・レクイエムの戦力になり得るって事さ」
「つまり、僕達にとってこの世界ではレヴァート王国以外の全ての人間や動物が敵だと考えてもおかしくなって事?」
「いや、話はもっと大きく複雑だ。俺達が味方に付いているこの国の人達にとっても周りが敵になる可能性があると考えた方がいい」
「そそ、そんなぁ~!」
「・・・何だか、怖い」
ヴリトラとリンドブルムの話を聞いたアリサとラランの顔に驚きと緊張が浮かぶ。それを見たニーズヘッグが二人を落ち着かせる。
「落ち着け、それはあくまで最悪の状態だ。そうなる可能性は極めて低い」
「だけど、覚悟はしておいた方がいいという事だな・・・」
「おい、オロチ」
折角ニーズヘッグが二人を落ち着かせてもオロチの言葉でラランとアリサの顔が再び暗くなる。そんな四人の姿を見ていたヴリトラは周りにいるラピュス達に今後の事を話した。
「とにかく、俺達にできる事はこれからの戦いに備えて力を蓄えておく事だ。奴等は機械鎧兵士以外にもあの機械鎧怪物や幻影黒騎士団とか言う黒騎兵達を使って色んな事をして来るはずだ。それを何とかできるのは今の段階では俺達だけ、でもそれにも限界がある。だから力をつけながら俺達と一緒に奴等と戦ってくれと同志を見つけないといけない・・・皆、それを忘れるなよ?」
ヴリトラの言葉にラピュス達は一斉にヴリトラの方を向いて頷く。より強い意志を胸に刻み、七竜将達は更に激しくなるであろうブラッド・レクイエム社との戦いに備えるのだった。
傭兵組合の初めての依頼は良い結果にはならなかった。だが、ブラッド・レクイエム社の新たな力を知り、ヴリトラ達は彼等に対する戦意を強くし、ファムステミリアをブラッド・レクイエム社から守る事を誓うのだった。
今回で第十章を終了いたします。