第百九十話 驚愕の力 竜達の苦戦!
ブラッド・レクイエム社の新たな部隊、幻影黒騎士団の機械鎧兵士である黒騎兵と戦う事になったヴリトラ達。しかし、黒騎兵の想像を超える戦闘能力にヴリトラとラピュスは苦戦する。一体黒騎兵は何者なのだろうか。
森羅と騎士剣を握りながら黒騎兵を見つめるヴリトラとラピュス。警戒心をむき出しにする二人に対して黒騎兵は警戒する事なく二人に近づいて行く。
「アイツ、警戒もせずにこっちに近づいてきやがる。何を考えてるんだ?」
「分からない。私達など警戒する必要も無いと思っているのか、もしくは本当に何も考えていないのか・・・」
「・・・どちらにせよ、ナメられているのは確かだな」
黒騎兵を睨みながら森羅を強く握るヴリトラ。ラピュスも左手に持っているハイパワーをしまって両手で騎士剣を握った。
「それで、この後はどうするんだ?」
「・・・一人ずつ攻撃してもアイツには当たらないだろう。だったら二人同時に攻撃するんだ。それならアイツも必ず隙を見せるはずだ」
「分かった・・・」
次の作戦を決めた二人は武器を構え直してゆっくりと動こうとする。すると、黒騎兵は足を止めて超振動剣を両手で持ち、ゆっくりと横に構えた。そして超振動剣の刀身に再び風が集まり、刀身を包み込む。
「マズイ!アイツまた気の力を使う気だ!」
また気の力で攻撃しようとして来る黒騎兵を見てラピュスは声を上げる。ヴリトラも目を鋭くして黒騎兵への警戒心をより強くした。
「だったら使われる前に攻撃して態勢を崩すだけだ!」
二人が気の力で攻撃される前に黒騎兵を叩こうとした、その時、黒騎兵は超振動剣を勢いよく横に振った。すると、超振動剣から三日月形をした何かが放たれ、それを見たヴリトラの表情が急変する。
「ヤバい!伏せろぉ!」
ヴリトラは咄嗟にラピュスを押し倒してその場に伏せる。二人が倒れた瞬間、二人の真上を三日月形の物体がギリギリで通過し、二人の背後に立っていた木をすり抜ける様に通過した。それは20m程先まで飛んで行くと煙が消える様に消滅する。
突然押し倒された事にラピュスは状況が理解できずに仰向けのまま呆然としていた。
「な、何なんだ、今のは・・・?」
「・・・・・・」
驚くラピュスの上に覆いかぶさる様に乗っているヴリトラは三日月形の物体が飛んで行った方を見て鋭い表情を向けながら驚いている。すると、物体がすり抜けた木が突然横真っ二つに切れてゆっくりと傾き、轟音を立てて倒れた。それを目にしたラピュスは自分の目を疑い表情が固まる。
「な、何だと・・・!?」
「クゥ!まさかとは思っていたが、やっぱり鎌風かっ!」
「か、かまかぜ?」
「アイツは遠くから斬撃を放ったんだよ!」
「何ぃ!?そんな事ができるのか?」
「普通は人間なら無理だろうな。だけど、機械鎧兵士ならできてもおかしくはない・・・」
離れてた所から斬撃を放った、ヴリトラの言葉にラピュスは今度は耳を疑う。ヴリトラはゆっくりと立ち上がり倒れているラピュスを立たせる。その時、突然殺気を感じ取り、フッと黒騎兵の方を向いた。そこには超振動剣を両手で振り上げて自分達の目の前まで来ている黒騎兵の姿があったのだ。
「・・・ッ!クソォ!」
ヴリトラは立ち上がったラピュスを両手で突き飛ばして黒騎兵から遠ざけた。その直後に黒騎兵は超振動剣を振り下ろし、ヴリトラはギリギリでその攻撃を回避する。超振動剣が地面に振り下ろされると大きな音と砂煙が広がりその威力を物語った。
「キャア!」
突き飛ばされたラピュスは思わず女性の叫び声を上げて茂みの前で座り込む。黒騎兵の攻撃を回避したヴリトラは素早く体勢を直して森羅で反撃する。ヴリトラの攻撃を超振動剣で止めた黒騎兵はそのまま反撃し、ヴリトラも負けずと攻撃を防ぐ。両者ともに攻防を繰り返す姿を見てラピュスも急ぎ騎士剣を拾い立ち上がる。
ヴリトラは自分の攻撃を簡単に防ぐ黒騎兵の強さに少し焦りの様子を見せながら戦っている。そして一瞬攻防が止むと体勢を立て直す為に後ろへ跳んで距離を作った。
「何て奴だ・・・もしかするとコイツ等、幹部並の強さなんじゃねぇのか?」
黒騎兵の力にヴリトラは彼等の強さが幹部クラスの機械鎧兵士と同じではないかと考え冷や汗を垂らす。そんなヴリトラに黒騎兵は容赦なく攻撃を仕掛けていく。
ヴリトラが向かって来る黒騎兵を見て素早くオートマグを抜き発砲する。黒騎兵は弾丸を全て超振動剣で弾き、無傷のままヴリトラとの距離を縮めていく。そしてヴリトラが攻撃範囲に入ると超振動剣でヴリトラに袈裟切りを放つ。ヴリトラはしゃがんでその袈裟切りを回避すると黒騎兵の腰を狙って森羅を横に振り反撃した。だが黒騎兵は後ろへ跳んでヴリトラの攻撃をギリギリでかわす。黒騎兵の足が地面に付くと、その背後からラピュスが騎士剣で逆袈裟切りを放ち攻撃する。しかさい黒騎兵はまるで攻撃を読んでいたかのように振り返りラピュスの攻撃を止めた。
「な、何て奴だ!背後からの奇襲を簡単に・・・!」
自分の攻撃を意図も簡単に止めてしまった黒騎兵にラピュスは驚きと悔しさを感じて両腕に力を込める。しかし黒騎兵はラピュスの力を何も感じていない様子で騎士剣を止めていた。
(クソ、どうする?銃はコイツの鎧には効かないし、気の力を使おうにも火が無ければ使えない。剣もコイツにどこまで通じるか・・・)
ラピュスは心の中でどう戦うか必死で考える。すると黒騎兵はラピュスの騎士剣を払い、がら空きになった胴体に右ストレートを撃ち込む。機械鎧の拳はラピュスの黒い鎧に命中し、鎧の中心から罅が広がる。それと同時にラピュスの体に想像以上の衝撃が加わった。
「かはぁ!」
「ラピュス!」
機械鎧兵士のパンチをまともに受けてしまったラピュスはそのまま勢いよく後方へ飛ばされてしまう。道沿いに地面を擦りながら下がって行き、約8m先でようやく止まった。
「う・・・ああ・・・」
体中に広がる痛みにラピュスはかすれた声を出す。鎧のおかげで致命傷は避けられたものの、それでもラピュスの受けたダメージは大きかった。
ラピュスが飛んで行った光景を黒騎兵は黙って見つめており、ヴリトラはそんな黒騎兵の背中を睨みつけている。
「テェメェ!」
ラピュスを殴り飛ばされた事に怒り、ヴリトラは黒騎兵に突っ込んで攻撃した。だが黒騎兵は体を少し反らして森羅を簡単にかわし、振り返り様にヴリトラに後ろ蹴りを放つ。
「!」
ヴリトラは黒騎兵の蹴りを見て咄嗟に後ろへ跳ぶ。しかし、回避行動が間に合わず腹部に蹴りをまともに受けてしまった。
「ううぅ!」
痛みに歯を食いしばるヴリトラはそのままラピュスの様に後ろへ蹴り飛ばされた。地面に叩きつけられ、痛む腹部を擦りながらゆっくりと起き上がり黒騎兵を睨む。
「ててててっ、後ろへ跳んだ事でダメージを削る事はできたけど、それでもこの威力・・・。ラピュスも鎧が無かったら危なかったな・・・」
痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がるヴリトラは森羅を構え直す。ラピュスも何とか起き上がって騎士剣を杖にして立ち上がるが、予想以上にダメージを受けてしまったらしく、足が若干震えている。そんな二人に挟まれた状態で黒騎兵は超振動剣を握りながらヴリトラを黙って見つめていた。そんな時、突如ヴリトラの小型無線機からコール音が鳴り、ヴリトラは黒騎兵を睨みながら小型通信機のスイッチを入れる。
「こちらジルニトラ。聞こえる?」
「ジルニトラか?」
「ヴリトラ?そっちは大丈夫?」
「正直、大丈夫じゃねぇよ。俺もラピュスも押されている・・・それよりも何なんだ?今取り込み中なんだけど?」
「こっちもそうよ。そんな中でようやく通信をする事ができたんだから」
ヴリトラとラピュスが戦闘を行っている所から西に150m程離れた木々の中、そこでジルニトラは木の陰に隠れながら姿勢を低くして通信していた。彼女の特殊スーツはあちこちが汚れており、掠り傷なども沢山負っている。どうやらジルニトラも苦戦を強いられているようだ。
ジルニトラはサクリファイスを構えながら周囲を警戒し、黒騎兵の気配を探りながら小声で通信を続ける。
「・・・こっちもさっきまであの黒い騎兵と戦って苦戦してたところだったのよ」
「それで、今はどうなんだよ?」
「・・・今は何とまいて体力を回復しているところよ」
「俺もそんなところだ」
突如小型無線機から聞こえて来たジャバウォックの声。彼も黒騎兵に苦戦を強いられていたらしく、ヴリトラのいることろから南東へ200m行った所にある大きな岩にもたれながら休んでいた。
「ジャバウォック、アンタは大丈夫なの?怪我とかは?」
「大丈夫だ。だけど、まだ敵のM4を使えなくしただけで何の進展もない・・・こっちもボロボロさ・・・」
「あたしの方はアイツの剣をレーザーで使えなくしてやったわ。でもまだM4と内蔵兵器が残ってる・・・」
「誰も倒せてないって事だな・・・」
ヴリトラは黒騎兵三人がまだ一人も倒せてない事に危機感を感じている。今まで自分達が戦ってきた機械鎧兵士と目の前にいる黒騎兵とでは力も機械鎧の性能も違うと言う事を突きつけられたのだから。
目の前で超振動剣を握りながら構えている黒騎兵を見てヴリトラは森羅を構えながら通信を続ける。
「コイツは幹部クラスの力を持っている上に気の力まで使ってきやがる。しかも鎧みたいな機械鎧を纏っているくせに非常に素早い・・・」
「ええ、こっちも似たようなものよ」
「俺の方でも近くに転がっている石を集めて剣に纏わせて攻撃してきやがった」
「こりゃあ、さっさと片づけないと俺達の体力が先に無くなっちまう。こうなった機械鎧の内蔵兵器をバンバン使ってアイツ等を・・・」
小型無線機に向かって話をしていると、黒騎兵が超振動剣を右手に持ちながらヴリトラに向かって跳んで来た。それに気づいたヴリトラは咄嗟に森羅を構える。そこへ黒騎兵は超振動剣を振り下ろして攻撃した。ヴリトラは森羅で攻撃を塞ぎ、二つの刃が交える箇所から火花と金属音が広がる。
「ぐううぅ!」
「ヴリトラ!」
ヴリトラが攻撃を受ける光景にラピュスは思わず叫んだ。小型通信機の向こう側でもジャバウォックとジルニトラがヴリトラとラピュスの声を聞いて表情を鋭くする。
「ヴリトラ!?」
「何が遭った!?」
「また襲ってきやがった!とにかく、内蔵兵器とかいろいろ使ってさっさと倒しちまおう。以上!」
ヴリトラは二人に指示を出して素早く通信を切る。ジャバウォックとジルニトラはヴリトラとラピュスもかなり追い詰められている事を知り、微量の汗を流した。
「こりゃあ、相当マズイわね。本当にさっさと片付けないとこっちが先にへばっちゃうわ・・・」
サクリファイスを握りながら状況の悪さを再認識するジルニトラ。すると、茂みの中からM4を持った黒騎兵が姿を現してジルニトラに狙いを付ける。黒騎兵の存在に気付いたジルニトラは咄嗟に茂みの中へ飛び込む様に跳んで黒騎兵の射線上から移動した。黒騎兵は跳んだジルニトラを追う様にM4を乱射して攻撃する。弾丸は木や草、地面などに当たる、隠れているジルニトラにプレッシャーを与えていく。そんな中でジルニトラは匍匐をしながら少しずつ黒騎兵から距離を取っていった。
「いきなり攻撃して来るなんて、ホント遠慮の無い連中ね。それなら、あたしも本気で行くわよ?」
ジルニトラはサクリファイスのヘリカルマガジンを抜いて残弾が残っているかを確認すると、再びサクリファイスに装填し両手でしっかりと握る。しばらく茂みの中に隠れてジッとしていると突然銃撃が止む。M4の弾が切れて黒騎兵は弾倉を交換していたのだ。ジルニトラはそのチャンスを逃さす、素早く立ち上がってサクリファイスで黒騎兵に反撃した。黒騎兵は素早くその場から移動して銃撃を回避し、近くの木の陰で新しい弾倉と交換する。
「反撃の隙は与えないわよ!」
黒騎兵が隠れている木を狙ってジルニトラはサクリファイスに付いているグレネードランチャーを撃つ。グレネード弾は黒騎兵が隠れている木の命中し爆発を起こし、その衝撃で黒騎兵を吹き飛ばす。黒騎兵は素早く体勢を直してM4をジルニトラに向けて発砲する。弾丸はジルニトラの肩や大腿部を掠ったが、ジルニトラは痛みなど気にせず動いた。左腕の機械鎧の手の甲から円盤状の機械を出し、黒騎兵に向けて赤いレーザーを発射する。レーザーは黒騎兵の体を左肩から右腰に向かって真っ二つにした。黒騎兵はそのまま反撃できずに倒れ、その光景を見たジルニトラは気が楽になったのか溜め息をつく。
「フゥ・・・危なかった。もし剣を使われていたらどうなってた事か・・・」
何とか倒したが、戦いが始まった直後の事を思い出し、ジルニトラは表情を歪めて汗を流す。
「・・・ヴリトラ達は大丈夫かしら?」
ジルニトラはヴリトラ達の事を心配しながら黒騎兵の遺体に近づき、持ち物や機械鎧の構造を確認し始めるのだった。
その頃、ジャバウォックはデュランダルを構えながら超振動剣を持つ黒騎兵と交戦していた。実はあの通信の後、ジャバウォックも黒騎兵と遭遇して戦闘を開始したのだ。
「クソォ、何て野郎だ・・・」
ジャバウォックは呼吸を乱しながら目の前で超振動剣を構えている黒騎兵を見てデュランダルを構えている。自分よりも背の低い黒騎兵を前にジャバウォックは自分よりも巨大な敵と戦っている様な感覚に囚われていた。
「・・・チィ、何時までも睨み合っても仕方がねぇ。とにかく渾身の一撃をぶち込むチャンスを作らねぇと!」
これ以上戦闘を長引かせる訳にはいかないと考えたジャバウォックはデュランダルを構え直して黒騎兵に袈裟切りを放つ。だが黒騎兵は姿勢を低くしてジャバウォックの攻撃をかわすとジャバウォックの胴体に向かって超振動剣で突きを撃ち込む。
「クッ、ヤバい!」
迫って来る切っ先を見てジャバウォックは咄嗟に体を横へ反らして突きをギリギリでかわす。回避に成功したジャバウォックはそのまま機械鎧の右腕で黒騎兵にカウンターのパンチを撃ち込む。しかし黒騎兵はそのパンチを片手で受け止めた。自分のパンチが片手で止められた事にジャバウォックは一瞬驚きの顔を見せたが、素早く左手に持っているデュランダルで黒騎兵の脇腹に横切りを放つ。黒騎兵は掴んでいるジャバウォックの拳を放して後ろに跳び横切りを回避した。するとジャバウォックはニッと笑い右腕の肘近くの装甲が動きブースターが姿を見せる。
「くらいな、ジェットナックル!」
ジャバウォックが右腕を引くとブースターが点火され、もの凄い勢いで右ストレートが放たれる。ジャバウォックのパンチは黒騎兵の顔面に命中し、黒騎兵は後方へ飛ばされていく。そして飛んでいった先の木にぶつかりそのまま俯せに倒れた。
「ハァ~、何とか勝てたか・・・。しかし、あの体で俺のパンチを止めるとは、それだけ奴等の機械鎧の性能がいいって事なのか・・・」
自分のパンチを止めた黒騎兵の機械鎧の性能に驚くジャバウォックは遠くで倒れている黒騎兵をジッと見つめながら呟くのだった。
そしてヴリトラとラピュスも黒騎兵との戦いを再開し、激しい攻防を繰り広げていた。黒騎兵の斬撃を森羅で防ぎながら反撃するも軽々とその攻撃をかわされてしまう。
「クソォ・・・コイツ、これだけ激しい戦闘をしてるのに疲れた様子を全く見せていない・・・どうなってるんだ?」
「まるで疲れを感じていないようにも見える・・・」
ヴリトラとラピュスは自分達と違い疲れを表に出さない黒騎兵を見て不気味さを感じる。現に二人の呼吸は乱れ、大量の汗も掻いているが黒騎兵は呼吸すら乱れていない。それがどうしても納得できなかったのだ。
「いくらナノマシンで身体能力を強化されても、機械鎧兵士だって疲れは感じるし呼吸も乱れる・・・」
「そのあたりは普通の人間と同じという訳か・・・」
「ああ。アイツ、一体どんな体をしてるんだ・・・」
二人が黒騎兵の事を話していると黒騎兵は会話中の二人に向かって跳んで行き、超振動剣を振り上げる。二人は咄嗟に森羅と騎士剣を構えて迎撃態勢に入った。黒騎兵は二人の真ん中辺りに向かって騎士剣を振り下ろし、ヴリトラとラピュスは左右へ跳んで振り下ろしを回避する。二人は黒騎兵の側面へ回り込んで挟むとほぼ同時に左右から斬りかかる。だが黒騎兵は右からのヴリトラの斬撃を超振動剣で止め、左からのラピュスの斬撃を機械鎧の左腕で止めた。
「くぅ、コイツゥ!」
ラピュスは何度も攻撃を止められてイライラして来たのか、右手で騎士剣を握ったまま、左手でハイパワーを抜き黒騎兵のこめかみ部分を至近距離で撃った。弾丸は兜に当たり高い音を響かせる。だがそれと同時に黒騎兵の脳内を衝撃が襲い、黒騎兵は態勢を崩した。ヴリトラはそのチャンスを見逃さず、素早く黒騎兵の正面に回り込み、威勢を低くして胴体に袈裟切りを放った。黒騎兵の甲冑には大きな切傷が生まれ、そこから出血し仰向けに倒れる。動かなくなった黒騎兵を見てヴリトラとラピュスはいきなり疲れを感じたのか深く溜め息を付く。
「フゥ~、倒したみたいだな・・・」
「ああ・・・それにしてもこの強さ、一体どうなっているんだ?」
「機械鎧の内蔵兵器は今までのと変わらないが、性能が全然違った。しかも気の力まで使っていたし・・・」
ヴリトラは森羅を鞘に納めると倒れている黒騎兵の兜を外して素顔を確かめる。兜の下からは若い男性の顔が出てきた。しかしその肌は白く、目にも光が無い。まるで元から死んでいたか心が無くなっている様に見える。
「この男・・・ラピュス、知ってるか?」
「いや、私は見た事ない・・・」
気の力を使った以上、騎士である事には間違いないのだが、ラピュスは見覚えが無いと言う。難しい顔で考え込むヴリトラのに立ち黒騎兵を見下ろしているラピュスはふと黒騎兵の隣に落ちている超振動剣に目をやる。超振動剣を拾い上げて全体を見渡していると、刀身の根元に何かが刻まれているのを見つけ、それを見た瞬間に目を見張った。
「ヴリトラ、これを見てくれ」
「ん?」
呼ばれたヴリトラは立ち上がりラピュスの隣で超振動剣の根元を見る。そこには何処かの国の紋章の様なものが刻まれていた。ヴリトラはその紋章に見覚えがあり、ラピュスと同じように目を見張って驚く。
「これは・・・ストラスタ公国の紋章じゃないか」
「ああ、つまりこの剣はストラスタ公国の騎士剣を使って作られたという事になる」
「と言う事は、この男はストラスタ公国の騎士?」
ヴリトラとラピュスは倒れている黒騎兵を見て更に混乱する。なぜストラスタ公国の騎士がブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士となっているのか、この時のヴリトラとラピュスはその答えが分からなかった。
苦戦を強いられながらも黒騎兵を倒す事に成功したヴリトラ達。だが黒騎兵の一人がストラスタ公国の騎士であった事を知り、謎がヴリトラ達を包み込む。一体ブラッド・レクイエム社は何を考えているのだろうか。