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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十章~誠実と欲望の戦士達~
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第百八十四話  ヨムリ村到着 近づいて来る予期せぬ恐怖

 休憩を挟みながらヨムリ村に向かうヴリトラ達。だがそんなヴリトラ達の前に猛獣ベルボナの群れが立ち塞がる。苦戦を強いられていたソルト達だったがヴリトラ達の力によって戦況は一転、一気に反撃に掛かるのだった。

 戦いが始まってから十数分後、ヴリトラ達の周りには大量のベルボナの死体が転がっている。あの後、ヴリトラ達によってベルボナの殆どが倒され、その中に長がいたらしく生き残ったベルボナ達は一目散に逃げて行っのだ。


「大丈夫?」


 ジルニトラが救急箱を持ってソルトに怪我はないか訊ねる。ソルトは苦笑いをしながら頷く。


「ハイ、私は大丈夫です。ただ、キッドとラルフが少しやられたみたいで・・・」

「そう。ちょっと診せてね」


 そう言ってジルニトラはキッドとラルフの下へ駆け寄った。そしてキッドとラルフの状態を確認すると救急箱から消毒薬や包帯を取り出して簡単な応急処置を取る。処置が終るとキッドとラルフは手当てされた箇所を見て驚きの顔を浮かべた。


「へぇ~、変わった包帯だな?俺達が使ってるのと違って感触も色もいいぜ」

「それに痛みも殆どありません」

「大袈裟ね」


 小さく笑いながらジルニトラは使った包帯や消毒薬を救急箱に戻した。


「あの、思ったんですけど、ガントレットを付けたままで手当てはし難くないんですか?」

「ガントレット?・・・ああぁ、機械鎧の事ね」


 ラルフが指摘する両手の機械鎧を見てジルニトラは納得した。


「マシン、メイル?・・・その鎧の名前ですか?」

「これは鎧じゃないわ、義手よ」

「義手?これがあの噂に聞いた義手なんですか?」

「うへ~、初めて見たぜ」


 ジルニトラの両手が義手である事を知り驚くラルフとキッド。勿論周りにいたソルト達も二人の声を聞き、ジルニトラ達の下へ集まった。


「どうしたんだ?」

「ああ、この姉ちゃんの両手、鎧を付けてるのかと思ったけど、実は義手なんだと」

「何と!」

「これが噂に聞く義手ってやつなの?」

「す、凄いですねぇ・・・」

「そ、そう?」


 自分の義手を見て驚いたり目を輝かせたりするソルト達にジルニトラは苦笑いを見せた。その様子を離れた所でヴリトラとジャバウォックは笑いながら見ている。

 

「おうおう、大変だなぁ、ジルニトラの奴?」

「ハハハハ、たまにはあんな経験をしてもいいんじゃないか?」


 他人事の様に笑う二人。それに気づいたジルニトラは恨めしそうに二人を見ていた。すると、何かを閃いたのか小さく笑ってヴリトラとジャバウォックの方を見て口を動かす。


「あたしの機械鎧より、ヴリトラとジャバウォックの方が凄い機械鎧を持ってるわよぉ?」


 大きな声で周りのソルト達や遠くにいるヴリトラとジャバウォックにも聞こえる様に話すジルニトラ。それを聞いたソルト達はヴリトラとジャバウォックに視線を向け、二人も目を丸くしながらソルト達の方を見る。


「ヴリトラさん達の鎧も機械鎧なんですか?」

「すげえな!ちょっと見せてくれよ!」

「ぜ、是非お願いします」


 ソルト達はまるで子供の様にヴリトラとジャバウォックの下へ向かって行き、二人は太陽戦士団に囲まれる。それを見たジルニトラはニッと悪戯っぽく笑って救急箱を荷車にしまいに行った。


「ア、アイツゥ!」

「俺達を身代りにしやがった・・・」


 ジルニトラの代わりにソルト達に囲まれる二人。そんなやり取りを遠くから見ていたラピュスは苦笑いを浮かべている。そこへアリサがやって来て声を掛けて来た。


「隊長、出発の準備が整いました・・・何を見てるんですか?」

「ん?あれだよ」

「・・・どうしたんです?」

「太陽戦士団が七竜将の機械鎧に興味を持ってはしゃいでいるんだ」

「成る程・・・まぁ、機械鎧はこの世界には存在しませんし、義手や義足自体が珍しいですからね」


 ラピュスの隣で様子を窺うアリサも苦笑いを見せた。


「さて、そろそろ止めてやるか」


 苦笑いをしたままラピュスはヴリトラ達の方へ歩いて行き、少し大きな声を出した。


「おーい!そろそろ出発するぞぉ!」


 ラピュスの声を聞いた一同は慌てて自分達の武器や荷物を取りに行き、全員が揃うと出発した。

 それから十数分後、太陽戦士隊は七竜将に更に興味が湧いたのか、後ろをついて来るヴリトラ、ジャバウォック、ジルニトラと会話をしながら歩いた。


「それにしても、さっきの戦いは凄かったですね。剣でベルボナを切り裂き、見た事のない武器で遠くの相手を攻撃するなんて・・・もしかしてあれが噂になっている未知の武器ですか?」

「ええ、あれが銃と言う武器で俺達が住んでいた所では軍隊や警察・・・自警団がよく使ってます」

「軍隊や自警団が使う・・・それは兵士が一人一人持っているという事ですか?」

「ハイ」


 遠くにいる敵を一撃で倒す程の強力な武器を一人ずつ持つ軍隊、それを聞いてソルト達は驚きの表情を浮かべる。


「一体、皆さんは何処の国からいらっしゃったんですか?レヴァート王国の出身ではないですよね?」

「俺達はこのヴァルトレイズ大陸とは違う別の大陸から来たんだ」


 ソルトに質問にヴリトラの隣を歩いていたジャバウォックが答えた。


「別の大陸?」

「ああ、海を渡り遥か遠くにある大陸からな・・・」

「どうしたそんな遠い所からこの大陸に?」

「まぁ、色々あってな」


 ジャバウォックはブラッド・レクイエム社の事を伏せておく為に曖昧な返事をした。それはソルト達を巻き込まないようにする為でもある。


「・・・何か事情がお有りなのですか?」

「よかったら、俺達にも話してくれよ。力になれるかもしれないからな」

「ありがとな。だけど、その気持ちだけ受け取っておこう」

「そうですか・・・すみません、出過ぎた事を言ってしまい」

「いや、謝る事はねぇよ」


 これ以上の追究はよくないと考えたソルトは話を終わらせる。自分達の力になろうとしてくれている傭兵が目の前にいる事に七竜将は小さな喜びを感じていた。その光景を見ていたラピュスとアリサもまるで自分の事の様に嬉しさを感じている。

 それから更に歩く事十数分、ようやく目的地のヨムリ村が見えて来た。数えるくらいの民家と畑が木でできた柵に囲まれており、その中の大勢の村人が農作業や家畜の手入れをしている。普通の村と比べるとやや大きいくらいだ。


「あれがヨムリ村です」

「へえ、意外と大きな村ですね」

「人口は三十人以上であの村で作られる野菜などを近くの町で売って生活しているんです」

「・・・その野菜や家畜を求めてグリードベアが村の周辺に現れたって事ですね?」

「ハイ。グリードベアは野菜や動物の血肉を普通の熊の倍近く喰らいます。あの村でも既に野菜と家畜がやられていますが人間はまだ被害に遭っていません」

「だけど、それも時間の問題か・・・」

「ハイ、一刻も早くグリードベアを討伐しないと」


 ヴリトラとソルトが村を眺めながらグリードベアの恐ろしさを話し合う。その後ろではラピュス達が同じように村を見下ろしている。


「とにかく、村へ行きましょう」

「ハイ」


 ヴリトラの言葉にソルトは頷き、一同は遠くに見えるヨムテ村に向かって行った。

 数分後、ヴリトラ達はヨムリ村の入口前に到着した。入口の前には二人の村人がおり、その手には農業用のホークや薪割り用の斧が握られている。どうやら村を守る為に武器として使っているようだ。村人は村に近づいて来るヴリトラ達に気付くとホークと斧を強く握り警戒する。


「何だ、アイツ等は?」

「見たところ傭兵みたいだぞ?」

「でも、騎士も一緒にいるぜ?」


 村人達が小声で話しをしているとヴリトラ達は村人の目の前まで来て立ち止まると、ソルトは一歩前に出て村人に声をかける。


「あの、我々はこの村からの依頼書を見てやって来た者ですが・・・」

「依頼書?・・・もしかして、グリードベアの事か?」

「ハイ、そうです」


 ソルトの答えを聞き、二人の村人は安心したのか笑みを受けた。


「詳しい話をお聞きしたいので、村長に会わせて頂けますか?」

「ああぁ、勿論だ!ついてきな」


 村人に案内されて村の中へ入って行くヴリトラ達。村人達はゾロゾロは入って来る傭兵と騎士達に驚き目を丸くしながら黙って見つめていた。

 ヴリトラ達は村人に連れられて村長の家にやって来た。そこは村の中で最も大きな家で一目で他の家とは違うと分かるほどだ。家の中に入ると、白髪で丸帽子を被った老人が立っており、周りには数人の村人が立っている。老人はヴリトラ達を見ると笑みを浮かべて頭を下げた。


「お待ちしておりました。私がこの村の村長です」

「今回依頼を受けさせてもらった太陽戦士団の団長でソルトと申します」

「よろしくお願いします」


 ソルトと村長は挨拶を終えて握手をする。そして村長は太陽戦士団の後ろにいる七竜将とラピュス、アリサに気付いて不思議そうな顔をした。


「ところで、後ろにいる方々は・・・」

「ああぁ、こちらは私達に協力してくださる方々です。傭兵隊、七竜将のお三方と王国騎士団の姫騎士のお二人です」

「別の傭兵達と騎士団の姫騎士、ですか?」


 村長の周りにいる村人達は驚いてヴリトラ達を見つめる。ヴリトラは一歩前に出て軽く頭を下げた。


「七竜将の隊長、ヴリトラです。こっちがジャバウォックでこっちがジルニトラ」


 ヴリトラは自分の両脇にいるジャバウォックとジルニトラを紹介し、二人も村長を見て軽く頭を下げた。


「はじめまして、王国騎士団のラピュス・フォーネです」

「副隊長のアリサ・レミンスです」


 ヴリトラに続いてラピュスとアリサも自己紹介をする。ヴリトラ達が紹介を終えると村長はどこか心配そうな顔でヴリトラ達を見た。


「あ、あのぉ、我々は一つの傭兵団に依頼できる程の報酬しか用意していないのですが・・・」

「ああぁ、それでしたら気にしないでください。報酬はソルトさん達の分だけで十分ですから」

「ええぇ!?」


 ヴリトラの口から出た言葉に村長達は更に驚きの表情を浮かべる。


「し、しかしそれは・・・」

「俺達は太陽戦士団の手伝いでついて来ただけです。それにこれはソルトさん達と相談して決めた事ですから」

「えええぇ・・・」


 信じられずに目を丸くしてヴリトラを見る村長。そこへソルトが小さく笑いながら村長に声をかけた。


「私達も最初は耳を疑いました。報酬無しで依頼を受ける傭兵なんて見た事がありませんから。ですが、ヴリトラさんの目を見て彼は本気だと理解したんです」

「俺達は働く事ができればそれでいいんです」

「は、はあ・・・」


 ソルトとヴリトラの話を聞いて村長は目を丸くしたまま返事をする。ヴリトラの後ろではラピュス達が小さく笑ってヴリトラの背中を見ていた。

 報酬の話が終るとヴリトラ達は村長から村の状況とグリードベアの詳しい情報を聞いた。現在、村ではグリードベアが来た時に備えて食料などは全て隠してあるが、畑などは殆ど荒らされてしまい村人達も生活に困っているようだ。村人達の調べでグリードベアは二日置きに村にやって来て食事をする事が分かった。そして、明日がグリードベアが食事をしに来る日だと村長は言っている。


「では、明日がグリードベアが村にやって来る日なのですね?」

「ハイ、最初に村が襲われたのは一週間前でした。初めはただ村の近くを通っているだけだと思っていたのですが、それからは家畜や野菜などを荒らし始めて・・・村の者が犠牲になっていないのがせめてもの幸いです」


 村長の説明を聞いてソルトは難しい顔を見せる。ヴリトラも村長の近くにいる数人の村人をジッと見た後に口を動かした。


「とにかく、急いでソイツ等を倒しちゃいましょう。家畜や野菜が無くなれば次は確実に人間を襲います。そして、熊は一度人間の味を覚えると怖い者知らずになると言われていますから・・・」


 ヴリトラの話を聞き、村人達は不安になったのかざわめき始める。村長やソルトもヴリトラの方を向いて真剣な表情を見せていた。


「とにかく、これ以上犠牲を出さないようにする為に急いで準備を・・・」

「そんちょーっ!」


 突然聞こえて来た男性の声にヴリトラ達は一斉に声のした方を向く。すると玄関から一人の村人が慌てて村長の家に飛び込んで来た。荒い息と大量を汗を流す村人を見ヴリトラ達は少し驚くの表情を見せている。


「どうしたんじゃ?そんなに慌てて・・・」

「こ、これが慌てずにいられるかぁ!む、村に、グリードベアが近づいて来てるんだぁ!」

「何じゃと!?」


 今回の標的であるグリードベアが村に近づいてきている、それを聞いたヴリトラ達に緊張が走った。


「バカな!グリードベアは明日来るはずだろう?どうして今日村に来ているんだ!?」

「そ、そんな事、俺は知らねぇよ!」


 今までと行動パターンが違うグリードベアに動揺を隠せない村長と村人達。太陽戦士団も予想外の出来事に驚いていた。そんな中、ジャバウォックはヴリトラに小声で声を掛ける。


「ヴリトラ・・・」

「ああ、向こうはこっちの都合なんて考えちゃいないって事だな」

「それにアイツ等は凶暴なモンスターと言えど所詮は獣だ。腹が空けば本能に従い食料を探す、当然と言えば当然だな」


 小声で会話をしながら二人は太陽戦士団や村長達を見た。落ち着きを取り戻したのか冷静になってソルトと村長は話をしていた。


「早速ですが皆さん、よろしくお願いします!」

「分かりました。皆さんはご自分の家に隠れていてください」


 ソルトに指示を聞いて村長や村人達は部屋の奥や自分達の家へ戻って行く。太陽戦士団は自分達の武器を手に取ってヴリトラ達の方を向いた。


「では、皆さん。行きましょう!」

「ハイ」


 ヴリトラはソルトの方を向いて頷き、一同は村長の家から出て行った。

 村に到着した直後にグリードベアが村に近づいて来ているという報告を受けるヴリトラ達。緊迫した空気の中、ヴリトラ達はグリードベア討伐の為に動き出すのだった。


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