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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第十章~誠実と欲望の戦士達~
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第百八十三話  ヨムリ村へ! それぞれが感じた事


 ヴリトラ達は二手に分かれて依頼を受ける事にした。リンドブルム達のチームが一足先に依頼を受けた直後、ヴリトラ達のチームにコボルトクラスの傭兵団である太陽戦士団から依頼を手伝ってほしいと声を掛けられる。自分達に興味を持ち、力を貸してほしいと言う団長ソルトの誘いをヴリトラ達は喜んで受けるのだった。

 ティムタームを出た一行は目的地のヨムリ村に向かう為に西へ向かっていた。先頭を歩く太陽戦士団の後ろを七竜将と懲罰遊撃隊がついて行き、案内される形で歩いている。今回七竜将は3K程度なら歩いて行けると自動車には乗らず必要な荷物を懲罰遊撃隊の用意した荷車に積んで徒歩で村に向かう事にした。ラピュス達も荷車を引く騎士以外は全員歩いている。幸い涼しげな風が吹いており暑さに苦しむ事はなかった。


「それにしても、七竜将に依頼を頼んだだけなのに、凄い事になっちゃったね?」


 先頭を歩くソルトの後ろでラルフが後ろの七竜将達を見ながら小声でソルトに話し掛ける。太陽戦士団の後ろにはヴリトラ、ジャバウォック、ジルニトラの七竜将三人にラピュス、アリサ、そして五人の騎士と荷車に乗る騎士の計六人。自分達を含めて合計十四人の団体になっている。後ろを見ながら歩く太陽戦士団の一行は意外そうな表情を見せていた。


「確かに、傭兵と騎士が一緒に歩く光景なんて滅多に見られないからなぁ。しかも傭兵である俺達が先導する立場・・・」

「ヴリトラ殿は訳あって遊撃隊の方々と同行していると言っていたが・・・」

「一体どんな理由で騎士が傭兵について行くんだろうな?」


 キッドとアルバートも小声でヴリトラ達を見ながら話し、ファンリーザは両手を後頭部に当てながら興味の無さそうな顔でキッド達の話を聞いている。


「皆、今日であったばかりで協力してくれる人達なんだぞ?あまり変な事は言うなよ?」

「分かってるよ、ちょっと気になっただけさ」


 ソルトの忠告にキッドは笑って返事をする。そんな太陽戦士団の会話を気にする事なくヴリトラ達はソルト達の後をついて行く。


「ところでさぁ、噂で聞いたんだけど、七竜将は鉄の馬に乗って移動するって聞いたんだけど、その鉄の馬はいないの?」


 さっきまで興味の無さそうな顔をしていたファンリーザが突如歩きながら振り向いてヴリトラ達に問いかけた。ソルト達も突然声を出したファンリーザに驚いて一斉に彼女を見る。


「鉄の馬?・・・ああぁ、車の事ですか」

「へぇ~、クルマって言うんだ。それは何処なの?」

「すいませんね、今回は近場だと思って乗ってこなかったんですよ。燃料の事もあるし・・・」


 苦笑いを見せるヴリトラは会話の最後に声を小さくして燃料の事を聞こえない様にした。するとファンリーザはつまらなそうな顔で再び前を向く。


「なぁ~んだ、つまんなぁ~い。どんなのか期待してたのにぃ~」

「ハハハ、スンマセン・・・」

「これからはもう少し空気を読みなさいよね?」


 失礼な態度を取るファンリーザを見てヴリトラの後ろを歩いているジルニトラがピクリと眉を動かす。その隣を歩いているジャバウォックはただ苦笑いを見せて歩いていた。


「おい、ファンリーザ。失礼な事を言うんじゃない」

「だってさぁ、どんなのか気になるじゃない。アンタ達も町を出る前に気になるって話してたでしょう?」

「そ、それは・・・」


 痛いところを突かれて言葉に詰まるソルト。キッド達も苦笑いを見せて黙り込んだ。するとヴリトラがソルト達をフォローする様に口を動かす。


「まぁ、見た事がない物が身近にあると聞けば誰だって興味が湧いて見たくなりますよね?」

「すみません、ヴリトラさん・・・」

「いいんですよ・・・そうだ、この依頼が完遂したら俺達の拠点に来ますか?色々見せますよ」

「えっ?よろしいんですか?」

「ええ、誘ってくれたお礼もしたいですし」


 七竜将の拠点に行けると言う話を聞いてソルト達は嬉しいのか笑みを浮かべてヴリトラを見た。それを見たラピュスはジャバウォックの腕を突いてジャバウォックを呼ぶ。


「ヴリトラ、何時もの様子が違った感じがするが、どうかしたのか?」

「いや?あれは普段のヴリトラだぞ?」

「あんな礼儀正しいヴリトラは初めてだ。一体どういう事なんだ?」


 普段の抜けたところのあるヴリトラと違い礼儀正しき笑顔を絶やさない姿を見て変に思ったラピュスは小声で訊ねる。すると、ジャバウォックとそれを聞いていたジルニトラは互いに見合って突然笑い出す。


「フフフフフ、そうよね?戦いの時以外抜けてる事の多いヴリトラを見ていたら誰だって変に思うわよねぇ?」

「クククク、安心しろラピュス。アイツは別に調子が悪い訳でも変な物を食った訳でもない」

「そ、そうなのか?」

「アイツは仕事の話をする時や自分達に協力してくれている仕事仲間と接する時はいつもあんな風なんだよ」

「あれが?・・・・・・では、私達や姫様と接する時のアイツは・・・」

「お前や姫様を本当に心から信頼しているからありのままの自分で接してるんだ」

「『リーダーなんだから仕事の話をする時ぐらいはリーダーらしくしないとな?』って前にも言ってたわよ」


 ヴリトラの意外な一面を見てラピュスやアリサ、懲罰遊撃隊の騎士達は目を見張ってヴリトラと太陽戦士団の会話を眺めている。彼女達はまた一つヴリトラの事を知る事ができたのだった。

 ティムタームを出て道のりの四分の一の所に来た時、一度休憩を取る事にした一同。近くに大きな木があり、その木陰でそれぞれ体を休めた。


「ようやく半分か?」

「いいや、まだ四分の一ってところだ」

「うへぇ~、マジかよ」


 地図を見ながら現在地を話すジャバウォックにヴリトラは芝生に座り込んで表情を崩す。そこへ荷車から水の入った500mlのペットボトルを持つジルニトラが歩いてきた。


「ハイ、ヴリトラ」

「あんがと~」


 ペットボトルを受け取ったヴリトラは蓋を開けて中の水を飲む。すると今度はラピュスが歩いて来てヴリトラの隣にやって来る。


「今回は荷物が少ないが、大丈夫なのか?」

「大丈夫って何が?」


 ジルニトラがラピュスに訊ねるとラピュスは難しい顔を見せた。


「今回の依頼で討伐するグリードベアは大きくとても敏捷だ。だが、それと同時に非常に体力がある。お前達の使っている超振動の武器や銃で攻撃してもすぐには倒れないかもしれないぞ?」

「・・・心配ねぇよ」


 ペットボトルの水を飲み終えたヴリトラは蓋を閉めて軽く上に向かって放り投げる。空中でクルクルと回るペットボトルはゆっくりとヴリトラの手の中に戻り、再びヴリトラは上へ放り投げるという行為を繰り返した。


「今回はデカい奴を相手するって事だからちょっと強力なのを持って来た」

「銃よりも強力な武器か?」

「ああ。まぁ、使う機会が来ない事を願ってるけどな」


 七竜将は今回、どんな武器を持って来たのかラピュスは知らない。だが、強力な武器を持って来ているという事はヴリトラ達がそれだけ警戒しているという事になる。ラピュスの中に一抹の不安が横切った。

 不安な様子を見せるラピュスを見てヴリトラは立ち上がり彼女の肩を軽く叩く。


「そんな顔すんなよ。大丈夫だって」

「・・・お前は笑っている事が多いが、戦前とはに不安にならないのか?」

「そりゃあ、俺にだって不安になる時はあるさ。だけど、不安になったからといって何かが変わる訳じゃない。だったら、不安そうにするよりは前向きに考えた方がいいだろう?」

「そ、そうだが・・・」


 一理あるヴリトラの言葉にラピュスは呟く。すると今度はジルニトラがニッと笑って腕を組みながらラピュスに話し掛けた。


「それにね?一人が不安になったら周りの連中も不安になるでしょう?だったら、深く考えないで笑いなさいよ・・・こんな風にねっ!」


 そう言ってジルニトラは両手でラピュスの頬を引っ張り無理矢理笑顔を作る。


「ほわぁ!?」

「ホリホリホリィ~♪」

「や、やへろ!ジルニホラァ~!」


 楽しむジルニトラと嫌がるラピュス、そんな二人を見てヴリトラとジャバウォックは大笑いをする。離れた所ではアリサ達懲罰遊撃隊とソルト達太陽戦士団が目を丸くしながらその光景を目にしていた。

 それからしばらくして休憩を終えた一行は再び歩き出す。少しだけ体が軽くなったのか歩く速度が少しだけ上がっていた。


「さっき休んだから随分体が軽くなったな」

「そう?私はあんまり変わんない気がするけど?」

「あのなぁ?そういう時は空気を読んで同意するもんだぞ?」


 歩きながらファンリーザの方を向くソルト。キッド達も二人の会話を聞いて苦笑いを浮かべる。するとラルフが話の内容を変えようとさり気なく二人に話し掛けた。


「そ、それはそうと、さっき七竜将の人達が見た事のない物を沢山使ってましたよね?」

「ん?あ、ああ!そうだな・・・」


 ラルフの問いかけにアルバートも話を合わせて頷く。ソルトとファンリーザは振り返りラルフ達の方を見る。


「見た事の無い物?何よそれ?」

「例えば、水の入った容器なんですけど、その容器が透明で中の水が後どれだけ残っているのかが分かるんです」

「透明の容器?」

「ハイ。最初はガラスでできた物かと思ったんですけど、触らせてもらったらやわらかくて凹むんです」

「凹む?そんな物があるのか?」


 ラルフの話を聞いて驚きの顔を見せるソルト。ラルフが言っているのは恐らくペットボトルの事だろう。


「他に何かあったのか?」

「確か、遠くにいる人間とも会話できる物があるとか・・・」

「はあぁ?そんな物があるわけないでしょう?」

「でも、彼等はあると言っていましたし・・・」


 そんな会話をしながら太陽戦士団は歩いて行き、その様子をヴリトラ達は静かに見守っていた。


「何だか楽しそうな会話してるわね?」

「ああ、あのラルフって人、俺達の持ち物を珍しそうに見てたからな」

「そんなに珍しいもんかねぇ?」


 ヴリトラは耳の穴を小指で掻きながら不思議そうな顔を見せてソルト達を見つめる。


「そりゃあ、あたし達は見慣れているから不思議に思わないだろうけど、彼等にとってあたし達の世界の物は未知の塊だからねぇ」

「ああ、興味が湧くのが普通だろうな」


 小さく笑いながらソルト達を見るジルニトラとジャバウォック。そんな雰囲気が続きながらヴリトラ達は真っ直ぐ続く道を歩いて行く。すると、先頭を歩いていた太陽戦士団が止まった。


「どうしました?」

「シッ!」


 ヴリトラが訪ねるとソルトは静かにするよう伝えて周囲を見回す。他の四人も表情を鋭くして周囲を警戒し始める。すると、ソルト達から見て道の右端にある草むらが揺れ、中から一匹の獣が姿を現した。外見はコヨーテの様だが大きさは倍近くある。


「あれは?」

「『ベルボナ』ですな。集団で狩りをし、自分達よりも大きな獲物でも簡単に仕留めてしまう獰猛な獣です」

「集団で狩り・・・・・・と言う事は・・・」


 神経を集中させてヴリトラ達も周囲を警戒する。すると近くにある草むらの中から大勢のベルボナが姿を現してヴリトラ達に向けて唸り声を出す。数は全部で十八匹おり、完全にヴリトラ達を取り囲んでいた。


「こりゃあ、逃がしてくれそうにねぇな」

「ああ」

「と言うか、逃げる気なんてないわよ」


 七竜将は一斉に武器を構え、ラピュス達も騎士剣やMP7を構えてベルボナを警戒する。


「ヴリトラ、ベルボナは群れを作って行動している。その群れの長を倒せば奴等が逃げるはずだ」

「成る程。それでその長っていうのはどれなんだ?」

「それは分からない。だが。他のベルボナよりは少し大きいのが長である可能性が大きい」

「そうか・・・・・・とは言っても、どれの似たような大きさだから分からないなぁ・・・」


 ヴリトラはラピュスと周囲のベルボナを見回して長を探すがどれも似た外見をしている為見分けがつかない。騎士剣を構えながら表情を鋭くするラピュス、だがヴリトラはニッと笑いながら森羅を抜いて構える。

 

「まぁ、分かんないなら一匹ずつ倒して行けばいいか」


 その言葉が終るのと同時に全員が戦闘態勢に入る。そしてベルボナ達も動き出した。

 ソルト達の前にいる三匹のベルボナが唸り声を鳴らしながら一歩ずつソルト達に近づいて行く。ソルトは自分の剣を両手で握り、ファンリーザも弓を構えた。キッドは槍、ラルフは剣、アルバートはウォーハンマーを構えて近くにいるベルボナを見つめる。そしてベルボナの一匹がソルトに向かって走り出し、それを見てソルトも剣を振る。しかし刃が触れる直前にベルボナを横へ跳んでソルトの斬撃を回避した。


「チッ!やっぱり素早いな、コイツ等!」

「分かり切った事言わないでよ!」

「そう言うファンリーザも下がれ!接近戦は苦手だろう?」

「大丈夫よ!」


 ファンリーザはベルボナに向かって連続で矢を放ち攻撃する。だがベルボナは素早く動き回り、ファンリーザの矢は一発の当たらずに地面に刺さった。キッド達も近づいて来るベルボナ達に応戦するが、攻撃は掠るだけで大きな傷を与える事はできないでいる。


「クッソォ~!ベルボナってこんなに動き回る生き物だったかぁ?」

「ベルボナは俊敏に動き回り、相手をかく乱させた後に一斉に襲い掛かるって聞いた事があります!」

「成る程、群れで狩りをするだけあった、それなりに賢いという訳か!」


 苛立つキッドの近くでラルフとアルバートが話をしながら目の前のベルボナと戦う。五人は徐々に追い込まれて行き、ベルボナ達も太陽戦士団の方に集まって来た。


「おいおい、こりゃあマジでヤバいんじゃね?」

「ああ、ヤバいな・・・」


 苦笑いをするキッドにソルトは汗を掻きながら頷く。完全に囲まれた太陽戦士団、すると突如太陽戦士団を取り囲んでいたベルボナの一匹が銃声と共に倒れた。突然仲間が倒されてベルボナ達はビクッと驚く。ソルト達も驚いて銃声のした方を向く。そこにはオートマグと森羅を持ったヴリトラの姿があった。


「大丈夫ですか?」

「え、ええ・・・」


 突然助けられた事でソルトは目を丸くしながら頷く。すると、今度はヴリトラの背後から一匹のベルボナが飛び掛かって来た。


「あっ!あぶない!」


 ソルトが叫ぶとヴリトラは振り向きもせずに森羅を横に振りながら一回転した。飛び掛かって来たベルボナは胴体から真っ二つとなる。赤い血が広がり、ベルボナの死体は地面に落ちた。振り返りもせずに飛び掛かって来たベルボナを両断したヴリトラにソルト達は目を疑う。


「やれやれ、人が話している時に襲い掛かるなんて、やっぱ所詮は獣って訳だ」


 呆れ顔で溜め息をつくヴリトラ。彼の背後ではデュランダルを振り回して多くのベルボナを斬り捨てるジャバウォックとサクリファイスで蜂の巣にするジルニトラ。そしてラピュス達懲罰遊撃隊が次々と銃器や騎士剣で目の前の猛獣達を倒して行く。


「さっさと終わらせて、目的地へ行くぜ!」


 そう言ったヴリトラは森羅とオートマグを構えてソルト達の前にいるベルボナの群れに突っ込んだ。

 遂に始まった太陽戦士団との仕事。それぞれの思いを胸に彼等は目的地にヨムリ村へと向かって行く。一体、ヨムリ村では何が待ち受けているのだろうか。


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