第百八十一話 組合の新米傭兵? 七竜将の登録
懲罰遊撃隊の騎士達の収入を増やす為に七竜将はティムタームの傭兵組合に登録をしに向かう。だが、十五歳以上の者しか登録できないと言われ、リンドブルムとファフニールはどうなるのかと悩んでいた時、傭兵組合の建物にガバディアがやって来た。
騎士団長であるガバディアの突然の登場に周囲の者達は黙り込んでガバディアの方を見る。ガバディアはヴリトラ達の方へゆっくりと歩いて行き、受付嬢に話し掛けた。
「この者達は特別な傭兵隊なのだ。そこの少年にも登録させてやってほしい」
「し、しかし、それは傭兵組合の規則ですので、いくら騎士団長であるガバディア殿の頼みでも・・・」
頼んで来るガバディアに受付嬢が戸惑いを見せながら説明をする。するとガバディアはヴリトラ達を見て小さく笑い、再び受付嬢の方を向く。
「君は七竜将を知っているか?」
「え?・・・え、ええ。今の組合でその名前を知らない者はおりません・・・」
「そうだろうな。彼等も傭兵で、今やこの国で知らない者は殆どおらん」
「・・・あの、なぜそんなお話を?」
話の意図が分からずにガバディアの訊ねる受付嬢。ガバディアは笑いながらヴリトラ達を親指で指し口を動かした。
「彼等こそ、その噂の七竜将だからだ」
「えぇ!?」
今目の前にいる青年達が七竜将だと知り受付嬢は驚く。勿論、周りにいる傭兵達も驚いてヴリトラ達に注目する。
「皆、一斉に僕達の方を見たよ?」
「名前は聞いた事があっても俺達の姿を直接見た傭兵は殆どいないからな。驚くのも当然か・・・」
リンドブルムとジャバウォックが周りでざわめいている傭兵達を見て少し驚きながら話している。だがその声には何処か楽しそうな雰囲気があった。
傭兵達が驚く様を見たガバディアはニッと笑い、受付嬢に視線を戻す。
「彼等はこれまでに王国の為にストラスタ公国と戦い、鉱石洞窟の確保に手を貸し、セメリト王国の救援に向かった。王国の為に尽くしてくれた傭兵隊を全員登録させてやってほしい」
「・・・ですが、彼等は元老院が反逆者として発表した存在です」
「それは元老院のでっち上げだ。彼等の無実は証明されたはずだ」
反逆者と口にする受付嬢に少し力の入った声を向けるガバディア。受付嬢はガバディアの声を聞き一瞬ビクつく。
「それにもし七竜将が傭兵組合に登録する時は無条件で七竜将全員を登録させよという王家からの指令も出ている」
「お、王族から!?」
七竜将が王族と繋がりがあるという事を聞いて受付嬢は更に驚く。傭兵達も更に驚きの声を上げて騒ぎ出す。
「お、おいおい、何だがますます騒がしくなってきたぞ?」
「無理もない、傭兵が王族と繋がりがあると知れば誰だって驚く」
「やっぱり、あたし達が登録するのはマズかったんじゃないかなぁ?」
周囲が騒ぎ出す事にヴリトラとラピュスは驚き、ジルニトラもこのまま登録するか迷う始めた。するとガバディアがこめかみに指を当てながら目を閉じて歯を噛みしめる。若干苛立ちを感じているようだ。
「・・・少し黙っておれ!今大事な話をしておるのだ!」
ガバディアの叱声に傭兵達は黙り込み、ヴリトラ達もガバディアの方を向き目を丸くする。周囲が静かになるとガバディアは表情を和らげて受付嬢との話に戻った。
「生憎、その指令の書かれた親書は此処には無い。どうしても登録できないというのであれば、親書を用意しよう。それから七竜将を全員登録させてやってほしい」
「え、え~っと・・・・・・少々お待ちください!」
受付嬢は慌てて席を立ち受付の奥へと走って行った。残されたヴリトラ達はしばらく受付の方を見つめていたが、すぐにガバディアの方に視線を移す。
「ガバディア団長・・・」
「ヴリトラ、こんな所でお前達と会うとはな」
「それはこっちの台詞ですよ。どうして此処に?」
「儂は騎士団の任務で傭兵達に依頼する仕事があったから組合に依頼書を出しに来たのだ」
「成る程、そうでしたか・・・」
ガバディアが傭兵組合に来た理由を聞いてヴリトラは納得する。
「それにしても驚いたぞ?お前達が傭兵組合に登録しに来たとはな?」
「・・・似合いませんか?」
「ハハハハ!お前達の様な傭兵隊が仕事に困るとは考え難かったのでなぁ。しかし、こうして此処にいるという事は仕事が無くなってきたのか?」
「いえ、仕事が少ないのは事実ですけど、別に困っていませんよ・・・」
「なら、なぜ此処におる?」
「実は・・・」
ヴリトラはガバディアになぜ自分達が傭兵組合に登録しに来たのかその理由を説明した。自分達の仕事が少ない事の他に、ラピュス達の収入が少なく騎士達が生活に困っている事など、全てをガバディアに説明する。
「・・・と言う訳で組合に登録に来たんですよ」
「成る程な。生活に困るからと言って騎士が傭兵に助けを求めるのはどうかと思うぞ、フォーネ?」
「うう・・・」
ガバディアのジッと見つめられて腰が引けるラピュス。注意されると覚悟を決めるラピュスだったが、ガバディアはラピュスの肩にポンと手を置いた。
「・・・と、言いたいところだが、お前達の隊の給料が少ないのは事実だ。七竜将に仕事が無ければ給料も増えん、それでは懲罰期間が過ぎるまで持たないからな」
「団長・・・」
「傭兵でも、七竜将に助けを求めるのであればよしとしよう。しかし、彼等以外の傭兵達に助けを求める様な行為はするなよ?」
「ハ、ハイ」
「まぁ、お前達に与えられた懲罰期間は四ヶ月、セメリト王国と前回の鉱石洞窟の件の功績で懲罰期間が大分短くなった。そう深く考える事はないだろう」
「ええっ!?」
懲罰期間が短くなった事を聞かされて驚くラピュス。ラランも目を見張って驚いている。
「そんなに驚く事でもないだろう?あの二件の任務は我が国にとって重要な任務なのだ。お前達の懲罰期間が短くなっても不思議ではない」
「・・・・・・ラピュス、お前、知らなかったのか?」
「え?・・・あ、ああ・・・」
ジト目で訊ねるヴリトラの方を向き、ラピュスは困り顔で頷く。それを聞いてヴリトラ、リンドブルム、ジャバウォック、ジルニトラの四人は小さく溜め息を付いた。
「それなら別に組合に登録しなくてもよかったんじゃねぇのか?」
「そうよねぇ?」
ジャバウォックとジルニトラが登録をやめようかと話しているとガバディアが二人を止めに入った。
「いやいや、組合に入って損する事はない。寧ろ国中の情報が得られてお前達にとっては都合がいいはずだ・・・例の連中の情報も得られるかもしれないぞ?」
ガバディアの言葉にヴリトラ達の表情が鋭くなる。例の連中、ヴリトラ達にとって最大の敵であるブラッド・レクイエム社。彼等は今何処で何をしているのか、何処に拠点があるのか、そしてどれ程の戦力なのか全く手掛かりがない。彼等の情報を得る為にもここはやはり傭兵組合に登録しておいが方がいいとヴリトラ達は考えた。
「確かに、奴等の事は何も分かっていない。そんな状態じゃ俺達も動く事はできないからな」
「情報網は必要だね」
「・・・他国の傭兵もよく来るから、その国の事も知る事ができる」
「それじゃあ、やっぱり登録しておいが方がいいって事だね」
リンドブルムの問いかけにラランは無表情で頷く。こうしてヴリトラ達は仕事を増やす為に、ブラッド・レクイエム社の情報を得る為に傭兵組合に登録する事を決意する。
ヴリトラ達は登録を決意していると、ガバディアがその雰囲気を壊すかのようにニッと笑って会話に加わる。
「それに、フォーネ達の懲罰期間は最低でもあと一ヶ月と二週間はある。登録せずにいつ来るか分からない依頼だけをこなしていたら隊の騎士達は本当に飢えてしまうかもしれんからな」
「ガクッ!」
ガバディアの言葉にヴリトラはその場でズッコケ、ラピュス達もフラッと体勢を崩し掛ける。ヴリトラ達の反応を見てガバディアは楽しそうに笑い出した。
そんな会話をしていると、受付の奥からさっきの受付嬢が戻って来た。その隣には何やら責任者らしい中年の男性の姿もある。
「お待たせしました」
「ん?・・・そちらは?」
受付嬢が戻って来た事に気付いたガバディアが男性の事を訊ねると男性は一礼をして挨拶をする。
「ど、どうも!傭兵組合の事務長を務める『ジャン・マッケンビー』と申します」
「おおぉ、事務長か。実は、この七竜将の登録の件についてなのだが・・・」
「ハ、ハイ、伺っております。王家の方々の命であれば七竜将全員をすぐに登録いたします」
「そうか、では後程親書を届けさせよう。それで構わんか?」
「ハ、ハイ。結構です」
事務長のジャンはガバディアを前に緊張しながら返事をして七竜将の登録の手続きを進めて行く。どうやら王族と繋がらがある七竜将の登録を無暗に断れば自分達の立場が危うくなると考えいて緊張していたようだ。そんなジャンと受付嬢の動きをヴリトラ達はただ黙って見ているのだった。
七竜将全員が登録できるようになったとはいえ、やはり登録する本人達が直接契約書にサインをする必要があったので、ヴリトラはニーズヘッグ達は呼び出して全員で契約書にサインをした。契約が終ると、七竜将は無事に全員が傭兵組合に登録する事ができ、組合の傭兵である証の「クラスメダル」を渡された。メダルを受け取ったヴリトラ達は一度建物を出る。そして傭兵組合の建物から離れた所にある公園に移動した。
「これで俺達は全員無事に傭兵組合に登録されたって訳か」
「そうだ。その組合の証であるメダルは依頼を受ける時にも必要だから必ず身に付けておけよ」
ガバディアがヴリトラの持つメダルを指差しながら言う。七竜将は自分達の持つメダルをゆっくりと動かしながら眺めている。メダルは全体が銀色で裏に衣服などに着ける為の止め金が付いている。そして何より、メダルには大きくゴブリンの絵が彫られてあり、それを見たファフニールは少し頬を膨らませていた。
「ねぇ、ガバディア団長。どうして私達のメダルにはこんなゴブリンの絵が彫ってあるの?こんなの嫌だぁ」
「文句を言うな。決まりなのだから仕方がないだろう?」
ファフニールに困り顔で注意をするガバディア。ファフニールはふて腐れて再びメダルに視線を向けた。
「いいか?傭兵組合に登録した傭兵にはまず最下位のクラスであるゴブリンクラスが与えられる。そこから依頼こなしていき、実力と信頼を認められるとその上のクラスに昇格していくのだ」
「意外と単純なシステムだな・・・」
ガバディアの説明を聞いたニーズヘッグが腕を組みながら納得し、ヴリトラ達も同じようにガバディアの話を聞いて納得する。そこへラピュスが持っている一冊の本を見ながら会話に参加して来た。
「因みに、組合のクラスには下からゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、ワイバーン、ユニコーン、グリフォン、ドラゴンという順番になっている。ユニコーン以上のクラスは騎士団からの依頼を受ける事ができ、実力は白銀剣士隊の騎士に匹敵するとか」
「へぇ、白銀剣士隊と互角か」
「そして、一番上のドラゴンクラスは上級貴族に雇われる程の実力と信頼を持ち、稀に王族からの依頼される事もあるとか」
「王族からも信頼されている超優秀な傭兵達って訳か。となると実力も結構なものなんじゃないか?」
「私も詳しくは分からないが、白銀剣士隊を超える実力だというのは間違いないようだ」
ラピュスから聞かされたクラスの内容とドラゴンクラスの実力を聞いてヴリトラは少し驚きの表情を見せた。
ヴリトラがラピュスの話を聞いていると、ニーズヘッグがメダルをしまいながら周りにいるヴリトラ達を見て口を動かす。
「まぁ、何にせよ、俺達がより多くの仕事と情報を手に入れる為にはもっと上のクラスにならないといけないって言う事は分かった。まずはゴブリンクラスの仕事をこまめにやって組合に少しずつ認めて貰えばいいさ」
「そうだね。遊撃隊の皆を助ける事が一番の目的だし、とりあえず頑張ろう!」
ニーズヘッグの考えにリンドブルムも前向きに考えて笑いながら同意する。
「それはそうと、お前さん達はこれからどうする?早速依頼を受けに行くのか?」
「いえ、今日はやめときます」
ヴリトラの出した意外な言葉にガバディアは少し驚きの表情を見せる。
「今日は俺達が登録する事で大騒ぎになりましたから、明日から始める事にします」
「そうか。そうなると、お前達を七竜将だと受付に話したのは失敗だったな」
「いいえ、気にしないでください。団長のおかげで俺達は全員登録できたんですから」
反省するガバディアを笑いながらフォローするヴリトラ。そんな時、オロチが腕を組み名がヴリトラに声を掛けて来た。
「ヴリトラ、明日から始めるのはいいとして、簡単な依頼を私達全員で受けるつもりか・・・?」
「・・・まさか、二手に分かれて二つの依頼を受けた方が効率がいいだろう?」
「確かにな・・・」
ヴリトラの話を聞いてオロチは納得する。
傭兵組合で依頼を受ける場合、同じ傭兵団の傭兵が二組に分かれて二つの依頼を受けるといった行為は禁止されてはいない。だが、一つの組が一度に二つ以上の依頼を引き受けるのは禁止されている。依頼人からの信頼に関わる上に他の傭兵達と揉め事を起こす切っ掛けになってしまうからだ。
「それじゃあ、明日は二組に分かれて二つの依頼を受けるって事でいいのね?」
「ああ、だけどもしズィーベン・ドラゴンに直接依頼をしに来た人がいたらそっちを優先する。いいな?」
リンドブルム達はヴリトラを見て一斉に頷く。その様子をラピュス達はジッと見て会話を聞いていた。
「ラピュス、聞いての通り、明日は二手に分かれて依頼を受ける。お前も遊撃隊の皆のその事を伝えて騎士隊を二組に分けておいてくれ」
「分かった。それで、集合場所は?」
「ズィーベン・ドラゴンの前だ」
明日の仕事の集合場所を確認したラピュスは頷き、ラランも二人の話の内容を頭に叩き込む。ガバディアは目の前で仕事の話をしている若い傭兵と姫騎士達を静かに見守っている。
「それじゃあ、今日はこれで解散だな。明日の準備とかもしないといけないし」
「そうだな」
「じゃあ、明日の朝、午前九時にズィーベン・ドラゴンの前に集合だ」
「分かった」
「・・・うん」
ラピュスとラランはヴリトラを見ながら返事をし、そのまま公園を去りヴリトラ達と別れた。ガバディアもラピュス達と共に公園を去り、ヴリトラ達も明日の準備をする為の買い物をする為に街道の方へ向かう。
色々あったが無事に傭兵組合に登録する事ができが七竜将。明日からいよいよ懲罰遊撃隊を助ける為、そして世界中の情報を得る為に仕事を始める事になる。一体この先、ヴリトラ達に何が待ち構えているのだろうか。




