第百七十九話 依頼完遂 悪魔の鉱石を手に入れて
様々な問題も起きたが、何とか盗賊とペルシェアラを倒したヴリトラ達。リンドブルムの活躍を目にしたヴリトラ達は他のチームと合流する為に集合地点へ向かう。
盗賊とペルシェアラとの戦いを終えた後、ヴリトラ達は鉱石洞窟へ戻って行き、警備についていた騎士達と合流する。そのまま岩山の南側へと向かい、ヴリトラ達が岩山に入る時に通った出入口の前に移動した。出入口前に到着するとしばらくしてニーズヘッグのチームとジャバウォックのチームが合流し、ヴリトラ達は情報交換をする。
「そうか、盗賊達が殺し屋をボディガードとして雇っていたのか・・・」
「ああ、ソイツが最後に裏切って鉱石を奪おうとしていたという事に全く気付かずにな」
ヴリトラからペルシェアラの事を聞いたジャバウォックは腕を組みながら真剣な顔で話を聞いていた。周りではニーズヘッグ達や別行動を取っていた騎士達がジャバウォックと同じように黙って話を聞いている。
「でも、その殺し屋・・・ペルシェアラだっけ?その子も結局リンドブルムに負けて死んじゃったんでしょう?殺し屋が逆に殺されちゃうなんて皮肉よね?」
「全くだ・・・」
ペルシャアラの最後を小さく笑いながら非難するジルニトラとそれに同意するオロチ。その周りでは懲罰隊と白銀剣士隊の隊員達があの有名な紅色の死神を倒してしまったリンドブルムの力に驚いて小声で話しをしていた。
「それで、お前達の方はどうだったんだ?」
ヴリトラがジャバウォックとニーズヘッグのチームの方はどうだったのかを訊ねると、ジャバウォックとニーズヘッグが説明を始める。
「俺達は通信が終った後、何か遭った時に備えて盗賊達の隠し通路を探しながら南東の方へ向かったんだ。その時に近くにあった隠し通路から盗賊達が出て来てな、いきなり俺達に襲い掛かろうとしやがった。だけど、盗賊どもは全員オロチとファフニールにのされてあっという間に片付いちまったよ」
「だって、盗賊のおじさん達ったら、私達をいやらしい目で見てたんだよぉ!?もぉカチンと来ちゃった!」
「そ、それで二人で盗賊達をボコボコにしちゃったんだ・・・?」
「うん!」
苦笑いをしながら訊ねるリンドブルムの方を向いて力強く頷くファフニール。ヴリトラやラピュス、その場にいなかったニーズヘッグ達も苦笑いをしながらファフニールの方を見ていた。
「そ、それで盗賊達は、全員死んだのか・・・?」
ラピュスが盗賊達の安否を確認するとオロチは無表情で首を横に振る。
「安心しろ、全員生きている。もっとも何人かは重傷を負っているがな・・・」
「じゅ、重傷?」
「骨折や深い傷を負っただけだ、致命傷は無い。簡単な応急処置もしてやったしな・・・」
「そ、そうか・・・」
相変わらず無表情のままハッキリと言うオロチにラピュスは再び苦笑いを見せる。彼女にはただ笑う事しかできなかった。
「それで、その盗賊達は今何処にいるんだ?」
「盗賊達は戦闘を行った場所に残してきました。逃げない様に岩や枯れ木に縛り付けておいて」
ジャバウォックの後ろに立っているアリサが戦った場所のある方角を指差して説明する。それを聞いたジージルが小首を傾げながらアリサの方を見た。
「置いて来た?何で一緒に連れて来なかったのよ?相手は盗賊よ?拘束を解いて逃げちゃうかもしれないじゃない」
「そ、それは、ジャバウォックさん達が置いて行っても大丈夫だって言いましたので・・・」
力の入った声を出すジージルに少し怯える様子を見せたアリサはジャバウォックの方を見て答える。ジージルがジャバウォック達に視線を移すとジャバウォックが口を動かした。
「一緒に連れて行くと動きづらくて時間が掛かっちまうだろう?それにアイツ等の拘束に使ったのはセラミック製の手錠と金属製の鎖だ。普通の短剣とかじゃまず切れない。何より奴等は全員負傷してるんだ。例え拘束を解いても逃げられやしねぇよ」
「・・・じゃあ、動けない盗賊達がゴブリンやオーガに襲われてしまう可能性は?」
「あの周辺のゴブリンとオーガは全部私達が倒した。私達を警戒してしばらくは襲って来ないだろう・・・」
オロチがジャバウォックの代わりにジージルの質問に答え、それを聞いたジージルは一応納得したのか「ふ~ん」と軽く頷きながら後ろに下がる。
ジャバウォック達の説明が終ると、今度はニーズヘッグ達が説明を始めた。
「俺達は砦で隠し通路の位置を皆に伝えた後にすぐ砦を出て此処に真っ直ぐ向かった。でも途中でゴブリンとオークに遭遇してな」
「ゴブリン達に?」
「ああ。だけど、誰も負傷者は出なかった。ゴブリンを数匹倒したら尻尾を巻いて逃げて行きやがったよ」
「・・・一度も攻撃せずに逃げて行った」
「まぁ、銃や内蔵機銃を使って遠くから攻撃したからねぇ」
ラランとジルニトラがゴブリン達との戦闘を思い出しながら説明をする。彼女達は持っていた銃器を使い、近づけないゴブリン達を一方的に攻撃した。ゴブリン達も勝ち目が無いと判断して住処の森へ逃げ帰って行ったのだ。
「それからは何も無くこうして此処に来たって訳よ」
「・・・うん」
「そっか。とにかく、皆無事で何よりだよ」
仲間が一人も死んだり傷つかなかった事にヴリトラは笑みを浮かべ、心の中で喜ぶ。ラピュス達騎士団の人間も無事に仲間と合流で来てホッとしている。
「それで、これからどうするんだ?ヴリトラ」
ラピュスが今後の事をヴリトラに訊ねると、ヴリトラはラピュスの方を向く。
「・・・俺達の仕事はこの岩山とその周辺を調査し、他に鉱石の洞窟があるか、そしてゴブリンとオーク達の事を調べる事だった。本来は盗賊達は拘束して岩山の調査を再開するはずなんだけど、最初に見つけた洞窟の中でデガルベル鉱石を見つけた為、予定を変更する事にした」
「変更って、どうするつもりですか?」
アリサがヴリトラの方を向いて不思議そうに尋ねると、ヴリトラはアリサや周りにいるジャバウォック達の方を向いて答えた。
「ラピュスとジージルの二人と相談して、デガルベル鉱石の事を知らせる為に首都に戻る事にした。鉱石の事を陛下に知らせてどうするかを決めてもらう為にな」
「それがいいな。そんな危険な鉱石をこのままにしておくのは色んな意味でマズイ」
「ああ、獅子王の牙はいなくなっても他の盗賊や傭兵どもが此処に来てデガルベル鉱石を見つけて持ち去ったりしたら大変な事になる」
ティムタームに戻るという考えにジャバウォックとニーズヘッグが賛成し、リンドブルム達も異議無しと言いうように頷く。戦争に利用された危険な鉱石をこのまま洞窟に残しておくのは得策ではない。王国でしっかりと管理しておけば誰かに利用される事もなく一番安全だからだ。
ヴリトラ達がデガルベル鉱石の事をどうするか話し合っていると、ジージルがヴリトラ達の会話に参加して来た。
「それで首都に戻って陛下に知らせるのはいいけど、この後はどうするの?デガルベル鉱石を持って首都に戻る?」
「いや、勝手に動かさずに一度首都に戻ってパティーラム様とガバディア団長にこの事を知らせよう」
「戻るって、全員で首都に戻るつもり?」
「まさか。鉱石を見張る組と首都に戻る組の二手に分けるさ」
「そうよね」
ジージルはヴリトラの案を聞いて納得する。もし全員で首都に戻ってその間にデガルベル鉱石に何かあったら面倒な事になってしまう。
「早く戻って来れる様に七竜将だけで首都に向かわせた方がいいな」
「そうね。騎士隊が一緒だと馬を休ませたりしないといけないから時間が掛かるしね。あと、パティーラム様達に詳しい事を知らせる為に騎士も一人ついて行った方がいいかもしれないわ」
「ああ、それで誰が戻るんだ?」
ジャバウォックが周囲を見回して誰が行くかを話し全員で話し合いを始める。しばらくして誰が行くのかが決まり、七竜将からジャバウォック、リンドブルム、オロチの三人、騎士からラピュスが行く事が決まって四人はジープに乗って岩山を出発し、残ったヴリトラ達は鉱石洞窟を見張る事になった。それからヴリトラ達は何度かゴブリン達と遭遇する事になったが簡単に撃退して鉱石洞窟を守り抜く。それから二時間後、ラピュス達がガバディアと白銀剣士隊の一個小隊、青銅戦士隊の一個中隊を連れて戻って来た。ガバディアは騎士達に指示を出してデガルベル鉱石を慎重に掘り起させ、丁寧に荷車に積んで行く。そして全てのデガルベル鉱石を回収するとヴリトラ達は岩山を後にしティムタームへ戻って行ったのだった。
――――――
ティムタームに戻った一同はそれぞれ騎士団の詰所やズィーベン・ドラゴンに戻って行く。七竜将とラピュス達はパティーラムとガバディアの二人とデガルベル鉱石について話をする為にズィーベン・ドラゴンで二人の到着を待った。
「デガルベル鉱石はどうなるんだろうね?」
「分かんねぇ。何しろ大量破壊兵器に匹敵する程の危険物質だからな。どう管理し、どうやって保管するかをしっかりと決めないと危険だ」
「陛下も元老院の方々と色んな事を話し合っておられるはずだ。結果が出るまではまだ少しかかるだろうな・・・」
リンドブルム、ヴリトラ、ラピュスが来客フロアのテーブルに付き、パティーラム達の到着を待ちながら話をしており、周りではジャバウォック達が壁にもたれたりソファーに座ったりなどして休んでいる姿がある。皆、静かにしてパティーラムとガバディアの打擲を待った。
それからしばらくして、玄関のドアをノックする音が聞こえ、一同は一斉に玄関の方を向く。
「皆さん、失礼します」
ドアの向こうから聞こえてくるパティーラムの声にヴリトラは立ち上がり玄関の方へ歩いて行き、ゆっくりとドアを開く。そこにはパティーラムとガバディア、そして数人の近衛騎士の姿があった。
「パティーラム様、お待ちしてました」
「遅くなってしまい申し訳ありません。陛下と元老院の会議に時間が掛かってしまいまして・・・」
「いいえ、デガルベル鉱石の事で話し合いをされているんですから当然ですよ・・・どうぞ、入ってください」
「失礼します」
ヴリトラはパティーラム達をズィーベン・ドラゴンに迎え入れ、パティーラム達も静かに入って行く。パティーラムがフロアに入ると座っていたラピュス達は立ち上がりパティーラムの方を向き姿勢を正す。
「皆さん、遅くなりました。デガルベル鉱石の事についての結論が出ましたのでお伝えに参りました」
「そうですか。では、早速お話しして頂けますか?」
ニーズヘッグは真剣な表情で訊ねるとパティーラムは静かに頷く。彼女の近くにいたラランが来客用テーブルの椅子を引き、パティーラムはその椅子に静かに座る。ヴリトラもパティーラムと向かい合う形でテーブルに付いた。
「それで、デガルベル鉱石の件はどうなりましたか?」
「陛下も元老院も嘗て戦争に使われていた鉱石を野放しにすれば誰かが悪用すると考え、国で管理する事にしました。ですが、何処に保管するかという事を時間が掛かってしまいました」
「デガルベル鉱石を保管してある場所をデガルベル鉱石を狙っている者達に襲われる可能性があるから内密に目立たない場所へ保管しておきたいという事ですね?」
「その通りです」
デガルベル鉱石は使い方によってとても危険な物、故にそれを狙う者は決して少なくない。力欲しさに保管してある場所を襲撃し、鉱石を狙う事はあり得る。そしてそれはその保管場所が鉱石を狙う者と守る者達の戦場になり、多くの人が傷つく可能性があるという事を現していた。だから王族と元老院はデガルベル鉱石を内密に保管しておきたいと言う答えを出したのだ。
「争いに利用された鉱石がそれを欲する者達に争いをもたらす、か。まさに争いの種だな・・・」
「全くだ」
オロチとニーズヘッグがデガルベル鉱石が争いをもたらし、多くの人を傷つける鉱石だと話し、それを聞いていたヴリトラ達も目を閉じて黙り込む。
ヴリトラ達が静かになると、その静寂をガバディアが口を動かして静かに壊した。
「そんな事を起こさない為にもデガルベル鉱石をしっかりと管理し、悪党の手に渡らないようにしなくてはならないのだ。デガルベル鉱石は前の戦争で多くの命を奪った悪魔の鉱石なのだからな」
「悪魔の鉱石、ですか・・・」
「ああ、儂の父もその戦争でデガルベル鉱石の恐ろしさを目にした人間の一人なのだ。若い頃によく父から聞かされたよ・・・」
「・・・そのデガルベル鉱石が爆発した所を目にしたんですか?」
ヴリトラがガバディアの方を向いて低い声を出しながら訊ねるとガバディアは静かに頷く。
「敵の基地を跡形もなく吹き飛ばし、残ったのは大きな穴だけじゃった。兵士の死体すらも残っていない・・・」
「それほど危険な物なら処分してしまえばいいんじゃないですか?」
「処分できんのだ。何処かへ捨ててしまっても拾われるし、土に埋めてもいずれは掘り起こされてしまう。爆発させて完全に消滅させようにも、爆発の度に周囲が吹き飛び地形が変わってしまう。それによりその周辺の草木は消え、動物達も住めない土地になってしまう為、無暗に爆発させる事はできん。となると、残るは誰の手も届かない様に保管するしかない」
「確かに、そういった物は処分が一番手間が掛かりますからね」
デガルベル鉱石の取り扱いや処分の方法が難しい事にヴリトラや他の七竜将のメンバー達は難しい顔を見せる。勿論、ラピュス達も同じだった。
「それらの事を考え、今回採掘されたデガルベル鉱石、計30kgは三つに分けて三箇所にそれぞれ保管する事になりました。この首都に一つ、此処から南西にある騎士の町『ゲルジェム』に一つ、そして北北東にある『ギルギム砦』に一つずつ保管する事になりました。ゲルジェムとギルギム砦は森や山に囲まれた所にありティムタームの様に目立ちませんが守りはとても堅い場所です」
「成る程、重要な鉱石を守るにはもってこいの場所という訳ですね」
ラピュスはデガルベル鉱石の保管場所に納得して軽く頷く。ヴリトラ達も安心だと思ったのか同じ様に頷いた。
デガルベル鉱石の話が一通り終わるとパティーラムは席を立ち、ゆっくりとヴリトラ達に向かって頭を下げる。
「今回は鉱石の調査と盗賊の討伐だけでなく、デガルベル鉱石を発見して頂き、本当にお疲れ様でした。報酬は後日お渡ししますので」
「分かりました」
「では、今回はこれで失礼いたします」
笑顔で礼を言ったパティーラムはゆっくりと玄関の方へ歩きだし、ガバディアと近衛騎士もその後について行く。そんな時、ガバディアが足を止めてヴリトラ達の方を向いた。
「おおぉ、そうだった。リンドブルム、お前さんに伝言があるのを忘れていた」
「え?僕に?」
「ウム、ジージルの奴からだ」
「ジージルさんから?」
「ああ。あ奴は次の任務の準備があるから代わりに伝えてほしいと言ってな伝言を預かって来たんだ」
意外な人物からの伝言にリンドブルムやヴリトラ達は意外そうな顔を見せる。ガバディアはリンドブルムの方を向きジージルの言葉を思い出しながら伝言を伝え始めた。
「確か、こう言っておったな・・・『リンドブルム、アンタの実力は認めてあげるわ。だけど、私はまだ武術大会の時の借りがあるって事を忘れないで。必ずアンタをギャフンと言わせてやるからねっ!』だそうだ」
「ほぉ~?リブル、まだガキのくせにお前も結構モテるじゃねぇか?」
「ハハハハ!そうだな」
「何言ってるのさ二人とも。どう見ても恨み言じゃないか」
笑いながらリンドブルムをからかうジャバウォックとヴリトラ。リンドブルムはくだらなそうに二人のからかいを軽く流した。
「・・・そう言えば最後に『それからペルシェアラとの戦いの時は助けてくれてありがとう』と、何処か照れくさそうに伝えておいてくれと言っておったな」
ガバディアの言葉を聞き、リンドブルムはまばたきをしながら最後の伝言を聞いた。周りではヴリトラとジャバウォック、そしてジルニトラとファフニールの四人がニヤニヤしながらリンドブルムを見ている。
「リブル~」
「お前、やっぱりモテてるみたいだなぁ?」
「フフフ、アンタって意外と手が早いのねぇ?」
「羨ましぃ~♪」
「だ、だから何言ってるのさぁ!?ただお礼を言ってるだけじゃないか。からかうのもいい加減にしてよぉ!」
必死な表情を見せるリンドブルムにヴリトラ達は笑い出し、パティーラムやガバディアも笑いを堪えていた。だが、ヴリトラ達の中でただ一人、ラランだけはムッとしながらリンドブルムを見つめている。その表情には何処か不機嫌な様子が見られた。
岩山での鉱石洞窟と周辺調査の依頼を無事に終えた七竜将と懲罰遊撃隊。デガルベル鉱石を手に入れてレヴァート王国は複雑な立場になる事になるが、彼等は自分達の意志と国のあり方を胸に刻み、これから今まで通りに生きて行き、前に進んでいく事を誓うのだった。
第九章終了です。今回は少し短めで終わりました。