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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第二章~傭兵と騎士の生き方~
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第十七話  騎士団の形と一人ぼっちの姫騎士

 七竜将の拠点を一通り見て回った一同は食堂へ行き飲み物と簡単な物を食する事にした。食堂のテーブルを椅子で囲み、足りない分は別の部屋から持ってきて人数分揃えた。

 テーブルの上には飲み物の入った木製のコップが人数分置かれており、真ん中には七竜将が元の世界から持って来た菓子の乗った大きな皿が置かれてある。皿の上の見た事の無い菓子を見たラピュス達姫騎士は最初は少し驚きながら見ていたが、直ぐに見た目よりも味に興味が移ったのだった。


「さぁ、遠慮なく食べて」


 ジルニトラが椅子に座っているラピュス達に菓子を進め、他の七竜将達も座ってラピュス達を見ている。皿の上に乗っている菓子を摘まんだラピュスは薄っぺらい菓子の裏表を見て負死後そうな顔を見せた。


「この薄い物は何だ?見た事の無い食べ物だが・・・」

「お菓子よ。それはポテトチップスっていうの」

「ポテト、チップス?」


 聞いた事の無い菓子の名前にラピュスはジルニトラの方を向いて訊き返す。ラランとアリサもラピュスと同じようにポテチの裏表を見てどうするればこんな風に出来あがるのかと考えていた。そんな三人を見てヴリトラは笑いながら椅子にもたれる。


「俺達はポテチって呼んでる。食ってみろ、美味いぞ?」

「こんな薄い得体の知れない物がか?」

「得体の知れない物って、俺達の世界では有名な食いモンなんだぜ?」

「そ、そうなのか?・・・じゃ、じゃあ・・・」


 言われるがままポテチを口に入れて少しだけかじるラピュス。左右の椅子ではラランとアリサが先に食べるラピュスをジッと見ている、恐る恐る口の中に入れて噛んでいくと、口の中に今まで口にした事の無い食感と味が広がっていった。驚いたラピュスは手の中のポテチを見つめて驚きの表情となった。


「な、何だこの食感は?今まで口にした事の無いものだ。味も塩の味がして、しつこくないぞ・・・」


 ラピュスはポテチの感想を口にし、それを見ていたラランとアリサも驚くラピュスを見て今日もをそそられた。そんなラピュスを見て七竜将は面白そうに笑っている。そして二人もポテチを摘まみ口の中に入れた。


「・・・・・・んんっ!?本当です。今まで食べて事の無い味と食感がします」

「・・・美味しい」

「ハハハッ。気に入ってくれてよかったよ」


 美味しそうに食べる姫騎士達を見て笑うヴリトラもポテチを摘まんで口に入れた。他の七竜将もそれに続いてポテチを口に入れていく。

 しばらくポテチを食べていた一同。その中で目の前のコップに気付いて中を覗き込んだアリサは中身を七竜将に尋ねた。


「このコップの中の物は何ですか?」

「ソイツはコーラだ」

「コーラ?」

「それも僕達の世界では有名なジュースですよ?」

「飲んで見ろよ」


 ジャバウォックとリンドブルムが自分達の向かいに座っているアリサにコップの中身を説明し、アリサはもう一度コップの中を覗き込む。コップの中には小さな泡が細かく出てくる黒い液体が入っており、それを見たアリサは少し引く表情を見せた。


「く、黒い液体なんですけど、大丈夫なんですか?」

「心配しなくても大丈夫ですよ。ホラ」


 不安な様子のアリサにリンドブルムは笑いながら一点を指差した。その先ではファフニールとオロチがコップの中のコーラを迷いなく飲んでいる姿があった。


「・・・ぷはぁ~~!おいしい~♪」

「ウム、コーラを飲むのも久しぶりだ・・・」


 コーラの味を楽しんでいる二人を見て姫騎士三人は微量の汗を掻いていた。そして再びコップの中に視線を戻して中のコーラを見つめる。しばらくジッと見ていると、腹をくくったのか、アリサが一番にコップの中の黒い液体を口に入れて飲んでいく。しかしその直後、アリサは口にいればコーラを勢いよく噴き出した。


「ぶぶ~~~っ!!」

「うわあぁ!きたねぇなぁ!」


 噴き出されたコーラは向かいに座っているジャバウォックの顔面に直撃し、ジャバウォックの顔をコーラ塗れにした。隣に座っていたヴリトラとリンドブルムは驚いてジャバウォックから距離を取り、離れていたニーズヘッグ達も目を丸くして驚く。


「エホッ、ケホッ!うぇ~、口の中で液体が爆発しましたぁ!」

「そんな風に感じるだけだ!それにコーラっていうのはそういう飲み物なんだよ!」


 さっきの格闘訓練で使っていたタオルで顔を拭き、喉を抑えて咳き込んでいるアリサを見るジャバウォック。アリサの反応を見たラピュスとラランはコップをゆっくりとテーブルに置いて奥へと押した。


「わ、私は遠慮しておく・・・」

「・・・私も」

「あら?要らないの?」

「アリサの反応を見れば、飲む気も失せるよな?」

「おまけに初めて名前を聞いて、初めて見るのだからなおさら飲む気が無くなる」


 コーラを飲むことを遠慮するラピュスとラランを見るジルニトラと飲まない理由を苦笑いをしながら呟くヴリトラとニーズヘッグ。ファフニールも苦笑いをしており、オロチは無表情で二人を見ていた。

 それからしばらくして、突然ラピュスが食事を続けている七竜将に話をしだした。


「そうだ、実は今日訪れたのは拠点を見る以外にお前達に話があったからなんだ」

「話?どんな?」


 話の内容が気になるのか、ヴリトラはコップを置いてラピュスの方を向く。他の七竜将も一斉にラピュスの方を向いた。


「実は我が王国騎士団の団長がお前達に興味を持ってな、是非一度話をしてみたいと仰られたんだ」

「団長、てラピュス達の束ねてる人?」

「ああ。レヴァート王国騎士団団長にして精鋭の白銀剣士シルヴァリオン隊隊長、ガバディア・ロンバルト殿だ」

「シルヴァリオン隊?」


 変わった隊の名前に訊き返すヴリトラ。騎士団の構成を理解していない七竜将の為に姫騎士達は説明を始める。


「白銀剣士隊は騎士団の中でも優秀な騎士だけが入隊を許される精鋭部隊だ。重要な任務などを与えられ、騎士団は優秀な隊には白銀剣士隊の様な名前が与えられるのだ」

「私達の所属している遊撃隊は町の警護や別働隊の支援、そして上から与えられた任務をこなすといった、状況に応じて役割を変える、つまり遊撃が任務ですから名は与えられません」

「・・・つまり下っ端」

「下っ端ねぇ・・・それなら何でこの前決闘をした名門貴族のお嬢様は遊撃隊に配属されてるんだよ?」


 ヴリトラが前の決闘で戦ったクリスティアの事を思い出してラピュス達に尋ねると、ラピュスは困ったような顔をして溜め息をつく。


「・・・知ってのとおり、クリスティアの実力は私達よりも下だ、いくら名門ママレート家の令嬢と言えど、優秀な隊に配属させることが出来ない。それに、もし彼女の身に何かあれば、ママレート伯爵の怒りを買ってしまうからな」

「成る程な、遊撃隊なら騎士団の目も届くし、ひとまず安全って訳だ。それなら納得だ」


 腕を組みながらクリスティアの実力と騎士団の立場を考えて納得したジャバウォック。その隣でヴリトラとリンドブルムも同じように納得して頷いた。


「それで、その騎士団長さんがあたし達七竜将に一度会ってみたいっていう訳ね?」

「はい、クレイジーファングとクリスティア隊長の件で皆さんの名はもうティムタームのお城にまで届いています。ですから、まずは団長が皆さんに会って一度人柄を確かめてたいとの事なんです」

「うわぁ~~~!それってそれって、もしかしたら王様にも会えるって事ですかぁ!?」


 アリサの話を聞いていたファフニールが目を輝かせながらアリサに尋ねる。アリサはそんなファフニールに引きながらも頷いて答える。周りのヴリトラ達も汗を掻きながらそんなファフニールに少し引いていた。

 目を輝かせているファフニールを置いておいて、ヴリトラとラピュスは真剣な表情で向かい合う。


「それで、俺達は何時団長さんと会う事になってるんだ?まさか今からっていう訳じゃないよなぁ?」

「勿論。明日の正午にこの前行った騎士団依頼所に来てくれ。そこで団長が話しをされることになっている」

「・・・了解だ」


 ヴリトラはラピュスを見て右手の親指を立ててグーのサインを出す。それを見たラピュスはサインが理解出来ていないのか、難しそうな顔でサインを見る。だが直ぐに表情を和らげて頷いた。それからしばらく騎士団の構成や町の細かい構造などを聞いた七竜将はこれから正式に傭兵としての名を広げるために自分達の拠点の名を決める事にした。

 その拠点の名が・・・・・・「ズィーベン・ドラゴン」。


――――――


 翌日、午前中の町をリンドブルムが一人歩いていた。今日の正午、ラピュスの言っていた騎士団長との面会があるのだが、それまでの時間が空いているので、七竜将がそれぞれ分かれて行動をしている。ヴリトラ、ニーズヘッグは面会場所の確認と打ち合わせ、ジャバウォックとオロチは情報集め、ジルニトラはファムステミリアにある食べ物や薬、物資の事を調べるためにズィーベン・ドラゴンに残っている。そしてリンドブルムとファフニールは七竜将とズィーベン・ドラゴンの場所、傭兵として受ける仕事内容の書かれたチラシを配る為に町を回っているのだ。

 そんな中、リンドブルムはファフニールと別れてチラシを配っている最中なのだが、まだ手元には沢山のチラシがあった。リンドブルムはそのチラシを見て溜め息をついている。


「あ~あ~。まだこんなにあるよ、いくらチラシを沢山作っても貰ってくれる人が少ないんじゃ意味ないのに」


 一向に減らないチラシにリンドブルムは少しずつめんどくなっていった。そんな気持ちを胸に歩いていると、背後から誰かがリンドブルムに声を掛けてきた。


「・・・何やってるの?」

「ん?・・・ああぁ、ラランじゃないか」


 リンドブルムが振り返ると、そこには突撃槍を肩に担ぎながらなっているラランの姿があった。背丈がほとんど同じである小さな少年と少女が互いに相手を見つめている。


「今日はラピュスと一緒じゃないの?」

「・・・隊長は今日の話し合いの事で団長と話してる。私は見回り」

「あっ、そうなんだ。僕はそれまで時間があるからチラシを配って来いって言われて町を回ってるんだよ」

「・・・チラシ?」


 リンドブルムが自分の持っているチラシを一枚ラランに手渡し、受け取ったラランはそのチラシを見る。そこには手書きで七竜将の事や拠点であるズィーベン・ドラゴンの場所、地図が書かれたあった。しかもそこにはしっかりとファムステミリアの文字で書かれたあった。

 チラシを見てラランは「ふぅ~ん」という様に頷きチラシをリンドブルムに返した。


「・・・そのチラシっていうのは配れているの?」

「それが全然。数人の人が貰ってくれるだけであとは誰も・・・」

「・・・このティムタームの町には他にも沢山の傭兵団があるから、皆そっちに依頼をしてるんだと思う」

「それは、僕達が名も知られていた無い傭兵隊だから?」

「・・・それもある。でも、今まで何度も頼って来た傭兵団の方が信頼もあるし、急に乗り換える気にはなれたいのだと思う」

「成る程ね。こっちの世界でも同じなんだ」


 どこの世界でも何度も依頼して顔を知ってもらったり、成功率の高い傭兵達に依頼するのは当然だ。しかも他のお客を奪ったりなどすれば傭兵同士で揉め事が起きる、それらも考えたうえで依頼人や傭兵達も最低限のルールを守っているのだろう。

 チラシを見てもう配るのが嫌になったのか、リンドブルムはチラシの束を丸めてポケットに入っている輪ゴムで止めた。


「あ~あっ、もう止め止め。時間が来るまで町でも散歩してよぉ~っと」

「・・・そう。じゃあ、私は行くから」


 チラシ配りを止めたリンドブルムを見てラランも仕事に戻ろうと背を向けて立ち去ろうとした。その時、リンドブルムが突然ラランの手を握り彼女を止めた。


「・・・何?」

「折角だから一緒に回ろうよ?」

「・・・何で?」

「一緒の方が楽しいでしょ?」

「・・・別に、そうは思わない」

「むぅ・・・暗いねぇ?ラランは可愛いんだから、もっと笑った方がモテるよ?」

「・・・っ!か、からかわないで」


 突然異性に可愛いと言われて少し顔を赤くするララン。そんなラランをリンドブルムは隣から顔を覗き込んで話しを続ける。


「別にからかってなんかいないよ。本当に可愛いと思ったから言っただけ」

「・・・・・・」


 顔を覗かれてますます顔を赤くするララン。すると、ラランはソッポ向いてリンドブルムから視線をそらすと、俯きながら言った。


「・・・好きにすれば」

「ん?それって一緒に回ってくれるって事?」

「・・・・・・」


 質問に答える事無くラランはスタスタと歩き出す。それを見たリンドブルムは慌ててその後を追った。それから二人は一緒に町を回って異常が無いかどうかを見ていく。そんな中、一軒の小さな野菜屋の前に立っている女性がラランを見つけて笑顔で呼び止めた。


「あら、ラランちゃん。元気でやってるか?」

「・・・おばさん」

「今日も騎士としてしっかり仕事をしてるねえ?・・・おや?そっちの男の子は見かけな顔だけど、ラランちゃんのボーイフレンドかい?」

「え?僕ですか?・・・う~ん、まぁ、そんな感――」

「・・・違う」


 リンドブルムが全てを言い終わる前に真っ向から否定するララン。そんなラランにリンドブルムはよろけた。


「アハハハハ!冗談だよ、からかっただけさ。あっ、そうだ、ちょっと待ってな」


 女性は店の奥へ歩いて行き、しばらくして紙袋を持って戻って来た。袋の中には沢山に野菜が入っており、女性は姿勢を低くして紙袋を出した。


「これ、持って行きな」

「・・・ありがとう。でも今は仕事中だから・・・」

「ああ、そうだったね。それじゃあ、仕事が終ったら店に寄りな?その時渡すからさ」

「・・・分かった」


 ラランは軽く挨拶をして店の前を後にした。リンドブルムも軽く女性に挨拶をして後を追っていく。その後もラランは町中の人達から笑顔で挨拶を去れ、ラランも挨拶をしてくれる住民達に丁寧に挨拶をしていくのだった。

 しばらく歩いて行き、リンドブルムとラランは横に並んで歩いて行く。リンドブルムは町中で慕われているラランを笑顔で見つめていた。


「ラランて町の皆から慕われてるんだね?」

「・・・そうみたい」

「そうみたいって、自分の事でしょう?でも、こんなに慕われている子供がいて、ご両親はきっと幸せだろうね?」


 リンドブルムが空を見上げながら話していると、ラランは突然足を止めた。ラランが止まった事に気付いて振り返るリンドブルム。ラランは目を閉じて静かに口を開いた。


「・・・私に家族はいない」

「え?」

「・・・父さんと母さんは私が姫騎士になって直ぐに事故に遭って死んだの」

「あっ・・・そうだったんだ。ゴメンね?」

「・・・別に、気にしてない」


 と言いながらも小さく俯いて目を閉じ続けているララン。そんなラランを見てリンドブルムは頭を掻きながら気まずそうな表情をしていた。リンドブルムは一度深呼吸をして落ち着き、それからゆっくりとラランに近づいて優しそうな声で言った。


「両親がいない、か・・・僕と同じなんだね?」

「・・・?僕も?」


 リンドブルムの言葉にフッと顔を上げるララン。目の前には何処か寂しそうな顔で微笑んで自分を見つめるリンドブルムの姿があった。


「うん、僕も小さい頃に両親と死別しちゃったんだ。もっとも、僕は父さんと母さんの顔すら覚えてないけどね?」

「・・・え?どういう事?」

「それは・・・」


 リンドブルムが詳しく話そうとすると、遠くの方から叫び声が聞こえてきた。それを聞いたリンドブルムとラランは咄嗟に声の聞こえた方を向いた。二人は互いの顔を見て目で合図を送ると同時に走り出した。

 騎士団長からの面会をラピュスから聞かされた七竜将。その面会の矢先にまたもや事件が発生。その事件とは一体何なのか、二人の幼い傭兵と姫騎士が現場に向かう。


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