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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第九章~力を秘めた鉱石~
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第百七十八話  狂人の死闘 包丁小悪魔VS紅色の死神!

 ペルシェアラの戦闘が始まった。ヴリトラ達が四人がかりでも余裕の態度を取るペルシェアラは不敵な笑みを浮かべて戦いを楽しんだ。その態度がヴリトラ達に不快感を与え、そんな中でリンドブルムが一人でペルシェアラと戦うと言い出す。更に彼は愛銃をしまい、機械鎧に内蔵されている超振動短剣を使うのだった。

 ヴリトラ達に見守られる中でリンドブルムは超振動短剣を顔の前まで持って来て刀身を光らせながらペルシェアラを睨みつける。その表情は今までのリンドブルムとは明らかに違っていた。


「・・・一人でアイツと戦う気か?」


 リンドブルムの背中を見ながら真剣な表情で訊ねるヴリトラ。彼の両脇ではラピュスとジージルが同じように真剣な顔でリンドブルムを見つめており、遠くでは懲罰遊撃隊と白銀剣士隊の隊員達がヴリトラ達の戦いを見守っている。


「・・・あの人は危険すぎる。僕が一暴れてあの人を倒すからできるだけ遠くにいて。近くに君達がいたら巻き込んじゃうかもしれないから」


 低い声でリンドブルムはヴリトラ達に言う。ヴリトラはリンドブルムの超振動短剣と彼の言葉の内容からリンドブルムが何をしようとしているのかを気付きゆっくりと後ろに下がる。


「ヴリトラ、どうした?」

「・・・ラピュス、ジージル、下がれ。アイツ、悪魔になるぞ」

「悪魔?どういう事よ?」


 ジージルはヴリトラの言っている事が分からずに小首を傾げて訊き返す。だがラピュスはヴリトラの言いたい事に気付いて目を見張りながら驚く。


「まさかっ、あの時の様になるのか?」

「ああ、間違いない」

「あの時?ちょっと、私にも分かる様に説明しなさいよ!」


 ジージルがヴリトラとラピュスの方を向いて説明を求めると、ラピュスがジージルの方を向き口を動かし始めた。


「・・・ジージル殿、ティムタームで開催された武術大会を覚えていますか?」

「ん?・・・ええ、覚えてるわ」

「貴方とリンドブルムの試合で彼は最後に態度を変えて貴方に冷たい言葉と殺意をぶつけた事は?」

「・・・・・・ええ、ハッキリと。と言うか、忘れたくても忘れられないわよ」


 嫌な事を思い出したのかジージルの表情が鋭くなり彼女は低い声を出す。武術大会の準々決勝でジージルとリンドブルムが戦った時、彼はジージルの短剣を手に取り冷酷になった。危うくジージルを殺してしまうところだったが、ギリギリでジージルが投降し試合は無事に終わるも、この時ジージルはリンドブルムに対して怒りと悔しさ、僅かな恐怖を覚える。

 試合の時のリンドブルムを思い出したジージルは冷や汗を掻いてリンドブルムの方を見る。そこには超振動短剣を見ながら不気味な笑みを浮かべるリンドブルムの顔があった。


「今のあの子はあの時と同じ雰囲気を出しているわ」

「彼は刃物を手にした時、人格が変わってしまうんです」

「人格が変わる?」

「そう・・・人を傷つける事に喜びを感じる、包丁小悪魔チョッパー・デビルに・・・」

「包丁小悪魔・・・」


 ラピュスから嘗てリンドブルムが呼ばれていた名を聞いてジージルは緊張感に包まれる。話をしている二人の後ろではヴリトラが腕を組んでリンドブルムを見守っていた。


「でも、どうしてアイツは人格を変えて、しかも一人で戦うなんて言い出したのよ?」

「それはきっと、戦闘狂であるあの女を倒すのは狂った人格に自分がピッタリだと思ったんだろう。狂った奴にまともな人間が挑んでも心理的に不利になる可能性があるからな」

「目には目を、という訳ね・・・」


 ヴリトラの説明を聞き、ジージルとラピュスは距離を取りリンドブルムの戦いを見守る事にする。

 リンドブルムとペルシェアラは三人から離れた所で互いに見つめ合い、相手の出方を待っていた。


「・・・どういう事ぉ~?何でボウヤ一人だけなのぉ?さっきみたいに四人全員で掛かってきた方がいいわよぉ。その方がボウヤ達は有利だし、あたしも思いっきり楽しめるのに~」

「戦いを楽しむ、ですか・・・フッ、その考え方は否定しませんよ?でも、貴方に四対一で戦う程の価値があるとは思えないんですよぉ。貴方なんて、狂った僕一人で十分勝てますから」

「ああぁ?・・・テメェ、本気でそう言ってんのかぁ~?」

「冗談でこんな事は言わないでしょう?」

「クッ!」


 笑いながら挑発する様に答えるリンドブルムにペルシェアラは歯を食いしばりながら怒りをあらわにする。ペルシェアラは持っている大鎌をリンドブルムに向けて彼を睨みつけた。


「銃とか言う武器を使う奴が二人もいて四人掛かりで来て勝てなかったのにそんなちっぽけな短剣一本、しかもガキ一人であたしに勝つぅ~?毒が効かねぇ体だからって人をナメるのもいい加減にしろよぉ!」

「・・・弱い犬ほどよく吠える、と言いますけど、どうやら本当の様ですね?フフフフ」

「チィ!・・・どうやらボウヤの事を誤解していたみたい。とても礼儀正しいいい子だから痛みや恐怖を感じない様に殺してあげようと思ったけど、や~めた。ゆっくりと甚振ってから殺してあげる♪」


 不敵な笑みのペルシェアラは大鎌を構えてリンドブルムを見つめる。リンドブルムも超振動短剣を構えてペルシェアラは見ながら笑う。


「・・・行くわよぉ?・・・クソボウズ」


 そう言った瞬間、ペルシェアラは地を蹴りリンドブルムに向かって勢いよく跳んだ。大鎌を両手で持ち、リンドブルムに向かって袈裟切りを放つ。近づいて来る大鎌の刃を見たリンドブルムは小さく笑い姿勢を低くしてペルシェアラの斬撃をかわす。そのまま素早くペルシェアラの右側面に回り込み超振動短剣で突きを撃ち込む。しかしペルシェアラも体を横へ反らしてリンドブルムの突きをかわし、後ろへ跳んで距離を取った。


「へぇ~?思ってたよりもやるじゃない?銃を使って遠距離で戦っていたから接近戦は不得意だと思ってたんだけど?」

「実は僕、本当は接近戦の方が得意なんですよ。つまり、これで僕は全力で戦えるようになったって事なんです。ニヒ♪」

「そうなんだぁ~。それじゃあ、あたしも全力でアンタをズタズタに切り刻んであげるわぁ♪」

「やれるものなら、やってみてください」


 リンドブルムのペルシェアラ、二人が互いに不敵な笑みを浮かべながら相手に向かって走り出す。二人は超振動短剣と大鎌の巧みに操り相手に連続攻撃を撃ち込む。二人が互いに自分の武器で相手の攻撃を防ぎ、両者の刃がぶつかる度に周囲に大量の火花が飛び散る。その中で両者は楽しそうに戦っていた。


「ウフフフ♪なかなかやるじゃない?でも、アンタはあたしと同じで人を傷つける事で快楽を得ている。アンタもあたしと同じね、ボウヤ?フフフフフ♪」

「・・・ええ、そうですよ。今の僕は人を傷つけ、戦いを楽しんでいます。それが何か?」

「あら?認めるのね?・・・でも、そうなると、アンタにはあたしのやり方や存在を否定する資格はないはずよ。偉そうな事言わないでくれるぅ?」


 ペルシェアラとリンドブルムは大鎌と超振動短剣に刃をぶつけ、火花と金属が削れる様な高い音が周囲に広がる。二人は相手の武器を払い、後ろへ跳んで再び距離を取り態勢を整えた。すると、リンドブルムはペルシェアラを見てニッと笑いながら口を動かす。


「それは無理ですよぉ。だって、僕はとても自分勝手で我が儘なんですから。だから僕は貴方の全てを否定し、自分や仲間の事を全て正しいと思っています」

「フッ、やっぱりアンタはあたしと同じね。敵を甚振り快楽を得る悪魔のような存在!」


 ペルシェアラは大鎌を構えてリンドブルムを見ながら笑う。するとペルシェアラは不敵な笑みを崩して細い目でリンドブルムを見た。


「アンタとあたしは息が合いそうだから仲間になれると思ったんだけど、王国騎士なんかと組んでる様な甘っちょろい奴なんてあたしの仲間に相応しくない。とっとと死にな・・・」


 そう言いペルシェアラは大鎌をリンドブルムに向かって投げつける。リンドブルムは大鎌に向かって走り出し、大鎌が当たる寸前にジャンプしてかわした。大鎌を跳び越えるとリンドブルムは再びペルシェアラに向かって走り出す。するとペルシェアラは腰の二本の短剣を抜いてリンドブルムに向かって行く。

 ペルシェアラは右手に持っている短剣でリンドブルムに斬りかかり、リンドブルムはその攻撃を超振動短剣で防いだ。そこへペルシェアラが左手に持っている短剣で次の攻撃を仕掛けて来た。リンドブルムは素早く右手の短剣を払い、左手の短剣を防ぐ。両手の短剣の攻撃を防ぐと今度はリンドブルムがペルシェアラに反撃する。リンドブルムの連撃をペルシェアラは両手の短剣で全て防いだ。


「あらあらあら、どうしたの?こんなに沢山攻撃しているのに一発も当ってないじゃない?接近戦が得意なんじゃないのぉ~?」

「・・・・・・」


 バカにするようなペルシェアラの言葉にリンドブルムは何も答えないが口元が小さく笑っている。両者はしばらく攻防を繰り返していると再び互いに距離を取り構え直そうとする。するとペルシェアラの下に彼女の大鎌が戻って来た。ペルシェアラは右手の短剣を鞘に納めると戻って来た大鎌をキャッチする。


「フフフフ、あたしと一対一でここまでやれたのはアンタが初めてよ。褒めてあげるわ、ボウヤ?」

「そりゃどうも。でも、僕にとっては貴方なんてまだ足元にも及びませんよ。貴方は・・・全然弱い♪」

「ああぁ?」


 笑いながら自分を弱い言うリンドブルムにペルシェアラは彼を睨みつけて額に血管を浮かべる。


「貴方みたいに自分の力を過信し、相手を弱いと決めつけて見下す馬鹿を僕はこれまで大勢見てきました。その馬鹿達には共通するものがあったんです。何だか分かりますか?」

「知るか、ボケ」

「・・・全員、最後には惨めな死を遂げたって事ですよ」

「・・・それってつまりぃ、あたしもそんな惨めな死に方をするって言いたいのかぁ?」

「そうです」

「クウッ!」


 ギリッと歯を噛みしめるペルシェアラは左手の短剣をしまい、両手で大鎌を強く握りリンドブルムを睨みつけた。


「あたしは今までテメェの癇に障る言葉にずっと腹を立てていた。だけどそれもそろそろ限界なんだよ・・・」

「じゃあ、さっさと決着を付けたらどうです?」

「言われなくても、終わらせてやるよぉ!」


 ペルシェアラは大鎌を握り、リンドブルムに向かって走り出す。リンドブルムも構えてペルシェアラは迎え撃つ。一定の距離まで近づくとペルシェアラはリンドブルムに向かって大鎌を振り攻撃した。リンドブルムは素早く攻撃をかわしてペルシェアラの懐に入り込んだ。そしてそのまま超振動短剣で反撃する。だがペルシェアラは咄嗟に後ろに体を引いてリンドブルムの攻撃をギリギリで回避する。超振動短剣の刃はペルシェアラの革製のベルトを切っただけでペルシェアラ自身には傷を負わせる事はできなかった。それを確認したリンドブルムは素早くその場から移動し、ペルシェアラの真横を移動して彼女の背後に回り込む。


「・・・速い!」

「いいえ、貴方が遅いんです」

「チィ!」


 がら空きの背後からリンドブルムはペルシェアラの攻撃しようとする。するとペルシェアラは振り返りながら後ろに跳んでリンドブルムから距離を取った。


「あたしの背後を取ったのにはちょっと驚いたわ。でも、もう同じ手は通用しない!」

「そうですか・・・」


 そう呟いてリンドブルムはペルシェアラに向かって何かを投げつける。それはペルシェアラの右腕を掠り、彼女の腕に小さな切傷を付けた。体勢を直したペルシェアラは大鎌を構えながらリンドブルムを見て笑う。


「何を投げたか知らないけど、掠っただけで痛くも痒くもないわ。そんな小さな抵抗はやめて、もっと大きなものをぶつけて来たらどう?まぁ、できれば、だけどね?フフフフフ♪」

「・・・いいえ、もうやりましたよ?」

「もうやった?」

「ええ・・・・・・そして、もう貴方に、次は無い」


 リンドブルムがそう口にした瞬間、突如、ペルシェアラの体に異変が起きた。全身に強烈な痛みが広がりその場に両膝を付いて動けなくなってしまったのだ。ヴリトラ達もペルシェアラの突然の異変に驚きを見せる。


「なっ!?・・・何よ、これ・・・?どうして体が突然・・・」

「フッ、本当に効き目が早いですね?」

「き、効き目・・・?」


 リンドブルムの言葉の意味が分からず、痛みに耐えながらリンドブルムを見るペルシェアラ。リンドブルムはゆっくりとペルシェアラの右腕の切傷を指差した。


「その傷が原因ですよ」

「この傷が?何を訳の分からない事・・・ッ!まさか!?」


 何かに気付いたペルシェアラが自分の腰を見る。そこには二本あるはずの短剣が一本しかなく、鞘の一つが空になっていた。


「あ、あたしの短剣が・・・!」

「あそこ」


 リンドブルムが一点を指差すと、そこには地面に刺さっている短剣があった。その短剣を見たペルシェアラは驚き固まる。


「あ、あれはあたしの短剣!?」

「そうです。さっき貴方の背後に回り込む時にこっそり抜いておいたんですよ。そしてさっき貴方に向かって投げたのがそれです」

「クウゥ!」


 ペルシェアラはリンドブルムを睨みながら歯を強く噛みしめる。だがこの時、彼女は短剣を奪われ、それで傷つけられた事に怒りを抱いていた訳ではなかった。リンドブルムはペルシェアラは見ながらニッと笑い話を続ける。


「貴方は自分の大鎌にスカーレットヴェノムスネークの毒が塗ってあると言いました。武器に毒を塗って戦う人は大抵自分の使う全ての武器に毒を塗っています。つまり、貴方の使っているその二本の短剣にも当然毒が塗ってある。その証拠に、貴方が今毒にやられて全身に痛みが走っています」

「こ、このガキィ~ッ!」

「だから、僕はその毒で貴方を始末する事にしたんです」


 冷たい言葉をペルシェアラにぶつけるリンドブルム。だが突然、ペルシェアラはリンドブルムを睨むのをやめて笑みを浮かべて笑い出した。


「フ、フフフフ、アハハハハハハハ!おめでたいわねぇ、アンタ?あたしが自分が毒を受けた時に対策を何もしていないと思っていたのぉ?ちゃ~んと解毒剤を持ち歩いているに決まってるでしょう?」


 そう言ってペルシェアラは右手を背中に回し腰の手を伸ばす。だが、腰に手を当てるとそこには何も無く、ペルシェアラの表情は急変する。


「え?・・・な、無い?解毒剤の入った瓶が!?」

「探し物は、これですか?」


 リンドブルムの声を聞きフッと彼の方を向くとそこには革製のベルトを持って笑っているリンドブルムの姿があった。その革製のベルトはさっきの戦いでリンドブルムが切った物でベルトには透明の液体の入った小瓶がいくつも付いている。どうやらその液体が解毒剤のようだ。


「そ、それはぁ!?」

「さっきの戦いで僕が切った貴方のベルトですよ。毒を扱う者が自分が毒にやられた時の事を考えて解毒剤を持ち歩くのは常識です。もしかしたら、あの液体が解毒剤なんじゃないかって先に切り落とさせてもらいましたよ」

「そ、そんな・・・じゃあ、さっきの戦闘はあたしじゃなくて、そのベルトを狙っていたって事?」


 ペルシェアラの問いにリンドブルムは笑って頷く。それを聞いたペルシェアラの徐々に顔色を変えていく。そこにはさっきまでヴリトラ達を見下し、人を殺す事に快楽を感じて不敵な笑みを浮かべるペルシェアラの顔は無い。あるのはリンドブルムとの実力の差と自分が毒に侵されている現実を突きつけられて固まっている顔だけだった。


「確か、三分以内に解毒剤を飲まないと手遅れになるんでしたよねぇ?」

「そ、そうよ・・・・・・ね、ねぇボウヤ?その解毒剤、あたしに返してくれない?」

「・・・はあ?」

「その解毒剤以外にこの毒を消す方法は無いのよ。降参するから解毒剤をちょうだい、ね?」


 必死で笑顔を作りリンドブルムに解毒剤を渡すよう交渉を始めるペルシェアラ。リンドブルムは膝をついて痛みに耐えているペルシェアラを細い目で見つめており、ヴリトラはジッと黙って、ラピュスとジージルは心配そうな顔で二人の会話を見守っている。


「・・・貴方は今まで多くの人を殺してきました。その殆どは貴方に大鎌に短剣で斬り殺されて毒で苦しむ事の無かったでしょう。でも中には毒で苦しんでいた人もいたはず、貴方はそんな人の命乞いに耳を傾けた事はありますか?」

「え・・・?」

「どうせ、助けを求める人を見て楽しそうに笑っていたはずです。貴方はどこか昔の僕に似ています。だから貴方の考え方が手に取るように分かる」


 ペルシェアラを冷たい目で見ながら低い声を出すリンドブルム。そんなリンドブルムを見てペルシェアラはリンドブルムに対し始めて恐れを感じた。


「・・・貴方みたいに人を殺して快楽を得て、それは罪と思わない人を助ける程、僕は心が広くありません」


 リンドブルムは右腕の超振動短剣を機械鎧の中にしまいゆっくりとペルシェアラに背を向けた。リンドブルムの表情が包丁小悪魔になる前の表情に戻って行く。


「貴方が悪党でよかったですよ。遠慮くなく冷酷になれます・・・」

「そ、そんな・・・うぐっ!ぐはあぁ!?」


 ペルシェアラは突然その場に倒れ込み自分の胸を掻きむしり始めた。毒によって全身に広がる痛みが酷くなり、呼吸ができなくなる。そして口からは血が流れ、毒の苦しさを物語っていた。


「ま、待っでぇ・・・ぐ、ぐずりを・・・お願い・・・あたしが・・・悪かった・・・から・・・た、助け・・・て・・・」


 自分に背を向けて離れているリンドブルムの方を向き、涙目で手を差し延ばすペルシェアラは必死で声を出そうとする。それを聞いたリンドブルムはピタリと足を止めてペルシェアラの方を向く。そして左手に持っている解毒剤の付いたベルトをゆっくりと上げる。そして次の瞬間、リンドブルムは素早くライトソドムを抜いて解毒剤の入った小瓶を撃ち砕いた。

 解毒剤が全て砕かれたのを目にしペルシェアラは固まる。そしてリンドブルムはベルトを捨ててペルシェアラを鋭い目で睨みつけた。


「死んで償え・・・」


 リンドブルムの鋭く冷徹な言葉、それを聞いたペルシェアラの体から力が抜け、その場に倒れたペルシェアラの意識はゆっくりと闇へ沈んでいった。

 二人の戦いをヴリトラとラピュスは黙って見守っており、ジージルも汗をかきながら動かなくなったペルシェアラとリンドブルムを見ていた。


「・・・最後は自分の毒で死んだか。毒を操る死神にしては哀れな最期だったな」


 低い声でペルシェアラを見ながら呟くヴリトラ。その隣にいたラピュスはペルシェアラからリンドブルムに視線を移して彼を見守る。


「リンドブルムがあんな冷酷な一面を見せるなんて、いまだに信じられない。あの優しいリンドブルムが・・・」

「・・・アイツは今でも包丁小悪魔かこのじぶんと戦っているんだ。人を傷つける事を楽しんでいる殺人鬼だった自分を受け入れ、乗り越える為にな。だけど、アイツは心のどこかでそれを恐れているんだ。だから刃物は携帯せずに拳銃だけで戦っているんだよ。機械鎧に内蔵されている短剣はイザという時に使う為、そして自分の過去を忘れないようにする為に内蔵してある物なんだ」

「そうだったのか・・・」


 ラピュスはまだ知らぬリンドブルムの事を聞かされて真剣な表情を見せる。ヴリトラは自分達の方に歩いて来るリンドブルムを見て笑いながら手を振り、リンドブルムも小さく笑って手を振り返した。ヴリトラはリンドブルムの方を向きながらラピュスに話し続ける。


「俺は、これからもずっとアイツを信じて見守り続けるつもりさ。アイツが自分の過去を乗り越えて、包丁小悪魔としての自分を受け入れる時が来るのを俺は信じて待ち続けるよ」

「・・・ああ、私も信じる。リンドブルムを」


 ヴリトラの隣でラピュスもリンドブルムの方を向いて笑い、手を振る。ジージルは両手をこそに当ててソッポ向き、リンドブルムから視線を外している。離れていた懲罰遊撃達と白銀剣士隊も合流し、盗賊との戦いは一人の負傷者も出さずに終わった。

 紅色の死神ペルシェアラはリンドブルムに倒された。殺人鬼としての人格を残したまま生き続けるリンドブルムを見て、ヴリトラとラピュスは彼が包丁小悪魔としての自分を受け入れ、心身ともに強くなる事を強く信じる。仲間として、そして友として・・・。


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