第百七十七話 狂った暗殺者 紅色の死神ペルシェアラ
対峙した盗賊団、獅子王の牙を一瞬で倒し、頭も取り押さえる事ができたヴリトラ達。だがそこへペルシェアラと名乗る大鎌を持った女性が現れて戦意を失った盗賊の生き残りを斬殺する。仲間であるはずの盗賊を殺したペルシェアラにヴリトラとリンドブルムは小さな不快感を抱く。
ペルシェアラの名前を聞いたラピュスはジッとペルシェアラの顔を見ながら騎士剣を持つ手に力を入れる。そんなラピュスを見たヴリトラはペルシェアラを警戒しながら視線をラピュスの方に向けた。
「ラピュス、知ってるのか?」
「・・・神聖コラール帝国に暗殺の様な殺し関係の仕事を中心に引き受けている女傭兵がいると聞いた事がある。その女は紅色の鎧を纏い、自分よりも大きな鎌を縦横無尽に操り、多くの貴族やお尋ね者を消したと言われている。その実力は帝国の騎士以上と言われており、過去に何度もその女に戦いを挑んだ者がいたが誰一人勝てず・・・誰一人生きて帰らなかったと・・・」
ラピュスの話を聞いたヴリトラとリンドブルムの表情に鋭さが増し、周りにいる騎士達は静かに息を呑む。すると今度はジージルがラピュスの後を引き継ぐ様に話に参加した。
「その女傭兵は相手に止めを刺す時にまるで殺しを楽しむような笑みを浮かべて敵を斬り捨てて行き、戦いが終るとそこにはその女だけが立っており、周りには敵の死体と血の海が一面に広がっているだけ・・・」
ジージルは遠くで大鎌を担ぎながら笑みを浮かべるペルシェアラを睨みながら微量の汗を流す。彼女も白銀剣士隊の姫騎士、戦わなくともペルシェアラの恐ろしさが分かっているようだ。
「血の海の中で一人立ち、狂った様に笑う姿からいつしかその女はこう呼ばれる様になった・・・『紅色の死神、ペルシェアラ』と・・・」
「へぇ~?こんな小さな国でもあたしって有名人なんだぁ~♪」
ペルシェアラは自分がレヴァート王国でも知られている事を意外に思い驚いているようだが、その顔には笑みが浮かんでおり何処か嬉しそうだった。
「それで、その帝国の死神さんがどうしてこのレヴァート王国にいるんだ?」
ヴリトラはペルシェアラの方を向いて訊ねるとペルシェアラは笑いながら空を見上げ気の抜けた声で話し始める。
「実はねぇ。あたし、最初は帝国で仕事をしてたんだけど、そこでの仕事が無くなっちゃってねぇ、殺しの仕事を求めて大陸中を旅してたの。それでいい仕事が見つかるとその仕事を引き受けて標的を殺したって訳♪暗殺関係の仕事は報酬が高いけど周りの人達から冷たい目で見られるから他の傭兵達は引き受けようとしないのよぉ~」
「確かにそれなら暗殺の依頼を中心に引く受けている貴方には都合がいいって事ですね」
「そのと~り♪小さいのになかなか鋭いのね、ボウヤ?」
「・・・どうも」
ニカッと笑いながらリンドブルムを褒めるペルシェアラ。リンドブルムは鋭い表情で彼女を見つめながら低い声で返事をした。
「それで二週間前にこの国に来た時に盗賊達と出会ってね、『大量の鉱石を見つけた、俺達の用心棒になるなら分けてやる』って言って来たのよ。最初は生意気だと思ったんだけど、ミスリルやオリハルコンの様な高価な鉱石を手に入れるチャンスと思って、仲間になってやったのぉ♪」
「・・・だけど本当は隙をついて盗賊達を皆殺しにし、鉱石を独り占めするつもりだったんでしょう?」
「さぁ~ねぇ~?」
リンドブルムの質問に笑いながらとぼけるペルシェアラ。そんな彼女の態度にヴリトラとリンドブルムは更に不快な気持ちになる。だがペルシェアラは二人と違いとても楽しそうな笑みを浮かべてヴリトラとリンドブルムの方を見た。
「でもねぇ~、今となっては鉱石なんてどうでもいいの。あたしは強い奴と戦ってソイツに勝ち、強者を殺す時の快感を感じたいのよ。だから、盗賊達の事やデガルベル鉱石の事もどうでもいい!七竜将、アンタ達と戦えればそれでいいのぉ!」
大鎌を振りながら自分は快楽だけを求めている事を楽しそうにヴリトラ達に話し、ペルシェアラの態度を見たヴリトラ、ラピュス、リンドブルム、ジージルはこの女は危険だと確信し鋭い目でペルシェアラを睨む。他の騎士達はペルシェアラの狂った様な態度に寒気を感じていた。
「・・・ラピュス、ジージル、この女は危険だぞ。どうする?」
「どうするって、決まってるでしょう?」
「ああ、盗賊達と同じように拘束する」
「だよな!」
捕まえるに決まっている、そう力の入った声を言うジージルとラピュスを見た後にニッと笑って森羅を構えるヴリトラ。その隣ではリンドブルムがライトソドムを構えていた。四人が武器を構えて自分を睨んでいる事に気付いたペルシェアラは四人の方を不思議そうな顔で見つめる。
「ペルシェアラとか言ったな?お前の様に人を殺して快楽を得る奴は一番危険な存在だ。お前はこのまま野放しにする訳にはいかない」
「野放しにしない~?それじゃあ、どうするのかしらぁ?」
「決まってるでしょう?・・・貴方を捕まえます」
「キャーー!こんな小さな男の子に捕まえるなんて言われちゃったぁ。お姉さん、ビックリィ~♪」
「何なんだ、この女は・・・」
ラピュスは楽しそうに飛び跳ねるペルシェアラを見てその考えが理解できずに頭を悩ませる。すると飛び跳ねるのをやめたペルシェアラは大鎌を両手で持ち、ヴリトラ達を見ながら構えた。
「アンタ達と盗賊どもの戦いを見学していた時からワクワクしていたの。ストラスタ公国軍を撃退しレヴァート王国を勝利へ導いた傭兵隊・・・どれだけ強いか見せてもらうわよぉ!」
不敵な笑みを浮かべたペルシェアラは地を蹴りヴリトラ達に向かって跳んだ。ペルシェアラの向かう先にはヴリトラが立っており、ヴリトラも自分に向かって来るペルシェアラを見て意識を集中させる。
「アハハハハハ!」
ペルシェアラは笑いながら大鎌を振り上げてヴリトラに袈裟切りを放つ。ヴリトラは素早く姿勢を低くしてペルシェアラの斬撃をかわすと素早く森羅で横切りを放った。森羅の刃はペルシェアラの無防備な脇腹に迫るがペルシェアラは全く動じる様子を見せない。
「ウフフ♪」
近づいて来る森羅を見たペルシェアラはその場でジャンプをし、バク転する様に後ろへ跳びヴリトラの横切りをかわす。そこへリンドブルムがライソドムで空中のペルシェアラを狙い引き金を引く。しかし、ペルシェアラは大鎌の刃を盾代わりにしリンドブルムの銃撃を防いだのだ。
「!」
自分の銃撃を防がれた事に驚くリンドブルム。勿論ヴリトラ、ラピュスも驚いてペルシェアラを見ている。ペルシェアラは笑いながら着地して大鎌を軽く振った。
「ウフフフフ、驚いてるみたいねぇ?アンタ達の戦い方は盗賊達との戦いを見て完全に理解したわぁ。そのボウヤがその変わった武器を使って遠くにいる敵を攻撃できるんでしょう?どんな仕掛けかは知らないけど、先端を敵に向けて人差し指を引けば攻撃できる。それなら先端が向けられているところを鎌で隠せば攻撃を防ぐ事が可能、違うかしらぁ?」
ヴリトラ達と獅子王の牙との戦いを気付かれない様に見学し、その時に拳銃の攻撃方法を理解して対策まで考える。ペルシェアラの観察力の凄さにヴリトラは驚き森羅を強く握った。
(・・・たった一度の戦いでリンドブルムの攻撃方法を理解してそれを防御する方法まで考えるか。やっぱりこの女、只者じゃないな・・・)
一筋縄ではいかないと感じたヴリトラはペルシェアラの動きに注意して相手の出方を待つ。リンドブルムもライトソドムだけでなくダークゴモラも抜いて二丁拳銃で戦う事にしたようだ。二人の姿を見てペルシェアラは笑いながら大鎌の刃を擦っている。
「なかなか面白い戦い方をするのねぇ?お姉さんも少し楽しくなってきたわぁ」
「戦いを楽しむですか・・・やっぱり貴方は危険な人ですね」
「そうよぉ~?あたしは祖国でも同じ傭兵達からはイカれてるとか死神以上に死神らしいって言われているの。アイツ等はあたしをバカにしているつもりだけど、あたしにとっては最高の褒め言葉、来ているだけでゾクゾクしてきちゃうのぉ、ウフフフフ♪」
自分が周りから嫌われている事にすら快楽を感じるペルシェアラの異常な性格にヴリトラとリンドブルムも流石に「この女、色んな意味で危ない」と感じ始める。ラピュスとジージルは既にペルシェアラは頭がおかしいと感じて騎士剣と弓を構えながらペルシェアラを睨んでいた。
「クッ!ヴリトラ、この女との戦いに時間を掛けると危ない。私も加勢する!」
「私も付き合うわ。これ以上この死神の話を聞いていると気がおかしくなるわ」
ラピュスとジージルがそれぞれヴリトラとリンドブルムの隣に来て戦闘態勢に入る。ヴリトラとリンドブルムもペルシェアラとの戦いをさっさと終わらせる為に二人の加勢を受け入れた。しかし、ペルシェアラはそれが気に入らないのかラピュスとジージルを睨みつける。
「はぁ~っ?何あたしとボウヤ達の神聖な戦いに入って来てんだ?このメスどもぉ!テメェ等みたいな雑魚がいても楽しい戦いがつまらなくなるだけなんだよぉ。後で殺してやるからさっさと引っ込んでろぉ!」
「ふざけるな!お前のような人を殺す事を生きがいにしている様な者に神聖な戦いなどという言葉を口にする資格はない!何より、私もジージル殿も多々顔を楽しみお前をこれ以上黙っているつもりはないのだ!」
「そうよ、私とフォーネはレヴァート王国の姫騎士、アンタの様な汚れたゴミ傭兵に負ける程落ちぶれていないわ!」
「チッ・・・・・・人の忠告は素直に受け取るもんですよぉ~?おバカに姫騎士さん達?」
舌打ちをした後にニヤリと笑いながら大鎌を構えるペルシェアラは地を蹴りラピュスの方へ跳んだ。ラピュスは騎士剣を構えて迎撃しようとする。だが、ペルシェアラは跳んだまま持っている大鎌をラピュスに向かって投げつけた。
「何っ!?」
突然投げつけられた大鎌を見て驚くラピュス。ヴリトラ、リンドブルム、ジージルの三人も驚き、戦いを見守っていた騎士達も驚きの顔を浮かべている。空中で回転しながらラピュスに向かって飛んで行く大鎌、それはまるでオロチが遠くにいる敵を攻撃する時に斬月を投げつけている時の様だった。
「ラピュス、かわせ!」
ヴリトラは叫び、それを聞いたラピュスは左へ跳んで大鎌をギリギリでかわす。だが回避した直後にペルシェアラは腰に納めてある二本の短剣を抜き、それを両手に持ちながらラピュスに迫って来た。
「クゥ!?」
「アハハハ!死んじゃいな!」
ペルシェアラは狂気の笑みを浮かべながら二本の短剣でラピュスに攻撃する。ラピュスは騎士剣でペルシェアラの二本の短剣の攻撃をギリギリで防いだ。間一髪だった為、ラピュスの顔からは冷や汗が流れていた。
「あらぁ?今のを防ぐなんて、少しはできるみたいねぇ~?」
「クッ!当然だ・・・」
「でも、次は防げるかしらぁ?」
ペルシェアラは後ろに跳んでラピュスから距離を取ると右手に持っている短剣を鞘に納める。すると、そこへさっきペルシェアラが投げた大鎌が戻って来てペルシェアラの手の中に戻った。
「投げた大鎌が戻って来た?」
「おいおい、あれじゃあまるっきりオロチじゃねぇかよ」
リンドブルムとヴリトラはペルシェアラの手に戻った大鎌を見て完全に彼女がオロチと被って見えた。ペルシェアラ本人はそんな事を気にもせずに左手に持っている短剣もしまい、大鎌を両手で持つ。
「私を忘れるんじゃないわよ!」
「!」
聞こえて来たジージルの声にペルシェアラはフッと右を見る。数m離れた位置では弓で三本の矢を引っかけた弦を引いているジージルの姿があり、ジージルはペルシェアラを狙って矢を放った。三本の矢は真っ直ぐペルシェアラに向かって飛んで行き、それを見たペルシェアラは余裕の表情を見せ、大鎌で三本の矢を意図も簡単に払い落とした。
「チッ!」
「矢なんかがあたしに当たると思ってるのぉ?お姉さんをバカにしちゃダメよ?お嬢ちゃん」
「こ、この女ぁ~~っ!」
ペルシェアラの挑発に顔を赤くするジージル。そんなジージルはリンドブルムは何とか宥めようとする。ヴリトラとラピュスも武器を構えながらペルシェアラをジッと見て警戒した。
「ヴリトラ、あの女、どう思う?」
「・・・一言で言えば強いな。一度リンドブルムの戦い方を見ただけで拳銃の攻撃方法を理解した。攻撃力に速さ、観察力も優れている」
「もしかすると、ブラッド・レクイエムの戦士と同じくらいの強さを?」
「さあな、それは分からない。だが奴等の一般兵士ぐらいなら簡単に倒せるかもしれない」
ブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士と戦える程の力を持つ女傭兵、ラピュスはペルシェアラの戦闘能力に更に驚きを感じて汗を垂らした。
二人がそんな会話をしているとペルシェアラはそれに気づいて笑いながら大鎌を肩に担いだ。
「あれあれあれぇ~?そこの二人、何コソコソ話してるのぉ?何だが怪しい雰囲気ねぇ?もしかして・・・二人って恋人同士~?」
「なっ!?何言ってるのよ!そんなはずないでしょう!」
頬を赤くしながらラピュスは女口調で否定する。珍しく感情的になったラピュスにヴリトラやリンドブルム達も思わず注目した。
「アハハハ♪興奮して否定するなんてますます怪しい。やっぱり恋人だったんだぁ~?」
「だから違うって言ってるでしょう!」
「落ち着け、ラピュス」
ペルシェアラにからかわれて興奮するラピュスをヴリトラは宥めて落ち着かせる。落ち着きを取り戻したラピュスはチラっとヴリトラの方を向いた。
「お前を挑発して冷静な判断ができなくなるようにする心理作戦だ。耳を貸すな、特にああいう奴の言葉にはな」
「・・・わ、分かった。すまない」
ヴリトラの忠告を聞いてラピュスは小さく深呼吸をする。その様子を見たペルシェアラは楽しそうに再びラピュス達を挑発しだす。
「やっぱり二人は恋人同士だったのねぇ?あ~あ、羨ましいわぁ~」
「俺達は恋人じゃない。共に戦う仲間だ」
「そうなの?・・・そっちのボウヤは取り乱していないし、どうやら本当みたいねぇ?」
ペルシェアラはヴリトラの反応を見てすぐに納得した様子で話を終わらせる。ヴリトラもそんなペルシェアラを見てアッサリと納得した事を不思議に思っていた。
「想いを抱く相手が目の前で殺された時、人間は最大の絶望の襲われる。あたしはこれまでそんな光景を何度も見て来たわぁ。その時に得られる快感は、もうさいっこう!!残った方は最後には壊れちゃって、殺す必要も無いからその場に残しておくの。そう、生き地獄を味あわせる為にねぇ♪・・・そこの姫騎士さんにもそんな気持ちを味あわせてあげようと思ってたんだけど、恋人じゃないなら仕方がないわよねぇ」
「・・・あの女、狂ってる」
「ああ、そうだな・・・」
狂った笑みを浮かべて自慢げに話すペルシェアラを見たヴリトラとラピュス。ラピュスの顔にはさっき挑発されて取り乱していた時の様子はもう残っておらず、人を傷つける事を楽しむペルシェアラに対する怒りが現れていた。
「まぁ・・・恋人じゃなくても、戦友や友達が目の間で殺されれば誰だって心が壊れちゃうから、あたしにとってはどうでもいいんだけどねぇ!」
ペルシェアラは笑みを浮かべたままリンドブルムとジージルに向かって走り出した。ジージルは走って来るペルシェアラに矢を放って応戦するがペルシェアラは飛んで来る矢をかわしたり大鎌で払い落とすなどして無傷のまま距離を詰めて行く。リンドブルムもライトソドムとダークゴモラを撃つがペルシェアラは走りながらジグザグに動いたり軽く跳んだりをしたりしてリンドブルムに狙われない様にする。
「アハハ、どうしたの?全然攻撃してこないじゃない、ボウヤ?」
「こう無茶苦茶に動かれちゃいくら僕でも上手く狙えない!」
銃撃の対策をしていたペルシェアラにリンドブルムの表情に悔しさが浮かび上がる。やがてペルシェアラは大鎌が二人に届く位の所まで近づき、二人に向かって大鎌を勢いよく横に振り攻撃する。左から迫って来る刃を見たリンドブルムは両手に愛銃を持ったままジージルを抱きしめて高くジャンプし大鎌の攻撃をかわす。
「わ、わわわわっ!?」
「ふぅ、危ない危ない」
突然抱きつかれた事に戸惑いを見せるジージルと大鎌を回避して安心の表情を浮かべるリンドブルム。もし、リンドブルムがしゃがんだり後ろに跳んだりなどしていたら残ったジージルが大鎌のよって真っ二つにされていただろう。リンドブルムはそれを読んで彼女を連れて高くジャンプしたのだ。
自分の攻撃をかわされたペルシェアラは悔しがる様子も見せずに二人を見上げている。
「フフフ、やるじゃないあのボウヤ。なら、次はあっちね?」
と言った瞬間、ペルシェアラは大鎌をラピュスの方に向かって勢いよく投げつけた。
「!?」
突然大鎌を投げつけられた事に驚くラピュス。反応が遅れたラピュスは騎士剣で大鎌を落そうとしたが、騎士剣なんかで落せるはずもない。回避行動を取ろうにも、もう回避が間に合わない所まで大鎌は近づいて来ていた。すると、ラピュスの右隣に立っていたヴリトラがラピュスを庇うように押し倒し、大鎌は二人の真上ギリギリを通過する。
「ヴリトラ!?」
「大丈夫か?」
「あ、ああ・・・」
「敵が目の前にいるのに警戒を緩めるな。戦士としてそれは致命的なミスだぞ?」
「すまない、少しボーっとしていて・・・」
自分がミスをした事を素直に認めて謝罪するラピュス。そんなラピュスを見てヴリトラは苦笑いを浮かべていた。すると、右腕に痛みを感じたヴリトラは自分の右腕を見る。そこには切傷があり、そこから血がにじみ出ていた。どうやらさっきの大鎌の刃が少し掠ったようだ。
「ヴリトラ、切られたのか?」
「心配ない、この程度なら・・・」
「それはどうかしらぁ~?」
二人がフッとペルシェアラの方を見ると、そこには戻って来た大鎌を持って不敵な笑みを浮かべたペルシェアラの姿があった。
「そのボウヤはもうお終いよぉ~、あと十分足らずで死んじゃうわぁ~!」
「何だと?どういう事だ!?」
ラピュスは体を起こしてヴリトラを俯せにしたままペルシェアラを睨んで訊ねる。ペルシェアラは自分の大鎌の刃を擦りながら口を動かす。
「アンタ達はあたしがなぜ紅色の死神って言われているのか分かるぅ?」
「何?」
「紅色の鎧を着て死神が使う様な大鎌を持っているから?・・・・・・フフフフフ、ぜんっぜん違うわぁ」
自分の二つ名の意味が違う事を伝えるペルシェアラに驚くラピュス。二人の元にリンドブルムとジージルも合流しペルシェアラを見つめた。
「あたしの使う武器にはね、『スカーレットヴェノムスネーク』って言う蛇の毒が塗れらているのよぉ」
「スカーレットヴェノムスネーク!?この大陸で最も強力な毒を持つと言われている毒蛇の事?」
「そう、その毒が体内に入った瞬間、その人間の全身に痛みが広がり、呼吸ができなくなるの。そしてやがて吐血をし最後には心臓が止まりあの世行き、三分以内に解毒剤を飲まないと手遅れになる程の猛毒よぉ♪」
「そんな毒をその鎌に塗ってたって事なの?」
「フフフ、人々から恐れられている『紅毒蛇』の毒を使い、相手を死の世界へ誘う。これがあたしが紅色の死神と呼ばれてる理由よ。でも、誰も毒の事に気付いてくれないからそこのお嬢ちゃんが言ってた内容が二つ名の理由になっちゃったのよ・・・」
ジージルを見ながらつまらなそうな顔をするペルシェアラ。ジージルは興味なさそうな顔でペルシェアラをジッと見ている。
「ど、どうすればいいのだ?どうにかして解毒しないと・・・」
「無理よ」
ヴリトラを見て僅かに動揺しているラピュスにジージルが静かに声をかけた。
「スカーレットヴェノムスネークの毒にやられると解毒剤を使わないと絶対に助からない。残念だけど、その男はもう・・・」
「そ、そんな・・・リンドブルム、何とかならないの!?」
表情を青くしたラピュスが再び女口調でリンドブルムの方を向いて訊ねる。そこには落ち着いた様子のリンドブルムが立ていた。
「大丈夫だよ」
「な、何を言ってるのよ?毒にやられちゃったのの!?」
「・・・ヴリトラ、何時まで休憩してるつもり?」
リンドブルムは呆れ顔で俯せになっているヴリトラに声をかける。するとヴリトラはゆっくりと起き上がり、その場に座り込んで頭をボリボリと掻いた。
「ちぇ、もう少し休めると思ったのに・・・」
「何言ってるの、殆ど疲れないでしょう?」
二人が普通の会話を始める姿を見たラピュスとジージルは目を丸くして驚いている。勿論、ペルシェアラも流石に驚いて目を見張っていた。
「ヴ、ヴリトラ、大丈夫なのか?」
「ああ、平気だよ」
口調が元に戻ったラピュスを見てヴリトラはニッと笑いながら答える。
「そ、そんな、どうして毒を受けて普通に動けるのよ!?」
ペルシェアラは毒の影響を受けていないヴリトラを見て声を上げる。するとヴリトラはゆっくりと立ち上がりペルシェアラの方を向いた。
「俺達七竜将は機械鎧兵士になる時に体内にナノマシンを注入するんだ。そのナノマシンの中には身体能力を増強する物、五感を鋭くする物、治癒力を高くする物と色々ある。そしてその中には『cure』と言うナノマシンがあって、これは体内に入り込んだ毒物や病原菌を瞬時に分解する物なんだ」
「つまり、僕達の体内に入り込んだ毒を一瞬で消滅させちゃうって事」
「俺達には、毒は効かない!」
毒が効かない体を持っている。それを聞いたジージルとペルシェアラは目の前に立つヴリトラとリンドブルムを固まって見つめており、ラピュスはファムステミリアとは別世界から来た七竜将の凄さと別世界の技術の発展に改めて驚くのだった。
ペルシェアラはヴリトラとリンドブルムを見てしばらく驚いていたが、すぐに表情は元に戻り、大鎌を構えてニッと笑う。
「・・・フフ、毒が効かない体を持つなんて、凄いわねぇ?これか殺しがいがあるって事だわぁ。アンタ達みたいな特別な人間を殺してその断末魔を聞いた後に騎士達の苦痛の叫びを聞くのも悪くないしね、ウフフフフ。特にそっちのボウヤの悲鳴がどんなものなのか、すっごく気になるわぁ~♪」
毒が効かない事で動揺するかと思ったが、逆に楽しさを増すペルシェアラを見て呆れ果てるヴリトラ達。その中で鋭い表情をしているリンドブルムが愛銃二丁をホルスターにしまい一人前に出る。
「リンドブルム、どうした?」
「・・・ヴリトラ、ラピュス、ジージルさん、悪いけどここからは手を出さないで」
「何?」
リンドブルムの言葉にラピュスは思わず聞き返す。するとリンドブルムの右腕の後前腕部の装甲が動き、機械鎧の腕の中から超振動短剣が姿を見せた。そして超振動短剣を顔の前まで持って来て刃を光らせる。
「・・・この人は、僕一人で殺る」
機械鎧の超振動短剣を使い、一人でペルシェアラと戦うと言い出したリンドブルム。ラピュスとジージルが驚きの表情を浮かべる中で、ヴリトラだけはジッとリンドブルムの背中を見つめていた。
紅色の死神ペルシェアラとの戦いが遂に始まった。その実力はヴリトラが一目置く程、しかし性格の異常さからヴリトラは彼女を危険人物と判断、そしてリンドブルムもそんな彼女を倒す為に動き出す。