第百七十二話 破壊と戦いのデガルベル鉱石
調査隊が発見した鉱石洞窟に辿り着いたヴリトラ達のチームはそこでミスリルやオリハルコンなどの様々な鉱石を目にした。更にその洞窟の奥に隠されていた空洞で赤い鉱石、デガルベル鉱石という物を発見する。その鉱石を目にしたラピュスとジージルはデガルベル鉱石を目にした途端に驚きの表情を浮かべた。
ヴリトラ達のチームが鉱石洞窟を調査している頃、ジャバウォック達のチームは岩山の中間あたりにある広い場所で再びゴブリンとオークの一団と戦闘を行っていた。数分前にゴブリン達を楽々と一掃し、オーガまで倒している彼等にとっては楽な相手で戦況は優勢のある。
「・・・ったく!さっきオーガ達を倒したばっかりなのにまた来やがったか!」
「てっきり仲間が倒されてもう私達を襲って来ないと思ってたんだけどね」
デュランダルとギガントパレードで目の前のゴブリンやオークを攻撃しながら会話をするジャバウォックとファフニール。二人の周りではオロチが斬月でオークを斬り捨て、アリサが騎士剣とベレッタ90を使い分けながらゴブリン達を倒していた。懲罰遊撃隊の騎士達も白銀剣士隊と共にゴブリン達を蹴散らして行き、数は少しずつではあるが確実に減っていった。
「ゴブリン達は子供と同等の知能を持ったモンスターだとアリサが言っていた。仲間が倒れても自分達なら勝てると思い込んでいるのか、それとも仲間達がやられた光景を見ておらず私達の強さを知らないのか・・・」
「どちらにせよ、コイツ等が俺達に敵意を持っているって事は確かだって事だな?」
オロチとジャバウォックは軽く会話をしながら向かって来るゴブリンを一匹ずつ倒して行く。最初は十八匹いたゴブリンやオークも今では七匹までに減っており既に勝負は見えていた。しかし、ゴブリン達はまだ行けると思っているのか、逃げようともせずに棍棒や手斧を持ってジャバウォック達に向かって行く。それを見たジャバウォックは呆れ顔で溜め息をついた。
「・・・自分達が不利だという事を理解できずに向かって来るとは、本当に子供と同じくらいの知性しか持っていないのか・・・いや、それ以下か?」
ジャバウォックは地を蹴り、向かって来るゴブリン達の内の一匹に向かって袈裟切りを放つ。デュランダルの大きな刃はゴブリンの体を真っ二つにし、それを見た他のゴブリンやオークは驚いてジャバウォックを見ながら固まる。そこへジャバウォックはデュランダルを大きく横に振り、自分の左右にいるゴブリンとオークを斬り捨てた。
残りはゴブリンとオークがそれぞれ二匹ずつ。ジャバウォックには勝てないと悟ったゴブリン達は奥にいるファフニール達に目を付け、彼女達に向かって走りだした。
「ジャバウォックには勝てないと判断して私達を狙って来るか・・・愚かな奴等だ・・・」
冷たい視線でゴブリン達を見つめながら呟くオロチ。担いでいる斬月を自分に向かって走って来るゴブリン二匹に勢いよく投げつける。斬月か回転しながら飛んで行き、ゴブリン達の胴体を真っ二つにした。斬月やUターンしてオロチの手の中に戻り、斬り捨てられたゴブリン達はその場に崩れるように倒れる。
ゴブリン二匹が倒された時、残りのオーク二匹はファフニールとその近くにいたアリサに襲い掛かろうとしていた。しかしファフニールもアリサも驚く様子を見せずにギガントパレードと騎士剣を構えてオークを見つめている。
「あとはあの二匹だけです。行きましょう、ファフニールさん!」
「ハイ!」
二人はそれぞれ自分の武器を構えて向かって来るオーク達に意識を集中させた。オーク達はそれぞれ棍棒でファフニールとアリサに攻撃を仕掛けるが二人のその攻撃をギガントパレードと騎士剣で止め、素早く棍棒を払う。そのまま隙のできたオークをギガントパレードで横から殴り飛ばし、騎士剣で袈裟切りを放つ反撃する。ファフニールとアリサの攻撃を受けたオーク達は動かなくなり、戦いが静かに終わった。
「フゥ、これで全部やっつけましたね?」
「ハイ。他の人達は大丈夫でしょうか?」
ファフニールが遠くで戦っていた懲罰遊撃隊と白銀剣士隊の安否を確認すると、自分達の方を向いて手を振る懲罰遊撃隊の男性騎士の姿を確認し、微笑みながら安心する。
「思ったよりも時間を取られたな・・・」
「ああ、すぐ出発しよう。ヴリトラ達は今頃調査達が見つけた鉱石洞窟に辿り着いている頃だ。俺達も早く上がって他に洞窟が無いかを調べるぞ」
「分かった・・・」
ジャバウォックはファフニールとアリサの下へ出発する事を伝えに行く。オロチは先の道を見てこの先にまだゴブリン達がいるのか、またオーガと遭遇するのかを考えながら目を鋭くする。それから数分後、ジャバウォック達は警戒しながら再び岩山を登って行くのだった。
一方、鉱石洞窟ではデガルベル鉱石を目にしてラピュスとジージルが驚きの表情を見せており、ヴリトラとリンドブルムはまばたきをしながら二人の顔を見ている。
「どうしたんだよ二人とも?」
「この鉱石がどうかしたの?」
リンドブルムが目の前の赤い鉱石を指差しながら訊ねると、落ち着いたラピュスとジージルがゆっくりと息を吐いて自分を落ち着かせた。
「これはデガルベル鉱石と言って、このヴァルトレイズ大陸では極めて希少な鉱石の一つなんだ」
「希少?」
「ああ、この鉱石は今から五十年以上前まで各国が軍事利用していた物で当時に殆ど掘り尽くしてしまい、今では何処を探しても見つからないと言われているほど貴重な物なんだ」
「それがまさか、こんな岩山で見つかるとは思ってなかったわ」
デガルベル鉱石が何の変哲もない岩山の洞窟の中で見つかるなど思っていなかったラピュスとジージルは少し興奮している様な声でデガルベル鉱石の事をヴリトラとリンドブルムに話す。デガルベル鉱石がどうして軍事利用され、そこまで希少なのか理解できないヴリトラとリンドブルムは互いの顔を見合って小首を傾げる。
「なぁ、どうしてその鉱石がそこまで希少な物なんだよ?やっぱりその鉱石で作られた武器や防具が丈夫で優れた物だからか?」
ヴリトラがデガルベル鉱石の希少性を訊ねるとラピュスはゆっくりと首を横へ振った。
「いや、武器や防具に使っていた訳じゃない」
「と言うか、そんな事をしたらとんでもない事になっちゃうわ」
「とんでもない事?」
「このデガルベル鉱石はね?加熱とかで高温状態になっている時に衝撃を与えると大爆発を起こすとても危険な鉱石なのよ」
「大爆発を起こす?」
「そんな鉱石があるんですか?」
「だから、それがこの鉱石なのよ」
ジージルは目の前の赤い鉱石を指差し、ヴリトラとリンドブルムは目を見張りながらデガルベル鉱石を見つめた。ラピュスは目の前のあるデガルベル鉱石の中から一番小さな物を見つけると短剣で周りの土や石を丁寧に削り、小石程の大きさの赤い鉱石を手に取ってそれをヴリトラ達に見せる。
「この大きさでも馬車の荷車を軽く吹き飛ばすくらいの爆発を引き起こす事ができる」
「これっぽっちで荷車を吹き飛ばす・・・ダイナマイトより厄介だな・・・」
「ダイ、ナマイト?」
「いや、気にしないでくれ・・・それで、そいつはどんな風に使われたんだよ?」
理解できない言葉にラピュスは訊き返し、ヴリトラは話がややこしくなると感じたのか、さり気なく話の流れを戻した。
「・・・昔は投石器などを使い熱したデガルベル鉱石を敵陣に投げ込み、落下した時の衝撃で爆発させて敵軍を跡形も無く吹き飛ばしたと言われている」
「成る程、確かにそんな凄い鉱石なら大陸中の国が兵器として利用しないはずがない。兵を送らなくてもたった一つの鉱石で敵の基地をふっ飛ばす事ができるんだからな」
「ああ、だから当時は全ての国がデガルベル鉱石を手に入れようと大陸中を調べて鉱石を探し回ったらしい」
「でも、国中がデガルベル鉱石を採掘していれば、突然いつかも鉱石は無くなる。そんな事が長い間続き、やがて鉱石が発見されなったって訳よ」
ラピュスとジージルの口からデガルベル鉱石が各国の軍にとってどれ程重要な鉱石なのかを聞かされたヴリトラとリンドブルムは真剣な顔で二人の姫騎士を見つめていた。そんな中、ヴリトラの脳内にはある疑問が浮上する。
「・・・このデガルベル鉱石なんだけどよ、五十年前から採掘されていないって言ったよな?」
「ああ」
「・・・もし、コイツの存在が明るみに出たらどうなる?」
ヴリトラは今自分達の目の前にある極めて危険な鉱石の存在が世間に知られた場合、どんな事が起きるのかを心配していた。嘗て軍事利用されていた鉱石が再び発見された。それを知れば各国の要人が黙っているはずがない。必ずデガルベル鉱石を手に入れようとレヴァート王国に交渉を持ち掛けて来るはずだ。そして、もし交渉が成立し、デガルベル鉱石を手に入れた他国がそれをどう使うのかは誰にでも想像がつく。
「デガルベル鉱石が手元にあれば他国との戦争が起きてもそれを戦争や交渉に利用して敵国を抑え込んだりする事ができる。争い事を起こす気が無いにせよ、手元に置いておけば安心だ。デガルベル鉱石を手にする為に大陸中の国々がレヴァート王国に交渉を持ち掛けて来るだろう・・・」
「やっぱりな・・・・・・俺はこの鉱石をこのまま隠した方がいいと思っている」
「何?」
「ちょっと、どういう事よ?」
ラピュスとジージルはヴリトラの言葉に驚きの表情を浮かべる。リンドブルムはヴリトラが何を考えているのか気付いているらしく、黙って彼を見上げていた。
「いいか?もしも他の国がデガルベル鉱石を手に入れる為にレヴァートに交渉を持ちかけ、交渉が上手くいきその国がデガルベル鉱石を手に入れたらどうなると思う?」
「それは・・・」
「それこそ、ラピュスが言った通り、戦争に利用したりするかもしれない。そうなったら昔の様に大陸中で戦争が起こる可能性だってある」
「だ、だが、それはあくまでも可能性だろう?お前の言うとおり本当に戦争が起こるとは・・・」
「起こるとは限らないって言い切れるのか?」
「う・・・」
ヴリトラの言葉にラピュスは言葉を詰まらせる。リンドブルムとジージルも黙って話を聞いている。
「今の状態だからこそ、この大陸では大きな戦争とかは起こらなかったんだ・・・・・・まぁ、一つだけ例外もあるけどな」
ストラスタ公国の事を思い出してヴリトラは若干声を小さくする。
「もしそこに、昔使われていた大きな力が加わったら今の世界バランスは大きく傾いちまう。そうなったら昔の様にまた国中で戦争が起こる可能性だってあるんだ・・・」
「そのデガルベル鉱石は存在してはいけない物です。僕もヴリトラの言うとおり、このまま隠した方がいいと思います」
「「・・・・・・」」
ヴリトラに続いてリンドブルムもデガルベル鉱石を見なかった事にしようと言い出し、ラピュスとジージルは考え込む。 ヴァルボルトや他国の王族が昔の王族の様に戦争を起こす様な行動をするとは二人は考えていない。だが、欲望とは不思議なもの。大きな権力や金銭を持っている者ほどより権力や金銭を欲すると言われている。ヴァルボルトがそんな国王でない事は二人は知っているが、他国の王族の事はまるで分からない。彼等が欲の為にレヴァート王国で発見されたデガルベル鉱石を手に入れる為に何をして来る可能性だってある。
デガルベル鉱石を手に入れるという事はそれだけ危険な立場になるという事だった。考えた末、ラピュスはヴリトラの方を向いて口を開く。
「・・・確かにお前達の言っている事も一理ある。だが、この洞窟にミスリルやオリハルコンの様な他の鉱石がある事は既に国は知っている。洞窟内を詳しく調べれば必ず発見されてしまう。隠すのは難しいだろう」
「陛下にこの事をちゃんとお話ししてデガルベル鉱石をどうするかを決めて頂いた方がいいわ。一応アンタ達の考えを伝えておくけど、これ以上は口を挟まない方がいいわよ?いくら陛下から信頼されていてもね」
ラピュスとジージルの言葉にヴリトラは彼女達を見つめる。七竜将は別の世界から来た存在。この国で起きた事を決めるのはその国の王族、自分にはこれ以上この国の政治に口を挟む資格はないと思ったのだろう。ヴリトラは目を閉じてゆっくりと頷く。
「・・・ああ、分かった。この事は陛下やパティーラム様達に任せるよ」
「うむ・・・陛下もきっとお前と同じお考えをされるはずだ。だから陛下達に任せて私達は私達のできる事をやろう」
デガルベル鉱石の事をヴァルボルト達に任せる事にし、ヴリトラ達は一旦洞窟から出る事にした。通って来た道を戻り、出口へと向かって行く。ヴリトラは歩きながら小型通信機のスイッチを入れて誰かに連絡を入れ始めた。
「こちらヴリトラ。皆、聞こえるか?」
ヴリトラは小型通信機を通して七竜将全員に連絡を入れた。リンドブルムも仲間達の状態が気になり小型通信機のスイッチを入れる。
「聞こえてるぜ」
「どうした?また何かあったか?」
小型無線機から聞こえて来たジャバウォックとニーズヘッグの声、他の七竜将も返事はしないが黙ってヴリトラ達の話を聞いていた。
「こっちは調査隊が見つけた例の鉱石洞窟に辿り着いた。これから別れて他に洞窟がないかを調査する。ジャバウォック、そっちはどうだ?」
「数分前にまたゴブリンとオークの襲撃を受けたが大丈夫だ。今は広い場所に出て周囲を調べている。今のところ鉱石のある洞窟とかは見つかっていない」
「そうか、またゴブリン達が出てくるかもしれないから注意しろよ?あとオーガにもな」
「分かってる、心配するな」
忠告するヴリトラにジャバウォックは笑いながら言う。
「ニーズヘッグ、そっちで何か変化はあったか?」
「いや、こっちは平和なもんだ。岩山の周囲を見てもこれと言った問題は起きていない」
「例の盗賊達のアジトがある森は?」
「此処からアジトである砦のてっぺん少しだけ見えるが盗賊達が何か動いている様子もない」
「分かった。もし盗賊達に何か動きがあったらすぐ教えてくれ」
「了解」
獅子王の牙にも動きが無いと聞いた七竜将全員は真剣な表情を見せている。人数や戦力も未知数である意味でゴブリン達よりも面倒な相手である為、常に注意しておかないといけない。
洞窟を歩いていたヴリトラ達は明るい明るい外に出る。洞窟の周りでは騎士達は周囲を警戒しており、四人が出て来た事に気付くと一斉に彼等の方を向いた。ヴリトラは洞窟を出ると足を止め、チラッと洞窟の方を見る。
「・・・それと、俺達が洞窟の中を調べた時にとんでもない物を見つけた」
「とんでもない物?」
「何よそれ?」
ファフニールとジルニトラが訊ねると、ヴリトラはデガルベル鉱石の事をジャバウォック達に話す。そしてジャバウォック達に話すのと同時に周りにいる騎士達にもデガルベル鉱石を発見した事を伝えた。ヴリトラはラピュスとジージルから聞いた事を全てジャバウォック達に話し、デガルベル鉱石の事を知っている騎士達は驚きの表情を浮かべてざわめき出す。
ラピュスとジージルは自分の部下達を落ち着かせ、何とか騎士達を静かになる。そんな騎士達の事を気にせずにヴリトラは話を続け、やがてデガルベル鉱石の事や鉱石を今後どうするかなどを全て話し終えた。
「デガルベル鉱石かぁ・・・そんな石がこの世界にあるとはな・・・」
「小石程度の大きさで荷車をふっ飛ばせるんだから、もしバレーボールぐらいの大きさの鉱石を使ったら50m四方は跡形もなく吹き飛ぶわね」
「そんな物が戦争で使われたらどれだけの被害が出るか計り知れないな・・・」
ジャバウォック、ジルニトラ、オロチの三人がそれぞれデガルベル鉱石の脅威を口にし、それを聞いた他の七竜将にも緊張が走る。
「とにかく、今後鉱石をどうするか決まるまでは王国で厳重に管理する事になった。ジャバウォック達は他に洞窟があるか探してそこにデガルベル鉱石があるかをチェックしてくれ」
「了解した」
「ニーズヘッグ達は引き続き岩山周辺の見張りを頼む」
「分かった」
各チームに指示を出すヴリトラ。その姿をリンドブルムは黙って見つめている。そんな時、リンドブルムが何かに気付いてフッと左上の方を見上げた。
「・・・どうした?」
「今、あそこで誰かに見られてた様な・・・」
ラピュスが訊ねるとリンドブルムはゆっくりと左上を指差した。視線の先には小さな足場があるがあり、約5mほどの高さだった。しかしそこには誰もいない。
「気のせいじゃないのか?」
「・・・・・・」
リンドブルムは気のせいと思えないのか難しい顔をして気配のした足場を見つめている。すると難しい表情のまま小型無線機に指を当てた。
「ちょっと待って」
「ん?どうしたんだ、リンドブルム?」
目の前にいるが、一応小型通信機でリンドブルムに訊ねるヴリトラ。小型通信機の向こう側ではジャバウォック達も突然会話に参加して来たリンドブルムの言葉に表情を鋭くする。
「・・・ニーズヘッグ、作戦開始前に君は話した事なんだけど」
「話した事?・・・ああぁ、あれか」
ニーズヘッグは作戦前にヴリトラに「少し気になる事がある」と言ったのを思い出す。それを聞いたヴリトラやラピュスもピクリと反応する。
「・・・どうやら、ニーズヘッグが予想した通りになりそうだよ?」
「「!」」
リンドブルムの言葉にヴリトラとラピュスはより表情を鋭くした。ジージルや他の騎士達もリンドブルムを見つめながら話を聞いている。ニーズヘッグが予想していた事、それはヴリトラ達にとってはとても面倒な内容だった。
その頃、岩山の西側にある森の中に一つの砦が立っていた。その砦はあちこちがボロボロで穴も開いており、雨が降れば中もずぶ濡れになるくらいの大きさだ。砦の四方にある見張り台ではガラの悪い男達が周囲を見待っている。皆、革製の鎧を着たり、弓や剣を持つなどの軽装だった。彼等こそ、ヴリトラ達が砦に棲みついている盗賊団、獅子王の牙だったのだ。
「おい、岩山の方はどうだ?」
「いつもどおりさ、何もねぇよ」
見張り台で二人の盗賊が望遠鏡を覗きながら岩山を見張っている。他の見張り台でも別の盗賊達が砦の周辺を見回している姿があった。
「ったく!ゴブリンやオークどものせいで岩山の鉱石を取りに行けねぇぜ。迷惑は話だ」
「だな・・・・・・おっ?偵察に行った奴が戻って来たぜ?」
岩山を見張っていた盗賊の一人が岩山の方から走って来る仲間に気付く。走って来た盗賊は砦の入口前で警備をしている盗賊達に何かを話して砦の中へ入って行った。見張りの盗賊達は別に気にする事無く再び岩山の方を見張った。
偵察から戻って来た盗賊は砦の奥へと入って行き、広い部屋に入る。そこには木製の長椅子に座って寛いでいる一人の男の姿があった。オレンジ色の短髪で顎鬚を生やした三十代半ば位の男、他の盗賊達と同じように革製の鎧を着て腰には剣が納められている。そしてその男の後ろで黒いフード付きマントを着て顔を隠しているもう一人の人物がいた。
「お頭!大変です、岩山でとんでもない事が起きました!」
「はあぁ?一体何なんだ?」
盗賊からの知らせを聞いて長椅子に座っている男は盗賊の方を向いて訊ねた。
「岩山に騎士団が現れて鉱石洞窟を手に入れやがったんです」
「何だとぉ?あそこは俺達が前から目を付けていた場所だぞ?第一、岩山にはゴブリンやオーク、そしてオーガが徘徊してるんだ。騎士団でもそう簡単には近づけねぇはずだろう、どうやって岩山の進んだんだ?」
「そ、それが見た事のない姿をした傭兵どもがいて、ソイツ等がゴブリン共を倒したらしいんです」
「はぁ!?オーガも倒したって言うのか?」
「そこまではちょっと・・・」
「がぁーっ!ハッキリしねぇな!分からねぇならさっさと調べて来い!」
「ハ、ハイ!」
怒鳴り付ける頭に驚きながら盗賊は部屋を後にした。残った頭は長椅子にもたれながら自分の後ろで壁にもたれているマントの人物の方を向く。
「・・・おい、お前はどう思う?」
頭が訊ねると、マントの人物は顔を隠しているフードをめくる。フードの下からは濃い黄色の外ハネの髪型をした二十代半ばの女性の顔があり、女性は頭の方を見ながら不敵な笑みを浮かべるのだった。
デガルベル鉱石と言う強大な力を持つ鉱石に恐ろしさを感じながらも調査任務を続けるヴリトラ達。そんな中、遂に獅子王の牙が動きを見せる。ヴリトラ達に新たな戦いの予感が迫るのだった。