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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第九章~力を秘めた鉱石~
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第百六十八話  作戦会議の始まり ラピュスとジージルの衝突

 鉱石が発見された洞窟のある岩山とその周辺をジージルの白銀剣士隊と共に調査する事を依頼された七竜将と懲罰遊撃隊。険悪な空気のままヴリトラ達は岩山へ向かう為にティムタームを出発する。

 ティムタームを出たヴリトラ達は岩山へ向かう為に真っ直ぐ北へ向かった。白銀剣士隊の隊員達は自分達と後をついて来る七竜将や懲罰遊撃隊の方をチラチラと不満そうな顔で見ている。彼等もヴリトラ達の活躍は知っていた。だが、やはり傭兵と懲罰を受けた騎士の隊が自分達よりも王族に信頼され、名を轟かせる事が気に入らないようだ。


「・・・隊長、どうしても彼等を連れて行かないといけないのですか?」


 隊の先頭を馬に乗って歩いている一人の女性騎士が隣にいるジージルに小声で訊ねた。


「仕方ないでしょう?姫様からの命令じゃ私達は従うしかないわよ」


 女性騎士の質問にジージルは前を向いたまましかめっ面で答える。その後ろには別の女性騎士と男性騎士が二人おり、不満そうな顔でジージルの背中を見ていた。


「そもそも、どうして陛下や姫様は私達白銀剣士隊ではなく、あんな傭兵や懲罰遊撃隊にセメリト王国の救援任務を任せたのかしら?それがまず納得できないわ!」

「隊長、落ち着いてください。陛下にもお考えがあったのでしょう」


 不満を口に知るジージルを宥める女性騎士。それでもジージルの口は止まらなかった。


「白銀剣士隊や青銅戦士隊は信頼できないとお考えなのかしら?だとしたら、王族の方々や団長も見る目をお持ちでないという事ね」

「隊長、その言葉、団長のお耳に入ったら大変ですよ?」

「団長がいないからこそ、こうして言いたい事を言えるんじゃない?・・・アンタ達も、分かってるわよね?」


 前を向いたまま後ろの騎士三人に「口外するな」と威圧するジージル。三人は無言のまま頷き黙っている事を伝えた。

 白銀剣士隊の後ろでは七竜将と懲罰遊撃隊がゆっくりと後をついて行き、周りの景色を眺めたり、地図を見たりして場所を確認していた。


「今はティムタームと目的地の中間あたりね」

「ああ、ティムタームを出て約一時間、もう一時間もすれば岩山に着くだろうな」


 バンの中で地図を見ているジルニトラと運転をしながら到着予定時間を話すジャバウォック。オロチは後部座席に座りながら腕を組んで外を眺めており、リンドブルムは助手席から前をジーっと見ている。


「そう言えば、これから行く岩山の近くにはゴブリンやオークが棲みついている森があるんだったよね?」


 リンドブルムが後部座席の方を向いて訊ねるとジルニトラは地図を見ながら目的地の岩山の周辺を確認した。


「ええ、岩山のふもとに大きな森があるわ。多分そこがゴブリン達の住処でしょうね。しかもその森は岩山の入口近くにあるから岩山に入る前にゴブリン達と遭遇する確率が高いわ」


 ジルニトラは地図を見て森の位置を確認しながらゴブリンやオークと遭遇する確率を計算する。それを聞いてリンドブルムとジャバウォックも表情を鋭くした。


「それだけではないと思うぞ・・・?」

「え?」


 黙って外を眺めているオロチが会話に参加し、ジルニトラはオロチの方を向く。


「ゴブリンとオークの正確な数は分かっていないとガバディア団長は言っていた。もしかすると、岩山にいる連中と森にいる連中に分かれている可能性だってある・・・」

「それってつまり・・・」

「私達が岩山に入った瞬間に岩山で食料を探している連中と森に残っている連中に挟まれる可能性だってあるという事だ。そうなったら私達に逃げ道はない・・・」

「確かにね。しかも私達は岩山での戦いには慣れていないわ・・・それに引き替え、ゴブリンやオーク達は岩山に慣れている。明らかにあたし達が不利だわ」


 岩山に入った時に地の利を得ているゴブリンやオーク達とどう戦うかを考えだす。するとそこへラランが馬に乗ってバンの隣までやって来て後部の窓ガラスとノックする。ジルニトラは考えるのをやめて後部の窓ガラスを下ろした。


「どうしたの?」

「・・・休憩に入るって」

「OK、分かったわ・・・ララン、ヴリトラやラピュスに休憩に入ったら一度集まるようにって伝えてくれる?岩山に到着した後の事を色々話したいの」

「・・・分かった」


 ジルニトラの頼みを聞いたラランは無表情で頷く。馬を動かして前へ進もうとした。すると、何かを思い出したラランは馬を下げて再びジルニトラの下へ戻る。


「・・・ジージル殿には伝える?」

「・・・う~ん、あの子があたし達の話を聞くとは思えないのよねぇ~」

「・・・放っておく?」

「でも、後で『何勝手き決めてるのよぉ!?』って文句を言われても面倒だしねぇ・・・・・・一応伝えておいてく」


 めんどくさそうな顔のジルニトラを見てラランは頷いて馬を前へ進ませる。それからしばらくして、ヴリトラ達は小さな林の入口前で休憩を取り、馬や兵士達を休ませた。七竜将は騎士達は自動車は馬に乗っている為、徒歩の兵士達よりは疲労が少ないが馬に乗り続けているだけでも疲労が溜まる為、彼等もこまめに体を休ませる必要がある。

 兵士達が木製の水筒に入った水を飲んだり、木陰で体を休めている時、七竜将はラピュスとアリサと共に岩山に着いた後の事について話し合っていた。


「岩山の入口は俺達が向かっている岩山の南側と北東に2K行った所にある此処の二つだけだ」


 ヴリトラはジープのボンネットの上に地図を広げて岩山の入口の数と位置を確認している。ラピュスや他の七竜将も地図を見下ろして入口の場所をチェックした。


「このまま林を抜けると一番近い入口の前に出るが、そこはゴブリン達が棲みついている森が近くにある。かなり危険だな・・・」

「でも、もう一つの入口の方は岩山の道が狭くて崖なんかも沢山あります。ゴブリンやオークも避けて通っているので彼等と出くわす心配はありませんが楽に進めるとい訳ではありませんね」


 ラピュスとアリサがどちらの入口もハイリスクだと話しながら難しい顔を見せた。ヴリトラ達も同じような顔をして地図を見下ろしている。そこへラランがジージルと二人の女性騎士を連れて来た。


「・・・連れてきた」

「ありがとね、ララン」


 リンドブルムがラランに礼を言うと、ラランはリンドブルムの隣まで来てジージル達の方を向く。ジージルはめんどくさそうな顔でヴリトラ達の方を見る。


「一体何なのよ?私達は岩山に着いた後の事で色々話してて忙しいんだけど?」

「俺達もその事を話してたんだよ」

「あらそう?・・・それで、何かいい案で浮かんだの?」

「いいや、今のところは岩山に二つの入口があって、どちらも危険だって事しか分かっていない」


 ヴリトラの言葉にジージルはジト目で彼を見つめ、深く溜め息をついた。


「あのねぇ、こっちは忙しいのよ。ちゃんと作戦が決まったら呼んでちょうだい!と言うより、アンタ達傭兵の浅知恵を聞いてる時間なんて私達にはないの。失礼するわよ」


 ジージルはヴリトラ達に背を向けて戻ろうとする。そんなジージルの背中をラピュスは鋭い視線で見つめた。


「ジージル殿の考えも浅知恵でなければよろしいのですけどね?」

「んん?」


 ラピュスの低い声にジージルは足を止めてゆっくりと振り返る。二人は互いに相手をジッと睨み合う。休んでいた白銀剣士隊の兵士達や懲罰遊撃隊の騎士達は二人を見て体に緊張を走らせた。


「私の考え方が浅知恵、それは聞き捨てならないわねぇ?」

「七竜将がどんな作戦を練るのかも分からないのにそれを勝手に浅知恵と決めつける者の考える作戦などロクなものではないと私は思っています」

「・・・私も」


 ラピュスに賛同するララン、アリサは悪くなる空気にオドオドして両者を交互に見ていた。ヴリトラもそんな会話を見て「やれやれ」と言いたそうに頭を掻く。


「随分と好き放題言ってくれるじゃない、懲罰隊の姫騎士の分際で・・・」

「そこまで言うからにはそこの傭兵達は我々では考えられない様な作戦を練る事ができるのだろうな?」


 ジージルと連れの女性騎士が言い返すとラピュスとラランは真剣な顔でジージル達を見つめる。


「私達は七竜将を信じています。そしてそんな彼等の作戦なら必ず成功すると、確信していますから!」

(おいおい、そこまで言わなくてもいいんだぞぉ・・・?)


 自分達を持ち上げるラピュスを見てヴリトラは心の中でラピュスを宥める様に呟く。そんなヴリトラの事も気にせずに睨み合うラピュスとジージル。するとジージルは腕を組み七竜将をチラッと見た後、再びラピュスの方を見た。


「・・・いいわ、なら七竜将の作戦がどれ程のものか見せて貰おうじゃない」

「え?」


 ジージルの意外な言葉にヴリトラは思わず声を出し、他の七竜将も少し驚きの顔でジージルの方を向く。


「今回の任務は七竜将の作戦に従って行う事にするわ。でも、もし途中で七竜将の作戦が失敗したり、予期せぬ事が起きた場合は私達は自由に動かさせてもらうわよ?そして、もし身の危険を感じたら私達はアンタ達を置いて退却するから」

「・・・いいでしょう」

(いや、だから勝手に決めるなって!)


 自分達の事を放っておいてどんどん話を進めて行くラピュスにヴリトラは心の声でツッコミを入れる。そんなこんなで話は終わり、ジージル隊は七竜将の作戦に従う事となった。

 話し合いが終わった後、ジージル達は戻って行き、残った七竜将と姫騎士三人は作戦を練り始める。


「まったく!勝手に話を進めて、どういうつもりだ!?」

「す、すまない・・・」


 腕を組みながら怒るジャバウォックにラピュスはシュンとした顔で謝罪する。周りではリンドブルム、ニーズヘッグ、ジルニトラが呆れ顔でラピュスを見ており、ファフニールとアリサは少し困った様な顔を見せ、ラランとオロチは無表情のままラピュスとジャバウォックを見ていた。


「まぁまぁ、それくらいにしてやれよ、ジャバウォック」

「ヴリトラ!お前も何呑気に言ってるんだ?」

「済んじまった事は仕方がないさ。それにラピュスは俺達の為に言ってくれたんだ。結果、ジージル達は俺達の作戦に従ってくれる事になったんだし、今回は大目に見てやってくれ」


 ラピュスをフォローするヴリトラを見てジャバウォックは視線をラピュスへ移し、しばらく黙り込む。そして小さく溜め息をつき腕を下ろした。


「・・・分かったよ。以後、気を付けてくれよ?」

「ああ、分かった」


 ジャバウォックもラピュスを許して話を終わらせる。全員が落ちついたのを確認してヴリトラはラピュス達の方を見ながらボンネットの上に広げられている地図の上に手を置いた。


「さて、何だかめんどくせぇ事になっちまったけど、ジージルの部隊が俺達の作戦に乗ってくれるって言うんだから、少しはやりやすくなったって事だ」

「ああ、それでどうするんだ?」


 ラピュスが作戦の内容を訊ねるとヴリトラは地図に描かれてある岩山の入口を指差す。


「作戦は単純だ。二つある入口の両方から岩山へ入り、出くわしたゴブリンやオークを倒しながら岩山とその周辺を調べるんだよ」

「ほ、本当に単純だな・・・?」

「そんな作戦じゃ、ジージル殿達が呆れて気が変わっちゃうかもしれませんよ?」

「まぁ、最後まで聞けって」


 ラピュスとアリサを落ち着かせながらヴリトラは話を続ける。


「まず戦力を三つに分け、一つはゴブリンとオーク達の棲みついている森の近くにある入口に、もう一つは道の狭い入り難い入口の方へ行く」

「ちょっと待ってくれ、ヴリトラ。さっき戦力を三つに分けると言ったが、それはどうしてだ?」


 ラピュスが戦力を三つに分ける理由が分からずにヴリトラに訊ねる。ヴリトラは広げられている地図を真剣な表情で見つめた。


「・・・三つ目の部隊は保険だよ」

「保険?」

「・・・・・・ラピュス、例の獅子王の牙って言う盗賊団の隠れ家が何処にあるか分かるか?」

「ん?・・・・ああぁ、団長から聞いて来たからな」


 ラピュスはヴリトラの隣まで来ると地図を見て獅子王の牙の隠れ家のある場所を確認する。しばらくしてラピュスは地図の一点を見つめて指を差した。


「此処だ」

「・・・岩山の西側にある森の中か」

「ああ、この森には昔戦争で使われていた古い砦があるんだ。獅子王の牙は一ヶ月前にその砦に移り住んだと聞いている・・・・・・もしかして、さっきの三つ目の戦力はこの盗賊への保険か?」

「まあね。奴等が出て来た時にその三つ目の戦力を向かわせるつもりだったんだ」


 隠れ家の場所を確認したヴリトラは地図をジッと見つめながら考える。自分達の現在の居場所は岩山の丁度南側にある林の手前、獅子王の牙の隠れ家がある森は岩山の西側、そしてゴブリンとオークが住んでいる森はヴリトラ達のいる南側の岩山のふもとにある。それらを計算してヴリトラは考え続けた。その後ろでは他の七竜将も考えている姿がある。

 しばらくすると、考え込んでいたニーズヘッグが地図を見てある事に気付く。獅子王の牙の隠れ家がある森だった。森は岩山のすぐ隣にあり、歩いても十数分で着ける位置にある。


「ラピュス、岩山の西側には入口みたいなところはあるの?」

「西側?森の中にか?」

「ああ」

「いや・・・砦があるとは聞いているが、岩山への出入口はあるとは聞いて事がないな・・・」

「・・・・・・」

「何か気になるのか?」


 ヴリトラがニーズヘッグの方を向いて訊ねる。ニーズヘッグは腕を組みながら目を閉じて黙り込む。一同はニーズヘッグの方を向いてしばらく彼を見つめる。するとニーズヘッグは目を開いてヴリトラの方を向いた。


「ヴリトラ、実は少し気になる事がある」

「んん?」


 真面目な顔のニーズヘッグを見てヴリトラは小首を傾げた。それからニーズヘッグの話を聞いたヴリトラ達は作戦を少し変更し、それをジージル達に伝えた。アリサの言った通り、作戦の内容を聞いたジージル達は呆れ顔で文句を言ったが細かい内容を説明したら一応納得する。そして休息終えたヴリトラ達は出発した。

 出発してから二十分後、ようやく林を抜けたヴリトラ達は出口の前で足を止めた。遠くには目的地の岩山が見え、そのふもとには沢山の森がある。


「・・・あれが例の岩山よ」


 先頭のジージルが馬に乗りながら岩山を見つめ、バンを下りたヴリトラがジージルの隣までやって来て同じように岩山を見つめた。


「この分だと、あと三十分か四十分で着くな」

「・・・このまま道を真っ直ぐ行った先に岩山への入口があるのが見える?」

「ん?・・・左右を森に挟まれている場所か?」

「ええ、その右側の森がゴブリンとオークの棲みついている森よ」

「ふ~ん、思ってたよりもデカいな」


 森の大きさを見て意外そうな顔をするヴリトラ。そんなヴリトラを見ながらジージルは疑う様な視線を向けていた。


「・・・ところで、アンタ達が立てた例の作戦、本当に大丈夫なんでしょうな?もの凄く単純な内容だけど・・・・」

「おいおい、まだ言うのかよ?さっき納得してくれたじゃねぇかよ」

「フン、不安だから言ってるのよ」

「ハァ・・・何とかなるさ。少なくても最悪の事態にはならないはずだ」

「その自信、何処から出てくるのかしらねぇ」


 帽子を直しながらブツブツ言うジージル。一通りふもとの辺りを確認したヴリトラは振り返りジープの方へ歩き出す。


「それじゃあ、手筈通りに行くから頼んだぜ?」

「アンタ達こそ、しくじるんじゃないわよ?」

「分かってるって」


 そう言ってヴリトラはジープに戻り、それを確認したジージルは部隊に合図を送ろ再出発をする。そして七竜将と懲罰遊撃隊もその後に続いて岩山へと向かって行った。

 目的地へ向かう途中で小さな揉め事もあったが、何とか岩山が確認できる所まで来たヴリトラ達。いよいよ岩山とその周辺、鉱石洞窟の調査が始まる。果たしたこの先、彼等にどんな出来事が待ち構えているのだろうか。


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