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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第九章~力を秘めた鉱石~
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第百六十七話  鉱石洞窟の調査 毒舌姫騎士ジージル


 より強くなる為に訓練場を作り、そこで訓練をするようになった七竜将と懲罰遊撃隊。訓練をしていると、そこにパティーラムとガバディア、そして白銀剣士隊のジージルが訪問し七竜将に新しい仕事を依頼するのだった。

 パティーラムの訪問で訓練を終了し、懲罰遊撃隊を解散させた後、七竜将とラピュス、ララン、アリサの三人はパティーラム達から詳しい話を聞く為にズィーベン・ドラゴンに向かう。そこで三人から詳しい依頼の内容を聞く事になった。


「パティーラム様、どうぞ」

「ありがとうございます」


 来客フロアのテーブルにつくパティーラムに冷たい飲み物の入った木製コップを出したジルニトラはゆっくりと後ろに下がった。パティーラムの向かいの席にはヴリトラとラピュスが座っており、その後ろにリンドブルム達とララン達が立っている。そしてパティーラムの後ろにはガバディアとジージルが控えていた。


「フ~ン、此処が七竜将の拠点なのね・・・?」


 ズィーベン・ドラゴンの来客フロアを見回すジージル。ごく普通の民家と同じ造りだが、所々に置いてあるノートパソコンや七竜将の世界の本など初めて見る物を見つけては少し興味のありそうな表情を見せた。


「ジージル、あまりキョロキョロするな。失礼だぞ?」

「分かってます」


 ガバディアの注意されて目を閉じながら返事をするジージル。そんな二人を後ろにしてパティーラムはヴリトラの方を見て話を始めた。


「改めまして、皆さんに依頼したいお仕事があります」

「その仕事の内容とは?」

「ある洞窟とその周辺の調査です」

「洞窟?」


 パティーラムが口にした依頼の内容を聞いたヴリトラや周りのラピュス達は少し意外そうな顔を見せる。自分達に依頼するくらいだからどんな困難な依頼かと思ったが、予想していたもの違い簡単な依頼内容で少し拍子抜けしたようだ。


「数日前、ティムタームから北に10K程行った所にある岩山に洞窟があるのを発見したのです。その洞窟を調べたところ、洞窟内に大量の鉱石がある事が確認されました」

「鉱石?」

「ハイ、それも一種類ではありません。ミスリル、クリスタル、オリハルコンなど複数の鉱石が大量にあるのです」

「複数の鉱石が大量に・・・」


 ヴリトラの隣で話を聞いていたラピュスは驚きのあまりまばたきをしながら呟く。彼女の後ろにいたラランとアリサも驚いている。


「ミスリルやオリハルコンなどの鉱石は加工して様々な武器や防具の材料として使われています。王国としてはどうしてもその洞窟にある資源を確保しておきたいのです」

「それで俺達にその洞窟や周辺を調べてほしいと?」

「ハイ、鉱石のある洞窟が一つあれば周辺に同じ様な洞窟がある可能性がありますから」


 パティーラムの話を聞いてヴリトラは「成る程」と言いたそうに数回頷く。


「報酬は6500ティル、更に同じ様な洞窟を見つけた時には報酬を増やすという形になっています。そして、鉱石の一部を報酬に付け足すと・・・」

「・・・一つ聞いてもいいですか?」

「何でしょう?」


 質問をしてきたヴリトラにパティーラムが聞き返し、周りのラピュス達もヴリトラの方に注目する。


「どうして俺達のこの依頼を?洞窟や周辺の調査ぐらいなら白銀剣士隊や青銅戦士ブロンゼム隊を行かせればいいど思いますけど・・・」


 なぜわざわざ大金を掛けてまで簡単な仕事を自分達に依頼しに来たのか、その理由が分からないヴリトラはパティーラムに訊ねる。その考えはリンドブルム達、他の七竜将やラピュス達も同じだった。パティーラムはヴリトラの質問にしばしの間を空け、やがてゆっくりと口を動かしす。


「・・・実はその洞窟が岩山のすぐ近くには大きな森があり、そこには大量のゴブリンやオークが棲みついているんです」

「ゴブリン?ゴブリンって、あの悪さをする妖精のゴブリンの事ですか?」

「それ以外に何がいるって言うのよ?まったく、ゴブリンも知らないでよく傭兵なんてやってられるわね」


 ゴブリンの事を訊ねるヴリトラをジージルが小馬鹿にする様に言い放つ。そんなジージルをヴリトラやリンドブルムがムッとしながら目を細くしてジージルを見つめる。そんなジージルの頭にガバディアが軽くチョップを撃ち込む。


「そういう挑発的な態度はやめろ、これから任務を共にする者達だぞ?」

「ムゥ~・・・」


 叩かれたところを押さえながら不貞腐れた顔を見せるジージル。二人の会話を聞いていたラピュスは何かに気付いてまばたきをしながら二人を見ていた。

 ガバディアとジージルに背を向けながらパティーラムは少し大きめな声で咳き込む。それを聞いた二人は静かに姿勢を直す。


「すみません、お話の途中でしたのに・・・」

「いえ、別に大丈夫です」

「では、お話を戻します。そのゴブリンやオークは棲みついている森以外にも岩山にある食料を求めて徘徊しており、岩山に入る者達に襲い掛かって来るのです。鉱石や洞窟の事を調べた者もゴブリン達に襲われましたが、運よく逃げ切る事ができました」

「ゴブリンだけならともかく、体が大きく力のあるオークがいるとなると、流石に普通の兵士や騎士ではどうにもならんのだ。しかもソイツ等の正確か数は分からず、どれだけの規模の部隊を編制すればいいのかも分からん」

「更に岩山の近くには『獅子王の牙』と呼ばれる盗賊団の隠れ家もあります。彼等もその洞窟の鉱石を手に入れる為に岩山の近くに隠れ家を作ったらしいのですが、ゴブリンとオークが徘徊するせいで岩山に近づこうとしません。もし大規模な部隊で岩山に向かったら彼等にも気付かれてしまい二つの戦力を相手にしないといけない事になります」

「確か・・・それなら少人数で実力のある者達で編成された部隊を送った方がいいですね・・・」


 パティーラムとガバディアの話を聞きながらヴリトラは腕を組んで考える。


「それがヴリトラ達に依頼した理由ですな?」

「ハイ、彼等なら必ずやり遂げてくださると私は信じていますから」


 ラピュスの質問にパティーラムは微笑みながら答えた。しばらく考え込むヴリトラはパティーラムの顔を見て頷いた。

 

「分かりました、その依頼お受けします」

「ありがとうございます」


 依頼を引く受けたヴリトラにパティーラムは笑顔で礼を言う。ガバディアも笑いながらヴリトラ達を見ており、ジージルは若干気に入らなそうな顔でソッポ向く。

 一通りの話が済むとラピュスは何かを思い出したような表情でフッと顔を上げてパティーラム達の方を向いた。


「ところで、一つ気になってたんですけど・・・」

「何だ?フォーネ」

「さっき、ジージル殿と団長が任務を共にするとか話してましたが、あれは一体・・・」

「おおぁ!そうだ、忘れていた」


 ガバディアは手の平をポンと叩いて何かを思い出す。ヴリトラ達はガバディアを見ながら不思議そうな顔を見せる。


「実はその調査任務にはジージルの部隊も同行する事になっているのだ」

「・・・フン」


 ガバディアの隣で再びソッポ向くジージル。その話を聞いたヴリトラ達は驚きながらジージルを見つめた。


「えぇ?ジーンズも一緒に来るんですか?」

「だから、私はジージルだって言ってるでしょう!」


 リンドブルムに続いて名前を間違えるヴリトラにジージルは目くじらを立ててツッコんだ。ガバディアはジージルの頭をポンポンと軽く叩きながら笑っている。


「ああ、今回はジージルの部隊と同行して調査してもらう。コイツは性格には問題はあるが姫騎士としての実力は確かだ。それはお前達もよく知っているだろう?」

「ええ、確かに・・・」


 リンドブルムは武術大会の時に自分と戦ったジージルの姿を思い出す。


「ゴブリンやオークは接近戦を得意としている。遠距離から攻撃するジージルの弓部隊がいれば戦いも有利になるはずだ」

「成る程」


 ヴリトラはジージルがついて来ると自分達への負担も減ると考えて納得する。


「・・・あたし達の銃器があれば問題ないと思うけど」

「シッ!」


 ガバディアとジージルに聞こえないようにジルニトラとファフニールはヒソヒソと話す。周りでその会話を聞いたジャバウォック達は視線だけで二人を見ながら小さく溜め息をつく。

 ジージルの事も話し終え、全てを話し終えたパティーラムはヴリトラ達をジッと見つめる。


「では、改めまして七竜将、ジージル隊と共に鉱石洞窟とその周辺を調査をする事を依頼します。ゴブリンやオーク、そして獅子王の牙の者達が襲って来た場合は迷わず彼等と戦ってください。そして、もし危険だと判断したら迷わず逃げてください。資源の確保よりも身の安全を優先に・・・」

「お気遣いありがとうございます、姫様。ですが、私達は大丈夫です」

「そうですよ。それに私達以外にも七竜将がついているんですから」

「・・・それを言うのは騎士としてどうかと思う」


 笑うアリサをジト目で見ながら呟くララン。アリサも思わず口が滑ったと言わんばかりにハッとし汗を流した。それを見た七竜将は苦笑いをしており、ラピュスはアリサとラランの会話に思わずため息をついた。ガバディアは「やれやれ」と言いたそうに顔に肩手を当ており、パティーラムもクスクスと笑ってラピュス達を見ている。


「ウフフフ、頑張ってくださいね?」

「・・・出発は明日の朝だ。正門の前に集合だから、遅れるなよ?」

「ハ、ハイ!」


 ラピュスはガバディアの方を向いて姿勢を正しながら返事をする。仕事の話が終ると、パティーラム達はズィーベン・ドラゴンを後にした。残った七竜将は明日の準備に入り、ラピュス達も仲間の騎士達の調査任務の事を知らせに向かうのだった。


――――――


 翌朝、町の正門前には七竜将のジープとバンが停まっており、その隣には懲罰遊撃隊が馬に乗って待機している。そして七竜将と懲罰遊撃隊の前にはジージルを先頭にした白銀剣士隊の一個小隊の姿があった。騎士達は皆ジージルと同じように白銀に鎧を白いマントを身に付けており、騎士剣や弓矢を持っていた。レヴァート兵達の殆どが弓矢を装備している。まさに遠距離戦を得意としている騎士隊だった。


「殆どの騎士や兵士が弓矢を持ってるね?」

「まぁ、隊長である姫騎士が弓騎士だからな・・・」

「遠距離戦では敵無しだけど、敵に近づかれたら危ないんじゃないかな?」

「当然それを補う手だって打ってあるだろう。それに、多分これだけ遠距離戦に力を集中させた部隊なら敵に近づかれる前にほぼ壊滅させちまうさ」


 ジージルの部隊の隊員達を見てジープの運転席と助手席に乗るニーズヘッグとファフニールが感想を口にする。後部座席ではヴリトラが座って積まれている持ち物をチェックしており、その隣では馬に乗ったラピュスが待機していた。


「噂には聞いていたが、まさかここまで弓兵が多いとはな・・・」

「どういう事だ?」


 ヴリトラはラピュスの方を向いて訊ねるとラピュスはヴリトラの方をチラッと見る。


「ジージル殿の部隊は白銀剣士隊の中でも弓に優れている者達ばかりで編成されており、これまで何度もならず者や敵国の部隊を接近される前に壊滅させてきたのだ。ストラスタ公国との戦争の時も幾つものストラスタ軍の部隊を倒したとか」

「遠距離戦のスペシャリストという訳か・・・」

「スぺ?・・・何だ?」

「スペシャリスト、特定の分野を専門としている人達の事だ。俺達の世界ではそういう人達をスペシャリストって言うんだよ」

「そ、そうなのか・・・相変わらず難しいんだな、お前達の世界の言葉は・・・」


 ヴリトラとラピュスが呑気に会話をしていると、部隊の先頭にいたジージルが馬に乗りながらヴリトラ達に近づいて来る。ジープの前で馬を止めるとジープに乗るヴリトラ達やラピュスを目を細くして見つめた。


「そっちの準備は終わったの?」

「ああ、何時でも行けるよ」

「あっそ・・・先に言っておくけど、足を引っ張るような事だけはしないでよね?姫様直々のご命令を傭兵のせいで失敗したなんて事になったら恥ずかしいもの」

「んん?」


 ジージルの言葉にヴリトラはジロッとジージルを見つめ、ニーズヘッグとファフニールも不愉快な気分になりジージルを睨む。


「ジージル殿!その物言いはいかがなものかと思います」


 ラピュスがヴリトラ達に代わってジージルに抗議する。ジージルも目を細くしたままラピュスの方を向く。


「彼等はこれまでも国の為に多くの依頼をこなして来た優秀な傭兵です。そんな彼等が足を引っ張るはずがありません!」

「あら、随分コイツ等の肩を持つじゃない?コイツ等が足を引っ張らないってどうして言い切れるのよ?」

「私は、いいえ、私達はこれまで何度も彼等の戦いを見てきました。彼等は決して失敗などしません!」

「でもこの前のセメリト王国からの救援依頼ではセメリトの一騎士隊を守れなかったって聞いてるけど?」

「クゥ!貴方と言う人は・・・!」


 小さく笑いながら七竜将を侮辱するジージルを見てラピュスは歯を食いしばる。するとヴリトラが立ち上がりラピュスの肩に手を置く。


「ラピュス、もういいよ」

「だが!」

「彼女の言うとおり、俺達がセメリト王国の騎士達を守れなかったのは事実なんだからな」

「・・・クッ!」


 ヴリトラに止められてラピュスは渋々口を閉じる。二人の会話を見ていたジージルは不敵な笑みを浮かべていた。


「フッ、そっちのお兄さんは少しは話が自分の立場を理解している様ね?アンタも少しは見ならないなさいよ?」


 ジージルが挑発する様に笑いながらラピュスに言い放つ。すると、ジープの後ろに停めてあるバンからリンドブルムが出て来てジージルの方へ歩いて行く。


「ジージルさん、そう言う貴方こそ、白銀剣士隊の姫騎士でありながら武術大会の時に子供の僕に負けたじゃないですか?」

「ん?・・・何が言いたいのよ?」


 歩いてい来るリンドブルムをジッと睨みながら訊ねるジージル。リンドブルムはラピュスの隣まで来て馬に乗っているジージルを見ながら笑った。


「任務に失敗した傭兵よりも子供の傭兵に惨敗した優秀な姫騎士の方がずっと恥ずかしいと僕は思いますけどね?」

「なっ!?」


 武術大会の事を話し出すリンドブルムを見てジージルは思わず声を漏らした。それを聞いたヴリトラ、ニーズヘッグ、ファフニールはジージルを見てニッと笑い、アリサ達懲罰遊撃隊の騎士達も笑いを堪えていた。そしてジージルの部隊の兵士達も俯きながら笑いを我慢している。

 ジージルは周りを見回して顔を赤くし、リンドブルムも睨み付ける。そして馬を動かして先頭の方へ戻って行った。


「・・・やるな?リンドブルム」

「ああいうプライドのある人は自分の恥ずかしい過去を突きつけられただけであんな風になるから」

「ハハハ、そうだな」


 ヴリトラとリンドブルムは去って行くジージルの背中を見ながら楽しそうな顔を見せる。すると二人は今度はラピュスの方を向いてニッと笑った。


「ラピュス、ありがとね?僕達をフォローしてくれて」

「え?い、いや・・・」

「確かに俺達はセメリトの任務は失敗した。だけど、お前みたいに俺達の事を心から信頼してくれる奴がいれば俺達は頑張る事ができるんだ」

「ヴリトラ・・・」

「今度はセメリトの時の様にはさせない。必ず任務を成功させるさ!」

「・・・ああぁ!」


 ヴリトラの顔を見たラピュスも笑顔で頷く。そして遂に正門が開いて橋が降りる。ジージルを先頭に白銀剣士隊と七竜将、懲罰遊撃隊は鉱石洞窟を調査する為に北の岩山に向かって出発するのだった。

 新たな任務をパティーラムから受けたヴリトラ達。その任務に同行する姫騎士ジージルとその指揮下の白銀剣士隊。相性の悪い相手にヴリトラ達は上手く依頼をこなす事ができるのだろうか・・・。


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