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機械鎧(マシンメイル)は戦場を駆ける  作者: 黒沢 竜
第九章~力を秘めた鉱石~
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第百六十六話  強くなる為に! 訓練場の戦士達

 晴天の真昼、夏の終わりが近づき、涼しい風が吹いているレヴァート王国の首都ティムターム。その商業地区の街道には大勢の町の住民が買い物をしている姿があった。皆、野菜や魚、パンなどを買い街道はとても賑わっている。

 人々が出店の前で売り物を見たり買ったりしている姿の中にリンゴやパンなどの食料に入った紙袋を持つヴリトラとオロチの姿があった。どうやら食料の買い出しに来ていたようだ。


「パンに野菜、リンゴにミルク、一通りに物は買えたな」

「あとは酒の類だけだ・・・」

「酒かぁ、うちは半分以上が酒を飲むからなぁ。酒代が洒落にならないよ」

「お前もその酒飲みの一人だという事を忘れるな・・・?」

「アハハハ、ごもったもです」


 オロチに痛いところを突かれて苦笑いを見せるヴリトラ。二人はそんな会話をしながら酒を取り扱っている店へ向かう。


「・・・セメリト王国の救援任務からもう二週間になるな」

「あの任務は私達にとっては屈辱的な失敗だった・・・」

「そこまで言う事でもないだろう?」


 無表情のまま前を向いて話すオロチの隣でヴリトラはオロチの方を見て言う。

 二週間前、セメリト王国の救援依頼から戻ったヴリトラ達はヴァルボルトに依頼の内容を説明し、セメリト王の親書を渡した。その内容にヴァルボルトやその場にいたパティーラム、ガバディアは残念そうな顔を見せてたいたが、セメリト王国騎士隊をブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士部隊を倒し、彼等から騎士達を守った事も事実だ。故にヴァルボルト達はヴリトラ達を責める事も無く、罰を与える事も無かった。


「あの戦いで俺達はジークフリートとの実力差とブラッド・レクイエムにはデーモンの様に手強い相手がいる事が分かった。今の俺達では何時かは奴等に勝てなくなっちまう」

「だからお前はあんな事を提案したのだろう・・・?」

「ああ、俺達がより強くなる為の訓練をな」


 真剣な顔でヴリトラは前を向きながら頷く。ヴァルボルトへの報告を終えた後、ヴリトラはラピュス達やリンドブルム達を集めて会議を開いた。そしてその時に自分達がこれからブラッド・レクイエム社の機械鎧兵士と互角に戦えるように七竜将、懲罰遊撃隊の共同訓練する事を提案する。勿論、七竜将は全員が賛成し、ラピュス達もこれから何度も戦う事になるであろう、機械鎧兵士と互角に戦えるようになる為の訓練に賛成した。それから一週間を掛けて訓練をする為の場所、道具を集めて一週間前にようやく全ての準備を終えて訓練が始まったのだ。


「訓練を始めて一週間、みんな少しずつ強くなっていってるな」

「騎士達は順調だが、私達はそう上手くは行かないだろう・・・」

「まぁ、確かにな。俺達七竜将は互いに相手の技術や力量なんかも知り尽くしているし、互いの腕が落ちないよう模擬戦闘をする事はできてもそれ以上に強くなるのは難しい。俺達よりも強い人、もしくは俺達の知らない技術を持つ人と訓練しない限りはな」


 懲罰隊が強くする事はできるが、七竜将は強くなるのは難しいという状況にヴリトラ達は頭を悩ませていた。これでは何時まで経っても自分達の腕は上がらないままだと行き詰っているのだ。


「・・・私達よりも強い戦士はこの世界にも大勢いる、お前は前にそう言ったな・・・?」

「ああ」

「だが、私達はまだそんな戦士には出会っていない。そんな状況で私達が強くなる方法は新しい武器や兵器を使うか、敵の技術を盗みそれを我が物とするしかない・・・」

「分かってるよ。とにかく、今は俺達にできる事をやろう」


 自分達が強くなるにはどうすればいいか、それを話しながらヴリトラとオロチは街道を歩く。何時までも悩むよりは自分達が理解している方法を実行する事が一番効率が良いと思ったのだろう。

 酒屋にやって来たヴリトラとオロチは幾つか酒を買って店を出る。酒場でも買う事ができるのだが、高い上に品揃えも悪い為、安く数も多い店を訪ねたのだ。酒を買った二人は店の前で勝った荷物を確認する。


「これで買う物は全部買ったな?」

「ああ・・・」

「それじゃあ、帰りますか。この後にも訓練があるしな」

「ヴリトラさ~ん、オロチさ~ん!」


 二人はズィーベン・ドラゴンに戻ろうと歩き出した時、遠くからアリサの声が聞こえて来た。ヴリトラとオロチが声のした方を向くと手を振って走って来るアリサの姿を見つける。


「アリサ、どうしたんだ?こんな所で」

「ズィーベン・ドラゴンに向かっていた時にお二人の姿をお見かけしたので声を掛けただけです」

「そうか。俺達もこれから戻るつもりだけど、一緒に行くか?」

「ハイ!」


 アリサは笑いながら返事をし、三人はズィーベン・ドラゴンに向かって歩き出した。


「そう言えば、お前さっきズィーベン・ドラゴンに向かう途中って言ってたけど、ラピュス達はどうしたんだよ?」

「隊長達は先に行っています。私は用事があって少し遅れてしまったんです」

「そっか」

「それで、今日はどんな訓練をするんですか?」

「訓練内容は着いてから決めよう。ラピュス達はもう先に始めているだろうしな」

「そうですね」


 そんな話をしながら歩いているヴリトラとアリサ。オロチは二人の会話を黙って聞きながら隣を歩いていた。しばらくすると三人はズィーベン・ドラゴンに到着した。玄関の扉には鍵が掛かっており、合鍵で扉を開け、荷物をテーブルの上に置くとすぐに外に出る。


「皆さんはいないんですか?」

「ああ、もう訓練場に行ってるんだろう」

「私達も急ぐぞ・・・」

「そうだな。早くしないと皆が訓練を終わらせちまう」


 三人はズィーベン・ドラゴンを出ると町の西側へ向かった。ティムタームの西には今は誰も住んでいない小さな旧市街があり、今では廃墟や広場だけでイザという時の住民達の避難場所となっている。ヴリトラ達はその中にある広場の一つを買い取り、自分達の訓練場として使う事にしたのだ。人が住んでいない為、どれだけ大きく騒いでも住民達に迷惑は掛けない。その事も計算してヴリトラ達は広場を購入した。

 旧市街に着いたヴリトラ達は静かな街の中を進んで行き広い場所へ出た。目の前には学校のグラウンドの半分程の大きさの広場があり、射撃の訓練場所、木の板で作られた迷路、そして模擬戦闘を行う試合場など様々な物が置かれてある。そしてその広場にはラピュス達が訓練している姿があった。


「やっぱり、先に来てたか」

「今日も張り切っているようだな・・・」

「私達も行きましょう」

「ああ」


 アリサに言われてヴリトラとオロチは訓練場に入って行く。三人が訓練場に入ると射撃訓練をしていたラピュスがヴリトラ達に気付いて訓練を止める。


「三人とも、来たのか?」


 ラピュスがハイパワーをしまってヴリトラ達の方へ歩いて行く。射撃訓練を見守っていたリンドブルムもラピュスを見て訓練場に来たヴリトラ達に気付き近寄った。


「遅かったね?」

「ああ、ちょっと買い物に時間が掛かっちまってな。その帰りにアリサと会って一緒に来たんだ」

「そうだったのか。アリサ、用事はもう済んだのか?」

「ハイ、ちょっと詰所の人と話があっただけですから」

「そうか・・・それで、お前は今日どの訓練を受けるんだ?」

「・・・昨日は射撃の訓練をしましたから、今日は戦闘の特訓をしようと思っています」


 アリサが今日の訓練内容を口にすると、リンドブルムが試合場の方を指差しながらアリサを見上げた。


「それならジャバウォックの所に行ってください。今日はジャバウォックが模擬戦闘を担当していますから」

「分かりました」

「あっ、それと気を付けてくださいね?ジャバウォックの近接戦闘の教え方は結構厳しいですから」

「そ、そうなんですか?私、今までジャバウォックさんに教えて貰った事ありませんから分からないですけど・・・」


 ジャバウォックの教えが厳しいと聞いて顔が青くなるアリサ。そんなアリサを見たヴリトラが苦笑いをして腕を組んだ。


「リブル、あまり脅かすなよ?」

「アハハハ」

「安心しろ、アリサ。ジャバウォックは見た目と違って丁寧に教えてくれる奴だ。分からない事があれば遠慮なく聞け」

「ハ、ハイ」


 少しホッとしたのかアリサは胸を撫で下ろしてジャバウォックのいる試合場へ走って行った。アリサを見送るとリンドブルムはラピュスの方を向いて手を軽く叩いた。


「さて、僕達も射撃訓練に戻りましょうか?」

「ああ」

「ラピュス、もっとしっかり狙わないと的に当たらないよ?深呼吸して、力を抜きながら引き金を引くんだ」

「やっているのだが、なかなか上手くいかないんだ・・・」


 リンドブルムとラピュスが射撃のコツを話しながら射撃訓練場の方へ歩いて行く。ヴリトラは軽く肩を回しながらオロチの方を向いた。


「さて、俺達も訓練を始めるか」

「ああ・・・」


 二人は板でできた迷路の方へ歩いて行き、そこで訓練をしている騎士達に教えながら自分達の訓練を始める。射撃の特訓をしながらラピュス達を始動していくリンドブルム、迷路で動きや周囲の警戒方法などを教えるヴリトラとオロチ、試合場でアリサやララン達に接近戦の技術を叩き込むジャバウォックとニーズヘッグ、そして訓練中に怪我をした者達の手当てをするジルニトラとファフニール。七竜将は自分達の持てる技術をラピュス達懲罰遊撃隊に叩き込んでいく。その光景はまるで師が弟子達を鍛える姿そのものだった。

 ヴリトラ達が訓練場に来てから二時間が経ち、太陽が少しずつ傾き始めていた。晴天の下で一通り訓練を終えたヴリトラ達は訓練場の隅で休憩を取っている。


「フゥ、これで一通りの動き方は覚えたな。あとは敵と遭遇した時の対処法か・・・」

「そっちは後で二つのチームに分けて訓練しながら教えればいい・・・」


 タオルで汗を拭くヴリトラにオロチは水分補給をしながら次の訓練の流れを話す。周りでもラピュス達が同じように汗を拭いたり水分補給をしながら休憩を取っている。


「リブル、そっちの方はどうだ?」

「順調だよ。皆さん覚えがいいからすぐに教える事が無くなっちゃいそうだよ」


 リンドブルムが射撃訓練をしていた騎士達を褒めると騎士達は何処か嬉しそうなをしている。


「ラピュスも最初はなかなか的に当たらなかったけど、今では十発中八発は狙ったところに当たる様になったよ」

「へぇ?お前って射撃の才能があったんだな?」

「さ、才能なんて大袈裟なものではない。訓練すれば誰だってできる事だ」

「そんな事言わないでもっと胸を張れよ、ハハハハ」


 ヴリトラが褒めながら笑うと、リンドブルムや他の騎士達も同じようにラピュスを見て笑う。そんな中でラピュスは少し俯いて顔を赤くする。しかし、その表情には小さな笑みが浮かび、彼女の喜びを表していた。

 ジャバウォック達の方を見ると、試合場でジャバウォックとニーズヘッグに鍛えられていた騎士達は皆ヘトヘトになっており、その中にはラランとアリサの姿もあった。


「ジャバウォック、そっちはどうだった?」


 ヴリトラがジャバウォックの下へ行き訓練の流れを訊ねるとジャバウォックはタオルを首に掛けてヴリトラの方を向く。


「なかなか根性あるぜ?普通の人間なら音を上げる様な訓練を顔色一つ変えずにやり遂げたんだからな。特にラランには驚いたぜ。子供のくせに大したもんだ」


 ジャバウォックは笑いながら木製のベンチに座って休憩をしているラランを見た。ラランはマントを外してタオルで汗を拭きながら体を休めている。大人でも音を上げる訓練を子供のラランがやり遂げた事には流石にヴリトラも驚いたらしくラランを見て目を見張っている。

 ラランの隣ではアリサが同じようにベンチに座って水分補給をしている姿があり、隣で汗を引いているラランの方を向いていた。


「それにしても、凄かったわねぇ。ララン、貴方、大丈夫なの?」

「・・・何が?」

「大人に私達でもキツかった訓練を十一歳の貴方がやったのよ?普通だったら途中で倒れてもおかしくなかったのに・・・」

「・・・私は平気」

「そ、そうなの?」


 相変わらず無表情のまま低い声で答えるラランにアリサはまばたきをする。ラランは汗を拭き終わると隣に置かれてある水の入った木製のコップを取り水を飲む。飲み終えるとコップをまたベンチの上に置いて立ち上がった。


「・・・私はこの国の為に強くなりたい。隊長やアリサ、皆を守る為に強くなりたい。だから、どんなに辛い訓練もやれる」

「ララン・・・」

「・・・あと、私達を何度も助けてくれた、リブル達も守りたい」


 最後にそう言ってラランはマントを羽織り、地面に置かれてある自分の突撃槍を拾ってヴリトラ達の方へ歩いて行く。その姿を見たアリサは自分のコップをベンチの上に置くと立ち上がり、歩いて行くラランの背中を見ながら笑う。


「あんな小さな子にあれだけ言われたんじゃあ、大人わたしたちが音を上げる訳にはいかないわね」


 アリサはベンチに立て掛けてある自分の騎士剣を取り、ラランの後をついて行くように歩き出す。


(ララン、何も国や仲間を守っているのは貴方だけなじゃいのの?私達だって、貴方や皆を守りたいの。それを忘れないでね?)


 心の中でラランに語りかけながら微笑むアリサ。この仲間を思いやる気持ちがララン達に活力を与え、どんな訓練にでも耐えられる事ができる様にしていたのだった。

 休憩が終ると、ヴリトラ達は再び特訓を始める為に一斉に立ち上がる。


「よし、訓練再開だ!皆、最後まで気を抜くなよ!」


 ヴリトラの号令を聞いて一同は一斉に返事をし、訓練を再開した。そんな訓練を始めようとした時、訓練場の入口前に一台の馬車が止まる。それは白く美しい王族専用の馬車だった。


「ん?あれは・・・」

「皆、ちょっと待て!」


 馬車に気付いたヴリトラとその隣で同じように馬車を見ていたラピュスが皆に声を掛けて止める。馬車の扉が開くと、中からドレスを着たパティーラムとガバディアが降りて来た。


「姫様、団長!」


 突然の二人の訪問にラピュスは驚き膝まづく。それに続いてラランやアリサ、懲罰遊撃隊の騎士達も膝まづき頭を下げる。ヴリトラ達も少し遅れて膝まづいた。


「こんにちは、皆さん。訓練の方はいかがですか?」

「ハイ、順調に進んでおります」


 笑顔のパティーラムにラピュスは膝まづいたまま答える。パティーラムの後ろではガバディアが訓練場を見回して興味津々な顔をしていた。


「ほほぉ、此処が例の訓練場かぁ。なかなか面白い作りになっているな?」

「銃器の使い方や潜入なんかを主な訓練内容にした作りになってますから騎士の人達の訓練場とはだいぶ作りが違うと思いますけど」


 ガバディアの方を向いて小さく笑いながらヴリトラは答えた。


「それはそうと、どうして姫様がこちらの?それに団長も・・・」

「儂と姫様だけではないぞ」


 二人が訓練所を尋ねて来た理由を訊くラピュスにガバディアは自分の後ろを親指で指した。ガバディアの後ろから一人の姫騎士が姿を見せる。七竜将や懲罰遊撃隊はその姫騎士に見覚えたあった。水色の長髪に筒状の帽子を被った小柄な少女の姿で白銀の鎧を着て白いマントを羽織っている。その姿を見たリンドブルムは思わず立ち上がって姫騎士を指差す。


「ああぁ!貴方はぁ!」

「・・・ん?・・・フン」

「武術大会で僕と戦った、え~っと・・・・・・ジーパンさん!」

「ガクッ!・・・ジージルよ!最初の一文字しか合ってないじゃない!」


 名前を間違われてツッコミを入れるジージル。彼女は前にティムタームで開催された武術大会の準々決勝でリンドブルムに敗北した白銀剣士シルヴァリオン隊の一隊長を務める姫騎士、ティンクル・ジージルであった。

 ジージルはリンドブルムを目を細くして見つめながら腕を組む。


「・・・アンタの顔を見るとあの時の試合の事が頭に蘇ってイライラして来るわ」

「は、はぁ・・・?」

「・・・それで、なぜジージル殿が此処に?」


 ラピュスがジージルのいる理由をパティーラムに訊ねるとパティーラムは真剣な顔でヴリトラ達を見つめた。


「・・・皆さんに新たな仕事を依頼に来ました」


 その言葉を聞いた七竜将と懲罰遊撃隊の姫騎士達は顔を上げて表情を鋭くする。王女であるパティーラムと騎士団長のガバディアが揃って来るという事は何か大きな依頼だと感づいていたのだ。さっきまで騒がしかった訓練所は突如静かになり、ヴリトラ達はパティーラム達を見つめる。

 今後の戦いをに備えて訓練をしていたヴリトラ達の前に現れたパティーラム、ガバディア、そしてジージルの三人。一体パティーラムが依頼する任務とはどんなものなのだろうか・・・。


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